妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㉜

 

「しっかし、達也くんといるとほんっと事件が起こるわよね」

「エリカ、言いがかりは止して。兄さんはどっちかと言うとトラブルシューターの方よ」

 

トラブルを起こすのはいつだって外部だ。お兄様はただその処理係として巻き込まれているに過ぎない。

だけど事件の影にはいつもお兄様の姿があるから『事件=お兄様』と印象が残ってしまうだけで。

 

「あ~、確かに?」

「それに、私のせいで起きる事件もあるから。兄さんは私と兄妹じゃなければ幸せだったんじゃないかって思うことがあるわ」

 

この発言に水波ちゃんがぎょっとした顔でこちらを見た。エリカちゃんもえ、と固まっている。

 

「…そんなにおかしなこと言った?一応、自分がトラブルメーカーだって自覚はあるのよ。この見た目でトラブルが生じるなんて日常茶飯事だし――」

「そうじゃない!そこじゃないわよ」

「深雪姉様、達也兄様は今でも十分に幸せそうに見えますが」

 

あら水波ちゃん、嬉しいことを言ってくれる。でもその顔色が青いのはどうしてでしょうね。

 

「…達也くんが深雪と兄妹じゃなかったらですって?考えたくもない」

「深雪姉様、達也兄様に対してフィルター分厚いですよね」

「わかる~。絶対的信頼寄せ過ぎよね」

 

ちょっとちょっと、お二人とも。こそこそしていても狭い部屋。しかも目の前でされているから丸聞こえですよ。

聞こえてるけど…お兄様を絶対的に信頼して何が悪いの⁇お兄様って深雪ちゃんの絶対的守護者ですよ。

兄妹じゃなかったら、って。まず前提が兄妹でしかないんだから考えるだけ無駄でしょうに。あ、この話を始めたのは私でしたね。

お兄様と兄妹でもなく、そもそも四葉の家の出でなければあそこまで苦労して生きなければならないことはなかったと思ったんだよね。

 

(あ~、でもあの特殊な固有魔法に振り回されて心が持たない可能性も…?)

 

そうすると四葉で生まれたことはある意味救済でもあるのか…悩ましい問題だね。

自由自在に再生と分解の力を利用するには四葉のあの手術が無ければ難しかったはずだ。怪我の情報を自身の身に落とし込んだ時の苦痛は耐えきれるものではなく、正常な感情を持っていた場合魔法自体を恐れるのではないだろうか。使う度に激しい衝動に見舞われるかもしれない。

一つでも持て余しそうなそれを、お兄様は二つも所有されているのだ。

改めてお兄様の背負わされている環境って初めから詰んでる。

それを母の愛で生かされ、四葉の愛により生きる術を身に付けさせられ、叔母様の愛で少しでも四葉を離れ、僅かな自由を生きられている。学園生活というささやかな普通の幸せを謳歌させてもらっている。

その分課せられた仕事も多いけれど、それだけだ。

だからお兄様も反発をしない。そこに留まっている。力を蓄えるための止まり木とも思っているかもしれないが、それでも今すぐ飛び出していない時点で、そこまで不自由を強いられていない環境であることも理解しているのだろう。

…お兄様、四葉で無かったら逆に生きられなかった説。

 

「おーい、深雪?」

「お待たせ、準備できたわ」

「そ?なら行きましょうか」

 

後ろで荷物を持ちたそうな水波ちゃんがいるけれど、この後コミューターに乗って駅に行って電車に乗るだけなんだから気にしなくてもいいのに。我慢して。

…荷物を持たせてもらえないことを我慢しなければならないとは、メイドさんの思考も摩訶不思議。

そしてお兄様とはホテルのエントランスでお別れ――と思ったら駅まで送ってくれた。

エリカちゃんに任せるんじゃなかったの?エリカちゃん達のジト目がお兄様に突き刺さっているけどお兄様は平然としてますね。通常運転。

何でも調査に動くのは明日だから時間が余ってるとのこと。あれです、お兄様も寂しかったということで。

別れ際、ハグはできなかったけれどお兄様の手を取って無事のお帰りを願っていると、お兄様も残る手を添えて距離を縮めて額を私の頭にのせる。

その瞬間、エリカちゃん達が水波ちゃんを引きずって遠巻き――というか他人の振りをし始めた。酷い。というかこれ、ハグよりも恥ずかしい気がするのは気のせいかな?

でも、お兄様の機転のおかげで二人きりで話せるようになったと思えば良いことなのか。

 

「お兄様、お気をつけて…」

「ああ。必ずお前の許に帰るから」

「あの…それから、明日は七草先輩と回られるのでしょうか」

「俺としては単独で当たりたいところだが、どうした?」

「いえ、今日の先輩はとても大変な目に遭われていたのに毅然とされてましたので。もし傍に居られたら労って差し上げたかったのですが」

 

言い訳としては苦しいかな、と思ったのだけどね。後輩が先輩に対して感謝はともかく慰めようなんてちょっとおこがましい気もした。

でもね、誰かが頑張ったことを褒めてあげても良いと思う。私にはできないけれど、実力を認めているお兄様になら先輩も、お姉さんぶりながらも受け止めてくれるんじゃないかな、と。

 

「…お前も同じ立場だっただろう?」

「私はお兄様がいて下されば戦場であろうとも心乱されることはございません。ですが、先輩はあの時周囲に後輩しかいなかったのです。きっと一人奮い立っていたに違いありません」

 

十師族で一番年上、責任感の強い先輩なら一条君やお兄様がいると分かっていても自分が引っ張らなければと思ったはずだ。そしてその通り、行動を起こしていたと思う。

それをお兄様も思い出したのだろう。

 

「…わかった。俺では不足だろうが、深雪の代わりにフォローを入れよう」

「!ありがとうございます」

 

(やったね!これでお兄様のラブミッションもきっと無事に熟せるでしょう!)

 

前回の水着イベントもちょっと曖昧な感じに終わってしまいましたからね。今度こそ邪魔者はいません。ぜひ親睦を深めていただきたい。

…別にさっき言った目的も嘘じゃない。ただ慰めついでにお兄様の優しさにコロッといってくれてもいい、というだけです。

 

「女性に優しいお兄様ですもの。七草先輩の傷ついた心もきっと癒されるでしょう。何と言ってもお兄様は先輩にとって弟のように可愛がっている後輩なんですから」

「…可愛がられた覚えはないし、弟というのは勘弁願いたいな」

 

あらあら!それはもしや弟なんて立場に満足しない!という宣言です?…嘘です違うことは分かってます。

だからお兄様そんな不審を抱くような目で私を見ないでくださいませ!

 

「そういえば去年の生徒会選挙で結構な妄言を口にしていたね」

「そ、そんなこともあったでしょうか」

 

う、藪蛇でした。人の恋路をいじるのはよろしくない。

 

「お兄様が弟扱いは嫌だとおっしゃったからですよ」

「当たり前だ。俺には妹しかいない。他に兄妹なんていらないからな」

 

あ、そっち。お兄様にとって二人きりの兄妹に水を差されるのが嫌だった模様。

 

「そうですね。私も兄妹はお兄様お一人がいいです」

 

そう微笑むと、お兄様の手に力が込められた。

 

「…こんな時にハグができないなんて」

「ここは外ですもの」

「他人に俺たちの関係が何かなんてわかるはずないだろう」

「エリカ達が困ってしまいます」

 

困らせればいい、とお顔に書いてあるけれど、ちゃんと口は閉じてますね。言ってはいけない言葉だと止められたのは偉いですよ。

 

「あら、確かに頭を撫でられないこの状況はちょっと辛いですね」

「ちょっとどころじゃない。が、何時までもここに拘束していてはいけないな」

 

最後にもう一度。

 

「兄さん、無茶はしないで」

「ああ。やることをやったらすぐに帰るから」

「おーい、お二人さん。お別れは済んだ~?」

「そろそろ時間だぞー」

 

二人の声に手を離して手を振って。

急いでエリカちゃん達の許へ駆けつける私の背を、お兄様が姿が見えなくなるまで見つめていたことを感じながらホームへと向かった。

 

「まるで今生の別れね」

「そう?あっさり別れたつもりだけど」

「あれであっさり?」

「深雪姉様はあっさりなのですが、達也兄様がなかなか離れないのです」

「「「ああ~」」」

 

水波ちゃんの言葉に皆が納得した。

いえ、私もお兄様と離れるのは辛いよ。寂しいよ。でもお仕事を邪魔しちゃいけないからね。

心はとっくに社会人なので。ここにいる誰よりも年上なのですよ。

 

「それより、皆は晩ご飯ってどうするの?」

「え?ああ、帰ってから適当に?」

「まだお腹も空いてないしね」

「深雪はどうするの?」

「私は、駅弁に興味があって」

「「「駅弁」」」

 

水波ちゃんは既に私が駅弁に喜ぶことを知っているので口出ししない。ただ毒味だけはするだろうけど。簡易キットがあるのでこっそり調べてから。

外のお店でやるわけにはいかないけどね。お店を怪しんでるって思われるし、そこまで必要な人物と疑われることもまずい。人がいるところでは昔ながらの先に食べて、というチェックになる。でもお弁当ならこっそり調べることはできるからね。

 

「意外。深雪ってそういうの食べるんだ」

「その土地でしか味わえないものって滅多に食べられないじゃない」

「そりゃそうだけど、さ。結構庶民的なもの好きよね。俗物的って言うか」

「私を一体何だと思ってるの?」

「何って、…その見た目とのギャップがあり過ぎるのよ」

 

…言いたいことはよくわかる。深雪ちゃんどう見ても深窓の令嬢だから。

今も周囲から、ほぅっ、て見惚れられてますからね。自分たちと世界が違う住人だ、って遠巻きにされてますものね。

 

「前に振舞ってもらった時とかジュースも手作りだったしな」

「言われてみれば確かに飲み物は確かにこだわる、かも」

 

西城くんに指摘されて気付いた。茶葉だったり豆だったりはかなり拘っている。

品質ばっかりは下げられない。

食事の方は庶民的でも美味しいものは多いけどお茶関係はどうしたってお高いモノには敵わない。

 

「じゃあ、さっさと駅弁買いに行きましょ。本当に時間無くなるわよ」

 

エリカちゃんの号令で隣接するお弁当屋さんへ。

夕方ということもあって品出しされたばかりでたくさん種類があった。やったね。

それぞれ選んで急いで電車へ。本当にギリギリになって、何とか乗り込めて皆ほっとした顔に。笑い合って適当な席を選んで他愛ない話をしながら帰った。

皆と食べた駅弁も美味しくいただきました。大満足。

 

 

――

 

 

家に着いて水波ちゃんとほっと一息つく。

この間襲われたこともあったから二人して緊張して帰ったのだけど、家周辺には今、四葉のエージェントが護衛の任に就いている。

お兄様ほど完璧な守護は誰にも無理だろうけど、それでも無いよりは安心できる。

 

「おかえりなさい、水波ちゃん。そしてただいま」

「!お、おかえりなさいませ深雪様。た、ただいま戻りました」

 

えらいえらい。良く挨拶できましたね、と頭を撫でると水波ちゃんは顔を赤らめるけれど、それで身を引くことはない。

私が喜んでいるから耐えてくれている、以外にも理由があると嬉しいのだけど。

旅行から帰ってまずするのはお片づけ。

ということで鞄からいろいろ取り出したりして二人で片付けるとあっという間だった。

これが終わってからようやくお兄様にお電話。帰宅した報告を。

 

「ああ、よかった。無事に帰宅したか」

 

…お兄様、とても甘い声色に耳が蕩けそうなんですけれど。電話越しに色気を感じるって怖い。映像付きじゃなくてよかった。

もし映像があったならそれはそれはこの声のように甘くとろけるような目をされていることでしょう。画面越しでも食らってたらヤバかった。

 

「…お兄様がいらっしゃらなくて寂しかったです」

 

皆でわいわい帰った電車の中はとても楽しかった。ここにお兄様もいれば一緒に高校生らしく騒いで帰ることができたのに。一緒に青春の一ページを刻めたのかと思うといないことが残念でならなかった。

 

「あんなに楽しそうだったのに、寂しかったのかい?」

 

あれ?お兄様の眼は姿まで捉えられたのだっけ?随分詳細までご覧になられていた模様⁇

それとも私だけは感じ取れるとか?お兄様は私のことをずっと追跡しているから私の情報はわかるだろうし。ただのカマかけの可能性もある。

どちらにしてもお兄様だからそんなに気にならないけれど。

 

「だからこそ、です。その場にお兄様も一緒に居ればもっと楽しめましたのに、…なんて。これは我侭が過ぎましたね。失礼いたしました。お兄様は仕事で残られているというのに」

「気にするな。俺の方が寂しくて言った戯言だ」

 

ふっ、と漏れた笑い声には哀愁が混じって聞こえて胸が騒ぐ。ただのリップサービスのはずなのに今すぐ駆けつけたくなる衝動に駆られる。

恐ろしいお兄様。たった一言で妹をこんなに動揺させるのだから。

 

「しかし、急に悪かったな。明日には帰るから良い子でちゃんと待っているように。今日も色々あって疲れただろう。ゆっくり休むんだよ。戸締りもしっかりして、な」

 

…あの、もしもしお兄様?私これでも結構しっかり者で同年代に比べれば大人っぽい方だと思うのですよ。内面からにじみ出る社会人臭と言いますか、くたびれたオタク臭と言いますか…こっちは意味が変わってくるな。

ともかく、原作よりは精神年齢上高いと思うのに、どうして原作よりも子ども扱いをされているのでしょう?

 

「…お兄様には一体私がいくつの子供に見えているのです?」

「お前はいくつになろうとも可愛い妹だよ」

 

今日のコミューターでそういう話になっただろう、とお兄様は言うけれど、彼らはここまで甘やかすようなことは言いませんよ。

年長者としてくどくど言うタイプ。お兄様のそれは小さな子供に優しく言い聞かせるタイプ。

対象年齢を気にしてください。この二つには大きな壁が存在します。

 

「もう、分かりました。お兄様のお言いつけ通り、戸締りをいつも以上にしっかりしてゆっくり休むようにいたします」

「良い子にはお土産を買って帰るから」

 

わぁい。お兄様子ども扱いしてないっていうのは嘘だね?思いっきり子ども扱いしてくる。いいですよ。それでお兄様が安心してくださるというのならいい子にしてお土産を楽しみにお待ちしていますとも。

あ、そうだ。

 

「お土産はお土産話でもよろしいのですよ。良い思い出も苦労したお話も。楽しみにしておりますね。ではお兄様、おやすみなさいませ」

「…最後にとんでもない宿題を出されてしまったな。深雪に話せるエピソードがあればいいのだが。まだ早いが、おやすみ深雪。あわよくば、夢の中で会えることを」

 

お兄様はどういうつもりなの?遠く離れていても私の心臓を狙わないといけない病にでもかかっているの?スナイパーとしても技術を磨こうとしているの?

安心してほしい、見事命中だよ。苦しいよ。心臓が悲鳴を上げています。

電話が切れてよかった。切れてなかったらたとえ離れていてもこの激しい動悸を聞かれてた。全く、なんて危険なお兄様なんだ。

良かった。部屋に戻って電話してて。主の威厳が損なわれる姿を見られることはなかった。…そんなものとっくに無くなっているって?そんなバカな。…そんなことないよね?

ちょっと不安になりつついそいそとリビングへ。水波ちゃんもちょうど今降りてきたところらしい。

せっかくだから二人でちょっとお茶ブレイクのお誘いを。売店で見つけた抹茶フィナンシェと小倉フィナンシェ。気になって買っちゃったんだよね。

水波ちゃんにも付き合ってもらって食べる。

 

「それにしても、光宣君の体調が良くなったようで安心したわ」

「…私は寿命が縮む思いでした」

 

そうよね。悪化した時は心臓に悪かっただろう。いくら前もってどうするか決めていても実際動けるとも限らない。それを実行できた水波ちゃんはよく頑張りましたよ。

 

「深雪様にそのような場面を想定していただかなければ、もっと処置は遅れていたことでしょう」

 

知っていたから、とは言えない心苦しさよ。知ってたならまず体調を崩させるなよってことですよ。

一応忠告はしたけれど、忠告だけで体調を崩さなかったら今頃家族が注意するだけで体調を崩す等なかったはず。

それに彼がいると水波ちゃんも来るわけだからコミューターに乗りきらない。つまりどうあってもあの場面で強制力は働くことになっていたのだ。

 

「少しでも役に立ったならいいけれど、水波ちゃんもお疲れ様」

「いえ、私は…」

「看病はそれだけで気力も体力も負担がかかるモノよ。お母様を看ていた私が言うのですもの。間違いないわ」

「!そう、いうものなのですね…」

 

水波ちゃんも私の言葉を否定することはできなかった。

というか、疲労するよ。人を看病するって。人の命を預かってるのだから。

水波ちゃんが納得したのを見届けて、おやつにかぶりつく。

 

「この小倉フィナンシェ美味しいわ。小豆ってこんな可能性もあったのね」

 

考えてみたら餡バターなんて罪な味があるのだから洋菓子との組み合わせがあってもおかしくなかった。

 

「こちらの抹茶は香りが高くてとても美味しいです。ただ、お茶と合わせるとどうしてもお茶が負けてしまうのでこちらを合わせるには紅茶かコーヒーの方がよろしいかと」

 

確かに。口がさっぱりしていいかな、と思ったけどこの組み合わせには合わなかったね。うっかり。

そんな感じでお兄様不在のお茶会はほのぼのとした雰囲気で終わった。

日記は水波ちゃんの担当だったのだけど、残念ながら彼女は看病につきっきりで書くことが無いということだったので私が担当することに。

…今日の出来事を短くまとめるのって難しくない?とりあえず同じ妹を持つ方々の妹に対する見解と、お兄様は同じ妹を持つ者にとって異常であることだけは書き記そうと思う。

光宣君、ウチを普通の基準としないでね。

 

後日、光宣君からのメッセージが。

 

――流石に僕でもお二人の仲が尋常でないことはわかります――

 

…ちょっぴり心にダメージを受けた。

 

 

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