妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑫

 

 

水波ちゃんが用意してくれたお茶を飲みながらお兄様と来客があった話を報告。

叔父様たちが訪れたことも、ここが四葉系列のホテルだったことも驚いていた。

一瞬理不尽に先生に対して怒りが向けられていたけれど、先生はすべて踏まえた上でここを予約して私の安全を優先してくれてるってこと、お兄様ならすぐ気づくはず。

深く考える余裕も無いくらい今晩は疲れているんでしょうね。早めに切り上げた方が良いかも。

 

「そして、これがそのデータです」

 

端末にデータを読ませたものをお兄様に差し出す。

すでにこちらは私が先に目を通しておいた。P兵器――パラサイドールの調査報告と実験結果が事細かに記されていた。

四葉最強の諜報部隊と言っても過言ではない調査内容だった。

 

「さすが亜夜子さんですね」

 

賛辞を贈ると、お兄様が視線を上げた。

絡む視線。

お兄様の瞳には少し動揺が見て取れた。

私が素直に亜夜子ちゃんを褒めるのはおかしなことではないと思うのだけれど、気になりますか?

まあ、お兄様でさえ気づくくらい亜夜子ちゃんは私に対抗意識を燃やしてましたからね。

私も彼女に呼応するよう反応を示すことで彼女に発破がかけられるのなら、と亜夜子ちゃんがいる時だけ演出はしていましたけれども。

そういう場面には大抵お兄様もいましたからね。

お兄様も騙せていたのだとしたら、本当に私の演技もなかなかのものなのかもしれない。

微笑んで返すと、お兄様は困惑顔。

ちょっとおかしくなって笑い声まで漏れてしまった。

 

「お兄様、私と亜夜子さんとではライバルにはなり得ませんよ。リスペクトはしておりますが、同じステージは立てないのですから彼女と競うことなどありません」

 

エリカちゃん達と亜夜子ちゃんとでは決定的に違う。

私では彼女の土俵には立てないし、彼女も私の土俵には立たない。無駄だとわかっているからだ。

 

「…亜夜子のため、か」

 

さっそくお兄様が私の態度の理由に思い至った模様。ごめんなさいね。色々とお兄様を惑わすようなことをしています。

成長に障害は付き物ですからね。私でよければいくらでも立ちはだかりますよ。

とはいえ、私が立ちはだかると大抵の人間は気力を失うのだけれど、そういう意味では亜夜子ちゃんは貴重な相手だ。

 

「深雪の演技に気づけなかったとは、俺もまだまだだな」

 

やれやれ、と肩をすくめるお兄様ですが、背後で水波ちゃんが落ち込んでいる気配。

さっきまで私が落ち込んでいるんじゃないかって心配してくれていたものね。

 

「水波ちゃんも、心配してくれてありがとう。亜夜子さんとの関係はちょっと説明が難しいのだけれど、私にとってはあの二人の姉弟は一方的に好意を抱いているはとこ、というところかしら。彼女たちはお兄様をとても慕っているから、私にとっては可愛い親戚なの。私が直接交流することは少ないのだけどね」

 

というより避けてます。近寄ったら絶対愛でてしまう自信があったので。

そうなってしまうと話が大きく変わる可能性がありましたからね。それはできなかった。

彼女たちのお父さんはお兄様を排除したい代表みたいな感じですから余計に。

しばらく当たり障りなく良好な関係でいたかったので下手に刺激できなかった。

叔父様は家族が大好きだから、お兄様が近づくとその時点で気が立ってしまうから。

 

「けれど、彼らも四高生ですから、九校戦では関わることになるかもしれませんね」

「ああ、彼らなら自然に近づいてきそうだ」

 

想像できたのか、くすり、と笑うお兄様。うんうん。お兄様も大概あの二人には甘いよね。

 

「深雪、助かった。この情報が早く得られただけでも奈良に来た甲斐があったものだ。それに、直にパラサイドールを見られたのもでかい」

「どうでしたか、パラサイドールは」

「ピクシーを参考にしたんだろうな。ガイノイドに憑依させているようだ」

 

何というか戦乙女という言葉の影響がそこかしこに見え隠れしますよね。まあ、これもまた一つのロマンだけれども。

女性型兵器にもまた愛と夢が詰まってます。なるほどなー。

まだ日付は越えていないけれど、お兄様はお疲れなのだから早く部屋で休んでもらった方が良い。

 

「お話はまた先生が揃った時にでも致しましょう。今日はお疲れさまでした」

「ああ、そうだね」

 

せっかくの奈良への旅行だけれど観光する暇などない。このまま明日はとんぼ返りだ。

せめておみやげ物売り場くらいは見られるといいのだけど。

おやすみの挨拶をして、お兄様をお見送り。今日はいっぱい見送るね。

当然だけど水波ちゃんがいるのでおやすみのキッスがされることはない。

っていうか普段もそうそう無いんだけどね。たまにお兄様の興が乗ってしまうことがあるというか。

すぐに就寝の支度を整えベッドの中へ。水波ちゃんにも今日のお仕事は終わり、と一緒のタイミングで就寝してもらいました。

心地悪そうだったけどね。見えるところで仕事されちゃうと私も落ち着かないから。

 

「おやすみなさい、水波ちゃん」

「…おやすみなさいませ、深雪姉様」

 

最後までお仕事貫く水波ちゃん、いい子。ガーディアン務まってるよ!

 

 

――

 

 

朝です。いつもの時間、いつもと変わりなく目覚めたら隣の水波ちゃんはまだ夢の中。

だよねぇ。どうしましょう。ここで運動すると邪魔になりそうだし。とりあえず服を着替えて静かに部屋を出たらお兄様と鉢合わせた。

ああ、お兄様は走りに行く予定でしたか。

一緒に誘われたので付いていくことに。

水波ちゃんにはちゃんと書置きをしてきたので大丈夫。寝起きはきっと慌てさせちゃうけどね。

 

「水波も大変だな」

「ふふ、そうですね」

 

私に振り回されることに、同情するような口ぶりだけれど顔は笑っている。

お兄様としては振り回され仲間ができるということになるだろうから、嬉しいのかもしれない。

 

「ところでお兄様、いつものペースで走られないのですか?」

 

ホテルを出て軽く走り始めた。まだ朝早いということもあって人は全くいない。おかげで人目を気にせず走れて気持ちがいい。

だけどスタートから軽く流すようなスピードで入ってからほとんどペースは上がらず、のんびりとした走りだった。

私のスピードに合わせようとしてくださっているのだとしたら申し訳ない。

それを指摘すると、お兄様は全く息切れする様子のない口調で話してくれた。

 

「走ってから気づいたんだが、深雪のペースがどれほどかわからなくてな。もう少しスピードを上げてもいいか?」

「このところ演習林で走っておりますので負荷をかけるためにも、お兄様のスピードより少し遅いくらいでお願いしてもよろしいでしょうか」

 

流石にいきなりお兄様の速さについていける自信はなく、少し遅めのと付け加える。

これでペースが崩れて追いつけず、フラフラになんてなったら迷惑をかけることになるからね。

 

「わかった」

 

ということでジョギングに近かったスピードが一気に加速する。魔法は無しだ。

いくら人がいなくとも、誤魔化す方法があると言ってもここは地元ではない外なのだ。気をつけるに越したことはない。

ホテルの外周をランニングコースとし、何周か走った。

うん、ちょっと飛ばしすぎたかな。軽く流すだけの朝の運動としてはちょっと、というかかなりハードだけど、何とかついていけなくはない。

夏とはいえ早朝は日が低いので暑いと言うほどではないにしろ、この運動量を熟せば暑くもなる。汗が止まらない。

でも汗も発散させればいいというものではない。体を程よく保湿しつつ温度を下げてくれているのだから。よくできた体の仕組み。

魔法で汗を消し去ってしまえば熱が体内に籠って発散できなくなってしまうのだ。流れる汗は気になるし、服も張り付いて気になるけどここは我慢。

それから三十分以上走っただろうか。

ホテルの正面玄関入り口に着いた時には息も絶え絶え。運動着もびしょびしょだった。夏だからそうなることを想定した服ではあるので透けることはないよ。

お兄様の呪い防止対策はいつもより念入りにしておりました。

いつ何時、お兄様の呪いが発動するかわからない。私個人、少しでもその可能性を下げられるならいくらでも気をつけますとも。

首にかけていたタオルで拭うけど、拭った端から汗が出る。

隣のお兄様も息を乱しているようだけれど、私のように身をかがめてはいない様子。見る余裕はないから確認はできないけどね。

歩けないほどじゃないけど、張り切りすぎました。

 

「正直、ここまで付いてこれるとは思わなかったよ。随分体力がついたね」

 

魔法を使わず、というのは中学以来ですからね。

 

「私も、お兄様に置いていかれないよう必死なのですよ」

 

冗談交じりの声で返すけど、せっかくある深雪ちゃんのポテンシャルですからね。どんな項目でも伸ばしていきませんと。

何もしないでただお兄様が来てくれるのをお待ちするだけではなく、守られるだけではない。

背中を任せてもらえたり、肩を並べたりさせてもらうための努力はしている。

そんな場面、来るかはわからないけれど、どんな力も持っているに越したことはない。

いざと言う時何もしない、何もできないでは、守ることなどできないのだから。

 

(すべてはお兄様の幸せになってもらうため。お兄様をお守りし、支えるのだ)

 

いずれお兄様と別れて暮らすことになって、私ひとりで戦うことになるかもしれないのに、いつまでも守られようとすることはお兄様を縛り付けることに他ならない。

オタクという生き物は推しのためならどんな努力も惜しまない。できる限り愛を捧げる。

だけどそれを押し付けたりなんてしない。オタクはひっそりと推しを応援して(愛して)こそのオタクだから。

 

「それは、俺もうかうかしてられないな」

 

お兄様は笑って返しながら、私に手を差し伸べた。

その手を取って上体を起こすと、…うん、お兄様も汗で髪が顔に張り付いていてとても魅力的なお姿です。

お色気オーラはないけれど、爽やかスポーツマンってそれだけでカッコいい。十分魅了されちゃう。

うっとりとお兄様を見つめていると、お兄様は苦笑して手を引いて移動を促す。

 

「…さあ、行こう。水波が待ってる」

 

え?とはるか遠いホテルの入り口のガラス戸を見るけれど、遠すぎて全く見えない。

けど、お兄様が言うのだから水波ちゃんはそこで待機しているのだろう。

お兄様に連れられてホテルに入ると、水波ちゃんが立って待っていた。手にはドリンクが二つ。

 

「おはよう水波ちゃん。ありがとう」

 

余計なことは何も言わない。ただ差し出されたドリンクを受け取って飲む。

お兄様も同様。その間、周囲に客がいないことを確認して水波ちゃんは魔法で私たちをきれいさっぱりさせてくれた。

難易度高い魔法を水波ちゃんは丁寧に、一人一人掛けてくれた。ふぅ、とこっそり溜息をもらしていたから相当集中が必要なのだろう。大丈夫。しっかりできてましたよ。

防犯カメラの死角に入っていたとはいえ、四葉のホテルだからこそできることである。

もちろん感知されるようなへまを四葉家の魔法師である水波ちゃんがするわけはないのだけどね。

改めてお礼を言って部屋に戻ると、水波ちゃんからは何も言わずに置いていかれてご不満です!という表情をされた。可愛い。

そして口でもちゃんとぷりぷり怒られた。本人としては注意しているつもりなんだろうけどね。

可愛すぎたので謝りついでにめっちゃなでなでしたら、真っ赤になって今度はしっかり怒られました。朝から血圧上げちゃってごめんね。

 

「…だから水波はあんなに警戒して離れていたのか」

「つい、やり過ぎてしまいまして」

 

チェックアウトして先生との待ち合わせ中。

お兄様が朝の顛末を聞いて苦笑した。

反省していますとも。

 

「水波も災難だったな。起きたら護衛対象である深雪はおらず、置手紙だけ残されて。出迎えて注意をしたら可愛がられたなんて、プロ意識の強い水波にはひどい仕打ちだっただろうに」

 

……ごもっともです。

水波ちゃんも、わかったから、そんなに力強く頷かないで。反省してるって。旅先だからテンションが上がっちゃっただけだから。

 

「なぁんか、朝から楽しそうだねぇ。おはよう」

「「おはようございます」」

 

気配もなく忍び寄るのはやっぱり先生。お兄様は気付いていたようだけどね。私?先生のことに関しては生態だからと諦めている。ドキッとはするけどね。毎度のことながら心臓に悪い。

お兄様と声を揃えてご挨拶。水波ちゃんは無言で一礼。

先生の手には袋がぶら下げられていて。

 

「ああ、これ?深雪くんに」

「私に、ですか?」

「うん。本当は自分で選びたかったかもしれないけど、もうそろそろ出発時間だからね。この周辺で選んだ奈良のお土産。結構べたなものを選んだつもりだよ」

 

そういうの、好きでしょう?と先生がちらっと袋の中身を見せてくれた。

クッキーやお煎餅、漬物っぽいものも入っていた。

先生!

 

「ありがとうございます!」

 

嬉しい。最高のチョイス。

今や地方のお土産もネットで購入できないものはないのだけど、それでもお土産物屋さんが残っているということは私みたいな人間も多いということだ。その土地へ行ったら名産って欲しくなるよね。

笑顔で受け取ると、先生もご満悦。

すぐに水波ちゃんが荷物を預かってくれたけど、嵩張るけれどそんなに重くない程度でした。

 

「名物のそうめんは発送したから」

「先生!」

 

重くてかさ張る物は宅急便で発送してくれたそう。

流石先生!わかってらっしゃる!!奈良の名物ですものね。大好き。

 

「いやあ。そんなに喜んでもらえると贈る甲斐があるってもんだね」

 

はっはっは。と笑う先生に感謝していたら、お兄様が低い声で先生を呼ぶ。

 

「師匠」

「いつも貰ってばかりだからねぇ。そのお返しだよ」

 

睨むお兄様をへらへらといなす先生。

何だろう、うちの子をあまり甘やかさないでくださいという保護者と、ご近所さんのやり取りのような…?違うよね。

そんなこんなもありつつ、帰りもゆったりシートの景色の良く見える席で。

水波ちゃんと隣同士キャッキャしながら外を眺めます。

行きとは違う景色に見えるよね。

お兄様と先生は昨日、黒羽親子にもらったデータと自分たちの得た情報のやり取りを。

先生からは三人の術師の身上書がお兄様に送られる。

密入国してきて今は九島の関連施設にいると聞いて、お兄様も訝しんだお顔。

話を聞いただけで怪しいってわかるんだから、なんでそんなものを利用しようという気になったのかね。

御せる自信があったのか。…あったんだろうな。実際閣下にはその術はあったのだから。

ご当主自身に一体どんな策があったか知らないけど。

 

「偶然じゃないだろうね。彼らは今回の実験を利用しようとする者に招かれたんだろう」

「利用しようとする?彼らを招いたのは九島家の意図ではないと…いや、そうか」

 

お兄様は昨夜、自身の眼で見たパラサイドールに仕込まれた術式を思い出したようだ。暴走する術式なんて入れるのは余所者の仕業だろう、と。

あちらのお国の伝統芸ですよね。暴走させて全てを破壊って。

去年の九校戦でも最後、破れかぶれでそんな作戦実行されかけてましたし。

実際しようとしただけで、優秀なお兄様の同僚が防ぎましたけどね。

 

「今回の一件も一筋縄じゃ行きそうにないね。分かってしまえば単純な構図なのかもしれないけど」

 

先生はいつも通り飄々と答えながら窓の外を見た。まるでもう話すことは終わったと言うように。

お兄様は水波ちゃんに声を掛け、想子フィールドと遮音フィールドを解除させた。

お疲れ様水波ちゃん。魔法を使いながら私の相手してくれてありがとうね。

労いの視線を向ければ、水波ちゃんはうっすら微笑んで返してくれた。

 

 

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