妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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古都内乱編㊱

 

 

午後の部も順調に始まり一高の順番が回ってくると、贔屓をしてはいけないという理由で審査席ではなく一高の応援席へ。どうしたって自分の学校の評価は公平性に欠けますからね。

お兄様が隣でぴたりとくっついていますが…徐々に先ほどの話のおかしな点に気付いてきました。お兄様、女性不信になってない気がする。

ドレス着てなくても目を逸らすことなく七草先輩に対して警戒心向けていましたよね。トラウマであれば見るだけでも心が乱れるだろう。でもあの時お兄様の御心は不満そうなもやもやとした感情が主だったように思う。

話の最中、そこに不機嫌さもプラスされたけれど、嫌悪感や恐怖は含まれてなかった。上手く隠してた、とか?

…自然に流しちゃってたけど、まさかお兄様ドレス買ってないよね?せめてレンタルだよね⁇…私の勘がレンタルなんてお兄様はしないって言ってるぅ…。

どうしよう、今更キャンセル聞き届けてくれると思う?この楽しみにしているとばかりに機嫌を良くされているお兄様が。

 

「どうかしたか?」

「いえ…今までで一番大きな拍手ですね」

 

拍手が大きいので周囲には聞こえないだろうと、お兄様にだけ聞こえる声で話しかける。

一高が褒められれば嬉しい。お兄様や先輩たちのあの忙しさが報われる瞬間だからね。正しく評価を頂けているようで安心しました。

 

「内容も十分革新的だ。流石五十里先輩だな」

 

お兄様も親しい先輩が高評価で嬉しそうです。うんうん、順調な成長っぷり。親しい人が褒められるって嬉しいことよね。

お兄様の心の成長ぶりに感動していたいところだけれど、一高の発表の後はすぐに戻らなければ、と立ち上がったところで会場にざわめきが。

舞台に、まるで光が差し込んだように眩しくなった。

 

「んっ、あれは」

「あら、光宣君だわ」

 

光宣君は準備で忙しいのかこちらに気付いていない様子。他の生徒たちと一緒に準備しているようで、彼が浮いてないで仲間に入れてもらっているように見える。その様子にほっと胸を撫で下ろす。

 

「…もしかしてこれが」

「ああ。俺たちに内緒にしていたのはきっとこれだな」

 

確かにびっくりしましたとも。

二人して微笑ましく笑い合って元気そうな姿の光宣君をしばし見詰める。

っと、そんな時間無いんでした。

 

「審査員席に戻らないと」

「気をつけてな」

 

ああ、通路に人が呆然としたまま立ってますからね。皆光宣君の美貌に釘付けだ。無理もない。

あのお兄様の視線をも数秒間奪ったのだ。普通の人ならしばらく動けないのも当然だ。お兄様の言う通り障害物に気をつけて避けながら審査員席に。間に合ってよかった。…ちなみに私がすぐ近くを通り過ぎたことで彼らはまた動けなったらしく、直前まで会場の席の方がバタバタしていた。

そして彼の演説は完璧だった。

人前に立つことなどこれまで皆無に近いだろうに、落ち着いた堂々とした話し方。声の抑揚も耳心地よく、手振り身振りをするたびに会場からため息が漏れる。皆彼に夢中だ。

でもね、親心の芽生えた私には、この安定した演説もハラハラドキドキが凄くてですね。

頑張れー、頑張れー。その調子~。と心の中で声援を。

発表が終わると一瞬の静寂の後万雷の拍手。スタンディングオベーションまで起こった。うん。これはしょうがない。

彼の美貌を抜きにして、発表内容も素晴らしかった。

 

こうして魔法科高校に新たなスターが誕生した。

 

手が痛くなるほど、とは淑女らしくないのでできないけれど、心を込めて拍手を送ると去り際にチラリと視線を向けてくれた。

そこでパチンとウィンクを送られたのだけど、周囲の生徒会長たちがバタバタと倒れた。…流れ弾に当たった模様。南無。

これを見ちゃうと同じ物は返せないね。堅苦しいけど目礼だけ返して周りの介助に回る。

皆、熱もありそうですね。本当、魔性の少年です。

最後にやらかすやんちゃっぷりも可愛いね。直接褒められないのが残念。

 

 

 

 

帰宅のバスの中、皆まだ最後の余韻が残っているかのようにぼんやりしていた。

負けて悔しいはずなのに、誰もが夢の中から抜け出せない。そんな状態。

だけど負けて一番悔しいはずの五十里先輩が、あの発表内容ではこの順位は妥当だ、と納得されていることもあり、そんなに落ち込んだ様子もないので空気は悪くなかった。

 

「深雪と美貌で並ぶ男の人がいるなんて…」

「あれはびっくりする」

「入学式の衝撃思い出しちゃった」

「私も」

 

ほのかちゃんと雫ちゃんの話に苦笑する。やっぱり私を引き合いに出すあたり一高生だよね。

 

「いや、ウチの生徒だけじゃないだろう。彼を見た後深雪を見た生徒は多かったぞ」

「そうなの?」

 

それは気付かなかった。

評価を書いていた時かしら。

 

「でも可憐さなら深雪先輩の方が上回ってます!」

 

泉美ちゃんが熱弁してくれるけど可憐さの勝負は男性が不利では、と思ったけど男の子でも可憐さで勝負できる五十里先輩がいましたね。じゃなくて。比べないでどっちも美しいではだめなの?芸術作品は最終的に人の好みだと思ってる。

こうして二年目の論文コンペは優勝を逃したものの、表向き無事何事もなく終わったのだった。

 

 

 

 

…これで、終わればよかったのだけど。

 

 

――

 

 

「お兄様、こちらは?」

「深雪に着て貰うドレスだ」

「…あの、一着はわかるのですけれど」

「ついでだ」

 

なんの!?っていうか小物も揃っていますね?!

帰ってきたらそのタイミングで配達員が大きな箱を抱えてやってきた。

このご時世、直接人が玄関まで運び入れるのも珍しい。相当高価なものか、ロボットが足りない時間指定の場合か。

今回の場合は前者だった模様。

お兄様が確認をして中に運んで――私の部屋まで持ってきてくれたのが、それらだった。

Aラインの黒のワンピース。その箱の下にはレースが見事なこれまたワンピースだ。

 

「先輩はこのような組み合わせだった。デザインは別のものにしたがな」

 

…うん、記憶していたものはちょっと違うね。主に胸元が。こちらは先輩のように開放的ではない。

 

「着てみせてくれないか」

 

一応トラウマのチェックだからね。お付き合いしますけれど…お兄様、試着室のように部屋の外に出ていかれました。

待たせるもの良くないのですぐに着替えるのだけど…うん、私のサイズ知ってるから問題なくぴったりです。

そしてレースが思ったより華やか。肌を覆っているのに、肌色とのコントラストが見事に調和していて、お酒でも飲んだら白い肌がピンクに色づいてお花のようになりそうだね。…えっちでは?とってもえちえちに見えるのは私の煩悩のせい?

着る前まではエレガントで綺麗、のはずでしたよね⁇

 

「終わったか?」

「は、はい。どうぞ」

 

返事をするとすぐにお兄様が入ってきた。じっくりと私を眺めると表情を和らげて。

 

「やはりな。白い深雪の肌が浮かび上がって花のようだ。だが部屋の明かりだと明るすぎてはっきりと見えてしまうな。ライトまでは考えていなかった」

 

…ああ、お高いレストランとかバーでは明かりが落とされているものね。えっちく見えるのは照明の所為でしたか。これにボレロでも合わせればそんな風にならないだろうけど、先輩は羽織っていなかったからね。

 

「綺麗だよ。その服に合わせてこの真珠のブローチを用意したが、お前のその肌の前では霞んでしまうな」

「…その…お褒め頂いて嬉しいのですが…ブローチも、」

 

買ったの、なんて愚問だと気付いて口を噤む。その意匠素敵ですね。とても好みの落ち着いたデザイン。このワンピースにもよく似合うかと。…おかしいな、先輩はそういったアクセサリーをしていました?

違うよね。していたとしても、これは私のために用意されたデザインのものだと分かる。先輩にもよくお似合いでしょうけど、どちらかというと先輩には華やかなデザインの方が似合う。

 

「お兄様、つけていただいてもよろしいですか?」

「気に入ったか」

「はい。とても素敵なデザインだと思います」

 

お兄様に着けてなんて、させることも申し訳ないし恥ずかしいけれど、そうでもしないと肌に負けたとかいう理由でせっかく購入したブローチをお蔵入りにされそうだったので。流石にそれはもったいない。それに素敵なのも事実。

お兄様は箱から取り出して私の胸元に当てて、何処に付けるのがいいか考えている。

 

(…これ、もう確定だよね)

 

「お兄様」

「ん?」

 

位置が決まったのかお兄様が服に手を入れてピンを止めようとしているけれど、これもすごい光景だ。頬に熱が集まるけれど、言うことは言わねば。

 

「トラウマは無さそうですね」

「…まだわからないぞ」

 

お兄様、つける手が一瞬止まりかけましたよ。

しっかりついたのを確認するとくるっと回されて姿見の前に。お兄様の手が逃さないとばかりに肩に乗っている。

お兄様のチョイスに間違いが無いのか、深雪ちゃんが何でも似合ってしまうのか。

どちらもあって相乗効果で一つの美が完成している。大変お美しいです。

鏡越しに、お兄様と目が合う。

 

「俺の目も捨てたもんじゃないな」

「これ以上ないくらい調和しているように思います」

 

実際よく似合っていると思う、と伝えれば、――鏡越しでも伝わる色気って何ですかね。恐ろしい。

すぐ近くに顔があるのもわかってるから振り返ることができない。できることなら目を瞑りたいけど閉じた瞬間、何かが起きそうで閉じることもできない。

びくびくしているのが伝わったのか、お兄様がくすくすと楽しそうに笑った。

おかげでお色気モードは解除されたけれど、…そうだよね、お兄様も慣れない任務でスケジュールをパンパンに詰めたり、そもそも新魔法の開発で忙しかったものね。おかしくなっても仕方なかった。

ストレス発散が上手くいかないというより詰め込み過ぎだったんだよね。…お兄様に必要なのは妹ではなくスケジュール管理のできる秘書では⁇

 

「今度秘書の勉強でもしましょうか」

「深雪が秘書を?何故だ」

「だって…お兄様があまりにも無茶をなさるから」

「俺のために?それは嬉しいが、俺は特に――、もしやまた溜めている、か」

 

お兄様気づきました?ドレスを何の違和感も抱かずに購入してしまっている時点で正常な判断は失われていましたよ。

トラウマ調べるだけにしてもこのワンピース一着でよかったのに、まだ身に付けていないドレスが二着も。

しかも小物も併せてだから結構な数ですよ。靴も三足?…この時代でもクーリングオフ期間ってありますよね。

え、購入したモノはそのままで?今ならまだ未開封です。まだ間に合うのに。

…というより怖くて聞けないのですがいったいいくら散財しました⁇

よく見なくてもアクセサリや小物には本物の石が付いてます。イミテーションじゃない。

今回心の赴くままに注文しましたね。いつも私が高いのはちょっと、と遠慮するから。

基本四葉関連以外では一般家庭の枠をギリギリはみ出さない程度にしているのに。今回は七草先輩クラスだ。お嬢様クラス。

もしかしてですけれど、今正気に戻られたのは、思い切りお買い物を楽しまれたことでストレス発散になっていました?

思い返せばサマードレスの時といい、水着の時といい、ストレスの多い時期ではありましたね…。お兄様に浪費のフラグが。

 

「…すまない」

「いえ、私も気づきませんで、申し訳ございませんでした」

 

お兄様はやらかしたことを、私はストレスをため込んだことに気付かなかったことを互いに謝り合って…。正気に戻ったのはいいのだけどこれらはどうしましょうかねぇ。

 

「ドレスはもう、このままで。また雫に呼ばれることもあるかもしれないしな」

「そう、ですね。…今日は疲れましたので他のドレスを合わせるのはまたの機会に。お兄様がゆっくり休める時にでもしましょうか」

「そう、だな。必ず休みを取るとしよう」

「その休みを取るために無茶をするのはダメですよ」

「…努力する」

「お兄様は努力しすぎです。初めのペース配分から気をつけましょう」

 

私の忠告に、お兄様はちょっと目を丸くしてから口角を上げた。

 

「深雪はいい秘書になれそうだな」

「雇ってくださいますか?」

「深雪を雇うためには一生懸命働いて稼がなかいとな」

 

…私は一体いくらで雇われるのか。ゼロがやたらと多そう。

 

「では、せっかく着ましたが、このワンピースも片しましょう」

 

少し名残惜しくてワンピースの裾をひらりとやったところでお兄様に異常が発生した。

 

「…っ」

「お、お兄様!?いかがいたしました?!」

 

急にしゃがみこまれたお兄様に驚いて私も膝をつく。

お兄様が頭を抱えていた。もしかして本当にトラウマが?!脱ごうとするアクションが引き金です⁇えっと、こういう時ってどうすればいいんだ!?

慌てふためいていると、お兄様が私の肩にそっと手を置いた。だがその手にいつもの力強さはない。

 

「…心配しなくていいよ。これは、疲労時の酷い考えを思い出して頭が痛んだだけだから」

「一体何をお考えに?」

 

お兄様が頭を抱えるほどの問題って、とても怖いのだけど。

 

「深雪は知らない方が良い」

 

それはいつぞやのセリフですね。

私もこれは聞かない方が良いと思うのだけど――様式美というのがあってな。オタク、そういったものは避けられない宿命にある。

 

「お願いします。お兄様お一人で苦しまないでください」

 

でもあの時の再現のような熱量が無いのは許してください。

脳内でイマジナリーお母様がおやめなさいって止めるのです。私もそう思います。好奇心は猫ちゃんをも殺すんです。

知っていてもなお、前世の業が私を突き動かしてしまった。

そして。

 

「分かった。かなりショッキングな話だから、心を強く持って聞いてほしい」

 

お兄様、ノリがいいね。お兄様にとってあのお話は本当に辛い話だったのにノリのため使いますか。お兄様も案外お茶目――

 

 

 

「…トラウマ確認のため、深雪の服を脱がすつもりだった」

 

 

 

あーうん。

…らしい、とお兄様は他人事のように付け加えて更に項垂れた。

………。

だめだね、ショック過ぎて言葉が出ないよ。

ちょっと深呼吸が必要だ。落ち着こう。びーくーる。

 

「お兄様、今日はこのまま何も考えずにお休みください。お兄様はお疲れなんです」

「…ああ。俺もそう思うよ。今日は何もせず部屋に戻って休むとしよう」

「それがよろしいかと」

 

私ももう思考が停止しています。何も考えられない。

 

「ではお兄様、おやすみなさいませ」

「おやすみ」

 

 

 

 

結論。お兄様に女性不信のトラウマは無かった。

けれど、ストレスを溜め込むことで生じた今回のトラブルにより、お兄様は心に深い傷を負い、改めて自身のスケジュールを見直すきっかけにもなったみたい。

怪我の功名、かな。

 

 

古都内乱編 END

 

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