妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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九校戦編②

 

夜も更ける頃、勉強を終えた私は軽く伸びをして一息つこうとキッチンへと向かうことにした。

とはいえこれは思い付きでもなくルーティーン。決まった流れだ。

紅茶を入れて運んでいけばドアの隙間から明かりが漏れている。

 

「お兄様、一息つきませんか?」

「ちょうどよかった。入って」

 

おや、珍しい。

いつもなら開けて出迎えてくれるお兄様から入室許可が。

ちょっとワクワクしながら部屋に入ると――目がおかしくなったのかと思った。

お兄様は私と同じ視線の高さなのに椅子に座ってい――ない!?え、椅子がない?!

 

(あ、これ!!)

 

足を組み、その膝に肘を乗せ、身を乗り出すような姿勢なのに――どう見ても椅子に座っている姿勢じゃないと成り立たないのに、椅子は無い。

そしてお兄様のこのドヤ顔。

手にお盆持ってなくてよかった!!持ってたら落としてたよ。ワゴンにした私偉い!

妙なところで興奮してるけどいつものようにうまく発散できていない。

 

「深雪にも、このデバイスをテストしてもらいたかったんだ」

 

すー、と滑るように私の方に向かってそのままの姿勢で移動したお兄様は、足を崩して椅子から降りるかのようにゆっくり伸ばすと、その足を地面へと下ろした。

 

「…飛行魔法……常駐型重力制御魔法が完成したのですね!」

 

私は今!歴史の新たな一ページを、その決定的瞬間を目撃した!!

感動して言葉がうまく出ない。

 

(あ、だめだ。泣きそうっ)

 

お兄様におめでとうと言いたいのに詰まってしまってうまく言葉が出てこない。

そんな私をお兄様は嬉しそうに見つめると笑顔になってそっと包み込むように抱きしめられた。

 

「そんなに喜んでもらえると、作った甲斐があるな」

「おめっ、おめでとうございます!」

「うん」

 

これがどれほどすごいことか、原作を見ている分には「へーすごいことしたんだな」、程度だったけど、この世界で生きていればそのありえなさがわかる。

不可能を可能にするなんて言葉にするのは簡単だけど、それを成しえるのがどれほど大変なことか。

――そして今、お兄様はその偉業を成し遂げたのだ。

そんな大偉業を成し遂げたのに、なぜお兄様はそんなににこにこして妹を撫でてるんですかね?

もっと褒められる、褒めたたえられるべきなんですよ!?あ!させてるの私だった!!

渾身の力でお兄様との間に腕を差し入れて引き離すけど三十センチが限界なんだけど。お兄様ちょっと離して?あ、無理?

そう。なら、と今度はその腕を頭に向けて伸ばしてえいやっ!と引っ捕まえると胸、は届かないので肩に引き寄せた。

そしてその頭を撫でて撫でて、撫でまわす。

 

「すごいです。お兄様は誰よりもすごくて、偉いです。よく頑張りました」

 

母はおらず、父は使えない。ならば妹の私が全力で褒めてあげよう。

偉いね、よくやったね。頑張ってたの知ってるよ。

それを妹なりの言葉に変えて、褒める。

お兄様は突然の私の暴挙に驚いていたけれど、私がしたいことを察したのか力を抜いてもう一度「うん」と頷いた。

年齢より少し幼いようなお兄様の声にちょっぴり胸が疼く。

 

(やだかわいい!これが母性本能)

 

いい子いい子と頭を撫でて、ひとしきり撫でまわした後その頭を開放すると、お兄様は見たこともない優しい表情をしていた。

思わず胸が高鳴る。

いや、というより。

 

(私はいったい何を!?すごい偉業を成し遂げたお兄様になんて暴挙を!っていうかあれよね。お兄様はテストしてほしいって言ってるのに私ったら何してるの!)

 

興奮しすぎておかしな行動ばかり取ってしまった。

 

「し、失礼しました。テストですよね。さっそくさせてもらいます!」

「深雪」

「は、はい!」

 

お兄様はまだあの笑みを浮かべていて、真直ぐ目を合わせることができない。恥ずかしい!

 

「ありがとう。俺は今とても幸せだよ」

「!!」

 

………ぐっと来た。

なんだろう、今日は最終巻かな?あれ?九校戦前にストーリーって終わってましたっけ?

んなこたぁない。心の中のグラサンのおじ様が否定している。

なに?お兄様は私の涙腺壊そうとしてる?!

止めて!壊れちゃうから。簡単に決壊しちゃうから!

 

「こんな素敵な妹がいてくれて、俺は世界一幸せな兄だ」

「…もったいないお言葉です」

 

それ以外何を言えようか。

もういいよ。これが最終巻だよ。終わろう?お兄様幸せだって。

…って駄目だよ。これはせいぜい一部、完!だよ。そしてこれから第二部のお兄様恋愛編が始まるんだから。

しっかりしろ私。こんなところで終わらせようとするんじゃない。これはまだ道半ばだ。序盤も序盤。お兄様はこれからまだまだ幸せになるのだ!

 

「ではお兄様、今度こそ」

「ああ。頼む」

 

そしてテストは何事もなく終了し、お兄様の飛行デバイスはほぼ完成した。

 

「あ。そういえばミラージバットの衣装がありますけれど着てテストしますか?」

「それはぜひ見せて欲しいな」

 

お兄様のリクエストで服を着替えてもう一度飛行テストした。

衣装について褒めたたえてくれたお兄様だけど、上に飛んで見せた時、「これはもっと防御を高めた方がいいのでは?」「むしろ見た男共の目を潰すか記憶を消すか…」と呟いていたのが怖かった。

 

 

――

 

 

やってきましたフォア・リーヴス・テクノロジー!略してFLT!

雨のためバイクでツーリングは叶わなかったがお兄様との時間は何をしていても楽しいので問題はない。

たまに困る時があるけど問題はないったらないのだ。

 

「ご機嫌だね、深雪」

「ふふ、はい。とても」

「お前が嬉しいと俺まで嬉しくなるよ」

「そしたらまた私が嬉しくなってしまいますね」

 

にこにこと笑い合いながら慣れた道を歩いていく。

すれ違う大人たち、警備員たちには誰も止められることなく進んでいく。

そして目的地である研究室に到着するとさっそくお兄様に声がかかる。

 

「御曹司!」

 

ここでは私ではなくお兄様に視線が向かう。

ここ、第三ラボの社員は皆お兄様を尊敬し、敬愛しているのだ。

お兄様が愛される世界。ここは私にとって幸せな箱庭のような場所だった。

お兄様は初めこそこの呼び名が嫌いだったが、今では誰も嫌味で呼んでないことを知り、仕方ないかと受け入れた。

本当、お兄様は優しい。身内になったとたんとんでもなく甘くなる。

血筋ですねぇ、と思わざるを得ない瞬間だ。

 

「お邪魔します。牛山主任はどちらに?」

「お呼びですかい?ミスター」

 

くたびれ研究員、その実態は凄腕の技術者なんてなんて美味しい設定。大好物でしかない。

いいですよね。口調もさることながらお兄様への尊敬は包み隠さないところとかたまらない。

好きです。

これからもお兄様を末永くよろしくお願いします。

 

「…なんといいますか、いつもよりお姫様が光って見えるのは気のせいですかい?」

「おそらくこれが理由でしょう」

 

お兄様がデバイスを取り出すと、牛山主任はひょろい姿から想像できない大声をあげて、周囲が一気にざわついた。

そして研究所全体が目まぐるしく動き出した。

すぐに実験が開始され、全員が固唾を飲んで見守り――そして歓声が轟いた。

歓声なんて生易しいものではない。阿鼻叫喚。天変地異が起こったような騒ぎだった。

世紀の瞬間に立ち会ったのだ。これくらい騒がなければおかしいのかもしれない。

お兄様を見ると目が合った。

 

「嬉しいですねお兄様」

「ああ、そうだね」

 

狂った大人たちが踊っている。テストを終えても空を飛び続けるテスターさんたち。

美しい光景とは言えないけれど、それでも彼らが喜んでいるのは分かる。

お兄様の魔法は人を喜ばせる。

それが何より嬉しくて、誰よりもお兄様を評価してくれる仲間たちがいてくれることも嬉しくて。

やっぱりここにはお兄様の幸せが詰まっている。

私のそばにいるよりもここにいることの方がお兄様にとって幸せなのでは、と思ってしまうほどだけど、それはお兄様には言ってはいけない。

お兄様は今はまだ、私のそばでしか生きることが許されていない立場だ。

そのことだけはミストレスの私が忘れてはいけない。

 

 

 

それからお兄様は修正点を炙り出し、商品化するための改良点を話し合いながら構想を詰めていく。

完成にはまだかかるらしいけどもう原型はできている。

これから彼らは寝る間を惜しんで頑張るのだろう。

今度お兄様が行くとき手土産でも持って行ってもらおうと頭の中でリストアップしておく。

 

「すみません、本部長には一応連絡しておいたのですが」

 

もう帰る頃、牛山主任が申し訳なさそうに言った。

本部長、つまり何の仕事もできないのに権力だけ与えられし無能の父上様である。

いらないよ、会いたくないし。

とは事情を知らぬ彼には言えぬことで、お兄様も適当に話を合わせている。

 

(だけどこの後会うのよねぇ)

 

テンションはだだ下がりだ。

もちろん面になんて出さないけどね。

牛山主任と別れてからすぐさま出会った。見張ってました?と聞きたくなるほどのタイミング。

歪む表情から違うことはわかるけど。でも、一体何の御用だったんですかねぇ?こんなところで会うなんて。神の采配と言われたらそれまでなのだけど。

さて、目と目があったらバトルの合図ですよね。

帽子を被りなおさず仮面を被ってさあ勝負ですよ!

 

「お久しぶりです深雪お嬢様、ご無沙汰いたしております」

「お久しぶりですね。こちらこそご無沙汰いたしております青木さん。お父様も、この間のお電話ぶりですね。お元気そうで何よりですわ」

 

ええ、ええ。お兄様が無視されていることなんて気にもしていませんよ。むしろ穢れたお前たち大人が声を掛けることの方が許せん。

私はお兄様を守る壁であり、槍である。

ツンツン行きますよ、つんつん。

 

「お嬢様は見ない間に大変美しくなられて、この青木、四葉家の執事として鼻が高う御座います」

「あら、お上手ですこと青木さん」

「もちろん本心ですよ。次期当主の座を家中から望まれている深雪様にこのように拝謁できるだけで私は恐悦至極に御座います」

 

本当、口先から生まれた男ってこういうことを言うのねー。

自分からボロを出すってその時点で底が知れるけど。

 

「まあ青木さんったら。――ここが外だとお忘れなのかしら?それとも私を試していらっしゃるの?だとしたらその演技、今すぐおやめになった方がよろしいわ」

「っ、な、にを」

 

ああー。これくらいの揺さぶりで動揺したらだめよ。本当にこれが四葉家四位の執事さん?って思われちゃう。とはいえ執事とは名ばかりの経理担当の事務要員なのだけど。

それでも家の人間なのだから隙だらけでいられるのは困るわけで。やっぱり早めに叔母様に言ってテコ入れしてもらわないと。

名前の通り青くなるのは芸なのかしら?たいして面白くもないけれど。

 

「ふふ、それも演技ですか?真に迫っておいでで素晴らしいですわね。それとも私の答え合わせを待っている、ということでしょうか。だとしたら期待に応えませんとね。ねえ、お父様?」

「え、あ、ああ、そうだね」

 

何もわかってないだろう無能な父の相槌の、なんと無駄なことか。

どうでもいいんだけど。

 

「まずここは表向きは四葉と関係のないことになっている施設なのですよ?なのにお嬢様、だなんて。はじめこそお父様の娘、という意味合いに取れましたのに、四葉四葉と連呼して。誰にも聞かれてないなど、貴方は特殊な目や耳をお持ちだったかしら?おかしいわ。そのような有能な人材が四位に甘んじているなんてことないでしょうし」

 

過信してべらべらしゃべってんじゃないよ、厳重に守られてる施設でもいつどうやってスパイが紛れ込むかわからないんだからな、と脅しを一つ。

ついでに周囲の気配も読めないだろ、とも付け加えておく。ま、誰もいないのはお兄様の態度でわかるのだけどね。

 

「そして、なんでしたかしら?私が次期当主に家中から望まれている?――まあ恐ろしい。そのようなことどなたがおっしゃいましたの?」

「そ、れは!我々使用人が皆思っていることで」

「つまりそれはほかの候補者たちは実力不足だと?使用人たちがそのような不穏当な発言をなさっていると?これは大問題ですわ――四葉全体に粛清が行われる緊急事態と言っても過言ではありませんわね。――至急叔母様に、ご当主に連絡をせねば」

「お、お待ちください!私はただ、」

「――わかっておりますわ青木さん」

「!!」

 

こういう時15歳だと迫力が足らないんだろうな、と思う。切実に扇子が欲しい。できれば金属製が希望です。

にっこりと微笑んで槍を納めて。

 

「演技だったのでしょう?ですから叔母様に連絡することはございません」

 

不問にする、と言えば米つきバッタのように頭を下げる青木さんは実に小物だ。よくぞそんなんでお兄様に楯突けたものだよ。

でも叔母様には連絡しないけど葉山さんにはチクるよ。執事長にはしっかり部下を教育してもらわないといけないからね。

 

「お父様も、あまり無理はなさらないでくださいね。たまにはお仕事を忘れて奥様とゆっくり過ごすことも必要だと思いますわ」

 

要約すればお前会社くんな、引っ込んでろ、なんだけどお父様には通じないのよね。

 

「お前は本当に優しい娘だな。ありがとう、そうさせてもらうよ。そうだ、たまには家族で食事でもどうだい?」

「そうですね、いつか時間ができましたら」

 

来ないよそんな時は。

いつまでも夢見てないで現実見てくださいね。

去っていく二人の背中は対照的で、浮かれポンチのご機嫌お父様と、うまくごまを擦れなかった男の丸い背中。

 

「――葉山執事長へは連絡済みです」

「仕事が早いですね」

「お嬢様を煩わせるものは早く片付けませんと」

「…お兄様有能すぎます」

 

本家の執事の方が使えないって大問題よね。

こってり絞ってください葉山さん。

 

「私はお嬢様できてましたか?」

「お嬢様ほどお仕えし甲斐のある方は他におりますまい」

 

おおう、ガーディアンモードのお兄様もカッコいいけど、そろそろいつものお兄様に会いたいです。

 

「…お兄様、そろそろ戻ってきてくださいませ。私は今猛烈に、私を甘やかしてくれるお兄様を切望しています」

「求められたなら戻らないわけにはいかないな。どうしてほしい?抱っこでも何でもしてあげるよ」

「ならば手を繋いでくださいませ。帰ったら頭を撫でて欲しいです」

「もちろん。可愛くて頑張り屋さんな妹の願いは全て叶えてやろう」

 

くすくすと笑いながら手を繋いで歩いた。

嫌なことはさっさと忘れて楽しい時間を取り戻そう。

今日は記念すべき、素敵な一日だったのだから。

 

 

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