妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㉙

 

事前に七草先輩が連絡を入れていてくれたおかげで署内にスムーズに案内されたけど、普通予定人数を二人も超えたらその時点で入れない可能性があったのではないだろうか。予定人数のみにされそうなものだけど、権力がモノを言ったのかな。

証拠保管室は、ドラマで言うように埃っぽくなく整頓もきちんとされていた。

机には被害者が最期に身に付けていた物が並べられていた。

その衣服は戦闘の激しさを物語っていて、所々破れ、夥しい血痕が布を染め上げている。

CADはこの場に無い。アレはいろんな情報が入っているから、探られたら困ると思ったどこかの誰かさんが提出を拒んだらしい。

秘密がいっぱいの魔法師だからわからなくないのだけど、七草先輩も身内の取った行動に申し訳なさそう。まあ、警察の心証は悪いからね。

お兄様がまず血痕のことを聞き、全て被害者名倉さんのものだとわかると、思案顔に。

お兄様はここに来る前に七草先輩から名倉さんがどのような状況で発見されたか詳細な情報を聞いていた。

 

「名倉さんの死体は、腹部が背後から貫かれ、胸の皮膚と筋肉が内側から弾け、心臓が破裂していたそうですね」

 

報道で変死体と言われた所以である。通常ではありえない死に様だ。

内側からの攻撃とあってすぐに浮かぶのは一条の『爆裂』。

一条君は瞬時に自身の魔法が浮かびお兄様の言葉を反芻し、その意図を理解したお兄様が『爆裂』みたいだ、と言ったせいで大げさに反応してしまう。

一条君が大きな声で否定するけど、お兄様としてはただ例として挙げただけであり、どのような結果でこうなったのかを纏めているだけのようだった。ごめんね、一条君。疑ったわけでも揶揄ったわけでもない。

考えをまとめる過程で出た単なる呟きだった。

七草先輩はお嬢様らしく狭い室内で出された大声に顔を顰めていた。こういうところは育ちが出るのか。

…私も何らかのアクションした方がよかった?むしろこれくらいのことで反応を出すものではない、という方針の淑女教育を受けていたから反応しないが正しいと思っていた。

今思うと、私の淑女教育って、感情を表に出さないように、感情に支配されないようにコントロールしなさいという教えがメインだった。――つまりお兄様対策だ。

お兄様を一時の感情でコキュっとしないための教育。…しないよ?!大事なお兄様にそんなこと!

でもまあ、それがメインだったから優雅に微笑んで全てを流す、というのが私にとっての淑女だったのだけど、七草先輩の反応を見て、これの方が自然だなと思った。

…お兄様にどちらの淑女がお好みか今度聞いてみよう。どちらが正しいかわからないけど、反応を見るのはお兄様だ。

話は進んで名倉さんがどのような魔法を使っていたのかに話題は移っていた。内部から弾けるということは敵の攻撃だけでなく自身の魔法の可能性もあるから、と。

お兄様は徐々に真相に近づきつつある。探偵の素質ありますね。

私には無理だ。推理小説は好きだったけれど推理しながら読むのではなく、キャラクター重視でしか見ていなかったので探偵の素質は無いと言えよう。

結果だけ見てそうなんだ、で終わってしまうからね。トリックに注目することなんか滅多にない。たまにあるとんでもトリックの時は気になるけどね。

お兄様が一つの可能性を導き出し、先輩に訊ねるのだけれど心当たりのない先輩は困った顔になっていた。

美少女――否、美女になりかかっている先輩の悩ましげな表情は美しいね。スチルとして残してほしい。スタッフー!

だけど腕を組んでうんうん唸ってから何か思い立ったと言わんばかりに手を叩いて、ってリアルで見ることってあるんだね。

アニメの動きとしたら完璧なジェスチャーです。…ドラマではここまであからさまな演出は少ない。コメディくらいだ。好きだけどね。

私が主に見るのはそういう数少ない演出の作品の方だからよく見る光景ではある。もしかして先輩もそういう系お好きです?

そういえば、お兄様も先輩の動きについて似たようなことを考えているんだったっけ、とちらっと視線を向けるけど、お兄様ずるいね。真剣に先輩の言葉を待っているようにしか見えない。ずるい。

思い出した七草先輩の「名倉さんの使う魔法は水を針に変える魔法」との証言に、一つの推理を導き出したお兄様が次に取った行動は、机に広げられた血に塗れた衣服を眼で確かめること。

部屋に入った時から目に入るその証拠品は、時間が経過していたので生々しさこそ失われていたが、赤黒く変色したそれを誰もが冷静に結果として見られるのは、ここにいる全員にこの色がどういうものか知っているから、ということに他ならない。

慣れているかは知らないが、動揺を見せない程度には落ち着いていた。

お兄様が真剣に眼をやっているのを見て、つられるように七草先輩も一条君も目を凝らして真面目に見るのだから、やる気はあるんだろうね。

薄っすらと残る魔法の痕跡。それが何を意図しているのか私たちには読み解けない。

お兄様も時間が経ち過ぎて正確な分析はできないけれど、それでも私たちに比べてはるかに多い情報を読み取っていた。

 

「相手の特定に繋がる情報は俺にも読み取れなかった。だがこの傷は恐らく、幻獣によるものだ」

「げんじゅう?」

 

七草先輩が聞き慣れない言葉を繰り返した。

そうだね、大陸の魔法としてもなかなかマニアックな魔法だから知られていないのも無理はない。今は亡き大漢でも古い方の魔法だから。

電子金蚕ほどではないけれど、こちらも絶滅危惧種のような魔法。

精霊魔法等の化成体を知る延長で学ぶにしても、大陸に警戒していないとそこまで手を伸ばす知識でもない。

だから四葉の資料が残っているのだけどね。大漢並びに大亜連合のことに関しては九島に劣るだろうけれど、結構な蔵書がある。

ウチの教育は私たちが生まれる前から大陸について並々ならぬ力の入れようだったから。二度と悲劇を繰り返させないように、と。

お兄様が一条君に説明をパスしようとする前にちょこっと手を挙げてお邪魔します。

 

「幻獣とは確か、化成体の一種で、魔法により光を反射したり、接触したモノに圧力を加えたりして実体のないモノを実体があるように見せかける技術が化成体と呼ばれるものであり、幻獣はその形を光などを反射させて見せかけるのではなく、幻術で相手にその形を見せる。

化成体は光の反射を利用しているから誰にでも見えるけれど、幻獣は精神干渉系の魔法だから術者が見せようと意図した相手にしか見えない。そういうものだと記憶しているのですが」

 

これで合ってる?とお兄様を見れば、正解だ、とよく勉強したねと場所柄口では出さないけれど頭を撫でられる。

でも目は口ほどにものを言うので七草先輩がこんな時に、とちょっと呆れ顔ですよ。

 

「補足するなら相手に示すのは視覚的な幻術に限定されない。聴覚的な幻術でも幻獣の術式は成立する」

「ちょっと待って達也君。今の言い方だと、幻獣は相手に認識されなければ魔法として成立しないってこと?」

「幻獣と化成体の最大の違いは、相手に何かがいると思わせることによって術式の強度を高めている点にあります」

「だったら背中からの攻撃っておかしくない?音がすれば名倉さんだって振り向くわ。姿にせよ音にせよ、後ろにいることが知覚できれば、背中から貫かれるという結果にはならないはずよ」

 

流石は七草先輩。きちんと魔法の特性とその結果の矛盾を指摘する。

彼女はただ聞くだけでなく考えているのだ。未知の魔法に対抗する術を。

この点でもただのお飾りに収まるお嬢様じゃないことはわかるだろうに、どうして七草弘一はちゃんと教育を――って、この話は前もしたね。

隙のある女性の方がいいってことか。本当、何処までも女性を馬鹿にしている。もしくは駒としてしか見ていないのか。

…もしかしたら、だけれどそうして関わらせないようにして守ろうとしているのかもしれない。どれもこれも憶測ばかりだ。

 

「どこにいるかを認識させる必要は無いんです」

 

お兄様は幻獣の特性をもう少しかみ砕いて説明する。存在を認識、警戒することで相手を強力にしてしまうなんてタネを知っていても難しい相手だと思うけどね。

枯れ尾花とわかっていても感覚で認識してしまうだけで相手に実体を与えてしまうのだから。

 

「相手の魔法を警戒することで、相手の力を強めてしまうということ…?」

「こちらが手の内を理解していれば効果は半減します。遺品を見せていただいて正解でした」

 

先輩への幻獣講座もここまで。ここで得られる情報はもうないようだ。

刑事さんも新情報をメモし終えたのか、ポケットにしまう。

ああ、そうだ。

 

「名倉さんの御遺体はもう戻られているんですよね」

「灰になって、だけどね」

 

当たり前のことを聞く私に、先輩はもう心の整理がつき始めているのか苦笑で返してくれたけど、視界に収めていた刑事が身じろぎをしたのが見えた。

 

 

――

 

 

コミューターに戻ると、後半静かにしていた一条君が幻獣について訊ねる。

幻獣というより昨日相対した傀儡式鬼との違いが気になったらしい。

古式魔法師らしい言い回しだよね。現代ではゴーレムと言った方が馴染みのある魔法だ。

お兄様もそう伝えて全部伝わるだろう、と思っているようだけれど、お兄様お兄様、何処の十師族も足並み揃っての教育などしてませんよ。

横の七草先輩も名前は知ってる!概要もちょっぴし…みたいな曖昧な表情をされている。

ここは一つ、先輩方のために一肌脱ぎましょう。

 

「一条さん、兄さん、口を挟んで申し訳ないのだけど、ゴーレムについて名前しかわからなくて。詳しく教えてもらってもいいかしら」

 

お兄様が一瞬訝し気な視線になったけど困ったように微笑めば、理由を察してくれた。

また私が説明してもいいのだけど、そうするとお二人のプライドがね。私の口からよりもお兄様からの方が傷にならないと思うので。

今度はお兄様によるゴーレム講座が始まった。

お兄様のお顔に先日掛けてもらった眼鏡が見える。あとは白衣を着てもらいたいところ。

このお兄様に白衣が似合わないわけがない。…でもこの間みたいになったら困るからなぁ。ぬいに頑張ってもらいましょうか。

しかし、お兄様の声で授業を受けられるなんて贅沢だよね。耳が幸せ。内容もあとからすっと入ってくる。

あとからなのは聞き入ってしまうからなのだけど。

一条君にとってはそこそこに苦戦した相手でもあるから対処法は気になったのだろう。

対する七草先輩はそこまで興味のある話題でもなかったのか、はたまた概要をある程度知っていたからなのか要点を纏め上げて。

 

「要するに、幻獣とゴーレムの違いは実体があるか無いかってことなのね?」

 

ちょっと不機嫌そう。…これってやっぱりあれかなぁ。デートのつもりがお勉強会になってしまったことに対する不満もあるのかな。

デートの雰囲気がなくてもきっと、

 

 「ごめんなさいね、こんなことに付き合って貰っちゃって」

 「良いんですよ先輩。俺にとっても気になっていたことでしたので」

 「そう言って貰えると気が楽になるわ。…私ひとりではここまで来れなかった」

 「俺でよければ頼ってください」

 「達也君…ありがとう」

 

みたいな展開を期待していたんじゃないかな?…このお兄様が先輩の想像するお兄様かどうかわからないけど。

本当、お邪魔してごめんなさい、先輩。

 

「今の話を聞くと実体のある分、ゴーレムの方が対処しやすく思えるな」

 

この一条君の意見に、しかしお兄様は首を振る。

 

「化成体にしろ幻獣にしろ、わざわざ生物の形を与えるという余計な手間を挟んでいる点で魔法の使い方としては非効率なものだ。核となる呪物を使っていないなら狭い範囲に魔法力を集中した領域干渉で消し去れるし、呪物で虚像を強化している場合はその核を破壊すれば良い、あるいは単純に虚像を形作る力場を破壊しても良い。物理的に作用する力場なら、物理的な作用で破壊可能だ」

 

簡単に言えば対処法さえ知っていればさほどどちらも脅威のない敵だ。術師を攻撃するのが最も手っ取り早いけど、見つからなければ核を潰せばいい。

…とお兄様は簡単に言うけれど、お兄様のような眼があれば核も一発で見つけられるが、普通はそれ自体がなかなか難しいことだからね?

ちなみに深雪ちゃんなら力技が最も有効です。領域干渉と減速魔法、そして何より最終兵器でコキュってしまえば一発。

最後の一つは人前で使えないだけで、これがあれば大抵どうにかなる。精神体にも有効なら化成体にも当然有効だし、物理の相手なら特によく効きますから。

対処法を一条君に伝授して、一条君の問題は解決したけど、面白くない七草先輩のことはどうしましょうかね。

もうすぐ到着なのだけど、このまま不貞腐れたままも可哀想なので雑談で気を紛らわせてみますか。

 

「七草先輩、一条さんもいることですし、お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「え、何か怖い前置きね」

 

あら先輩ったら。一条君を見てください。何でも聞いてくれって目を輝かせてますよ。

 

「その…弟妹というのはいくつになっても心配なものなのでしょうか」

 

この質問に二人はぽかんとしたのは一瞬で、すぐにお兄様に視線が向かった。

視線を受けたお兄様はというと、以前話したことを思い出したのだろう答えは決まっている、と自信ありげに腕を組み、目を伏せられていた。

…ここは目を開けていた方がよかったと思いますよ。

 

「あ~、ほら、ウチは姉妹だから深雪さんのところのケースとは異なるんじゃないかしら」

「妹を持たれている方に聞けるチャンスがなかなかないもので」

 

妹がいる人少ないんですよ。少しでもサンプルをください。

期待して見つめると、やっぱり頼られると弱いお姉さんなのね。

うっ、と詰まって目を泳がせてから覚悟を決めたように頷いて――本当、思考が読みやすいね。

普段読みやすくさせていざという時読ませない作戦なのかもしれないけど。もしくは錯覚させるとか。七草の育った環境も大概だろうから。

 

「そうねぇ。確かに妹たちももう高校生だというのに、いつまでも小さい頃の印象が残ってしまってつい色々と注意をしてしまったり、甘やかしてしまうこともあるかしら」

 

言っていることはお兄様と似ているけれど、そう考えていたのが伝わったのかお宅と一緒にはしないで、と向けられた目が語っている。

仕草だけでなく目でも訴えられるんですね。先輩の伝達力の十分の一でも四葉にあれば――…ああ、でも四葉も視線で訴えるのは得意ではあるのか?目力と威圧で黙らせるのが得意です。

 

「ウチの場合、一人は思春期なんでしょうが、兄をウザがる――こほん、嫌がる時期になったみたいで。反発することが増えましたね。それでも可愛い妹に違いはありませんし、もちろん心配してしまいますけど」

 

慌てたように後半付け加えられたけど、安心して。お宅が仲良し家族なことは良く知っていますとも。

纏めると、結局のところ妹は年齢を重ねたところで妹でしかなく、庇護対象である、と。

 

「そういうことだ。諦めろ」

 

お兄様が無駄な足掻きをするなと言う~。いやでもね、お兄様の場合、このお二人に比べれば輪をかけて過保護だと思うのだけど。

 

「達也君のそれと一緒にしてほしくないわ」

 

お、ついに先輩が口に出した。

けれどお兄様は怪訝な表情。

 

「なぜです?何も違っていないと思いますが」

「貴方の場合は行き過ぎよ!過保護というのも生温いわ。去年の九校戦なんていい例じゃない。いくら妹の虫よけのためとはいえ恋人の振りをするだなんて」

「!そ、そうだぞ!あれはあまりにもやりすぎだ!」

 

一条君が今思い出したとばかりに抗議している。

だがお兄様の姿勢は揺るがない。

 

「あれは必要な行動でした。そうで無ければ深雪はきっと大勢の人に囲まれて大会前に精神的に疲弊し、気力を消耗していたことでしょう。偽装を解いた後夜祭では案の定たくさんの人に囲まれ疲れていましたから。今年はその経験も踏まえて心構えができていたようなので比較的落ち着いていましたが、それでも疲労はしていました」

 

疲労していた主な原因はダンスにあったと思うんだけど、まあひっきりなしに訪れる人に疲れはしたか。嘘は言っていない。

一条君は見ていたはずなのに確かに、と納得するのはお兄様があまりに堂々と言うから信じちゃいました?

さっきの講座も影響してるかもしれないけど、すべてを鵜呑みにするのはどうかと思いますよ。お兄様平気で勘違いさせるような発言を織り交ぜるから。

七草先輩は流石、お兄様の手口を多少知っているので本当に?と疑っている。

 

「それに、妹たちに言ったそうじゃない。深雪さんが理想のタイプだって」

 

あ~、四月のあの一件か。確か七草先輩に対して本当にその気が無いのかを確認された時にそんな話になったよね。

一条君が驚愕の表情でお兄様を見ている。

とんでもないシスコン発言ではあったから一条君も驚くのも無理はないのかもね。

でもあれって…香澄ちゃんの相手が面倒だったから私を使って断ったんだろうな、くらいに思ってたんだけど。

 

「いけませんか」

 

お兄様はそれに対して言い訳もせず開き直ったように堂々と言い切る。答えるの自体面倒になりました?

今度お兄様の面の皮の厚みを測らせてほしい。きっとかなりの記録が出ると思う。

先輩はあまりの開き直りっぷりに二の句が継げなくなってしまった。

残る一条君はと言うと…うん?私を見てますね。それからお兄様に同情の視線を向けた?

 

「お前…可哀想なやつだったんだな」

 

…視線だけでなく言葉も同情的。

お兄様が可哀想とは?ちょっと一条君の思考回路についていけないようで怪訝な表情。

しかし一条君はうんうん頷きながら。

 

「そうだよな。司波さんは理想の女性像を具現化した存在だ。それが実の妹であることは幸運であると同時に不幸とも言えよう。――けして伴侶になることは無いのだから」

 

……

…………

 

「一条に聞きたいんだが、それがどうして不幸になるんだ?」

「は?」

「血よりも濃い繋がりなどないだろう」

 

お兄様は何でもないように答えた。あまりにあっさりした答えに、二人は言葉を飲み込むのに時間がかかっているようだ。

だけど、その回答に私は心の中で大きく頷いて納得していた。

そう。お兄様にとって大事なのは兄妹であるということ。

お兄様は妹だから愛しているのだ。

彼の中で残された唯一の感情、それが兄妹愛。心揺さぶられるただ一つの絆。

今でこそお兄様の心が成長し、種の状態で休眠していた感情は芽ぶき、枝葉を伸ばし始めた。感受性も当初に比べればだいぶ豊かになりましたけれど、その始まりの感情が印象強いのも仕方のないこと。

あとね、一条君。するしないは置いておくにしても、四葉の非常識のせいでお兄様と結婚することは可能なんだ。遺伝子異常のない子作りができるらしいから。

…これがどうして断言できるのかわからないけどね。

遺伝子がかけ離れていれば可能だ、とは確かに科学的には納得ができなくはないけど、子供が生まれるって奇跡なんだよ?ただのDNAですべてが決まるわけじゃない。

何が起こるかわからないのが妊娠、出産の神秘だと思うのだけど。

その辺りも神の采配によって、なのかな。ご都合主義。魔法の言葉だと思っていたけどこの世界では神様のお力でした。

 

「深雪と兄妹でいられることが俺にとって最大の幸運なのは間違いない。それをたかが結婚できないと言うだけで不幸だの可哀想だの言われるのは納得がいかないな」

「…理想のタイプなのよね?」

「理想はあくまで理想でしょう。現実に付き合うかは別の話だと思いますが」

 

お兄様の正論に七草先輩は口を閉じ、一条君は胸を押さえた。流れ弾を受けダメージを喰らった模様。

静まるコミューター内に、到着目前でこの空気はまずいな、と思うわけで。

 

「あの、話がだいぶ逸れてしまったのですが、結局のところ兄や姉にとって妹はいつまでも見守り対象ということでしょうか」

「え、ああ。そうよね。深雪さんが聞きたかったのはその話だったのよね。――まだ少し先だけど、彼女たちが成人したとしても、今までと変わらない気がするわ。でもそれは子ども扱いしているんじゃなくて今までの延長線でついそうなってしまうのでしょうね」

 

七草先輩が答えると、ダメージを受けていた一条君も後に続く。

 

「そう、ですね。ウチも同じでしょうか。いつまでも小さい頃の印象のまま変わらない…大きくなっているのがわかっても、可愛いあの頃を知っているからいくら憎まれ口を叩かれても甘くなってしまう。…根がいい子だと知っているから」

 

あら、あら。思った以上に心温まる素敵なお話が聞けちゃいましたね。

 

「お話しいただきありがとうございました」

 

仲の良い家族のお話を聞けると嬉しくなるね。頬も緩むというものだ。

雑談にしてはいい締めくくりだと思ったのだけど、お兄様には気になったことがあるらしい。

 

「一条に聞きたいんだが、妹の憎まれ口というのは具体的にどういうものなんだ?」

「どうって、普通の…、お前には一生縁のないモノだろう」

 

ちらっとこちらを見て忌々し気な視線をお兄様に向ける一条君。そうだね。私は反抗期を迎える気がしませんから。

お兄様に反抗する深雪ちゃんなんて想像もつかない。私自身も、推しに反抗する意味が解らない。

推しの言っていることはぜったーい!だよね。全面的に肯定して支持するってわけじゃないけど、推しの意見は推しの意見として尊重しますよ。推しの考えだもの。

思ってたのと違う!そんな人だと思わなかった、とか理想を押し付けるのは、まああるかもしれないがそこに裏切られた!酷い!と八つ当たりを向けるのはファンとして一番やってはいけないことだ。

…って、話がちょっと逸れた。

お兄様に反抗的な態度を取るなんて、土台無理な話だ。

 

「参考になるかもしれないだろう」

「いいや、ならんな」

 

私が否定するよりも一条君が口に出す方が早かった。

 

「見下すように、蔑むように煩い、ウザい、不潔だ、なんて言葉を彼女が言うわけないだろう」

 

あーうん、言わないね。深雪ちゃんの語録に無いから。お兄様を見下すなんてまずない。

七草先輩も無いでしょうね、と頬に手を当てて遠い目を。先輩も想像付きませんでしたか。

 

「いったい何をしたらそんなことを言われるんだ?」

「俺が何かしたわけじゃない!ああいう年頃の女の子にはよくあることなんだよ!…まあ、ちょっと注意したくらいだ。スカートが短すぎないか、とか」

 

…お兄ちゃんだ。一条君お兄ちゃんしてるね。真っ当なお兄ちゃんの例は近くに居ました。

 

「俺は言ったことが無いが、それは兄として当然の心配だな。しかしそれが妹にとって嫌なことになるのか」

 

少し考えこむように顎に指を添えて少し俯いたけど、一体何をそんなに心配するというのか。

隣の七草先輩はそっと私に耳打ちする。

 

「深雪さん、仮に注意されたとして嫌だって反抗する?」

「そうかしら、と思うくらいで煩いな、とまではいかないかと」

「貴女のその気質では難しいでしょうね」

 

一体何を心配しているのやら、と先輩も呆れ気味。同じ答えに行き着いた者同士、二人してクスッと笑い合う。

コミューターが緩やかに減速し、止まった。目的地に着いたのだ。

七草先輩の表情は引き締まり、お兄様も思考を切り替えてさっと立ち上がる。一条君も捜査に意欲的だ。

この切り替えができるなら空気の入れ替え必要無かったかも、と思わなくも無かったが貴重な意見が聞けたので良かったことにする。

お兄様の探偵っぷりをとくと拝見させていただきましょう。

 

 

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