妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
お兄様がFLTに向かわれたその日、我が家に珍しい訪問客が現れた。
津久葉夕歌さんだ。
垢抜けた、都会に馴染んだ女子大生のイメージを形にするとこんな感じ、というおしゃれ感。…伝わる?この表現。
七草先輩とは違うテニスサークル女子、みたいな。
七草先輩はほら、包み隠すことなくお嬢様があふれ出ちゃってるけど、夕歌さんのそれはサバサバした態度によって隠されちゃってる。親しみやすいフランクさがあるけど隠し切れない品の良さがあるから、いいところのお嬢さん感というか、育ちの良さが窺える。
だけどそれは外でのお話。
四葉家次期当主候補としての顔は全く別で、隙を見せない知性漂う上流階級のお嬢様になっていた。
挨拶代わりの淑女の応酬に顔が引きつらずに済んでいられるのは心にお母様を抱いているから。
お母様の淑女の挨拶に織り交ぜられた嫌味攻撃(特訓仕様)に比べたらこの程度、微風ほどにも思わない。迫力が違う。
しっかし、高校生活で実力を隠さなくていいのかと言われても、この見た目で隠したらその方が素性がバレた時に面倒なことになるのでは?実力をへたに隠しすぎると不審を抱かせることになる。
それはひいては魔法師同士の疑心暗鬼を生む可能性だってある。事実、能ある鷹は爪を隠すケースが山ほどありますからね。一高だけでどれだけの生徒が鋭い爪を隠し持っていたことか。
それに、そもそも魔法師って、容姿で強いかどうか目安としてではあるけれど判断できる。整った顔立ちほど魔法力の高さや一芸に秀でていたりする。…まあ、それはご都合主義のラノベ事情だったりするわけだけど。ああでもお兄様は例外のように平凡だのと描かれているけどお兄様だって十分カッコイイよ!アレはミスリードさせるよう目力を強調されていたり、綺麗な顔立ちばかり見て育ってきた七草先輩の主観だったり。あとはアレだね、やっかみなどが原因だった…隣に美しすぎる深雪ちゃんが居たら比較もされるし、ねたまれたりした負の感情が周囲の目を曇らせるって言うね。
本人は人混みに紛れられる容姿だ、とか思ってるみたいだけど、それは容姿云々ではなくお兄様が日ごろから気配を押さえて周囲の視線を集めないようにしているからだと思う。
って話が脱線しやすくて困る。ついね、今後訪れるだろうストレスを緩和するためにか、思考が逸れやすい。
水波ちゃんの淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら、夕歌さんの提案を待つ。
彼女は私に一緒に慶春会へ行こう、と誘いに来たのだ。
自身のガーディアンがいなくなっちゃったから、という理由を携えて。
「いなくなった、とは――それはご愁傷様です。次を手配されるまでまだ時間もかかるでしょうからご不便でしょう。ちなみにお相手はお判りに?」
不便、というのはガーディアン無しでは数人の警護を付けなければ外出できないから。
目に見えなくても護衛を引き連れて出歩くのって慣れていても気疲れすることもある。
いくら彼女がガーディアンと親しくない状態で傍に置いているとしても、ガーディアンが一人傍にいるだけの方が気楽なはずだ。
「分からないわ。狙われる当てが多すぎて」
うん、まあ。これが他の十師族だったならまだ絞り込む先がわかりやすいだろうけど色々やってる四葉だからね。狙われる理由が多すぎる。国内外関係ない。
今回の襲撃者の目的が殺す為なのか攫うためなのかそれさえもわかってないらしい。
でも津久葉家が四葉とはバレてないはずなんだけどね。何処からどう彼女が狙われるというのか。
個人で言えば彼女は特殊な(と言うより一風変わった?)研究をしていると調べればわかる程度で隠されていない情報だからそっちから狙われた可能性もある。
敵の素性はどこかの部署が調べてるんだろうけど、こっちまで情報がきてないということはまだ上げられるだけの情報すら拾えていないのだろうか。
捜査にうちの人を派遣する?こっちも今別案件抱えているから人員カツカツで割けるかどうか。
「それにしてもご愁傷様、なんて。彼女にしたらやっと楽になったというところじゃない?もう身代わりになる恐怖から解放されるわけだし、そもそもこんな我儘娘の世話をしなくて済むんだから」
夕歌さんの態度は亡くなった人に対する敬意などは無く、退職したくらいの軽いノリに見えた。
本心を見せないのが淑女だからね、口先では何とでも言える。
「あら、仕事上の関係しか築けないのではやりがいのない職場ですのね」
「…深雪さんのところは身内だから違うでしょうけど」
「それはそうですわね」
だからこちらも心に思ってなくとも隙あらばの嫌味攻撃を。…したくもないけどこれも淑女のお仕事です。弱い所なんてどんな時でも見せてはならない。
隙があるとちくちく刺さないといけないなんて嫌なお仕事だね。でも夕歌さんにしては珍しい隙だ。
目の前で亡くなられたんだよね。それを何事も無かったかのように振舞うのは、ガーディアンとはそういうもの、と割り切ろうとしても無理があった、ということなのだろう。傍で仕えてくれる人間に情を持たずにはいられない。荒事の多い四葉だとて使用人だからと簡単に切り捨てられても、忘れられるわけではない。
あと、私のガーディアンはお兄様の他に水波ちゃんもいるけど、なんてわざわざ付け加える必要も無い。もう私にとっては身内判定だし。
勝成さんのところも仕事関係以上の絆を結ばれているけれど、とかもね。あそこは公私混ざっちゃったから。
あの二人の忠臣っぷりから見て勝成さん自身が良い人なんだとわかる。彼も四葉が愛の一族だって証明する一人だよね。
「それで、どうするの?私と行く?行かない?」
「そうですね。いずれ一緒に行くことになるのでしょうが、今はお断りをしておこうかと」
にっこり微笑んで紅茶を一口。何もかもすべてまるっとお見通しですよと言わんばかりの余裕の態度に、夕歌さんの目が鋭くなった。
「…どういう意味?」
「それは夕歌さんの方がよくお分かりなのではないでしょうか。それともわからないふり…いえ、私を試されているのかしら。――狙われるのでしょう?私たちは。慶春会へ向かえないように」
「なぁんだ。深雪さんたちも知ってたんだ」
あっさり認める夕歌さんだけれど、内心動揺しているのか体をソファに預ける振りをして体の緊張を解している。
魔法を使わずに心を静める方法を熟知しているのは心理学にも精通しているからだろうね。精神構造を知るにはまず通る道だろうから。
だけどごめんね。もう少し揺さぶらせてもらうよ。
「いいえ」
「揶揄ってる?」
「そちらもノー、と答えさせていただきます。知っているのは私だけ、ということです」
「…達也さんは知らないってこと?」
「そうなりますね」
お兄様は今頃貢叔父様から聞かされている頃でしょうけど。
誘導されて正解を導き出した夕歌さんはここでようやく紅茶で喉を潤した。
「でも、いずれ一緒にっていうのはどういうこと?」
「大掃除が終わった頃には周囲の騒ぎも大きくなるでしょうから。私たちだけで抜け出すには少々骨が折れるでしょう。そこに夕歌さんが颯爽と現れれば、私たちは恩義を抱くことになるでしょうね」
ちなみに、狙われることについては原作知識だけで言っているわけではない。
原作軸から離れるつもりなのにいつまでも原作知識だけに頼っていてはいずれ大きなずれが起きることは予測できるわけで。
きちんと裏付けはしないとね、ということで分家が動き出している情報の裏はすでに取れている。
「…恩を売りつけるタイミングまでわかってるんだ。まさかご当主様並みの直感が?」
「そのような能力があれば私はもっと有効活用していたと思いますけれど。避けられる危機はたくさんあったでしょうから」
そんな有能な直感なんてあったら、お兄様を要注意人物として認識させるようなことにはなっていないはずだ。
危機が訪れるたび大規模な奇跡の魔法を繰り出しては、敵味方関係なく危険視されていくのだから。
それを事前に察知し回避する術があるならば環境はがらりと変わっていたはずだ。
「それはともかく。そういうことですので、しばらくはご一緒できないと思われます」
夕歌さんと一緒に行って戦闘に巻き込まれ、迷惑料に次期の椅子を譲れと言われても困る。とはいえ彼女にそんなつもりは無いだろうけどね。彼女も現段階で気付いているから、こうして動き出している。――次期当主に恩を売るために。
だけど夕歌さんが同乗した時点で襲撃が変更になる可能性は――はっきり言えばゼロだ。
なにせ、用意された駒は私たちの正体を知らないのだから。ただ、四葉の関係者が通るだけ、そう思わせているだけなのだから。
分家もまさか夕歌さんが共に動くとも思わなかっただろうしね。
「そ。分かったわ。…私の取り越し苦労ってことがね」
「そんなことはございません。心配してきてくださったのでしょう?ありがとうございます」
「よしてよ。私はただ利用しようとしただけなんだから」
「なら、お互い利用価値があるようでよろしゅうございましたね」
「深雪さんがそんなに食えない人だと知っただけ、今日は有意義だったかしら」
夕歌さんはお疲れの表情。ごめんね、疲れさせちゃって。淑女って大変だよね。腹芸は苦手です。
帰る彼女を玄関まで見送って、そういえばここまでガーディアン無しで来たんだよね、と思い出した。一応護衛はいるだろうけど。
「気をつけてお帰り下さいませ」
「深雪さんが言うとシャレにならなそうなんだけど」
あら、なんてない言葉で怖がらせてしまった。本当に何もないのだけど。にっこり笑ってお別れを。
なんにでも警戒することは悪いことではないですからね。
リビングに戻ると水波ちゃんがミルクティーを淹れなおしてくれたところだった。ありがたい。温かくて甘くておいしいものが飲みたかったの。
「…深雪様」
「お兄様には内緒ね」
「ですがっ」
水波ちゃんも判断が難しいんだろうね。
今までのお話を聞いて、心配事が増えただろうから。でもゴメンね。詳細は教えられない。
「夕歌さんが来たことは言うわ。でも、それだけ。襲撃が予定されていることをこちらからお兄様に伝える必要は無い。――これは一種の裏試験みたいなものだから」
「裏、試験ですか?」
と、言うことにさせてください。実際のところ本当に年末のお掃除を押し付けられているだけなのです。
分家の方々も本気で私たちを来させたくないのだとしたら、こんな片付けの押しつけしないでしょう。
お兄様の実力恐れているのだから。自分たちでどうこうできる相手がお兄様の足止めになるなんて思ってもないだろう。
…だよね?そうであれ。でなきゃ本当、赤っ恥ですよ。
「本当は水波ちゃんにも秘密なんだけどね」
「!そ、それはもうしわけ――」
「仕方ないわ。不可抗力よ。まさか夕歌さんがわざわざ忠告に来てくれると思わなかったから」
…ちょっと不安になったので後で叔母様にお話しておこう。ちょっとした裏試験なんだと口実が無いと恥ずかしいことになっちゃうよ、と。
水波ちゃんは神妙なお顔で、とりあえず納得してくれたけれど、うん。そのまま誤魔化されてね。お家の恥を使用人にまでバレたら情けないことこの上ないから。
「それにしても、夕歌さんのガーディアンの方が亡くなられたなんて。…水波ちゃんは知ってる?」
「はい。夕歌様のお世話をさせていただいた時に付いていた方が恐らくそうだったのかと。ですがお見掛けしただけで交流はありません」
まあ人数少ないと言っても働く部署、仕える主が違い、交流も無ければすれ違うことすら少ない。
数少ないガーディアンとその候補だとしても一緒に訓練することもない。それぞれ用途が違うから、魔法が違うから一緒に纏められるということはそうない。
幼少期ならあるかもしれないけれど、年齢が離れているとそれだけで一緒に訓練することはないだろうから。
お兄様は大人に交じっていろんな訓練に参加させられていたけどね。お兄様は例外です。
それにガーディアンって四葉では地位が低いから。肉の壁になれってことだからね。
だから夕歌さんの示した反応は四葉内では何もおかしなことではない。というより他家でもそう大差はないのだろう。
あのコミュニケーションおばけの七草先輩だとてボディーガードの名倉さんとそこまで親しい間柄ではなかったということだったし。
「ごめんなさいね、水波ちゃん。夕歌さんは自身を我儘だと言っていたけれど、私の方がガーディアンに我儘を押し付けているわね」
「…以前にも申しました。深雪様の我儘は私には都合のいいものばかりです。気に病まれることなど何もございません」
「ありがとう」
いい子。私にはもったいないくらいいい子!
ニコニコ微笑んだら久々に恐縮されちゃった。可愛いね。
お兄様が帰って来たのでお出迎え。
いつもと違う雰囲気を感じたのか、はたまた私を見ていて来客に気付いたのか――多分後者かな。
「それで、何の用だったんだ?」
「はい。それが――」
夕歌さんが襲われ、ガーディアンが亡くなられたこと。
慶春会までの道のりを一緒に行かないかと誘われたことを伝えた。
「いかがいたしましょうか」
すでに断ってはいるけれど、お兄様にもお伺いを立てる。答えは一緒なのはわかっていた。
「断ろう」
しばらく考えたのち導き出されたお兄様の答えに私は了承したと頭を下げた。
水波ちゃんはメイドに徹し、ずっとキッチンで作業をして背を向けていた。
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