妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
間にお茶休憩を挟んで気が付けばもう閉門間際の時間帯、もう一人の待ち人は来た。
部活連新会頭の五十嵐君だ。
「五十嵐君、会頭就任おめでとうございます」
「は、はい!ありがとうございますじょ、じゃなかった、会長っ」
うん、今明らかに女王と言いかけたね。正確には女王陛下か。彼の場合冗談で言おうとしたんじゃなくて、絶対に言っちゃいけないと考えるあまりうっかり口に出しちゃったパターンだろう。
緊張極まっちゃった感じ。失敗しちゃったねぇ、と微笑みかければお顔が青から真っ赤に。血の気が無くなるより良いと思ったんだけどやりすぎたか。すまないね。
「生徒会の円滑な運営のために、部活連の協力を仰ぐことも多いと思います。よろしくお願いしますね」
「ここここちらこそ!生徒会の皆さんには色々とお力を貸していただくことも多いと思います。どうか、よろしくお願いしますっ」
うーん、吉田くんもそうだけど私ってここまで人を緊張させてしまうのか。なんだか申し訳ない気がした。
(深雪ちゃん、美貌だけでなくオーラもあるから…)
端の方で泉美ちゃんがほのかちゃんにこそこそ話しかけていたけれど、胡乱気な瞳が五十嵐君に向けられていて、お話の内容がなんとなく分かったけれど、五十嵐君こう見えてちゃんとお仕事はできるからね。ちょっとあがり症なだけなんだと思う。
もう一度五十嵐君にこっそりとお互い頑張りましょうね、と微笑みかけるとぐっと詰まったのち小さな声で「……はいぃ…」と返ってきた。うーん、実力はあるんだけどなぁ。
若干ふらふらしながら帰っていく背中を見送って、今日の生徒会のお仕事は終了です。皆でお片ししましょうね。
「新会頭の五十嵐先輩ってなんだか気が弱そう、いえ、大人しそうな方でしたね」
泉美ちゃんも結構辛辣。言い直したけどどのみちあまりいい印象ではなかったみたい。
「随分と緊張していたみたいね」
「緊張、ですか?」
あらあら、疑わしい眼差し。
美少女はそんな表情も可愛いからずるいわよね。クスッと笑うと泉美ちゃんが顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「深雪は五十嵐のことを知っていたのか」
お兄様からの質問に、そちらに視線を移すとお兄様から泉美ちゃんに気をつける様こっそりサインが。…笑いかけるのも危険です?
「はい、クラスは違いますが五十嵐君は実技成績上位ですので、データ計測で一緒になったことが何度かあります。ただ彼のことはほのかや雫の方が詳しいかと。確か、同じクラブですから」
そうほのかちゃんにバトンタッチ。ほのかちゃんは張り切って応える。
「彼、女子バイアスロン部の去年の部長五十嵐先輩の弟さんなんです」
「得意魔法が向いてないから競技成績はパッとしないけど、実力だけは申し分ない」
「実力だけは?」
雫ちゃんのセリフに含みを感じたお兄様がオウム返しに訊ねた。
「五十嵐君、なんというか…気が弱いというのとは少し違うんですけど、ここぞという時に一歩退いちゃう傾向があるんです。そのくせ追いつめられると無謀な賭けに出て自滅したりとか…性格的に勝負に弱い面がある、と言えばいいんでしょうか」
「彼は参謀か副将向き。リーダーには向いてない」
女子の評価ってシビアだよね。ほのかちゃんもふんわり伝えようとしているけれど、結局フォローができず、雫ちゃんに至ってはズバッと切り込んだ。
でも参謀か副将に向いているってことは戦略自体は上手いってこと。
実技も一緒に組んでいる時意外とやりやすかった印象がある。…相変わらず緊張はしていたけどね。
吉田くんみたいに押し付けられた、ってわけじゃないと思うけどどうなんだろう。
成長を見込んで服部先輩が選んだってことなのだとしたら、先輩もなかなかな大博打。
生徒会室に戻ってきた吉田くんが十三束君だと思ってたと吐露すると、同じくついてきた香澄ちゃんも前評判は十三束君だったと相槌を打つ。
意外とこの二人仲がいいみたい。…私の方が付き合い長いのに、とちょっとだけ思ったり。
でもこのままの空気にするのは良くないからね。五十嵐君、できる子だから。
「服部先輩には何か思うところがおありだったのでしょう」
会頭の選任は会頭が決めることだから。周囲が何を言って決めるものでもない。
この話はこれでお終い、と打ち切りを宣言すると、すぐに話題は変わっていった。
「それで、深雪は香澄と幹比古を見て何を思ったのかな」
帰りのキャビネットの中、水波ちゃんと三人で帰宅中。
お兄様が切り出した言葉にしばらく記憶を辿って、思い当たった。
…まさか、気づかれていたなんて。
そんなことを考えていたなんて思われるのも恥ずかしいけれど、お兄様に聞かれて答えないという選択肢はないので。
「…香澄ちゃんよりも私の方が吉田くんとは付き合いが長いのに、二人の方が仲が良さそうだったので…ちょっと羨ましくなりました」
子供っぽくて恥ずかしさのあまり俯いて顔を覆う。
隣に座る水波ちゃんが気遣わし気に背中を撫でてくれるけど、年下に気遣われていると思うとね、より一層恥ずかしさが増すのです。
ごめんね、水波ちゃんの気遣いは嬉しいのに、ちょっと立ち直るのに時間をください。
「ああ、深雪と香澄ではタイプも異なるからな」
同じ妹属性のはずなんだけどね。人の懐に潜りこむのが上手そうな香澄ちゃんと違って、私は人を緊張させるのが特技なので…。
「美しすぎるというのも考え物だな」
お兄様が分析し、慰めるように降りる際頭を撫でて下さったけれど、お兄様の言うようにそれが原因ならば解決策はないってことだよね。くすん。
――
論文コンペの準備が本格的になった。
生徒会も協力しバタバタと忙しくなる。お兄様はコンペの警備体制や論文コンペ自体の手伝いに駆り出されていた。…皆お兄様に頼りすぎでは⁇
九校戦の二の舞か、とも思ったけれど、お兄様は先日宣言した通り、ペース配分を守っているらしく、自分一人で熟すのではなく周りを使うことを覚えたようだった。
(ううっ…お母様、お兄様がまた成長されました。あの、他人に任せるのも面倒だから自分で全部やってしまわれるお兄様が、ついに人にお仕事を任せられるように…っ)
心の中で母に報告をしながらも表では書類を決裁している。
お仕事無くならない。なんでだろうね?
「ほのか、ここの数字が間違っているようだから訂正してきてもらっていいかしら」
「え?それさっき確認したけど計算あってたよ」
「ええ。だけど一部備品購入分が抜けているのよ。八月のファイルのところにあったはず。きっと九校戦の分と混ざってしまっているのね」
「っ、分かった。行ってくる」
これに気付けたのは私が九校戦の発注をやっていたからであってほのかちゃんの不備じゃないのだけど、なんか、すっごく驚かれてるね。
お兄様ほどじゃないけど記憶力がいいもので。…だから泉美ちゃんそんなキラキラお目目で見つめないで。穴が開いちゃう。
こういう小さな見落としがあって計算って狂うからね。数字だけは気をつけないと。
「深雪姉様、こちらなのですが、用途はどこに分類すれば――」
「ああ、それなら――」
…これってやっぱり生徒がやる仕事じゃなくて社会人勉強だよね。
経理と総務と人事と経営管理?どうして給料振り込まれないんです?な仕事量。
その分優遇措置もあるけれどね。あんまり旨味がない。
…これをたった四人で回すって無理ない?そりゃあ毎日帰りが遅くなるわけです。
今年は5人な上、皆有能だからだいぶ早いけどね。シャワー室いつ使うんだろう。私たちが使うことは無さそうだ。
皆で駅まで帰ってお別れして。キャビネットに乗って。
ここまではいつもの流れだった。このままコミューターに乗って家まで帰れればよかったのだけど。
一番に反応したのはやはりお兄様。私が感知した時にはお兄様はCADを入れている懐に手を差し込んでいた。
水波ちゃんもお兄様の対応にすぐさま反応し、目の前に止まったコミューターを見据える。
その手はいつでもCADが操作できるようになっていた。とてもよく落ち着いている。
私は守護を二人に任せて周囲のカメラの位置を確認。うん、もう少し左にいた方が映りがはっきりしそう。
小さな声で左に、と呟けば、二人ともじりじりと左に移動してくれた。ここならばっちり最初から映りそうだ。お兄様もネクタイピンを作動させたけど、こちらは個人用なので特に変わったことが無ければ警察に提出することはないはずだ。
水波ちゃんがお兄様を外して二人分の円筒形対物耐熱障壁を構築。お兄様を範囲内に入れないのは動きを妨げないため。二人の間には連携ができていた。
特にここ最近は水波ちゃんがお兄様に指導を仰いでいたからね。
いつこのような事態になっても落ち着いて動けるように自主練をしていたのを知っている。
その成果が良く出ているようだ。頑張ったね水波ちゃん。
コミューターから奔流する想子波が私たちに襲い掛かる。原作通りであれば人造精霊を自爆させたことによる想子の煙幕らしいけれど、確かにコレは魔法師用の煙幕と言えよう。爆散によって視界が悪い。
ただし魔法師の視界のみ有効なので、普通の人には何が起きたかわからないはずだ。
現に遠目でこちらを見ている人たちは、何が起こったのかわからず、私たちが何かに警戒している動きだけしか見えていなかった。
「水波、下降旋風だ」
「はい」
水波ちゃんは疑問を持たず、お兄様の指示に従う。それが今一番必要なことだとわかっているから。
わざわざこの場で襲うのはこのためかと思うようなおあつらえ向きな噴水がロータリーにあった。その水が全て水しぶきと変わり霧を生み出す。先ほどの自爆攻撃による想子波が魔法を阻害するものでなかったのはこのためでもあったのか。
魔法と物理による煙幕作戦は、しかし残念ながら実行前にお兄様にいち早く見破られ、霧は発生直後に払われた。霧に乗じて強襲する予定だった男たちはコミューターから降りるところからはっきりとした姿が丸見えに。
ボウガンを構えた男たちの表情は驚愕がありありと表れている。
三人の男たちが唖然として立ち竦んでいたのは一瞬のことだったが、お兄様がその隙を見逃すはずもなく、鋭く右足をしならせて打ち下ろされる回し蹴りを。男の手からはクロスボウが叩き落とされた。
そして長い足を折りたたんでからの突き出しは、見事男の腹に突き刺さり背後のコミューターに派手にぶつかって蹲った。コミューターは頑丈だね。
へこみもないけど音と衝撃は凄かった。後頭部でも打ち付けたか、男は立ち上がれないどころか身動きも取れないようだ。南無。…死んでないけどね。
二人にばかり任せるのも一高生徒会長としてよろしくないだろう。
手にはすでにCADを構えており、あちらが魔法を放つのをきちんと待ってから魔法を装填。魔法式が構築されたと同時に対抗魔法が展開され、その魔法は発動することなく四散した。
この位置からなら想子センサーがギリギリ感知できたはずだ。あちらの魔法攻撃が先にあり、私の魔法がそれを打ち消したのだと。
魔法師の目で見えたモノを口で説明するよりも計測の方が証拠になるから。
彼らも綿密にどの位置で攻撃して、と考えたのだろうけど、この舞台のバミリが変わったことに気付かなかったのは残念だったね。
それからも三度ほど魔法が放たれるが、領域干渉がそれを阻む。圧倒的な力量の差に気付き、襲撃に失敗したと判断しただろう男が逃走用に魔法を使おうとしたところで私は再度CADを操作した。
「逃しません」
宣告と共に男は姿が一瞬白い靄に包まれ見えなくなったと思ったら次の瞬間、べしゃりと力なく倒れこんだ。
お兄様が襲撃者の隣にしゃがみ込み呼吸と脈を確認。かろうじて生きているようだ。
良かった。お兄様の創ってくれた魔法で人が死ななくて済んだことにほっとする。
「この程度なら後遺症も残らないだろう。腕を上げたな、深雪」
「ありがとうございます」
本当なら飛び跳ねたいくらい嬉しいのだけどね、ほら、顔面から地面に落ちて鼻血出してるおじさんの近くではにかんだり恥じらったりしてるのってちょっと印象がよろしくないと思うので。
緊張感を保って行きましょう。
そこから水波ちゃんとお兄様が破魔矢について話し、そこからできる考察を。
まあ先日人造精霊を送られてからのこのタイミングで人違いで襲われると思えるほど楽観できる状況でもないのでね。
ただ、やっぱり周自身は絡んでないんだろうね。私たちがSB魔法を使うなんて勘違い、彼がするわけないから。
伝統派が気を利かせてか、操られてかは知らないけれど自分たちで調査し動いているということ。
…周は尻尾を掴ませないためにこちらの情報をあえて制限しているということかな。
逃げるのが上手い人の考える事って本当に面倒くさいね。
誰かが呼んでくれた警察が到着。私たちは犯人たちとは別の車に乗せられて移動した。
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