妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
着替えを手伝ってくれる水波ちゃんに昨日のことを謝罪したら、水波ちゃんからも謝罪されてしまった。
私の体調に気づけなかったことでガーディアンとして情けない、と自分を責めるけど、ごめんね!深雪ちゃんとなってからあんなに働いたの初めてだと気付いたのは今朝でした。
うっかりだよねー。配分明らかに間違えました。
「水波ちゃん、あなたが気付かなかったのも無理は無いわ。あのお兄様だって気付かなかったんだから。それに私もまだ自分の限界を知らなかったの。迷惑かけちゃってごめんなさいね」
カーテンの内側だから普段の言葉で伝える。
落ち込んでいた水波ちゃんだけど、気にしないでほしい。
「もし次があったら水波ちゃん、よろしくね」
このまま謝罪対決パート2をするのも良くないのでね。
次を頼めばパッと顔を上げてこぶしを握り締めてキリっとしたお顔に。うんうん。その時はよろしくお願いします。
三つ編みが完成してぐるん、とひとまとめにしてもらうのだけど。
「あ、そうだわ。あのね、今日の決勝戦で――」
水波ちゃんに今日の演出上のリクエストを少々。
「…わかりました。そのように」
髪を結ってもらって、最終確認をして。
「お待たせ、兄さん」
水波ちゃんが開けたカーテンから出てお兄様に一礼してから、表情を氷の女王へと変える。
背筋をいつもより直線を意識して真直ぐに。顎も引き、薄目を心がけて。
「女王陛下に於かれましては本日も麗しく、拝謁できましたことを喜ばしく思います」
…お兄様の想像する騎士像ってちょっと変わってるよね。
私としては無口で影のように控える騎士様も好きですよ。
すっと膝をつき手を取って触れないキスをするお兄様。これに一体何を返せというのか。
お兄様、平常に戻ったんですよね?
何とか元に戻ってもらわないとと口を開いたのだけど、
「――余計な口はお閉じ」
――浮かんだのは高圧的な女王様でした。
(なんで、それを、チョイスした私!?)
冷ややかな声に凍てつくような視線――を受けたお兄様はなぜ口角が上がっているのでしょうね?面白かった⁇
それとも私が内心パニックになっていることを気づかれました?
そして無言で首を垂れるお兄様に、一体どうすればいいの?と背後に控える水波ちゃんを見るも、彼女も立ったままだけれど首を垂れていて表情は窺えない。
…今日はこのノリで乗り切るしかないようだ。一昨日描いた女王像と違うんだけどー。
私が浮かべていたのは孤高の女王陛下で――…、まあ、コンセプトはそんなに離れては、無いのか。
「時間ですね。出陣します」
「「はっ」」
…二人とも息ぴったりね。
――
準決勝も順当に勝ち進み、決勝戦。
櫓を登り切って、まだ合図が出る前に私は綺麗にまとめ上げられていた髪をくしゃりと崩して一本の三つ編みに戻した。
氷の城は造り出せないけれどね。あのシーン、憧れだったのですよ。自己の解放シーン。
素敵よね。女王まじリスペクト。綺麗可愛い。
なんかどよめきと歓声が上がったけれど、ここは私の戦場。もう余計な音など聞こえない。
私は氷を操る女王。全てを凍てつかせ、君臨する。
流石決勝戦、シグナルが点灯すると同時に向かいの選手が先手必勝とばかりに私の陣地に魔法を放つけれど、ブリザードの壁が魔法の侵入自体を阻む。
演出的に氷の縛りプレイを己に課しているけれど、別にこれは減速魔法が引き起こす特有の現象ではなく、自陣の柱をちょこっと削って氷の礫を作って宙に浮かせ加速魔法の多重展開でそれっぽく見せかけているだけである。
…まあ未知の魔法に見せかけたこけおどしというヤツだ。
壁に感じるのは純粋に私の魔法力が高くて干渉できなくさせただけ。
モニターにはきっとどんな魔法が使われているか表示されているだろうけど、対戦相手にはわからないだろうからね。
対抗魔法も何を使ったらいいか混乱していることだろう。
一応ね、ルールは確認したのだけど、自陣の氷柱を全て破壊されなければ何してもOKみたいだったから自分の氷柱を削って利用してみた。
誰も自陣の氷柱を傷つけてまで利用しようなんてそうそう考えないだろうからね。
あ、エイミィちゃんがいたか。アレが有効ならこういう使い方もありでしょう。
さて、こちらからも攻撃を開始しますか。
猛吹雪から大きめの氷の粒をチョイスして散弾銃のように加速を掛けて――ショット!
更に着弾直前には切り替えてもう一つのCADを操作し加重と強化を掛ければあら不思議。ただの氷の礫に頑丈さと重さがプラス。バフ盛り盛りだ。
握力×速度×重さ=破壊力。
この公式はでたらめだけど、彼の美学好きだったんですよ。バトル漫画にヤクザって結構異色だよね。
握力は氷の強度でカバーしたつもり。
うん、本当にでたらめ的な強さだこと。あの分厚い氷柱があんな小さな氷の礫に倒されましたよ。どうなってるの?やっといてなんだけどとんでもない威力ですね。
そこに追撃とばかりに残りの突き刺さっただけで倒せなかった氷柱の礫に振動を与えれば、そこから亀裂が走ってぽっきり真っ二つに。
それを見てすぐさま次の列の氷柱を情報強化したのはいい反応だ。氷の礫が突き刺さらなければ先ほどのようなことにはならないからね。
でもね、さっき砕けた氷柱のお陰で弾数が増えたのですよ。
それも、真っ二つという大きめの弾が。…もうこれこのまま使ったらハンマーだね。
それだと氷の女王として相応しい武器ではないので更に加重と振動を与えて砕いて砕いて加工して――うん。いい感じの鋭利な槍先がいくつもできた。
これに回転、加速、そして加重と強化で刺し穿つ!!
小さな棘でも刺さっただけで死に至らしめる毒花のように――その棘を減速魔法で冷却させればあら不思議。
温度差が生じたことで内部からひび割れが。
氷が温度に弱いのは何も熱だけではない。低い温度にも弱いのだ。
私の氷はちょっぴりコールド、あなたの心を完全ホールド!ってね。…ちょっと違う?良いじゃない。彼女だって氷の異能者だもの。
今日はオタクによる漫画とアニメの再現祭りだ!
最後の一本も砕け散り、銃の代わりにCADの角を銃口の煙を吹き消すようにふっと息を掛ける動作を。
こっそり人差し指を立てるのも忘れない。オタクとは伝わらなくても細部までこだわるものです。
終了のブザーと共に大歓声が沸き起こる。
最後はちょっと女王らしくなかったかな、と思うけれど十分楽しんだのでね。いいでしょう。
櫓から降りるとお兄様が出迎えて下さった。
「見事な勝利でした、女王陛下」
「当然です、この私が
「おかえり。優勝おめでとう」
お兄様ノリノリのお出迎えだね。私もニコニコです。
皆も拍手でお出迎えしてくれてありがとうございます。というか、女王陛下万歳は違うと思うな。
一高大丈夫?他校の方々びっくりして――ないね。何?このノリって当たり前なの?あっさり受け入れられている感じ?
とりあえず女王はもう終わりましたよ、と笑みを浮かべておく。
途端皆静まり返りましたね。ここで皆の声を奪うつもりなんてなかったのだけど、怪盗にシフトチェンジしちゃったかしら。
お兄様に連れられてそそくさと退場した。
「お兄様も午後はシールド・ダウンですね。頑張ってくださいませ」
「頑張るのは選手だがな」
「その舞台を整えるのがお兄様のお仕事でしょう。ですから頑張って、で良いのです」
もちろん選手も応援しますけれどね。私にとってはお兄様がすべての主役ですから。
「俺は俺の仕事を全うするとしよう」
微笑まれるお兄様に少しだけ寄り添って控室まで歩くと、途中遠目に一条君と吉祥寺君が。
一条君目が合うと固まっちゃうのはなんでだろうね。ととぼけるには真っ赤な顔をしてこちらを見る視線でわかっちゃうのだけれど、一目惚れって大変だ。
中身関係なく見惚れるんだから。
お兄様が一瞥だけしてそのまま控室を開けてくれたので促されるまま中に入った。
水波ちゃんはすでに待機していたのですぐに着替えてお昼へ。
優勝おめでとう、と賛辞を受けて、雫ちゃんにもなでなで付きで褒められて大満足です。
去年のように一緒に戦えなかったのは残念だけど、と思ったのは私だけじゃなかったみたい。
雫ちゃんの口からも言われた。以心伝心!
「今年の深雪の技は凄かった。どれも特別な魔法式じゃないのにあの威力」
「地味に見えるけど氷柱がはじけ飛んだり砕け散ったりすごかったー」
「何より女王陛下の髪解くシーン素敵だった!なんか、本気でいくわ!みたいな」
おお。あの演出をわかってくれるのね、嬉しい。
「でもお兄ちゃんとしては複雑なんじゃないの~?あの時の深雪ってかなり挑発的な笑みを浮かべてたから」
「女性でも思わず見惚れるくらいその、大人の雰囲気と言いますか、色気がありましたよね」
美月ちゃん、そんなに顔を赤らめて乙女のように頬を挟んでチラチラ見られちゃうと周囲に勘違いされちゃいますよ。
しかし、色気があった、とは。
やってやるぜ!って気合を入れたつもりだったけどそんな風に映ってたの?
「確かにな。あの時の深雪は会場中が深雪に注目せざるを得ないほどすさまじい魅力を放っていたから、心配にはなった。
…俺は午後シールド・ダウンの会場に行かなければならないし――深雪、やはり一緒に行かないか?」
「残念だけど、アイスピラーズブレイク男子ソロの応援を会長から頼まれているの」
さっきも控室で誘われた時に同じ言葉を言ったはずなんだけどね。その時は理由を言われては無かったけど、こういう理由だったの?
過保護が加速している気がします。
「まあまだ大会も半ばだから囲まれるようなことはないんじゃない?」
「遠巻きに視線を独り占め、って元々そうだからあんま変わんないか」
エイミィちゃんとエリカちゃんの言葉に一同納得だけどお兄様と水波ちゃんはだんまりで思案顔。
水波ちゃんはシールド・ダウン新人戦に出場予定だからペアの試合を見学することになっている。
「一人で移動しないから大丈夫よ。ね、雫」
「うん。深雪は私が守る」
「私も雫を守るわ」
一方的に守る宣言されるけど、雫ちゃんだって可愛いし、ぽやぽやして隙がありそうに見えるから狙われちゃうよ。ピラーズペア優勝者だし注目浴びてるもの。
それに知る人が見れば御令嬢だって気づくだろうからね。
「…安心要素がまるでないんだが」
「でも、二人がお花を飛ばして会話しているのを邪魔する輩は馬に蹴られるんでしょうよ」
あれ、馬に蹴られるのって恋路を邪魔する奴じゃなかった?エリカちゃん。
でも言いたいことはわかる。美少女の会話って邪魔したらギルティだもんね。
お兄様は不服そうだけどもうお時間です。行ってらっしゃいませ。
――
それから誰かに声を掛けられることもなく雫ちゃんと関係者席から応援だったりアドバイスだったり。
ただ移動をするたびに女王様、とか陛下、とか言われるのはなんだかなぁ。あなた達ウチの生徒じゃないでしょう。
オタクもよくあるけどね。階級で呼んじゃうこととか、よくあることだ。兵長とか。もうその人しか浮かばないものね。
そうなると女王って結構いると思うから定着はしなさそうだ。…しないよね?他校の場合は一過性だと信じてる。
応援した結果は3位入賞。相性が悪い相手に対して善戦と言える試合運びだった。
お兄様の方は男子女子共に一位だった。おかげで一高独走状態。
でもまだ気は抜けない。最終日に大どんでん返しがあるかもしれないからね。油断はフラグ。前世からの教訓です。
「それにしても深雪さん、すごいですね」
「美月?」
夜のお茶会の席で美月ちゃんにじっと、というよりうっとり見つめられている。
なんだろう?優勝についてはもう褒めつくされましたよ。
「お昼には直後ということもあって三つ編みの跡が残っていたのに今ではいつものストレートに戻ってるんですよ」
ああ、髪か。確かに三つ編みした後ってしばらくウェーブかかるけど深雪ちゃんのパーフェクトボディは記憶形状合金のように元に戻る力が凄い。
「癖がつきにくいみたい」
ゆるふわ系にも憧れるのだけど、多分パーマ掛けても一日で取れそう。それくらいサラサラのストレート力が強い髪です。
その流れで髪を解いた時の会場の熱狂は凄かった、と話は会場の声援についてに変わった。
「今年は初めからファンが付いてたね」
「男子は当然のこととしてかなり女子人気も高かったよね」
「七草先輩と渡辺先輩が抜けたからその分が多少流れてきたところじゃないかしら」
「多少?」
「…控えめに言っても会場のほとんどが深雪目当てだった」
…うん、私も言ってから多少は違うな、と思いました。視線多かったもの。謙遜も過ぎれば嫌味になる。反省。
「でも、注目度で言ったら男子は断トツ一条君だよね」
「女子のファンがほとんどだけど、結構男子からも人気あったね」
「魔法師としての実力もあるからね。憧れるんじゃない」
確かにアイスピラーズブレイクの圧倒的な魔法力は凄かった。他を寄せ付けない一方的な試合運びだった。安定の実力。
そうだねー、と頷いていたらエリカちゃんが頬杖ついてため息交じりに言う。
「深雪は興味無さそうねぇ」
「興味がないわけではないけど、皆が期待することは無いわね」
興味がないわけじゃないと言った瞬間スバルくんとエイミィちゃんの目が輝いたけど、残念。
色恋ではなく単にキャラとしてだから。期待させてごめんね。
「なぁんだ、残念」
「一条君もかわいそうに」
まあ、私の傍で彼の態度を見れば一目瞭然だからね。あれはお兄様に対してのほのかちゃんみたいなものだから。
隣ではお兄様がエリカちゃんに突かれているけれど、お兄様は無表情で不動の構え。このネタで揶揄いに行けるエリカちゃん強い。
初めてお茶会に最後まで参加して、解散後、ピクシーと一緒に片づけを水波ちゃんと手伝う。三人ですればあっという間だ。
お兄様は傍で待機しながら端末を操作中。手が空くということが無い。
でもこれは忙しいのではなくこちらに気を使って、待機するのに暇をつぶしているというパフォーマンスでもあるので気にしないようにする。
「あの、一条家のご子息とは一定の距離を保った方がよろしいでしょうか」
コップを片付けていると、水波ちゃんから遠慮がちに声を掛けられたけど、一条君?
「え?ああ。気にもしていなかったわ。三高と特別に交流なんてないからこういった大会でしか関わることはないし、次に会うとしても論文コンペの時くらいじゃないかしら」
正確に言えば論文コンペの下調べの時にはなるのだけど。
「ですが、もし一条家から申し込みなどが来たら」
あらま、水波ちゃん真剣に悩んでました。その申し込みは決闘ではなく結婚ですね。
そこへお兄様が。
「交際の申し込みくらいはあるかもしれないが、結婚ともなれば家の関わりだ。流石に一条の一存では決められないだろう」
…いや、その前提はどうだろう。一条くんヘタレだから多分告白すらないんじゃないかな。…とは流石に失礼か。
でも今現在も目も合わせられない状態だから、同じ学校なら慣れる機会があったかもしれないけれど、他校だからまた距離感リセットが発動するだろうからね。初期化されちゃう。
その状態から告白までは道のりが遠すぎると思います。
「水波ちゃん。それは杞憂よ。もし仮にそのようなことがあっても司波に来たのなら家格が合わないし、四葉が出てきたのだとしたら、そこは叔母様の判断になるのだから」
そもそも今現在恋愛対象として告白されるのだとしたら、お断りする選択肢しか浮かばない。
お兄様を幸せにすることでいっぱいいっぱいの私に恋愛にかまける余裕など無いのだ。
そして御当主様の判断に関しては私たちではどうすることもできないので話しても無駄である、とばっさり。
この話はお終い、と切り上げて水波ちゃんを途中まで送って二人で部屋に戻った。当然周囲に人気がないことを確認して、だが。
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