妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編㉒

達也視点

 

 

圧巻の試合運びだった。

対戦相手はまず深雪の佇まいに怯んでいた。というより会場全体が試合前から彼女の空気に呑まれていた。

そんな中始まった試合で深雪がまず行ったのは自陣の氷の柱を12本まとめて固めることだった。

学校で氷柱を作っては配置を繰り返して思いついたらしい。

縦三列横四列をひと固まりにぴったりとくっつけて長方形にしてしまえば、一本だけでも壊すのが大変なのにこれでは表面を傷つけることで精いっぱい。

深雪の情報強化もあって内部から崩すのも不可能と言えた。

…普通はまず一本の柱さえコントロールするのがせいぜいのところを12本同時に操って見せた。

これだけで相手にどれだけの絶望を与えたことか。

更に攻撃に転じると、相手陣地の一本の氷柱を振動系で打ち砕いた後、その破片を七宝の群体制御のように操ってそれぞれの柱に楔の様に突き刺し、その亀裂を利用して打ち込んだ楔をさらに冷却。

すると柱に罅が入り、全てが一瞬で崩れ落ちた。

今年の深雪は氷だけで炎を出す気はないのかもしれないな。氷の女王が炎を操るのはおかしいという理由だけで自身の魔法に縛りを設けるくらい、深雪ならやりそうだ。

前回は櫓が下りるまでがお芝居だったが、今年は試合終了のブザーと共に戻るらしい。

対戦相手に一礼して浮かべられた微笑みに、会場中が春の訪れを感じ安堵し陶然として見つめていた。

 

「おかえり深雪」

「ただいま兄さん」

 

櫓から戻る深雪に恭しく手を差し出すと、茶目っ気を出してそれらしく手を乗せる。

世界を魅了する美しさを持つ妹がいたずらっ子のように笑うと今度はその可愛さで周囲を悶えさせた。

あまりの可愛さに腕の中に閉じ込めたくなる衝動を抑えてその手を少しだけ強く握る。

 

「どうだった?」

「深雪のピラーズを壊すのは一般に流通している魔法では不可能じゃないかと思えたな」

「そう?氷同士が密着したところが狙い目だと思うのだけど」

 

深雪はこうしたら攻略できるのではないか、と話しているが、深雪が情報強化している時点でその案は破綻している。

それこそリーナレベルであれば深雪の案の通り打ち崩すことは可能だろうが、あくまでリーナレベルでの話だ。

次はどんな策を弄しましょうか、と楽しそうに笑っているところに水を差すこともあるまい。

労ってやって控室までエスコートした。

 

 

 

 

アイスピラーズブレイクは男女ともに予選を突破。

ロアー・アンド・ガンナーは入賞自体懸念されていたが、何とかギリギリ男子が3位に入賞、女子は惜しくも2位に届かず3位という結果ではあったが入賞している。

これは十分予想に反して結果を残せたと言えよう。

特に男子は途中機転を利かせて、的を狙わずスピードを取りに行ったところは思い切りがよかった。

何でも深雪との練習の際、推進力の瞬発的な力を褒められたことを思い出したらしい。

短時間であれば直線でスピードが出せる、ここに強みを見出したのだとか。

ここでも深雪の活躍が見られて兄として誇らしくなった。

俺も負けてはいられない、とエンジニアとしての仕事に精を出す。

お茶会には顔を出す予定だが、これらの仕事を終わらせてからだ。

ここ二日間が俺にとって一番の山場で勝負所だ。

昨年と違い男子からも調整を任されていることもあってタイムスケジュール的にもかなりギリギリであったが熟せないこともない。

ケントに助手として働いてもらいながら指導もしていく。

正統的なCAD調整の手順を指導しながら点検し、雫と桐原先輩の分の作業が終わる頃、その来客は訪れた。一条だ。

軽口を叩きながら場所を移動すると、話は九校戦の裏事情について一条家からの情報だった。

国防軍の対大亜連合強硬派がこの件に絡んでいるという。

九島との関係はさっぱり、というかむしろ良くないように思うがそこは互いの思惑が上手く絡み合った形なのかもしれない。

一条の話を聞きながら今後の流れを考えていた。

一瞬この強硬派と一条家が深い関係なのかと訝しむような発言もあったが、それは杞憂だったようで安堵する。

一条まで敵に回るようであれば更に複雑化するのは明白で、そこまで面倒ごとになるのならいっそのこと盤面をひっくり返してやろうかと考えたところで、それもまた良い案に思えた。

 

(――コース自体破壊してしまえば仕掛けも何も関係ない)

 

一高の優勝など別に必須でもない。個人で深雪たちが優勝した後ならばスティープルチェースは最終日だ。

九校戦も中途終了ともなれば魔法協会の面目は潰れるだろうが、そんなこと俺の知ったことではない。

 

(地表のすぐ下にマテリアルバーストを撃てば通常兵器の爆発と区別はつかないだろう。自作のサード・アイでも数キロ程度の近距離なら微小質量照準は可能だし、地表直下であれば火山脈を刺激することもないはずだ。真夜中なら各校の生徒に被害が出ることもあるまい。問題は深雪の説得と、誰の仕業に見せるか…だな。去年みたいに犯罪シンジケートの連中でもうろついていてくれれば責任を押し付けられるんだが。国防軍に潜在的な反乱勢力でもいないだろうか)

 

そう考えた時だ。一条の口から反乱という言葉が出てきたのは。

あまりのタイミングの良さに自身が考えを口に出していたのかと思うほどだが、そんなわけもなく。

しかしただの偶然にしては都合が良すぎた気がした。

その酒井大佐のグループとやらはその内反乱でも起こすんじゃないかと噂があるらしい。

まあ、このような作戦に乗り出すような輩だ。罪の一つ押し付けたところで問題も無い。

なんておあつらえ向きな輩だろうか。…どこかからそのように噂を流されている可能性も捨てきれないが、パラサイドールの実験にこの場を提供した時点で罪は確定している。

一条に礼を言うと、彼は酷く動揺し、少し見当違いなことを言っていたが、それもこちらを心配してのことだと感じられた。

相当お人好し…人が良いらしい。

だからこそ吉祥寺のような人間が参謀として付いているのだろう。真直ぐで真っ当な彼を支えるために。

せかせかと去っていく背を見送ってから、踵を返す。

一条の推測が間違っていることを指摘しなかったのは、パラサイドールの件で巻き込む気が無かったからだ。

というより、彼らは九校戦を全力で挑んでいる。その邪魔をするつもりはなかった。

替え玉になり得る人物の情報を得ただけで気が楽になった気がする。

だがたとえ師匠に手伝ってもらったところで工作が間に合うとは思えない。

四葉に手伝ってもらえばあるいは、と思わなくもないが、富士演習場の部分爆破に許可が下りるかといえば、難しいだろう。

 

(柄にも無く俺はあれこれ迷いすぎているようだな…)

 

深雪が散々疲れを指摘してくれていたのを今ようやく実感した。

今夜くらいはパラサイドールのことを忘れて妹と友人たちとのお茶会でリラックスしよう。そう己に命じてこの場を離れた。

 

 

――

 

 

ケントと合流し、作業工程をすべて終え、お茶会に顔を出すと深雪が笑顔で迎え入れてくれた。

あの女王の冷笑ではなく、可愛い妹の出迎えに思わず抱きしめそうになるが、深雪が先手を打って手を引かれてしまえば大人しくついていって椅子に座るしかなかった。

 

「だめか?」

「だめよ」

 

家ではない、人前だからと止められる。残念だが、エリカたちの視線もあって諦めるしかないようだ。

 

「達也君、本当にお疲れね」

「あんだけ働いてりゃ如何な達也だって疲れんだろ」

「まあな。だがこの二日を乗り切れば後は大したことは無いから」

 

紅茶を運んできたピクシーにお礼を言って受け取ると、横の深雪が嬉しそうに微笑んだ。

…ああ、これくらいのことで喜ぶ深雪がいい子過ぎて愛でたくなる。

後で部屋でここまでの分含めてたっぷり撫でさせてもらおう。

深雪とほのかの間に座ったので、ほのかがちょこちょこと話しかけてきてお菓子を勧められる。

幹比古の調子もいいようで、先輩たちとの連携がスムーズにできるようになってきたらしい。

地の利を生かす術も多い幹比古だから重宝されることはわかっていたが、この様子なら問題なさそうだ。

 

「前回は達也の指示に従うばかりだったけれど、今度は自分たちの試合と胸を張って言えそうだよ」

 

昨年は急ごしらえだったからチームと言っても上官と部下という形だったからな。

幹比古の自信ありげの様子にエリカ達も楽しそうに茶々を入れ、レオが幹比古をフォローするようで煽って盛り上げる。

雫は深雪と美月の三人で楽しそうに話し、ケントと水波は主に水波がケントのしているエンジニアとしての話を聞いているようだった。

穏やかな時間だ。自分が望む平和なひと時。

深雪が淹れてくれるコーヒーではないが、美味く感じる。

 

「それにしても深雪はピラーズになると演出も拘るよね」

「その方が気分も盛り上がるじゃない」

「コスプレとかしたら成りきっちゃうタイプだ」

「エリカだって去年はそうだったでしょう?」

「あれはコスプレじゃなくてお仕事!」

「似たようなものじゃない」

「全然ちがーう!」

 

楽しそうに話に花を咲かせる女子たちを見守るのは、この手の話に下手に男子が突っ込むと怪我をするからだ。

だが確かにエリカが言うように、深雪は演出や成りきるのが好きなようだ。

今日も生き生きとしていた。

 

「それにしてもあの女王はすさまじかったわね。まさにラスボスって感じ」

「ふふ。私もそれをイメージしたわ」

「あれだよな。攻撃が絶対通らない絶望的なボス」

「でも何かしらのギミック解除が成功すると攻撃が通ったりするよね」

「あ~、あのよくわからないアイテム持ってくと勝手に相手が弱体化するとか」

「床の氷が溶けると弱くなるとか」

「逆に火の魔法を使うとボスの攻撃力が上がったりもありますよね」

 

ゲームの話にすり替わったので男子も入りやすくなった。

だが、深雪がラスボス?…魔法的に見ればそれだけのポテンシャルは確かにあるが。

 

「アンタらロマンがないわねー。氷の女王に効く効果的なギミックと言ったら――やっぱり愛でしょ」

「愛ぃ~?」

「エリカちゃん!わかります!!氷の女王の氷を溶かすのは愛ですよね!」

 

攻略法を考えていたら女子も参戦してきたが…愛?

何故ラスボスを倒すのにアイテムや魔法でなく感情になるのか。

 

「ストーリーで何ターンか後に出てくる謎演出」

「その場合氷の女王相手に王子様?」

「クイーン相手にプリンスじゃ格が違くねぇか?」

「一高の場合王子様より騎士様の方が期待されそうよね」

 

エリカの言葉に皆の視線が俺に集中した。

 

「エリカ。なんでも兄さんに押し付けないの。大体そういったゲームの場合、演出上愛の口付けでしょう?兄妹でやってどうするのよ」

「…あんた、さらっと爆弾投下するんじゃないわよ」

 

続く深雪の言葉にいち早くほのかが悲鳴を上げ、雫が何もしていない俺を睨み、水波が軽率な発言をする主を心配そうに見つめつつ、美月は両手で頬を覆ってほのかとは違う悲鳴を上げ、レオは素早くピクシーにコーヒーはあるか尋ねていた。幹比古は固まり動かず、ケントだけが周囲の反応についていけず呆気に取られていた。

 

「その場合ハグでもいいんじゃないか」

 

深雪の唇から気づかれぬよう視線を外して提案するが、深雪は首を縦に振らない。

 

「こればっかりは様式美だから」

 

愛の口付けは変更できないらしい。

そうなると話は変わるな。

 

「なら俺は女王サイドの騎士らしく、深雪に近づく輩を斬り捨てればいいのか」

「うわぁ…余計倒せないラスボスになった」

「達也まで敵に回ったらまず攻略させる気がしない」

「ラスボスに裏ボスついちゃダメだろ」

「むしろラスボスを助けるゲーム」

「どういう意味だ雫」

 

問い掛けるが雫はそのままの意味、と返すだけ返して横から深雪を抱きしめた。

深雪は急にどうしたの、と抱き返しているけれど、何故分かってないのに抱き返す。

疑問に思うならまず理由を確認してからに――ってそうじゃない。

 

「兄さんが調整してサポートしてくれているんだもの。決勝も負けるはずが無いわ」

 

そろそろ夜も深まる頃にこんな大声で話しているのは、と注意しようとしたところで深雪がストップをかけるようにまとめ上げた。

…騒ぎの発端は深雪だったような気がするが、綺麗にまとまったようで皆落ち着いた。

 

「さ、今日はもうお開きにしましょう。兄さんは疲れているんだから早く休ませないと」

 

ぱんぱん、と手を叩くとタイミングよくピクシーがやってきた。

 

「片付けに来てくれたの?ありがとう。明日はあなたに用意したモノがあるの。ちょっと付き合ってくれると嬉しいわ」

「深雪、明後日が本番なのに明日なのか?」

「英気を養うにはいいかと思って」

 

どうやら着せ替えごっこを明日やりたいらしい。

付き合うピクシーに嫌と言うことはない。一方的な約束を取り付けて今日は解散となった。

深雪は雫たちの部屋にちょっと寄ってから戻ってくるとのこと。

俺たちが同室なのは公然の秘密なのだから一緒に戻っても今更誰も気にしないと思うのだが、深雪の配慮を無駄にすることもない。

とりあえず名目上それぞれの女子を男子が部屋に送る形でホテルへ戻る。

俺の横にはほのか。その前には雫と深雪が楽しそうに話している。

――いつから、この順になっただろうか。

気が付けば俺の隣に深雪の姿はなく、ほのかと二人で歩くことが増えた。

それは深雪が雫と話したいからということもあるのだろうが、なんとも釈然としない。

ほのかとも、彼女の好意に応えられないことがわかっているのにこうして好意を寄せられることに申し訳なく思う。同時に、早く吹っ切れてくれれば、と。それは俺の身勝手なのだろうか。

だが、俺は既に自分の気持ちを答えている。いくら彼女に好意を寄せられても彼女の気持ちに応えられるわけがないのだから。

それでも構わないと、現状を維持する形になっている。

深雪の親友で、俺の友人でもあるこの状態。

本当にこのままでいいのだろうか、と考えつつ適当な相槌を打ちながら部屋に到着すると、深雪はそのまま雫たちと部屋に入ってしまった。

俺はここで待つつもりでいたのだが深雪から先に戻ってと指示が。

 

「お迎えもいらないわ。そんなに遠くないもの」

「だが、」

 

言い募ろうとしたが、深雪から大丈夫とダメ押しが。

確かにこのホテル内で襲われるような可能性は限りなく低い。

特に今年は昨年のこともあり軍が全面的にセキュリティを徹底しているため、外部からの侵入は無いと思われる。

だが、それでも深雪が狙われないかと言われれば、――ここには同年代の男子が選手だけでも各校25人以上いるわけで深雪をそういった意味で狙いに来る輩は多いはずだ。

特に一人で歩こうものなら近寄る輩が現れても不思議ではない。

そう思うのに、深雪は首を振る。

…気づかれなければいいのでは、と思わなくもないが、深雪の目がじっと俺を見つめてくる。これは退散しなければならないらしい。

視るだけで我慢するしかないか、と諦めて部屋に戻った。

 

 

――

 

 

深雪が部屋に戻るタイミングで扉を開けて出迎えると、深雪はいつもよりも嬉しそうにはにかんだ。

 

「おかえり。何か良いことがあったのか?」

 

深雪は扉の中に素早く身を隠すように入ると、こちらも珍しく深雪の方から抱きついてきた。

抱き返すとこれまた擦り寄るように頭を胸に擦り付けられる。

深雪は一体俺をどうしたいのだろうか。先程までのつれない態度とのギャップに戸惑う。

それでも自身の身体は閉じ込めるように腕を回していて、抱きしめると深雪はようやく顔を上げた。

至近距離で見つめ合う。

屈んでいるため長いまつ毛が触れそうなほどの近さだ。少しでも角度を変えたらどこかしらが触れてしまうだろう。

僅かに緊張しているのがバレないか冷や冷やしながら深雪の出方を待つ。

 

「ただいま戻りましたお兄様。お兄様が出迎えてくれることが嬉しくて、ついこのように甘えてしまいました」

 

…ああ、なんて可愛らしいのだろうか。先ほどまで抱いていた不満がすべて吹き飛んでいった。

確かに俺がこのように深雪を出迎えるということはないな、と言われてから気づく。

いつだって待つのは深雪で、俺は迎え入れてもらう側だった。

 

「偶にはこういうのもいいが、深雪を待つのはなかなか難しいな。すぐに迎えに行ってしまいそうになる」

「まあ。お兄様ったら」

 

冗談と受け取ったのか深雪は笑っているが、半ば本気で迎えに行きたかった。

深雪が人とすれ違うたびに、その人間が立ち止まるたびに動きそうになる体を留めるのが大変だった。

ハグが終わり、するりと離れていった深雪が寝る支度を整え、戻ってきたときには手にタオルにくるまれた大きめのドリンクボトルがあった。

 

「こちらにお湯を入れてきました。これをタオルで巻いてベッドに入れれば朝まで行火の代わりになるかと思いまして」

 

いい笑顔で言う深雪は、雫たちと睡眠対策を講じてきたらしい。

つまり、

 

「これでもうお兄様を悩ませることなどございません!」

 

もうベッドにもぐりこんではくれないらしい。

いや、まだその実証ができたわけではないが、深雪なりにいろいろ考えてきたようだ。

 

「俺としては構わないのだが」

「ダメですよ。しっかり眠ってくださいませんと、支障が出てしまいますでしょう?」

 

確かに、今日は思考が上手くまとまらないと疲労を実感したところではあるが、それとこの度の睡眠が関係しているとは思えないのだが。

深雪が俺を心配しているのだということは間違えようもないことで。

 

「ありがとう」

 

かろうじて兄として礼を言うことができたが、なんとも複雑だ。

いつまでもこのままではよくないとも思っていたが、こんなあっさりと終わってしまうとは。

恐らくこのような機会は二度と巡ってこないだろう。

 

「お兄様の為ですもの!」

 

輝かんばかりの笑みに偽りは一切見えない。

けれど、本当にそれが俺のためになるのだろうか。深雪の気持ちを疑っているのではない。ただ、自分の胸に問い掛ける。その答えは――見出す前に深雪が動く。

 

「さて、寝る準備も整いました。お兄様は明日もお忙しいのですからしっかり寝て下さいませね」

「ああ、そうだな。――でもその前に」

 

ベッドに乗り上げる深雪に待ったをかけて横から深雪を抱きしめる。

 

「お、お兄様!」

「明日は忙しいからね。今のうちに俺も英気を養おうと」

「…そういうことでしたら、妹として協力せざるを得ませんね」

 

腕を叩かれ少し離すと身をひるがえして正面から抱き合った。

 

「きっと朝から大忙しでこのように触れ合う時間もほとんど無いでしょうから」

「深雪に触れられないのは辛いな」

「明後日までの辛抱です」

「耐えられる気がしない」

「あら、まあ」

 

ふふふ、と笑う深雪に項垂れるように首に凭れると頭を撫でられる。心地よい。

深雪の心音はいつもこの姿勢になると早くなる。撫でる手はゆっくりなのに、この対照的なリズムが癖になっていた。

 

「なら今のうちにたっぷり充電しておきませんと」

「このまま一緒に寝てしまおうか」

「それでは何も変わりませんでしょう」

 

どさくさに紛れてリクエストするが、これは却下される。わかっていたことだが、残念だ。

それからしばらく抱き合ってから眠りについた。

 

 

行火のお陰か、深雪が俺のベッドに入り込むことは無かった。

 

 

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