妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
十日目、吉田くんの参加するモノリスコードを仲間たちと共に応援。お兄様はエンジニアとして行っているのでここにはいない。
西城くんの周りを美少女が取り囲んでいる図になっているけれど、西城くんは特に気にした風もない。
…いや、若干気まずいのかな。エリカちゃんがちょっかいを掛けてくるから自然に見えるだけかもしれない。
けど試合が始まればそっちに集中するからね。
雫ちゃんなんて無言でこぶしを握り締めながら食い入るように見つめている。隣のほのかちゃんはちょっと苦笑気味。今年はお兄様が参加されていないから去年のような熱は見当たらない。
今日は美月ちゃんの隣でお手手繋いで観戦してます。ハラハラして見ているだけで緊張しちゃうんだって。可愛い。
時折ぎゅって握られるのを手の甲を撫でることで落ち着かせる…というか集中力を散らす感じだね。私に気付いて赤くなる。可愛い。
「…深雪、アンタは周囲の目を気にしなさい」
エリカちゃんから忠告が。周囲を見たら男子たちがね、うん。そんなに白いお花が咲き乱れているように見えましたかね。
試合に集中しようよ。エリカちゃん、忠告ありがとう。
吉田くんたち一高はバランス取れた連携を発揮し、見事優勝を勝ち取った。
その結果、最終種目、もし一高が上位に誰も食い込めず、三高が数人上位に入れれば逆転の可能性という程の点差が開いた。
三高は諦めないだろうし、このところ連覇をしている一高を止めるため、他の学校が三高をサポートするかもしれない可能性まで出てきた。これは気を引き締めねば。
夕食はそれはもう賑やかだった。
特に決勝戦はいい試合だったからか、盛り上がったテンションのまま男子たちは皆固まってモノリスの選手たちを取り囲んで食べていた。
残った女子たちも固まって食べるのだけど、そこにお兄様だけがぽつんと異質な感じですね。
横にはほのかちゃんがぴったり。私はその反対側に座っている。お兄様の隣でお兄様が褒められているのを聞くのは楽しい。
お兄様はただ自分はエンジニアとしてサポートしただけと思っているけどね、そのサポートのお陰で勝てたんですから、そのまま受け取ってください。
ニコニコしてお兄様を見つめれば、お兄様は俺よりもお前の方が嬉しそうだな、と苦笑を頂いた。
「兄を褒められて喜ばない妹はいないと思うわ」
「俺が凄いわけじゃなく、選手が頑張ったんだがな」
担当した選手が凄かったんだ。もちろんお前もな、と頭を撫でればきゃー、のBGM。もうね、好きに楽しんだらいいよ。
気分が上がり過ぎて何にも気にならない。
と、そこへモノリスコードで大活躍されていた三七上ケリー先輩からお兄様を呼ぶ声が。お兄様も今日の立役者の一人ですからね。
お兄様がちらりとこちらを見たけれど、にっこりと送り出す笑みを。
お兄様は仕方ない、と食べかけのトレーを持って男子の輪に加わっていった。
やっぱり男子の中の方が落ち着くよね。違和感なく交ざっていきました。偶には妹を気にせずそっちに交じわってくださいませ。
「お兄さんも、だけど司波さんも大活躍だったわね」
「え?」
そう声を掛けてきたのはロアガン入賞の先輩だ。
「貴女の指導のお陰で皆いい成績を残せたわ」
「そうそう!あのアドバイスがあったから私も場外にならずにすんだよ」
「むしろ相手の選手より司波さん相手の方が苦戦した感じよね」
「「「わかるー」」」
あらあら、私まで褒め殺しに遭いました。
「生徒会としてサポートできたのでしたら幸いです」
「サポートどころか!」
「右も左もわからない状態だったのを一緒に手探りで戦い方を見つけてくれたんだもの、とっても助かったわ」
「わ、私も先輩のお陰で入賞できました!先輩の後押しが無ければ、あんな挑戦そもそもしてませんでした」
ああ、この子はミラージ・バットの。
「頑張ったわね。あれだけ繊細な操作をここぞという時に発揮するあなたの集中力は凄かったわ」
「あ、ああっ、ありがとうございます!」
可愛い。真っ赤になっちゃった。
と、思っていたらお兄様のいなくなった席に泉美ちゃんが。
離れた席で香澄ちゃんが頭を抱えてる。止める暇も無かったのかな。
「あの!先輩のピラーズも素晴らしかったです!あの氷の女王様の深雪様はとてもお美しくて」
うっとりとされてしまったけれど、深雪様って…ちょっとトリップしているね。気づかないふりで。
「ありがとう」
泉美ちゃんは圧勝だったわね、と続けようとしたのだけれど、口を開くより早く。
「本当~、綺麗だった!」
「女王陛下かっこよかったよね」
「あの女王の下で暮らせる一高でよかったって思っちゃった」
「私も」
「今年の生徒会選挙は間違いなく司波さん一択ね」
「「「間違いない!」」」
わぁ、すごい盛り上がり。
皆試合を思い出しているのか泉美ちゃんほどではないけどうっとりしてる。
「あの演出も良かったよね~、お兄さん従えて出てきた時映画かと思ったもん」
「わかる!プリンセスとナイト実写化したのかと思った~」
「私写真撮って部長に送った!」
「「「「よくやった!!」」」」
「あそこは関係者しか入れないところだもんね」
「実写化するときはぜひ二人にやってもらいたいよね」
「「「「「ね~」」」」」
楽しそうだねぇ。
うん、内容はともかく女の子たちがキャッキャしているのは目の保養。心の栄養です。でもなんだろうね、同時に何かがゴリゴリ削れているような。
「深雪、大丈夫?」
「皆が楽しそうならいいんじゃないかしら」
「み、深雪が遠い目になってる!戻ってきて!」
「先輩大丈夫ですか?介抱します!」
心配ありがとう。でも泉美ちゃん、介抱する人間はそんなに手をワキワキさせない。
「泉美、深雪が怖がってる」
「深雪姉様から離れて下さい」
雫ちゃんのみならず水波ちゃんまで駆けつけてくれました。ありがとう。
こうして賑やかな夕食会は私に赤疲労を与えつつ終了した。
「大丈夫か?」
「少しだけ甘えさせてくださいませ」
部屋に入ってハグをして、お兄様にぐったりと凭れ掛かり、気力の回復に努めた。
お兄様も、今日は何もせずただ抱きしめてくれた。
明日が最終日。
一番の踏ん張りどころだ。
お兄様はパラサイドールとの決死の戦いを。私は、そんなお兄様を心配させぬよう完走することを。
「お兄様、無理をするなとは言いません。…どうか、必ず私の元へ戻ってきてくださいませね」
お兄様がどれほど強かろうとも、力を制限され、周囲にバレないよう静かに事を運ぶのは無理がある。
死に至るほどの大怪我もするのだろう。…本当なら傷ついてほしくない。だけどお兄様はもう決めている。
だったら、私ができるのは戻ってくる場所を整えることだけ。
「ああ、必ず」
ぎゅっと抱きしめ合って、お兄様は夜のお散歩に出かけられた。
これから先生と藤林さんと会って、それから風間さんたちとの会話を盗み聞きして、対策を立てるのだろう。
やっぱりお兄様は働き過ぎだ。
この大会が終わったらゆっくり休んでもらいたいのだけれど、昨年同様お兄様の夏のスケジュールはびっちり埋まっているはず。
全て終わったらお兄様と相談しよう。
――
翌朝もすっきりと目覚め、お兄様は朝練を熟し、私も柔軟で体を整え、一高のテントで朝食を取って私たち出場選手は各々ストレッチを。
お兄様たちエンジニアはまるで戦場のようにひたすら調整に精を出していた。なんといっても二、三年生全員分ですからね。
最終競技について、作戦担当はスティープルチェースクロスカントリーが実際どんな軍事訓練かを調べて、学生用にどこまで落とし込んでくるか、どんな罠が仕掛けられるか、この一か月たくさんシミュレーションをしてきた。
そして選手たちはたくさんの走り込みをした。悪路、急な坂道、木の根っこ。泥濘に土の中の石など小さくとも結構な障害となる。
アスファルトに慣れた人間にとって山道自体がそれだけで十分な障害物となる。
そこにトラップが山のように仕掛けられているというのだから、とんでもない競技だ。小さなケガから大きなケガまで予想される。
だから今から入念なストレッチが必要なのだ。
「司波さんって山道難なく走るわよね」
「ああ、私も思った。最初から慣れてる感じだったわね」
「そうですね。昔よくアスレチック場で遊んでいたことがあるんです。あまり整備されてない自然をテーマにしたような場所で」
一緒にストレッチをしている先輩方から声を掛けられる。その言葉ににこやかに答えるのだけど、実はちょっぴり遠い目になっていたり。
ええ。それはもう野性味しかないほぼ獣道のみの山で一歩間違えれば大怪我、最悪死が待っているようなアスレチック場でした。四葉家の試練の山っていう訓練場なんですけどね。
…いや、それを作らせたのは中学生の私が主に原因なのだけど。
いやぁ、体力作らなきゃな、と思って連想して思い出しちゃったのが某鬼退治の人気漫画の修行場だったんですよ。
あれくらい真剣みが無いと修行って言えないよね、ととち狂ったことを考えて叔母様に提案したらノリノリで作ってくれちゃったのである。
若気の至りってやつだ。
それをトレーニングに組み込まれてしまった方々申し訳ありません。
初めはお兄様も苦戦したらしいと叔母様から聞いた時はあのお兄様でも!?どんな鬼仕様に?!と驚愕と謝罪の気持ちでいっぱいになったものだ。
もちろん作りっぱなしではなくすぐに私も挑戦したよ。発案者がやらないとね。
お兄様の眼は掻い潜れないのでお兄様にももちろん許可を取って。…かなり渋られましたけどね。お兄様自身、身をもって危険なことをご存じでしたから。
雨の日、霧の日なんかは特に恐ろしかった。日が暮れてからなんてやるもんじゃない。
足腰を鍛えるだけじゃなく、精神を研ぎ澄まし、危機を回避する能力も向上するスペシャルコースと化していた。
ここを乗り越えてこそ、真の四葉の戦闘員になれるらしい。四葉って鬼狩りでしたかね?
でもこの訓練のお陰か生還率は上がったそうなのでよかったのかな。
「えー、意外。結構お転婆だった?」
「体を動かすのは好きです」
「ああ、でもシールド・ダウンの練習付き合ってくれた時も司波さん生き生きしていたものね」
「ロアガンも、楽しそうだった」
見た目大人しそうだからね。インドアな趣味も多いし。
何だか、この九校戦で先輩たちとの距離もだいぶ縮まった感じ。
前は遠慮してあまり話しかけてくれなかったけれど、今はこうして気にかけて話題に入れてもらえる。嬉しい。
しばし先輩たちとお話ししてからほのかちゃん達の元へ。
スバルくんもエイミィちゃんもやる気満々で体を伸ばしたりしていた。
「それにしてもこの装備は地味な上にごてごてしているな」
「そうね。山道だからこれくらいの装備じゃないと危ないんだろうけど」
私としてはこれぐらい重装備で地味でも足りないくらいだと思う。あとこの競技に派手さがあったら大問題。狙われまくりだ。
少し動きづらいけど、実戦を想定しての訓練、じゃないレースなのだからこんなモノだろう。
特別製でない一般のものなんて着る機会が無いからむしろいい経験だ。
「全員完走目指して頑張りましょう」
気合を入れなおして、私たちは時間通りに会場へ移動する。
予定ではグループに分かれて、実力のある先輩たちが先導しながら固まって移動することになっている。
どのような罠か反射的に判断できる人がいると対処しやすいからね。
その中でもトップを目指すチームに私は参加させてもらった。
花音先輩のグループだ。…先輩めっちゃ引っかかるイメージあるけれど。
一応演習林で警戒度は上げる練習したから多少対処法がわかっていると思うけど、ちょっと心配。
先輩はそれをものともせず力ずくで乗り越えちゃうからな。
(今頃お兄様は動き出している頃かしら)
もうすぐ号砲が鳴る。
(どうか、ご無事で)
できるだけ怪我の数が少ないことを願いながら。
水波ちゃんもピクシーもお兄様の為にサポートについている。
――私も、私のできることを。
スタートの合図とともに駆け出す。早すぎてはお兄様の邪魔になるし、遅すぎては上位入賞ができない。
タイミングを計りつつ、身体に結界も張ってパラサイドールの影響を受けないようにした。
感知を切ることはない。それは場所を把握できなくなるから。
既に反応がある。お兄様が交戦しているのか魔法を使用した反応も伝わってくる。
(…お兄様…)
できることならこんな競技投げ出してサポートに回りたい。けれどそれはできないし、望まれてもいない。
私が望まれているのは、このままこの競技をつつがなく終わらせること。
せいぜいできることは誰にも疑問を持たれないようにフォローを入れること。
あ、花音先輩が引っかかった。
先輩を救いながら駆け抜けることも私の仕事かな。
「大丈夫ですか、花音先輩」
「ああ~もう!イライラするっ!ありがと司波さん」
二重三重に仕掛けられた罠がねちっこく、仕掛けた人間の性格の悪さが露呈しているかのようだった。
でもいくつかの罠を見て個性がわかったおかげでなんとなくだけど先が読めるようになってきた。
「先輩、そこ右に罠が」
「え、きゃあ!」
…先に注意したのになぜ右を踏んだのですか。
おっちょこちょい?
「罠の場所がわかるのかい?」
「シミュレーションで罠を仕掛けてある程度どう仕掛けたら引っかかりやすいかそれなりにわかったつもり。――スバル、多分その先飛び跳ねない方が良いわ。網を仕掛けるのに適した木がある」
「…了解」
こうして罠を回避したり潜り抜けたりしながらもう残り僅かだろうところでガイノイドと遭遇。とはいっても横たわっているのだけど。
休眠状態なのだろう、中の気配は何も感じない。
でも完全な抜け殻でもない。お兄様の魔法の気配がかすかに残る。
これがパラサイドールだ。
戦闘用ガイノイドについて花音先輩が知っていたのは意外だったけれど、誰もこの競技でそれが襲ってくるとは思わないようだ。
だって、流石にこんなものを投入するのは競技的に過剰だものね。
障害物走で戦闘訓練まで投入されたらそれはもうただの軍事訓練だ。
意表を突くためのフェイクか、訓練した際の回収忘れじゃないかというおしゃべりしながらノータッチで進むことに。
もしこれがゲームとかだったら横を抜けた瞬間動き出したりするんだけどね。安心したら実は――なんて、ゾンビゲームあるある。
お兄様がしっかり処置してくれたからその心配は無いのだけど。
この競技の嫌なところは今現在誰がトップかがわからないところだ。だけど罠が先に発動していないようなのでこのコースのトップは私たちだと思われる。
「見えた!このままゴールに突っ切るわよ!」
「待ってください!だとしたらそこに罠が、」
あるのがわかると思うのに何でそこに突っ込んでしまわれるのです花音先輩?
ペイント弾に撃たれて花音先輩は防御姿勢を取るも地面を転がった。
そして巻き込まれちゃったスバルくん可哀想。ネット弾に絡み取られて身動きが取れない状態に。
でもね、流石の私も再三の注意を無視されると呆れるわけで。
「もう先輩なんて知りません!」
「え、ちょ、司波さん!?」
花音先輩についていったスバルくんも連帯責任です。
ということで二人を置き去りに私は一人レースに戻った。
――
無事一位でゴールし、花音先輩は意地で二位を勝ち取り、ほのかちゃん雫ちゃんが5位6位と仲良くゴールして、8位にスバルくんと、一高は好成績を残した。
天幕に戻ると、花音先輩が私の傍ででごめんなさい、怒ってる?と平謝り。
そこへお兄様が戻ってきてどういう状況か把握すると怒ったふりをしている私を慰めようと抱きしめて宥められる。
…お兄様、これ幸いと皆の前だろうが抱きしめられるタイミングを見逃さないね。
きゃあきゃあ喜びの悲鳴が耳に入ってくる。
そしてお兄様からは数々の戦闘の痕跡の臭いが。相当激しい戦闘をした模様。
思わずしがみついてしまうと、お兄様がすぐに察知して背中に回す腕の力を少し強めた。
「ごめんな」
「…わかってる。でも、」
心配になるし苦しくもなる。
お兄様が苦戦することなんてわかってた。リーナと二人掛かりで6体倒すのも大変だったのに、戦闘能力をさらに向上させた16体を相手にしていたのだから苦戦するのは当然だ。
周囲に聞こえないよう囁きながら体を密着させていたのだけど、ほのかちゃんが限界だったみたい。
「み、みみ、深雪!達也さんも!そういうのは、良くないです!」
七草先輩のように諌められないところがほのかちゃんです。可愛い。
ほのかちゃんからの要請は聞かないとね。お兄様、離してください。
「もう怒っていないか」
「元からそんなに怒ってないわ」
お兄様に離してもらって花音先輩に向き直る。
「模擬弾だろうと先輩が撃たれたのはショックでした。…無茶、しないでください」
「…反省したわ。ごめんなさい」
確かに忠告無視も嫌だったけど、それよりもペイント弾だろうと先輩が喰らって倒れるシーンは怖いものがある。
そのことを伝えると先輩はさっきよりも深く頭を下げて謝罪した。…許す。
「こちらこそ、こんなことで不機嫌になって申し訳ありませんでした」
「いいや、花音にはいい薬になったよ」
「啓!」
五十里先輩もハラハラしたんだろうね。ゴール付近なら画面に映っていただろうから。
「さて、午後の部もこの調子で頑張りましょう!」
中条会長が緩んだ気を引き締める。
もうすでに一高の優勝は決まっているのだが、優秀な成績は就職にも進学にも影響する。
最後の発破をかけて、一高は最後の試合に一丸となって望んだ。
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