妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㉗

 

そして部屋を移動して腰を落ち着けてからお兄様がさっそく口火を切る。

あ、皆のお茶は水波ちゃんと私が共同で準備したよ。ここで主にそんなこと!なんて言えないことを水波ちゃんはちゃんと理解してくれた。…不満が無いわけではなかったみたいだけどね。一人でこの人数分を用意させるなんて大変、というのもあるけど、単純に時短が目的。この大人数なら分担した方が早いから。融通利かせてくれてありがとう。

 

「去年の横浜事変で大亜連合侵攻軍の手引きをした者が京都方面で匿われていることが分かった。俺はソイツの捜索任務で京都に来ている」

 

お兄様も時短のためにペロッと重要な機密事項を話す。

おかげで皆――一条君だけじゃなくてエリカちゃん達も目を白黒させていた。

 

「俺は国立魔法大学付属第一高校の生徒であると同時に、国防陸軍一〇一旅団独立魔装大隊所属の特務士官だ」

 

吉田くんたちはこんなあっさりバラすと思ってなかったから目を見開いていたけれど、お兄様にとって別に禁則事項とも思っていないので必要に応じて話すことに躊躇しない。一条君が軍事機密を他人に話す真似はしない、というのが前提にあると思うけどね。一条の家は軍関係とも深く付き合いがある。その辺の分別は付くと判断されたのだろう。

そしてお兄様、嘘は言ってないけども…うん、これは間違いなく誤解するよね。軍属であることも、捜索任務できていることもどちらも本当。ただこの二つが結びついてないだけで。

 

「なん…だと」

 

一条君の良い所はそんなはずない!などの否定が反射でも一切出ないことだね。一旦呑み込んで咀嚼して、可能性を導き出す。お兄様がただの高校生とは思えない、と色々調べただろうから。四葉の情報操作は完璧で大した情報は得られなかったはず。…だからこそ何か裏の事情があるのでは、と疑っていたところにこの情報。

彼の表情は、次第に納得のものへと変わっていく。

 

「一条、言うまでもないことだが、このことは他言無用だ」

 

お兄様の念押しに、一条君は深く頷いた。

彼の真剣な表情から、これは吉祥寺君にも言わないんじゃないかな、と推察される。

この年で話す相手と状況を判断できるって、簡単なことじゃないよ。ここだけの話、と「信頼している」という理由で話しちゃう人の方が多いから。

 

「その工作員は今回の論文コンペでも妨害行動を起こす可能性がある。幹比古たちには論文コンペの安全確保を兼ねて手伝ってもらっている」

 

お兄様ったらあんまりにも自然に虚実を交えて話すものだからエリカちゃんが遠くを見つめている。

エリカちゃんにはすでにそれとなく四葉であることを伝えているんだろうね。これがお兄様の手管か、と思われているところかな。

巻き込んでどさくさに紛れて利用する。それを傍から見てしまったことで彼女は達観してしまったのか。悟りの境地。ごめんねウチのお兄様が。いつも付き合ってくれてありがとう。

 

「侵攻軍の手引きをした者の名はわかっているのか?」

「周公瑾、と名乗っている。外見は二十代前半の男性。だが本当の年齢はわからない。髪が長く、写真で見る限り容姿は極めて整っている。鬼門遁甲の術を使うらしい」

「周公瑾だって!?」

 

一条君がここで声を荒げてこぶしを固く握った。

その様子にお兄様も尋常じゃないものを感じたのだろう、尋ね返すが一条君はまだその衝撃による怒りから抜け出せずにいた。

それだけ彼にとってもその名がここに出てくるとは予想外であり、自分が騙されたのだという事実に怒りがこみ上げたのだ。

 

「あ、ああ…そうか、あいつが。あいつか!」

 

目に怒りの火が灯る。火は炎となって渦を巻く。そんな表現がぴったりだった。

 

「去年の横浜で、侵攻軍の一部が中華街に逃げ込んだ。俺は中華街の住民にそいつらの引き渡しを迫った」

 

一条君はあの時の情景を思い出しながら、眉間に皺を寄せて話し始めた。

彼にとっては相当屈辱だったことだろう。握った拳が震えていた。

 

「予想に反して、中華街の門はすぐに開いた。侵攻軍の兵士を拘束し俺たちに引き渡した住民の先頭にいた青年が名乗った名が…」

 

周公瑾だった、と。

 

「ヤツは、本名だと言って、笑っていた…!」

 

ありありとその時のことが思い出されたのか、その目に宿る炎がこちらにも届きそうなほどの熱を感じた。

だが、お兄様はその(想い)を利用するか、と冷静に判断していてこの温度差に風邪をひきそうだ。

エリカちゃんも同じことを思ったか定かじゃないが、空気を変えようと話題を逸らした。

それは鬼門遁甲についてどんな魔法か問う、現実的な話題だった。

鬼門遁甲と言えばやはり有名で、吉田くんからも詳しく聞きたいと問いかける。

それに答えるのはこの中で大陸の術に一番詳しいだろう光宣君だった。

彼の暴力的な美貌が彼らの視線を一瞬奪うが、耐性がある彼らはすぐに話に集中できた。

ちらっとこちらを見てため息を吐いたのはどういう意味です?これに慣れさせられたからなぁ、みたいな…自意識過剰の被害妄想かな。

光宣君の、その魔法の神髄は方位を狂わせる精神干渉系魔法にある、との言葉に反応したのは西城くん。

 

「方位を狂わせる?例えば水の中で上下をわからなくして溺れさせるとかか?」

 

この答えに光宣君は感心したように目を見開いた。そしてニコリと笑みを深める。

その笑みの意図するところは、流石お兄様のお友達は類は友を呼ぶというように発想が普通じゃない、ってところかな。

すぐにその案が浮かぶ西城くんの頭の回転ってすごいよね。早い上に的を射ている。確かにやろうと思えばそういったことも容易のはずだ。

 

「そういう使い方もできるでしょうが、主な使い方として伝わっているのは追跡者の直線感覚を狂わせて何度も蛇行させ、見えているにもかかわらずいつまでも追いつけないという精神的なダメージを与えるとか、石を積み上げた陣の中を延々とさ迷わせるとかですかね」

 

正に三国志演義に書かれてる奇門遁甲術だよね。

一条君もそこが気になったようで突っ込んだ。今更だけど九島家と一条家も交流無かったのね。彼らも初対面で光宣君呼びをしていいかって話に。

光宣君は疑問に答える為、第九研の研究内容を開示。日本の古式魔法だけでなく大陸の古式魔法も研究対象であったことを伝えた。

その結果、諸葛孔明が習得していた魔法が鬼門遁甲術だったのではという結論に至ったそうだ。

なかなかのビッグネームで感心してしまったけれど、話がまた別の方向に逸れちゃいましたね。お兄様が過去にまで広がってしまっていた話を現代に戻す。

その術の有用性、危険性について尋ねるように術の確認をする。

逃走に使われるだけでなく、戦闘にも使われる可能性だ。

というより、そう使われるのだろうね。攻撃逸らしたり、相手の向きを逸らせたら隙が丸見えなのだから。

敵に自分を見失わせるって本当に怖い魔法だ。全方位攻撃しなければ当たらないじゃない――と考えるのは力任せの脳筋すぎるだろうか。

それともその方向も逸らされて相手の部分だけ当たらない?360度を逸らすのは無理だと思うのだけど。

あとは、見るだけで動けなくさせる『魔法』に関して言えば角度をずらしただけでは意味がないので相、手の魔法力が私を上回らない限りは食らうだろう。あの魔法に関しては座標の設定など必要ないから。『見る』という行為に対して作用させるものなのでね。

たとえ上回られたとしても、全身固まるまで行かなくとも動きを阻害させるくらいはできるから、その隙に誰かが狙ってくれれば討ち取れると思うんだけど今回の任務…お兄様、参加させてくれないだろうな。

前回の勝手もあって(千秋ちゃんの病室での邂逅)私は水波ちゃんと一緒にお留守番だと前もって言われている。…もしこれで軍の基地に潜入するのが一条君でなく私であれば、軍の被害はあそこまで大きくならずに済んだことだろう。戦車も銃火器も沈黙させられたから。そして周との対決も――は、流石に高望みか。たとえ凍結させたとしても、きっとパラサイトの時のように結果自爆する可能性がある。周も自身の身体に刻印くらいしてそうだものね。相手に体が渡ってしまう前にすべてを無に帰す、みたいな。実験をしたことは無いが、刻印魔法を上書きすることは難しいんじゃないかな。ただでさえ魔法の上書きなんて法則上できない。ただ、力で発動を押しつぶす…いや、塗り替えるの方が正しいね。どうにもさっきっから思考が脳筋寄りになってしまっている。よくないよ。深雪ちゃんにあるまじき思考。気を付けねば。

それからお兄様から話題を振られて横浜事変の折、陳と対峙した話を少々。

美月ちゃんの合図が無ければいつ攻撃していいかもわからなかったことを説明した。

先生の、全方位注意しなさいの言葉が無ければ、私は攻撃範囲を絞れず相手を認識することできないまま果てていたかもしれない。

…お兄様がいるからそうはならないか。だけど、敵を認識できないというのはそれほど致命的だ。

私の言葉に耳を傾ける一条君は、一瞬非難の視線をお兄様に向けたけれど、それは戦闘に妹を関わらせたということに対してかな。同じシスコンとして信じられない?

でもあの状況でそんなことも言ってられないことくらい一条君もわかるだろうから、すぐにその魔法に対し自分なりの分析の話に移る。

 

「…それはつまり、鬼門遁甲は時間と無関係ではないということではないでしょうか。その魔法の本質は、分岐点に於いて特定の方向に意識を向けさせる、あるいは意識を向けさせない精神干渉、だがいつ分岐点に到達するかがわかっていれば、その時間に意識を向けておく方向をあらかじめ決めておくことで、意識誘導に抵抗することができる、ということではないかと思います」

「さすがです、一条さん」

 

光宣君もその推測を聞いて感嘆の声を漏らした。

…美少年、見た目だけでなく声もいい。うっかり聞き惚れてしまう。

というよりここにいる面子は皆声がいい。いつだって耳が幸せです。誰か課金をさせてくれ。させてください。切実に。

 

「方向だけでなく、時間と方向の組み合わせで意識に干渉する魔法ですか。言われてみればそう考えるのが一番しっくりきます」

 

そこからこの魔法攻略について話し始めそうだったけれど、お兄様がその流れを一旦中断した。他にも話を聞いておくことがあったからだ。

吉田君たちが襲われた理由、その相手がどのような集団だったか、どのような魔法を使ったか。

エリカちゃんが大変だったわ~と話すので、お疲れ、と労う。

正直この話し合いに女子たちはさほど身を入れていなかった。いや、話はちゃんと聞いているんだけどね。

日傘に偽造したデバイスどうだった?と聞けばエリカちゃんはあれは面白い!と邪魔にならない程度の声色で目を輝かせて話してくれた。

エリカちゃんはほとんど攻撃は受けてなかったから安心して、と言ってくれたけど今回は結構冷や冷やしたのだとか。あと、忍者ね。彼らは攻撃が当たりにくくて面倒、だって。

いくら狙っても急所避けるのが上手いんだそう。それでも倒しちゃうエリカちゃんカッコいい!

その間お兄様は、自分たちの調査報告をする。

敵は伝統派の一部であり、その場所も範囲がいくらか絞れたことに、懐疑的ではあるがある程度信憑性があること、そのことを踏まえて明日は調べてみると。

 

「なら兄さん、明日は皆で嵐山に行くの?」

 

ちなみにこの兄さん呼びは光宣君には伝えてある。学校でお兄様呼びは浮くからね。水波ちゃんの場合はボロが出そうということで彼の前でも姉様、兄様呼びを徹底していた。これからきっと慣れてくるだろうけどね。

私はそれなりに慣れたので切り替え可能に。…家ではお兄様呼び一択だけど。

プライベートは別、と言えば彼は自分がプライベート枠に入れてもらえていることを喜んでいた。可愛いね。

 

「全員で行くのは目を惹きすぎるし、コンペの安全確保も疎かにはできない。幹比古とエリカとレオは今日と同じく会場周辺に不審者が潜んでいないか、犯罪者やテロリストが潜みそうな場所が無いかどうか調べてみてくれないか」

 

吉田くんとしたら不服だろうけれど、むしろ吉田家という存在は古式魔法師たちにとっては影響力があり過ぎる。特に今回は伝統派と事を構えることになるのだから。

既に吉田家からは今日の襲撃の件で抗議の連絡が行っているそう。お仕事が早い。

そもそもどう襲われたのかという話に水が向くと、どうやら伝統派の一部は既に乗っ取られて洗脳されている可能性が浮上した。

その事実を突きつければ牽制にはなるだろう、と話す彼らに、光宣君はしょんぼり。

一条君が言うように、去年のように騒乱に発展すれば周に逃亡のチャンスを与えることとなり負けが確定する。

 

「九島家として動ければいいのですが、僕一人ならともかく『九』の各家が大人数で京都入りすれば伝統派だけでなく古式魔法師各派を刺激することになりかねません」

 

お耳が垂れてますね。この土地はむしろ彼らの管轄だから責任を感じているのか。

でも下手に動けないことに気付けたのだから偉いよ。

 

「そうですね。伝統派に口実を与えることにもなりますから、それは止めた方が良いでしょう」

 

敬語で話しかけたら更にしょんぼりされてしまって慌てて頭を撫でる。

ごめんね、ここには一条君がいるから、彼と同じ話し方をしないと今後一条君に敬語を外すよう頼まれることになりかねなかったのでそうしたのだけど、距離を感じたかな。

だけど、私もテンパり過ぎた。

一つ下の男子の頭を撫でるなんて、淑女としてよろしくなかった。

一条君が「なっ!?」と驚愕の声を上げ、西城くんと吉田君がお兄様の顔を窺い、エリカちゃんがにやつき、水波ちゃんが、あーあ、と私の軽率な行動を嗜める目に。

肝心のお兄様はと言えば。

 

「お前が年下に甘いからと言って、光宣も男なのだから気安く触ってはいけないよ」

 

と優しく注意された。その言葉は私にというより周囲に聞かせるための忠告ですね。

周囲に人がいなければ咎められることではない、と。お兄様も光宣君に甘くなりましたね。四葉の特性、身内に甘いが発動しております。

 

「光宣君、勝手に触れてごめんなさいね」

「いえ!謝っていただくことでは。…むしろ、慰めて下さってありがとうございます」

 

うん、美少年のはにかみは心の栄養だけど過多です。取りすぎは危険。

ところで後ろでこそこそと何を話しているのです西城くんたちは。アレは本当に達也か?って。お兄様ですよ。深雪ちゃんである私が言うのだから間違いない。

お兄様は何事も無かったかのように伝統派の牽制は吉田家に任せるとして、自分は嵐山に行く方針を述べた。

吉田君も快諾し、残るは一条君なんだけど…放心したまま戻ってこない。

 

「一条さん、大丈夫ですか?」

 

原因が何言ってんだ、と私もわかっているんだけどあまりに瞬きをしないもので心配になった。

ひらひらと手を振ってようやく彼は意識を取り戻し、しどろもどろに何かを言いながら真っ赤になって、頭を振って落ち着いてから再度口を開く。

 

「俺はどうすれば?」

 

すっかりお兄様陣営の一員になってますね。

お兄様は若干呆れた様子で一条君を見ていたけれど、一条君は明日立派な戦力になりますからね。

 

「一条さんには、私たちにご同行いただけると心強いのですけれど」

 

チラチラ私を見る視線に期待も込められてました。…一条君もわんこ属性をお持ちで?

一条君の犬種は何だろうね?一条君も大型犬かな?

お兄様はシェパードもいいけどハロウィンのせいでオオカミなイメージ。わんこって感じじゃないよね。

 

「はい!お任せください」

 

一条君の元気なお返事をいただいて、こうして明日の日程は決まったのだった。

 

 

 

 

のだけど、

 

「司波、その…彼女は年下がタイプだったりとか」

「一条、お前は自身の妹にそういった話を聞くのか?」

「…そうだよな…」

 

お兄様、以前妹の恋愛観について聞いてきたことありましたよね?好みのタイプは話したことないけど。

西城くんたちは西城くんたちで、

 

「あー、光宣、お前深雪さんみたいな女性がタイプか?」

「レオ!直球すぎるよ!」

「?タイプ、ですか?彼女は包容力があってお母さんタイプですよね」

 

光宣君が若干ずれた答えを出して唖然とさせていたり。

エリカちゃんが、

 

「ちょっと水波、達也君があれだけ警戒してないってことは光宣君ってそっち系死んでるの?」

「死んでいるというより(彼の場合そういった情緒が育ってないのでは…)――いえ、私も詳しくは」

 

と躱そうとしていたり。

…皆楽しそうだねぇ。誰も仲間に入れてくれなくて寂しい。

 

 

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