妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
と、いうことで執り行われた事情聴取だけど原作ほど時間はかからなかった。
何故なら事の詳細のほとんどカメラに収めていたからだ。物的映像証拠がモノを言った結果だった。
何故こんなモノを?とほぼ初めの内から撮影されていた映像に不審を抱かれたけれど、魔法師が街で魔法を使えないことを前提とし、身を守るために必要だからと説明。
この容姿で少しの間でも一人になってしまった際、事件に巻き込まれないことが無い、と言えば彼らも黙らざるを得なかった。
魔法は訝しむことができてもこの容姿が暴力的なまでに魅力的なのは彼らも否定しようがなかったのだ。
そういった場面で何が役に立つかと言えば防犯グッズや言いがかりを防ぐための証拠を記録すること。非魔法師の中には知識不足ながら魔法で操られたんだ!とかこっちが被害者だと罪を着せようとする輩がいるから。とはいえ私が外で一人になることはほぼないので、これは今回の為に用意した実例を交えた理由である。警察側でも思い当たるところがあったのだろう。
用意しておいて良かった。
疑り深い刑事さんに、なぜ自分たちの方を撮らなかったのかと聞かれたけれど考えてみてほしい。近距離の撮影では撮り逃がす可能性が高いことを。
いくら技術が進歩していても遠くの方がピントが合いやすいのはこの時代でも変わらない。
ついでに、私が一部魔法師の手を凍らせたのは発火した彼らを救助するためであると認められ、解放される運びとなった。
十師族の力を使うよりも現代の科学を使ったことで、彼らの印象がそう悪くならなかったことも良い作用となったことだろう。
刑事さんの中には古式魔法師の家の出の人がいて、十師族に良い印象を持っていないようだったけれど、余計な口を挟むことはなかった。
この短時間で映像を加工するなんて無理だし、証拠のブツに魔法の痕跡などないことは魔法師の目には一目瞭然だったから文句のつけようも無かったのだろう。
あっさり解放されたことにはほっとしたけど、皆精神的疲労とテンションの下がり具合は酷かった。彼らが操られていたと気付いたことも気分が悪くなる要因だろう。
お兄様も、このまま調査を続ける気にならなかったらしい。
ただお兄様の場合、疲労が理由ではなく、一人でならまだしも私たちがいることも考慮してのことだと思われる。
その後心を落ち着かせるためお茶をして一息吐いて互いを労った。
…お兄様が喫茶店で休憩しようと提案したのが、私が喫茶店の看板を見つめていたからではないことを祈る。
その席では先ほど起きた出来事など話題にしなかった。
互いの学校の様子だったり、先輩の新生活だったり。いずれ先輩の通う大学に進学するでしょうからね。参考になります。
ああ、そうそう。七草先輩に妹さんとの勉強風景はどんな感じか訊ねたところ、ごく普通に椅子を並べて教えるというものでした。密着しないんです?顔を寄せることも⁇腿に手を置かれることは?…無いんだって。
お兄様がピクシーにもっと警戒させるか、と眉間に皺を寄せて呟いていたのが印象的だった。
七草先輩、まともだと思っていた妹が普通じゃなかったことにそこまで落ち込まないでください。
一条君は…女性、だよな…?でも司波さんなら…の妄想は気になる人の前でしないことをお勧めします。
期間限定抹茶アイスの乗ったあんみつは大変美味しゅうございました。
「一条さんはこの後バイクで金沢へ帰られるのですか」
「ええ、そのつもりです」
「次にお会いするのは論文コンペ当日ですね」
「はい!楽しみにしています」
ううん、最近皆犬属性に見えてきた。一条君にも尻尾が見えるような。
ちらっとお兄様を見る。…お兄様には何も見えない。
「なんだ?」
「なんでもない」
お兄様の尻尾を確認しようとしてました、なんて言えない。
一条君を見送った後、七草先輩はホテルに空きがあることを確認して部屋で一休みすると言って早々に引き上げてしまった。お疲れさまでした。ゆっくり休んでください。
残った私たちがホテルに着くと、一番に向かったのは光宣君の部屋となった男子部屋だった。
迎え入れてくれたのは藤林さん。奥には光宣君が寝ているらしい。姿が見えないけど水波ちゃんもそこかな。
藤林さんは目ざとく私たちに漂う疲労感を見つけて心配してくれた。優しいお姉さん。好き。
けどお兄様は警察に引き止められた事実だけを述べて光宣君の容態をお訊ねになった。
彼の容態は思ったより悪かったらしい。落ち着いたのは先ほどとのことだった。
…知っていたのに、注意を促しても変わらない現実に無力感を抱くけれど、今私が落ち込む時ではない。
そして、――この物語にちりばめられた伏線の一つ、物語の核心に迫るシーンが来る。
すなわち、光宣君出生の秘密――
禁忌によって生まれた九島の罪。――深雪ちゃんの心を凍らせてひびが入るほどの重大な秘密を、お兄様は知ってしまう。
その様子をどこか他人事のように眺めていた。
藤林さんが心配するのもわかる。お兄様も純粋に光宣君を心配している。
彼らが傷つく必要など、何処にあったというのだろう。それほどの禁忌をなぜ、起こしたのだろう。
分かっている。狂った歯車が何かの拍子にかみ合ってしまった結果だということは。
それでも、何故お兄様が傷つくようなことばかり起こるのか。大切な人が傷つくのをただ黙って見つめることしかできない自分の、なんと無力なことだろう。
生まれながらに罪の子とされ、不自由な体の彼が普通に皆と同じように自由に生きたい、と願うことの何が、悪いというのだろうか。
藤林さんに促され、お兄様は眠る光宣君を視る。
時間にして一分。お兄様の額に夥しい汗が噴き出した。
「お兄様!!」
現実に引き戻すための声掛けのつもりが、あまりのお兄様の焦燥ぶりに思った以上の声が出た。
お兄様は一度瞬きをしてから私に顔を向けて安心させるように微笑まれたけれど、額に汗は光ったままだった。
集中が切れたことにほっと胸を撫でおろして、安堵した様子を見せてから急いでタオルを取りにバスルームへ。少し湿らせたタオルで拭おうとしたのだけれど、自分でする、と言うので手渡した。
(――お兄様は光宣君を視た。彼の誕生の秘密を解析されてしまった)
だから怒りを覚えたのだろうけれどそれをみせることなくすべてを飲み込んでから、藤林さんの質問にのみ答える。
藤林さんは、この時点ではご存じないのだ。自分たちの本当の関係を。知っていたらお兄様にお願いをするわけが無いのだから。
お兄様はかみ砕いて感覚を説明しようと例えを使用しながら光宣君の身体の状態を伝えた。
人の抱える量をはるかに超える想子の圧力が想子体を傷つけている。肉体とリンクするように情報が形作られているから、情報が想子に圧迫されて破裂すれば肉体にフィードバックを引き起こす。
ただ、光宣君の身体のすごい所は激しく動き回る想子のお陰で修復も早いのだと。
だから彼はギリギリの状態でも壊れずに済んでいるのだ、と。
もしこの状態を何とかしたいと思うのであれば、想子の活動を抑えることになるが、それはすなわち魔法に枷をはめるようなもの。
魔法力を下げることを彼が希望しているかと言えば、元気な体と引き換えにして差し出せるか、そこは難しい問題だ。命を取るか、力を取るか。
お兄様は想子体の強化を提案するが、その方法はわからないらしい。――まさか、パラサイト化することが最適解だとはこの時誰も考えつかなかっただろう。
それが結果として不幸になったか、私にはわからない。原作ではそれでも幸せそうに見えたから。
だけどその幸せはすべてを捨てて手に入れた幸せで、完全なハッピーエンドだとは思えない。
大事にしてくれた祖父を手にかけ、父を、家族を切り捨て、尊敬するお兄様を敵に回してでも、彼は水波ちゃんを救いたいと願い、求め、共にあることを選んだ。
――求めたのがパラサイトの影響なのか最後までわからなかったけれど、完全に制御できているという彼の言葉を信じるならば、彼自身の意志なのだろう。
…できることならば、全く同じ道は辿ってほしくない。別のルートがあるはずだ。もっと、幸せになれる道が。
藤林さんが項垂れている。彼女も葛藤しているのだ。
光宣君の強い魔法力は彼という存在を構築する上で必須のもので、それを簡単に奪う結論などできるはずもない。
現状身動きが取れないことが分かったからこその絶望。
――不便だけれど、私たちのように誓約を掛ければ彼は自由に動けるのかもしれない。
それなら力を完全に失うのではなく解放しなければ低下させられるだけ。いざという時に誓約を解除すればその後体調を崩すかもしれないが、使えないこともない。
だが、彼が日常的に枷をつけられたまま生きられるかと言うと、それは難しいかもしれない。
私たちでさえ息苦しさを覚える時があるのだから。
それに、そもそもこの件に四葉が協力するとも九島が協力させるとも難しいと思われた。
(本当、ままならない)
だから、今私にできることを。
「藤林さんも、お疲れ様です。ずっと看病されていらしたのでしょう?こちら、帰り際に購入してきたクッキーです。よろしければ一緒にいかがです?」
「…いつも深雪さんには甘いものをいただいているわね。ありがとう。いただくわ」
うんうん、美女に暗い表情をさせたままなんて耐えられないからね。
それから三十分ほどして、光宣君は目を覚ました。
お兄様を見て、ひどく落ち込んでいたのは一緒に調査に向かえなかったことを残念に思っているからだろう。楽しみにしていたものね。
謝ろうとする光宣君に、お兄様は手のひらを翳すことで物理的に止めた。
「頭を下げる必要は無い。不摂生で体調を崩したのならともかく、光宣の場合は体質だろう?お前が悪いんじゃないんだ。自分の責任でもないのに頭を下げるのは賛成できない」
お兄様にしてはかなり強い口調。宥めるでもなく、慰めるのでもない。窘める口調だ。
光宣君のことを思ってだと光宣君にも伝わったのだろう。謝罪ではなくお礼で返した。ん、いい子。
お兄様もよくできましたと頭を撫でた。そのことで光宣君は頬を赤らめたのだけど、お兄様は動揺もしない。美少年の照れ顔ですよ?よくそんな普通な対応できますね、お兄様。
藤林さんは慣れているのか微笑ましそうに見つめている。私?直視しないようにお兄様を挟んで見ているおかげで冷静さを保ってます。
お兄様が他所のお宅の子にお兄様している姿のなんと幸せな光景か。
しかもその相手が国宝級、いや世界遺産レベルの美貌の少年とあっては、このスチルを永久保存版として残しておきたいと思うのだけど、変な行動はとれないから泣く泣く網膜と脳内に焼き付けるしかない。
…全然冷静じゃないね。でも見咎められてない分セーフ、ということで。
「それじゃあ達也君、さっきの話なんだけど」
そう藤林さんが話を再開させようとしたところで、ぴたりと止まったのはもう一つの調査グループが戻ってきたからだ。
「ただいま~、達也君、深雪。早いね。あれっ、藤林少尉さんだっけ?」
「藤林少尉さんだって?あ、ちわっす。達也、先に戻ってたんだな」
「ただいま、達也。えっと、藤林少尉さん、ご無沙汰しています」
おかえり~。お疲れ様です三人とも。
緊張しているのは吉田くんだけ。エリカちゃんは薄っすら警戒?しているようだけど西城くんは自然体。それぞれの反応が面白い。
それに、藤林少尉さん、だって。なんかその呼び方可愛いね。
彼らの驚き様を大人の笑顔で受け止めた藤林さんは、軍務じゃないから少尉はいらないと伝えた。
お姉様の微笑みに、私はうっとりしてしまうのだけど、正面から受けたのにエリカちゃんや西城くんはよく平然と受け止められるね。
吉田くん、貴方は正常ですよ。この笑みを貰ったら青少年ならどぎまぎするのが当たり前だと思います。
それからエリカちゃんが光宣君の布団の横に正座して体調を問い掛ける。
エリカちゃんは誰に対してもフレンドリーな態度だから、心と体の距離感が近すぎて光宣君が戸惑っているのがよくわかる。
光宣君の周りにこんなに親し気に付き合ってくれる女子って居なかっただろうからね。
外見に似合わず光宣君の年相応な、初心な反応に、普段のエリカちゃんなら揶揄うのだろうけど、こんな場合だからか追い打ちをかけることはしなかった。
全員が揃ったことで情報共有をするため全員が座りなおした。私はお兄様と水波ちゃんに挟まれるいつもの形で。
先に吉田くんたちが会場周辺の報告をする。
昨日のように襲われることもなく、周辺にアジトになりそうな場所は見当たらなかったとのこと。
昨日の騒ぎがあったせいか、警察所属の魔法師が大勢巡回していたそうだ。
昨年のようなことは絶対に起こしてはならないからね。警察も警戒はするだろう。
むしろ騒ぎを起こしたとして吉田くんたちが非難されることが無くてよかった。
「論文コンペの下見としては成果があったけど、外国人工作員の捜索の方は進展なし」
「昨日捕まえた連中だけで成果としては十分だろう。奴らのアジトに警察の手が入っているようだし、そちらは官憲に任せておけばいい。工作員の捜査だって、本来は警官の仕事だ」
「兄さん、それを言っては身も蓋も無いわ」
本当ね、警官もだけどこの地の守護を任されている九島家も昨年のことがあるのだから事前に警戒して巡回していても良かったと思うのだけど、と藤林さんを見れば、彼女は苦笑いを浮かべていた。
これは、下手に動くと伝統派を刺激したり古式魔法師たちとの小競り合いに発展する可能性があって、警察とも連携が取れずに最低限しかできなかった、ということかな。
(…もう十師族制度止めた方が良くない?余計な柵生んで守りが疎かになるって一番ダメなんじゃないの⁇)
かといって今十師族制度が解散すれば海外は大喜びで攻め入る可能性もあるのだけど。
…何か良い解決策無いかな。というか、問題を起こしてるのって七草と九島とちょっと意味が違うけど四葉くらいで他は大した衝突起きてないんだよね。軍とうまくやっていたり、周辺住人との付き合いが良かったり。
一条家のところが一番良い関係を築けている。
四葉はもう自他国含めて畏れられる存在として君臨し、暗躍する立場を確立しているからうまくいっていると思うのだけど、その他は地盤が緩すぎる。
そんなことを考えている間にお兄様は小倉山の麓で襲撃を受けた報告を。
13人の襲撃者に狙われたこと。
内12人が密教系古式魔法師で、残りが亡命方術士であり、全員警察に突き出したことを伝えると、エリカちゃんはさもありなんと大きく頷いた。
「達也くんに、深雪に、一条家の跡取りなら当然の結果ね。人数がその十倍でも敵わないわ」
随分高く評価してくれるね、嬉しくなっちゃう。でも、あれ?エリカちゃんってそこに七草先輩が来てること知らないんだっけ?…と思ったけど学校に突撃した騒動を知っているのだからそれは無いか。故意に無視してるってことだ。エリカちゃん、先輩とあまり相性が良くないから。わざわざ注釈を加える必要はないね。
だけど余裕は余裕だったけど、全員生かして、となると十倍は難しいんじゃないかな。
伝統派の手札もなかなかに面倒なものが混じっているのでうまく連携が取られていたり、敵の方術士が彼らの正しい使い方を知っていたら面倒なことになっていたと思う。
吉田くんを見ていて思ったけれど、彼ら古式魔法師の厄介なところって一人一人連携が取れるサポート力にあるよね。
単発はそう強くなくとも複数だと相乗効果がある技が多い。流石積み上げてきた歴史が違う。
「そんなに楽な相手でもなかった」
お兄様の返答に、エリカちゃんは意外、の表情。
西城くんはへぇ、と相槌を打つがその目はちょっと好戦的な色が。
吉田くんもエリカちゃん同様驚いているようだけれど、ちょっとそわっとしてる。古式魔法に対する評価は気になるんだろう。
それからお兄様が竜の巻き付いた炎で作り出した直剣、倶利伽羅剣について聞き、吉田くんが答えるのだけど、吉田くんの知識半端ない。流石神童と謳われた人格者。若くして相当研鑽を積んだのだろう。
その魔法の特性を教わり、どれほど強力で難しい魔法かを吉田くんが説明し、最後に強制的に魔法を発動させたらどうなるかとの質問に対しても、吉田くんは詳しく解説してくれた。
というのも彼は元々古式魔法師界隈の噂で相手に強制的に魔法を使わせる術式があることを聞いていたのだ。
よって、その魔法がもたらす結果も知っていた。
「手が燃える」
まさしく私たちが見た光景そのものだ。
エリカちゃんが声を上げて仰け反り、私も顔を顰めて手で口元を覆う。今思い出しても酷い光景だった。人の燃える臭いなど少し嗅ぐだけでも嫌悪感が酷い。
よく七草先輩が悲鳴も吐き気も堪えられたものだ。あんな悲惨な光景を彼女は見ることも初めてだっただろうに、泣き言一つ言わなかった。
この世界の女性って強いよね。特にお兄様周辺は。…私も負けてられないね。
お兄様と視線が合う。この話はこれ以上広げないようにとのことだ。
「そうか。かなりの手練れだったんだな」
「その相手を無傷で倒すんだから、達也たちも大したものだよ」
「深雪と一条の手柄さ。それでこれからのことなんだが」
ここでも七草先輩の名が出ない。お兄様もエリカちゃんのために配慮した、ということなんだろうね。…面倒事を避けた、とも言うかもしれないけど。
「えっ?今日はもうホテルをチェックアウトして東京に帰るんじゃないの?」
間違ってないよ。変則的ではあるけれど、この後夕方のうちにチェックアウトして帰る予定になってます。明日は学校だから早めに帰るつもりだった。
皆が注目する中、お兄様は淡々と予定を話す。
「皆は予定通り東京に戻ってくれ。俺はもう一泊していく。明日、もう一度警察に行って今日捕まえたヤツらのことを訊いてくるつもりだ」
お兄様としても襲われました、だけでは何の収穫にもならないですからね。アジトを攻めてもう少し情報を得たいのだろう。
お兄様がお決めになったことに、私が無理を言うことはない。
残るなどと言って困らせることもない。それでもキュッと口元を結んで俯いたのは、…これから起こるだろうラブハプニングに緩みそうになった口を隠すためだったのだけれど、お兄様の手が私の頭にのせられる。
「俺はついて行ってやれないが、寄り道せずに帰るんだぞ」
「…兄さん、そんなに小さな子供ではないのよ」
一瞬心の中を読まれたんじゃないかって心臓が跳ねたけれど、向けられたセリフはお使い帰りの子供に向けられたようなもので。
お兄様には一体幾つに見えているんだろうね。
「水波ちゃんもいるんだから、我侭言って困らせるわけないでしょう」
「水波はお前に甘いからな」
「兄さんほど甘くないわ」
水波ちゃんはしっかりしたいい子です!というか、どうしてそういう話になりました?
「お兄ちゃんは心配性ね~。駅まで一緒だからちゃんと見ててあげるから」
「エリカ!」
「エリカ、任せたぞ」
んん?おかしいぞ?ここって確かエリカちゃんがサボ…じゃなかった。警察に伝手があるから残るって言ったのをお兄様が立場上調べることがあるから、とそっとお断りするシーンだよね?
なんでそれが私のお守みたいなことになっているんだろう…。
もしかしてお兄様が一人で行動したいのを読んで安心させるように言ったとか?エリカちゃん、人の心に寄り添うのが上手いから。寄り添う、とはちょっと違うか。
いい距離感を保ってくれるというか、その人のことを考えてそれぞれ合った対応をしてくれる。
近づくときは触れそうになるほど目の前に来るのに、スッと離れる時は離れ、目を閉じると寄り添ってくれていて、…みたいな。
だから彼女の傍は居心地が良いんだろうね。そして慕われている。彼女は人をよく見ているから。
この寸劇に苦笑している西城くんと吉田くんも、お兄様が留まることに関して何も言わなかった。
このやり取りを藤林さんと光宣君が微笑ましそうに見つめていて、その表情がそっくりだったことに一人ドキッとしながらもその半面で良いスチルだと脳内に収めつつ、私たち女子は帰り支度をしに一旦部屋に戻ることになった。
とはいえ今日帰ることがわかっているのだ、荷物など大して散らばってもなく片すと言うほどの手間は無かった。
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