妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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これにてスティープルチェース編完結です。
次は古都内乱編なのですが、諸事情によりこちらでの更新はしばらくお休みして、本編と番外編を先に更新させていただきます。



スティープルチェース編㉘

 

結果、男子は一条くんの優勝でした。まるで三高の生徒は総合優勝したかのような喜びようだ。

総合優勝こそ逃したものの面目躍如ってところなのかな。

全ての競技も表彰式も終わり、残るイベント、後夜祭パーティーに参加する。

お兄様は相変わらず大人たちに大人気。

私も昨年のことがあったので構える。

まあ去年を超える数が予想されるけれど、事実殺到するけれど捌き方は学びましたからね。市原先輩のポジションには水波ちゃんが。

彼女が捌くことはないけれど、傍に居るだけで私の腹が据わりますから。助かる。背中は任せたよ。

そして何とか捌いていたが、音楽がかかると大人たちは引き際だと下がっていく。これからは学生たちの時間だ。

 

(まさかおじ様たちにまで女王をネタに揶揄われるとは思わなかった)

 

おじ様たちもそういうネタ好きだよね。でもそれで揶揄われても返せないから。魔法のことだけ話させて。

皆様方の集まるようなパーティーには興味はありません。

去年に引き続き婚約の斡旋もノーセンキューです。

大人たちが去ると、今度は学生たちが活発に動き出す。

お兄様にはきっと女の子たちが群がるだろうから、どこか別のところに行こうかと周囲に視線を巡らせると、うーん、皆囲まれてるなぁ。

さて、どうしよう。水波ちゃんと一緒にご飯食べに行こうかしら。

 

「あ、あの!司波さん」

 

あら、この声は一条くん。あれ?さっきまで向こうで囲まれていなかったかしら。瞬間移動?

この会場では一応魔法は仕えないことになっているし、彼がそういった魔法を使うとは思わないけどね。疑いたくなる移動距離。

もしかして顔が赤いのはとんでもないスピードで駆け抜けてきたから…とかではない、のか?微妙なところ。

 

「スティープルチェースクロスカントリーとアイスピラーズブレイク、優勝おめでとうございます!」

「ありがとうございます。一条さんも――あら、そういえばお揃いですね」

 

一条くんも全く同じ種目で優勝していた。今気づいたよ。そう言えばどの表彰の時すぐ傍に居たね。

 

「あ、う、うん」

 

どもっているのが気になるのか水波ちゃんは警戒して私のすぐ後ろにぴったりと控えてます。そこまで警戒しなくてもいいのに。

 

「え、と、この後――」

「一条、個人種目一位おめでとう」

「!司波!あ、ああ、ありがとう」

 

あれ?お兄様も囲まれていたはずなのにどうやってすり抜けました?二人とも包囲網を抜ける術をお持ちで⁇

一条君に挨拶をしながら私の横へ。

 

「深雪、さっきまでいろんな人の対応で疲れただろう。飲むと良い」

「ありがとう」

 

お兄様からグラスを受け取ると、水波ちゃんが一歩下がった。お兄様にお任せってことかな。

 

「一条が懸念していたことは無さそうだな」

「…ああ、どうやらこの場に居ないようだ」

 

お兄様たちが声を低くしてヒミツの会談。

あれだね。軍関係者が少ない。きっとただいま粛清中かな。

私は何も知りません、とグラスを呷る。うん、美味しい。流石お兄様チョイス。思わず口元が緩むというものだ。

 

「…かわいい」

「一条、そういうのはただ呟くんじゃなく本人に伝えた方が良いのではないか?」

 

何か聞こえたな、と思ったらお兄様がアドバイスを。何の話?

 

「ばっ、お前――」

「一条はお前がジュースを美味しそうに飲んでいるのを可愛いと思ったそうだ」

 

本人いる前で伝えちゃいますかお兄様。それ私もだけど一条くんも気まずいヤツ。

 

「兄さんったら、一条さんを揶揄わないの」

「揶揄ったつもりはないが。ちなみに深雪はいつだって可愛いよ」

 

…お兄様は何に対抗しているの?

 

「ありがとう。でも今はそういうのはいいわ。お腹いっぱいになっちゃう」

 

これ以上私の仮面をはがそうとするのはお止めください。

一条くんもお口をパクパクさせてますよ。この手のネタには弱いみたい。

と、そこへ彼の救世主、吉祥寺君が現れた。

 

「やあ、司波達也。今年も君にしてやられたよ」

「吉祥寺か。選手としても出場しているお前には負ける」

 

この言葉の応酬が互いの健闘を称え合ってるって分かり合える関係。もう二人は友人と名乗ってもいいんじゃないかな。

そして吉祥寺君がこっそり一条君に合図を送っているのが見えてしまった。

このサポート力すごいよね。一条君は初めきょとんとしていたけど、すぐに頬に朱を走らせて意味を理解すると、私に向き直って。

 

「し、司波さん。俺と一曲踊っていただけますか」

「ええ、喜んで」

 

まあ、来た時点でこうなることは予測していましたしね。

水波ちゃんが私のグラスを引き取ってくれた。その頭をさらっと撫でてから一条君の手に重ねてフロアの中央へ。

お兄様の視線を背に受け、周囲の視線も掻っ攫いながら音楽に合わせて動き出す。

先ほどまで踊っていた人たちが場所を空け、中にはこちらを視界に収めただけで動きを止めてしまう者もいた。

深雪ちゃんはもちろんだけど、一条くんも見目がいいですからね。必然的にこうなるのも予測ができたこと。危なげなく避けて移動する。

 

「昨年のリベンジができてよかったです」

「リベンジ、ですか?」

 

そう言えば去年お兄様に勝つって言ってたっけ。

…でもそれだとおかしくない?お兄様の不敗神話は破られていないよ。

 

「去年は、司波さんに誘っていただいたので」

 

うん?誘って…ああ、ダンスのことか。それなら思い当たる。

去年は女性の私の方から誘ってしまったからね。何と言うか、純情だねぇ。

 

「あの、今年のアイスピラーズブレイクも目を奪われてしまいました。その…とても綺麗で」

「ありがとうございます」

 

とりあえず微笑みで返しながら流れるようにターンを。

去年よりかはちゃんと形になっているかな。距離が近いからやりやすい。

 

「一条さんも、スティープルチェースでは、素晴らしいタイムでしたね」

「あれは、ジョージたちのサポートもあってこそのことですよ」

「それでもです。結果を出しているのですから、一条さんの実力ですとも」

 

くるくると回りながら見つめ合うのだけど、にらめっこだったら絶対私が勝ってる。一条君すぐ逸らすんだもの。

一条君、自分だって顔良いのに。綺麗な人だってそれなりに見慣れているはずなのにね。

まあ、飛びぬけて深雪ちゃんが美しいのは認めますけどね。深雪ちゃんの美は私が究極に押し上げましたので!

 

「今年は種目がガラッと変わったのでどうなってしまうか心配でしたが、何とか無事に終わったようで安心しました」

「そう、ですね。大きな事故もなくて。ですが、来年はこんな軍事色の強い競技ではないことを願います」

「一人一種目という縛りも、無くなるといいのですが。昨年と同様であれば一条さんのご活躍がもっと見られたでしょうに」

「!!そ、そう言っていただけると恐縮です。お、俺も来年貴女のミラージ・バットが見たいです」

「あら、来年は難しいかもしれませんよ」

「え!?な、何故です?!」

「今年の新人戦で彗星のごとく現れた新星がいましたから。確実に勝つために別の種目に回されてしまいそうです」

「あ、ああ。モノリスでも活躍していた――黒羽姉弟ですか」

 

おお、一条君にもチェックされてましたか。すごい注目度だ。

 

「彼らには噂も付きまとっているようですが。その噂の真実味が増す圧倒的な実力の持ち主のようでしたね」

 

ほうほう、噂とな。かなり浸透してますね。改めて怖い、四葉の情報操作。

 

「あ、噂というのは――」

「噂、ですか。私の耳にも届いてますが、彼らは兄に教えを請いたいと声を掛けてきてくれました。そういったお話は本人たちの口から聞きたいと思いますので」

 

やんわりとその先を封じさせていただく。

四葉のことを、なんとなくだけど一条くんに言わせたくなかった。

 

「そういえば、司波は彼らに話しかけられてましたね。失礼しました」

「噂には尾ひれが付き物ですから。自分の目で確かめませんと」

「そうですね、それは、素敵な考えだと思います」

 

一条くんも何かと噂されるだろうからね。そう言うのにはちょっと敏感だよね。潔癖とか正義感が強いと更に。

深雪ちゃんの場合、お兄様の噂には人一倍敏感だったなぁ。

噂というか悪口がメインだけど。

そんなことを話しているとあっという間にダンスの終わりが。

 

「あっという間でしたね」

「本当に。…あ、あの、もしよろしければこのままもう一曲いかがですか!?」

 

おやおや。それがどういう意味か――は分かっててのお誘いだね。だけど申し訳ない。そこはスルーさせて下さい。

 

「それでは一条さんと踊りたい方々に申し訳が立ちませんので。今度お会いするのは論文コンペになるでしょうか」

「そ、うですね。はい、そうだと思います」

 

落ち込ませてしまってすまないね。でも気が無いのに振り回すのはどうかと思うから。

 

「昨年はあんなことになってしまいましたが、今年こそ優勝を狙います」

「!それはウチも同じです。…では、司波さん。名残惜しいですが」

「はい。一条さんと踊れて楽しかったです」

「俺もです。夢のような時間でした」

 

二人してお辞儀をして、軽く手を持ってエスコートされてお兄様の元へ。

 

「楽しく踊れたようだね」

「ええ、一条さんのリードがお上手でしたので」

 

一条君を見上げながら言えば、彼は顔を真っ赤にさせて固まってしまった。それを吉祥寺君が半眼で見ている。

お兄様はそれをちらりと一瞥してから私へと手を伸ばした。

 

「俺と踊っていただけますか、お姫様」

 

お兄様ったらいつの間にそんな茶目っ気を出して誘えるようになったんです?

上半身をかがめて恭しく出された手と窺い見られる眼差しに撃ち抜かれて、気が付いたら一条くんの手からお兄様に移動していました。

 

「もちろんです、私の騎士」

 

これは小説の一節。舞踏会で踊れなかった二人がこっそり外で踊るシーンだ。

まるで昨年の私たちのようだね。もしかして見られてた?と勘繰りたくなるけれど、多分それはない。

見られていたのならお兄様が見逃すはずないからね。そもそも部長は来ていなかった。

お兄様は慣れた手つきで私をエスコートすると、中央よりも外側に陣取った。

一高生は私たちに釘付けだ。と思ったら一高だけじゃないね、他の学校の生徒たちも私たちに注目していた。兄妹だとか、女王陛下とか聞こえてくる。

一高生徒が口元を覆っているのはリアルプリンセスとナイトだと言いそうになるのを抑えているからか。

曲が流れ、二人の身体が密着する。

先ほどの一条君と違い、お兄様の手には遠慮の文字は無く大胆に腰に回っていた。安定感が凄い。…が、ドキドキもすごい。

周囲から歓声が上がっているのが聞こえます。確実に一高生徒だ。

普通兄妹でこんなに密着してたらシスコンブラコンと奇異な目で見られるものだが、喜色が浮かんでいるもの。

そしてお兄様、動きが去年と明らかに違う。きちんと習ったことのある人の動きだ。

驚いてお兄様を見上げれば、少し照れたようなお顔で。

 

「深雪に恥は掻かせられないからね」

「……兄さんったら。うれしい。ありがとう」

 

お兄様の照れが移ったように私も頬が熱かった。でも嬉しくて微笑めば、お兄様も微笑みを返してくれた。

この連鎖はいつ治まるのかな。心臓がね、飛び出そう。

 

「心配だな」

「え?」

「そんな無防備な笑みを一条にも見せたのか?」

「それは、…見えていたでしょう?」

 

お兄様の視線はずっと感じていた。お兄様の視力で私が見えないはずが無い。

 

「そうだね。それはわかっているのだけど」

「もう。そんな心配することなんて何もないのに」

「兄というのは心配性なんだよ」

 

そうかな。…ああ、でも一条くんも妹さんに対しては心配する場面とかあったね。

 

「今、誰のことを考えているのかな」

 

お兄様、エスパーかな。なぜ他人のことを考えているのがわかるのか。

 

「兄さんが、兄はそういうもの、というから妹を持つ兄を思い浮かべてみたのよ」

 

お兄様に下手に嘘つくのも誤魔化すのも良くない。この揶揄いモードの時と色男モードの時は特に。

 

「それが一条か」

 

…だから、どうして言い当てるのです?口に出してた?視線は一切向けて無かったのに。

 

「勘だ」

 

勘かー。…恐ろしいな、お兄様の勘。

浮かべるならエリカちゃんのお兄さんでもよかったことに今気づいた。

あそこも二人ともそれぞれ妹を心配していたね。エリカちゃんが気付いているかは別にして。…気づいてはいるけど素直になれない、かな。あそこも複雑な兄妹だから。

 

「サンプルが足りないわ」

「ならそういうものだと覚えておいてくれ」

 

お兄様が基準になると世界が変わっちゃうんだけどな。…まあいいか。

 

「兄さんが心配性だってことは理解しました」

「よろしい」

 

わざとらしい敬語での回答に満足してもらえたようだ。良かった。

 

「兄さんはこの後どうするの?私はこのまま誘ってもらえたら踊るつもりだけど」

 

一応これも外交、じゃないけど生徒会として交流をしておかなくては。

そう言うとお兄様はしばし無言で考えてから、

 

「俺と踊りたい奇特な人は少ないだろうからな」

「あら、去年はたくさん踊っていたじゃない」

「あれは練習だ」

 

…ああ、そうだった。お兄様は私と踊るために一条くんのダンスを覚えて皆に誘われるまま練習をしていたんだった。

 

「なら、来年はもっと熟練したダンスを楽しめるのかしら」

「もうすでに来年の予約をさせてもらえるのかい?」

 

お兄様が喜色を浮かべられるけど、申し訳ない。来年は原作通りに進んでしまうと九校戦自体無くなる可能性の方が高い。

すでに昨年、その種は蒔かれているのを私は止めなかった。

だけどほら、ほのかちゃん達が踊ってもらえないのは可哀想だから。

 

「わかったよ。そういうことにしといてやる」

 

今日のお兄様はちょっぴりいじわるみたいだ。でも言質は取ったからね。

 

「ありがとう」

 

クルリ、と回されてターン。そしてぐっと腰を引かれてまたくっついた。

 

「あまり羽目を外さないようにな」

「もちろん」

 

耳に囁かれ動揺する心裡をみせないよう仮面をしっかりと被って、にこりと笑う。

節度を保った活動をしますとも。

お兄様とも一礼をして手を繋いだまま水波ちゃんの元へ戻ってきた。

 

「お疲れさまでした、深雪姉様」

 

こちらをどうぞ、と新しいドリンクを貰った。準備がいい。

お礼を言ってお兄様が皆の元へ行かれたのを見送ると、早速他校の生徒がダンスの申し込みに。

水波ちゃんにお兄様が見ているだろうから皆のところへ行って大丈夫だよ、と伝えると、離れがたそうにしていたけれど一応いうことを聞いてくれるみたい。

一年生の輪に入っていった。

 

さて、私もお仕事頑張りますかねー。

 

 

――

 

 

…途切れないね。うん。そろそろもういいかな、と思っていたら雫ちゃん達がこちらに。

誘ってくれている方々に失礼、と詫びて雫ちゃんとほのかちゃんの元へ。

二人はさっきお兄様と踊ってるのを見た。ほのかちゃん真っ赤だったけどよかったね。雫ちゃんも楽しんでたよね。よきよき。

 

「達也さんが、そろそろ休んだらどうかって」

 

お兄様から派遣されてきた模様。ありがとう。疲れてたから助かりました。

 

「深雪、ずっと踊りっぱなしだったから」

 

心配した、という雫ちゃんにありがとうのハグを。今日はお礼を言ってばかりだ。

 

「私が男だったら深雪と踊れたのに」

「あら、雫は私と踊ってくれるの?」

「もちろん」

 

嬉しいことを言ってくれるね。私も雫ちゃんと踊りたかった。――あ。

 

「そうだわ。ちょっと待っててもらえる?」

「?かまわないけど」

 

雫ちゃんにそう断りを入れてから、お兄様の元へ。お兄様は吉田君たちと談笑していた。

 

「兄さん、ちょっといい?」

「どうした?」

「ジャケットを貸してほしいのだけど」

「寒い、わけではなさそうだが」

 

一番に頬に触られて体温を確認されたけれど、そうじゃないんです。

 

「雫と踊るの。だからジャケットを貸して」

「お前が男役をやるのか?」

「ステップは頭に入っているから」

 

深雪ちゃんの優秀な脳がね!覚えているので。

お兄様にジャケットを借りて袖を巻くる。肩幅も丈も何も合っていないのだけどね。

他の男性陣に借りるとなんか恐ろしいことになりそうだったので。ケント君に借りるのが一番だと思ったけどやめました。皺になるけど許してね。

そして三つ編み作る時に使ったゴムで髪を上の方で括って。サイドは垂らしたままの漫画やゲームでよく見る黒髪剣士スタイル。

…スカートのままだけどね。ほら、こういうのは気分の問題だから。

雫ちゃんの元におかしくない程度の大股で近寄って。

一歩足を引いて跪いて、雫ちゃんの手を取って。

 

「私と一曲踊っていただけますか、お嬢様」

 

できる限りの低い声で決め顔で誘う。…時間があればメイクもしたのに。

周囲からはきゃーっ!と悲鳴にも似た歓声が。皆好きだね。男装女子。特に、深雪ちゃんは顔がいいから。

 

「よろこんで」

 

雫ちゃんのお許しが出たのでフロアにエスコートを。

身長差がそんなに無いのが残念だけどね。

男性パートは女性パートとは全然違う。リードすることもそうだけど歩幅もね。

先ほどまで踊っていたステップとは異なるのでなかなか大変だけれど、そんなものはおくびにも出さない。優雅な顔で雫ちゃんと見つめ合う。

 

「…深雪って何でもできるね」

「全ては君のためだ」

 

ウィンクして気障っぽいセリフを少々。黒髪長髪はあまりナンパなイメージ無いのだけどね。

好きな子を口説けないのはちょっとと思ってイメチェンしてみたのだけど。

 

「ん、いつも通りがいい」

 

雫ちゃんには不評だったみたい。残念。

 

「雫のお眼鏡に適わなくて残念。でもこっちの方が楽しめるわ」

 

表情もキリっとしてないいつもの表情に戻した。

雫ちゃんはご満悦の表情。

 

「何でもはできないけど、これはちょっと覚えたくて覚えたわね」

「どうして?」

「いずれ出会う可愛い女の子をこうして誘うためかしら」

「…深雪は女の子が好きなの?」

「恋愛なら異性だけれど、愛でるなら女子の方が好きかしら。男性のことを撫でまわすなんてできないじゃない」

 

女子が女子を撫でまわすのは許容されるけど、女子が男子を撫でまわしたらそれはただの痴女扱いになる。

深雪ちゃんにそんなイメージつけられません。だからいくら可愛くてもケント君を撫でられないし、文弥くんも可愛がれないのだ。

 

「深雪って見た目を裏切ってるよね」

「うっ」

 

…自覚はあるけどそれを人に言われたのは初めてです。

 

「でも、そんなところもいい。深雪もちゃんと人なんだって思えるから」

 

ふわり、と雫ちゃんが笑う。

そう言えば去年もそんな話した記憶が。殿上人に思われてたとかね。

 

「完璧すぎると、人に思えないから」

「私、そんなに完璧じゃないわ」

「うん、知ってる。今ならわかる」

 

今度は私が笑う。分かってくれるという雫ちゃんの言葉が嬉しくて。

 

「ん、そっちの方が良い。さっきの表情はなんか落ち着かない」

「即席だとやっぱり違和感があるわよね。今度はじっくり時間を掛けて作るわ」

 

気合を入れて次の構想を練るのだけれど、雫ちゃんからは、そうじゃない、と否定が。

 

「カッコいい、じゃないけど美人な男性に見えなくも無かった。今は達也さんのジャケットのせいで肩幅があるように見えるし」

 

メイクも何も作る時間が無くて表情だけちょっと薄めにしたり、口角を上げたり仕草を女性らしいモノから直線的な動きに変えたのだけど、その変化に気付いてくれたみたい。

 

「深雪は本当に成りきるのが上手い。氷の女王も良かった」

「ありがとう」

 

今日は雫ちゃんが饒舌です。いっぱいしゃべってくれる。嬉しいね。

 

「雫はダンスが上手いのね。とても楽しいわ」

「深雪こそ。男性パート上手。やりやすい」

「きっと私たち相性がいいのね」

「…つくづく同性なのが残念」

「ふふ、そう言って貰えて光栄ね」

 

でもこうしてお友達として相性が良くてもいいじゃない。

ずっと楽しくいられるもの。

そして楽しい時間は本当あっという間。

 

「いい思い出になったわ」

「私も」

 

お互いに一礼。今度は男性としてではなくスカートを摘まんで女性らしく。

 

「ふふ」

「ん」

 

二人して笑って手を繋いでほのかちゃんの元に戻った。

 

「二人ともすっごい注目されてたよ!」

 

うん、知ってる。というか今もすごいです視線が。

特にすぐ近くからビンビンに感じますね。

 

「み、深雪先輩!ぜ、ぜひ私とも踊っていただけませんか!?」

 

…泉美ちゃんがスタンバってました。興奮気味です。とっても近い。

 

「泉美、深雪はもう疲れてる。今日はもう踊らせられないよ」

「そんな!」

 

雫ちゃんナイス!ありがとう!!

 

「そうなの。最後と思って張り切って踊ってしまったから。これではきちんとリードしてあげられないわ。ごめんなさいね」

「で、では来年!来年にぜひお願いします!!」

 

泉美ちゃん必死か。

食い下がるね。でもそうか。来年――。

 

「来年も優勝出来たら一緒に踊りましょうか」

「本当ですか!?お願いします!」

 

約束ですよ!と泉美ちゃんと約束を交わす。そして泉美ちゃんは香澄ちゃんに引きずられて行ってしまった。

来年なんて、なんだか騙しているような気がするけど、原作通りになってしまうかはまだわからないからね。

…できるならお兄様の魔法を悪用なんてさせたくない。お兄様に非難が集中するような事件、起きてほしくない。

止められるなら止めた方が良いのかもしれないけれど、ダイナマイトが掘削以外に使われてしまったように、魔法だって使い方を決めるのは人間だ。

悪用しようとしたらできてしまう。それを知らしめる事件である。

お兄様にとんでもなくヘイトが集まってしまう事件だが、それがあるからこそお兄様が生み出す次世代エネルギーの注目度も上がる。

…そこは流れに任せるしかない。すでにもうインデックスに登録されてしまっているわけだからね。

止めるのはもう難しいのだけれど、情報操作はできるはず。そのための布石はもう置いている。

というか、来年の約束二つ目だね。…これ反故になったら大変なことになる?泉美ちゃんの場合お兄様のこと憎みそうだね。

お兄様との約束に関しては、お兄様と一緒に居ればいつでも機会はあると思っているのでね。もし彼女ができたなら約束なんて覚えていないことにさせてもらうかもしれない。

ま、一年後のことはまた一年後に考えるとしよう。強制力がどう働くかもわからないからね。

 

「雫、助かったわ」

「泉美のアレが一時的なものだと良いけど」

「多分流行病みたいなものだと思うのよね」

 

アイドルに熱狂しているような感じ?来年には少し落ち着いているといいのだけど。

 

「ご、ごめんね、私じゃ泉美ちゃん抑えきれなくて」

 

ほのかちゃんずっと泉美ちゃんに張り付かれたんだね。しょうがないよ。アレは止められない。

三人でおしゃべりをしていたら、もうラストダンスの曲に。

フロアを見たら、お兄様をじっと見つめる亜夜子ちゃんの姿が。…亜夜子ちゃん、お兄様を誘えなかったのか。大会で目立った自分がそんなに近づき過ぎては、とか過ったのかもしれない。

立場をわきまえているからこそ、近づけない、か。

…私が二人の時間を作ってあげることができるといいのだけど。でも余計なお世話になってしまうというか、怪しまれるよね、きっと。

って、私まだジャケットお兄様にお返ししてない。

お兄様はまだ皆とおしゃべりに興じていた。でも一人だけジャケット着てないから目立ってるね。そして私は着っぱなしで目立ってた。

急いでまくっていた袖を直して脱いだ。曲が終わる前に返さないと。…もしかしてだけど、ジャケットが無いことを理由にダンス断ってたとかそんなことないよね?!

だとしたら申し訳ない。

 

「兄さん、ごめんなさい。返すのが遅くなってしまったわ」

「構わないよ」

 

…しかし、お兄様グレイのシャツってかっこいいよね。それでボタン外されたらヤバい。

恰好やシチュエーションにも弱い私です。

 

「随分楽しんだようだね。とても可愛らしいダンスだったよ」

「ええ、とっても楽しかった」

 

後半はスルーさせてもらうね。恥ずかしくなっちゃう。

お兄様は受け取ったジャケットをすぐに羽織った。腕のところの皺が気になる。

今すぐ魔法で何とかしたいけど、この中は一応使っちゃいけないことになっているからね。

隠れてなら使えなくもないけど、袖の皺がいきなりなくなったら怪しまれるから。

そのまま曲を聴きながらおしゃべりして後夜祭パーティーは終わった。

そのあと一高生は昨年同様祝勝会へと雪崩込む。

皆で勝利を称え合い、アレがよかったこれがよかったと話し、最終的に実写版プリンセスとナイトが最高だったというオチが付いた。うーん、…コンセプトは雪の女王だったのだけど、最後のダンスで全部持ってかれてしまったかな。

いいけどね。皆が楽しそうだから。

エリカちゃん達も合流して食事をちょいちょい摘まんで、皆して笑って。

 

(今年は皆明るい笑顔でよかった)

 

去年は色々あり過ぎて疲れた顔をした生徒も多かった。

だけど今年、最も大変だったのは表と裏で頑張っていたお兄様だけ。

お兄様だけがとても大変な目に遭ったことはとても辛いことだったけれどそのお兄様は今、私の隣で微笑んでいた。

まるで、この平和で幸せな光景を噛みしめているように。

 

「兄さん」

「どうした?」

「少しだけ、手を繋いでいい?」

「少しと言わず、いくらでも」

 

繋がれた手は温かくて。

 

「お疲れ様」

「お前もな」

 

お互い寄り添い、労い合って。

 

 

こうして、二年目の九校戦は幕を下ろした。

 

 

スティープルチェース編 END

 

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