妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
お兄様は封筒と便箋をもう一度入念にチェックする。何の仕掛けもないことを十分に理解してから話し始めた。
「叔母上からの用件は本当に周公瑾の捕縛を手伝えということだけのようだ」
「――ただし、そこには依頼という形をとって何かをお兄様にさせる意図もある、と?」
そう指摘するとお兄様と水波ちゃんがそれぞれ目を見開いてこちらを見た。
あまりこういうことには口を出す方ではなかったから意外に思われたかな。
「…そうだな。その何かがわからないが、今そこについては考えなくていいだろう」
何か裏がある、とは感づいても、推測できるだけの判断材料が無いからね。
「本来叔母上は俺に命令する権限を持たない。正確に言えば、叔母上の命令権は優先順位が低い」
お兄様ぶっちゃけるよね。一応水波ちゃん私のガーディアンではあるけれど、本家から来た人間なのに。それだけ信用したということだろうか。
水波ちゃんは驚いているけれど、私は小さく頷くだけで返して続きを促す。
お兄様はちらりと見るだけで続けた。
「深雪の安全確保が最優先であることは言うまでもないが、次に優先されるのは独立魔装大隊の任務だ。叔母上の命令権はそれに次ぐ第三順位となる。
しかし今まで叔母上は、俺に仕事を指図する場合、常に命令という形をとってきた。もしかしたら俺が任務中でないのを何らかの手段で知っていたのかもしれないが、とにかく、それが普通だった」
お兄様は少しカップを傾けて唇を湿らせると、いくつか可能性を提示する。
「任務についてだが、普通ではない方法を取るからには、深雪が言うように普通ではない事情があるのだろう。例えば今回の任務が特別な対処を必要とするものである、といった」
「それは、今回の任務が特に危険なものということでしょうか?」
「黒羽家当主に重い傷を負わせ、今なお四葉の追跡から逃れている相手だ。捕獲するにしても始末するにしても、容易ではないだろう」
お兄様はそう答えながら心配するなと口にしない代わりに私の髪を優しく撫でた。
水波ちゃんから鋭い視線が飛んでこないのは、私の表情がどんなものか見えたのだろう。
「問題になるのは任務自体の難易度ではない」
叔母様の持ってきた任務はお兄様向きの任務とは言い難い。
お兄様は今まで、決まったターゲットを狙う任務がメインだから。
「ターゲットが何処にいるのか分からないという状況は俺にとって初めてのものだし、四葉にとっても珍しいものと言える。そもそも四葉家の手から逃れる技量の持ち主など俺の知る限りいなかった」
こう聞くとあれだよね、四葉ってすげー、だよ。どんだけ隠密に長けてるの?これまでの実績を知ったからこそ思う。日本を陰で支えてきたと言っても過言じゃないよ。
…この日本が正常に機能しているかはまた別問題ではあるけれど、未然に大事件をいくつも闇に葬っているという点でね。危険分子をないないしちゃうんだから。
これまでの結果を踏まえた上でお兄様も今回ばかりは仕事の難しさを思ってため息を吐いた。
「そういう状況、そういう相手だ。長期の任務になることは避けられないだろう」
お兄様は基本短期のお仕事ばかりでしたからね。――お兄様の仕事を私が概ね把握していることをお兄様はほとんどご存じないと思うけれど。
ほとんど、と言うのは任務に向かう際、お兄様自身から事情を説明されたことがあったから。
それ以外の任務については四葉家のお仕事を知るうちに資料を見た。お兄様に依頼されるお仕事も四葉のお仕事だから。
(だけど長期か…。ただでさえ今のお兄様はお忙しいのに…)
その思いが顔に出てしまったからか、お兄様が少し早口で弁明するように追加した。
「家を長期間空けるという意味ではない。学校もあるし、そもそも俺には捜索のノウハウが無いから居場所を見つけるのは他の人間に依頼しなければならない。俺の出番は周公瑾を見つけてからだろう」
「…戦いになるのですか」
一応捕縛の協力要請だから戦闘は必要ないのだけれど、周の潜伏先が悪かった。
彼が潜伏するのは最終的に国防陸軍の基地だった。――つまり、軍の内部に裏切り者がいることになる。たとえそれが操られていたとしても、結果が同じであればお兄様にとって許せるものではない。
沖縄での、私がお兄様によって再生されたあの日と同じ――軍の裏切りはお兄様の逆鱗の一部となった。
つまり今回の任務の先で彼らはお兄様の特大の地雷を踏みつけるのだ。そうなったらもうお兄様は止まらない。
その場に私がいない限り止まることなどありえない。…そもそもこれだけの地雷、私がいても止まってくれるかはわからない。
「深雪、そんな顔をするな、俺一人で相手をするわけじゃない。俺に求められている役割は、ターゲットの逃げ道を塞ぐことだろうからね」
そう言いながらお兄様は自分の目を指差す。
この言葉で、安心できるならどれほどよかっただろう。でも、お兄様の気遣いが嬉しくないわけは無くて。
複雑ながらも微笑むと、お兄様はもう一度髪を撫でつけた。
「ただ時々は家を空けなければならない日も出てくるだろう」
今度は申し訳なさそうに。傍で守れなくてすまない、と謝る様に。
違う、と言えればよかったのに。お兄様が謝ることではないと伝えられれば良かったのに。
お兄様はもう一度撫でてからすっと手を離すと水波ちゃんに向かって。
「その時は水波、お前が深雪を守るんだ」
ここで水波ちゃんはようやく自分がここに座らされた意味を知る。
お兄様はあの手紙を見た時からすでにここまでを読んでいたのだ。
「魔法力で言えば、深雪の方が水波よりも強い。実戦を想定しても深雪の方が使える魔法は多いだろう。だが、そんなことは関係ない」
「――はい」
「水波、四葉家にとってお前は深雪のガーディアンだ。しかし俺にとってはそれ以上に、お前は数少ない、信を置ける魔法師だ」
自分の目で判断して、信用できると言っている。
それが、どれほどすごいことか私だけが知っている。――お兄様が、自身で、信用している、と。
四葉家から送り込まれたガーディアン、穂波さんと同じ顔をした、私の守護者。
いろんな思惑があって送り込まれたであろう彼女を、お兄様は私を守ることに関しては信用できると、そう判断したのだ。
少しだけ視線を傾ければ、母の写真立てが目に入る。母は、何も返してはくれないけれど、この想いを伝えたくてしばらく見つめてしまった。
「俺が留守の時は、深雪のことを頼んだぞ」
「お任せください」
水波ちゃんはお兄様から視線を逸らすことなく、その信用に対し真直ぐと受け止めた。
この日は結局外出する気にはならず、家でまったりと過ごした。
――
生徒会選挙が近づくにつれ、昼食を食堂で皆と共にすることはできなくなった。
視線が集中しすぎてしまうのだ。同じ理由でほとんどの生徒会役員が生徒会室でお昼を過ごしていた。あと一部の風紀委員もね。
お兄様もこっちにいた方が良いのでは、と思わなくもないけど、そうするとこっちもそわそわしちゃう子とぞわぞわしちゃう子がいるからね。
お兄様にどっちが居心地いいかと問えば、多分他人の視線の方が無視できる分、食堂の方が気が楽なんだろうな。
ってことでしばらく別行動をしている。
(のだけど、お昼、今度お弁当にしようかしら)
ずっとここのご飯も飽きる。いえ、毎回同じメニューではないんだけどね。何と言うか食堂より味気ないのだ。
「どうしたの、深雪。ご飯を見つめて」
「美味しくない?」
「ああ、違うのよ。ただ食堂のように色々選べないならお弁当にするのも一つの手だなって思って」
「み、深雪先輩はお弁当も作られるのですか!?」
雫ちゃんと泉美ちゃんに挟まれ、雫ちゃんの隣にほのかちゃん、泉美ちゃんの隣に香澄ちゃんが座っているハーレム席。本来ならここはお兄様のような気がするのだけれど、私が座っていていいのだろうか。
向かいには中条会長と五十里先輩、そして花音先輩。いつも通りの面々です。
「深雪の作ってくれるご飯、とっても美味しいよ」
「!北山先輩は召し上がられたのですかっ!?深雪先輩のお手製の料理を!」
「もちろん」
うん、確かに雫ちゃんにも作りましたよ。
ホームパーティーをやった話をしたら雫ちゃんが食べたいって言ってくれてね。うちで二回目のパーティーをやりましたとも。その時にあみぐるみもプレゼントした。喜んでくれてよかった。
「ほのか達も一緒だった」
「うん。深雪ってお菓子だけじゃなく食事もプロ級っていうか」
雫ちゃん、ふふんってドヤ顔可愛いね。泉美ちゃん、可愛いんだからそんなぎりぃしないの。
泉美ちゃんに注意の微笑みを浮かべれば真っ赤になって俯いた。最近はこの手法をとってます。なんか、撫でたりしたら距離が縮まりそうでね、気をつけてます。
九校戦の時に結構大胆に抱きつかれてからちょっと距離感が狂いましてね。背後でピクシーが目を光らせています。クッションが大きくなったね。警戒レベルが上がった?
「プロ級は言い過ぎよ。家庭レベルの域を出ないわ」
「それくらい美味しいってこと」
「ありがとう」
何をお弁当に詰めようかしら。ド定番もいいけれど、うーん。と考えていると、ほのかちゃんがもじもじと。
「た、達也さんにも作るの?」
「え、どうして?兄さんは食堂で食べるんだから必要ないでしょう」
何故お兄様に作ることをほのかちゃんが心配してるの?
「そうなの?一緒に作るのかと思った」
「確かに一つ作るも二つ作るも同じで手間はかからないけど、食堂で出来立ての方が温かくて美味しいじゃない」
そう言うと雫ちゃんとほのかちゃん顔を見合わせた。
そして二人から揃って心配そうな視線を受ける。
「なあに、二人して」
「何って…」
「ねぇ…」
二人だけわかり合ってー、と思ったら正面の中条先輩たちも似たようなお顔。…もしかしなくても私だけわからない感じ?
「あとで相談したら?それでわかるでしょ」
花音先輩にはちょっと呆れ交じりでそう言われた。
ちょっともやもやしながら食事を再開。と、思ったのだけど、
「ね、ねえ深雪。生徒会の役員は――」
「ほのか。ほのかの気持ちはよぉくわかるけど」
ほのかちゃんから一日一回は訊かれるこの質問。答えはもうわかっているはずなのに、どうしても聞いちゃうんだろうね。恋する乙女も大変だ。
一応会長が選出されてからじゃないと話はしないということは事前に話したのだからわかっているはずなんだけどね。
既に下馬評で私が会長になることは揺るがないから、その先を求めてしまうのだろうけど。
お兄様と一緒にお仕事がしたい、というかお兄様のお役に立ちたいほのかちゃんとしては最も気になるところだろうからね。
ちらりとピクシーを見る。彼女はほのかちゃんの祈りを写し取って生まれた子。
その視線に気づいたほのかちゃんが私の視線を向けた理由に気付いて顔を真っ赤にして体を丸めてしまった。
そうなってしまう理由を知っている一年生以外は苦笑して。一年生の双子は顔を見合わせて不思議そうなお顔。性格が全く違う二人だけどこうして表情が揃うとよりそっくりになる。可愛いね。
――
もやもやをずっと抱えるのも体に悪いのでさっそく帰りのコミューターの中で相談を。
「水波ちゃん、明日の朝私もキッチンにお邪魔したいのだけどいいかしら」
「構いませんが、またお菓子を作られるのですか?」
「いいえ、お弁当を持って行こうと思って。食事が美味しくないわけじゃないのだけど、なんとなく単調で飽きてしまって。それなら好き勝手に詰められるお弁当を作ろうかと」
思ったのだけど、と最後の方が尻すぼみになってしまったのは水波ちゃんが渋いお顔になっていったから。
「…私が作るのではダメでしょうか」
「もちろんダメではないけれど、好き勝手に詰めたい気分なのよ」
主をキッチンに立たせるのは、と考えているみたいだけれど、私の腕も知っているから断るのも烏滸がましいとか悩んでそうだな。
こういう時は好きにさせてもらえると楽なんだけど、彼女の矜持がそれを許せるかと言うと、まだそこまで許せるかは難しいらしい。
私が主なのよ!と押し切れれば話は早いんだろうけど暴君になりたいわけじゃないからな。
お兄様援護射撃してくれないかな、とお兄様を見ればこちらは顎に指を掛けて思案顔。カッコイイね。素敵な横顔。
「深雪、その弁当は俺の分も作ってもらえるか」
「お兄様は学食で選べるではないですか」
「学食ではお前の料理は選べないだろう」
それは、そうだけども。
「お兄様は皆と食べるのでしょう?一人だけお弁当というのもおかしいでしょうから」
「些末なことだ」
お兄様なら確かに一人だけあからさまに違う食事だろうが気にもしないだろうけども。
…なんでしょうね。さっきまで横顔カッコいいと思っていたのに、急に子犬のような愛らしさが追加された。
「だめか?」
「だめ…じゃないですけど」
昼も言ったが一つ作るのも二つ作るのも手間は変わらない。だから作ること自体は何の問題もないのだけど。
「お花見弁当のように豪華なものではなく、ごく普通のお弁当ですよ」
「深雪が作るならどんな弁当も変わらず美味い」
あら、まあ。そこまで言われてしまうと作らざるを得ないのかな。
…自分用に作ろうと思っていたからその時の気分で好き勝手しようと思ったのだけど、お兄様が食べるのならちゃんとした方が良いのかな。それなら、
「水波ちゃんの分も作る?」
「わ、私の分ですか!?それは結構です!」
残念、全力で断られてしまいました。
私になんて!ってところなんだろうけど、…いや、違うか。それもあるだろうけど、お友達と食べるのに一人だけお弁当ってなると周囲の好奇心も刺激しちゃうものね。面倒になること請け合いだ。
お兄様も面倒ごとが起こるなら避けてもいいと思うのに。
「そう?でも食べたくなったら言ってね」
「あ、あの!お、お弁当は結構ですので、その、作られたおかずを一口で良いので朝食にいただくことは、可能でしょうか」
さっきと違って決死の覚悟でこぶしを握り締めて尋ねる水波ちゃんに、私はいい弟子を持ったなぁ、とほっこりしながらイエスと答えた。
「ええ。味を見てくれると嬉しいわ」
「はい!ありがとうございます」
「…なんだか、俺の時と反応が違くないか?」
水波ちゃんとにこにことしていたら隣からお兄様の面白くなさそうなお声が。
…え、お兄様拗ねてる!?やだ、さっきの子犬のような可愛さも良かったけれどこの、「扱いが違くないか」と拗ねるお兄様もまたきゅんとくる可愛さ。
どうしたのですお兄様、今日は可愛いデーですか。さっきから心臓がうるさいくらいお祭り状態です。
頭を撫でたくなって手が疼くけど我慢だ。多分撫でるだけじゃなく抱きしめちゃう気がする。必要以上の接触良くない。気をつけねば。
「まあ、そんなことございませんよ」
そう言いながら煩悩を払うように頭を振るのを二人に怪しまれながらも特に訊ねられることなく帰宅した。
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