妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編⑰

 

 

昼食を食べ終えた後の光宣君は少し浮かれた様子でご機嫌に尻尾を振っていた。もうね、幻視じゃない。振ってるよ。風を感じます。

お散歩楽しい!と尻尾フリフリの彼の先導で葛城古道から離れて、橿原神宮から石舞台古墳、天香具山へと案内してくれた。

それらは全部空振りとなり、結果ただの観光名所巡りとなったけれど、光宣君との話はお兄様にも未知のモノが含まれているようで、興味深そうに光宣君の話を聞いていた。

そして三時を回った頃、奈良公園へ到着。

鹿が自由気ままに歩いたり寝そべったり。鹿煎餅は買わずに遠巻きに見つめるだけだけれど、水波ちゃんとほっこりしながら彼らの様子を鑑賞している傍で、お兄様はこんな街中に拠点があるのかと驚かれていた。

 

「いえ、伝統派の本拠地の一つとも言える大規模拠点があるのは御蓋山の中です」

「御蓋山は神域、いや、それ自体が御神体で、限られた観光ルート以外の立ち入りは禁じられているのではなかったか?」

「人が近づかない、神聖な場所だからこそ自分たちに相応しいと伝統派は考えているのでしょう。正しい魔法を伝える自分たちにこそ神の腕に抱かれその恵みを受ける資格があるとでも思っているのではないでしょうか」

「木を隠すなら森の中、だと思うがな…わかった、案内してくれ」

 

またもリムジンで移動するけれど昔と違い、山に車が入ること自体ができなくなっていた。

面白いもので、魔法という非科学的な力が表沙汰になったことによって人々は忘れかけていた『畏れ』――神や仏と言った存在を思い出したのだそう。

神々の坐す山々を踏み荒らすことなどできない、と車などで我が物顔をして通ることをしなくなった。登山信仰が戻ったということみたい。

徒歩移動となり、初めは先陣を切って光宣君、お兄様、私、水波ちゃんの順だったのだけど、気が付けば隣はお兄様にキープされ、その後ろに水波ちゃんと光宣君となっていた。

あれ?私さっきまで水波ちゃんとおしゃべりしながら歩いていたと思うのだけど。気付いたらお兄様がまたも観光ガイドよろしく色々と教えてくれる。

私もただ聞くだけでなく時折合の手のように言葉を挟むのだけど、うん、何故お兄様は密着されるのでしょう?人通りが多いから?

確かに視線はたくさんきますけれど、この組わけだとまたダブルデート扱いになってませんかね。

水波ちゃんが時折、お兄様に近すぎると注意を促してくれるのだけど、お兄様は訊く耳を持たない。

怒れる水波ちゃんを抑えるのは隣の光宣君の役割になっていた。

光宣君に声を掛けられると水波ちゃんはふしゅう、と耳を赤くして音を立てて力を失っていくのが水波ちゃんには悪いけどちょっと面白い。

だけどお兄様が私に対して「よく勉強しているね」と頭を撫でるたび、光宣君から微笑ましそうに向けられる視線は居た堪れなかった。多分私もなっている。ふしゅう。

しばらくそんな感じで歩いていたのだけれど、遊歩道の手前でお兄様の腕が腰から離れた。私は不自然にならない程度に一歩後ろへと下がる。

人気が徐々になくなり、あんなにたくさんいたはずの観光客の姿が一人もいなくなっていた。

背後の光宣君も辺りを警戒し、水波ちゃんは私の近くに控える。

 

「精神干渉魔法――結界だ」

 

お兄様の言葉に集中して気配を探ればうっすらと微量な想子の動きが感知できた。薄いヴェールのような膜のようなものも感じられる。…原作で知ってはいたけれど、人の減少になかなか気付けなかった。

精神干渉には強い耐性を持っていても、このありさまだ。警戒していたはずなのに、悔しい。

場所とタイミングはわかっていたはずなのに、その意識すら逸らされていたというのか。

おそるべし、古式魔法。

 

「高位の結界術者がいるようですね。魔法の出力を最小限に絞って、ギリギリまでこちらに気付かせないようにしていたようです」

 

つまり、弱い意識誘導をじわじわと仕掛けられることで抵抗を意識することもなく術中にはめられたということ。

高威力であれば私が気付かぬわけがない。だがこの魔法は現代魔法にある遅効性とも違う。

気づかせないことに特化した、じわじわ浸食させていくタイプ。気が付いた時にはもう遅い、といういやらしい罠。

…これは常に空気の濃度を察知できるレベルでないと見破れない。

そしてそんなことをしていたら、私はきっと体がもたないだろう。ずっと何かしらを感知している状態になってしまう。…何か他の破る手立てを考えないといけないだろうね。

そんなことを考えている間に光宣君が言葉巧みに敵を挑発してあぶり出していた。

 

「水波!」

「はいっ!」

 

お兄様と水波ちゃんの連携が敵の攻撃を阻む。

水波ちゃんの展開した障壁に弾かれ地面に転がったのは極小の矢。金属製なのか高い音を立てて転がった。

射手は見つけたけれど、その時にはすでにお兄様が相手を地面に転がしていた。

上がる野太い悲鳴は四肢を分解魔法によって撃ち抜かれたから。

お兄様仕事が早い。

頭上の想子の揺らぎを察知するのは私の方が早かったと思う。直前の気づけなかった魔法が悔しくて感度を上げていたからすぐに気が付いた。

それは吉田くんがよく使用する雷撃の精霊魔法によく似ていた。

打ち消そうと操作する途中、お兄様が術式解散で掻き消す。

お兄様鬱憤でも溜まってた?とても攻撃的。

でもこれくらいなら任せてほしかった。私と水波ちゃん、そして光宣君も十分に彼らに対抗できる強さがある。

その証明をするためにも。

 

「お兄様、こちらは大丈夫です!」

 

領域干渉には自信がある。たとえ見知らぬ古式魔法が相手であろうと、絶対の法則は破られない。

深雪ちゃんによる強力な力場は魔法攻撃に対して圧倒的な防御を誇る。何物も通すことはない。

まずは光宣君と水波ちゃんの魔法を邪魔しないよう自分の周囲に円柱をイメージして。

続けて上下にそれを伸ばして頭上には横に広がる様に。下の方には薄い円盤状に広げて。

カクテルグラスと呼ぶには少し不格好な上下のバランスの悪い形だけれど、これだけ広ければ私たちに精霊魔法の攻撃が通ることはない。

もし横から攻撃が水波ちゃんに向かってきても、一瞬にして守れる範囲にいる。問題はない。

 

「すごい…まるで聖杯だ」

 

彼の言葉には感動が込められていたけれど、こんな不格好なものをそんなすごいものに例えていいのだろうか。

でも大げさに言ったわけでもなく純粋に褒められていることはわかるのでツッコまない。

暫し、私の魔法に目を奪われていた光宣君は隙だらけに見えたのか攻撃が殺到したが、彼は動揺することもなく攻撃を繰り出される方向に向けて歩き出していた。

私たちの傍から離れたのは、こちらが大丈夫だと判断したからのようだ。

遊撃に出たお兄様の代わりに私たちを守ろうとしてくれていたのだ。紳士だね。

光宣君の歩く先はお兄様とは逆の方向――うっすらと感知できるようになったヴェールの魔法を使っている魔法師に向かっていた。

水波ちゃんが、無防備すぎる、と焦って止めに動こうとするのを引き留める。

 

「深雪姉様、」

「大丈夫よ」

 

その必要は全くない。

なぜなら彼はすでに――魔法を展開しているようには見えない。私の感覚をもってしても、彼はそこにいる。けれど――秘術が発動されているはずだ。

先ほど私たちに向けられたものとは比べられない量の想子が彼の周りを取り囲む。

そして雨のように雷が降り注ぎ、火が、風が、音が彼に襲い掛かるが、いくら貫かれようが、切り刻まれようが、彼には何のダメージも与えられないで彼らご自慢の魔法が無力化される。

敵対している人間にとってこれほど恐ろしい相手はいないだろう。魔法は確かに相手に当たっているようにしか見えないのに、全くの無傷なのだから。

 

「幻影、ですか?信じられない…」

 

肉眼で見ても、想子パターン、魔法の目から見てもそこにいるようにしか見えないのに、間違いなく本人であるはずなのに。と水波ちゃんが驚愕して光宣君を見つめていた。

 

「パレード。忍術の要素を取り入れた九島家の秘術よ」

 

とんでもない御業だ。私の領域魔法など彼のこの技術に比べたら称賛に値しない児戯に思える。

…まあ、それは流石に卑下しすぎではあるのだけど、そう言いたくなるくらい、こちらはタネがわかるけどあちらは全くと言っていいほどわからない。

 

「すごいわ…。あの精度、リーナよりも上だなんて」

 

あまり魔法の優劣を言うのは好きではないのだけど、あの時彼女にこのパレードを使われていたならばあの試合、彼女に勝てたか自信はない。

切り札を使わずにはまず勝てなかっただろう。

 

「リーナ、とおっしゃいますと、以前お話を伺ったUSNAの総隊長の」

「アンジー・シリウスこと、アンジェリーナ・クドウ・シールズさんね。とても可愛らしく、軍にいることが信じられないくらい優しい心の持ち主で、総隊長の名に恥じない実力を持つ、私の親友よ」

 

ええ、いくらでも自慢しちゃう、私の可愛い親友である。

あれから連絡を取ることなんて一切ないけれど、彼女はきっと元気に…かどうかはわからないけれど、アメリカが平和である限り総隊長としてお仕事を頑張っていることだろう。

 

「その彼女を上回るほどの技術…すごいわね。これほどの逸材が――」

 

その先は言葉にできなかった。

きっと、彼の身体が頑丈であれば一条くん同様表で大っぴらに活躍していただろう。関西はさほど派手な戦闘があるわけではないが、九島閣下のお孫さんだ。

色々と連れ回されて実力を見せつけるように発揮できる場面が用意され、十師族の衰退を食い止め、日本の抑止力として貢献するため働きかけていたかもしれない。

特に今年の九校戦など健康であったなら間違いなく、彼は魔法科高校の新スターとして輝いていたはずだ。彼の実力と頭脳は、経験の乏しさが補えれば今すぐ世界屈指の魔法師に名を連ねられる。

それが敵わないことに閣下は忸怩たる思いを抱いていたことだろう。だが、誰よりも悔しいのはきっと光宣君本人だ。

それを思うと胸が苦しくなる。戦闘中だというのに私は胸に拳を当てた。

 

「深雪姉様…」

「ごめんなさい、どうにも感傷的になってしまうわね。今はそんな時ではないのに」

 

光宣君は見事にお兄様の開発された完全思考操作型CADと使いこなしていた。起動式の展開の速さはあの七草先輩にも匹敵――いえ、CADを使いこなしている今、上回っていた。

放出系魔法、スパーク。

事象干渉力が求められる高度な魔法を同時にいくつも展開していた。

視界いっぱいに広がる魔法式。服部先輩の得意とするコンビネーション魔法のスリザリン・サンダースよりも広範囲に、その上位魔法を展開することが、どれほど異常なことか。

自身の知る中で上位の七草先輩と服部先輩の優秀さをも上回る実力に、ただただ魅入るばかりだ。

敵の攻撃は九島家憎しと彼にしか向けられていないが、私も油断しているわけではない。

領域魔法は展開しているし、魔法援護はいつでもできる様スタンバイはしている。しているのだけれど、それを必要とする場面がいつまで経ってもやってこない。光宣君無双である。

お兄様も自分の担当していた範囲が片付いたことで戻ってきたけれど、光宣君の御業に感心しているのだろう。ジッと目と眼で見つめているようだった。

しばらくして、隠形で隠れていたはずの男たちの姿が私たちの肉眼でも捉えられるようになった。

光宣君の魔法が彼らをあぶり出したのだ。高度な魔法をただ敵をあぶり出す為に派手に使うなんて、潤沢な力が無いと出来ないことである。

…こんな方法簡単にできるものではない。というよりこれほどの実力者、世界に一握りもいるだろうか。

お兄様はこの光景をどういう気持ちで見ているのだろう。圧倒的魔法力がそこにはあった。

できることならば今すぐお兄様の元に駆けつけて手を握って差し上げたい。お兄様は今のままでも十分、素晴らしいのだと。

光宣君が右手を上げ、敵を指差す。

それだけで相手が悲鳴を上げて倒れた。

様子から見て、どうやら感電を起こしたらしかった。少しの間髪の毛が静電気でちょっと面白いことになっていた。

次々と倒れていく敵はようやく相手との力量の差に気付いたのか。

九島家の末子だと序盤でわかっていただろうに、どうして簡単に倒せると思ったのだろうか。あの九島閣下の孫だというのに。

息子の当主が頼りないから楽勝に思われた、とか?

地元だというのにリサーチ不足過ぎるのではないかと思わずにいられない。

でも彼の情報と言えば体が弱く学校に通えていない、というのが有名で病弱に思われていたのかもしれない。それならば多少舐めてかかってもおかしくなはい、のか。

だとしても、お兄様のことを排除すべき敵と認定してのこの襲撃なのよね?それを思うとやはりぬるい、と感じる。

自分たちの縄張りだから有利だと勘違いでもした?

高校生相手だから舐めるにしても関東に送っている軍団が全滅してるのに?九重寺が全部を片付けてると思ってるとか?

伝統派は頭が固いのかもしれないね。油断せずに行こう!の精神がないなんて。だからこうして衰退の一途をたどっている、というのも頷けるのかな。

 

「管狐?!」

 

あ、しまった。余計なことを考えてたら光宣君の忠告の声が。水波ちゃんに注意するのを忘れてた。

魔法はいつでも準備万端だったんだけど、水波ちゃんが自身の構築した防衛ラインを越える存在に驚いて身をもって守ろうと抱きついて――じゃなかった、庇うため押し倒してきた。

いいでしょう、受けて立ちますとも。どんとこーい!と抱きしめ体勢に。

お兄様、私にも完全思考操作型CADをくださってありがとうございます。

水波ちゃんを抱きしめて背中にもクッションのように受け止める風魔法を用意。減速魔法でもよかったんだけど憧れじゃない?風クッション。

しかも美少女に名前を呼ばれて押し倒されるってなんてご褒美です?それを敵の攻撃を止めるだけでしてもらえるなんて貰いすぎでは?もっと払いたい。女の子の身体柔らかいね。大丈夫です。水波ちゃんも初めて会った時よりちゃんと成長しています。何処が、なんて言いませんが。

 

「深雪!」

 

お兄様の焦った声に、思わずぐっと来てしまうけど、この状況では流石に敵から目を逸らすことはできない。

きっちり攻撃対象を凍らせてからゆっくりと倒れる。

おかげで背中が痛むこともないし、当然水波ちゃんに怪我もない。

――ただ、

 

「っ!…あ、」

 

水波ちゃんがすぐに体を起こして敵性反応があった方を向くと、胴の長い見たこともない獣が凍り付いて横たわっているのを見て、私が凍らせたことに気付いて声を出した、というところだと思うのだけどね。うん。

 

「…水波ちゃん、起き上がるのはゆっくりでいいから、ちょっと、手の位置を変えてもらえると助かるのだけど」

「…え?…あっ!も、申し訳ございません!!」

 

もしかして、いつもお兄様の呪いのせいにしていたけれど、私の方にもラッキースケベに巻き込まれる呪いがかかっているのかもしれない。

ふにゅっとね、私の胸の上から水波ちゃんの手が離れていきました。水波ちゃんが態とのはずないことは彼女の慌てぶりでもよくわかる。落ち着いて。ひっひっふーだよ水波ちゃん。

水波ちゃん真っ赤になってすぐに身を起こして離れていきました。痛むところも無さそうかな。それともテンパり過ぎて気づいていないのか。

お兄様がやってきて手を差し伸べて下さったので、その手を取ってゆっくりと体を起こす。

 

「流石だな、深雪。見事な反応だった」

 

わーい、お兄様に褒められた。嬉しいとはにかみながら立ち上がるのだけれど、なんだろう。お兄様はごく普通に見えるのに、心がざわつかれているような?戦闘直後だからか、私の行動にハラハラしたからなのか。

でもその前に、この一言は言っておかないと。

 

「お兄様の妹ですもの。この程度は当然です」

 

どや!です。

お兄様がよくやったな、と頭を撫でてくれている間、光宣君が敵を全て屠り、水波ちゃんが呆然と固まっていた。

完全に終わってもいないのに光宣君に丸投げしてました。ごめんなさい。

 

 

――

 

 

お兄様は一旦私の無事を確認してから敵のところへ戻って何やら探っていた。

その間、私がしているのは、水波ちゃんのケアだ。

 

「水波ちゃん、身を挺して守ってくれようとしたのでしょう。謝ることは何もないわ。助けようとしてくれてありがとう」

「で、ですが!私は、何もできませんでした。そ、その上…深雪、姉様の清い体に私っ――」

「水波ちゃん落ち着いて」

 

うん、あのね。言葉の選択。気をつけよう?ここには離れているとはいえ男性が二人いるのだから。

 

「大丈夫よ。ちょっとしたアクシデントだもの。それよりもどこか痛いところはない?打ち付けたところとか」

「…申し訳ございません……」

「怪我はないのね。ならやっぱり謝る必要は無いわ」

「申し訳――」

「それ以上言っちゃうとそのお口を縫い付けちゃうわよ」

 

わるぅい笑みを浮かべて彼女の口の前に人差し指を立てて、悪戯口調で脅しをかける。もちろんそんなことしないけどね。

水波ちゃんは慌てて口元を手で覆った。しないよ?!でもその反応可愛いので許す。可愛い。

お兄様たちは意識を失っている敵を囲みながら互いの手腕を褒め合い、今後の流れをどうするか話し合っていた。

このまま彼らをここに転がしておくのもよろしくない。

かといってここで皆して回収を待っていたのではよろしくない事態が予測できた。

なにせここは観光地。結界も解除されたことで間もなく人がごった返すだろうからね。

お兄様を待ち伏せしていたということは、敵がお兄様の行動を読み始めたということ。これ以上深入りは禁物だ。調査もこの辺で切り上げよう、ということになった。

実戦もしたことで相手のやり口も体験できましたから十分な成果でしょう。

予定より早く退散することになったので、帰りの電車の予約時間まで時間が余るという話になったのだけど。

 

「でしたら、温泉なんていかがです?」

 

うん、彼としては地元自慢の温泉で体を癒してほしい、ってことだったのかもしれないけれど。

緊張感漂う戦闘の後に風呂に入ったらと言われたら、乙女としては汚れてると言われているような気もしてしまうわけで。

でも水波ちゃん、流石に自身の臭いを今確認する行動はちょっと軽率だったね。

じと、と彼に視線を向けると先ほどの畏怖すら抱かせる戦闘をしていた人物と同一とは思えない、ぴゅあっぴゅあな慌てぶりでとんでもない発言を繰り出した。

 

「い、いえ!お二人が汚れているとか汗臭いとかそういうことではなくて」

 

墓穴ホールインワン、だね。

汚れているまではセーフだけど汗臭いは女の子にとって禁句です。

涙目になった水波ちゃんを抱きしめて、咎める視線を向けた。途端もっと慌てる光宣君に、お兄様が一言。

 

「光宣、それは自爆だ」

 

あら、お兄様から君が外れましたね。…この手の失言はお兄様も身をもって経験した記憶ををお持ちですからね。同情心が二人の距離を縮めましたか。

お兄様が光宣君のこれ以上の失言を止めようと釘を刺したことで、私もわざとらしく吊り上げた目をふっと緩ませる。

今度は優しい視線に切り替えて。

 

「分かっているわ。光宣君に悪気はなかったって。私たちのことを労わって温泉で体と心をリフレッシュしてはどうかって提案してくれたのよね」

 

光宣君はさっき謝っていた水波ちゃん同様頭を上下させる。うん、二人って結構似てるよね。

それとも光宣君が水波ちゃんを参考にしたのかな。だとしてもその真直ぐさが好印象。グッドです。

 

「お兄様」

「そうだな、悪くない提案だと思う。だが、それなら光宣がここに残るのではなく、一緒に来てもらおう」

「え、ですが」

 

光宣君はここに転がっている輩を引き渡すつもりでここに残ると話していたのだろう。

 

「さっき家の者に連絡を取ったのだろう?それなら光宣本人がここで見張って待っていることもない」

 

お兄様ったら結構強引。原作では確か、管狐の話を聞きたかったのよね。水波ちゃんの防護壁を越えるなんて思わなかったから。

パラサイトと同じ原理なのだとしたら一番有効なのは私ということになるけれど、古式魔法師にはやっぱり彼らのような精神情報体に対抗する手段が何かしらあるということよね。長年こういった者たちと戦っているのだから。

光宣君も、お兄様の様子に何か聞きたいことがあるのだろうと察したのか予定を変更。四人で温泉自慢のホテルに行くことになった。

 

 

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