妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑮

 

 

達也視点

 

 

はっきり言って深雪と同室で寝られるか不安が無かったと言えば嘘になる。

いくら自分が衝動に流されることが無いとはいえ、人間としての欲求は存在する。

欲求自体、俺だって生きている人間だ。

どうしようもない生理現象であり、生殖行為は本能であるから感情が無かったとしても関係はないことなのかもしれない。

しかし精神をいじられた自分だからこそ衝動まで至らず、欲求を押さえつけられることができるというのも皮肉な話ではあるのだが、これがある限り間違いは起こらないだろうとも思えた。

大抵の場合なら、それでよかった。

だが、唯一俺がすべての感情を解放されている相手、妹が相手となると話は別だ。

血が繋がっており、俺が心から愛し、慈しむことができ、彼女の為ならこの命を捧げてもいいと思える唯一無二の存在。

兄として、彼女の幸せのために尽くそうと心に誓っている。

だというのに、何を不安に思うことがあるか――妹、深雪にのみ許された衝動が問題だった。

深雪は誰もが認める、この世の者とは思えないほどの絶世の美少女だ。

そこに兄妹だからといって魅了されないという理由はない。

実の妹であるからとそういった欲求を感じないでいられるかと問われたら、身内など何の弊害にもならない、と答えるしかない。

血が繋がっているといくら理性が言い聞かせても目を奪われることがある。

本来本能で避けるべき相手だろうと欲を抱くことが皆無とはならないらしい。

それは相手が深雪だからなのか、人としての欲求は果てしなく、理性などその程度のものなのかはわからない。俺には比べようも無いからだ。

だからといって、じゃあ同室だからと妹をすぐ襲うのかといえば、それもあり得ない。

自分が彼女を傷つけることなどできようはずもない。

俺は兄なのだ。

そして彼女の、深雪の絶対的守護者。

いくら魅力的であろうとも、衝動に流されても深雪の意思を無視するようなことはあり得ない。

昨年、怒りで我を忘れてその場で深雪を傷つけようとした相手を殺しかけた時も、深雪によって止まることができた。

それに比べれば同室で寝るくらいで殺意を上回るほどの衝動など起こるわけもない。

改めて不安なことなど何もないと言い聞かせて、深雪が眠ったのを確認して自分の意識を落として睡眠に入る。

こうするとちょっとやそっとで起きることはない。

半自動的に攻撃や悪意を受けた際起きるようにはなっているが、普通の生活音で起きるようなことはないし、それこそ軍の雑魚寝で寝相が悪くぶつかられたこともあったはずだが起きた試しがなかった。

だから問題はないはずだ、と眠ったのだが――

 

 

 

 

(…これは一体何の試練だ?)

 

柔らかい感触と温もりに予定より早く、徐々に意識が覚醒し、目を覚ました時には己の身体に起きている異常を察知した。

どのようなことが自分の身に起きているか理解したが、身動きが取れなかった。

 

 

――深雪が、抱き枕よろしく俺に絡みついているのだ。

 

 

抱きつくどころではない。なにがどうしてそうなった?と言うくらい密着している。

自身の左腕は柔らかい双丘に挟まれていて、深雪の左腕が俺の胸の上にのせられ、もう片方は肩近くに添えられていた。

左足にはこれまた柔らかくも温かい足が離さないとばかりに絡んでいる。しかもどうなってそうなっているのか両足で挟み込まれているようだ。

…逃げられない。逃げ場がない。

 

(どうしてこんなになるまで起きなかった?)

 

自身に問いかけるも答えなど返ってくるはずもない。

というよりベッドに侵入されて気付かなかったというのか。

信じられない。何か魔法でも使われたのではないかと疑いたくなるほど信じがたい状態に陥っていた。もちろん魔法の痕跡などかけらも無かった。そんなものがあれば確実に自分は起きるはずだ。

というか、深雪はなぜこんなことになっていてそんなに穏やかな顔で眠っているのか。

すうすうと寝息を立てるたび、彼女の身体が上下し、密着している左腕からはとく、とく、と一定のリズムが生きていることを伝えてくる。

いつもなら安心する音もこの状況では安堵などできない。できようはずもない。

 

(少しでも動けば起こしてしまうだろうか)

 

この穏やかな寝顔は起こすことを躊躇わせるが、この状態が己の精神的にも肉体的にもよろしくないことはわかっている。

流石にこの状態で眠っていられるほど、俺の体の機能は死んでいない。

正常に動き出そうというのをギリギリ抑え込んでいるに過ぎない。

理性など鼻腔を擽る匂いだけで今にも擦り切れそうだ。

許されるならばこの温かな体を己が腕の中に閉じ込めたい欲求を何とか堪えて、まずは胸の上に置かれている腕をゆっくりと下ろす。

掴んだ腕は細く、自分のモノと比べて些か温度が低い。

慎重に妹の体の上に戻してやってから、今度は上半身を左腕から引きはがす。

肩に手を掛けてゆっくりと上向きに倒れるように。

ん、と深雪の口から洩れる声に一旦手を止めるが、起きる様子はないようだ。続けてそのまま寝転がらせる。

続いては足だが…上半身を動かした影響か、先ほどよりもがっちりと自分の足に絡みついていた。

……何も考えないようにして足を引き抜いてみようとしたのだが、

 

「ぅんっ…ふ、」

 

(!これは、引き抜くのは危険か…)

 

押し付けられる下半身に触れずに引き抜いて外すことは不可能であり、動かすと彼女の反応がこのように返ってきてしまい、とても危険な状況だった。

少し待ってみるかとも思ったが、待っても外れるどころか、またも彼女は寝返りをうってこちらに寄りかかろうとする。

今度は阻止できたが、これで分かったのは、待っていても何も解決しないどころか事態が悪化するということ。

地道に動かすしかないようだ。

自身の上体を起こして、できるだけ足に体重を乗せないようにし、足首を掴みたいところだが、手が届かないのでふくらはぎを掴むのだが――ふに、としていて柔らかく、果たしてこのまま持ち上げていいのか、力を込めて大丈夫なのかと不安になる。

 

(今更なことに何を戸惑っているんだ)

 

深雪の身体がありとあらゆるところが柔らかいことなど日常の触れ合いで知っていることだ。

高校に上がる前には足をマッサージしてやったこともある。なんてことは無い。

別に何かをしようとしていうわけではないのだ。焦ることもない。

この時点で自分の精神が普通ではないことに気付いていたが見て見ぬふりをした。

今最優先事項はこのミッションをクリアすることだ。他に考える余裕はない。

ゆっくり足を持ち上げ、膝も支えて慎重に横に移動する。

これだけ触っていても起きないのだからもう少し大雑把に触っても大丈夫だと思えるのだが、それは躊躇われた。

ん、やら、ぅん、やらと悩まし気な声が漏れ聞こえるたびに、動きが止まる。ついでに思考も止まった。

一体足一本にどれだけ時間がかかっただろうか。

ようやく外れて、これ以上何かが起こる前にすぐさま自分の足を引き抜いた。

これで全身深雪から己の身体の奪還に成功したのだが、虚脱感が凄い。酷い疲労感だ。

時刻を見ても目覚めてから十分も経っていないのに、一時間以上生死を掛けたギリギリの戦闘をしたような疲労感。

だが――横で眠る深雪の寝顔を見るだけで、この眠りを妨げることはなかったのだという安堵感と、可愛い寝顔による多幸感に包まれるのだから、我ながら単純なものだ。

このまま俺のベッドで横に居させたら先ほどの二の舞になることは予測できたので、深雪の身体を抱き上げて彼女のベッドへ運ぶ。

抱き上げて運ぶくらいならソファ等で気を失って(眠って)しまう深雪を運ぶことがあったので動揺することもない。慣れた作業だ。

…そう思っていたのだが、やはりあれは眠っていたのではなく真実気を失っていたんだな、と。今になって思い知る。

眠っている深雪は行動的だった。腕を伸ばして首に絡められ抱きしめられる。そして、

 

「ん、あったかい…」

 

耳朶を擽る様に呟かれた言葉に、在りし日の親子の会話が連鎖反応のように呼び起こされた。

 

(――そうだ、昔、母さんに忠告されたことがあった)

 

あれは朝、なかなか姿を現さない深雪を迎えに行った時のことだった。

母の体調がいいということで、二人一緒に寝ていたはずなのだが、母の部屋に入ると深雪がベッドの上で説教をされていた。

また深雪が悪戯をしたのかと思ったが、深雪の様子がいつもと違う。母の態度も違って見えた。

その後、母が深雪に身なりを整えてくるように、と追い出し、俺を睨みながら命令した。目を吊り上げてうっすらと赤く染めたまま。

 

「達也、もし、万が一にも深雪と同室で眠ることになりそうになったら何が何でも避けなさい。守るためであったのなら距離を空けて――も、不安ね。とにかくあの子と同時に寝ることをできるだけ避けるように」

「理由を聞いても?」

「危険だからよ」

「…」

 

意味が解らなかった。母は詳しく説明する気が無いらしい。

深雪の一体何が危険だというのか。

 

「こればかりは、もう矯正も効かない。手遅れ、いえ…手違い、ね」

「……それで、具体的にはどのように危険なのです?」

「一緒に眠ることのないあなたが知る必要は無いことよ」

「はぁ」

「ただ…そうね、もし、そのような緊急事態があったなら――行火でも用意してやりなさい。あの子は、寒がりのようだから」

 

あの時は何を言っているのかと理解できないで、この記憶も彼方に押しやっていたが、今となればあれほど的確なアドバイスは無かったのだろう。

よくよく思い返せば危険だと言いながら、母の顔は目元のみならず顔全体が少し赤みがかっていたし頬も強張っていた。

アレは怒りなどではなく緩むのを抑えていたのかもしれない。あの人もアレで深雪との触れ合いに戸惑いつつも徐々に受け入れていったから。

 

(深雪は熱を求めて俺のベッドに入り込み、暖を取っていたということか)

 

理由がわかれば何ということもない。

自分には快適な温度でも、深雪の少し温度の低い体には涼しかったのかもしれない。

ベッドに下ろしてやるが、腕が離れない。推測通りやはり寒いのか。

 

(誰もいないベッドに熱が移るまで時間がかかるだろう。…これも深雪を寝かせる為)

 

深雪の身体を抱きしめてベッドの中に潜り込む。本当に推測通りならしばらくすれば温かくなってこの腕も離れやすくなるだろう。

起きる時刻まで一時間ある。それまでにこの腕を外して自分のベッドに戻るか起きればいい。

横になって抱き合うというのは初めてだが、いつも以上に深雪の身体から力が抜けているのが新鮮だった。

あどけない寝顔はいつまでも見ていたいほど愛らしい。

ずっと、この寝顔を見守っていけたらと夢想するが、それが叶うことなどないのだろう。

顔にかかる髪を耳にかけて払ってやりながらじっくりと観察する。いくら眺めても飽きることない美の最高傑作。

それを腕に抱いていられる自分は何と幸福なのだろう。彼女の兄と言うだけで得られるこの幸せは何物にも代えがたい。

これがあるからこそ、釣り合いを取るためこの世のすべての不幸を向けられているのではと錯覚するほど、この腕の中の幸福は魅力的だった。

温かな熱が、じんわりと溶け合うように体が温まっていく。

深雪も同じなのだろう。安心しきったように口元が緩んでうっすらと開いていた。

じっと見つめ続けていると、また余計な欲がくすぶり始めた。先ほどまで意識しないでいられた嗅覚と触覚が反応をし始める。

 

(これはあまりよくない兆候だ)

 

あまりどころではない、非常によくない兆候だ。

こちらから抱きしめていたこともあってか、今度は放すことが容易だった。

深雪は気持ちよさそうに眠っている。

そのことに安堵してベッドを降りた。

このまま自身のベッドに戻っても眠れる気がしない。

それだったら、と昨年同様深雪のベッドの枕元に腰かけて頭を撫でる。これくらいの刺激で起きないことはもうわかっていた。

――思い返せばあの時からその兆候はあった。

去年の夏、眠る深雪を見守っていたあの日も、手を出せば擦り寄り、傍に座っているだけでその方向に身を寄せるように転がっていた。

あれは熱を求めてのことだったのだ。

だが、疑問は残る。

いくら密着するほどベッドが近かったとはいえ、二つのベッドの間には20センチほど距離がある。

寝転がったとしても隙間に落ちる可能性だってあったのに、どうやって深雪は俺のベッドにもぐりこめたのか。

やはりそのまま転がって?それとも起きて歩いて俺のベッドに?はたまた跨いで――、となると深雪には夢遊病の気もあるということか?

それは睡眠の質としても良くない。というより、熱を求めて移動する時点で眠りの質は下がっているのではないだろうか。

室内温度を上げるか?だが、それをして蒸し暑くなって寝苦しくなれば本末転倒だ。

そしてまたコロリ、と深雪の身体が俺の方に向く。まるで太陽を求めるひまわりのようで微笑ましくなってしまった。

とりあえず、今夜はベッドを離してみるか。深雪にはいぶかしまれるかもしれないが、気になるからな。

深雪がどのようにして俺のベッドに入れたのか。

 

「もう少しおやすみ」

 

いつまでもここにいるとまたさっきのようなことになりかねない、と気づいて深雪の額にキスをしてその場を離れた。

少し早いが服を着替えて柔軟をして、朝日が昇る前に部屋を出た。

 

 

 

 

「おや、達也君、早いね」

「師匠」

「手合わせするかい?」

「お願いします」

 

こんな時間から運動している学生はいないだろうが、できるだけ人が来ないコースへ、と森林に向かったら師匠が偶然――いや、待ち構えていた。

人の悪い顔を浮かべている。…これは人をおちょくる時の顔だ。

 

「いやあ、風の噂で達也くんが深雪くんと同室だと聞いてねぇ」

「それがどうかしましたか」

 

そんな情報どこから聞きつけることができるというのか。問いただしたところで教えてもらえるはずも無い。適当にはぐらかされるのがオチだ。

師匠に嘘をついても何にもならない。特にこの手の件でとぼけたところで師匠には意味がないことはわかっていたので堂々と答えた。

 

「おお、開き直ってるね。でも君がこの時間、ここにいるということは読みが当たったかな?」

「さて、答え合わせをするつもりもありませんので」

「つれないねぇ」

 

一体何をどう読んでいたというのか。答えは聞かない方が良いと判断し、問うことをやめた。

師匠もそこまで揶揄う気もないようだ。そこからは黙って稽古に付き合ってくれた。

 

 

 

身体を動かすと頭がすっきりした。

白く覆っていた靄が晴れたようだ。

 

「うん、顔が戻ったね」

「はい?」

「いやあ、だって顔に欲求不満って書いてあったからさ。師匠としては心配だったんだ」

「…は?」

「それじゃあ、深雪くんによろしく~」

 

言うだけ言って師匠は去っていった。

………ランニングでもしてから戻るか。

 

 

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