妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編㉓

達也視点

 

 

目が覚めて一番に隣の温もりを探すが、予期していた通り深雪は隣のベッドですやすやと眠っていた。

そのことを寂しく思いつつ起き上がる。

体に不調はない。すぐに着替えて深雪のベッドに近寄りよく眠っている顔を眺めてから部屋を後にした。

師匠は今朝も組み手に付き合ってくれたが、今日はなぜか早く切り上げた。

 

「だって君、今日は忙しいんでしょう」

 

気を使ってもらったらしい。珍しい。師匠がこんなことで?と思わなくもないけれどせっかくの気遣いだ、ありがたく受けておく。

それから慣れたランニングコースを回って部屋に戻ると笑顔の深雪に出迎えられる。

 

「おはようございますお兄様。おかえりなさいませ」

「おはよう。そしてただいま深雪」

 

軽く抱きしめてからすぐにシャワーを浴びて朝食を食べに食堂へ。

 

「…深雪の味噌汁が飲みたい」

「まあ。なら帰ったら水波ちゃんと一緒にキッチンに立とうかしら。久しぶりだから腕によりをかけて作るわ」

「それは楽しみだ」

 

うっかり零れた言葉を拾う深雪からの提案に、すかさず便乗すると深雪が嬉しそうに顔をほころばせた。

手にお盆を持っていなければ撫でていただろう。

先に食べていた先輩たちと挨拶を交わし、情報を交わし、今後の予定を確認して深雪と別れた。

次に会うとしたらお昼だろうか。そんなことを考えながら会場に向かう。

作業をしていると時間はあっという間だ。

試合運びもそう危ないこともなく順調で、桐原・十三束ペアは三高と第一ラウンドで当たった。

激しい試合の展開に隣の平河千秋も手に汗を握って応援していた。…随分な熱の入れように、昨年のような暗さは見えない。

時折睨みつけられることもあるが、恨むような色も無い。

ただ気にくわない相手と思われているようだったが、それはこちらも似たようなものだ。

いつの間にか深雪と友人になって可愛がられている存在が面白いわけがなかった。

深雪が絡まなければ気にすることもないが。ただ一応深雪の友人なので深雪のために情報を集めている程度。

このネタも、彼女は喜ぶのだろうな。心底どうでもいいが。

試合は予想通り一高が勝った。これにより勝ち点トップで第二ラウンドを見るまでもなく優勝が決定した。

アイスピラーズブレイクペアの方も担当した雫・千代田ペアが優勝。男子の方は3位入賞。

シールド・ダウンペアは十三束・桐原ペアが優勝、女子がギリギリ3位に引っかかった。

三高が二位以上をキープしているが点差はほとんど変わらず一高が一位のまま。このまま予定通り進めば一位を譲ることはなさそうだ。

 

「司波さんとの特訓思い出してよかったー」

「ああ!最後のアレね。盾にばかり注目してたら足元掬われるって。危なかったわね」

 

どうやらここでも深雪のアドバイスが生かされていたらしかった。今年の深雪はどこでも大活躍のようだ。

 

(――そんなに働いて、深雪の方こそ大丈夫なんだろうか)

 

彼女の武勇伝ばかりが耳に入り、深雪こそ働き過ぎなのではないかと心配になる。

元々深雪はほとんど弱音を吐かない。冗談交じりに言うことはあるけれど、本心からの弱音というのはごく稀だ。

我慢強いと言えば聞こえがいいが、無理をしやすいのだ。その上隠すのも上手いからなかなか気づくことができない。

これが終わったら確認しよう。

この後は参謀としての作戦会議と、エンジニアとしての調整と点検。

その後お茶会に参加しつつパラサイドールの動向をチェックし、襲撃できるようなら向かう予定だ。

早く余計なことを終わらせたい。ただその一心だった。

 

 

 

 

だからまさか、あんなことになるなんて予想もしていなかった。

 

 

――

 

 

お茶会に参加すると、今日はここの噂を聞き付けたのかエイミィ達も参加してきた。

椅子も机も余りがあったから余裕だったが、女子が増えるだけで賑やかさがかなり違う。話題はいくらでも湧いてくるようだった。

雫の優勝を祝ったり、明日試合の深雪が応援とフライングを心配されたりと和気藹々としていたが、エイミィ達が参加してきた理由は別に存在したことが発覚する。

何でも十三束と平河千秋との関係に複雑な心境を抱いたエイミィの落ち込みぶりを心配したスバルが彼女を持て余して、どうにかしてもらえるかも、と連れてきたんだそうだ。

十三束の周りも賑やかだな。

深雪も興味を示して話に交ざっていたが、彼女にとってその鞘当て(この場合女一人に、ではなく男一人に女が二人なのだが)相手が共に友人とあって少し気まずい話題なのかもしれない。

エリカもわかっているのかそこまで茶々を入れない。

 

「あー、深雪って彼女と親しかったんだっけ」

 

エイミィが少し気まずそうに問えば、深雪はクスッと笑って答える。

 

「私、友人の恋に関しては特に応援しないようにしているの」

 

相談には乗るかもしれないけど公平でありたい、と。

それは平河千秋のことだけでなく、ほのかの事も指しているのだと、この場に居る全員が気付いた。

 

「深雪、そう言えばピクシーの着せ替えをするんじゃなかったのか」

 

かなり強引な話題変換だったことは否めないが、それでも深雪をこの話題から離せると思い問い掛ければ、深雪は少し目を見開いてからはにかむように笑った。

純粋に嬉しいと表現する笑みに、皆直前まで流れていた気まずさなど忘れたようにその笑みに釘付けとなる。

それは先ほど話をしていた彼女たちも例外ではない。口を閉じる者、そうでない者と様々だが、皆深雪から眼が離れない。

可憐で、見る者を引き寄せる笑みに誰もが目を奪われる。

この場は一高のみの場所ではない。当然通行人もいて、彼らもこの深雪の笑みが目に入ったのか足を止めて惚けていた。

 

「そうだった。ありがとう兄さん。皆、ちょっとごめんなさいね」

「ついていこうか?」

「じゃあ少ししてからお願いしていい?着せ替えるから兄さんはしばらく来てはダメよ」

「塩梅が難しそうだな。分かったから、早くお行き」

 

深雪が動き出したことで、全員目を覚ましたように目を開閉させて深雪を見送った。

あの笑みの威力は相変わらず半端ない。

多少見慣れた雫たちでさえ、ため息を避けられなかった。

 

「なんというか、深雪さんの美しさって日々増していきますよね」

「本当。結構見慣れてきたと思っても、これだもんね」

「深雪は自分の容姿に無頓着すぎる。達也さん、もっと注意して」

 

雫から注意を受けるが俺だってこんなところで見せるとは計算外だった。

 

「俺もあそこまで着せ替えごっこを楽しみにしていたとは思わなかったんだ」

「達也さん!その着せ替えって、ピクシーの服を用意したんですか?」

「え、何?3Hのために服を買ってきたの?わざわざ⁇」

「それはまさしく、富裕層の遊びじゃないか」

 

ほのかが言うのは前に青山霊園に向かう時に用意したあれを思い出してのことだろうが、続くエイミィやスバルの言葉には訂正を入れておく。

 

「いいや、自作だ」

「え?」

「深雪は趣味で裁縫を嗜んでいてな。ピクシーの服も自分で布を買って作っていた」

「「「「ええーーー!?」」」」

 

まあ、服を作るなんて発想、普通は考えられないだろう。

俺も初めは買った方が早いし効率的では、と思ったのだが深雪としては、メイド服を買うのには抵抗が…ということらしい。

だからといって作るのはどうかと思うが、それができてしまうのが深雪だ。

 

「…流石深雪」

「そこまでできるの!?」

「つーか、今時裁縫って。スゲーなお前の妹」

「ああ、自慢の妹だ」

 

何でもはできないという割に大抵のことはできてしまう、頑張り屋の自慢の妹だ。

自然と緩む口元を自覚しながらそう言うと、

 

「司波君って深雪のことになるとそんな笑うんだ」

「なんだ?」

 

エイミィが意外、という顔で見つめてきた。いや、エイミィだけではないな。スバルも同様だった。

ほのかやエリカはうなずいているし、レオ達は苦笑を浮かべていた。

 

「いやぁ。何と言うか、幸せそうというのか」

「だよねー。甘々っていうか」

 

俺の顔がなんだというのか。困惑していると幹比古から提案をされる。

 

「一度深雪さんのことを考えてから鏡を見てみるといいよ。きっと答えがわかるから」

 

そんなにおかしな顔をしている自覚は無かったので後で確認してみるか、と優先度の低い下層の方に放り込んで立ち上がる。

ピクシーからくるようにとの連絡だ。

 

「そろそろ頃合いだろう」

「いってらっしゃーい」

「ごゆっくり~」

「ちょ、ちょっとエイミィ!」

「なんなら昨日みたいに先に帰ってもいいから」

 

私たちはこっちで適当にやるわ、とエリカに追い払われるように手を振られた。

水波は、付いてきたそうに見つめている。頷くと彼女は静かに後ろをついてきた。

 

 

――

 

 

「あの、達也兄様。このところ深雪姉様は大分お疲れの様子でしたけれど」

「水波にもわかったか。どうやらかなり無理をしているみたいだな」

 

水波も気づいたのは着替えを手伝っていた時らしい。身体が少し張っているようだったと言っていた。

毎日マッサージをしていたから気付けたことのようだった。

作業車の中に入って見ると深雪がニコニコとピクシーと会話していた。

 

「兄さん、水波ちゃんも。どう?可愛いでしょう」

 

元々着ていたメイド服とは違い、オールドタイプというのか、足首まで覆うドレスに白いフリルのエプロンは中世の絵画によく描かれているタイプのものに似ていた。

ヘッドドレスは外され、代わりに彼女の髪をどうまとめたのか、まとめられてお団子一つに収まっている。

そのお団子には白に黒の縁取りのリボンが括られていてそれが彼女が頭を動かすとひらりと動く。

可愛いか、と問われれば、恐らくできはいいのだろう。エプロンには黄色いバラがあしらわれていた。あの短時間でこれを完成させていたのか。

 

「そうだね。だいぶ雰囲気が変わったようだ。深雪は気に入ったかい?」

「ええ。このクラシックタイプもよく似合ってて素敵」

 

そろそろいいか、とタイミングを見計らって水波に合図を送ると水波は心得た、とばかりに遮音と電波遮断の魔法を展開。これで音が外に漏れることはない。

 

「それで深雪、ここに呼んだ理由は何だい」

 

昼間、深雪から四葉式の暗号メールが送られてきたのには驚いたが、お茶会を抜け出して話したいことがあるということで俺と水波はここに集まった。

理由を問えば、深雪は穏やかに微笑んだまま俺に向けて頭を下げた。

 

「お呼び立てしたのは他でもありません。お兄様、パラサイドールの探索及び工作を一時中断していただきたいのです」

 

予想外の言葉に呆気に取られた。

今夜動くことを深雪に伝えてはいなかった。それなのにどういうわけか深雪にはわかっていたらしい。

上げられた面に浮かんでいる笑みは四葉でよく見る淑女の笑みに変わっている。

朗らかに見えるようでいて、冷えた視線。一分の隙も無い完璧な笑み。

そして続く言葉はほぼ命令に近かった。

 

「今すぐピクシーをサスペンドモードに。外界と遮断させてください」

「深雪、それは」

「お兄様はこれから本拠地に向かわれる予定だったのでしょうが、それもお止めください」

 

深雪らしからぬ口調に動揺しそうになるが、ここは俺にも引けない理由がある。

こちらのことを気取られていない今が最も奇襲を掛けられる絶好のタイミングだ。

もしくは奇襲とはいかなくとも偵察だけでも意味はある。

 

「深雪、悪いがあまり時間も無い。早く片をつけたい。そこを」

 

退くように、と伝えるより早く、深雪は張り付けていた笑みが剥がれ落ち――次第に目にいっぱいの涙を浮かべてボロボロと大粒の涙を流し始めた。

 

そして――

 

 

 

「やっぱり、私じゃ…止められない…?おに、お兄様に、行ってほしく、ないの」

 

 

 

徐々に涙の量は増え、呼吸も怪しくなりしまいにはひっく、ひっくと泣きじゃくり始めた深雪に、身動きどころか呼吸さえ止まった。

頭の中が真っ白に漂白されて暫し何も考えることができなくなった。

数秒間、完全にすべての機能がフリーズした。

一瞬でも、数瞬でもない、何秒もの間、思考も何もかも停止したことを再起動した脳が分析し始めた。何が起きたか情報処理を同時展開する。

 

(――深雪の、こんな辛そうな泣き方は初めて見た)

 

深雪はいつだって静かに涙を流す。表情をゆがめることなくしっとりと泣くのだ。

しかし、今のそれは激しく、溢れる感情を止められないと言うように体を震わせ、声を震わせ泣いている。

まるで幼子のような泣き方に酷く衝撃を受けた。

固まって動けないでいる俺をよそに、深雪はままならない呼吸の中、言葉を紡ぐ。

 

「お、にいさまが、行って、どうなるというのです?おに、さまが行く必要なんて、ないっ、のに」

 

握った拳で涙を拭っても追いつかないほど泣きじゃくる深雪に、ようやく金縛りが解けたように駆け寄ろうとするが、

 

「こないでっ!」

 

悲鳴のように絞り出された言葉に足を縫い留められるように動けなくなった。

ひっくひっくと肩が大きく動いて肩を丸めて泣く姿を、今すぐ抱きしめて慰めてやりたいのに、それが許されない。

見ているだけで胸が軋むほど痛い。呼吸がし辛い。

瞳を逸らすことも閉じることもできずに深雪を食い入るように見つめるだけしかできなかった。

 

「ど、してお兄様が、九島、家の実験を、事前に阻止すべく、動かなければ、ならない、の?!」

「!!」

 

それは、と答えようとしたが言葉が見つからない。

初めは差出人不明のメールを受け取った時から、そう動くことが当然だと思っていた。

だが、問われて初めて気づく。それは本当に俺がしなければならないことだったのだろうか。

 

「おに、さまはお優しい、から、皆を救おうと、なさる。でも、でもっ!」

 

そんなつもりは一切なかった。結果としてそういうことになるのかもしれないが、俺の一番は深雪で――

ここにきてようやく気付く。

 

(なぜ、一番守るべき深雪が泣いている?)

 

「パラサイ、ドールが最終、日に投入される、なら、その際に破壊、すればいい。その前に、お兄、様がいくら頑張っても、逃げられたり、追加される、だけ。そんなの、おに、さまが、先に参ってしまいますっ!」

 

深雪の興奮は最高潮に達したらしく、サイオンが不安定に揺らめいてエイドスに影響を与え、事象を改変し始めている。

叫び声に呼応するように車内が冷え始めたが、深雪はそれをすぐに抑え込むように胸の前で拳を握って魔法の暴走を食い止めてから、顔を上げた。

その拍子に大粒の涙が零れ落ちていく。

――こんな時だというのに、なんと美しいのだろうと見惚れてしまう。

 

「いか、ないで。そばにいて。いっては、いっちゃだめ、です。おにいさまが、こわれちゃうっ!」

 

(ああ、だめだ)

 

引き寄せられるようにさく、さく、とわずかに残った霜を踏みながら前に進む。

 

「こな、いでっ」

「無理だ」

 

初めからこうすればよかった。

深雪は行かないで、と。傍に居て、と言いながら来ないで、と言う。

この矛盾、どちらが間違っているかなど簡単な問題だったのに。

深雪はずっと俺のことを心配していた。不思議に思うほど何度も言葉を重ねて休むように伝えていた。

けれどそれでも俺が止まらなかったから、ついにはこうして想いが爆発した。ため込んでいた疲労も彼女を追い詰めていたのだろう。

深雪の働き過ぎにも気づかなかったなんて、自分の疲労など言い訳にもならない。これではガーディアン失格と言われても仕方が無い。

守るものを見失うだなんて、ありえない失態だった。

 

俺が守るべき唯一のモノより優先するものなどありはしないというのに。

 

 

「深雪、悪かった。お前はずっと俺に教えてくれていたのにな」

 

謝罪の言葉などいくら言っても足らないくらいだ。

深雪はずっと苦しんでいたのに、俺はその気持ちをずっと蔑ろにしていた。

そのことは余計に彼女を追い詰めたはずだ。

自分の声は届かない、と。そう思わせてしまっていてもおかしくない。

 

(だから、『やっぱり私の声じゃ』と言ったのか)

 

思い出しただけで胸が痛む。

そんなことは無い、と言いたいが己のしたことを振り返るとその言葉を否定するための説得力が無い。

 

「行かないよ。どこにもいかない。お前の傍に居させてくれ」

 

深雪が首を横に振る。嘘だ、ありえない、とでも言うように。

常に俺の言葉を信じてくれる深雪に、すでにそう思わせてしまっている事実に己の不甲斐なさを実感させられた。

 

「もう目が覚めた。もう、間違えない。俺にはお前だけだ。お前がいればそれで――」

「ちが、うのっ。おにいさ、まには、わたしだけ、じゃなくて、いいの。ただ、むりはしな、いで、ほしいっ。わたし、はおにい、さまもだいじに、してって」

「――ああ、そうだな」

 

この前もご自愛くださいと言われたばかりだった。無理はしてほしくないと。そう言ってくれていたのに。

俺は自分が無理をしていることにも気づいていなかった。

深雪の言葉は疲労していようが一言一句覚えている。全て思い出せる。

 

「お前は俺のためにこんなになるまで頑張ってくれていたのに、気づいてあげられないダメ兄貴ですまなかった。これから挽回させてくれ」

 

そう言うとまた深雪は首を振る。

 

「お兄様は、ダメ兄貴、なんかじゃありま、せん」

「ダメ兄貴だよ。こんなに大事な妹を泣かせているんだから」

 

ひっく、ひっくと呼吸を落ち着かせようと深呼吸したいのだろうけれど上手く呼吸ができず、吸えば吸うほど逆効果のようで、まだ泣き止みそうも無かった。

潤んだ瞳は可哀想なくらい充血し、鼻をすすっているせいか鼻の頭が赤くなってしまっていた。

酸欠もあるのだろう、顔全体が赤らんでいた。

いつもの完成された美が歪んでいるのに、いつもより生命を感じさせる。どちらも堪らないほど愛おしい。

 

「ゴメンな。何度謝ったって許されることじゃない。俺はそれだけのことをした。深雪は俺を許さなくていい」

 

頬に触れると涙で濡れているのに熱を持っていた。泣き過ぎて熱が上がっているのだ。

 

「部屋に戻ってゆっくり二人で休もう。俺たちは疲れているんだ」

「おに、さまも、いっしょ?」

「ああ、一緒だ」

 

またポロリ、と涙を流す。

それを指で拭ってやってからすぐにこぼれそうな雫をため込んでいる目尻に口づけた。しょっぱいけれど、ひどく甘い。

ぱちぱち、と瞬きする深雪が可愛らしすぎて、今度は額にキスをする。

涙はぴたりと止まったが、深雪自身もぴたりと動かなくなった。

俺はこれ幸いにと、ピクシーと水波に指示を出す。

 

「ピクシー、すぐにサスペンドモードに。水波はこの後彼らの元に戻ってもらっていいか」

「了解・しました」

「深雪様たちが戻られないことをお伝えすればよろしいのですね」

「ああ」

 

水波は深く頭を下げてから、魔法を解除した。

深雪を抱きかかえて、以前プレゼントでもらったハンカチで目元を隠してやってから作業車から降りた。

そしてホテル入り口とは違う方向へ歩き出す。

正面から戻るつもりなどなかった。人目に付くところを通ってこの深雪を他人に見せたくなかった。

バレないように魔法も駆使して非常階段から入る。

人目に付かない侵入経路はすべて頭の中に入っていた。

 

 

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