妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
寝る前の別れ際、光宣君に温かくして寝るのよ、と伝えたけれどそれくらいじゃ彼の体調不良は防げなかった。直前の対策は意味がないらしい。
わかっていたけれど、同情してしまう。
昨日まであんなに元気だったのにね。
お兄様が水波ちゃんを連れて光宣君の許へ行ってしまった。
私はロビーで出発準備を整えたメンバーとお留守番。
本当はね、彼らだけでも先に行ってくれてもいいと言ったのだけれど、そうなると一条君と二人きりになってしまうというので、西城くんたちが気を使って残ってくれていた。優しい。
「しっかし、昨日まであんなに元気そうだったのにな」
「夜に話をしていた時も普通だったんだけどね。その時に体調が悪くなりやすいと聞いてはいたんだ」
「で、ほんとに体調崩したってことね。深雪は知っていたの?」
「ええ。学校にもあまり通えていないんですって」
心配だという想いが声にあふれてしまい、皆が私を心配するように見つめるけど、心配すべきは私じゃなくて彼なのに。私がこんな気落ちしちゃダメよね。
「きっと昨日の疲れが出ちゃったのでしょうね。楽しそうにはしゃいでいたから」
「あれだけの美少年がはしゃいでたら周囲は大変だったんじゃない?」
エリカちゃんがのっかって冗談交じりに聞くけど本当、冗談ですまなかったよ。
「ええ、本当に。彼が姿を現すたびに周囲の視線が一気に彼に向くのが凄かったわ。池の鯉に拳を向けたらそれだけで群がられる、みたいな映像が頭に浮かんだわね」
その手には餌など無いのに、見せただけで群がるあの光景。…あれは小さな子供が無く光景。
私の言葉にエリカちゃんが最初に噴出し、西城くんが続いて吉田君が笑いを堪えるように顔を背けた。
そして一条君はと言えば――私の貌から視線が離れませんね。口元も緩んでます。その、鼻の下がね…美形だから見苦しいってことは無いのだけれど、美少年のピンチです。
普通なら見るに堪えないはずなんだけど、美少年ってお得。
「一条さんも、お待たせしてしまって申し訳ありません」
「…え、ああ!気にしないでください。俺は大丈夫ですから。その…彼、心配、ですね」
「ええ。でも水波ちゃんが看病してくれるみたいなので」
「え?!そう、なのですか」
うん?そんな驚くことがあった?と周囲を見ると、皆一条君に同情の視線が。
「確か彼女は、今年の九校戦、シールドダウン新人戦で優勝した子ですよね」
「覚えていてくださったのですね。そうなんです。自慢の従姉妹で」
水波ちゃんのこと覚えててくれたことが嬉しくて笑顔で答えると、…しまった固まっちゃった。
「深雪、水波褒められたのが嬉しかったのはわかるけどやりすぎ」
「…だって、身内を褒められたら嬉しいじゃない」
一条君、本当に深雪ちゃんの外見好きだね。ここまで真っ赤になって固まられてしまうとこちらとしても反応に困ってしまう。私が悪いことをしているみたいだ。
しばらく放置していても復活しそうにない様子にどうしようかと悩んでいるとそこへお兄様が戻られた。水波ちゃんはいない。
「待たせた」
お兄様が現れたことで一条君は意識を取り戻した。よかった、再起動してくれて。エリカちゃんとこっそり苦笑し合う。
お兄様が言うには光宣君の様子は熱があり、動ける状態にはないとのこと。心配だけれど水波ちゃんが看病に残ってくれるのだと説明。
ここに来る前にお兄様から光宣君が体調を崩したと連絡があったけれど、起き上がるのも難しいほどに悪化していたとは。
水波ちゃんにはもしこれ以上症状が悪化したらという話を、事前にお兄様を交えて相談していて、緊急時はホテルの人や医療従事者を頼るのではなく、藤林さんに一報を入れるようにとの取り決めをした。
いざという時に備えておくことは大事だからね。それらが一通り落ち着いてからでいいからこちらにも連絡が欲しい、とお兄様の端末に報告するよう伝えることも忘れない。
何事でも報連相は大事だと四葉には叔母様経由で徹底してもらっている。どんな勘違いが起きて事実がねじれて面倒なことになるか分かったものではないからね。
情報は即座に連絡。正確さも大事だけれど時にはスピードをもって共有も大事だから。間違っていたら指摘できることもある。
誤解されやすい四葉だけれど、それは言葉が少なすぎるから。プライベートはともかくお仕事でそれはまずいから。
…これは前世からの教訓でもある。誤解一つでとんでもないミスに繋がることがあるからね。少数精鋭で頑張っている四葉はいつでも人材が足りない。
精鋭以外も使わなければならない場面も生じるわけで、そうなった時に起きて困るのが人的ミスだ。そんな初歩的なミスで使えないと切り捨てられる人間が少しでも減ればいいな、と。どんな人材も使う人の力量一つで変わることもある。
自分で考えなくなるのは困るけれど、その手前で使えないレッテルを貼ってしまうのはもったいない。人材は中途採用だろうと育成していくものです。
っと、そんなことを考えている間にエリカちゃん達は会場周辺の調査に出発し、お見送りを。私たちは嵐山へ――向かう前に合流するんですよね。
ということで、本来バイクで移動予定だった一条君は定員オーバーにならずに済んだので一緒にコミューターに揺られて移動するのだけれど、席順でひと悶着…が起きたわけでもなかったけど二人とも不満そう。
横に並んで座る二人に仲良くなれそうな雰囲気は見られない。
お兄様は地図を確認し、予定を組み立てているのか端末をいじり、一条君はこちらをちらりと見ては視線が合いそうになると窓の外へ向いてしまう。
うーん、水波ちゃんカムバック。空気があまりよろしくないです。
この機会に二人の仲が少しでも近づけばいいな、と思っていたりもするのだけど、気まずい。友好ムードが今のところ欠片もない。
「深雪、どうした」
お兄様が端末操作を閉じてこちらを窺う。
…しまった、私の心の不安を感じ取ってしまったみたい。周囲に警戒を強く持たなければならない有象無象がいなかったことで少し気を抜いてしまっていた。少しでも気を緩めるとお兄様に隠し事ができ難くなってきた今日この頃。…まあ、日常生活を送る上では大して問題ないのだけどね。私の羞恥心を無視すれば、だけど。
でも、私が気を抜いていただけでなくここは敵地でもあるからいつもよりリソースを割いて注視されているのかもしれない。防御を任せられる水波ちゃんもいないから。
お兄様の声に一条君も反応してこちらを窺っていた。今度は視線を逸らさず心配そうだ。
うぅん、考えていたのは如何に二人の仲を近づけるか、というものだったから心配そうに見られてもお応えするわけにもいかない。
とりあえず、この先に起きてしまう小さな軋轢くらいは無くそうか。
「この後の予定なのだけど、嵐山の前に寄るところがあるのでしょう?」
「そうなのですか?」
この後の予定について一条君と全くすり合わせてなかったから、誤魔化しついでに確認すれば一石二鳥かな、と。
一方的になんでも決めて勝手に動くと自己中心的で配慮が無い印象を与えちゃうから。
説明を最小限に省いて効率ばかり考えてしまうお兄様の悪い癖。
お兄様はといえば何も説明していなかったことをそんなに驚かれるものなのか、と一条君を観察しながら説明。彼の反応はちょっと大げさだけどその分お兄様でもわかりやすいらしい。
だけど今回はこれから合流する相手のこともあるから敢えて説明を省いて巻き込もうとしたのだろう。得られる結果が同じなら、纏めて説明した方が効率的、というのもあったのだろうが先輩の事情を配慮してのことでもある。
こういうことは勝手に他人に話していいことでもない。
「嵐山の前に、手掛かりになりそうなものを見せてもらえることになっている」
…これで説明をしたつもりなんだろうけど…こう、お兄様も四葉だよね。この絶望的な言葉の足らなさと端的さが相手に教える気が無いのかと不満を抱かせてしまう。
事実、一条君はちょっとむっとしてしまった。
ここは妹としてフォローをしなくては。
「もしかしてこれから会う方への配慮のため口にできない、ということ?」
「そうだ」
この言葉に一条君は目をぱちくり。
人に気遣えない類の人間かと思ったら、その発言自体が人を気遣ってのものであり、あえてぶっきらぼうにしていた(…わけでもないのだけど)ことに驚いた模様。
…誤解してくれるのは嬉しいけど、単に面倒を省いただけなんだけどね。ありがとう。いい具合に解釈してくれて。こういうところも彼の人の良さが出るよね。
一応先輩への配慮があることも間違いじゃないから。うん。
「ここから先は、周公瑾のことを口にしないで欲しい」
「…秘密なのか?」
「できればあの人を巻き込みたくない」
その言葉に一条君はおや、と眉を跳ね上げた。今度はどんな誤解かな。次の反応がちょっと楽しみ、というところでコミューターが止まり、お兄様が先に降りて続いて私と一条君も降りて待機。ちょっとした雑談は私の仕事かな。
「一条さんはよく京都へ来られるのですか?」
「はい。ウチからそう遠くも無いので何度も来ています。バイクで来られたのもそれなりに土地勘があったからです」
「まあ。バイクですか。一条さんもお好きなのですか」
「はい。そう言えば千葉さんから窺ったのですが、司波もバイクを乗るのだとか」
「ええ、兄さんもバイクに乗るのが好きみたいで」
私も偶にお兄様に乗せてもらっているんですよ、と返そうとしたら、遠くを確認していたお兄様が振り返った。
「俺が好きなのはお前が喜ぶからだぞ」
「そうなの?ありがとう」
よく移動に用いていたからてっきりお兄様が気に入っているのかと思っていたのだけれど、一緒に乗った時の反応が好きなのだと言われて思わず頬が緩む。
「し、司波さんもバイクに乗られるのですか!?」
さっきまで何とか自然に話せていたのに急にどもってしまった。…そういえば二人乗りに夢を抱いていたんでしたっけね。青少年ですものね。
素知らぬふりで会話を続行。
「私は兄に乗せてもらうのです。バイクは風を感じられて気持ちがいいですよね」
「そうですね。あの爽快感はバイクの醍醐味だと思いますが…そうですか。バイクの後ろに…」
おおっと、またもプリンスがプリンスらしからぬお顔になりそう。
お兄様、どうしましょう、と顔を向ければ頭に手を乗せられて固定されました。そっちを見るんじゃありません、ってことかな。
そこへタイミング良く一台のコミューターが。救われましたね一条君。間に合っていたかは別にして。
そして――うん、降りる姿もきちんとお嬢様ですね。先輩素敵です。見習うべきお嬢様感。一般的なコミューターが高級車に見えます。
お嬢様の仕草なら深雪ちゃんも当然身につけておりますけれどね。ほら、先輩とはまたタイプが違うのです。
先輩は小悪魔的演出付きの魅せる降り方だから、身体の角度といい、女性らしい柔らかさのある所作といい、私のモノとは違う。
どのようにしたら魅力的に映るか知り尽くしてるって感じ。私がそのような降り方をするかは別にしても勉強にはなる。
先輩は真っ先にお兄様を見つけ表情を明るくされたと思ったら、私を見つけて目を丸くし、次いで一条君を見ては困惑していた。
たった数秒で三パターンの表情。リアクションの幅も広いですね。
先輩も驚かれていますけれど、お兄様も当初こんな組み合わせになると思ってなかったのですよ。
「達也君、遅れてごめんなさい」
「時間通りですよ」
お兄様もTPOは弁えているので先輩がこちらに向かう前に私から手を下ろして、先輩に一礼。
お兄様が下げて私が下げないわけもないので遅れて一礼すれば、先輩も無視できないよね。もとよりそんなつもりもなかっただろうけど。
「深雪さんも久しぶりね」
「はい、…ご無沙汰しております」
夏以来だね、と言いそうになったけれどあれは良くない思い出だろうからお口チャック。
先輩も感じたのだろう、何も言わないで視線は一条君へ。
一条君と先輩もほとんどこうして顔合わせしたことが無いらしく挨拶するのは二回目らしい。
改めてご挨拶をして、ちょっと、と素敵な笑顔を浮かべた先輩にお兄様が連れていかれた。
…先輩にとってこれってある意味二人だけの外出――デートでもあったからだろうからなぁ。お邪魔だよね。でもこの後必ず先輩のお役に立つから許してほしい。
こそこそと話している二人を尻目に、一条君はお兄様と先輩の関係を不思議に思ったみたい。
「随分と仲が良いのですね」
「一条さんにもそう見えますか」
だよね、と一条君のお話に乗っかる。
あんなに腕を絡ませて身を寄せ合って話していればただの先輩後輩には見えない。
偶然横を通り過ぎる人が見ればいちゃいちゃカップルだと勘違いする男女の距離感だ。
「去年の九校戦、敵情視察のジョージに付き合って彼女のクラウドボールの試合を見ましたが、会場がどよめいていたのを覚えています」
ああ、お兄様が手伝った柔軟の場面ですね。アレ、選手のみならず一部の会場からは見えてましたから。ファンたちの間では騒然となってたみたい。あの男は誰だ!?みたいな。
でもそれが私の恋人だ、になって二股疑惑も浮上したらしいよ。
ただ会長(当時)にはそっけない態度と顔だったのに対し、私には優しい顔と甘い態度だったのですぐにその疑いは晴れたようだけど。
知らないところで三角関係になってました。その後もほのかちゃんとも噂が浮上していたらしいから、お兄様は相当男子からのやっかみの視線を浴びたらしいけどね。
大抵私のいないところでばかり事件が起きていたので目撃できなくて残念でしたとも。
「も、もしかして二人は、」
「さあ?それはどうなんでしょう。兄とそういった話はしないもので。一条さんは確か妹さんがいらっしゃるのですよね」
「え、ええ。下に二人」
「一条さんのお家ではそういったお話はされますか?」
「あ~、妹が好きな人なら、知っていますけど」
一条家は仲の良い家族関係のイメージ。十師族じゃかなり珍しい関係性だったと思う。
十師族に名を連ねている人たちは大抵家庭トラブルを抱えている。こちらはイメージではなく事実です。
まあ、魔法師の家は何かしら事情を抱えている人の方が多いのだけど。
「まあ!お兄さんとしてはやっぱり複雑ですか?」
「複雑は複雑ですかね。何せ相手が――」
おっと、それはマナー違反だよ一条君。妹さんの好きな人をお兄さんが勝手に口にすることはご法度です。本人がこの場にいるいない関係無しにね。
一条君の顔の前に人差し指を立てる。
「だめですよ。妹さんの大事な秘密なのですから」
たとえそのお相手が友人のことであろうとも、妹ちゃんにとってはバラしてほしいわけもなく。
お兄さんとしての信用を失う事態を招きかねません。
「す、すみません!」
「未遂でよかったです。私も気軽に聞いてしまってすみませんでした」
私が聞いたから答えようとしたんだものね。複雑かどうか聞きたかっただけなのだけど、あの聞き方されたらペロッとしゃべっちゃうのもおかしくなかった。こっちも反省。
二人で頭を下げ合っているとあちらの話も終わったらしくお兄様が戻ってこられた…けどちょっと距離が近いね。
ぴったりくっつくような至近距離。目測誤った?最近多いね。成長期のせいで感覚が狂ってずれが生じているとかですか?
「説明は移動しながらするからとりあえず乗ってくれ」
一条君にそう声を掛けてお兄様は私をエスコートしてコミューターへ。…そこは先輩優先でいいのですよお兄様。
先輩と並んで座って、お兄様たちと向い合せ。なんだか不思議な感じだ。
先輩の恰好はヒールのあるローファーとロングスカートという出で立ちで、恐らく警察を訪れることも考慮されてのチョイスだったのかもしれないけれど、これで山道はやっぱり大変そうだ。
四葉の人間は山道を軽く見ることはない。どれほど危険なものかを身をもって体験して知っているから。
このスニーカーだってただの靴に見えるだろうけれど、横についているダイヤルを回すと内蔵されているスパイクが出るし、踵には仕込みナイフもついていたりする。
想定できる危機はなんだって想定する。何があるかわからない、それが山というもの。
山道はそれほど警戒して進まなければならないところだから。
…だからって、どこぞのお山のように丸太やら先端の尖った木製の矢やら、小石の雨が降ってきたり、竹やりが揃って天を向いている落とし穴なんてないでしょうけど。
普通の山道だって装備がちゃんとしていなければ十分に脅威だ。
とはいえ先輩の場合、嵐山まで行く予定は無かったのかもしれない。捜索するにしても現場となった川か、その周辺の森くらいを想定していたはずだ。
お兄様の説明不足もあるけれど、先輩も確認を怠った結果だろう。
事件内容については七草先輩の口から説明するのは酷だと、先輩からの許可を取ってお兄様がほとんど説明を買って出ていた。
そして一条君はここでも勘違いや思い込みを存分に発揮し、意欲的に捜査に参加することになった。
七草先輩が十師族として護衛を蔑ろにすることなく、一個人と認め、その死を深く悼み、死の真相を追及して弔おうとする姿に感銘を受けたらしい。
…うん、いいんじゃないかな、歯車が噛み合えば。
一条君の考え方を聞くに、彼にとっては四葉の思想は受け入れがたく思えるんだろうな。
あそこは一族内には優しいけどそれ以外にはアレだから。でも一族でなくとも身内判定になると優しいんだよ。その優しさが周囲に誤解されやすいだけであって。
使い捨てにする人間は基本罪を犯した罪人だったりする――って、この考えがまずダメなんだろうな。私も四葉イズムに馴染み過ぎたらしい。
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