妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編⑨

 

 

まあ目撃者も多数いて、カメラでも魔法が確認されたこともあり、一時間と掛からず解放された。

丁度論文コンペの時期でもあったので、昨年同様狙われる理由はあったから警察としても同情してくれた。

特にお兄様は四月の恒星炉実験で魔法を知らない警察官でもそのニュースを知っていて、狙いはお兄様だったのではという話にまで発展したけれど、お兄様は論文コンペのメンバーではないのでその可能性は低いのではと説明。犯人の狙いははっきりとしないが、正当防衛であることは間違えようがないということになった。

この件は容疑者も捕まっているということもあってあっさり聴取は終わった。

それでも色々根掘り葉掘り聞かれるのは疲れるというもの。

三人とも家に着くなりため息を漏らしていた。

そのタイミングがあまりにも揃いすぎて噴出してしまった。

 

「ふふ、幸せが逃げちゃいましたね」

「追いかけるほどの力は残っていないからこの場で補充させてくれ」

「達也様、逃げる力のない深雪様から奪わないでくださいませ」

「あら、まあ。じゃあ三人でチャージしましょう」

 

お兄様が私に手を伸ばしたところで間に水波ちゃんが入り、二人がにらみ合うのだけど、さっきまで戦闘したり事情聴取されて精神的疲労を受けたのに元気だねー。

その二人の手を取って順に手を重ねて最後に私が上下で挟むとほら出来た。

 

「幸せサンドの出来上がり」

 

はい。これで仲直り。とすれば二人からなんとも言えない視線を貰った。

あらま、二人に幸せは届かなかった?私はとりあえず二人のやり取りにいい具合に力が抜けてほっこりしたのだけど。

 

「…食べていいか」

 

え、この幸せサンドを?お兄様疲れてます?

 

「達也様」

「冗談だ」

「当たり前です」

 

何が?なんか二人だけがわかり合っていてちょっと寂しい。

 

「深雪様はそのままで大丈夫です」

 

むしろわからなくていい、とはどういう?

お兄様から頭を撫でられお礼を言われ、水波ちゃんからはもう十分いただきましたから、と手を離すよう懇願された。あ、ごめんね。挟んだままだった。

 

「では、夕食の支度をしてまいります」

「水波ちゃんも疲れているのだから、今日はさっぱり簡単レシピから選んでね。私あのシリーズ好きなの」

 

時々しか食べられない簡単レシピ。基本張り切って作っちゃうからしっかりしたモノばかりが並ぶ食卓だけれど、時には簡単あっさり食べられるレシピのものも食べたい。お手軽にはお手軽の良さがある。

水波ちゃんは少し渋った顔をしたけれど、実はこれ、お兄様がいない時二人でこっそり食べているメニューだったりする。

水波ちゃんに悪いことを教えちゃった感じだけど、簡単レシピでも十分美味しいからね。

あれ食べたい、と言えば、水波ちゃんにはすぐに伝わった。水波ちゃんも気に入ってたもんね。

自室に入って一番に制服を脱ぎながら、さて明日の準備でも、と旅行セットの中身を考える。

水波ちゃんに気付かれないうちに準備したかったのは色々と用意したいものがあったから。

このところ学校と家の行き来しかしていない上に、今現在家が見張られている可能性があるので暗躍が簡易のメールでしかできていない。通信を使わない方法を取りたい時にはとても不便な状態。本当、困っちゃうったら。

ということで今回はリニア列車に乗る前にこっそり受け渡しをする予定だ。まるでスパイ映画のよう。ちょっとドキドキするよね。

ってことで着替え終わってから詰め詰め。うむ。忘れ物はないかな。とはいえ一日だけだからそんなに大荷物にはならない。

準備を終えてからお兄様の部屋をノックする。

すぐにお兄様が顔を見せ、中に入れてくれた。お兄様も明日の準備をされていたようでクローゼットが開いていた。

 

「残念です。お兄様の用意も手伝わせていただこうと思っておりましたのに」

 

そうわざとらしく口を尖らせるとお兄様はくすりと笑って、

 

「なら、服を選んでもらおうか」

 

お兄様はすでに選んでいただろうに、私にそれを譲ってくれるという。本当妹に甘いお兄様だ。

 

「深雪は何をするにも楽しそうだね」

「お兄様に関することなら特に、とつけて下さってもよろしいのですよ。実際お兄様について考えているだけで私は楽しいですから」

「…そうか」

 

おや、と思って顔を上げるとお兄様がちょっぴり照れ臭そうに頬を掻いていた。

これくらいの言葉の応酬は前からちょくちょくしていたと思うのに、と思ったけれど、このところこういう馴れ合い自体がご無沙汰だったことを思い出す。

お兄様でも久しぶりだといつもと違って感じることがあるんだ、とちょっと嬉しくなった。

二人して視線を合わせて心が温かくなったところでノックが。

 

「達也様、こちらに深雪様はおられませんか?」

「いるよ。もう夕食の準備ができたのか」

「はい。整いましたのでよろしければお越しください」

 

先に私を呼びに行ったけどいなかったからこっちに来たんだね。手に持っていた服を丁寧に畳んで鞄に詰めて、お兄様と一緒にダイニングへと向かった。

 

 

 

夕食も終わり、リビングでのティータイム。今夜は水波ちゃんにも参加してもらう。

話はつい先ほどの襲撃について。

 

「さっきの連中だが、古式魔法師であることは間違いない。破魔矢もそうだが、もう一人が逃走のために使った透明化魔法は光の反射や屈折に干渉するモノではなく、自分を認識しにくくする精神干渉系魔法だった。去年の九校戦開会式で九島烈が使用した術式と同系統のものだ」

 

お兄様の目はしっかりと敵の術式を看破していた。

こうしてみると改めてお兄様の眼がどれほど驚異的なものかがわかるね。どういった系統の魔法かが丸裸にされてしまう。それは手の内を晒したくない魔法師にとってどれほど恐ろしいものか。

 

「九島家の手の者…ということはもちろんないでしょうね」

「そうだね。九島家の術者ならば俺たちを古式魔法師と勘違いすることはない。むしろそれに敵対する勢力、伝統派の手先だろう」

 

九島閣下が使ったのは恐らくその伝統派から吸収し、改良した魔法式なのだろう。

別に九島家自身があくどいことをしたとは思わない。元は政府の指示でできた魔法研究施設で得た知識であり、彼らが自主的に奪ったわけではないのだから。

旧第九研の目的は古式魔法と現代魔法の融合であり、そのために魔法師が集められた。

そしてその技術だけが盗まれた一部の魔法師が、それを勝手に改変して我が物顔で利用している!と、そう受け取ればまあ戦争待ったなしだよね。

一方的に搾取され、自分たちにリターンが無かったともなれば秘術を盗まれた被害者だと思うのもおかしなことではない。

旧第九研は古式魔法師をある意味騙すような形で集めた。

ありとあらゆる古式魔法を集め、現代へと通用する、または現代魔法のスピードに劣らぬ魔法の開発を、と体の良い目的を掲げて。

だが、その研究結果が提供した彼らの下に返ってくることは無かった。技術だけが持っていかれてその後は何の音沙汰も無し。

彼らは提供するからには見返りがあるものと勝手に期待していたのだ。

彼ら各地の古式魔法師たちが実際どのような結果を求め、参加したのかは各々違ったのだろう。

だからこそ伝統派は一枚岩ではない。恨みという目的が同じだけの集団。各々目的も思想も違うからこそ同じ旧第九研に恨みを持つ古式魔法師であっても思惑はそれぞれ違う。

 

「水波は伝統派を知っているようだな」

 

深く考えていたらお兄様と水波ちゃんが会話を進めていた。

 

「はい。本家で注意すべき魔法結社の一つとして教えていただきました。旧第九研に裏切られた古式魔法師が十師族に対する報復を目的として集まったとか」

「報復目的と断定するのは言いすぎだと思うが、他は俺が知っていることと同じだ」

 

というか、水波ちゃんもきちんと四葉教育が身に付いてるね。そして四葉教育は偏ってるけどわかりやすい。

報復を目的としているというか、ほぼ八つ当たりだからね。九島を恨む理由も無ければ十師族を恨むのは完全お門違いの逆恨みだもの。

ただ自分たちが上手く利用されたことに気づけず、奪われつくし、その矛先をうまく立ち回った人間に向けているだけ。

その恨みを代々伝えて、勘違いを増長させ続けた。自分たちの失敗を認めたくない人間の妄執が呪いとなり継がれてしまった結果が、今に至るというわけだ。

それこそが彼らの強い結束となり原動力となってしまっている。

 

「それで彼らが俺たちを古式魔法師と勘違いした理由だが…深雪、先日人造精霊が家の中を探ろうとしていたのは覚えているか?」

 

おっと、私に質問が。お兄様としては私を放置していたとでも思ったのかな。意識を飛ばしすぎててすみませんでした。お話はちゃんと聞いてたんだけどね。

 

「はい、日曜日のことでしたね」

「その術者を師匠のお弟子さんが捕まえてくれたらしい」

 

先生のお弟子さんいいお仕事してる。街の警護も立派なお坊さんのお仕事…だったかな。

でも治安が守られることは良いことだ。これも修行だね。

 

「なるほど…それで私たちのことも八雲先生の身内として勘違いした、というわけですか」

 

監視していたのならお兄様が毎朝毎晩お寺に通ってるのがわかりますからね。

納得していると、水波ちゃんがもじもじと。いえ、見た目じゃなくて空気がね。

 

「水波ちゃんは何が気になっているの?」

 

訊ねると水波ちゃんは少しためらいがちに口を開く。

 

「なぜ、八雲様が当家を探っていた魔法師を捕えたりするのでしょうか?」

 

まあ、そう取るよね。この間の奈良とか随分便宜を図って貰ったりもしたもの。ただの弟子と師匠にしてはちょっと親しすぎる?

と思ったけれど彼女の視線を見れば、彼女の言いたいことはそう言うことじゃないということがわかる。水波ちゃんの目には疑惑の光があった。

お兄様もすぐにそれを読み取ったのだろう。…お兄様、こういうところの機微には敏感なのにね。

 

「いや、それは水波の誤解だ。俺も深雪も師匠の庇護を受けているのではない」

 

お兄様が単に体術を教わるだけでなくその庇護下にあったとすればそれは四葉家に対する一種の裏切りになるのではないかと水波ちゃんは考えたのだ。

うん。ちゃんと四葉の使用人だね。その辺りはしっかりとしている。

でもあくまでも先生は中立の立場であり、お兄様を特別に大事にしてくれているわけではない。…ということにはなっているけれど、その割にはだいぶ目を掛けていただいてますよね。

注視している、とも言うかもしれないけど。

 

「自分は坊主である前に忍び、というのが師匠の口癖だ。恐らく、『忍び』として自分の庭先を色々と嗅ぎ回られるのが放置できないんだろう。たとえ自分が探られているのではないにしても」

「そういうものなのですか」

 

縄張りに侵入されるのは忍びとしては気になるところではあるだろうね。

水波ちゃんはひとまず納得したようだ。

 

「今日の襲撃で分かったことが二つある」

 

お兄様は水波ちゃんの様子を確認してからまとめに入った。

 

「一つは俺たちが敵、恐らく伝統派の明確な標的になっているということ」

 

随分用意周到に狙われましたからね。そこは間違いないでしょう。

 

「もう一つは、敵が俺たちの素性を知らないということだ」

 

水波ちゃんが「あっ」と小さな声を上げる。

そうだね。素性を四葉だと知っていたならばあんな少数で狙われることもなかった。

 

「敵が文弥たちの後を付けてきたのはほぼ確実。文弥と亜夜子が『黒羽』であることも、黒羽が四葉縁の家であることも相手は知っているはずだ。少なくとも周公瑾は黒羽が四葉の裏仕事を担当していると知っていたらしい」

 

そう言うと、お兄様はふと急に笑いが込みあげたように失笑を漏らす。お兄様にしては珍しい姿だ。

 

「お兄様?」

「いや、すまない。『四葉の裏仕事』などと言うと、まるで四葉家が表の仕事を営んでいるような表現だと思ってつい笑ってしまった。気にしないでくれ」

 

…お兄様のこういうところ、可愛いとか思ってしまうよね。言ってることはアレなんだけど。変なところがツボに入る。

真面目な話なんだから和んじゃだめだ。気を引き締めないと。

 

「つまりこの家を四葉の関係者が訪問したと言うところまで分かっていながら、俺たちと四葉の関係については知らない。それどころか俺たちを四葉の配下にある魔法師と考えてもいない。四葉の魔法師と考えているなら古式魔法対策用の呪具は持ってこないはずだからな」

「つまり…私たちは四葉の配下である黒羽が雇った古式魔法師、と認識されているのでしょうか」

 

水波ちゃんはおぼろげながら危機感を抱いている模様。…本当、四葉の教育ってどうやってここまで染みつかせているのか。嗅覚が鋭いったら。

 

「そういうことになる。敵は俺たちの存在を知っていても俺たちの正体を知らない。俺たちがなぜ、黒羽から協力者に選ばれたのかわかっていない」

「それはつまり…敵の攻撃が私たち以外のものにも及ぶ可能性があるということですか?」

 

とはいえここがよくわからないんだよね。いや、敵が親しい友人を狙うかも、というのはわかるよ。身近な人間に手を出されたくなくばー、ってやつだよね。そこはわかる。

分からないのは、何故自分たちだけでどうこうできると思うのか、ということ。

確かに相手は高校生だよ。生徒会役員の高校生。だけど十師族名乗ってないけど成績優秀なのはちょっと調べればわかることのはずなのに。九校戦の記録は一般人でも見ることができるのだから十代だからと侮ることはあり得ないと思うのだけど。

実戦経験のないと思われる学生風情には負けない、とか?

それにしたって、学生大会で実力がすべてわかるわけではないがそれなりに腕が立つことくらいはわかるはずだ。

エンジニアとして裏方をメインにしていたお兄様だけど去年は急遽試合に出ることになり、魔法師界隈では名の知られた一条君と渡り合い、負傷したとはいえ勝ったのだからもっと警戒してもおかしくない。

その上あの四葉からの使者が依頼した相手だというのだから、何かあると思うのが当たり前じゃないのかな。

一般人に擬態してると思われてるから、人前で襲えば躊躇いが生じて隙が生まれるのでは、とか思われた?

黒羽の二人も四葉関係者とはいえ高校一年生で、野良魔法師だかの尾行に気付いてないと思わせることに成功したからだから侮られてるのよね。同じ学生だからこいつらもきっとこの程度、とか楽観視でもしたのかな。

だから計画はしっかり立てたけど少人数で襲ってきた、と。それで撃退されたから今度は本人じゃなく周辺を狙おうって?

…フリーの魔法師って私生活?擬態してる生活?が脅かされることってそんな怖いことなの?

確かに私たちのせいで彼らのうち誰か一人でも誘拐されたら大問題だけどね。

もし本当に私たちのせいで狙われたんだ、みたいな話になったら友情に亀裂が――入るかな?元々私狙われやすいって話してたからたいして理由を深堀もされずに納得されそう。

 

「そう、例えばエリカや幹比古が標的になる可能性は無視できない。ほのかや美月を人質にとるという展開もなくはない」

 

うーん、これもご都合主義なのかな。よくわからない。分からないことは悩んでいても仕方ない。

 

「叔母様か黒羽さんにご依頼して護衛を手配すべきではありませんか?」

 

とりあえず深雪ちゃんが考え付く守る方法を提案するも、お兄様は首を振る。

 

「叔母上に頼るのはやめておこう。護衛を頼んだつもりが囮に使われてしまいそうだ」

 

…お兄様が疑心暗鬼になってる?叔母様もよそ様のお家をトラブルに巻き込んだりは――四葉が有利になるなら、するかな。

今回はお兄様の手腕を見る為の試験でもあるからそういった仕掛けはしなさそうだけどね。

 

「では先生に?」

「高くつきそうな気がするんだが…やむを得ないか」

 

高くつきそうって…お兄様が先生に何を差し出すのだろう。労力?

 

「師匠のところへ行ってくる」

 

元々その予定だったのだろう。すぐに出られる恰好のお兄様は立ち上がった。

 

「先に休んでいてくれ。戸締りはしっかりな」

「「かしこまりました」」

 

水波ちゃんと声を揃えてお見送り。気をつけて行ってらっしゃいませ。

と、見送って水波ちゃんと一緒にリビングに戻りながら。

 

「あの、もしかしてなのですが、すでに明日の準備は…」

「ええ、終わっているわ」

 

あ、水波ちゃんがしょんぼりしちゃった。料理をしながらその可能性に気付いちゃった感じ?申し訳ない。

でもしてもらうわけにもいかなかった事情があるのでね。

 

「水波ちゃんはこれから?」

「はい」

「ふふ、頑張ってね」

「…はい」

 

明日は学校が普通にある。忙しいスケジュールだ。楽しいリニア旅行のため、頑張りましょうね。

 

 

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