妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㉚

 

 

名探偵お兄様が始まる前に、お兄様の端末に連絡が入った。水波ちゃんからである。

残念なことに原作通り、光宣君の体調が悪化したとのことでお兄様から教えてもらった緊急連絡先――藤林さんに連絡したそうだ。

専属の医師と藤林さん本人が駆けつけ、今様子を見てもらっているところだが、大事には至らないだろうということ。

ほっと胸を撫でおろす。

七草先輩は九島の末っ子光宣君と一緒に行動していることに驚き、藤林さんも来ていることにも驚いていた。

 

「彼は確か体が弱かったのではなかったかしら」

「病弱ではありますが虚弱ではないようです。詳しいことはわかりませんが、魔法力が強すぎて肉体に負荷が過剰にかかっているようです」

「…そんなことがあるの?」

 

お兄様さらっととんでもないこと言いますよね。普通に見ただけではわからないことだと思うのだけど、深く考えずに口にしてません?

話して大丈夫な相手だと判断したのかな。それとも藤林さんから聞いた体にするのか。

一条君は藤林さんのことを知らないのでそこはスルーしていた。こういう深く詮索しないところは七草先輩同様マナー教育がしっかりとしている。

水波ちゃんの報告ではすでに医師が到着しているとのことなので、私たちが戻る必要も無くそのまま捜査を続行することになった。

当然だが、現場には目に見える痕跡など残っていなかった。

事件現場だから人が興味本位で見に来るかと思ったけれどそれも無い。今日が平日というものあるのだろうけど、あまりこのニュースに関心が無いのだろうか。…変死体だとそれなりに関心が向くはずだけど、と思ったところで気が付いた。…魔法師を恐れて近づかないのか。ここは土地柄魔法師を危険視し、歓迎しない土地でもあるのだから。

目を凝らしてみても、もう日にちが経っていてほとんど魔法の痕跡は薄れてしまっている。恐らく並の魔法師ではこの痕跡すら見えはしないだろう。

お兄様と一条君が、名倉さんがどのような状況であったかを話している間、七草先輩は現場と思われる場所をじっと見つめていた。

たとえ親しい関係を築いていなかったとしても、身近な人間がいなくなることに何も感じないほど先輩は薄情な人ではなかった。

しかもこの件は名倉さんだけの問題のハズが無い。当主が動いている――父親が何かをさせていたのだと先輩は確信している。

何が起こっているのか知る義務があると、彼女は思っているのかもしれない。

身内が信じられないということが、情の深い彼女にとってどれほどの苦痛なのか。

 

「先輩」

「…心配しないで。そこまで悲しんでいるわけではないの」

 

先輩は安心させようと微笑まれているのかもしれないけれど、その表情は陰っている。明らかに無理をしている笑みだった。

これが演技なのか、そうでないのか判断はつきにくいけれど、彼女が内に葛藤を秘めていることは確信できた。

だから、

 

「先輩の靴、ここでは歩きづらいでしょうから、手を」

 

河原でヒール有りは危険ですから、とその手を取る。女性らしい柔らかな手だ。温かく包み込んでもらいたくなる優しい手。

人との触れ合いは心を落ち着かせる効果がある。手だけでも多少は気を紛らわすのに役立つはず。

 

「…じゃあ、少しの間お願いしちゃおうかしら」

 

私の隠した意図にも気づいただろうけれど、先輩は何も言わずにその手を取ってくれた。しかも下手に出る形で。懐も深いったら。だから慕われるのだろうなというのがよくわかる。

だが、ここでの調査は本当に少しの間だけで、すぐにこの河原から移動することになった。

お兄様から周辺を捜索したいとの申し出があったからだ。

ここで得られる情報はたいして無かったようだが、来ると来ないでは気持ちが違う。先輩にとっては、特に。

黙っているけれど、これもお兄様の配慮でもあったのだろう。

次に向かって歩き出すその大きな背を、しばし見つめた。

 

 

――

 

 

お兄様は無駄を省くことが多いが、必要な説明を怠るような人ではない。ただ疑問を持たれる前に移動することで時間の短縮を狙っている節はある。

一条君にはそれが有効ではあるけれど七草会長には有効打とは言い難い。女性の不満は一時的では済まないのだ。

渡月橋を渡り、上流へ向かうのだが、その先へ進むのではなく昨日情報があった嵐山の方へと向かう。周公瑾の潜伏が確認された場所だ。

お兄様に周関連を七草先輩に関わらせるつもりはない。ないのだが、この近くまで来て調査をしないこともあり得ない。周辺を調査と言ってもお兄様の足取りに迷いはなく『竹林の道』にたどり着く。

 

「兄さん、山道に入るの?」

 

私は事前に聞いていたのでこんなことを聞くのは別の理由があると理解したお兄様はああ、とだけ答えた。

 

「七草先輩、よろしければこちらをどうぞ」

「これは?」

「山道に入るのにその靴では滑ってしまうかもしれませんから念のため」

 

そう言って取り出したのはスパイク付きのゴムが二つ。一般の靴でも滑りにくくなるアイテムだ。

あくまで自分用だったという体で。

 

「京都は山が多いと聞いていましたので、こういうのも必要になるかと思って念のため持ってきていて正解でした」

 

羽織っていた上着をめくると厚みのないウェストポーチがあり、そこから取り出してみせた。

…一条君が思いっきり顔を逸らしたけれど、別に素肌を晒したわけではないからそこまで逸らすこともないと思うけどな。

 

「随分用意がいいのね」

「山についてはスティープルチェースクロスカントリーでたくさん調べました」

 

ということにしておく。

生徒会役員として中条会長を支え、先輩が築き上げてくださった一高連覇の為にも頑張りました!ということで納得してくれると嬉しいけれど、と先輩を見れば微妙な表情。

 

「…私、そこまでしてこなかったわ」

 

…疑ってるんじゃなくて、生徒会時代を振り返っていたようだ。よかった。

そのまま先輩に疑問を持たれることなく奥に進んでいきましょう。

 

「先輩の場合、競技に変更が無かったのですから、こういった調査をされないのも当然ですよ」

 

九校戦のルール変更もそこまで大きく行われることはなかった。

 

「先輩たちだって競技の研究をされていた記録が残されてました。おかげでモノリスコードの過去の考察などはとても役に立ったのですよ」

「そう言ってくれるとありがたいわ」

 

先輩の会長時代、彼女は丁寧に仕事を熟していた。おかげで私たちが資料を探すことに困ることはほとんど無かった。

 

「会長になって改めて先輩の偉大さを実感いたしました」

「そ、そこまでは流石に言い過ぎよ」

 

うーん、美女の照れ笑い、ごちそうさまです。

でも顔が赤いのは多分照れよりもこの舗装が行き届いていない道を速いペースで歩いているからだと思われる。微かに息も上がっているから。

 

「兄さんも、そう思うでしょう?」

 

振り向いてー、と声を掛けるとお兄様はちゃんとこちらに視線を向けてくれたので素早く視線をお隣に走らせる。

それだけで僅かながら速度を落とし始めるお兄様、流石です。

上を向いて腕を組みながら歩くからペースも落ちて不自然じゃない演技まで!流石お兄様!!大事なので二回、いえ三回言わせてもらいましょう。さすおに!

 

「そうだな。前任者との資料を見比べましたが、アレをよく現在の形にまでまとめ上げたなと感心した覚えがあります」

「ああ~、別に会長が悪かったわけじゃないのよ。ただ、私がやり方を知っていただけ」

 

学生がメインで運営をしているのだから試行錯誤で今の流れに行き着いたのだろうけど、七草会長からがらりと変わってましたからね。

市原先輩のお力もあったのだろうけど、踏襲しすぎず、自分たちなりのやり方を融合させていったのは凄い。

おかげで私たちはとてもやりやすかった。

ニコニコして先輩のお話を聞いていると、一条君と目が合ったのだけど、また外されちゃったね。…慣れてきて普通になったんじゃなかったっけ。また振り出しに戻った?

 

「一条さんは、」

「は、はい!」

 

戻ったね。なんで?

 

「…一条、流石に免疫が無さすぎやしないか?」

 

お兄様が呆れ気味に、冷めた視線を送っていた。

 

「確かに微笑む深雪は可憐だが、深雪だって何度も視線を逸らされれば傷つくこともある。このまま交流する気があるのなら慣れておいてもらいたいのだが?」

 

え、そういう理由?そしてナチュラルに可憐って言われた。

とりあえず困った兄さんだ、という顔を作っておくけれど、内心は嬉し恥ずかし混乱中。

騙されてくれている七草先輩から同情の視線が向けられてから、次いでお兄様に向けて生温い視線を送られていた。

 

「うっ…だが、そうは言ってもな…」

「兄さん、人には苦手なことだったり無理なことがあるのだから。それくらいのことで私も傷ついたりしないわ」

「まあお前が傷ついたなら俺が慰めるまでだが」

 

…お兄様、私がこれしきで傷つかないと分かっているでしょうに。一条君を揶揄いたくなった?

 

「な!?そ、そんな必要は無い!し、司波さん!」

「はい」

 

声おっきいね。さっきと違って外だけど七草先輩がお顔顰めちゃってますよ。お兄様は知らん顔、の振りをしながら周囲をチェック。大きな音に反応があったかな。

 

「わ、悪気があったわけではないですが、傷つけてしまったことには変わりがありません!申し訳ありませんでした!」

 

うん、誤解してるね。まだ傷ついてないし、これからも傷つくことなく生温かく見守る予定だったのだけど、この謝罪受け取らないとお話進まない系だよね。

 

「誠実に応えていただいてありがとうございます。今後も三高と一高の付き合いもあるでしょうから、今まで通りの交流を期待しています。改めまして、今後ともよろしくお願いしますね」

「はい!」

 

丸く収まったかな、と思ったら隣からニヤニヤした、ご友人そっくりの笑みを浮かべられている気配を察知。

…まあね。この発言、これ以上深い付き合いはしないよって言っているようなものだからね。体のいいお断りだったのだけど、一条君が気付いてないことに先輩も気づいたのだろうから。

この件でいじられるのは後日になるのかなと思ったのは、魔法の波動を感じたから。

 

「兄さん!」

 

すぐに領域干渉を広げる。

襲い来るはずだった鬼火が対抗魔法に呑まれて消えた。

瞬時に全員戦闘態勢に入る。

敵はこちらの能力を把握してはいないらしく、情報を有していないのだろう。第二弾として風刃を放ってきたが、これも私の領域に阻まれる。

こちらの戦力は九校戦を通じて魔法界ではそれなりに知られ始めていると思うのだけど、伝統派の古式魔法師は九校戦をご存じない?島流しにでも遭いましたか?

ここには魔法師界では超有名な十師族の子息子女がおりますよ。そんなもので仕留められると思いました?実戦経験のない子供だと侮ったのかな。

九校戦には疎くても、一条君の佐渡侵攻での活躍は魔法界では有名な出来事のはず。つまり、彼らの勉強不足か。

こっちに関しては狭い魔法師界隈で常識レベルの話題のはずだから。

 

「一条!」

「任せろ!」

 

その話題の通り一条君は戦闘慣れをしていた。高校生にしては、のレベルではない。十師族子息として経験を積んでいる、軍の訓練に参加している動きだ。

フォーメーションの打ち合わせなどしていないのにお兄様は前を、一条君は後ろの配置について私たちを挟む形になった。

人払いの結界が既に発動しているのか、一般人が全くいない。…お兄様が気付けないでいたのは結界が触れることなく敷かれたから。

だけど人の目が無い方がお兄様にとっても動きやすいよね。

私がポーチの中を探るようにごそごそしていると、こちらに向けて飛んできたカラフルな組紐のようなものをお兄様が掴み取っていた。

急いでポーチを下の位置にずらしてから後ろに回していつでも魔法を放てるよう相手が現れるのを待ち構える。

その組紐にはキャスト・ジャミングのように魔法を阻害する効果があるらしいけれど、お兄様の前では意味をなさない。

そしてあっさり破られた魔法に呆然としている男たちを見事釣り上げるお兄様。

今度あの山へ行くときは湖で釣りでもしたらどうだろう。見るにお兄様には釣りの才能も有りそうですよ。

釣り上げた獲物は瞬間冷凍して鮮度を保っておきましょうね。

お兄様が苦心して作ってくださった魔法のお陰で、殺さず拘束することが気軽にできるようになりました。

…当時お忙しかったお兄様に無理を言って申し訳なかった思い出。私一人で構築できればよかったのだけど、流石にそれは無理でした。

私には魔法式を構築する才能は無かった。…感覚でやってしまうとこういう弊害がある。力任せの脳筋チートですまない。

お兄様は、「お前に不得意が無いと俺が支えることができないからいいんだ」と言うけれど、甘やかされているなとも思うわけで。

せめてお兄様がくださった魔法を正確に、精密に使いこなしてみせようと腕を磨くことに専念した。

おかげで幾つか冷凍庫にお魚やお肉のストックができました。スタッフが後で美味しくいただきます。というよりすでに食べましたけどね。鮮度を保てるので結構便利。

背後でも一条君の起こした突風によって、向けられた羂索を押し戻し、七草先輩のドライブリザードが事象改変の影響を打ち消す作用を齎し、周囲の魔法を黙らせる。

その上作り出したドライアイスを散弾させるのだから恐ろしいね。竹林からあたふた男たちが逃げまどって出てきた。

お兄様もあぶり出そうと、手刀で竹林をバッサリと。…これ、あとで再生しないんだよね。先輩たちいるし。

観光地にこんなことしたら普通咎められてしまうのだけど、緊急時ですので見逃してほしい。

敵の姿が何処にあるか正確に判断しての威嚇攻撃に、相手としてもこのまま隠れることは無意味と察したのだろう。

四人の男たちが躍り出る。振り返ると後方には六人。倒れた二人。

だから、どうしてたったこれだけの人数で対処しようとしたのかと訊きたいけれど、彼らは別に来ることを予期して待ち構えていたわけじゃないのよね。

だけど、拠点の防衛線なのだとしたらもっと色々仕掛けがあってもいいはずなのにね。

 

「一条」

「こっちは任せろ!」

 

頼もしい言葉だ。七草先輩を庇って一条君が敵に立ち向かうように立ってCADを構えている。

一条君は大丈夫だ。きっと七草先輩を守ってくれる。

だから集中して前を見据える。

男たちが揃って印を組み、「カン!」と叫ぶと同時に彼らの右腕が燃え上がった。途端漂い始める人のたんぱくの燃える悪臭がつんと鼻を衝くが、広がるより早く彼らを白い冷気が包み込んでいく。

魔を切り裂くはずの炎が、圧倒的な『魔』に屈して焼けた皮膚を氷が覆っていった。

一条君たちが自分たちの前に立ちはだかる敵に気を取られ、周囲に魔法を認識、記録するセンサーが無かったからこそ使うことができた魔法。

精神すら凍らせることができるのだから、外から押し付けられた魔法式を消すことくらい可能なことだった。

 

(でもなんだろうね、この感覚。外部からの干渉ってこんな気味の悪い魔法なんだ)

 

こればかりは感覚なのだけれど、なんとなく自身が対抗した魔法に薄気味の悪さを覚えた。

こちらも腕を上手に瞬間冷凍保存できたので、ケガは火傷程度で済んだだろう。

生き証人として頑張っていただきたい。…もしかしなくてもこの状態になってもまだ周や大陸の方士を庇うことはしないよね?洗脳は解けるよね⁇そのことを詳しく話すかは別にしても。

お兄様が彼らの足を指差すと、彼らの大腿部が一斉に血を噴いた。四肢を狙うのが一番逃がさないで打ち倒せる方法です。

彼らがのた打ち回ることで物理だけでなく想子の糸をも震わせ、お兄様が敵の位置を捕捉する。あとは簡単。

その茂みに向けて手を翳す。

敵もすぐに反応して蜘蛛を降らせるが、お兄様の手が払いのけるだけでそれらは消滅した。

…蜘蛛だから糸なのか、糸だから蜘蛛なのか。この蜘蛛を霧散させると同時に絶叫が上がる。

 

「まだ少しぎこちない感じだ」

 

お兄様は腕輪形態特化型CADの試作品と完全思考操作型CADの組み合わせの手応えがしっくりこないらしい。

十分に使いこなせていたように見えたけど、まだまだ改良の余地があるらしい。高みを目指す人はすごいね。これでまたお兄様の睡眠時間が削られないと良いのだけど。

暢気に会話をしているのは、別に敵の油断を狙ってのことではない。完遂するのがわかっていたからだ。お兄様がこの状態で敵を逃すはずもないのでね。

 

 

――

 

 

高校生男子が六十過ぎの白髪交じりの老人を投げ捨てる図は、倫理的にどうかと思われる場面かもしれないが、手加減を加える必要性がある相手でもない。

こっちはお兄様にあのへんてこな蜘蛛を差し向けた時点で瞬間冷凍してもいいのではないかな?永眠用の。とか思っちゃってますから。

お兄様にとって私が傷つけられるのが許せないように、私だってお兄様に変な攻撃を仕掛けてくる相手を許せはしないのです。

人を殺すことにためらいが無いと言えば嘘になる。それは前世の倫理観が邪魔をしているのだろう。

けれど、今世で生きてきて、お兄様と共に過ごしてきて、お兄様に攻撃を加える者には生きる価値はない、という深雪ちゃんイズムが備わっているためその辺の折り合いが難しい。

殺さない魔法をお兄様に創ってもらっているのに、反面お兄様を傷つける相手は許せないと思っている。できるだけ殺さずに済むのならそうしたいところではあるんだけどね、衝動を抑えるって大変だ。

呻く男は転がされた痛みで意識を取り戻したらしい。

お兄様にビビってはいるものの口を開かないぞ!という意思を感じる。

一条君たちが背景を吐かせるべきか否か話しているけれど、彼らが倒されたことでまた結界が解けたはず。ここは観光地。すぐに人が来てしまう。

早々に警察を呼んだ方が良いという結論に至った。

こちらは無傷で彼らだけ重傷を負っていたが、正当防衛であることは主張するし(というか事実襲われて撃退したのだから正当防衛には違いない)、結果だけを見れば過剰防衛に見えなくも無いかもしれないが、一番重症に見える腕の火傷は彼らが自身でやったようにしか見えない証拠もある(・・・・・)

たとえ魔法師に猜疑心を持っている警察であろうとも、無視はできないだろう。

警察に通報し、男たちをひとまとめにして、私は気分の悪そうな七草先輩の傍に付く。

そうだね。人の燃えた臭いに気分を悪くしない人はいない。あの光景もなかなか悲惨なものだし。

うら若き女性が目にすれば失神必至の光景だ。それをよく抑え込んでいる。後輩しかいない状況というのも彼女を支えているのかもしれない。

 

「あの、よろしければこちらを」

 

そう言って差し出したのはごく普通のハンカチに薄荷オイルを垂らしたコットンを包んだものだった。

 

「…深雪さんは随分備えがいいのね。こんなものまであるなんて」

 

先輩の言葉に苦笑して、先輩にしか聞こえないよう小声で答える。

 

「地方のトイレ事情というのを聞いていましたので。香りを誤魔化せるものを持ってきていたんです」

 

薄荷なら虫除けにも良いですし、と言えば彼女は自分が旅行をしたことがあっても環境の整えられた場所しか行ったことがないことに気付いたらしい。目から鱗のご様子。お嬢様ですしね、こんな旅行の豆知識知らなくて当たり前だと思いますよ。

この言い訳はちょっと苦しいかな、と思ったけど案外いけたっぽい?誤魔化しやすい先輩で助かります。

これらはこの日のために用意したアイテム。スパイク付きのゴムも、薄荷オイルも。お役に立ったようでよかった。

そしてほどなくして警察車両と救急車がやってきた。

警察の態度が悪く見えるのは恐らく過剰防衛を疑われてのことだと思うけど、こちらはまだ未成年ばかりだってことも考慮してほしい所。魔法師は一緒くたタイプです?

 

 

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