妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑳

 

髪を乾かす手間も惜しんでタオルでまとめ上げてパジャマを身に付けて身嗜みを鏡でチェックしてから部屋を出る。

お兄様はベッドに腰かけて端末を操作していた。

 

「ピクシーの方に動きはありましたか?」

「あちらも慎重なのか反応はないそうだ。休眠状態で運んでいるんだろうな」

 

お兄様は残念そう。

 

「水波ちゃん達はもうお開きに?」

「そちらはあれからすぐに解散したそうだ」

 

あらま。でもそうか。エリカちゃんみたいに掻き混ぜる人がいないものね。そんなに雑談が続かなかったか。

明日は皆揃うからもう少し盛り上がるだろう。

それまでには何とかお兄様が回復できればいいのだけれど。

お兄様は入れ替わるようにバスルームへ。

その間に私もケアをしておかなくては。

持ってきているスキンケア用品を手に取りながら慣れた手つきで作業を進める。

髪を魔法で乾かしてからヘアオイルを。その後柔軟をしていると、お兄様が寝間着姿で出てきた。

かなり早いけれど寝る準備は万端。いつ寝落ちしてもいいスタイルになっている。

内心恥ずかしくて仕方がないけれど、表面は何ともないですよ、といつもと変わらず笑みを浮かべてお兄様のベッドの枕元で正座を。

いつ寝てもすぐ枕にお兄様を移動できるようにね。

 

「さ、あまり時間がございませんよ」

「…そうだね」

 

お兄様はまるで覚悟を決めるように息を吐いてからベッドに乗り上げて横になった。

太ももに乗る頭は温かく、触れる髪は洗い立てでサラサラだ。香るシャンプーの香りに体温が上昇しそうになるけれど、落ち着け私。暴れないで心臓。

心を落ち着かせるためゆっくりお兄様の頭を撫でる。

お兄様は私に背を向けるように寝転がっているので形のいい耳がはっきりと見えた。

 

「ふふ、耳かきでもあれば耳掃除もできましたのに」

「…それは、流石にそこまで深雪にしてもらうのはな」

 

遠慮されてしまった。まああれは仲良し夫婦の特権だから兄妹でするのはおかしいか。

縁側で膝枕をしながら旦那様の耳かきをするって、あれは一種のロマンだよね。できれば奥さんはエプロンか、旦那様が着流し…いや、二人とも和装であってほしい。

その際奥さんは割烹着もいいよね。

 

「それより重くはないか?」

「ええ」

 

お兄様がいつも私の全身をここに乗せていることを思えば、羽のように軽いとまでは言わないけれど、昨年叔母様から送っていただいたスイカに比べたら遥かに軽い。

二人で食べるには大きすぎるスイカだった。大変美味しゅうございました。

ジュースやゼリーにしたり味わい尽くしましたとも。

 

「何を思い出したんだ?」

「昨年叔母様から頂きましたスイカを思い出しておりました」

「…ああ、あの唐突に送られてきたアレか」

 

当然名前は伏せられて送られてきましたけどね。配達業者もウチの者でしたし。何を偽造しているのかね?

お兄様届いた物にめっちゃ警戒していたもの。ふたを開けたらただのスイカで面食らってたけれど。

 

「まさか、俺の重さと比較したのか?」

「お兄様の頭でしたらいくらでも耐えられそうです」

 

くすくすと笑えば、お兄様は撫でる私の手を捕まえて自身の頬に押し当てた。

温かい頬はとても柔らかく、髪とは違ってこちらもずっと触れていたいほどすべらかな感触だった。

お兄様は基礎のケアさえしていないだろうに何という張りとみずみずしさ。これが若さ?普通この年頃なら肌が荒れててもおかしくないでしょうに。

 

「お前の手はいつもひんやりしていて気持ちがいいな」

「夏は重宝していただけているようでなによりです」

「冬は俺が触れる理由になる」

 

あらあら。私の手はお兄様にとって都合のいい手をしているそうだ。

よく温めてもらいましたものね。

そこから会話が途切れたので、しばらく無言タイム。

じっと見つめては心地が悪いだろうと目を閉じていたのだけれど、なにを思ったか、お兄様がごろん、と正面に。目を開けたらばっちり視線が合いました。

 

「どうなさいました?」

「俺も深雪に触れたくなった」

 

そう言って手を伸ばされたので少し屈んで顔を差し出す。

まずは髪に指を絡ませ耳にかけられ、晒された頬に触れられた。

 

「こうしてゆっくり触れ合うのは久しぶりだな」

「そうですね」

 

このところお兄様はずっと忙しく、FLTでも思考型CADを手掛けていたり、軍の方からもムーバルスーツの改良点や、自身の研究なども続けていて時間がいくらあっても足りない状態だった。スケジューリングできているのが不思議なくらいだ。

本来なら学校なんて通う暇なんてないくらい忙しい。

――正直なところ、お兄様が学校に通われる意味は既にない。

必要な資料はほとんど揃ったようだし、私の護衛だったら水波ちゃんがいる。もしピンチになったとしても水波ちゃんが守っている間にお兄様が駆けつければ問題はないはずだ。

というか、お兄様は離れていても私を守護することができるのだけどね。お兄様の魔法の射程距離はとんでもないから。

お兄様もきっとそのことには気づいている。気づいていて、何も言わないでいてくれる。

そうであることを私が願っているから。お兄様と一緒に学校へ通いたい願いを叶えてくれている。

通わない方がきっと、お兄様がしたいことへの後押しになるはずなのに。

だが、お兄様が幸せになるには、人と付き合う時間も必要だ。同学年の子供たちとの触れ合いはお兄様を確実に変えていっている。変化をもたらしている。

だからこの選択が間違いだとは思わない。思わないのだけど――。

 

「お兄様は働き過ぎです。せめてこういった時くらいゆっくり休んでくださいませ」

 

お兄様の優秀な頭脳はどこでも場所を選ばず回転している。

今もこうして私の上にいる間もきっと私以外のことをお考えになっているのだろう。

当然明日の九校戦の対策だったり、パラサイドールの動向を気にしていたり。

お兄様の手が、私の耳をふにふにと触れる。少し擽ったい。

ふふ、と声に出して笑えば、お兄様は少し口角を上げた。

 

「深雪にはこれが休んでいるように見えないのかい」

「お兄様なら、私のことを片手間で弄びながら他のことを考えるなんてお手のものでしょう?」

「もて、…酷いな。俺はそんなイメージなのか?」

 

というより原作お兄様ってそんなところあるよね。

深雪ちゃんを構いながら一方で他のことを考えている、みたいな。

マルチタスクが実行できてしまうお兄様の頭の良さよ…。流石お兄様。

 

「それだけ頭を働かせすぎているのですよお兄様は。常に並行して色々考えている、と。誉め言葉です」

「とてもそうは聞こえなかったがな」

「それは申し訳ございませんでした」

 

くすくすと笑って返すとお兄様は不満そうに見せていた表情を、口角を吊り上げたあくどい笑みに変貌されて、――どうやらお兄様の危険なスイッチを押してしまったのだと気付いた時には、お兄様の長い腕が腰に巻き付き、腹部にお兄様の顔が埋まった。埋まった!?

 

「ちょ、お兄様?!」

「俺は傷ついた。深雪が慰めてくれないと立ち直れない」

 

いえいえいえいえ?!お、お兄様がお拗ねに?!その様子にきゅんっ!とはキたのだけどいやでも待って?お待ちになって?そのですね?お兄様その場所はあまり顔を埋めていい場所ではないのではないでしょうか!?

 

「気分を害すようなことを言って申し訳ございませんでした。どうか機嫌を直してくださいませ」

 

即座に謝るけれど、お兄様は無言。身じろぎすらしない。

ど、どうすれば!?

後頭部を撫でる?とてもサラサラですね。でもこれ私が気持ちいいだけだね。えっと、あとこの状況下で起こせるアクションってなに?

お兄様は傷ついたと言っているのだから、えーと。

 

「痛いの痛いの、飛んでいけ~」

 

お願いだから飛んでいってと願いを込めたけれど、おまじないじゃ残念ながらお兄様の傷は癒えない模様。

あとは?あとは何がある⁇

言葉で心が傷ついたなら、喜ぶ言葉が薬になるのか。

 

「お兄様はいつも頑張っていて素晴らしいです。尊敬します。流石お兄様です」

 

これもダメ。

 

「帰ったらお兄様のお好きなものを作りましょう。何がよろしいですか?きんぴらごぼうを混ぜ込んだいなりずしはいかがでしょう。生姜焼きなどの定番もいいですね」

 

こちらは少し反応があったけれど、ダメみたい。

うーん、あとは何だろう。お兄様の頭を撫でくり撫でくりしながら。

 

「かっこよくて、時折可愛らしくもなられるところも大好きです」

 

ピクリ、と反応が。

 

「好きですよ。お兄様のことが大好きです」

 

この世界で一番大好きで、幸せになってもらいたい人。

 

 

 

「すきよ」

 

 

 

頭を抱え込むように上から覆いかぶさって、音もたてずにギリギリ触れられる側頭部に口づける。

髪には触覚が無いからどこが触れたかなんてわからないだろう、とすぐに離れたのだけど、あれ?お兄様と目が合いましたね。腰の拘束が緩やかに。しかし、お兄様のお目目まんまるね。

 

「傷は治りましたか?」

「……治った」

 

…どういうわけか、お兄様何をされたか気づいている感じ?

バレないと思ってたのにどう――もしかして、視た?いや、でもお兄様の眼って見えるとは言っても情報がわかるだけであって目で見えるのとは違うはずだ。

そもそも封印されているから全力で視ることはできない状態なんだよね?まだ使いこなせてないんだよね⁇

もしや視界の周囲に鏡があって反射で見えたり…あ、窓があった?でもカーテン引いてるから反射でも見えないはず。

まさかだけど触れるモノの分析できちゃう的な?髪の毛であろうとわかっちゃうとか?

…お兄様にはいくつもの可能性があり過ぎてどれが正解かわからない。むしろ今挙げた中のものでは正解にかすりもしていない可能性も。

よし、ここはバレていないと思って行動した方が良いね。うん。私何も知らない。わからない。私は何もしておりませんよ。

 

「それはようございました」

 

淑女の完璧なる仮面で覆い隠してしまえばあら不思議。何事も無いように見せることに成功。

お兄様はちょっと狐につままれた顔をされていた。意表を突かれた、と言うところかな。

 

「…まったく。深雪には敵わないな」

「お兄様がいつも勝ちを譲ってくださるのでしょう」

「そんなわけがない。いつだって翻弄されている」

「まあ。それこそ私のセリフです。いつだってお兄様に良いようにされているのは私の方ではありませんか」

 

身に覚えがないとは言わせない。

ジッとお兄様を見つめるけれど、お兄様も一歩も譲る気がないようだ。互いに睨み合うように視線をぶつけあって。

 

「ふっ、」

「ふふ、」

 

どちらともなく噴出して。

笑いながらお兄様は身を起こして私を抱き寄せるとこつんと額同士をくっつけて笑い合う。

 

「こればかりは引けないな」

「お兄様はきちんとご自身の言動を振り返ってみてはいかがです?」

「それは深雪もだろう?」

 

お互い一歩も引く気がない。

こんな至近距離で見つめ合って心臓は痛いくらい跳ねているけれど、この戦いは絶対に負けられないから。

けれど二人そろって瞼を閉じ、開いて目が合うと自然と顔を離していた。双子ではないけれど、見事なシンクロ率。

 

「とりあえず今日のところはお相子ということにしようか」

 

決着つけようがないからね。

 

「足は痺れていないか」

「ええ。もう一時間は余裕ですよ」

 

正座にもコツがあるのだ、と少し自慢げに言えば、お兄様はそれは凄いなと頭を撫でられた。

膝枕の延長も促してみたけれど、断られてしまう。

 

「いつまでも深雪の身体に負担を掛けるのは俺の精神上よくない」

 

とのこと。…お兄様少しだけ回復したかな。正常な判断が戻ってきた模様。

でもまだ完全と言えないのは頭を抱えていないから。きっと普段のお兄様だったら頭抱えている案件。

私は記憶にないけれど、ベッドで私にもぐりこまれているのもお兄様的にはアウトだと思う。

…本当、どんな姿でお兄様にご迷惑を掛けているのか。いっそのこと――

 

「寝る際、私の身体を縛り付けてはどうでしょう」

「……そのような必要は無いよ。それでは深雪の身体が不自由で支障を来すだろうから」

 

良い案だと思ったんですけどね。

手足をタオルとかで縛っておけばそこまで痛くないだろうし、流石に芋虫状態でベッド移動なんてできないだろうから。

いっそ拘束を、と思ったのだけどそれは無しとのこと。

誰かに見張ってもらうというのはその人物に負担を掛けることになるし――あ。

 

「お兄様、ピクシーに来てもらってはどうでしょう?」

 

彼女なら次の日の負担になることもないし、元々3Hには介護の機能も備わっている。

見守り機能があるからもし徘徊しそうになったらやんわり止めてくれるはず。お兄様のベッドに移動しようとするのを防げるだろう。

それに何よりパラサイドールに動きがあったらいち早く知ることもできる。

最後のは、お兄様を説得用に付け加えた案であり、私としてはそんなことしてほしくは無いのだけれど、お兄様的にも悪い案ではないと思う。

どうだろう、と窺い見ればお兄様は少し渋いお顔。

 

「それでは深雪が起こされてしまうのではないか?」

 

そっちが理由?てっきりホテルにまで3Hを連れ込んだら変な噂が飛び交うかな、とかそっちの心配かと思ったのだけど。

どこまでも妹ファースト。流石お兄様です。

 

「それに危害が加えられてないにしても深雪が抑え込まれている状況で俺が目を覚まさないはずはない」

 

ああ、そういうこともあるのか。…どっちにしろダメってことだ。残念。良い案だと思ったのに。

 

「俺のためにいろいろ考えてくれていることは嬉しいが、俺はあまり実害を感じていないんだ。むしろ可愛らしい深雪を堪能できて役得だとすら思う」

 

あ、危ないお兄様が帰ってきてしまった。

抱き合ったままの状態というのもまずいね。

 

「もう、お兄様ったら。寝不足は立派な実害です」

 

いつもより早く部屋を出てトレーニングに行っていることはわかっているのですよ。

それだけでも睡眠が減っているというのに。

熟睡を妨げられるのは一番身体によくない。

そう指摘するのだけれど、お兄様はちっとも真剣に受け取ってくれない。

それが不服だと口を尖らせると、お兄様は少しだけ困ったように眉を下げて。

 

「心配してくれてありがとうな。でも、大丈夫だから」

 

(…大丈夫じゃないのに)

 

お兄様は気付いていない。

身体に支障が無いから余計に気づけない。

精神的疲労は着実にお兄様を蝕んでいるというのに。

悔しかった。妹だから安心させてやりたいとお兄様が微笑みかけてくれることも、嬉しいのに不満だった。

(わたし)では、お兄様の枷にはなれてもストッパーにはなれないと言われているようで、それがどうしようもないくらい、苦しい。

お兄様の身体にくっついて感情を悟られないよう蓋をする。

お兄様にはただ心配しているのだと訴えているようにしか思えないだろう。

事実、心配しているのだ。嘘ではない。――だけど、一番心を占めている感情を隠している。

 

「今夜はこのまま眠ろうか」

「だ、ダメです!私が落ち着きませんし、そもそもこれはシングルベッドです!こんなに狭くてはお兄様がリラックスできません」

 

というよりそう言うセリフは妹に言わないでいただきたい。

妹を誘惑してどうする気?もうとっくにお兄様の魅力に陥落してますよ。愛情度はカンスト済み。

 

「残念だ」

 

冗談にしても心臓に悪すぎる。本当に人の寿命を簡単に縮めに来るお兄様だ。恐ろしい。

する、とお兄様の腕から抜け出てできるだけ優雅な動きを心がけて自分のベッドに逃げ込んだ。

淑女がこれくらいのことで慌ててどうします、ってきっとお母様なら注意するでしょうからね。

…と思ったのだけれど久しぶりに脳裏に浮かんだイマジナリーお母様が頭を抱えてため息を漏らしていた。

すでに呆れられるような行動を取っていたということ!?何が悪かった?やっぱり膝枕は淑女らしくなかっただろうか?

 

「深雪?」

「え、あ、申し訳ございません。少し考え事をしておりました」

 

お兄様も今日は早く就寝するつもりらしい。布団にもぐりこんで枕に肘をついてこちらを見ていた。

 

「今日はこっちを向いて眠ってくれないか」

「それは…」

「背を向けられると寂しくてな」

 

ぐっ…お兄様が卑怯な呪文を唱えた。寂しいって…そんなことを言われたら、たとえ恥ずかしくても我慢しようって思ってしまうではないか。

今日は初めほどベッドがくっついていないけれど、昨日の半分も離れていない。私の感覚では普通のベッドの距離に思える。

初日のアレがあるからか、ハードルが下がったように感じるけど、そもそも同じ部屋で寝ること自体がとんでもなく高いハードルなんだよなぁ、と頭の片隅で思いつつ、お兄様の指示に従う。

お兄様はだいぶリラックスしたような表情をされていて、それだけで私の心を穏やかにしてくれる。

安心するように微笑まれているような、そんな感じでもあった。

 

「明日は予選だが、深雪なら目を瞑っても余裕だろう」

「お兄様にそう言っていただけるのは嬉しいですが、足元を掬われることもあるかもしれないですよ」

「掬われたところで空も飛べるお前を止めることなど誰もできんさ」

 

お兄様ったら自信満々に。

でも確かに深雪ちゃんに死角はない。本当に目を瞑っていたとて余裕で勝てるだろう。

だけどね、それではただの暴力と変わらない。一方的過ぎてはそれは試合じゃないから。

 

「お兄様に期待していただいているのですから負けられませんね」

「明日は皆、お前のステージに釘付けだろうな」

「まだ予選ですよ」

「予選だろうとなんだろうとお前が舞台に立てばそれだけで皆が主役に夢中になる」

「お兄様も?」

「俺はいつもお前しか目に入っていない」

 

…離れていても届くお兄様のお色気オーラにやられそうです。えまーじぇんしー。

 

「もう、お兄様ったら」

 

本当、妹をどうするつもりなのか。

 

「少し早いが、今日はもう寝ようか」

「そうですね。お兄様は少しでも睡眠を取るべきです」

「ああ。俺もちゃんと寝るから」

 

くすりと笑うお兄様に、少しだけ疑いの目を向けたけれど、じっと向けられる視線に誤魔化しの色は見えない。

ぱちりと瞬きをして笑みに戻した。

どうせならお兄様が見る最後の時まで良い顔でいたいから。

 

「おやすみなさいませ、お兄様」

「ああ、おやすみ。良い夢を」

 

お兄様と見つめ合ったまま眠るなんて不安だったけれど目を閉じればあっという間だった。

気が付けば朝になっていた。何か夢を見たような気がするけれど、あまりよく覚えていない。

怖い夢、だったような気がする。

とても嫌な気持ちになるような、そんな夢――。

 

(嫌な夢なら思い出さない方が良いよね)

 

ゆっくりと体を起こしてみれば、隣のベッドは空だった。お兄様は今日も早く起きられて体を動かしているのだろう。

…全く覚えていないけれど、多分、またお邪魔したのではないかと推測。

なんとなく、なんだけね。そんな気がひしひしと。

でも今日は打ちひしがれている場合ではない。

予選ももちろんそうだけれど、今日の夜には恐らくパラサイドールが動くはず。――今夜が勝負だ。

気合を入れてベッドから降りた。

 

 

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