妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑭

 

 

「雫さん」

 

そこへ聞きなれない男子の声が。見れば四高の男子が雫ちゃんに話しかけていた。雫ちゃんは晴海従兄さん、と返していた。

そういえば先のパーティーでお見かけしたお顔ですね。同年代少なかったから覚えてる。

ほのかちゃんも慣れた感じでご挨拶。

その従兄さんの後ろには可愛い双子の姉弟が。

今の私が視線を外すのは不自然なのでね。しっかりと見つめます。可愛い子ウォッチング。

 

「ねえ、ほのか。あの二人、可愛いわね」

「え?ああ、本当。…ってあの子、男の子だ」

「あ、ほんとね。テーブルで見えなかったわ」

 

テーブルの陰で下半身が隠れていたのでスカートかと錯覚してしまうほど、文弥くんは可愛かった。

ジャケット見れば違いがわかるはずなのに脳が勘違いを引き起こす可愛さ。流石魔性の一族。五十里先輩とはまた違う中性さがある。

隣の亜夜子ちゃんはいつもの好戦的な雰囲気が見えない。猫ちゃんをたくさん被っているのか、大人しくも見えるね。縦ロールなのに。

 

「深雪、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

なあに?雫ちゃんのお願いなら何でも聞いてあげるよ。とは流石に言葉に出さない。

 

「何かしら?」

「私の従兄が達也さんを後輩に紹介してほしいって」

「兄さんを?」

 

四高は魔法工学に傾倒しているので、昨年のお兄様の実績を知って近寄ろうとするのはおかしな流れではない。

それだけお兄様の技術は優れているのだから。

 

「兄さん次第だけど、きっと嫌とは言わないでしょうから、ちょっと待っててもらえる?」

 

そう言って了承を貰いにお兄様の元へ小走りに近い速度で向かう。

タイミングよく、お兄様たちの話もいち段落付いたところだったよう。良かった。

 

「兄さん、少しいい?四高の一年生が兄さんに挨拶がしたいって来てくれているの」

「俺に?ああ、分かった」

 

お兄様も黒羽姉弟に気付いて納得顔。

一条くんたちは、四校の生徒ならそうなってもおかしくないだろう、と納得していた。

やっぱり彼らが一番お兄様のことを、その技術の凄さを評価しているよね。ライバルだからこそ細かく観察してのことなのだろうけど、正当にお兄様の力を評価してくれることが嬉しい。。

 

「一条さん、吉祥寺さん、兄をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「え、ええ。大丈夫です。ちょうど話も終わったところですので」

 

にこりと微笑んで一礼して、お兄様の案内係を務める。

後ろでお兄様がまたな、と一条くんに言葉を掛けていたけれど返事は返らなかった。

うーん、深雪ちゃんの容姿は罪作りだ。流石傾国の美少女。

そして黒羽の姉弟と無事合流し、お兄様たちは初めましての挨拶を交わす。

亜夜子ちゃんは堂々と、文弥くんは尊敬する人と話せて嬉しそうに。

うんうん、初初しい姿だね。微笑ましい。

お兄様に憧れる理由も不自然じゃないし、初対面の演技もばっちり。誰も疑わないだろう。

三人が楽しそうに交流する様子を一歩引いて眺めていたのだけど。

 

「ああ、それからこちらは俺の妹の深雪だ。同じ学年だが君たちのように双子ではないけどね。深雪」

 

あら、私も挨拶していいのですか?では。

 

「司波深雪です。亜夜子さんに文弥さん、九校戦、お互い頑張りましょうね」

 

これから学校対抗戦だというのによろしく、というのもおかしいかな、と思ったので当たり障りのないことを。

だって、彼らがよろしくしたいのお兄様だけですものね。

これで終わりかな、と思っていたらお兄様が私の肩を抱いて耳元で彼らにも聞こえるような声で言う。

 

「彼らのことは愛でなくていいのかい?」

 

…これは、愛梨ちゃん達とのやり取りを見られていましたか、お兄様。

 

「…彼らは兄さんに用事があったのよ。私は邪魔になってしまうわ」

「いえ、そんな。お邪魔だなんて」

「ほら、二人もそう言ってくれているよ」

 

言っているのは文弥くんだけですよお兄様。見て下さい。亜夜子ちゃん、周囲にバレない程度だけどびっくりして固まっていますよ。

さっきまで完璧な演技だったのに。

 

「すまないね。妹は可愛い子が大好きで、緊張してしまっているようだ。また会ったら声を掛けてやってくれ。きっと喜ぶ」

 

そう言うだけ言って、お兄様は私の肩を抱いたままその場を離脱した。残された二人は呆気に取られたような表情。

…ごめんね、こんなお兄様四葉では見られないからきっと驚いたよね。

何だってこんなことを、と思ったけれど…お兄様、ちょっと拗ねてる?そんな気配。

 

「どうかした?」

「いや、何でもない」

 

それは何かがある時の言葉だね。あとで訊こう。

一高のテーブルに戻って、私はお兄様の手を離れて雫ちゃん達の元へ。

 

「また恋人作戦?」

「それはもうしないって話だったでしょう」

 

遠くからもあのべたべたは見えたらしい。いつもはこんな大勢の前であんなことしないものね。

何か私が気付けない、警戒するモノがあったかな。

さりげなく周囲を見回しても特に変わったものは見当たらない。

気にしても仕方ないのでご飯を食べて皆と楽しくおしゃべりをして過ごしていたら、お偉い方々の挨拶が始まった。

ただの学生がおいそれとお会いすることもないお歴々の方々のありがたーいお話がつらつら続いて、最後の締めに老師のお言葉がお決まりの流れなのだけど、今回は無かった。

雫ちゃん曰く、体調がすぐれないから今回は無くなったらしい。まあ高齢ですしね。誰もが納得するでしょう。

しかし雫ちゃんや、そのお話は一体どなたから聞いたのかな?あそこの国会議員?それとも魔法協会の事務局員?もしくはこの前話していた読唇術をさっそく身に付けました?

私の友人がとにかく凄いんです。

 

 

――

 

 

これは仕方のないことだと、この流れは変えられないのだとわかっていた。わかっていたけれど…。

 

「申し訳ございません、お兄様…」

 

五十里先輩と引き離された花音先輩のうっ憤は溜まりに溜まり、ついに噴火した。

風紀委員の、それも委員長である先輩が風紀を乱していいのか、と説得もしたのだけれど、無駄だった。愛の前にはそんな建前など吹き飛んでしまっていた。

結果、花音先輩と同室の私は部屋を追い出され、お兄様の同室相手とトレードされ、今に至る。

床の上に座ろうとしたのだけど、お兄様に持ち上げられてベッドの上で首を垂れる。

 

「…抵抗は、したのですが」

 

無力でした。…というかその抵抗はむしろ先輩を盛り上げてしまった。

いえね、ただ言葉で抵抗してもあれかな、と思ったので、交換条件にこの女性物の浴衣を五十里先輩が着てくれるなら交換しましょう!と。

無理難題を突き付けたつもりだったんですけどね、あっさりと受諾。いえ、それ以上によくやった!とお褒めに預かりました。五十里先輩からは何故そんなものを!?と驚かれましたけどね。夏に浴衣は別におかしくないでしょう。アイスピラーズの予備の衣装ですってことで。

…後でその女物(・・)の浴衣のペアルック姿の写真が送られてくることになってます。五十里先輩、申し訳ない。

もっと抵抗されると思ってたんですが、嬉々として奪い取られました。あの時の花音先輩の勢いは凄かった。

あれです、以前五十里先輩に着てもらいたいな、と思っていた浴衣です。

どうせなら、とペアルックで作りましたとも。白は当然五十里先輩。紺は花音先輩。柄はお揃い。

二人とも和装にも精通してそうだからすぐ女物だって気付くと思うのだけど。というか柄で気づくよね。…五十里先輩、申し訳ありません。欲望は抑えられなかった。

どうせ叱られるならご褒美付きで、の方がお得かと思いましたので。

 

「…俺たちは兄妹だから構わないが、あちらは婚約者とはいえ年頃の男女なんだぞ?」

 

はい、おっしゃる通りで。

…でも兄妹でも同室ってどうなんでしょうね?まあ、この後流れ的にお兄様がこっそりお出かけするには事情を知っている妹の方が都合のいいということでこうなっているのだけど。

ううう、分かっていたこととはいえお兄様に呆れられるのは辛い。

縮こまっていると、頭にぽん、とお兄様の手が乗せられる。

 

「まあ、付いていった五十里先輩も同罪だがな。いや、あちらの方が罪は重いか」

 

でも五十里先輩には即刑が執行されますので軽減してあげてください。

 

「いいかい、もし誰かがきてお前が責められるようなことがあったなら、先輩に言われて仕方なく、とちゃんと説明だぞ」

 

その通りではあるのだけど、責任を全て押し付けるように、とはなかなかなお言葉。

反省しているのにちょっと笑ってしまった。

お兄様も笑わせるつもりで言ったようで口の端が上がっていた。

というかお兄様、妹の前であっさり着替えますね。

項垂れていたとはいえ、衣擦れの音はするんですよ?それだけでもこっちは顔色変えないように必死だったのだけど。普通の兄妹だったなら嫌がられますよ。

何とか心を落ち着かせて。

黒一色に着替えたお兄様はさっそく敵情視察に行かれることに。

 

「お兄様こそ、お気をつけて」

 

今年は昨年と違って警備が厳重でしょうからね。へまをするなんて思わないけれど、それでも心配は別物だから。

 

「どんな美人が訪ねてもふらふらついていくんじゃないぞ」

 

すり、と最後に頬を撫でられてお兄様は謎の忠告を置いて出ていった。

…うん、これは一度お兄様ときちんとお話ししないといけない案件かな。

私は美人に弱くても時と場合を弁えられるオタクです!

 

 

――

 

 

今年は温泉に誘われることもなく、シャワーを浴びてパジャマに着替える。

お兄様を誘惑したいわけでもないので、夏用ではあるけれどしっかり長袖長ズボンのパジャマだ。

部屋には温度調節機能がばっちり利いていて、快適なんですよ。

柔軟体操を済ませ、身体も温まったところでノック音が。

お兄様は思いのほか早く戻られた。

 

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ああ、ただいま」

 

亜夜子ちゃんや文弥くん、そして八雲先生ともお会いしたらしいこと、本日は無駄足だったことを伝えられた。

 

「ああ、師匠からはお返しのお菓子をありがとう、と」

 

この間お土産一式いいただきましたからね、そのお返しに焼き菓子詰め合わせをお兄様に持って行ってもらったお礼だろう。先生も律儀。

 

「今回のナッツ入りの物は特に気に入ったそうだよ。また作ってほしいと」

「そうなのですね。では今度はその詰め合わせにしましょう」

 

先生も遠慮なくリクエストしてくれるようになったのかと思うと嬉しくなるね。

 

「亜夜子が驚いていた。深雪の手作りだとは思わなかったそうだ」

 

それは、そうか。お嬢様がお菓子づくりなんてしないものね。というか先生、態と聞かせるために言いました?何が目的はわからないけれど。

 

「お兄様、シャワーの準備はできています」

「ありがとう」

 

まだ寝るには少し早いが、長旅の疲れというものは気付かずに出るもの。今日は元より早く寝る予定になっていた。

ツインルームなのでベッドが二つある。

お兄様とのベッドの間が狭い気がするのだけど、ホテルってこんなものなのかしら。

この間の水波ちゃんとも確かにこんな感じではあったけど、離した方が良い?でも変に移動させてお兄様に意識していると思われるのも気まずいし…、お兄様が来たら素直に訊いてみよう。

 

(あ、訊くと言ったら)

 

先程の前夜祭の亜夜子ちゃん達への態度が気になった。

お兄様は揶揄うためにああいったことをしたのだろうか?それにしては拗ねているようにも見えたけれど。

…というか、あれだね。気にしないよう努めていたけれど、お兄様のシャワー音が聞こえてちょっとドキドキしてしまう。

ベッドの上で後ろも向いているのにね、なんか色々考えちゃうよね。

良くないよ、お兄様のシャワーシーンを想像するなんて。

家ではちゃんと互いに時間を守っているから鉢合わせることなんて無いし、音の聞こえる範囲になんていること自体が無いからこんなことほとんど初めてのことで。

ここはホテルでツインとはいえ狭い一室。

…鎮まれ煩悩。本当、よくないよ。落ち着いて。

荷物の中からピクシーのエプロンと刺繍枠を取り出してセットしチクチクと。精神統一。心を落ち着かせねば。

縫うのは小さな黄色いバラ。縫い付ける予定なんてなかったけど念のための暇つぶしとして刺繍枠と糸を持ってきていてよかった。これくらい小さいならそんなに目立たないし、縫い慣れているので図案を見ずとも縫える。

次第にシャワーの音が聞こえなくなってほっとしていると、ぱたんと、閉じた音が。

…これ、すぐ振り返るのは罠な気がする。お兄様のラブハプニングやラッキースケベは妹にも有効ですからね。降りかかったら困るので気付かないふりで針を通していく。

すると、気配を消したお兄様がぎしりと私のベッドの上に腰を下ろして、

 

「また夜更かしするつもりかい?」

 

と耳元で囁かれた。

 

「ひぅ!お、お兄様!驚かせないでくださいませ!」

 

特に今は針を扱っているのに!と抗議しようとしたらお兄様がぴたりとすぐ後ろにくっつくような距離に座っていて二度驚く羽目になった。

 

「えらく集中していたね。俺が近づいたのに気づかなかったのかい?」

「…気配を消して近づいてきたのはお兄様でしょう?」

 

本気で気配を消したお兄様の接近を、どうやって気付けるというのか。

ベッドの軋みで近づいたことには気づけましたけどね?いきなり耳元で喋られるとびっくりするでしょう。

お兄様はくつくつと笑いながらすまない、と詫びるけれど、全く心が籠ってませんね。お兄様も案外いたずらっ子。

 

「危うく黄色いバラが真っ赤に染まるところでした」

「それは悪かったよ」

 

今度はちゃんと謝罪だったので許しますけどね。

完成まであと少しではあるけれど、これは明日でも問題がないのでこのまま片付ける。

 

「いいのかい?あと少しだろう」

「いいのです。お兄様にお尋ねしたいこともありましたので」

 

戻ってお兄様の隣に腰を下ろすと、お兄様は肩を抱き寄せた。

いつもより温かいのは先ほどシャワーを浴びたばかりだからか。

心臓がどくどく煩いけれど、そ知らぬふりをして気になっていた亜夜子ちゃん達に対する疑問をぶつけると、お兄様はするり、と肩の腕を下ろした。

その表情は少し陰りも見える。一体何があったというのだろう。

お兄様はぽつり、ぽつりと話し始めた。

 

「…別に亜夜子たちが悪いんじゃないんだ。俺の気持ち…感情なんだろうな。

亜夜子たちは自然に俺と話すきっかけを持ってきていた。流れもおかしくなかったと思う。だが、なんとなく、面白くないと思ってしまったんだ」

 

お兄様は、何を面白くないと思われたのだろうか。知りたくて、お兄様を覗き込む。

お兄様も気づいて少し顔を持ち上げ、視線が絡み合う。――お兄様の感情が、不思議と伝わった。

 

「別にあの場で深雪に興味を持たなくても、彼らは調整の技術の腕を買って俺に話しかけてきたのだから深雪に声を掛けなくてもおかしなことではなかったのに。――そんなことはないとわかっていても、お前が蔑ろにされたような気がして」

 

……お兄様には、それが面白くなかった、と。

だから、ああして自分の大事な妹、として見せつけたのか。

彼女たちに。無視をするな、と。

 

(それは、私がいつも思っていたこと)

 

お兄様は気にするな、といつも流していたけれど、いざ自分が私の立場になってみて気づいたのだと。

 

「…深雪は、いつもこんなことを感じていたのかと思ったら、ついあんな行動を。――亜夜子たちも相当面を喰らっていたな」

 

申し訳ないことをした、とお兄様が項垂れる。その姿に、私は思わず抱きしめていた。

 

「深雪、」

「嬉しゅうございます。お兄様はまた心を育てられたのですね」

 

あの時亜夜子ちゃん達に悪意などなかった。意地悪しているつもりもなく、ただ作戦通りにお兄様との接触を図っただけだった。

だからお兄様があの時そんな感情になるはずなんてないのだ。

だって、悪意などそこにはない。私も傷つけられたわけではなかったのだから。

なのに、お兄様は『面白くない』と感じた。

これは大きな進歩だ。お兄様の心が、感情が育った証拠。

少しだけ体を離してお兄様の顔を見る。

 

「これは、いい変化とは思わないが」

 

お兄様は少し困ったお顔をされていた。

お兄様にとって親しい身内に向ける感情ではなかったと反省しているのかもしれない。でもね。

 

「あら、お兄様。人間の心に元からいい部分なんてほとんどないのですよ」

 

基本的に人間とは自分勝手な生き物なのですから。

そう言うとお兄様は思いもよらない答えに目を見開いて驚いてから、ふっと笑って私を抱き返して。

 

「俺が自分勝手になったら困るんじゃないか?」

「お兄様にはいつも困らされてばかりですからね。確かにこれ以上困らせられたら私には手一杯で溢れてしまいそうです」

「なら、今度は全身で受け止めてくれ」

 

それはまた、困った注文ですねぇ。

だけど、お兄様からのお願いは聞いてあげたいと思ってしまうわけで。

 

「頑張ってみますけれど、できるだけ手に負えるものにしてくださいませね」

「深雪なら大丈夫さ」

 

あらぁ。過大な評価を受けたね。本当、困ったお兄様だこと。

 

「もう、お兄様ったら」

 

降参、と手を上げるとお兄様はぽんぽん、と頭を撫でてから離れてくれた。

 

「さて、もういい時間だ。今日はもう寝よう」

「そうですね――って、そうでした。お兄様、ベッドの間隔ってこんなものなのでしょうか?」

「うん?…ああ、まあこんなものじゃないか?」

 

ちらっとベッドの並びを見たお兄様は特に問題ないって。…じゃあ、このままでいいか。

ほとんどくっついている気がするんだけど。

普通間に照明とか挟んで開いてたりしない?と思わなくも無いのだけど、この時代の普通をよく知らない。

お兄様がこんなものというのだから、こんなモノなのだろうし、いいか。

…願わくば、私の寝相がお兄様を攻撃しないことをと思わずにいられない。

 

「…お兄様、やっぱりちょっと離しませんか?昔お母様に寝相が悪いと叱られたことが」

「それはそれで興味深いね」

「お兄様!」

「冗談だよ。もし深雪から蹴りが飛んできても、多分だが、俺は起きないんじゃないかな。俺の眠りが深いことは知っているだろう?」

 

それは、知ってはいるけれども。

物音立てても起きないのというのは、攻撃を受けても起きないとはイコールにならないと思う。

いくらお兄様でも触れられれば起きてしまうのでは?

 

「軍の雑魚寝で起きたことはないな」

 

…なら、大丈夫なのかな。

昨年もお兄様の前で寝たことがあったけれど、あの時はお兄様起きていたし、問題が起こる前に何とかしてくれただろうと思っていたのもある。それに眠った時間も短かったし。

条件が違うから不安で仕方がない。

けれどここを出て寝ることなど今更できるはずもなく、当然床でなんて寝かせてもらえるはずもない。…大人しくベッドで寝るしかないようだ。

 

「寝られないというのなら寝かしつけてあげようか?」

「私の寝つきが良いのはお兄様もご存じでしょう?」

 

さっきのお兄様の言葉を真似て言えば、そうだったな、とお兄様は苦笑して自身のベッドの上へあがった。

何だか二人一緒に寝るって不思議な感じ。

私たちはなんだかんだ兄妹として過ごした日々はたった四年しかない。だから、こうして一緒の部屋で同時に寝るというのは初めてだったりする。

不安はあるものの、明日もいつも通り起床するのだから早めに寝よう。

 

「おやすみなさいませ、お兄様」

「ああ、おやすみ」

 

部屋の明かりが暗くなる。夜目の利かない私には暗闇に見えるけれどお兄様にはきっと全体が見えているのだろう。

早く寝よう、寝てしまおう。

もぞり、とお兄様に背を向けて目を閉じる。

やはり疲れていたのか、そのまま意識を失うように眠った私は、次の日の早朝、お兄様が外出したのに気づくこともなく、いつもの時間に起床するのだった。

 

 

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