妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編⑦

 

 

9月30日の日曜日。

お兄様は朝食を終えてすぐに地下へとお篭りになった。水波ちゃんは家事に精を出す。

なら私は、と部屋で暗躍の準備を少々。というよりやることが、多い!!

表立てない分、人を色々と介さなくてはいけないからね、二度手間三度手間が。

これに付き合ってくれる皆に感謝です。

お兄様が以前七宝君の件で女優さん宅に侵入した際に襲ってきた男たちの映像は軍にも送られたが、データをもらい四葉にも送っていた。

理由は撮影したモノの内容というより解像度がどんなもので、再生を使った後でも問題がないのかの確認チェックのためのサンプルってことにしてもらったけど。

軍は軍で誰がどのようにどういう目的で襲ってきたのかをチェックするだろうが、四葉の、うちのチームが調べるのは彼らが何処から来て、誰と接触し、どの範囲で活動していたか、だ。

周の手の者とわかっていてもその周辺を探っても、何かしらの映像に周が映ることはない。

今やどこにでも張り巡らされている防犯カメラにも彼の映像など残ることのない周到さ。

だけどその下の者まで隠すことなどするわけもなく、彼ら自身にもその技量はない。つまり、働きアリを追跡すれば巣穴が何処にあるか筒抜けになっていた。

まあ、それも大亜連合のものだけであって古式魔法師や伝統派と言った輩との付き合いはほとんど出ては来ないのだけど――ほとんど、ということはほんの少しの綻びは出てきた。

東京に、今伝統派に雇われただろうフリーランスの魔法師がきている。――これはきっと原作にあった我が家に盗聴盗撮用の式を放った魔法師たちだろう。

確か今日だったかな。お兄様が精霊を分解して、犯人たちが九重寺の門徒に連れていかれるのは。

彼らが迂闊なおかげでお兄様が自身の周囲も危ないと危機感を覚えるので必要なことではあるのだけど、ただでさえお兄様は今頭を悩ませているのに余計なものを持ってこないでほしい。

文弥くんたちが悪いわけじゃないけど、何もこの切羽詰まっている時に試験なんてしなくてもいいのに。…正月には私を次期当主とした発表が控えているから急がせているのだろうけれど。

 

(…叔母様からはいい返事は貰っていない)

 

お稽古の合間に取った叔母様との連絡の際、提案した内容に対し、叔母様は考えておく、と言ったきりその件に関して何の返答もない。

 

(原作回避できれば御の字。できなくとも、猶予を伸ばせれば――)

 

まずは四葉からのお兄様の解放。

お兄様の自由、それが私の望み。その先にある幸せをお兄様に選んでもらえたら最高のハッピーエンドだ。

私はその先が見たい。だからあがくのだ。この原作(未来)を変えるために。

今、京都の方での伝統派の動きはそこまで活発化していない。

それはそうだ。まだあちらでは四葉が偵察を送っているので交戦自体はあるのだけど、まだ互いに様子見感がある。

四葉が本気でないように思うのはお兄様の試験があるから、というのもあるかもしれない。

黒羽も動いているけれど、当主が傷つけられるほどの相手だから慎重に動いているみたいだしね。

ちなみに、この時点ではまだ周の居場所は軍ではなかった。一体どこに潜伏しているのだろうね。

京都は魔法師に厳しい地域なので、どこにでも街頭カメラと一緒に想子波用センサーがついている。街の安全と安心のために必要なんだろうけどね。

おかげで顔認証のデータが多い多い。観光客が多い街だから外国の客も多く、たくさんの工作員が紛れ込んでいる。…ええ、各国の工作員と思われる人物がわんさかいるね。

わあ、すごい。まるで見本市のよう。

これ全部九島は把握できているのだろうか。…藤林さんみたいに電子関係に強い人がいるはずだから大丈夫だよね。うん。

いえ、皆変装しているし観光しているようにも見えるんだけどね。皆面白いくらい死角に消えるから逆にわかりやすいらしい。

…面白いところに目をつけるね。歩行と骨格、耳紋等でいくら恰好を変えても追跡できちゃうシステムヤバいね。これパレードを常に発動しているか、鬼門遁甲?しないと誤魔化せないんじゃない?というくらいにはあらゆるところにカメラが設置されていた。観光地だからね、トラブル回避のためにもいろいろとあるのかもしれないけれど。

移動が山とかだったならカメラも無いし、私有地ならばそんなもの設置義務もない。伝統派の私有地もそれなりにあるだろうから逃げ道はいくらでもあるのだろう。

しかし、思った以上にカメラが――特に想子用センサーが多い。

東京より多いんじゃないかなってくらい。あちらの魔法師嫌いは相当なモノらしい。九島を始め魔法師たちは良くもそこで根を下ろせているものだ。

――これは肩身の狭い思いをしている者が多いだろう。不満も溜まるはずだ。

その不満が、魔法師として立場を確立し、成功しているように見える九島家に向くというのも、人の心理としてはわかりやすい構図ではあるのだが。

 

(これってもう少し互いが歩み寄れればこんなややこしくならなかったはずなんだけどね)

 

今更言ったところでどうしようもないことなのだけど、そう感じずにはいられない。

資料に目を通し、今後の流れを確認してから指示をいくつか。これを暗号にして、と。うん、こんなモノかな。

メールで送れることは送り、送れないものはメモリーに。あとは労いのお手紙も詰めて、としていたらもうお昼だ。

あっという間。体を伸ばすように両腕を上げた時だった。

 

(!この感覚っ!お兄様!!)

 

急いでリビングへ向かうとお兄様が扉を開けて入ってきたところだった。

 

「お兄様、今のは一体?」

「今のがわかったのか」

 

たった今魔法を使ったと感じさせない普段通りの様子に見えるけれど、その表情にはよく気づいたね、と言わんばかりの驚きが見えた。

もう、お兄様ったらどうしてそんなに自然体なの。お兄様の生活圏内が脅かされているというのに。

お兄様自身どうとでもできるからなんだろうけれど、家という安心できるはずの安息地に敵が現れたのだ。もっと怒るなりイラついてもいいはずなんだけどお兄様だからなぁ。

後ろに水波ちゃんが来たけれど、私がお兄様に詰め寄っている状況に理解が追い付いていないようだ。顔には出していないけど困惑している雰囲気。

 

「分かった、と言えるほどはっきり知覚できたわけではありませんが…お兄様が『分解』をお使いになった気がして」

 

ごめんなさい、使った気がするレベルじゃない。はっきり使ったのがわかった。…深雪ちゃん、察知できたことをできるだけふんわり分かったことにしたかったのかな。

お兄様にわかっていると知られると都合が悪かった、とか。彼女はお兄様にどう思われるかを気にしちゃうからね。

私は都合が悪いわけではないけれど、お兄様のことをすべて暴くのもどうかと思ってふんわりと。

 

「ああ、人造精霊が家の中を窺っていた」

 

お兄様あっさり。隠すことではないってことかな。隠されるより遥かにいい。

 

「おそらく、先日受けた仕事が理由だろう」

 

タイミング的にもそうでしょうね。むしろそれ以外だったら怖い。

 

「周公瑾、とかいう者の仕業ですか?」

「部下か、あるいはそいつを匿っている一味の仕業だろうな」

 

正直ね、彼らがこっちを狙う理由が良くわからないんだよね。

四葉関係者だってわかっていて、伝統派が狙うのっておかしくない?

いや、一応お兄様のことは四葉が依頼した者ってだけで四葉だとは確定していないはず。

だけどそれにしても四葉関係者であるのだから、不用意にそこをピンポイントで狙おう!とはならないと思うのだけど。

黒羽が依頼する相手だからただの高校生ではなく何かしらあるはずだってこと?だとしたら使い捨ての野良魔法師にお願いするかな。

周自身もすでにお兄様の存在はしっかり認識しているのだから彼が狙うにしては甘いというか、もっと本格的に狙っておかしくないのに。指揮系統どうなってるの?

ちょっかいかけないよう牽制?お友達を危険な目に遭わせたくないならば、手を引けみたいな?

何で既に縄張りを荒らされているのにそんなやんわり牽制を⁇四葉を直接狙うより周囲を狙った方が足止めできると思われた?そんな事ある⁇

それとも次に来るだろう相手を先に潰しておきたかったのか。どちらにしてもよくわからない。何か分かったら儲け、くらいだったのかな。

 

「文弥たちがつけられたか」

「…彼らが尾行に気付かない、なんてことはありえないでしょうから、つまり――」

 

お兄様の服をぎゅっと掴む。

彼らにその気がないとわかっていても、四葉がお兄様を囮にしようとしているのがわかるから。

お兄様が掴む手を上から重ねて優しく握り込んだ。

 

「亜夜子だけでなく文弥も、尾行を撒くことも尾行に手出しすることも禁じられていたのではないかと思う」

 

だから彼らを責めるな、とお兄様は言いたいのだろう。本当に、お優しい。

お優しいからこそ、腹が立つ。もちろん相手はお兄様に対してではないし、文弥くんたちでもない。お兄様を囮にしてこの膠着状態をさっさと片づけたいと考える大人たちにだ。

流石に感情を荒ぶらせて魔法を顕在化させるようなこともしなければ、想子が渦を作るようなこともしないけれど感情が高ぶれば想子が活性化はしてしまうわけで。

 

「深雪の考えは当たっているだろう。囮として俺を使うのは戦略的に間違っていないからな」

 

お兄様は事も無げにそう言ってから私の腰に腕を回して抱き寄せた。重ねられた手はそのままに。

 

「ありがとう、深雪。お前がそうやって怒ってくれるから俺の心は救われる」

「…お兄様はずるいです。いつもそうやって言えば私が丸め込まれると思って」

「丸め込もうとなんて思っていない。本心だ」

「――昨日も申しました。ご自愛ください」

「そうだな。できるだけ怪我をしないで済むよう努力しよう」

 

できることなら約束をしたい。でも、それはお兄様を縛ることになるから。

信じてる、も口にしない。ただ、お兄様の胸に頭を押し付けて祈る。どうか、お兄様が少しでも自分の身体を気遣ってくれますように、と。

お兄様は私の身体をぎゅっと抱きしめてからそっと放して、

 

「水波、待たせてすまない。昼食の支度ができているのだろう」

「はい、達也様。深雪様もダイニングへどうぞ」

 

水波ちゃんの後について、私たちは昼食へと向かった。

 

 

 

 

この日の晩、お兄様はしっかり戸締りをするように言ってから先生のところへ出かけて行った。

まあ敵側も、一度失敗したらすぐ次を仕掛けに来ないでしょうからね。

 

「水波ちゃん、そんなに気を張らなくて大丈夫よ。来るとしても今日じゃないから」

「…深雪様はどうしてそんなに落ち着いておられるのです?」

「そうねぇ。今日は来ない確率が高いからかしら。お兄様がお出になられたのもそう言う理由でしょうし」

 

お兄様が出かけてからというもの、水波ちゃんの警戒レベルが上がってピリピリしている。

落ち着いて。原作云々関係なく、今日は来ないだろうから。

だって――古式魔法師、まさかのうちのホテル滞在してるから。表向きそうとはわからない安宿なんだけどね。おんぼろビジネスホテル。ここが四葉だと思うまい、みたいなホテルに彼らは気づかず泊まっているのだ。

…怖いよ。全部筒抜けだよ。相手が古式魔法師だから恐らくハッキングなんてしてこないだろうということでメールが来ましてね。当然暗号文だしセキュリティはばっちりなのだけど。

 

「というわけでしばらく常備できるお菓子作りでもしましょうか」

「…深雪様、もしかしてお疲れですか」

 

水波ちゃんの指摘にくすっと笑う。疲れていると創作に意欲を出して集中したくなる癖を見抜かれているのだ。

なんか、この半年で大分親しくなったよね。嬉しい。

 

「というよりこれから疲れることが増えるのだと思うわ。ただでさえ、今度の土日はお出かけなのだからバタバタすると思うの。それに水波ちゃんには生徒会に入ってもらうでしょう。多分、今までと勝手が違うから戸惑うこともあるでしょうし。そこに論文コンペの準備も加わるのだから忙しくなるわ」

 

きっと、お菓子を作る暇も無くなるだろう。ストックは今のうちに作っておかないと。

今すぐ焼かなくとも種を冷凍しておけばいつでも出来立てが食べられる。

忙しい時でも甘いものがあれば多少気分は違うだろうから。

 

「……お手伝いさせてください」

「もちろん、よろしくね」

 

さあ、じゃんじゃん作りますよー。

 

 

――

 

 

新生徒会発足日。

当たり前だけれど、書記長なんて謎職は作っていない。

お兄様はただの書記だけれど、生徒たちからは近衛隊長とか隊長と呼ばれています。ナイトの役職ですね。

お兄様としては守護者=護衛だから間違ってないか、と聞き流す方向みたい。というか訂正がめんどくさいんでしょうね。

副会長は泉美ちゃんにお願いしました。…もうね、なんか忠誠を誓われたけど、生徒会長にそんなこと誓わなくていいから。

この国を一緒に盛り立てていきましょうねって、ここ学校です。国じゃない。ノリでパフォーマンスをした私も悪かったけど、副会長だから伴侶も同然とはどういう理屈?!

伴侶じゃないからね。目を覚まして。女王の王配として頑張ろうとしないで。そんな役割無いから。じゃあ宰相として!だって…もうそれでいいです。

会計にはほのかちゃん。お兄様と一緒に仕事ができると大喜び。うんうん、私とも仕事すること忘れないで。みんな一緒。チーム一丸となって頑張りましょうね。

書記をお願いした水波ちゃんは、このメンバーに一抹の不安を抱えている模様。そうだね。不安でしかないね。

「私がお守りしなければ…」と拳を固く握りしめているけれど、生徒会長って何と戦うの?そんなに私の立場って危険があるの?

本来生徒会は生徒会長と副会長、会計、書記の四人で構成されるのだけど、もう一人書記を加えることに生徒の皆が大賛成だった。

むしろ投書箱はお兄様をぜひ役員から外さないでほしいという嘆願が溢れていた。

私の暴走を恐れて、ということではもちろんなく、ただ私の傍にお兄様がいる構図が見たいというのが本音なんだそう。

なんだかなぁ。これもご都合主義だろうか。

とりあえず非難もなく綺麗にまとまったので良しとしましょう。

生徒会も決まれば新風紀委員長も決まる。こちらは投票制ではなく内部で決めるので手間もない。

 

「えっと、一年間よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。吉田くん」

 

こちらも原作通り吉田くんが風紀委員長になった。

雫ちゃんとは一票差だったらしい。というか、雫ちゃんも吉田くんも委員長にはなりたくなかったようだけど、二人の実力は全生徒にも知られていて、その中でも花形のモノリスコードを二年優勝に導いた立役者でもあることもあり、軍配は吉田君に上がった模様。もちろん今までの活動でまじめなところも評価されてのことだろう。

雫ちゃんが不真面目ってわけじゃないけどね。もちろん彼女だって優秀な成績を残した実力者である。

ただ、彼ら二人に自ら立候補する気はなく、彼女自身の面倒くさいオーラが周囲を説得したみたいで吉田くんが選ばれる形になった。

雫ちゃんは表立って指導するより陰から指揮する方が性に合っていそう。ぼそっと呟く一言が刺さったりするからね。

吉田くんのフォローがあればいい感じの飴と鞭になりそうだ。

それにしても吉田くん、親しくなったつもりだけど態度が硬いのはなんででしょう?私、威圧感出してる?とりあえず微笑みかけるんだけど目を逸らされた。…ショック。

その横で雫ちゃんが吉田くんを突きながら同時に私に気にするなと合図を送ってくれる。優しい。

そしてほのかちゃんにはお兄様と一緒でよかったね、と。ほのかちゃんも頬を染めてうんうん頷いてる。…そのガールズトーク皆が聞いているけどいいのかな。今さら隠すことではないけども本人いますよ?見せつけてる?これも作戦ってことなのか。

例年通りであれば、この後風紀委員の抜けた穴の補充を話し合ったりするのだけど、生徒会推薦の委員がたまたま二年生ばかりで残留してくれたおかげで補充する必要が無かった。良かったね、余計な手間が省けて。

おかげで挨拶だけしかすることが無く、持て余した吉田くんをお兄様がさりげなく連れて行く。

うんうん、お兄様の欲する、一番信頼できて頼りになる知識を持つのは吉田くんだからね。

…美月ちゃんという素晴らしいお相手が居なかったら吉田くんもありだったのでは、と考える腐海の住人だった頃の私は静かにお眠りください。起きなくて大丈夫です。もし二人がその気なら美月ちゃんが居たって成立するよ。

美月ちゃんはもしそうだとしたらきっと応援するタイプだよ、と囁く天使の姿をした悪魔な私もおかえりください。

ちょっとストレスがあるとすぐに妄想に救いを求めてしまうね。

あ、この場合のストレスは別に吉田くんじゃないから。雑用だって塵積(ちりつも)でストレスになるんです。

手はしっかり作業してますからね。今日はこの後もう一つ面談も控えていることだし、ちゃっちゃか片付けられる物は片付けていきましょう。

 

 

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