妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

172 / 265
古都内乱編⑪

 

そんなことを話していたら玄関にようやく到着した。…長い道のりだったね。

水波ちゃん、この迷路道の順覚えられ…たかは聞かない方が良さそうだ。大丈夫、いざとなれば飛べばいいのよ。もし魔法が使えなかったら、まあその時はその時。何とかしましょう。力押しの深雪様が通ります。

応接室に着いた時には18時ぴったり。

うん、あそこのこそこそ話が無ければ一分早かったんだけどね。…違うか。私の手土産がいけなかったのだ。反省。

この後の会談の流れは原作と全く変わらなかった。

お兄様はこの世界の重鎮にも気圧されることもなく堂々と対応していた。…かっこいい。とても高校生には思えない貫禄まで見える。ご立派ですお兄様。

ここに人がいなければうっとり見惚れるんだけどね。残念だ。

そして対する妖怪ぬらりひょんこと閣下は好々爺のように見えるのに、只者ではないオーラが。流石魔法師界トップに君臨する人は違う。

回りくどく、けれども周の捕獲について個人的になら協力は惜しまないと約束してくれた。

周のことに関しては九島としても腹に据えかねているでしょうしね。追い出す、または倒すことには賛同する、と。

…というか、この件に七草も絡んでいたことを知っているでしょうに、そのことにはまったく触れない。本当に食えないお爺さんだよね。

この後七草を庇おうとして全部の責任を負おうとするけど、ごめんね。四葉はすでに証拠を掴んでいるし、今後もがっつり現場を押さえるつもりです。弱みはいくら握っていても良いから。

言い逃れ?させるとでも⁇七草家にはそこまで恨みはないけれど七草弘一は嫌う理由があるのでね。

九島閣下からの四葉のバックに誰がついているかという質問の際に、原作同様私は全く何も知らないと判断された。うん。知らないですよ。叔母様からそこまでは教えられておりませんので。

片眼のおじ様の存在なんてこれっぽっちも知りません。スルーしてくださいませ。

っていうか私って深雪くんって呼ばれるのね。九重先生と同じ。そっちに意識いっちゃった。

適当にお嬢さんとかそんな感じで呼ばれるかと思っていたのだけどね。私のことはただの添え物程度にしか思ってなかったでしょうに。

でも一応次期当主候補だからチェックしてるってことかな。本当、食えない爺さんってこういうことを言うんだろうね。抜け目ないったら。

…こんな人があっさりと殺されるなんて、日本にとって損失だよね。

これから会うだろう男の子に、そんなことを、身内殺しをさせたくないとも思う。

話は終わり、応接室を辞して藤林さんに夕食に誘われた。

もうすでに用意してくれているみたいなので、断る理由もなくそのままご相伴に預かることとなった。

どこもかしこもお金持ちの豪邸ってこんな感じの造りだよね、という部屋をいくつか通り過ぎて付いたのは少しホッとできるカジュアルな一室。親に連れてこられた子供たち用の気楽にくつろげるお部屋なんだって。そのためにお部屋を作ってしまうお金持ちのおもてなしってすごい。

九島家って本当にいろんな家とコミュニティを築いてたんだなってことが良くわかる。

四葉には威嚇する部屋しかないもの。威嚇、威圧、高圧的。…私の根が庶民だからそう感じるだけかもしれないけど。

藤林さんがホスト役を務め、食事が来る前まで飽きさせないよう皆にお話を回す中、ノック音が響く。

 

「入って」

 

藤林さんの声は使用人に向けられているとは思えない優しい声色で、ついに対面か、とドアに注目した。

 

「失礼します。あの、お爺様が皆様とご一緒させていただきなさいと…」

 

 

その瞬間、光が入ってきたのかと思った。

 

 

眩い、輝かんばかりの美貌とはこういうことを指すのか。圧倒される暴力的な美と、初めて対面で向かい合った。

白皙の美貌。彫刻のような完成された美のようであるが、彼はパチリ、と瞬きをし、ほう、とため息を漏らす。

 

生きている。

 

生きて、いる。

芸術作品のように美しい彼が、生きて動いていることがとても奇跡に思えて感動すると共に胸が苦しくなる。感情のコントロールが利かない。

彼に魅入りながらもたくさんの感情が体の内で渦巻いていた。

この中で一番大きなうねりをみせている感情の名は――庇護欲。

ただ美に対しての感動は初めだけ。次第に抱くのはこの傷つき憐れな生き物を慈しんであげねばならないという、強制的な母性本能のような――

 

「――き、深雪」

「光宣くん、何時までそこに立っているの?」

 

お兄様の声に反応できたのは深雪ちゃんボディのお陰だ。

お互い、どのくらいの時間見つめ合っていたのだろう。

気を抜けば零れ落ちそうになる涙を引っ込めて、目を閉じて心を落ち着けてからお兄様に大丈夫だと微笑みかける。

大丈夫、引きずられたりはしない。

淑女はこういう場面で微笑んでこそ。取り乱して本心など見せることはない。

藤林さんに声を掛けられて、世界一の美少年は自身を取り戻し顔を赤らめて慌てたように謝罪した。

 

「すみません!」

 

年相応の慌てぶりだ。そこには親しみやすさまである。

…そこが深雪ちゃんとの違いだろうか。彼には愛され弟属性が付与されているように見える。

対する深雪ちゃんに付与されているのは桐箱入りお嬢様属性。つまりおいそれとお近づきになれそうにない、とっつきにくさがあった。おかしいな、可愛がられる妹属性があっていいはずなのに表立たない。

何でだろうね。深雪ちゃんスマイルでにっこり笑うとオーラが出るのか誰も触れられない結界でも張られたかのように距離を取られる。おかげでわずらわしさからは解放されるけど。

そんな私と違って、彼がにっこり笑うと同じく誰も近寄れないけど、きゃあ!とファンが生け垣を作って囲むイメージ。

私と彼では決定的に何かが違う。…これが九島と四葉の違い?コミュニケーション力の差が出てる⁇

そんなバカなことを考えていると美少年、光宣くんはとことこと(実際そんな可愛い音してないけどね、雰囲気です)やってきてテーブル越しに挨拶を。

 

「はじめまして」

 

声はまだ動揺しているようだけれど、礼儀正しく自己紹介をしてくれた。

 

「九島家当主、九島真言の末子、第二高校一年、九島光宣です。司波達也さん、司波深雪さん、桜井水波さん、お会いできて光栄です」

 

名前を呼ばれたことに水波ちゃんがパッと顔を赤らめた。先ほどまで魅入っていて動きらしい動きも無かったのだけれど、挨拶をされ、名を呼ばれたことで現実に戻ってきたのか。

それにしてもその初々しい反応に心の中のおばさんの私が騒ぐ。

 

(あら、あらあらあら!水波ちゃんにも春がやってきたのね!)

 

可愛い。とても初々しい年相応の可愛らしさ満点の反応に胸がきゅんきゅんときめいた。

 

「はじめまして、司波達也です」

 

お兄様が立ち上がって礼に応じる。私もお兄様に遅れることなく立ち上がった。

原作では深雪ちゃんはここで警戒心を抱いていないような態度で笑みを浮かべて返すとあったのだけど、私はそもそも彼に大して警戒心を抱けなかった。心から、微笑みかけていた。

 

「妹の深雪です。光宣さん、私たちのことをご存じなのですね」

 

光宣くんはその超美少年さを感じさせない、これまた年相応な照れた反応を見せる。

神秘的なオーラが鳴りを潜め、親しみやすさが溢れていた。それでも彼の美少年さは損なわれることはない。うん、美少年だ。超絶美少年。

彼の前で老若男女など関係ない。皆平等に彼に見入るだろう、そんな美貌だ。

深雪ちゃんボディでなかったら水波ちゃんのように夢うつつのように見入ってしまっていたかもしれない。

あれだ。彼は例えるなら乙女ゲーの正統派王子様ヒーローだ。全教科、全パラメMaxにしないとお付き合いすらできないラスボス的難敵の攻略対象。二周目にならないと攻略できない。

一条くんも系統的には王子様だけど、彼はどっちかって言うと勇者的な王子ヒーローだ。同じロイヤルな王子タイプでも枠組みが違う。

彼も攻略するにはパラメがある程度高くないとだめだろうけどね。…ってついついゲーム脳が。

 

「皆さんのご活躍は九校戦で拝見しました。あっ、僕のことは光宣と呼んでください。僕の方が年下ですから。敬語も無しにしていただけると嬉しいです」

 

…こういうところかな、私と彼の違いは。

十師族の家で育っているというのにとっても謙虚。そしてこのはにかんだ笑み。

光宣君は次期当主でもないのでそういった教育を受けておらず、感覚的には普通なのかもしれない。

病気がちで家族以外と接触してこなかったことによる対人スキルの経験不足も主な理由でもあるだろう。

私は深雪ちゃん、とはこういうキャラだと固定概念もあったけど、これでも一応次期当主候補だからね。淑女たれ、と育てられたことも影響しているのだろう。隙があるような態度を見せるというのはというのはたとえ見せかけでも難しい。

 

「では『光宣君』と呼ばせていただきますね」

 

そう微笑みかければその白皙の貌に朱を走らせて目が泳いだ後、逸らされた。…自分だって超絶美少年なんだからそんな反応じゃなくてもいいのにね。

初心な反応がまた胸をきゅっと締め付ける。藤林さんといい、この二人は私のツボを押しまくる。危険だ。すぐメロメロになっちゃう。ここは安全地帯ではないのだから気を引き締めなくちゃ。

心の中で気を引き締めているといきなりガタガタっと隣から珍しく水波ちゃんが音を立てて立ち上がった。

あ~。光宣君見てずっと固まっちゃってたもんね。視線が逸れたことで再起動できたのね。良かった。

 

「失礼しましたっ!ご挨拶が遅れました!桜井水波と申します。よろしくお見知りおきくださいませ、光宣さま」

「あ、いえ、ご丁寧にどうも。ただ、できれば光宣さまというのは…」

 

うん、いきなり同い年の女の子に様付けは気まずいよね。彼女は九島家に仕えるわけでもないのだから。

ガッチガチの水波ちゃんの挨拶に光宣君も丁寧に返しつつ戸惑っていた。無理もないけどね、水波ちゃんもこうなっちゃうと折れないから。

 

「光宣君。申し訳ないが、これは水波の習慣というか、性分だ。大目に見てやってくれないか」

「はあ、そう仰るのであれば…」

 

お兄様から下手に出られたら彼も妥協するしかない。戸惑いながらも了承の言葉が返って来た。

ありがとうございます。

ごり押しの四葉と柔軟な九島。やっぱりコミュニケーション能力が高いのは九島家だから説が有力になった瞬間でもあった。

 

 

――

 

 

学年こそ二年生と一年生のペアだけれど、お兄様だけが17歳、あとは16歳の同年代同士ではある。

あるんだけど…水波ちゃんがド緊張しちゃうのはわかるんだけど、光宣君までこんなに緊張しちゃうとは。原作にもあったけど、ここまでかぁ。

今まで学校にも大して通うこともできずに、家族とも会話がほとんどできない状態の彼には同年代ばかりというのは難しいのかもしれない。

七草家の双子ちゃんとは交流があったはずだけど、あちらもあちらでコミュニケーションレベル上級の七草だからね。大して経験値は稼げないだろう。美形耐性は上がるだろうけどね。

あの二人もうちの高校ではデビュー間違えてお兄様に襲い掛かったり、私に襲い掛かったり?して、コミュニケーション上手とは思えなかったけどアレはきっとイレギュラー。

クラスでは人気者っぽいことは水波ちゃんから聞いてます。

 

「光宣くん…お見合いじゃないんだからそんなに緊張しなくても」

「えっ、あの…すみません、響子姉さん」

 

光宣君、響子姉さん呼び。普段から仲が良いのがこの短いやり取りでわかる。コミュニケーションレベルが低くとも、特に気にかけてくれる相手に懐かないわけがないもの。

しかし頬に朱を走らせた美少年が縮こまって戸惑う姿は、世の女性たちのみならず、まだ大人になり切れていない女の子にも母性本能を芽生えさせるほど恐ろしい魅力がある。

彼の場合下手すると男性でも芽生えるよ、母性。父性じゃない、母性本能。

 

「水波ちゃんも…。いきなり打ち解けるのは無理でしょうけど、もう少し肩の力を抜かないと。いつも一生懸命な貴女にはこの場は緊張してしまうのかもしれないけれど、お食事中に緊張しては消化に悪いわ。せっかくのお食事をもう少し楽しみましょう」

「…すみません、深雪姉様」

 

礼儀に適ってないと叱ることもこの場を緊張させてしまうから、食事を楽しもうと声がけしたけど…水波ちゃんきっと味もわかってない状態なんだろうなぁ。今日は勉強になる味付けがいっぱいなのに。

素材の味を生かす主張の目立たない出汁だけど、これどうやって取ってるんだろう。プロの味。

 

「そう言う深雪は食事がとても気に入ったんだね。目が輝いているよ」

 

あら、お兄様からこちらにパスが。空気を変える為私に一肌脱げということですね。

 

「まあ、お兄様ったら。そんな言い方をされては食い意地が張っていると思われてしまうではないですか。もちろんお食事はとても美味しゅうございますけれど、これはどのように出汁を取られているのかが気になったのです」

「…深雪さん、出汁にまで興味が?お菓子作りだけじゃなかったのね」

「深雪の作る食事はどれも美味いですよ」

 

お兄様のドヤ顔(妹視点)に、藤林さんはオーバー気味に呆れた表情を作られて。

 

「出た。達也くんの深雪さん自慢。そうやってすぐマウント取ろうとするんだから」

「そんなつもりはありませんよ。ただの事実です」

 

スパッと言い切るお兄様にご不満といったご様子に口を尖らせる藤林さんが大変可愛らしくてですね。

どぎまぎしちゃう。それを誤魔化すようにお兄様に視線を向けてお兄様のシスコン発言を止めねば。

 

「お兄様、その辺にしてくださいませ。この料理を前にして美味しいと言われてもお世辞にしかなりませんよ」

「そんなことはない。お前の料理は俺にとって世界一美味しい料理だよ」

「…もう、お兄様ったら…」

 

止めるのが遅かったのか、誘導を失敗したのか。お兄様が微笑みと共に最上級の誉め言葉を口にされた。

 

(うう…冗談ばかり言って、と返したいところだけれど、このお兄様本気だ。本気で言ってる…)

 

恥ずかしがって俯くとクッと笑い声が。…光宣君だ。

口元を押さえて堪えようとして失敗しちゃったんだね。

お兄様に向けられた視線に顔を赤らめていたけれど、笑いはなかなか収まらなかった模様。一体何がそこまでツボりました?

 

「す、すみません。響子姉さんが拗ねる姿も、司波さんが自慢げなのも意表を突かれまして」

 

あらぁ。言われてますよお兄様。

 

「こちらこそ、兄が悪ふざけをしました」

 

全てをお兄様のせいにして謝罪をすると、光宣君は頬を弛めて。

 

「いえ…。司波さんはご兄妹、仲が宜しいんですね」

 

緊張は多少解れたようだけれど、なんだか諸刃の剣だったというか…恥ずかしい所を見られてしまった感が。

 

「仲が良すぎて困っちゃうわ」

「藤林さんを困らせた覚えはありませんが」

 

私たちの仲ももちろん良いけど、藤林さんとお兄様の仲も良いよ。見て、この掛け合い。

光宣君はそのやり取りを見て笑っていたけれど、すぐに寂しそうな笑みに変わる。

 

「少し、羨ましいです。僕は兄さんたちと年が離れているのであまり話をすることが無くて。それに僕には友達もいませんから」

 

こうして仲良くしゃべっているのを遠目でしか見たことのない彼には羨ましい光景だっただろう。

体調のせいで学校にもほとんど通えず、通ったところであまりの実力の高さと美貌に遠巻きにされる。そんな様子が簡単に想像できた。

ただでさえ常に十師族という看板もついて回るしね。でもね。

 

「光宣君にお友達がいないだなんて信じられませんわ。こんなに親しみやすい雰囲気をお持ちですのに。光宣君を見ているとこちらから仲良くなりましょう、と言いたくなります」

 

私と違って光宣君には親しみやすさ、というか隙がある。近寄りがたい雰囲気ではあるけれど、彼自身人好きなんだろうな。

 

(好奇心があるから緊張さえ無くせばバリアは薄いと思う。人見知りなんじゃない。人に慣れてないんだ)

 

彼を取り巻く環境と事情を考えれば察せないことではない話だった。

 

 

NEXT→

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。