妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
「距離は関係なかったようだ」
つまり。
「時刻は3時を回る前だった。一番気温の下がる時刻だな」
………。
「…私はまた、お兄様の眠りを妨げたということですね」
「昨日のことがあったから心構えができていた分、すぐに二度寝ができたから問題ない」
「二度、寝?ですか」
「多分起きて正味5分くらいだったんじゃないか?」
美少女だろうと抱きつかれて5分で睡眠って…妹相手だからとはいえお兄様どんな頑丈な理性をお持ちで?
でもお兄様が寝られたというのならいい、のかな?
(いやいやいや!しっかりしろ自分!!)
「そ、そういう問題ではありません!お、お兄様のベッドに忍び込むだなんて、そ、そんなは、破廉恥なっ」
「…破廉恥って、俺たちは兄妹だぞ。何が問題なんだ」
そんな、何でもないことのように言うけど大問題だよ!?え?違うの⁇
お兄様が平然と返すから私がおかしいのかという気になってきたけど、違うよね?お兄様、兄妹だったら何してもいいわけじゃないですからね?
「いつもハグしているだろう」
何が違う?と堂々おっしゃってるけど、昼間の立ってするハグとベッドの中で横になってするハグは大いに違うでしょう?!
「寒くて眠れない妹を温めてあげられて安眠を守ってやれたのなら兄としてこれ以上ない仕事だろう」
…兄の仕事って何ですかね?それってせいぜい幼少期までしか許されないのでは?
「幼少期にはしてあげられなかったからな」
まあ、当時はそんな関係ではなかったからね。
それはそれとして――先ほどから私口を開いてない気がするのだけどなんで会話が成立しているのだろう?
「今の深雪は何を言いたいのか見るだけでわかるよ」
苦笑しつつも、事も無げに答えるお兄様。
だから、口に出してないのになぜ会話が成立してるの?
見てるだけで言いたいことがわかるって、それは困る!
というかお兄様、やっぱりおかしくなってる!このおかしな思考ってあの時と同じだ。ハロウィンの、一緒に寝ようとしたお兄様、再来してるよ!
「お兄様、お兄様は今大変お疲れなのです。休んでくださいませ」
「深雪、俺なら十分休めているよ。お前を抱いて眠れるなんて、これほどの癒しはない」
あああ!ほらだめだ!態度が普段と変わりなさ過ぎて気づけなかった。お兄様はとっくに限界を迎えられていたのだ。
どうしよう、これから九校戦が始まる。今すぐにお兄様をお休みさせることなんてできない。
できるとしたらお昼か全種目が終わった後だけれど、それでも調整の仕事は残っている。それが終われば皆で集まって雑談する予定だったけれど、今日はそれを初めからキャンセルさせてもらって――
「俺が疲れているというのなら、このまま一緒に眠るか?」
急に抱きしめられたかと思うと腕に引き倒されて二人ベッドに横になった。
「お、お兄様!」
「ふっ、鼓動が早いな」
いやするよ!こんな至近距離で推しの顔を見ながら抱きしめられて、しかもベッドの上でなんて、ドキドキしない方がおかしい。
柔らかく笑われるお兄様の顔なんて、もう破壊力が抜群すぎて頭が白紙化されそうになるけれど、頑張れ私!このまま負けちゃいけない!
「それはとても魅力的なお誘いではありますけれど、今日の予定を完遂した後にもできますでしょう?」
「流石に九校戦をすっぽかすのは良くないか」
良くないどころかヤバいですよ。良かった。最悪の事態は回避できそう。
お兄様の重い腕を逃れるには、引くよりも押す方が早いことを私は知っている。
恥ずかしいけれど、これもお兄様と
お兄様の胸板に擦り寄ってより身を密着させると、お兄様お腕がより強く私の身体を抱きしめる。
「今日を乗り切るための最後のエネルギーチャージです」
「なら、たっぷり補給しないといけないな」
…でも、ベッドの上で二人抱き合うのはよろしくないなぁ。心臓さん、いつも以上に苦労と負担を強いてしまって申し訳ない。頑張って!
――
なんだろう、私的にはたっぷり寝たはずなのに朝からすごい疲労感。
理由はもちろんわかってますけどね。心臓があれだけ全力疾走したのです。疲弊しない方がおかしい。
ちなみに私が午前三時に取ったという行動についてはっきりと教えてはもらえなかった。
映像があるのでは、とも踏み込んでみたのだけれど上手く撮れていなかったそうだ。
やっぱり衝撃が大きくなかったからカメラが作動しなかったのかな。軽くでもぶつかるほどの衝撃が必要だからね。
残念なようなほっとしたような。できれば見たくはないからね。内容を知りはしたいけど。
しかし…起き上がって歩いてでもお兄様の元へ行ってベッドに潜り込むなんて、そんな行動取ればいくら何でも少しくらい記憶が残りそうなものなのに、寝ぼけた記憶すらないなんて。
それに、お兄様のお話だと、どうやら抱きしめられたりしているようなのだけど、そちらも当然記憶にない。
お兄様に触れられる分には危険が無いから危機察知能力が反応しないとか?あり得る。なんせ深雪ちゃんボディなもんで。
――さて、考えてもどうしようもないことは後回しだ。
今年は選手としてだけでなく生徒会役員として精力的に選手サイドの中心で活動しているので、今年はエリカちゃん達と一緒に観戦とはいかなかった。
お兄様もエンジニアとして行動しているので一緒に居られたのは朝だけ。
…むしろ今は一緒じゃなくて助かっている。あのままの状態のお兄様といたら、周囲の目があってもおかしな行動を取られてもおかしくなかったから。
一応朝のハグで普通に戻ったのだけどね。
いつまたストレスが溜まって大変なことになるかわかったものではない。それくらいお兄様は疲労を抱えている。気をつけねば。
お昼になって皆で集まって食事をした際にはすでにそこそこため込んでいるのか、ちょっと心配して見つめてしまったらデザートを欲しがっているのかと勘違いされて、お兄様のセットに付いてきた杏仁豆腐を二口ほど食べさせられた。
美味しい。美味しいけどそうじゃない。
ほのかちゃんに羨ましがられ、雫ちゃんにもプリンを分けられ、それなりな騒ぎになった。
一高生のBGMがですね、響いてましたね。近くで食べてた他校の皆様、騒がせて申し訳ない。
これはやっぱり今夜こそゆっくり休んでもらった方が良さそうだ。何か策を立てないと。
「…ねえ、達也くんさ」
もしかして、とエリカちゃんがこそこそっと耳元で。
本当に勘のいい、というかそれだけ人を見ているってことなんだろうけど、正解です。
「エリカも気づいた?兄さん自覚ないみたいだけど、多分オーバーワークなんだと思う」
「あ~、やっぱり?普通あれだけの仕事たった一人でこなせないよね」
こそこそと話していても仲間内には聞こえるわけで。ほのかちゃんがお兄様にアタックしている間雫ちゃんもこっちに参戦。
「達也さん、中条会長の二倍は調整に携わってる。担当選手以外にも面倒見てた」
「それだけじゃなく、準備も指揮もしてたりするから」
「そりゃあ、あの超人達也もおかしくもなるわな」
皆もお兄様の様子がおかしいことに気付いてくれたみたい。優しい!
昔は何を考えてるかわからん!って感じだったけど、今ではこうしてお兄様を心配してくれる。
密かに感動していると、エリカちゃんが半眼で。
「いや、気づくわよ。あの無自覚たらし事件再来じゃない」
あ、そうだったね。…そうでした。お兄様前科持ちでした。
警戒による察知だった。それでも、気づいてもらえることは嬉しいけどね。
「そういうわけで、今夜予定していたお茶会だけど、顔を出すくらいで下がろうかと思って」
「そうねー。全く顔を出さずに、だと誰かさんの士気が下がっちゃうだろうから出した方が良いんでしょうね」
ああ、『ほ』の付く女の子のことですね。やる気が左右されますから。
エリカちゃん、本当に何でもお見通し。怖いくらいだよ。
「場所は去年みたいに室内じゃなくて、作業車の横でしようかと思っているの」
「ああ、この辺夜は東京と違って涼しいもんな」
「外でお茶会だと、去年のバーベキューを思い出しますね」
「ふふ、そうね」
あれは楽しい思い出だった。
皆と部屋でわいわいもいいけど、野外はまた違った楽しみがあると教えてくれた。
「あそこならピクシーもいるから給仕もしてもらえるし、片付けも心配いらないから」
あの子は3Hとしての機能もばっちりだから。皆でわいわいお片しするのもいいけど、やってもらえるならやってもらった方が楽ではあるからね。
そんなわけで、お兄様の繁忙期が終わるまで、お茶会は顔出し程度。最後まで参加しないことを伝えると皆は快く受け入れてくれた。
私たちが今日からの大会後の予定を話している間ずっと行われていたほのかちゃんのデザート食べさせてほしい、もしくは食べてもらいたい作戦は残念ながら失敗した模様。
でもその間構って貰えたことは嬉しかったのか、しょんぼりのしょん、程度。
ほのかちゃんは雫ちゃんに慰めてもらってた。私も、ナイストライだったよ、と心の中でサムズアップ。
「深雪」
お兄様は普段と変わらない様子で私の元に。可愛い女の子からのアタックをのらりくらりと躱していつも通りに装えるとは。
お兄様だとて何も感じていないわけではないのだけど、その感情を表に出すことは良くないとでも思っているのかな。
とりあえずお兄様がいつも通り過ごしたいなら突く必要も無い。
「午後の部も乗り切りましょう」
「そうだな」
いつもよりちょっと近い距離で微笑み合う。お兄様、もしかしてだけど九校戦の準備云々だけでなく、こういう人付き合いのところの方が疲れを蓄積されていた原因になっていたのだろうか。
可愛い子とのイチャイチャが癒しにならないとは、お兄様は何と不幸な星の下に生まれたものだ。
少し可哀想になって肩に頭を寄せていた。
「珍しいね、深雪からなんて」
「偶にはこういうこともありでしょう」
その頭を撫でるお兄様は頬を綻ばせていて、それがまたほっこりとした気分にさせてくれる。
「偶にはじゃなくいつもこうして甘えてくれていいのに」
「こういうのは偶にだからいいのよ」
軽口を叩いてすぐに離れたのは、お互い時間がないことを理解していたから。
うん、まだ冷静な判断ができているようで安心しました。この調子が夜までもつといいのだけど。
――
夕食を一高生徒全員で賑やかに終え、幹部たちが集まっての反省会。
原作では皆お通夜モードとはいかないまでも緊張感漂う雰囲気で始まるはずだったのだけど、ここにそこまでの緊張感はない。
何故ならロアー・アンド・ガンナーペアの成績が一高男子三位だったのが、一位は流石に七高に奪われているが二位になっていたからだ。
おかげで総合一位との点差は開いていない。
あの海の七高に善戦できているだけでも十分良い結果と言えよう。
特訓の成果が出たのかな。皆で色々研究もしたからね。
雫ちゃんの出場しているアイスピラーズブレイクも余裕で予選を突破していた。
はっきり言って七高は水の競技に関しては強みがあるが、そこ以外は平均的。よってそこまで脅威ではないのだ。
目下、ライバルは一条君と吉祥寺君率いる三高だ。彼らの実力は昨年の新人戦で嫌というほど実感させられた。
対してこちらは主力の先輩方がこぞって抜けたのだ。
いくら隠れ十師族の私たち兄妹がいたとしても、この差は大きい…はずだったのだけど、今回は接戦どころかこの時点ではあるが、点差が開いている。
新競技に彼らも苦戦させられている模様。作戦が上手くはまっていないようだった。
おかげで私たち一高は七高に続いて二位という順調な滑り出し。
もちろん、三高、七高だけでなく他校相手にも油断などはしないのだけど。
「このまま勝ち星が七高に取られたとしても、次いでうちが取れるならこれ以上ない戦績だな」
私がいくら原作を知っていようとも、結果が全てイコールとはならない。
最終的に総合優勝さえ取れれば細かなところは恐らく、強制力、修正力といった力は発動しない。
スティープルチェース・クロスカントリーはそのための調整競技に思われた。
だから今回の大会に関しては原作の流れにない働きを、と積極的に一生徒として精力的に動いてみた。
もちろんすべてはお兄様の為なのだけど、その結果付随して余裕ある優勝を狙ってもいいではないか、と。
選手たちの地力を上げて、俄かでも知識を詰め込んで、ありとあらゆる事態を想定して。
だけどそれでも、新競技は先が読みづらかった。
どんな工夫を他校がしているのか、どんな作戦で来るのか、原作に全て書かれているわけでもないし、深雪ちゃんの頭脳は優秀でも、前世の私の脳内は好きなキャラ以外の記憶はそこまで色濃く残っていない。
つまりそこまでのアドバンテージはないのだ。
だからといって流れに身を任せれば何とかなるでしょう、なんて無責任なことをしていいわけもないので、深雪ちゃんのあらゆる能力を駆使して、選手たちを鍛えてきたつもりだ。
気分は体育祭実行委員。規模は違えど、自身の学校を勝たせるために精一杯できることはやってきた。
せっかくの深雪ちゃんのポテンシャルを生かさない手はないと惜しみなく協力してみましたとも!
新競技はほとんど映像資料が無かったから、先を読みようが無かったので不安な面も大きかったけれど、その状態でこれだけの戦果が残せている。かなりいい出だしと言えよう。
…とはいえ油断ができるほど気は緩ませないようにしないと。まだ今日は初日なのだから。
明日はロアガンのソロだが、今日の試合運びを見る限り七高はかなりこの競技にかけてきているようで、客観的に見て一位を取れるかは正直難しいのではないかと思われた。
実際勝負をしてみないことにはわからないことではあるのだが、こればかりは地の利があったように思う。
「やっぱりさ、司波くんはロアガンのソロを担当した方がよかったんじゃない?司波さんなら誰が担当したって優勝するんだろうし」
(あらぁ。それ、やっぱり言っちゃいます?)
原作でも飛び出した花音先輩のセリフだ。
ロアガンソロはアイスピラーズブレイクソロと日にちが重なっていて、どちらかしか担当できない。どうせなら勝ちが確定している私より不安要素のあるロアガンの方に、優勝製造機のお兄様を回した方が良いのではないかという案だ。
もちろん花音先輩に悪気がないことはわかっている。
今更変更なんてしないだろうと、不満を乗せて言っているのはお兄様にどうしても嫌味をぶつけたかったから。
自分は傍に居られないのに、お兄様は先輩の愛する婚約者様とずっと一緒だからね。ずるい!という気持ちが抑えきれなかったのだろう。
はけ口として納得できないことも無い。ただ当てつけついでに言ってみただけ、といったところか。
純粋に一高の優勝を狙うなら、どんな競技でも勝ち星を挙げているお兄様が担当した方が勝率が上がるのでは、との考えも含めて。
筋は通っているのだけれど、それを言うことが正しかったかと言われると、それは残念ながら否、だった。
瞬間、最近覚えたての凍てつく波動が室内を襲う。
「兄さん」
はたして私の声で止まってくれるだろうか。
ハラハラしながら、前のやり取りが脳内に過る。
――
いえね、それ実は私もひと月前に提案したことなんですよ。
お兄様にくっついてCADの調整の基礎はできるようになっていた私は、当日のスケジュールから、お兄様にとてつもない負担がかかる日程になっていることに気が付いて、自らの調整くらい自分でしようか、と提案させていただいたのだ。
他人にしてもらうのは、お兄様が不安に思うだろうから、私が一人でやってみると。
やるのは当日の調整だけで、その前にお兄様に調整をしてもらえれば十分問題ないはずだ、と。
…その時のお兄様の絶望の色を宿した瞳が、今も忘れられない。表情は能面のようなのにその瞳は雄弁に語っていた。
――もう、俺を必要とはしてくれないのか?
声に出されずとも、お兄様が言っていることが伝わってくるような、そんな訴える目をしていた。
そして私は即行で提案を取り下げた。
お兄様を頼ることを避けているわけじゃない。ただ、たくさんの仕事を抱え忙しそうだったから私の調整はしなくていいと伝えたつもりだったけれど、それがかえって負担になるというのなら、お兄様にお任せするしか選択肢が無かった。
お兄様の負担の一つを減らしたくて提案しただけだけれど、お兄様にとって私のCADの調整は他人どころか妹でさえ任せたくないらしいのか、とちょっと驚いたのも事実。
「深雪を信用していないわけではないんだ。それは誤解しないでほしい」
そうなの?ちょっと驚いたけど、それならそれで構わないのだけど。たいして気にしたわけでもない。
お兄様がしたいと言うなら、多少無茶なスケジュールでもやり遂げるだろう、とそっちの方が気になっていたから。
お兄様がお忙しくなってしまうけれど、お兄様にも譲れないことがある。妹のことなら特にそうなるのも理解できる。
だからこの案は無かったことに、とそれ以上会話に上ることはなかったのだけど、以降しばらくお兄様は私が一人で地下室に近づくことに警戒していた。
家の地下室にはお兄様に調節してもらう以外で入ることはないのに、ただ前を通るだけでじっと見つめられたのは少し肝が冷えた。
申し訳ない。あの提案がそこまで心配?警戒?されることだと思わなかったのだ。
後日理由を伺うと…お兄様、あの一件もトラウマ案件になっていた。
「普段だったらまだ構わないのだが、九校戦は前回のことがあるからな」
普段は構わないと言いながらも家の地下室へ行くのを警戒しているのは矛盾ですよ、なんて指摘はしない。
トラウマは徐々に時間を掛けて癒していかないといけないものだから。
…でもそれって普通の人なら時間経過で癒えるけど、絶対記憶を持っているお兄様に忘却という対処法は効かないのでは?
時間経過以外でお兄様の心の傷が癒されるとしたら成功例で失敗例を上書きすることくらいしかないけど、お兄様が全て管理されてしまうと成功例で上書きなんてできないんじゃない?
…これ以上お兄様のトラウマを増やさないようにしなければ、と改めて誓ったのだった。
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