妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
翌朝、早い時間にホテルをチェックアウトして目的地へと向かう。
今日は動き回る予定なので深雪ちゃんには珍しいパンツルックだ。防寒というより風を防ぐのに優れたパンツ。そして動きやすさ優先。
おかげでちょっとぴったり目なのだけど、そこはロングニットでカバーだね。
水波ちゃんも同じくパンツルックだけど彼女の場合体のラインを隠す余裕ある服だった。うん、実戦向き。何か仕込みがありそう、とは四葉だから思いつくこと。普通に見ればユニセックスなコーディネートに見える。とはいえ彼女の体格から女の子ということはまるわかりだが。
荷物はすでに奈良駅に発送済み。一泊だから大した荷物ではないけれど、持って歩くのは邪魔だからこういうホテルのサービスはありがたいね。
こっそり四葉系列なので何かされる心配もない。こうやって四葉はいろんなところに根を下ろしております。奈良や京都は場所柄少ないのだけれど…恐ろしいったら。
昨日に引き続きやってきた九島邸にはすでに張り切って待ち構えている光宣君の姿が。
朝7時を回ったばかりだというのにすっきりお目覚めできている模様。調子がいいようでなにより。
微笑みかけると照れながらもはにかみが返ってきた。
ちょっとまだ慣れていないようで頬が赤くなるようだけど、こればかりは回数を重ねないと、学習能力の高い彼であっても難しいらしい。
「おはようございます。朝食はお済ですか?」
「おはよう光宣君」
「大丈夫です。済ませてまいりました」
ホテルの朝食ビュッフェってちょっとした楽しみよね。盛り付け方にその人の個性が出るっていうか。
お兄様はね、かっちり定食風に選ぶ。多分考えるのが面倒だったのだろう。水波ちゃんはその土地にしかない珍しいものにもチャレンジ。私もその土地のものをチョイスするタイプです。
パンを選ぶ時はバターが美味しそうかどうかで判断。今日はパンにしました。流石四葉。バターへのこだわりも素晴らしい。好き。
安めのホテルでもこのレベル。でも以前泊った先生が予約してくれたホテルと種類は違っていたけれどこれまた高品質。…一体何社と契約しているんだろう。今度調べてみようかな。
光宣君が聞いてきたのは、もし食べてなかったら家でどうかってことだったみたい。気遣いが凄い。
光宣君も食べてきたとのことなのでこのまま出発することに。
原作では偵察予定の京都での場面で、深雪ちゃんの観光したいオーラによりお兄様が予定を変更してしまうことがあったけれど、お兄様の完璧な予定を崩してしまうことは本意ではない。
観光は好きだけれど、また別の機会に…って、次期四葉当主の深雪ちゃんにもうそんな機会は巡ってこないのかも。
次期当主として発表されたら当主になるまでにお勉強として各地に挨拶には行けるだろうけど、せいぜい視察と称してホテル周辺回るくらい?
その時についでとして観光できればベストだけど、顔が売れちゃうとちょっとした外出も難しくなるよね。
四葉ってだけで警戒対象だし、狙われ放題だもの。
残念だけど、実際観光しなくてもいくらでも観光した気分を味わうことならできるから。やっぱり観光無しルートで行こう。
京都もそうだけど、この奈良でもね。私が観光したいオーラ出したら、もしかしたらここでもルート変更されちゃうかもしれないから。気をつけねば。
そう気合を入れてる間に準備が整って出かけることになったのだけど…光宣君、背後のリムジンがとっても似合うね。
お兄様と水波ちゃんもちょっと驚いている。
目立たない外出の予定だったからそう驚くのも無理はない。リムジンは、どうあっても目立つ。
だけど光宣君の様子に揶揄いや意地悪な気配は全くない。彼にとって
運転手のおじ様は、お付きの人ってこうだよね!というロマンスグレーの似合うおじ様でした。
この人も隙が全く無い。護衛も兼ねた運転手さんなんだね。今日一日よろしくお願いします。
車に乗り込んだところで光宣君の袖口からチラリとCADが覗く。
じっと見つめると彼も気づいたようで照れたようにはにかむ。
美少年の朝からの微笑み、眩しいね。キラキラ光線が出てる。水波ちゃんと一緒にまぶしー!と目を細めた。
「これですか?99個じゃ足りなくて…。類似の起動式を整理すればいいのはわかっているんですが、なかなかいい技術者が見つからないんです」
チラリともう片方の腕を翳してもう一つの腕輪型も見せてくれた。
その素晴らしい技術者はあなたのすぐ目の前におりますよ。私の自慢のお兄様なのですがね。
彼も私と似た悩みを抱えていた。いくら才能があっても道具に恵まれないとすべてを使いこなすことはできない。
私にはお兄様が居たので整理も何もかもお任せしてます。
…一応自分でもこうした方が良いんじゃないかって相談することはあるんですけどね。
お兄様の方が大抵先に気付いてしまったりする。…私より私の魔法に詳しいお兄様です。
「両手でCADを操作するのは大変だったんですが、FLTが思考操作型補助デバイスを開発してくれたおかげで随分楽になりました」
「光宣君、FLTの完全思考操作型CADをお使いなのですか?」
「ええ」
そう言って今度は首にかけられたチェーンを手繰り寄せてメダル型のCADを私に見せてくれた。
おお。それは間違いなくお兄様の開発されたデバイスですね。今私の首にも、そして見えないけれどきっとお兄様の首にもかかっています。お揃いだね。
「この補助デバイスは素晴らしい製品です。これを開発したトーラス・シルバーは紛れもない天才ですよ」
あら、あらまあまあ。光宣君は興奮交じりに憧れだと尊敬を滲ませて熱く語ってくれた。
こんな間近にご愛用者様がいたようですよ。お兄様を見たいけど、ここで怪しい動きは取れませんからね。
そうなんですね、と無難に微笑ましく見守った。
なんていうか背が高いけど手を伸ばしてでも撫でてあげたくなる愛嬌というんですかね。
このとってもいい子なゴールデンレトリバーを撫でてあげたい。でもまだ会って二日で撫でまわすのって良くないよね。我慢。
…って、そうじゃない。違うよ。そもそも男の子を撫でまわそうっていう発想自体よろしくないのです。気をつけねば。
それから移動にしばらく時間がかかるようで、光宣君から伝統派講座が行われた。
伝統派とは何か知っているかの問いに答えたのはお兄様だ。
旧第九研に参加していたものの、あてにしていた成果が得られず、研究所閉鎖後に逆恨みで流派を越えて無節操に結託した古式魔法師の集団だと。
…お兄様のまとめが皮肉に塗れてますが、この言い方が意外にも光宣君にはウケたらしい。
概ね正解だと笑って答えた。彼も案外いい性格をお持ちのようだ。
そうだね、生まれる前から伝統派に迷惑を掛けられ続ける家に生まれて純粋な天使のまま成長するなんてあり得ないだろうから。
裏事情にも詳しい美少年…最強チートって性格も一癖二癖ないといけないって決まりでもあるのかね。あった方が安心ではあるのだけど。ただ純粋な子だと操られてお終いパターンだからね。
そこからお話は伝統派なんて名ばかりで、実態は『異端派』や『外法派』だと光宣君は言い切った。
九島家としてはかなり迷惑を被っているんだろうね。
古式魔法師は古くから権力闘争の陰で力を発揮していたのだというきな臭いお話に。
呪殺とか、まあ陰陽師とかそういうお話よく耳にするよね。
古くからそういう呪術とか信じられていたし、占術は武将たちがこぞって利用していたとも文献で残ってもいたからね。
光宣君は学校に通えない間、家にあるそういった記録に目を通して育ったみたい。
「少なくとも旧第九研に参加した古式魔法師がそう語っていたという記録は残っています。魔法で直接生命活動を停止させる文字通りの『呪殺』ではありませんが、幻覚により自殺に追い込んだり物質遠隔操作により刃物による自殺に見せかける術は実演の記録があります」
暗殺で証拠が出ない方法が一番だからね。魔法師はその界隈では重宝されたことだろう。
「…殺したのですか?」
水波ちゃんは四葉の教育を受けているけれど、中身は普通の女の子の感覚を持っている。それはとても稀有な存在のようにも思う。
清濁を飲み込めると言っても心までは染まり切っていない。
嫌悪を滲ませる彼女の手を取って両手で挟んで膝の上へ。
時の権力者と暗殺は切っても切れない関係だ。関西で古式魔法師が生き延びていた理由が歴史を思えば良くわかる。
でも、そんなこと心優しい女の子には関係ないのだ。
落ち着いて、とやんわり忠告するように、けれど安心させるようにと、ちょっと複雑な笑みではあるのだけど、眉を下げつつ微笑みかけると、水波ちゃんは己の感情を優先してしまったことに気付き、気まずそうな表情になってそれ以上は口をつぐんだ。
男子二人はこういうお話は割り切ってできるタイプ。
「記録が虚偽でなければ」
「水波、光宣君が命じたわけではない。その程度のことはわかるはずだ」
そしてお兄様は水波ちゃんのガーディアン教育係でもあるのでしっかり指導。
水波ちゃんは自分の発言が光宣君を非難してしまっていたことにも気が付いて慌てて謝罪した。
光宣君の話はもうずっと昔の話。過去のことを今更言ったところでどうにもならないのだから。
「申し訳ございません、光宣様」
「いえ、僕も無神経でした。ここで口にする必要のない話でしたね」
光宣君の口調にも若干の固さがあることから、彼は九島家の者としての自覚があり、直接的に関係は無くとも自身の身内が非人道的行為を行っていたことに対する罪悪感を持っているのか。
ただ、水波ちゃんとの違いはそのことに囚われていないこと。ただ病気がちで家に籠って嘆いているだけの男の子ではない、きちんと物の道理を理解している。
魔法力も高く、知恵も回る――これは閣下が惜しむはずだ。
これで健康であったならお兄様、一条君と並んで日本の守りとなっただろう。
爺ばかでなくともうちの子世界一!と思うほど、彼の能力は高い。だから余計に悔しいだろう。
閣下も、――そして何より、本人が一番、思うように動かない体を憎んでいるかもしれない。
この光宣君の話が何処に繋がるかと言うと、時の権力者たちの手先になった者たちと、その争いに敗れそれでも力を捨てられず地下に潜り細々と生きてきた者たち――汚れ仕事を率先して行ってきた連中が母体となってできた集団、それが伝統派であり、かつての栄光に縋ったままだから京都、奈良という都から離れられないでいる…という纏め方だと私の邪推も混じっているかもしれないが概ねこんな感じだと思う。
そんなわけだから彼らの潜伏先は読みやすいらしく、元々所属していた正統派の拠点のすぐそば、裏側と呼べる場に居座っているのだとか。
「有名な寺院の近くということか」
「ええ、真面目な宗教家の皆さまには迷惑なことに」
二人が顔を見合わせて笑う。
その薄っすら浮かべられる笑みは今まで話した内容を纏めてたことによって生じたモノなのだろうけど、うん眼福!…じゃなかった。
性別をも超越する麗しい光宣君の笑みと、男臭いお兄様の笑みに類似性など全くないはずなのにそっくりに見える。
まるで母とお兄様が揃った時のよう。
彼らの心が通い、共通の認識を抱いたってことなのか。
…だとしてもいい光景です。美しい。合掌。心の中でしっかりと拝んでおいた。
今日の日程を概ね話して奈良駅から帰ることを確認した光宣君は、ならば、と今日のコースを提案する。
「奈良で最も大きな伝統派の拠点は春日大社から少し奥へ行った所にあるのですが、奈良駅の近くですからそこは最後にご案内するとして、最初は葛城地方へ向かうことにします。奈良地方南部は伝統派も大人しい地域なのですが」
「そうだな。念のためだ、頼む」
「お任せください」
美少年の顔が今日一番に輝いた。
――
葛城古道に到着。のんびりしている時間はないのでリムジンで乗り付け、ロボットスクーターに乗ることになったのだけどここでひと悶着。
私と水波ちゃんは免許がないので当然相乗りをさせてもらわねばならない。
水波ちゃんが恐れ多い、と私に縋るがお兄様が水波ちゃんとペアを組むことはないだろう。
お兄様と水波ちゃんのガーディアン二人が纏まって護衛対象が離れるってことはまずないので。
というかお兄様が私から離れて、というのがそもそも想像がつかない。
頑張れ水波ちゃん。
「水波ちゃん、貴女は私のガーディアンとしてしっかりと務めを果たしてちょうだい。…これは修行だと思って」
「っ…はい!」
うむ。仕事モードに切り替えることで乗り切れる窮地もあるから。頑張って。スイッチを身に付けるのよ水波ちゃん。
「話は纏まったか」
「ええ」
そうよ、水波ちゃん。割り切るの。
目の前で水波ちゃんが光宣君の横であたふたとしているのを見守りつつ――
「深雪、そこでは手が冷えるだろう。俺に掴まっていると良い」
安全バーに掴まろうとしたらお兄様にその手を取られました。
どうお兄様に掴まれと?
「ほら、ちょうど帰ってきた彼らもああしているだろう」
……ええっと、それは横を通り過ぎた、自分たちの世界しか認識できていないラブラブカップルさんのことでしょうか。
観光地に来ているのに景色を見ないでイチャイチャしていたようですね。今も二人の世界。安全バーなんて存在が無視されてます。
「カップルのようですが」
「誰も俺たちを見て兄妹だとはわからんだろうからな。それよりも深雪の手の方が大事だ」
確かに私たちを見て兄妹だとは思われないでしょうけれども。
でもダメもとでもう一度抵抗チャレンジを。
「あれではハンドル操作に支障があるのでは…」
「俺がそんなミスをすると思うか」
…思いませんねぇ。
無念だが作戦は失敗に終わった。
「光宣君たちが行ってしまうよ」
…水波ちゃんに言った手前、主の私が割り切れなきゃ見本にならないよね…。水波ちゃん、私、頑張るよ。妹を全うするよ。
「…失礼します」
「慎み深いのは深雪の長所でもあるが、それでは不安定だろう。もっとバイクの時みたいにしっかりと掴まりなさい」
「バイクほどスピードは出ないのでしょう?」
「お前には残念なことに、スクーターだからな」
なのに、抱きつくようにしろと。
「正直に言うと少しくすぐったいんだ」
…再度安全バーという選択肢、とちらっと見るけれどお兄様の視線がね。それはダメだって。
このまま擽っちゃおうかしら、と邪な考えが浮かぶけれど、すぐに逆襲の二文字が脳裏をよぎった。…大人しくお兄様の指示に従うしかないようだ…。
原作同様お兄様の腰に抱きつきながら目的地へと向かった。
前途多難の旅の始まりに、不安を抱かずにはいられなかった。
NEXT→