妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編⑥

 

 

あれからたくさんおしゃべりをして私の趣味の一つが料理とバレていたのだから、強引にでもキッチンに立たせてもらえばよかったと後悔する。

少し早い時間にいただいた夕食は癖のない料理だったけれど、言い換えれば印象に残らない料理だった。味気ない、というのか。ちょっと物足りなかった。

その後、各客室に案内され、トランクの整理を少々。

先ほどお茶会で出した茶菓子(チョコチップクッキー)はなかなか好評で、それなりの数が入っていたはずたけれど一袋丸々空になっていた。

お昼を食べ損ねたからその分食べちゃったんだよね。トランクにはまだいくつか非常食のようにお菓子が詰まっている。一泊分服が空いたからね。その間にお菓子を詰めておいたのが役に立った。

ただの緩衝材ではなくお菓子入りにして空気で膨らませた緩衝材を使ったことにそこまで深い意味はなかった。ただ、いつ何時最悪の事態が訪れるかわからないから念のため用意していたにすぎない。前世の通販で緩衝材にこうしてポップコーンを詰めていたのを見たことがあったから取り入れてみたけど、良い知恵だよね。

ポップコーンでもよかったのだけど、お菓子を選んだのは深雪らしさを取った結果だ。ポップコーンの方が軽くて壊れる心配も無くてという利点もあったけど、利点よりも『らしさ』の方が重要でした。

そのクッキーも固めに焼いていたおかげでほとんど欠けていなかったからもし次があるならまたこのクッキーを焼こう。水分が少ない分日持ちもするから非常食としてもグッド。…って、そんな非常食が必要になるような危ない目に遭う予定は無いのだけれどね。何にしても用心に越したことはないので。今回もこうして役に立ったしね。

整理も終わり、そろそろいい頃合いかな、とトランクを閉じて時計を確認して部屋を出る。

向かうのはお兄様が宛がわれた客室だ。

ノックをすると、お兄様は誰が訪ねてきたかわかっているだろうに誰何した。

一応人の家だから、手の内を明かさない、ということなんだろうけど。

 

「深雪です」

 

名乗ると同時に開く扉に果たして意味はあっただろうか。おかしくなって苦笑すると、お兄様も笑っていた。

用件を尋ねられることも無く、中へ入るかも確認されず、手を引かれて導かれるように中に入る。

私の部屋より狭いのは、そういう配慮の下なんだろうね。ちゃんとした部屋があるだけいいのだろうけど。恐らく夕歌さんの口添えが無ければもっと使用人側の部屋が用意されていた可能性があった。四葉の使用人のカテゴリには入るけど、津久葉家の使用人部屋を与えられるのは違うと思う。

お兄様は荷物を整理していたのか旅行バッグが開きっぱなしだった。中身もいくつか出ている状態。

いくらお兄様が気にされないとはいえ、凝視するのは失礼だろうと視線を逸らす。

その視線を察知してすまないね、とお兄様は手早く旅行バッグを閉じて退かすとベッドに座る様に促した。…椅子は一脚しかないから仕方ないのか。

できるだけ浅く座ると、お兄様は何時かの俺の部屋で見た光景だね、と笑った。

うう…人様のお家のベッドに深く座るのも居心地が悪いんですよ。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

お兄様のその余裕ぶりが悔しくて、少し反発してみたくなる。

 

「何も用が無くては来てはいけませんか?」

 

我ながら可愛げのない文言だが、すぐに返答がこない。…もしや呆れられただろうか、と不安になってそっぽを向いた顔を戻すと、頭を押さえているお兄様の姿があった。

 

「お兄様?頭が痛まれるのですか?!」

 

ありえない話だけれど、先の戦闘でお疲れに?と思ったけど、違った。

 

「…ああ、お前が可愛すぎて構いそうになるのを堪えているだけだから気にしないでくれ」

 

…さようでございますか。なんか、ごめんなさい?

 

(というか、お兄様の対応が原作とかけ離れすぎていることの方が気になるのだけれど、今更だった)

 

可愛すぎる、なんてストレートな言葉にドギマギしながらも、原作との違いに疑問を抱くもそもそもこの数年の過ごし方が原作と違っていて、お兄様の成長過程が変化しているのだ。ところどころ違いがあって当たり前だった。

ハグなんて習慣は無かったし、スキンシップも原作より多いと思う。

それはお兄様の遠慮が無くなったことのようであり、人のぬくもりを求めることは今まで何も欲することのなかったお兄様にとって良い傾向だとも思った。

そのぬくもりを求める時、それはいつか、寄り添いたいと思う人ができるきっかけになるはず。

今は妹相手に求めていても、いずれ離れる時が来る。

私たちは兄妹で、私は次期当主として血を繋ぐため――

 

「もちろん用事なんて無くても構わないが、俺に聞きたいことがあるんだろう?」

 

お兄様の言葉に思考の海から浮上する。聞きたいことがあるのだろう、との言葉は疑問ではなかったことから私が来た理由をすでに察していたのだろう。こういう時のお兄様は本当に鋭く話が早い。

 

「黒羽の叔父様が忠告してくださった内容をあの時は訊ねませんでしたが、お兄様は既に彼らの目的をお聞きになっていたのですね」

「――お前に無駄な心配をかけるつもりはなかった」

 

お兄様は既に分家の思惑を知った上で、黙っていた。

…お兄様の気持ちもわかる。お兄様はただ、自分のことで余計な負担を掛けたくないと黙っていたのだ。心配するようなことは何もない、と。

だけど心配することではないと思われるならばお兄様の口から聞かせてほしかった、というのは我侭なのだろう。

分かってはいるのだけど。

 

「無駄な心配ではございません。お兄様を心配することに無駄などないのです。それとも、私の心配はお兄様にとってご迷惑ですか?」

 

自分でも卑怯な言い回しだと思う。お兄様に否と言えないことがわかっていて言っているのだから。

案の定、お兄様は首を振る。

 

「そんなことはない。深雪が俺を想ってくれることをどうして迷惑なんて思える?――だが、そうだな。俺の勝手でよりお前を不安にさせた。原因がわかっていても結果が同じであれば伝えた方が、気が楽だったかもしれないのに」

「お兄様がそのように私を気遣ってくださるように、私もお兄様を思っているのです。そのことだけはお忘れにならないでくださいませ。――私は、お兄様の絶対的味方ですから」

 

真直ぐと、お兄様を見つめて。想いごとぶつけるように伝える。

何があっても信じぬき、絶対に裏切らない存在というのは窮地でも心の支えになれるだろうから。

 

「いつまでも、お兄様の味方です」

 

それが司波深雪のアイデンティティ。お兄様の絶対的守護者。

お兄様が私を守るのではない。私は、お兄様を守るためだけに造られた存在。

私の固い決意に、逆にお兄様の瞳が揺らいだ。

 

「深雪――」

「お兄様に鳥籠など似合いません。自由に羽ばたいてくださいませ。その時はもう近づいているのですから」

 

正直、彼らの危惧する『次期当主の側近』という立場に発言権などあるはずがない。

現当主である叔母様の側近といえば葉山さんが浮かぶが、お兄様と葉山さんでは立場が違う。

あれだけお兄様に反発していた分家の人たちや中途半端な使用人たちが、次期当主の側近になったからといって簡単に言いなりになるわけがないのだから。若造が、とかガーディアンのくせに、とか何のかんの理由をつけて頭ごなしに否定するだろうから。

だが、ただの傀儡予定――だったと思うんだよね。原作の深雪ちゃんは四葉の任務からも遠ざけられ、淑女教育と固有魔法の特訓以外の教育を受けていなかったことから、実力と目立つ容姿でお飾りの当主にして四葉の運営は別の誰かにさせるつもりだったのではないかな、と。次期当主と指名されてから教育したところで遅くはないのだろうけど、他の候補三人と比べると四葉の深部に関わらせてもらっていないことと、幼少期に自我を大して持つことも無く成長させられていたことから、叔母様は私をお兄様の制御装置として見ていて、何も知らないお嬢さんに仕立て上げ、お兄様を四葉に縛り付ける理由の一つにしようとしていたのではないかな。

まあ、原作とは違い叔母様には教育を自ら求め、四葉の組織にある程度詳しくなったからその理由は潰えたはずだけど。

でもそのことを分家たちは知らない。彼らの前ではニコニコと何も知らないお嬢さんでいたから。お兄様に対しても、血縁上兄と認めているが…という姿勢でいるから原作ほど傾倒してみせてはいないものの、切り捨てられない甘ちゃんな娘だと思われているはずだ。

だが、この次期当主が彼らの恐れる危険物をきちんとコントロールできるとあれば、その危険物を自分たちのテリトリーに閉じ込める必要性は無くなる。

ただ自分たちの罪を見たくないという大人の言いなりになる必要なんて無い。

――お兄様には何の罪も無く、彼らの願いが形になって生まれてきたわけではないのだから。

 

(――明日には、きっと私たちの関係は変わっている。だからこそ、今話すしかなかった)

 

最後の念押しを。

幾度も伝えてきた、愛を注いできた。

ずっと味方であるのだと。

お兄様がしてきたことは何一つ間違っていないのだと。そして、これからだって私はお兄様のすることを応援する、と。

――離れても、心は傍に。

 

 

「突然部屋に押しかけて妙なことを申しましたね。失礼しました」

「いや…。俺のためなのだろう?」

「!」

 

頭を下げたところでお兄様にかけられた言葉に肩が震えた。

 

「お前がそう言う時は、何時だって俺のためだった」

「そう、でしたでしょうか。私は、不安でしたのでお兄様にお話を聞いてほしかっただけですよ」

 

お兄様の為、のようでいて実際は私の思い描く幸せのための訪問だ。

そのことが後ろめたいがそれ以上言える言葉を持ち合わせていなかった。

 

「明日もきっと一筋縄ではいかないでしょう。ですが、これくらいの障害を私たちが乗り越えられぬはずもありません」

 

そうでしょう、とお兄様に微笑みかけると、お兄様はそうだね、と目を伏せて。

 

「俺の任務はお前を慶春会に参加させること。必ず無事送り届けるよ」

「はい。頼りにしております」

 

 

 

 

お兄様が部屋まで送るというので大人しく従って送り届けてもらったのだけれど、お兄様は何か思案しているようだった。

上の空、というか。明日のことでプレッシャーをかけすぎただろうか。

 

「あの、お兄様、先ほどはお兄様に負担を掛けるようなことを言ってしまいましたが、そんなに気負わなくても…」

「ん?ああ。道中のことは大した問題じゃないよ。もちろん警戒を怠ることなどないけれど」

「では、何をそんなに悩まれているのです?」

「…そうだね、俺もそれがよくわからないんだ」

 

何かお兄様を煩わせるようなことを言ってしまっただろうか、と不安になったけれど、珍しいことにお兄様にも何が原因かわからないらしい。

 

「お兄様でもわからないことがあるのですか?」

「深雪は、俺が何でもわかっていると思っているようだが、俺のわかっていることなんてほんのわずかだよ。むしろ人よりわからないことだらけだ」

 

お兄様が指しているのが、感情や心のことだとすぐに気が付いた。お兄様は今、自身の胸に宿った感情に戸惑っているようだ。

手助けをしてあげられるならしたいところだけれど、踏み込もうとしたらお兄様は気にしなくていい、とやんわり牽制した。

そうだよね。全てを妹に打ち明けることでもない。かといってここで謝罪をしたらお兄様にいらぬ罪悪感を与えてしまうかもしれないので話題を切り上げる。

 

「では、これから叔母様に連絡を入れようと思います」

「頼んだ」

「はい」

 

扉の前でお別れをして、身だしなみを整えてから端末を手にした。夕歌さんにはすでに連絡を入れることは伝えている。

電話に出たのは葉山さんだった。

叔母様は今傍にはいらっしゃらないらしい。

現在夕歌さんの別荘にいることを伝え、明日には必ずお伺いする旨を叔母様に伝えて欲しいと伝言を頼むと、好々爺然とした穏やかな声で了承の返事があった。

 

「そういえば、以前深雪様から頼まれていたあの件ですが、」

 

葉山さんの言葉にピンとくるものが一つ。葉山さんにお願いできることなんて限られているから。

 

「どうなりましたでしょうか」

「短い時間でしょうが、お披露目ができるかと」

「!そうですか。それはよろしゅうございました。今後もお願いいたします」

「もちろんです。――いい拾い物をなさいましたな」

「葉山さんのお眼鏡に適うのならばなかなかのものなのでしょうね。楽しみにしております」

 

ぷつり、と切れた電話をゆっくりと下ろす。

無事修復が完了したらしい。しかもあの口ぶりならばもう中身も動きも確認ができているのだろう。

一体四葉はどんな魔法を使ったのか。お兄様なら解明できるだろうか。

 

(――ついに、明日か)

 

長かった。でも短くもあった。

もっと前から動けていたらきっと違った結末を用意できていただろうに。それが悔やまれてならないけれど、今更引き返すことなどできない。

 

「見ていてくださいませ、お母様」

 

呟いた言葉は広い部屋に溶けて消えていった。

 

 

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