妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
と、作業してしばらく。お兄様が姿を現した。
途端緊張感が走る生徒会室。…さっきの落ち着きどこに放り投げました?
でもお兄様は彼らの視線はお構いなしに、会長席の私の元まで来て報告する。
「先輩はお帰りになったので見送ってきた」
「そう。先輩はなんの用事だったのか聞いてもいい?」
その言葉に皆の視線が一気に集中した。皆視線が正直ね。
お兄様は気にも留めずにさらっと話す。
「先輩は京都に何かご用事があるらしく、下見のついでに手伝いを頼まれた」
あら、とっても端的な説明、誤解のしようもないね。
「土曜、日曜?」
「日曜だそうだ。用件は聞いてないが、手伝いに行った方が良いか?」
どうやら予定を確認するため一回持ち帰ってきたらしい。…臨機応変可能な回答、素晴らしい。百点です。
しかし周囲の方たちにはそうは捉えられなかったようで。
「わざわざ学校にお越しいただいてまで相談されたのだろう?」
だったら一も無く二も無く手伝うべきだ、と援護射撃をする服部先輩のお言葉。これは先輩にとって敵に塩を送ることになるのだろうけど、お兄様そのお塩気付いてます?…あったらあったでお兄様ならその塩を遠慮なく使うでしょうけど。敵にぶちまけるなどして。
酷い映像を脳内に描きながら皆の話を見守る。
そんな複雑な心境を抱えての服部先輩の意見に賛同したのはほのかちゃん。
「達也さん、私も先輩をお手伝いすることに賛成です」
この発言にお兄様はちょっと眉を上げた。
ほのかちゃんが七草先輩に塩を送る意味が解らない、と言ったところか。これまた複雑怪奇な乙女心としか言いようがない。
自身を投影して同情したか、なんて彼女本人に聞かなければわからないことだけれど。
お兄様にこの謎が解ける日は果たしてくるのだろうか。…多分、恋を理解してもこの謎は無理だろうな。
吉田くんからは時間的にかからないのであれば問題ないのでは、という意見もあり、結果お兄様としては都合の良い運びとなった。
隠れてこっそり先輩のお手伝いに行っていたなど、見つかった時外聞が悪いからね。一応生徒会のお仕事として行くわけだから。そこでプライベートで先輩のお手伝いに行っていました、なんて噂にしてくださいと言っているようなものだ。
ということであっさり七草会長とのデート…じゃなかった。京都迷宮殺人事件の捜査をすることとなった。
ところで、香澄ちゃん、原作の時みたいにお兄様のことをもう敵視してないのかな。胡乱気な目では見てるけど睨んでみせるなど攻撃的な姿勢は見られない。…胡乱気な視線を向けられている時点で好意的なわけではないけどね。
元より断っておらず返答待ちの状態なので、連絡を取る算段も前もって二人で決めていたみたい。お兄様から泉美ちゃんに許可を得ることもなかった。シスコンを揶揄うことはブーメランですからね。
大して空気が悪くなることもなく、生徒会役員以外は退出し、今日の業務もつつがなく終了した。
その日の夕食後、食後のコーヒーをソファで飲んでいると、いつもよりお兄様が身を寄せてきた。
今日は七草先輩とお話して何か思うところがあったのかもしれない、と逃げることなく受け止める。
「七草先輩はご立派ですね」
唐突に呟けば、お兄様は私を見つめられた。
真意を探るような視線に、そんな大した意味はないのだけれどと口元を緩ませる。
「父に反対されようとも自らの意思を貫くなんて。他の家庭ではよく聞くお話ですが、十師族の当主となれば意味合いが異なります。並大抵のことではなかったでしょうに」
エリカちゃんたち百家が親に逆らうのだってなかなかなお話だけれど、七草家はあれだけの大所帯。統率を取る為には当主がまとめ上げている姿を見せなければならない。
身内だからと甘い姿など見せられない筈だし、先輩自身父を貶めるようなことはできないだろう。あの人は私たちの世代の中でも十師族らしくあろうとする姿勢を見せてくれていたから。
先輩をフォローする発言に、お兄様は少し目を見開いた後に神妙に頷いた。
「…そう、か。そうだな」
七草先輩は御令嬢の割に気さくで勘違いされやすいかもしれないが、きちんと己の立場とその重圧に向き合っている。それでいてあれだけ毅然と立っているのだ。
「素敵ですよね」
「…深雪は、彼女の立場を羨ましいと思うことはないのか?」
ああ、これは原作の通り、お兄様は私が表立てないことを哀しんでいると勘違いされているのか。
確かに、そう考えることは一般的思考だと思うけど、それは深雪ちゃんでなければ、の話。
深雪ちゃんという人物は自分の立場に執着しない。全てはお兄様至上主義だから。
自身が正式な名を名乗れない現状に悔しさなど欠片もない。寂しくも辛くもない。
なぜならお兄様が傍に居てくれるこの環境に満足しているから。
もし四葉だと表立っていれば、その四葉の鼻つまみ者として扱われているお兄様と、次期当主候補として大事に育てられた深雪ちゃんがこのように一緒にいることなどできなかったはずだ。
せいぜい主従関係として傍に控えるようにしなければ、傍に立つことすら許されなかっただろう。
そう。お兄様はただのガーディアンとして傍に居てくれるかもしれないけれど、このように兄妹睦まじく暮らせるはずが無い。
そしてそれは私も同じ。
この隠遁生活はお兄様幸せ計画を進める上で、余計な責務に追われずに集中することができ、実に都合が良かった。
だから兄妹仲良く暮らしている現状に十分満足している。羨ましいなど思うことなどなかった。
「私には、先輩のように振舞うことはできないでしょう。あまり社交的とも言えませんし」
「そうか?深雪は随分慕われているじゃないか」
「ありがたいことに、そう見受けられることもありますが、それでも先輩には敵いません。彼女の身に付けた処世術と私の付け焼刃の演技では受け入れられ方が異なります」
七草先輩のすごい所は、十師族でありながら一般の魔法師に対して疎まれることも畏怖されることもなく全体的に好意的に受け入れられているということ。
それはけして私にはできないこと。四葉であるとか、それ以前。
取り繕うしかできない付け焼刃の私と、骨の髄まできちんと染まり切った先輩の差。
私はまだ完全に『四葉』の一員に成りきれている気がしない。意識はどこかまだこの世界の外にあるせいで色々とまだ割り切れていないのだ。
七草先輩には及ばないという発言に納得がいっていないようだけれど、こればかりは感覚的な要素が大きい。同じパーティーに出席したことなどないからね。想像でしか答えることができない。
データが揃っていないお兄様にこの分析は難しいのかも。それでも現在持ち得る情報の中で、私が七草先輩と並んでもそん色がないと思ってもらえるくらいには高く評価をいただいているということだ。
お兄様に限って甘い身内判定などは無いと思うのだけど…どうなんだろう。妹には特段甘いお兄様だから。
「私は皆の、お兄様のご助力があってこそ立てているのですよ。一人で立てている先輩とは違います」
「俺の助力なんてあってないようなものだろう」
「それは謙遜が過ぎますよ、お兄様。お兄様が居なければ私は立つことどころか息もできないのですから」
お兄様が居なければ、私は生きていなかった。
もし初めからお兄様が居なければ、存在すらしていない。それが『司波深雪』だ。
これはお兄様が知らない事実。
もし仮に、お兄様のいない世界で私が生まれたとしたら、私がこの世界で努力する意味はない。
ただ流されるままに時を過ごしていた。流されるまま怠惰に、なんの指標もなく。無為に繰り返される日々を淡々と繰り返す。そんなつまらない日常。
12歳だった私がそのまま大きくなるような、そんな感じだっただろう。
けれど、この世界にお兄様がいてくれた。
お兄様が私を救ってくださって世界は一変した。
私の生活は幸せに満ち足りるものになった。
今度は私がお兄様を助ける番だ。
お兄様を幸せにしたい、と奮起したことで私は今お兄様の手を借りながら立っている。
そのことに感謝を込めてお兄様を見つめれば、お兄様は自身の目を手で塞いで顎を上げた。
「あー…、深雪」
「はい」
「あまり、兄貴を煽てすぎるな。舞い上がって何をしでかすかわからんぞ」
「あら、私の言葉で舞い上がってくださるのですか」
「むしろお前だからだ。…お前の言葉が一番俺を揺さぶる」
というか、お兄様にとって助力ありがとうは誉め言葉になるの?感謝の言葉でしょう⁇
そして揺さぶる云々は、妹の言葉だからってことか。
お兄様の感情や心はだいぶ豊かになりましたけど、私に関しては初期から解放された状態。
つまり何の制約もなく心動かされる存在だ。揺さぶられるのは当然だね。
でも、それもいつかきっと私に続く、心揺さぶられる相手ができるだろうから。
「お兄様、いつもありがとうございます」
「なんだ、いきなり」
「言いたくなりました」
そう言ってお兄様の肩に寄りかかる。
お兄様はその肩に腕を回してさらに抱き寄せて。
「深雪も、いつもありがとう」
「なんです、いきなり」
「言葉でも伝えたくなった」
前からも包み込むように抱きしめられて、私もその大きな背に手を伸ばして添える。
「研究は順調ですか」
「ああ、だいぶ形になってきた」
お兄様は嘘をつかない。こんなところで嘘を言っても意味がないから。
だけど何があったかは言わない。私に心配をかけることをしている自覚はあるのだ。
「完成したら落ち着くだろうから、またこうした時間を過ごしてくれるか」
お兄様が、私との時間を大切にしてくださっている。その気持ちが嬉しかった。
あと三か月。その間に完成してたとしても、こうした時間が設けられるのは長くてひと月もないだろう。
その僅かな時間を、きっと私は噛みしめるように過ごすのだろうな、と今から予測ができて寂しさよりも笑ってしまう。
「深雪?」
「いえ、その日が楽しみで、つい笑みがこぼれてしまいました」
「深雪にも随分寂しい思いをさせたね」
「お兄様は?いかがでした?」
「寂しすぎて耐え切れなくてこうなっている」
「まあ、お兄様ったら」
ぎゅう、と抱きしめられて、笑い声が漏れる。
カウントダウンの音は刻々と近づいていた。
――
論文コンペのための作業があると言っても女子生徒には厳しく『門限』が定められていた。
ま、そうだよね。魔法師の優秀な遺伝子を狙う輩は多い。特に優秀であればあるほど狙われるのは当たり前で、区別でも差別でもない。
単純な危険性を考慮した上での校則だ。
まあ、理不尽に感じる生徒も中にはいるだろうけれど、こればっかりは何年経とうが変わらない校則だろう。制服の自由登校なんかとはわけが違う。
10月19日の金曜日。明日からの視察のため、生徒会も準備に追われていた。
引継ぎにも申請が必要になるのでその書類を作成したり、実際どのような作業をするのか教える為泉美ちゃんとぴったりくっついて。
ええ。本当に文字通りぴったりくっついてね。…お宅ではこのようにお勉強を教わっているのです?今度七草先輩に確認しよう。日曜日お会いするわけだし。
「…深雪先輩、お先に失礼いたします」
私はもう少し仕事があるので前もって申請を出していたため残れるけれど、泉美ちゃんは今日の分のお仕事も終わっているからね。そんな気兼ねしないで帰っていいのに。
「泉美ちゃん、明日と明後日はお願いね。頼りにしているわ」
苦笑してからにっこり微笑みかける。
するとしょげていた耳がピンと立ったかのように元気を取り戻して張り切ったように元気なお返事をくれた。
「光栄です!及ばずながら、微力を尽くします!」
尻尾もぶんぶん振られているね。元気になってくれてよかった。言葉一つなら安いものだ。
帰っていく彼女を最後まで手を振って見送ってから席に戻ると、ほのかちゃんが感心したように。
「深雪も泉美ちゃんの扱いに慣れてきたね」
「扱いって。でも彼女との関係に慣れてきたというのはあるわね。あんなに慕われることなんて無かったから」
「…意外。深雪には信奉者がついているものだと思ってた」
これは雫ちゃんからだけど、信奉者って。
「なあに?私は別に宗教なんて立ち上げても無ければ教祖になった覚えも無いわよ」
「でも人は集まっちゃうでしょ」
「…それは否定しないけど」
深雪ちゃんのカリスマ性も凄いからね。視線を集めるのなんて息をするくらい簡単。ただ立って微笑みを浮かべたら周囲の呼吸すら止められる。
だけどおかしいな。ここって雫ちゃんに悪女って言われる場面じゃなかった?
「それに、人の扱いだなんて、私悪女になったつもりもないのだけど」
気になったのでキーワードを放り込んでみたのだけれど、二人はきょとんとして顔を見合わせて、同時に噴出した。
「深雪に悪女って」
「人を惑わせて弄ぶって意味で悪女って言ったことはあるけど、深雪の場合無邪気すぎる」
「無邪気な悪女がいないわけじゃないけど、悪成分が薄いよね」
…Oh…なんということでしょう。四月には悪役も演じてみせたはずなのに悪成分が無いとは。
「でも九校戦とか」
あの女王姿はラスボスチックだったでしょう?と問えば、首を傾げて。
「演じられるのと本性はまた別でしょ」
「真の悪女に成りきれない心の清らかな女王様だった」
「…私そんな清らかな存在じゃない」
むしろオタクは清らかと真反対に位置してると思うのだけど。
「そう言っちゃう時点で深雪が違うってのがわかるよ」
ほのかちゃんが、苦笑するけれど、その瞳が若干陰った気がした。
何かあっただろうか、と口を開きかけたけれど、雫ちゃんがそれを遮るように口を挟んだ。
「どっちにしろ深雪は罪作り」
あら。最終的にまとめられてしまった。
悪女でもそうでなくても翻弄しているわけだから、罪作りには変わりないのか。
手元も綺麗に片付いたタイミングで、お兄様が迎えに来て途中まで一緒に帰って解散した。
頑張ってね、気をつけての言葉に、彼女たちが薄々気付いているのだろうなとわかる。
なんていじらしいのか。
「…ほのか達に気を使わせてしまいましたね」
「…やはり最後のはそう言う意味か」
お兄様も彼女らの気遣いに気づいたらしい。やはり、お兄様は人の心の機微を察せられるようになっているようだった。
だから心苦しくもなるのだろう。表情に陰りが見えた。
その心の変化が嬉しくて微笑むと、お兄様はまるで悪戯が見つかった子供のように視線をずらした。
その仕草もとても愛おしくて笑みは深くなるばかり、心は浮かれるばかりだ。
「深雪姉様、ご機嫌ですね」
「ええ、だって、幸せなんだもの」
水波ちゃんに笑顔で返すと、水波ちゃんは真っ赤になって俯いてしまう。
ゴメンね。ちょっと舞い上がって加減ができない。
「幸せ、か」
「はい。幸せです」
お兄様は自分の気まずさを飲み込んで、私の頭を撫でた。
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