妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編㉑

 

達也視点

 

 

内心警戒していたのを裏切って、今朝の深雪は一切何も聞かずに落ち着いた様子だった。

本人曰くぐっすり眠れているようで、目の下の隈など一切なく今日も完璧な美貌を保っていた。いや、日に日にその美を更新している。今日も彼女は輝いていた。

可憐な見た目からは深窓の令嬢のように思われがちだが、彼女は一般的な感覚もきちんと備わっていて案外庶民的なものを好んだりする。

普段身に付けるアクセサリー類は華美なモノより落ち着きあるものを好んだり、安物でも服装に合っていれば気にせず身に付ける。

去年クリスマスにプレゼントしたネックレスは、普通の学生でもちょっと無理をすれば買える程度の代物で、個人的にはもう少し彼女に見合ったものを贈りたいのだが、彼女の言うTPOを考えれば学生にはこのくらいが丁度いいらしい。

これなら気兼ねなくいつでも身に付けられると喜んでいた。

この大会期間中、制服では身に着けることのないネックレスが胸元で揺れているのに気付いて触れると、今年の九校戦はほとんど一緒にいる時間がないことを予期して、せめて一緒にいる気分だけでも、とそれを制服の下に隠して身に付けているのだと聞かされた時の衝撃は計り知れない。胸がいっぱいになるとはこういうことか、と。

なんと可愛いことをするのか。思わず抱きしめた俺は間違っていない。

今朝も、大事そうに身に付けているのを見て、胸が温かくなった。物の価値は金額で決まるものではないのだと、最近で一番の学びだ。

朝食を終えてすぐ、深雪のアイスピラーズブレイク予選は始まる。

控室で着替えるのだが、今年は水波が衣装の着替えを手伝うらしい。張り切って深雪についていた。

色々と道具を持ち込んで慌ただしく支度をしている。

カーテンに阻まれた前で椅子に腰かけて二人を待つ間端末を操作してチェックをするのだが、これと言った新情報もなく、進展がない。

こればかりは焦ってもしょうがないとわかっていても、昨夜の動きを知りつつ動けなかったことは痛恨だった。

 

――そう、昨夜遅く、パラサイドール側には動きがあった。

 

 

――

 

 

三日目ともなれば対処法も掴めてくるというもので、深雪が抱きついてきても慌てることなく目を覚ませるようになっていた。

近寄る時点で起きてもよかったのだが、抱きしめる結果が変わらないのであればギリギリまで眠っていた方が、多少は休めるだろうと考えてのことだった。

映像を見る限り、近寄ってから潜り込むまでに迷う動作が見られたり、中に入ってからも深雪は触れることにためらいを見せていた。

抱きつくまでに工程が必要らしい。

寝ぼけていても俺を起こさないよう慎重に動く深雪に、無意識の時くらい遠慮なんてしなくてもいいだろうに、と深雪の優しさに温かいものが込みあげる。

――深雪には録画は上手くいかなかったと伝えたが、実際のところちゃんと作動していた。

画素数もこんなサイズだというのに悪くない。こんな小さなものだが、とんでもない技術が詰め込まれていた。

これは今後の小型化競争に一石を投じることになりそうだ。

深雪に伝えなかったのは、この映像を見せてはショックを与えてしまう可能性があると思われたからだ。

もし、この映像を見たならば彼女は同室で寝ることをもっと抵抗をしたはずだ。

もしくは、彼女が提案したように手足を縛るということを強行したかもしれない。

俺にとっては微笑ましく思える光景でも彼女にとっては羞恥に見舞われる可能性が高い。

 

(微笑ましく思える、という言葉に嘘はないがどちらかと言うと健康的な男子であればあの様子に興奮を覚えることは必然だろうな)

 

俺自身、兄であることなどなんの抑止力にもならない。

絶世の美少女が躊躇いがちに身を寄せるところや安心して顔をほころばせる場面など反応するなという方が無理だ。

さっきはギリギリまで寝ていた方が休めるなどと言ったが、どちらかと言うとこの映像のように深雪が行動していることを実際目にして冷静でいられる自信が無い、というのが直前まで起きない理由の半数を占めている。

それくらいの衝撃映像でもあった。

こんな映像一つで彼女の精神が乱される必要は無い。

ただでさえ今は九校戦中だ。余計なことで頭を悩ませていられない。

録画されている時刻は初日と大体同じ時刻だった。この周辺の気温と照らし合わせて、どうやら本当に深雪は一番冷え込む時間に暖を取りたくて俺のベッドにもぐりこんでいたらしい。

そう思うとこの身体が妹の役に立てているのなら喜んで捧げようと、己の葛藤など押し殺して深雪のための行火として任務を全うしようと思っていたのだが、この夜は様子が違っていた。

日付が変わるより早く就寝し、寝入っているはずの深夜。この二日間、包み込むような熱を感じて目を覚ましていたのだが、今回は勝手が違っていた。

苦しいことはないがしがみつくように抱きつかれ、魘されるような声で目を覚ました。

 

「ん、ゃっ…」

 

明らかに異常事態だった。暗闇の中でも問題なく見える目は深雪の表情は苦悶をはっきりと捉えていた。

 

「深雪、深雪!」

 

悪夢に魘されているのかと声を掛け、強請ろうと腕に触れるとびくっと体を緊張させた。

尋常ではない反応に一瞬こちらも体が硬直した。

 

「…ひっ!…ぃやっ」

 

だが続く声と、悶えながら背中を丸めて何かから身を守るような反応に、ほのかの家で受けた衝撃がフラッシュバックする。

 

(パラサイトか!)

 

瞬時に上半身を起こしたことで、深雪の身体を動かしてしまい、「んんっ」と一番大きな声が上がりヒヤリとしたが、深雪はまだ覚醒はしていなかった。

端末を操作しピクシーに連絡を取る。サスペンドモードであってもすぐに起動しテレパシーが返ってきた。

 

「ん」

 

深雪がそれに反応したのか身じろぎをして俺の腰に巻きつくように行き場を失っていた腕を回す。

大した拘束力などないはずの細腕が、とてつもない枷に感じて身動きが取れなくなった。

 

『(数キロ先、反応を僅かに捉えました。数は16。あっ…)』

 

返ってきたピクシーの思念の声に、思わず、と言った感じで人間らしい反応があった。

こういった反射的な行動がこのところ増えてきて随分人間味を増してきたように思う。

これは彼女自身の学習によるものか、周囲に感化されてかはわからないが、深雪が喜びそうな反応だと頭の片隅で思った。

 

『(反応ロスト。休眠に入ったものと思われます。ただ、時間的に一瞬でしたのでこちらが認識されることは無かったと思われます)』

 

ピクシーが反応をキャッチできたのは残り香のような反応だけであり、すでに休眠に入る直前だったらしく、ピクシーの存在に気付かれる前にシャットダウンしたようだ。

深雪の反応から見て、こちらを探査していたのかもしれない。

彼らにとってピクシーは自分たちの居場所を探れるレーダーとして警戒対象なのか、はたまた自分たちの作品のオリジナルのようなもので、参考資料として奪うつもりなのか。

それとも前回同様、パラサイト自身の意思による破壊が目的なのか。

なんのための探りかはわからないが、捜索は中断されたようだ。

捜索時間中、ピクシーはサスペンドモード(眠って)いたので発見されなかったことは僥倖か。

こちらサイドからは運よくパラサイドールの場所も特定できた。

 

(襲撃に行くなら今だと思えるのだが――)

 

パラサイドールの反応が無くなったからか、深雪の表情は少し落ち着いたものに戻っていたが、それでもしがみつくような抱きつき方には変化がない。

余程不快だったのか、恐怖だったのか。眉間に皺が寄ったままになっていた。

深雪の頭を撫で、皺を伸ばすように眉間を指でなぞる。

先ほどのような拒絶反応は見られない。むしろもっと、と強請る様に頭が押し付けられた。

そのことに安堵しつつ、片手でピクシーに次の指示を送る。場所の座標を送らせてからサスペンドモードに入る様に伝えれば、深雪がまた小さく反応をした後、

 

『(座標転送いたしました。おやすみなさいませ、マスター)』

 

そう言って連絡が途絶えた。

深雪の感度がまさかピクシーを超えるとは思わなかった。

いや、ピクシーに夜中も探査するよう特別指示を出していなかったから超えたわけではないか。

だがまさかこの距離から反応をキャッチするとは思わなかった。

あちらが探るような反応をしたからこそだとは思うが、ますます彼らの存在を放置することは良くないことだと認識を強くする。

 

(深雪のためにも早々にあれらを破壊しなければ)

 

今深雪を置いて、本拠地と思われる場所へいくことは可能だが、この状態の深雪を一人にしてしてまですぐに破壊しに行かなければならないかと問われれば否だった。

場所もわかっているのなら周辺の様子を探ってからでも遅くはない。一日くらい遅れたところで場所を変更することは無いだろう。問題はないように思われた。

よって、と腰に巻き付いている腕を外してやってこちらから抱きしめなおして横になる。

冷えてしまった身体を早く温めなおすことの方が急務だった。

布団を被って体を密着させると深雪の甘い香りが鼻腔を擽り、抱き込めばじんわりと熱が伝わり柔らかさが理性を溶かしにかかってくるが、この二日で対処法を会得していた。

 

なんてことはない。この状態のまま意識をシャットダウンすればいい。

 

深く眠ってしまえば思考は脳内だけで完結し、身体にまでシグナルを伝えることはない。

 

(――ただし、諸刃の剣ではあるのだが)

 

もちろんガーディアンとしての守護に不備があるわけではない。それとはまた別問題だ。

睡眠を優先するにはこの手段が一番であることは事実。

むずがるように動く深雪の背を軽く叩いて落ち着かせてやってから意識を落とした。

 

 

 

 

そしていつも通りの時刻にきっかりと目が覚めた。

一番にすることは寝入った時よりもより絡まり合っている身体を丁寧に解いていく作業。

無意識に取る行動とは恐ろしいもので、己の心を暴かれているような心地だった。

指に髪を絡ませて己に押さえつけるように抱えている後頭部からゆっくりと手を離す。

深雪の髪はしっとりとしていながら滑らかでどこにも引っかかることはなくさらりと抜くことができた。

しっかり抱きよせるように腰に巻き付いていた腕は、彼女の腰のくびれのお陰でほとんど押しつぶされず痺れることもなく、ベッド側に腕を押し付けるとこで隙間が生まれ抜き取れた。

…残る懸念は足だった。

互いの足が交互になっており重なっていた。何よりも自分の太ももの位置が問題で――いや、何の問題も無い。

無心になって彼女の足を動かして挟まれていた足を抜き、深雪の身体を上向きに倒す。

その際下敷きになっていた足を動かして密着部分を全て引きはがすことに成功した。

一時的に起きたものの、その他はぐっすり眠れたはずだが、この一連の作業を熟すだけでどっと疲労感が押し寄せる。

しかし、その後深雪の穏やかな寝顔を見るだけでこの苦労も報われた気がした。この寝顔を守るためにやったのかと思えば、大した労力でもない。

…実際労力なんてないにも等しいのだが、精神的にはかなりの苦戦だった。

しばしその可愛らしい寝顔を堪能してからベッドに戻してやり、冷えたベッドを温めなおす作業を終えた後、着替えて部屋を後にした。

三日目ともなると師匠と待ち合わせなどせずに自然とその場所に向かうのが当たり前になっていた。

ニヤニヤと笑う師匠の挑発に乗らないように手合わせを重ねるのだが、どうにもすべてを見透かされているようでペースが乱されそうになる。

心の揺らぎなど、自分には無いもののはずなのに、――コントロール下にあるはずなのにそれがうまくいかないのは、それが唯一俺の心を大きく揺さぶることに関してだからか。

 

「――へぇ、場所特定できたんだ」

 

俺の報告に返ってきた師匠の返答に微かに違和感を覚えたが、襲い来る手をいなすことに意識が持っていかれる。

攻守はあっという間に逆転。防戦一方になって捌くのが難しくなってきたころに師匠はすっと手を引いて終了の合図を出す。

 

「まあ、事が動くのは障害物走の時だから焦ることはないとは思うけれど、調査すること自体は悪いことじゃないだろうから」

 

息切れ一つしていない師匠の様子に己の未熟さを見せつけられているようだった。

 

「何事も修行だよ」

 

そう締めくくって朝の訓練はお終い、と踵を返して去っていった。

このままランニングをして頭を整理してから部屋に戻ると、深雪は昨日までの慌てた様子など微塵もなく出迎えられ、訊ねられたら今日こそは誤魔化す気でいたのだが、こういう時に限って深雪は訊ねることなく、肩透かしを食らった形になったのだった。

 

 

――

 

 

「お待たせいたしました。いかがでしょう、お兄様」

 

カーテンの仕切りが取り払われ、現れたのは気品あふれる女王の姿。

それも、いつもの深雪の雰囲気ではない。纏っている空気から違っていた。

そこにいたのは気位の高い、周囲を睥睨する冷酷さのある女王だった。

声も半音低めで、冷え切った声色を演出しているのか。

あまりの美しさに魅了され、気が付いたら自然と膝を折っていた。

首も垂れそうになったが、それではこの麗しい女王から目を離すことになってしまう。悩ましい問題だと思うほどの葛藤が生まれていた。

叶うならばその長手袋に包まれた手を取ってキスをしたい。服従を誓わせてほしい。

見る者を凍り付かせるはずの冷徹な視線のはずなのに、その視線を受けたところから熱を帯びるかのような感覚。

ダークレッドの、薄く塗られた唇がゆっくりと開く。

 

「お兄様」

 

催促を促す声に、そういえば感想を聞かれていたんだったと思い出す。

 

「すごく、いい。美しいよ。…惜しむらくは今この手にお前を完成させるティアラがないことか」

 

女王ならば王冠だろうが、この氷の女王ならば繊細な作りのプラチナのティアラが似合う。

それが今手元にないことが悔やまれた。

深雪のリクエストで三つ編みに結われたのをお団子のようにまとめられたその頭に、何も宝飾が飾られていない。

首元は肌をほとんど見せないレースで覆われていてネックレスが無くとも十分装飾が施されている。

唯一肌が露出するのは長手袋と半袖の間のわずかな二の腕だが、肩口のフリルからちらりと覗く白い腕が酷く煽情的に映った。

このように下から仰ぎ見ると彼女が腕を伸ばすだけでその奥まで見えそうになり、さらに目が離せなくなりそうだ。

思考に劣情が絡む前に視線を断ち切って深雪に返すと、深雪は冬の女王のような威厳を霧散させて春の女神のごとき微笑みを浮かべる。

 

「ふふ、お兄様ったら。ありがとうございます。おかしく見えないのでしたら安心ですね」

「おかしいどころか。去年の妖精女王が今年は雪の女王となって現れるとなればまた会場が凄いことになりそうだな」

「今日はまだ予選ですよ」

「予選だろうと深雪のこの美しさを一目見たいと誰もが思うだろうさ」

 

つくづく自分はすし詰め状態の観客席ではなく関係者席があってよかったと実感する。関係者どころか担当だからより傍で見守れるのだが。

ずっと静かな水波を見れば、彼女は静かに深雪に見惚れていた。彼女としてもいい仕事をした実感があるのだろう。

 

「水波、ご苦労だったな」

「このように深雪姉様を着飾れる機会に携われて光栄です」

「水波ちゃんったら大げさね」

 

深雪はコロコロ笑うけれど、大げさなんかじゃない。彼女は今、自身の全うした仕事ぶりを誇っている。

誇りたくなるほどの美しさに感動しているのだ。

知らぬは本人ばかり。だが、深雪はそれでいい。周囲など気にしなくていいのだ。

 

「では、参りましょうか女王陛下」

「…私が女王なのだとしたら、先にお兄様が国王だと思うのですが」

「俺はお前の守護者だからな。王にはなれんよ」

 

そもそも王座など興味もない。俺が唯一興味があるのは深雪だけ。

深雪を守ることがすべてだから、国なんてすぐに傾いてしまうだろう。

深雪も俺の言いたいことに気付いたのだろう、仕方のないお兄様、と笑ってから表情を引き締め一変させる。

室内の空気がキンッと冷え切るような錯覚が起こる温度を奪うほどの冷ややかな視線が前を見据えた。

 

「出陣します」

「「はっ」」

 

深雪はノリで言っているだろうが、俺と水波は確実にノリなんかではなく本気で返事をしていた。

 

 

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