妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
四葉継承編①
――あなたの可愛がり方は異常よ。まるで籠の中で鳥を愛でているみたい。
手元に置いて可愛がっているような、真綿に包んで愛でるみたいに。
いつか、誰の目にも触れさせたくないと、鳥籠ごと隠してしまうのではないかと思うくらいの溺愛ぶりで。
あれだけ美しいんだもの。心配になるのもわかるわ。目が離せないのも、兄として仕方が無いと思う。
だけど、愛情という名の目隠しをして、心配という枷をつけて。
彼女の気付かないうちに風切り羽を切って飛べないようにしているのだとしたら、それはもう――兄妹愛とは呼べないわよ。
――
目元は頬以上に赤く染まり、潤んだ瞳は半眼となっていて、今にも瞼が閉じそうだった。
呂律も怪しく、幼児のように舌ったらずな口調。
緩慢な動きでグラスの中を空けようと傾けているが、中身はほとんど減らない。
もう体がアルコールを受け付けていないのだ。唇を湿らせては戻して、を何度も繰り返している。
そんな中、振られた話題は日中のことで。
初めのうちはつらつらと愚痴のように、何故待ち合わせの場に他の人がいたのか。
何故、妹を連れてきたのか。
なら一条だけならよかったのかと問えばそうじゃないと頬を膨らませた。
そもそも狙われる可能性のある状態であの家に水波がいるとはいえ深雪を置いていくという選択肢は自分の中になかった。
一日、いや、半日であれば確実にどんな不利な状況でも彼女たちだけで十分に持ちこたえられることはわかっていた。それに今は周辺に四葉から派遣された護衛もいる。
それでも狙われる可能性のある状態で一日以上離れることは個人的理由で無理だった。
距離に関係なく守ることはできるが、できる事なら手の届く範囲にいる方が望ましい。
学校を休ませてまで、とも思ったがせっかく公休というシステムもある。使わない手はない。
昨年のこともあったので生徒会と風紀委員、それと有志の皆で警備の確認に来ているのに単独で行動するのは難しい、とそれらしく理由を述べるが、不服だと顔に書いてあった。
俺が読めるくらいだから隠す気がないどころか読ませる気だったのだろう。
そんなに妹を手元に置きたいのか、と唇を尖らせて言ったのは、それが一番彼女にとっての不満を抱く問題だったからか。
だが、そんなもの、当然だとしか返しようがない。
俺の一番は深雪であり、彼女こそが俺の存在意義。絶対守らねばならない一等大切なものなのだから。
そんなことをわざわざ口に出さないが、妹のことを思い出しただけで口元が緩んだのを目ざとく見咎められた。
酔っ払いの割によく見逃さないものだ。
二人で飲んでいるのに他の人を考えるのは非常識よ、と詰られたが、実際問題高校生をバーに連れ込む女子大生とどちらが非常識なのか。
それにそもそも話を持ち出したのはそちらだろうなどと、文句を言ったところで面倒になることはわかっていたので大人しくノンアルコールカクテルを流し込む。
初めのうちは物珍しさもあったが、今では深雪のコーヒーが恋しい。
早く解放されたい、とは態度に出さないが(これ以上面倒になるのはごめんだ)いったいいつまで続くのか。
苦行には慣れているが、これはまた違ったタイプの苦行だな、と内心溜息を吐いた時だった。
――妹への接し方の異常さを説かれたのは。
酔っ払いの絡み酒だ。ただの支離滅裂な戯言。
聞き流せばいいものを、脳内で一部分がリピートしている。
――兄妹愛とは呼べない。
ならば、俺が抱いているこの想いは一体なんだと言うんだ。
――
深雪視点
楽しい日々はあっという間に過ぎていく。
秋以降、トラブルなどほとんどなく賑やかな日常を送っていた。
去年同様雫ちゃん家でお勉強会をしたり、食欲の秋と銘打ってウチでタコパをしたり、水波ちゃんも巻き込んでハロウィンをしたり、わが校の演劇部が賞を取ったので凱旋公演を校内で行い、初めて彼らの舞台を鑑賞して――。
いろんなことがあった。
いろんな思い出ができた。
(たくさん準備はした。――だから、大丈夫)
今日は学校冬休み前、最後の登校日。
だから校内はどこを見ても浮かれた様子が見受けられた。
生徒会長として最後の校内見回りだと、泉美ちゃんと水波ちゃんを伴って校内を練り歩いていた。
一瞬どっちが助さんでどっちが格さんだろう、と考えたのは、生徒たちが控えおろう状態で平伏しようとするから。
でも黄門様じゃないよ。女王陛下に対して敬意を込めてってことらしいけど、皆が楽しんでやってること知ってますからね。
仕方が無いなぁ、と諦めつつ皆によいお年を、と寒いから体調に気をつけて、と注意喚起も促しつつ挨拶していく。
それだけだけど、皆が笑顔になってくれることが楽しくなってきて、端から端まで挨拶をして回った。
校内に異常はなく、生徒たちも皆明るい顔をしていて、こういうところは原作と違うな、と改めて実感する。
一科生も二科生も関係ない。魔工科はむしろ憧れの学科になっていた。
来年は倍率が増えそうだ。ただでさえ一クラスしかない狭き門なのに、二科生だけでなく一科生も興味を持ったようだからね。
図書室はそのおかげかこんな日だというのに人が多かった。
帰宅を促すと、彼らは集中していて私に気付いていなかったのか、慌ててバタバタ帰りだした。…なんだか追い出しをかけたようになってしまって申し訳ない。気をつけて帰ってね。
「これで粗方生徒たちは帰ったでしょうか」
「そうね。泉美ちゃんは帰ったらご家族でパーティーに参加するの?」
「…ええ。深雪先輩とご一緒したかったのですが、無念です」
泉美ちゃん本当に悔しそう。
香澄ちゃんを見かけた時ぐったりしていたからどうしたのかと声を掛けたんだけど、泉美ちゃん、相当ごねたらしいね。お父様にも逆らう勢いだったらしいから。
原作では確か、昨日が実家都合のパーティーで、今日はクラス会だったと思うのだけど、どういうわけか逆になっていた。
どうして、とも思ったけれど、なんとなく原作と違ってこちらの泉美ちゃんはクラス会を蹴ってでもこちらのクリスマスパーティーに参加しそうな気がするんだよね。
何と言うか、熱量がね。熱が冷めるどころかこちらに向けられた矢印が強くなっているというか。
あれかなぁ。生徒会室ではピクシーが彼女の行動を防いでくれているおかげで思ったように触れ合うことができず、それが障害となって燻っていた炎が燃え上がっちゃった的な?
でもお家の行事優先でお願いします。こんなことで七草と禍根なんて残したくない。
「残念だけど仕方ないわ。泉美ちゃん、頑張って」
「はい!」
応援すればいいお返事。いい子。
頭を撫でてあげると幸せそうな笑顔。可愛いね。でも水波ちゃんの視線を合図に手を下ろす。
これ以上撫でるのは危険らしい。ありがとう水波ちゃん。泉美ちゃんの身体が傾きだしていたことに気付かなかったよ。
そのまま生徒会室に向かっていくつかチェックをして皆で戸締り。
門にはエリカちゃん達が寒い中待っていてくれた。先にお店で待っていてくれてもいいのに、と言ったのだけど、どうせなら皆で行きたいでしょって。
優しい。
駅まで大所帯で賑やかに歩いた。
寒いのに、とても温かいこの空間が心地よかった。
駅で七草双子とお別れ。良いお年を~。
そしていつものメンバーでアイネブリーゼへ。
喫茶店をクリスマスに貸し切りにしてくれるマスターに今年も感謝!
エリカちゃんの音頭で始まったクリスマスパーティー。
去年は雫ちゃんがアメリカに行ってしまうための送別会を兼ねていたから複雑な気持ちだったのだけど、今年はそんなこともない。
純粋に楽しめるので顔が緩んで仕方が無かった。
「深雪ぃ。いっくら私たちしかいないからって緩み過ぎよ」
「もうお仕事は終わったもの。最後ぐらいオフで過ごしてもいいでしょう?」
生徒会長の営業は終了しました。
お友達だけのお食事会なんだから、気を抜いても良いよね?だめ⁇
そうエリカちゃんに視線で訴えると、エリカちゃんはうっと怯んで僅かに顔を逸らした。
それによってよく見える彼女の形のいいお耳が赤く染まっていた。
…もしかして危険物級な顔になってる?
グラスを置いてむにむにと頬を動かす。
「達也さん、いつもお家ではこうなんですかっ?!」
美月ちゃんがちょっと興奮気味にお兄様に訊ねているけど、エリカちゃん同様顔が赤い。
聞かれたお兄様はと言うと、ちょっと困ったように苦笑していた。
「いいや、ここまではそうお目にかかれないぞ。なあ水波」
「そうですね。眠られる前の気が緩まれている時に稀にお見掛けする程度でしょうか」
え、そこまで無防備な顔してました?
最後張り切って練り歩いたりなんてしたから、気を張り過ぎて緩ませ加減間違えたとか?
「深雪、学校中歩いて皆に挨拶してたから」
「張ってた気が一気に緩んだのかも?」
雫ちゃん、ほのかちゃん、多分正解。よくわかってくれる良い友達です。
それから皆で今年一年の総括を。
今年も一年色々ありましたからね。
でも一年生の時のインパクトの方が彼らには強かったみたい。
4月の件は彼らの知らない事件だけれど、九校戦の事故多発と選手として出場は彼らにとっては衝撃だっただろうし、論文コンペの横浜事変は戦争一歩手前の最前線に立っていたのだからそのインパクトが色褪せるにはたった一年では無理がある。
それほど濃かった一年生時に比べれば、確かに今年は…なんて、実際そんなことないよ。
確かに一年生、の括りにすればパラサイトもそっちに含まれるかもしれないけど、あれは今年最初の大事件です。
まあ一月二月の出来事なんて年末には遠い過去になっておかしくないのだけど。
エリカちゃん達には深く関わらせないお手伝いが多かったから。というか裏事情や大人の事情には巻き込めない。
事件的には厄介で裏事情満載のものにばかり巻き込まれてたりするんだけどね。
四月の恒星炉実験も未然に政治家の暴走を食い止めたから恐れていた最悪の事態、学校環境を変えられることもなかったから彼女たちには大した事件だと思われなかったのかもしれない。
人間主義者の活動は世界規模で活発化しているが、日本国内で言えばそこまで大きな規模ではない。
デモや各地でヘイトスピーチなどは行われているが、アメリカ程注目される事柄ではなかった。
これはパラサイトの件で迅速に十師族と軍と警察が動いたことが沈静化に役立ったからだろう。
連携こそしていなかったが、それぞれに付いたジャーナリストたちが原因追求と彼らの『活躍』を独自の解釈を交えて面白おかしく書いたことで、怒りの矛先が魔法師や、あの灼熱のハロウィンにではなく、アメリカ国内のごたごたに向けられ、同盟国としてどう向き合っていくか、という方向に流れたのだ。
更にこのパラサイト事件を境に行方不明者が増加傾向にあることについて吸血鬼に続く怪事件だ、とちょっとした騒動に発展したことも視線を逸らすきっかけになっていた。
おかげで夜出歩く人が減少したり、防犯グッズが飛ぶように売れたりしている。
魔法科高校も全体に夜遊び厳禁の通達が来ていた。誘拐事件だとしたら魔法師が一番狙われるから。
ただ、行方不明者として名の上がっている人たちは今のところ皆非魔法師ばかりだという。
(…もうすでに黒幕大好きおじさんの計画は動き出していた、そういうことだ)
これに関しては事件として警察が警戒に当たっているし、注意喚起も同時に行っているが、それがどこまで効果があるか。だが、何も無いよりもいい。
その後の九校戦の騒動は完全に内内の事件だ。アレが暴走していたら大事件になっていたけれど、お兄様が食い止められましたからね。
本当、感謝してほしい。軍の大失態になる所だった。あと魔法師界に不信感を抱かせる、ね。
論文コンペ周辺の事件についてだけど、これはウチの事情に彼らを巻き込んでしまった形だ。これに関しては巻き込んで申し訳なく思う。
彼らが狙われる原因となったのは私たちのせいで、本来なら巻き込まずに片付ければよかったのに、吉田くんたちを利用して敵をあぶり出したりしてもらった。
だけど…なんというか、日本の魔法師、一回全部調査した方が良いんじゃない?
これ、京都奈良、だけの問題じゃないよ。七草だって一度は内側に入れてたんだから。どこもかしこも可能性あるでしょ。
一度自分の派閥に外国人が潜り込んでないか、または接触してないか確認した方が良い。
とまあ、この一年も結構激動の一年でしたよ。表立たなかっただけで。
そんな総括をしながら楽しいおしゃべりは続いていく。
美味しい食事と皆の笑顔。最高のクリスマスだ。
宴もたけなわ。時刻は19時を指す頃にほのかちゃんが勇気を出して、お兄様に声を掛けた。
お正月、お参りを一緒にしないか、と。
エリカちゃん達も参戦できるらしい。
良いなぁ。皆とお参り。きっと楽しいに違いない。
今になって泉美ちゃんの気持ちが痛いほどわかった。家の用事なんて放り投げて、皆と一緒にいたかった。
皆と一緒に初詣して、屋台を食べ歩いて、おみくじを引いて一年を予想したりして、甘酒を飲みたいのにお兄様に止められて、皆と笑って――そんな一年の始まりならどれだけ素敵なことだろう。
だけど残念なことに年末から私たちは予定が入っていた。
だから一緒に遊びにも行けない。会えるのは新学期になってから。
そう伝えると、ほのかちゃんはがっかりどころか、地に沈んじゃいそうなほど落ち込んでしまった。せっかく根回しして皆も誘ったのにね。
「深雪、そんなに罪悪感を抱かなくていい。予定あるんだから仕方ないよ」
雫ちゃんが慰めてくれる。
エリカちゃん達も、私たちも去年そうだったし、と気にしないでと声を掛けてくれた。
でもその予定が終わって落ち着いたら連絡が欲しい、と冬休み中全く会えないのはつまらない、とも言ってくれた。
皆の優しさが嬉しくて――苦しかった。
「ありがとう」
そう返すのが精いっぱいだった。
皆と過ごしたかった、なんて言えなかった。
最寄りの駅に着く。
もう、皆とお別れだ。
「あのね、皆に渡したいものがあるの」
そう言って取り出したのは今時珍しい白い紙の封筒。切手のない、宛名だけ書かれたシンプルなそれを、皆に手渡した。
「本当は郵送しようかと思ったのだけど、それで日時がずれたら嫌だな、と思って」
「なーに?時限爆弾でも仕込まれてる?」
「エリカ、物騒」
エリカちゃんのジョークに皆が苦笑いを浮かべる中、私はにっこりと笑って。
「流石エリカね。正解よ」
「ぅえ?!」
「もう、開けてのお楽しみだったのに」
エリカったら当ててしまうんだもの。とくすくす笑うと、皆手元の手紙を凝視していた。その様子がおかしくて更に笑みも深くなる。
「深雪」
お兄様の窘める声に、私は素直にごめんなさいをする。
「手紙が爆発することはないわ。でもきっと皆がびっくりするから」
「いったいどんな怖いことが書いてあるのよ…」
「エリカ、透かそうとしないで。フライングはダメよ」
エリカちゃんがおっかなびっくり手紙をひっくり返しては上に翳したりしていた。
透けるほど薄くはないけどね。
「ってことはこれクリスマスカードじゃないんだ」
「見た目はそれっぽいけれど、どっちかと言ったら年賀状のほうが近いかしら」
はがきによる年賀状文化は廃れました。
言葉が残っているくらいだから完全になくなったわけではないし、小学校では昔の文化を知ろう、と黒電話と並んで学ぶ。百年も経てばあらゆるものがひとまとめだ。
「ネンガジョウ…」
「つーか手紙自体初めてもらったわ」
紙でもらうことなんてほとんど無いからね。
「一斉送信のメールもいいけど、こういうのもいいかなって」
「それで、深雪。これはいつ開けていいの?」
「年賀状だからお正月って思ったけど、皆は正月に初詣行くのでしょう?だったら二日が良いわ」
「二日?皆で顔合わせた時じゃダメなの?」
「元旦はそれだけで盛り上がれるでしょう。だから、二日か三日がいいのだけど」
なあに、それ。とエリカちゃんが笑うと皆が笑う。私も、お兄様も、水波ちゃんも控えめに笑う。
「わかった。深雪の我儘を聞いてあげる」
「ありがとう」
「じゃ、この手紙は二日に…そーね、お昼ごろ開けましょうか。どっかの誰かさんが新年早々寝坊するかもしれないし」
「誰のことだそりゃ?自分のことか」
「んなわきゃないでしょ。ウチは通常営業よ」
エリカちゃん家は正月からずっと忙しいみたい。吉田くんもそうみたいなんだけど、今年は正月お参りする時間は作れたらしい。
皆それぞれ家の事情で忙しい。
「一体どんなことが書かれてるのかしら」
「楽しみですね」
それぞれが手紙を仕舞うのを見て、皆解散した。
「今年もお世話になりました」
「来年もよろしくね」
「よいお年を」
定型の年末の挨拶。
それに私たちも手を振り返して。
「よいお年を」
心の中ではぶんぶんと、表面上はおしとやかに手を振ってお別れ。
ほのかちゃんは最後まで別れが寂しそうにお兄様を見つめていたけれど、お兄様は苦笑して手を振り返していた。
――とても素敵なクリスマスだった。
「ところで、あの手紙には何が書いてあるんだ?」
俺には貰えないのか、とお兄様。
「お兄様は直接年明けにご挨拶できますでしょう?」
くすくすと笑えば、お兄様は残念だ、と肩を抱き寄せた。
水波ちゃんがいるのに珍しい、と思って見上げると、お兄様は気遣わし気に私を見ていた。
…お兄様、察しが良すぎますよ。鈍感が売りでしょうに。
何も答えない代わりにお兄様に少し凭れ掛かる。
(楽しかったの。本当に)
そこに偽りはない。ただ、隠した想いがあるだけで。
「深雪姉様、帰ったら温かいココアでも淹れましょう」
「いいわね。マシュマロも浮かべてくれる?」
「ご希望通りに」
「ふふ、嬉しい」
こんなに甘やかされて、幸せにしてもらって、私は恵まれているなと改めて実感する。
「ありがとう」
寒い冬も乗り越えられそうな温かさに包まれて帰宅した。
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