妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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入学編⑭

『秘密のお仕事』

 

 

日々勉強に習い事に修行にと何かと忙しい私ですが、休みはあります。

休みってほどじゃないですね。自分の趣味の時間を取れるってこと。

ああ、料理とか家事とかは趣味と言えば趣味ですが今それは度外視して。

お兄様といる時間も実は結構少ない。アルバイトもありますし、そもそも自分の研究に時間を使っていますしね。

だから一人の時間というものは意外にあったりします。

そして今日はその中でも数少ない一日フリーという奴でして。

私はこの瞬間を待っていた!

いつもは部屋でコツコツとやるんだけど今日は誰もいないということで部屋を飛び出てリビングへ。

たまには開放的なところでやりたい。

取り出したのは布、布、綿、布、針、糸、糸。

そう――私はこれからぬいを作るのです。

前世は不器用すぎて、針は指を刺すものでしかなかったのだけど、深雪ちゃんは女子力がエベレストだった。

おかげで中学三年間お兄様ぬいと深雪ちゃんぬいとお母様ぬい三体が、季節ごとの洋服に衣替えできるくらいには作りました。

今は参考資料としてテーブルの上に鎮座してるけど、普段はお気に入りケースの中で眠ってもらっている。

いつお兄様が来るかわからない部屋に飾っておくのは危険だからね。しょうがない。

そう、これは誰も知らない、知られてはいけない私だけの秘密の趣味。

本当は着せ替えなどせず、いろんな衣装のぬいをたくさん作りたいんだけどそれだと、場所を取ってしまうので着せ替えタイプにした。こっちの方が難しいんだけどね。しょうがないね。

ではなぜここに綿があるか、それはこれから高校生バージョンを作るからである。

ボディを大きくするわけではないけれどお顔立ちがですね、変わってもいいと思うんですよね。

あと制服ね。体操着も作りたい!それから私服も高校生だから大人っぽいのがいいよね。

あ、プリンセスとナイトの話を聞いてからは、そっち系も作りたいのよね~。

夢は膨らむ一方だけど、流石に全部作るだけの余裕はない。

今日のところは本体と制服姿だ!と狙いを定めてさっそく作業に取り掛かった。

 

 

フェルトペンに沿って布カッターで切り出して、――結構な作業ですよこれは。

時間も忘れて作業に没頭していたらすでに日暮れ。

お昼?栄養面だけ考えたドリンクと一口サンドイッチで済ませましたとも。

このパーフェクトボディを保つのに食事は抜けません!深雪ちゃんの美は一日にしてならず!です。

 

(あ、この布よりあっちの布の方がいいかも)

 

唐突に閃いて部屋に仕舞ってある布を取りに行く。

こういう時部屋でやらないのは不便だけど気分だ気分、とテンションを保ちながら目当ての布を手に持って戻る。

すると突然鳴りだすコール音。

 

(…あ、これもしかしなくても)

 

私は手に持ったものをとりあえずおいて髪を手櫛で整えてから電話を起動させる。

すると部屋の一番大きなモニターに麗しい女性の姿が現れた。

まだ夕方だが夜の雰囲気漂う美女――叔母様だ。

 

「お久しぶりね深雪さん」

「ご無沙汰しております叔母様」

「ふふ、そんなにかしこまらないで頂戴。いつも通りにしていいの。達也さんはいないのでしょう?」

 

わかってて掛けてきてますものね。その通りです。お兄様はアルバイト先で研究を。私はお家で趣味に没頭を――あ。

 

「、真夜姉さまにお変わりはないですか?」

 

こちらの画角がどのように映っているのかはわからないが、布だけならまだしもぬいが映るのはいただけないっ!それとなく移動して背後のモノを隠そうとゆっくり移動する。

 

「ええ。私の方は何も変わりはなくてよ。けれどそちらは大変だったようね?」

 

当然一高で起きたことは報告している。

しかも背後に大亜連合が絡んでいる。知らせぬわけがない。

 

「はい。お兄様がいつものように助けに来てくださいました」

「貴女も、魔法を使われたのでしょう?」

「…関連が疑われる形跡はないとのことでした」

「まあ、そんなことを心配していたのではなくてよ。貴女の身を案じているの」

「ご心配いただきありがとうございます。私はこうして無事ですわ」

 

うふふ、あははと話をしてようやく視界から外れたんじゃないかなーというところまで移動してきた。

これで一安心だ…なんてフラグを立てるなんて、集中しすぎて疲労していたんだろうか。

 

「ところで深雪さん、その隠そうとしているものは何かしら?」

 

微笑まれる叔母様は女王オーラが半端ない。

いつもながらお美しく思いますが、同時に内心はガクブルです。

 

「少々裁縫をしておりまして」

「相変わらず貴女はどこまで目指しているのかしら。百年前の淑女だってなかなか嗜んでないと思うのだけど」

 

そうですね。おっしゃる通りだと思います。

 

「お料理もなさるのでしょう?それはもう淑女教育ではなく花嫁修業ではなくて?」

「どちらにしてもあって困らない技術でしょう」

 

まだまだ花嫁にはならないよ!お兄様の幸せを見守るまではね!でも怖くてそんなこと言えない小心者です。

 

「それで、何を作ってらしたの?」

 

…流れないですかそうですか。

なんとなく逃げ場は無いだろうなと思っていたけれど、…覚悟を決めましょう。

 

「この年になってお恥ずかしいのですが…ぬいぐるみです」

「ぬいぐるみ?」

 

小首を傾げる叔母様に、母の面影が重なる。

母もこうして首をよく傾げていた。そのたびに可愛いなと悶えたものだが、うん。叔母様も可愛いね。距離が離れているからか安心してそう思えます。

 

「そんな可愛らしい趣味をお持ちだなんて知らなかったわ。でもそれなら購入すればいいのではないの?」

 

わざわざ作るなんておかしいってことですね。

それはもちろんプロが作った方が素敵なものができるでしょうが、そこに私の欲しいものはないのだ。

商品にないのなら自分で作るしかない。

オタクはいつでも愛のために暴走するものなのです。

 

「お店では売られておりませんので」

 

まあ家族のぬいぐるみ作るなんて結構やばい趣味ですよね。私にとってはただのオタ活でキャラグッズだけど。

にこにこと笑い合う叔母と姪。

――でも公開処刑は決定事項だった。

 

「どんなものを作られているのか、見たいわ」

「………お恥ずかしい出来ですが」

 

拒否れば謀反を疑われるのでしょう?どっちにしろ死刑ですものね。潔く逝きましょう。

すっ、と手のひらに持ち上げるのは作りかけではない、中学生バージョンのお兄様私お母様ぬい。一体一体なんてしません。離したら可哀そうじゃない。

ところで…回線混雑でもしました?叔母様の画面がフリーズして動かず音も聞こえてこないですね。

だからといって私も動くことはできない。緊張で動けない。処刑するなら早くしてくれ。その心境だった。

 

「………それは達也さんと深雪さん、それに深夜ね?」

 

よくわかりましたね。かなりデフォルメされているのに。

再起動にかかった時間は三分。もしや地球を離れてましたか?

私は現在進行形で魂が離れかかってます。

 

「ずいぶん、その。思い切ったデザインね」

「…はあ。恐縮です」

「作っているのは別のモノなの?」

「これは中学生バージョンですので高校生バージョンを作ろうかと」

「ちゅうがくせいバージョン…」

 

おおっと叔母様のIQが下がった感じです⁇

理解が及ばなかったかな。無理もない。オタクの心理、一般人には理解しがたいのだ。

ここはこの隙に一気に畳みかけてみよう!死ぬときは潔く。オタクは腹をくくったら強い。

 

「中学生バージョンは子供のイメージが強いので目を大きくしましたが、高校生ならもう少し小さくした方が大人っぽくなるかと。それにこれは着せ替えを楽しむものですから普通のぬいぐるみより中身を補強しないとすぐにへたってしまうことも考慮した上で改良しなくてはなりません」

 

そうなんですよ。着せ替えタイプって持っていなかったから知らなかったけど着せ替え過ぎるとふにゃってなってしまうんですよ…え?ただのやりすぎ?キットチガウヨ。綿ノセイダヨ。

 

「素材も手触りをよくするために選びに選んだ生地ですし、着せ替えの服もちゃんと季節に合わせた生地にしています。綿も固すぎてはぬいぐるみの枠を外れてしまうので弾力も程よいものを選んでおります」

 

作っているのはあくまでも着せ替えぬいだ。人形じゃない。固くては意味がない。

持ち運びに便利なサイズで頬ずりしたくなる肌触り、そして抱きしめても崩れないフォルム。

追求したっていいじゃないオタクだもの!

目指すなら究極のぬいを!!そこに手抜かりはあってはいけない。

推しに捧げてこその愛!

そう熱い思いを語れば、叔母様はまたもフリーズ。あ。回線ですね。

 

「……深雪さんのお手製なのね」

 

再起動はさっきよりも早いけど…おや?叔母様の様子が…?

 

「どこにも売られてはおりませんので」

「そう…。作る期間はどれくらいなのかしら?」

「そうですね。ひと月もあれば三体は作れそうです」

 

嘘です。今日でお兄様一体終わります。でもなんかね、予感がね?!

 

「…わたくしも欲しいわ。あなたお手製のぬいぐるみ。同じものを持つのもいいわね。お揃いで作ってもらえるかしら?」

 

………要約すると、お兄様のぬい欲しいけど正直に言えないから全部まとめて頂戴でFA?

視線がずっとお兄様ぬいなんですよね。

 

「すこし、お時間がかかりますが」

「構わないわ」

 

少し食い気味できましたね。

もしや可愛いもの好きでしたか?そういえば母もそういったもの興味あるけどないふりとかしてたっけ。

ほんと双子そっくり。認めないだろうけど。

 

「わかりました。真夜姉さまに気に入ってもらえるかわかりませんが、精一杯作らせていただきます」

「貴女が作ったものだから欲しいのよ」

 

あ、これは勘違いしないでよね!私はそんなぬいが欲しいわけじゃないんだから!なツンデレ語の派生ですね。

オタクは都合のいい翻訳耳を持っています。

 

「おそろいのモノが持てるのは嬉しいです。なるべく早めに作りますね」

「いいのよ、無理はしないで。丁寧に作ってくれた方が嬉しいわ」

 

やっつけ仕事はするんじゃないってことですね。わかりました。

こうして仕事の受注を受けた私は自分のモノはさておいて依頼人のモノを先につくることにした。

そして一月後――…

 

 

「真夜姉さま!私の通帳にとんでもない額の金額が!」

「あら。いい仕事にはそれなりの報酬が払われて当然でしょう?」

 

叔母様の後ろに移るテーブルの上にはティータイムを楽しんでいるように卓を囲んでいるお兄様ぬいと深雪ぬい、お母様ぬいと叔母様ぬい、その横で控える葉山さんぬいがあった。

そのミニチュアいつ用意されたんです?そのティーセット中身が本物にしか見えないけどちゃんとぬいぐるみサイズになってる!細かい!!

こうして私は内職が決まりました。

しかしぬいの服一着に10万円は破格過ぎだと思います!!

流石ブルジョアお金の使い方がおかしい…って思ったけど違う。これはオタクのお布施だ。振り込ませろオタクの現象だと思い至った。

…私は叔母をオタクの道へと突き落としてしまったらしい。

とりあえず、天国のお母様になんて報告しよう?

 

 

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おまけ


この頃はまだ番外編を書こうとも思っていなかったのでエピローグ集として纏めて本編として挙げていましたが、今思えば分けても良かったですね。今さらですが。
妹による学校生活のプランをどうすべきか悩んでいるところですね。
あと妹が兄の恋を推奨しているってことを印象付けようとしたのですが…まだ入学して一月なのにすでに認識が『あのシスコンに恋愛なんて無理だろ』に。皆、慧眼。…というより一目瞭然ですよね、知ってた。
お兄様モテモテで浮かれているようですが、誰も恋心を向けてないことに疑問符を浮かべている辺り現実が見えているのに見ていないというか。
だからちょっと血迷った考えに行きました――ら、お兄様がそれだけは無い、と否定されてましたね。
お兄様的にその誤解だけは解かなければ、と思ったのでしょう。
妹にはそういう邪心()を抱いて欲しくなかったのかもしれません…お兄様、妹に綺麗なモノ以外見せたくないって習性ありますよね。この時代にジェンダーフリーなんて思想ないので。
妹はもっと心から謝罪すべきだと思います。

お粗末様でした。


――


『本日はスペシャルゲストをご紹介――はしません。深雪ちゃんおひとりです』
「…違うとわかっていても心臓に悪い紹介の仕方はおやめください……」
『だって無理ですよこんなところにご当主様をお呼びするなんて。深雪ちゃんと違ってこちらは蚤の心臓なんです。お兄様のひとにらみで冷や汗やばいんですから』
「こちらだって微笑み一つで一回は止まりますが?」
『深雪様は特別製です、ご安心ください』
「…それはどちらの意味で?」
『――さ、本日の話は深雪ちゃんのご趣味のお話ですね』
「…まあいいですが」
『お裁縫はいつから?昔からです?』
「前世では夏休みの宿題で雑巾を縫ったくらいでしょうか。手先が不器用だったので絵も得意ではなかったですし。ですので完全に深雪ちゃんの技量によって培われていった趣味です」
『…それにしては色々と知識があったようですが』
「ぬいを祭壇に飾るタイプのオタクでしたので嗜み程度に」
『「嗜み」ですべて誤魔化そうとしてる…。まあ、オタクの深淵は覘きませんが、深雪ちゃんになってからぬいを作成しようとした、と。ぬいからです?それともコスプレ衣装からです?』
「…ナンノコトヤラ」
『クローゼットに隠された空間がありますよね?うまい具合に隠していますが』
「……ぬいで我慢しようとしたのが始まりでした」
『まあ、深雪ちゃんに成り代わったんだとしたら真っ先に考えますよね、何着せたいかって』
「ですよね!」
『深雪ちゃんボディですもの。絶世の美少女。なんでも着せたい。むしろ着飾らないことのほうが罪』
「そうでしょうそうでしょう!」
『だから、『ぬい』ですか』
「…お嬢様の衣しょーー衣服はありました。お着物も。でも、私はボーイッシュな深雪ちゃんもゴスロリの深雪ちゃんも、ブルマの深雪ちゃんも見たかったんです!」
『そ――いえ、最後のはちょっと。…ぬいに着せたんですか?』
「本人が着られないのですから仕方がないでしょう」
『……思った以上にお兄様に見つかったらヤバい趣味でしたね…。ちょっとくらい見つかったところで問題ない趣味だったのではと思ったら』
「だから叔母様に見つかった時は時が止まったかと思いました。むしろ本気で時を止めてやろうかと思いました」
『趣味バレしたくらいで命がけのコキュートスとかお止めください!?世界凍結させる気ですか?!』
「それくらい驚いたという比喩表現です」
『…顔が本気でしたが』
「なにか?(にっこり)」
『すみませんでした!ナマ言いました!!』
「何とか隠し通そうとしましたが、叔母様は逃してはくれませんでした…」
『ら、まさか気に入られて受注を受けることになるわけですね』
「…正直、脅しの材料に使われるのかと思いました」
『なってもおかしくない代物ですもんね…。ですが、深夜様も可愛いもの好きだったようですが、双子揃ってお好きだったとは』
「お咎めもなく、気持ちがられることもなく…そして脅されるわけでもなかったことにはっきり言って混乱のほうが大きかったです」
『いったい何が目的で?って疑心暗鬼になったんですね。それもわかる気がしますが』
「…納品してからしばらくはびくびくしていましたが、入金を確認した際は目を剝きましたね」
『ぬいの服一着にとんでもない金額が振り込まれていたとか』
「10万、ですよ10万!材料費数千円の衣装にですよ…、もちろん製作費は細かく記載した資料も添付したのですが…。直後、葉山さんからお電話をいただき、叔母様が大変満足されているという感想とともに問答無用で受け取るように言いくるめられました…」
『わぁ…それ絶対受け取るようにっていう脅し…』
「ですよね…。そして支払い能力有り余る叔母様ですから…私は叔母様を悪いオタクの道へと進ませてしまいました…」
『まあまあ。この世界ぬいすらないのですから一点物の貴重な品です。多少お高く売っても問題ないでしょう。それよりも問題は――』
「問題?ですか」
『お兄様に絶対に隠すべき事柄が増えたということですよ』
「…そうなんですよね…」
『真夜様のことを姉さまと呼んでいたことは後でバレますが、このぬいのことだけは』
「ええ、何としてもこの秘密だけは死守しますとも!」
『健闘お祈りしております』
「まずはぬいの隠し場所を厳重に隠さなければ」


――深雪が退出しました――


――


成主妹の隠れたストレス解消法、ぬい作成の小話です。
早速真夜様にバレました。そして速攻受注が。
これで妹は小銭稼ぎができるようになりました。スポンサー叔母様って文字がやばいね。
純粋に気に入られました。脅す気なんてさらさらありません。よかったね。
ティータイムセットは実は昔から家にあったアンティークのドールハウスセットの一部を流用。実は一族揃って可愛い物好き設定が。趣味は本格的に、徹底して。
研究気質の一族ですからね、そういうこだわりが強いところもあると思います。
だからお兄様も好奇心に逆らえないし、妹も一つのことに集中するとほかに目が向きません。
話は短いのに、隠し設定だけはもりもりの小話でした。

お粗末様でした。
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