妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㉞

 

この衝撃の事実はとっくに――前世からの原作知識として知っていた。

だから衝撃なんて受ける必要も無く彼女たちが揃ったところを見ても似ているところがあるな、と思う余裕すらあったはずなのに、この場で改めてお兄様の口から言葉にされるとどん、と心臓目掛けて鈍器がぶつかったような衝撃が起こり、続いてどくどくと血管内を濁流のような血液が流れていく。

息が上がってしまいそうになって口元を手で覆って隠した。

 

「…藤林さんのお母様は、光宣君のお父様の実の妹…」

「光宣は調整体だ。おそらく人工授精で生まれている。だから厳密には近親相姦ではないが、実の兄妹の間に生まれた子供であることに違いはない」

 

――ああ、そうだ。ずっと小骨のように引っかかっていたことがあった。それが今連鎖するように記憶から呼び起こされて、その理由に思い至る。

 

(調整体だから、私たちの手の温度は同じだったんだ…)

 

原作でそのような描写は無かったから思いもよらなかった。

完全調整体とは言え、私も調整体だったのだと初めて実感した瞬間だった。

ただの偶然なのかもしれない。たまたまこの三人が冷え性で、と。だけど直感的にそれは否定された。理由は分からない。だが、そんなものなのだろうとすとんと腑に落ちた。

四葉に行けばたくさんの調整体の人がいるので検証しようと思えばできるだろう。したところで、何も得られることは無い。

ただ、私が調整体としてこの世に生まれたというこの事実を実感できるだけ。

 

(まあ、握手したら相手が調整体か疑うセンサーが搭載されていると思えば調べる価値はあるのかも?)

 

はたしてそのセンサーが意味あるものなのか分からないけれど。使い道が極端に狭い能力の有無に、強張った身体が解れるのを感じながら口を開く。

 

「では…光宣君の体質は、近親相姦の弊害だと…?」

 

お兄様は首を振るけれど、続く言葉は否定の意味ではなかった。

 

「断定はできない。問題は想子体のアンバランスにあるのだし、肉体的には健康なんだ。調整体の過程で不具合が出たのかもしれない」

 

淡々と、お兄様は現状分かっている情報と可能性を並べる。

原作の叔母様も言っていたっけね。九島の調整体は欠陥品、と。それってつまり欠陥と呼べるだけのデータをお持ちってことだよね。

そしてどこが間違っているのかが叔母様にはわかっているということ、になるのだろうか。

だけど私と光宣君の成り立ちは違う。彼は兄妹の遺伝子によって生まれた。私はお母様に適合する最適の遺伝子との間に生まれた。

そういう意味でも光宣君の方が遺伝子操作が難しかったのではないだろうか。…いや、今考えるべきはそこではない。

 

「だが、近すぎる遺伝子が原因である可能性も否定できない。魔法師開発研究所でも親子間や兄弟姉妹間の遺伝子を使うことは避けられていた。遺伝子が想子体に、そして精神にどのような影響を与えるのか、分かっていることはまだ少ない」

 

現状判断するにはデータが足りないと言うお兄様だけれど、そんなデータなどなくていいではないか。

私たちだって理科で学んだはずで、お兄様にもそれは禁忌だと、不毛だと理解されているのだから。

 

「実の兄妹で子を成す必要性など、そもそもないでしょう」

 

生まれた子供の魔法力の低さに、己の能力の低さが露呈しているようで何が何でも優秀な魔法師の才を持った子を作りたかったのか、はたまたこのままでは十師族内で九島の存続が危ぶまれると思ったのか知らないが、だからといって博打を打つにもほどがある。

不文律、禁忌と呼ばれるその領域に人が手を出していいことなど無い。

動物界は本能で理解しているのに。

本能も科学の前では何の役にも立たない、または二の次にされてしまうということか。

 

「深雪…」

 

思ったより低い声が出てしまった。こちらを見る瞳が不安そうに揺らめいていた。

お兄様が光宣君を視た時、お兄様の中ではいろんな感情が渦巻いていた。怒り、悲しみ、苦しみ、ありとあらゆる負の感情が湧いていたのを感じた。

感じることはできても心裡は読むことができない。何を考えていたのかはわからないが、怒りを抱いていたのは確かで。

その時の怒りに同調して、声に出てしまったようだ。

私としては、この事実をはっきり口にすることで、お兄様の中で私との婚約することの不毛さを印象付けるだけの予定だったのに。

 

――絶望して、顔を青ざめるのではなく、事実として受け止め、ありえないと断ずる。

 

これが、原作に背く私の計画。

 

(妹にとってもお兄様にとっても兄妹はありえない、そう印象付けることで私たちの婚約を阻止、または一時的に仮として、いずれ解消するための布石にでもなれば――お兄様を解放できる)

 

私は一度固く瞳を閉じてから、お兄様に向き直った。

 

「お兄様、口にされるのもお辛かったでしょうに、お答えいただきありがとうございます」

「いや…こちらこそ心配を掛けてすまなかった」

「いいえ。お一人で抱えるには大きすぎる秘密だと私も思います――光宣君も藤林さんもご存じないのでしょうね」

「知っていたら、俺に視ろとは言わないだろうからね。…全く、九島当主は何を考えたのか」

 

お兄様にも思い起こさせてしまったのか、静かにお怒りになっていた。

お優しいお兄様。自身の境遇より、光宣君を想って怒っているのだと、そう感じた。

人の命を弄ぶような行為に等しい自分本位な実験だ。

その罪を生まれながらに背負わされてしまった光宣君には同情を禁じ得ない。彼には何の罪もないのに、存在自体に罪のレッテルが貼られた状態なのだ。

彼の生きづらい体質はその罪に対しての罰なのか。だとしても背負うべきは彼ではない。

 

「今度、光宣君に会う機会があったら、目いっぱい甘やかしましょう」

「…それは同情からか?」

 

お兄様の表情はまだ厳しいものだった。

だから私も真剣に応える。

 

「確かに、初めは同情でした。けれど今はもう、彼は私にとって身内同然なのです。傷ついているのがわかっていて見放すことはできないくらいには、可愛い――息子のような存在なのですよ」

 

けれど、最後の方は口元が緩んでいた。

思い出して浮かぶのは、彼の気を許したような笑みばかりで。

たとえ存在が禁忌であろうとも、人の手が加えられて造られた存在であっても、彼には心があり――絆を結んだ一人なのだ。

 

「息子、か。深雪はまだ16なのに、その表情を見ると母親に見えるから不思議だな」

「あら、そうですか?」

 

ふ、とお兄様から力が抜けた。今考えても何にもならないと思考を切り替えたのか、はたまた私の考えに脱力してしまったのか。

どちらでもいい。お兄様がよその家の事情で頭を悩ませる必要性などないのだ。

何より、――兄妹で子を作ることは禁忌である。

そのことを改めて認識し、想いを凍らせる。それが本来の『私』。

結局踏みとどまることができずに、この後に控えるお兄様との婚約を喜んでしまうのだけれど、本来であればここで断ち切らねばならないはずの想いであった。

だけど、今の『私』はお兄様と二人だけの未来を考えることは無い。

お兄様にはいくらでも選択肢があって、私の想いに捕らわれることが無ければお兄様が縛られることはない。四葉に留まる必要などない。

自由に、羽ばたける。

 

「下手に同情するくらいなら甘やかすくらい可愛がるのも手か」

「お兄様は甘やかすのがお上手ですから、きっと光宣君も喜びますよ」

「俺が甘やかしたことがあるのはお前だけだからな。男相手だとまた勝手が違いそうだ」

「あら、あら。お兄様、それこそ新米のパパみたいですよ」

 

子供を持った父親のお悩みあるある。

男女の違いでどう接すればいいかと悩んじゃう。どちらも可愛い子供なのにね。

 

「パパ…」

 

あらやだ。お兄様、驚きの余りちょっと固まってしまった。珍しい。

でもどんなに驚いてもすぐに復活するのだから流石お兄様だ。

 

「俺がパパならお前がママか?」

 

そしてさっそく手を伸ばして私の髪をひと房指に絡めて口元へ運ばれる。

…お待ちください?何故パパとママ発言でそんなお色気満載のオーラを醸されるのです?仕舞ってください。

ちょっと前まで緊張感漂う空間でしたでしょう?なぜ今、夜の雰囲気漂う危険空間になっているのです?

 

「お、お兄様、」

「――残念だ、ここまでのようだな」

 

お兄様がすっと離れると片付け終わった水波ちゃんがやってきた。ありがとう救世主!

水波ちゃんは私の困り顔を目ざとく見つけ、お兄様に強い視線を向けたけれどお兄様はどこ吹く風といった感じのお顔でコーヒーを飲まれていた。

 

 

――

 

 

論文コンペ大会前日。

九校戦の時と違い、論文コンペで移動する人数はそう多くないので全員一緒に移動する。

おかげで花音先輩がピッタリとくっついて上機嫌だ。五十里先輩は慣れたものだけれど、人目があるのは気になっているご様子。

隣のお兄様が俺たちもするか、と言うように視線を向けてくるけれど、一体何をするというのです?この距離感で大丈夫です。

…やっぱりほのかちゃん達と座ればよかった。

打ち合わせがある、とお兄様に声を掛けられたから周囲に断りを入れて隣に座った。

今回お兄様は生徒会としてもコンペサポーターとしても、更には警備補助としても参加しているのだから生徒会長である私と打ち合わせをするのはおかしなことではないのだけどね。

相変わらずお兄様忙しすぎない?仕事多すぎ。

そして今後の打ち合わせということだったけれど、予定の確認だね。

亜夜子ちゃん達と落ち合って周を追い詰めるとのこと。これは確かに私としか確認できない内容。

こっちに来たついでに任務も一挙に片付けてしまおう、とお兄様は張り切っていた。

 

「これ以上、お前との時間を削られたくない」

 

…ただでさえ研究でお忙しかったところにこの任務でしたからね。

 

「早く終わらせてゆっくり休んで」

 

小声だったり端末上で会話しているけど、念のため敬語抜きで会話中。気のゆるみでミスを犯して疑念を抱かせるようなことがあってはいけないからね。

 

「その時はお前も一緒だ」

 

深雪も忙しかっただろう?と言われてドキッとした。

お兄様には何でもお見通しだ。

 

「兄さんほどじゃないから。でもありがとう」

 

会場に到着し、責任者としてバスを最後に降りて最終チェックをしようとしたら泉美ちゃんが張り切って立候補した。

こんな雑用私が!だって。雑用なんてとんでもない。大事なお仕事です、頼みましたよ。

ということでチェックインの方を担当することに。先日はどうも、と顔見知りになったホテルマンと挨拶を交わしキーを受け取って皆に、と思ったら今度はお兄様とほのかちゃんが。ならお任せしますね。

…うーん、大したトラブルも無さそうだね。水波ちゃんと一緒にお部屋へ移動。

これも九校戦と違って、前乗りしたからといって前夜祭のようなパーティーがあるわけではない。一旦会場に行くこともなく、ホテルで各々休んで、食事をホテル内のレストランで一緒にするくらいであとは各自自由だ。

でもこれも暗黙の了解だけど、遊び惚けたりはできない。論文コンペにスパイや妨害工作員はよくあることなのだ。

だからこそ風紀委員が警備をしている。去年のようなことは例外だけど、警戒するのはこの前日が一番緊張する。

完成したモノ盗んでいった方が都合良いからね。

だから雫ちゃん達は一番忙しいので私たちの部屋に遊びに来ることはない。

 

「お兄様はもうお出になられたわね」

 

私にお兄様のように居場所を特定する能力は無い。お兄様が私から離れたかなんてわかりようもないけれど、時間的に、恐らくお兄様は既にホテルを出て黒羽姉弟のいるホテルに向かわれたはずだ。

お兄様に許されている時間はそう無いから。

吉田くんが協力してくれているとはいえ、点呼の際にいないとなれば私の責任になる。

まあ、その辺はどうでもいいのだけどね。どうとでもできます。生徒会長権限!せっかくある権力は使わないと。

とはいえ不審に思われるようなことはしないのが一番ではあるので、時間を守る予定ではある。

片付けの終わった水波ちゃんがお茶を用意してくれた。

 

「ありがとう。――水波ちゃん、ドアと窓のロックを厳重に。それから遮音フィールドと想子フィールドを展開してくれる?」

「っはい」

 

水波ちゃんは理由を聞くよりも早く魔法を展開した。

私の雰囲気がいつもと違うことに気付いたのだろう。

端末をいくつか取り出して音声ユニットを装着。

今回お兄様がプッチンしてしまわれる可能性があるのでね。九島がカバーしきれないところはうちで処理しなければならない。

黒羽も一応そのために現場に張っているけれど、彼らが工作するのは魔法に対してが主だ。

軍の内部は藤林さんの方からフォローが行くだろうから問題ないはず。…後は、四葉とこっそり協定を結んでいる、水面下で活動している影の対大亜連合部隊が動いているはずだ。

これを機に派手に動き回って良いように利用されている過激派を片付けるつもりなのだろう。

キーボードを滑る指はお兄様ほど正確無比でもなければ目で追えないほどのスピードがあるわけでもない。

それでも自身の中の最高スピードで画面の向こう側と会話をしては情報を拾っていく。

去年の論文コンペの件があったので一般人は特に警戒して出歩かないようにしているらしい。

ニュースでも会場周辺は特に近寄らないよう注意喚起がされたそうだ。

一般人でも戦争直前まで行った騒ぎを無関心でいられるのは事情の分からない子供くらいなもの。よって出歩く人は少ない。

だが、完全にいないわけでもないし、そういうのを茶化して野次馬になろうとする若者がいないわけではない。

そんな彼らが近づこうものなら、人払いの結界が張れる人がいる箇所ならいいが、そうでないなら周は喜んで利用するだろうし、四葉はそれを悲しい事故と片付けてしまうかもしれない。

それだと不都合が生じるかもしれないので勝手ながらそうなる前にフォローを入れるつもりだ。

思ったよりも京都の人間は賢い人が多いようで周辺を出歩いている人間が極端に少なかった。

ただ――

 

「…あら、この反応――」

『亡命したとされる方術士とパターン一致』

 

原作では周は一人だったはずだけど、もしや逃げるために助っ人ならぬ捨て駒呼んでた⁇知らなかった新事実。

 

「確保できそう?」

『変態のいやらしい捕獲アイテムの試作品が』

「試すにはもってこいですね。使いましょう」

 

ステルスドローンって、普通肉眼だと見えるものだと思うじゃない?

光学迷彩使ってほとんど違和感なく、しかも消音で近づくんですって。近代科学と魔法の融合って恐ろしい。

一応そういった兵器を民間で許可なく勝手に作っちゃいけないことにはなってるし、これほど高性能なの見たこともないのだけどね。

この間の癇癪玉の理論を使ったら光学迷彩いけちゃったってどういうこと?天才の考えることはわからないけれど、ともかくすごいことはわかった。

寝食忘れて大好きな実験器具を愛で、いじり倒す変態だけど。

 

『捕獲成功。ただし生命反応が著しく低下を確認』

「…できるだけ生かして確保したいからサンプルを取っておいて」

 

電気ショックの電圧強かったかな。

この失敗は次に生かしましょう。…いや、あの変態博士のことだから恐らく死んではないと思う。

生きてる方が実験に使える!というマッドな面を持っているので。けして彼の良心だとか倫理観を信じているわけではない。

貴重な実験道具を使えなくさせてはもったいないと、そういった発想は信じてる。

倫理観のないマッドサイエンティストなんて…厄介なモノ拾っちゃったよね。気軽に誰かに譲渡もできない。

ちゃんと管理してくれる人が欲しい。人材求む。

それから何回か同じ作業を繰り返し、逃がしかけても第二第三のドローンがね…怖いね。メリーさん、今あなたの頭上にうようよいるの。

人手が少ないからね。こうした機械を使うのもいいけど、これをうち以外で使われたくない。ので撃墜とかされた場合、破片はひとかけらも残さず回収してね、と追加で固く厳命。

一通り作業が終わり、実働部隊に撤収を指示して、情報部隊にも労をねぎらい回線を閉じる。

ここは四葉のホテルではないから偽造信号とか使っているらしいけど、うん。とんでもないね。ホテルに知られずに回線使うってまず無理だよ。潜り込むならわかるけど。

昨日一日の突貫工事でこんな工作しちゃう四葉が恐ろしいですよ本当。

とまあ、片付けは彼らのお仕事なので私はノータッチ。端末を仕舞うだけだ。

 

 

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