妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編⑧

 

 

「新発田勝成さん」

 

普段と違い人をフルネームで呼ぶ時、それは断罪のシーンであると相場は決まっている。

 

「元日に行われる慶春会に出席するよう、私は四葉家当主である叔母様より申しつけられております。このご命令を果たすため、私は本日中に本家入りせねばなりません」

 

淡々と、裁判官が罪を並び立てるように。

それでいて淑女の微笑は忘れない。

 

「私の行く手を妨げるのは、叔母様のご命令に背くことと同義です。勝成さんのおっしゃりよう、なさりようは叔母様に対する反逆行為同然。新発田家が本家に対して反旗を翻したということになりますが、それは当然お分かりですね?」

 

想子が騒いで事象に干渉することもない。コントロールはきちんとできている。

けれどこの場は雪山で、空気は元々冷え切っていた。

それが凍てつく寒さに変わったように感じられたのは偶然山から風が下りてきてただ勘違いを起こしただけ。

ただ、そう錯覚させるくらいには、私の醸す空気は肌を刺すほどの寒さを感じさせるに十分だった。

淑女とは微笑みながら威圧するくらい訳ないのである。

 

「しかし貴方にもお立場があるのでしょう。ですから私は貴方の行いを叔母様に告発するのではなく、この場を兄に委ねようと思います。兄が敗れれば、私は大人しくここから引き返しましょう」

 

そんなことは絶対に、万が一にも起きないという絶対の自信が誰にでも伝わっただろう。

兄に委ねる=任務達成確定ですから。

お兄様の実績を知っていればそれくらいわかると思うのだけどね。

初めから叔母様に告発なんてするつもりはない。叔母様の耳には全て入っているだろうから言うまでもないし、叔母様の命令が反故にされることも無いので機嫌を損ねることも無い。

むしろ実力を示すいい機会とすら思って好き勝手させているのかもね。

だって、そうでしょう?勝成さんはお兄様と勝敗の予想ができないほど接戦したいい勝負ができると思っているのだから。

 

(勝負を仕掛けたことを後悔なさると良いわ)

 

――彼はこの場で、私が断罪する。

 

「残念ですが、あまりお時間は差し上げられません。ご決断を」

「…私が達也くんと戦う。それでは駄目なのか?」

 

どうやら勝成さんは初めから戦うのは自分だけ、と考えていたらしい。

自分なら次期当主候補でもあるので殺されることはないと確証があったのかもしれない。

そうだね。それは間違いないだろう。

だけど一対一で妨害できると?それは余りにお兄様を見くびりすぎではないだろうか。

つい先ほどお兄様の異常さを説いていたはずなのに。

まあ、自惚れるだけの実力はあるから、その考えに至るのもわかるけど。

四葉の特性こそ彼には出なかったが、個性がないだけでどんな魔法も使いこなす万能型だから。

魔法力が低く、特化型だとしても少しの手札しか使えない筈のお兄様相手なら手数で押せるとでも思ったか。

 

「私は兄に委ねると申し上げました。兄の考えは、先ほどお聞きいただいた通りです」

 

うわべの資料で判断し、サポートを下げて直接対決を望むなど、万全を期した策とは言えない。

そもそも彼自身、お兄様への妨害を真剣にしなくてはならない理由も無いからそこまで熱も入らないのかもしれない。

だけどね、今この場にいるのは四葉の次期当主候補。これはある種実力の順位がこの場で明確にする勝負になることを彼は理解していただろうか。

たとえ元々私が次期に選ばれることが内内で確定していたとしても、精神干渉魔法が強力だから、という理由だけで認められるのと、現実を知るのとでは受け取り方が変わる。

はっきりとした序列がつくことは今後グループ内をまとめるのには良いことだ。叔母様が彼らの性格を理解した上で分家の好きにさせたのだとしたらとんだ策士だけど…実際何処まで読まれていたのか。

もし、公平に次期当主候補から選出するつもりだったとしても、いくら魔法力があろうとも彼には荷が勝ち過ぎる。高い能力を持っていたからこそ計画に隙が生まれる。

私にとってのお兄様のように、それをサポートする者がいれば問題はないのだが。

 

「我が主、新発田勝成に代わって、この堤琴鳴が司波達也殿の挑戦をお受けします!」

 

そう、覚悟だけをみれば彼女はそういう意味で正しく献身的に主人に仕えていた。

勝成さんよりも数段上の覚悟をもって彼女はこの場に立っていた。

この時点で彼女は負けることを理解していたのだろう。彼女にとって勝成さんは最強の魔法師だ。その彼が自分たちだけでは勝てないと判断しているのだから、苦戦するだけでなく敗北を視野に入れていてもおかしくない。

そしてそれはいくら最強の勝成さんとはいえ、勝てるかわからないとなれば最優先で守るべき主の危機に繋がるところまで予期させるには十分で。

彼女はガーディアンとしてこの断罪を自分の首一つで済ませようと立ちはだかったのだ。

勝成さんの顔色が悪くなるが、彼女は既に腹を括った。弟の方はまだ事の重大さをわかっていないようだけれど。

止めろ、危険だ、と説得しても琴鳴さんは頑として譲らない。きっと自分の命を捧げているのだ。彼のために使うと。

それができることが羨ましい、と思った。

私にそれは許されないから。

だから、なのだろう。

お兄様が止めに入るより先に、私が口を開いてしまった。

 

「勝成さん、甘いことが悪いことだとは申しません。ですが、貴方は甘やかし方を間違えたようですね」

「…唐突になんですか」

「馴れ合いも結構、可愛がるならお好きにどうぞ。けれどそれを表にまで持ち込めばどうなるかわかっておいででしょう?

弱点をひけらかしてどうします。せめて礼儀作法を身に付けさせて身を守らせなさい。

ここまでずっと黙ってみておりましたが、あまりにも目に余ります。

主人が同格と話している際に口を挟むなど躾がなってないと大声で言っているようなもの。隙を与える行為です。

もし格下が相手だからと口を挟むような礼儀のなっていない姿を見せれば、その時点で主が見下されるのだと言うことを自覚させてください。その場で注意するなども見苦しい。

この場は年下ばかりだからと侮りましたか?親戚だから許されるなど、そんな馴れ合いの関係を私たちは結んでいましたかしら?

次期当主候補として対立関係なのだというのであれば、猶更そのような隙だらけでは困ります。同じ候補者として名乗られては恥ずかしくて辞退したくなるではないですか。

実力主義の四葉だから、力があれば問題ないなどと楽観視をしているのなら今すぐに考えを改めることをお勧めします。

力だけで組織を運営できるなら、お勉強など必要も無いのですから。

そちらのガーディアンも。主が情の深い人間だと知っているなら、その主を傷つけないために自身を磨きなさい。

先ほど兄がガーディアンはあらゆる危難から護衛する存在であると明言し、貴方方はわざわざ確認されるまでもないような顔をしていたにもかかわらず、ずっと、守られてばかり。

主の意も汲めないでどうします?主に恥をかかせておいてそのことにも気づかず不満を抱いて相手を睨みつけるなど恥以外何者でもありません。

ガーディアンとは主人を守る者。

そちらの琴鳴さんは現在の状況をお分かりになったようですが、奏太さん、今貴方のお姉さんは自分の首一つで勝成さんの罪を請け負うとおっしゃっているのですよ?この言葉の意味が解りますか?」

 

誰も、口を開くことなく沈黙していた。

最後に語り掛けられた奏太君はまだ言葉が理解できないのかフリーズしてしまっている。

対する琴鳴さんは顔を青ざめさせながらも気丈にこちらを見据えていた。

やっぱり胆力は女性の方が強いのね。勝成さんも陰鬱な表情で口を開くこともできない。

 

(…私もまだまだだね。八つ当たりで虐めてしまうなんて)

 

私にはお兄様の為に命を差し出すことはできない。私が死ぬということはお兄様にも直結してしまうことだから。

それに、勝成さんも勝成さんだ。人の過去を暴いておきながら悪びれるだけで済まされると思わないで欲しい。

ふう、と息を吐いて心を落ち着かせる。

私の溜息にお兄様以外が肩を震わせた。

 

「やる気になったところに水を差すような真似をいたしましたね。失礼いたしました。

皆さん、勘違いしているようですので誤解を解かせていただきますが、ガーディアン同士の試合と言っても命のやり取りをするわけではございません。戦闘不能か降参をするまでです。

実力が拮抗していれば危うく殺してしまうこともございますでしょうが、そんなことはあり得ませんので」

「なっ!?」

 

奏太君が反応したけどすぐに口を閉ざしたのは先の忠告が効いてきたかな。学習能力があったようでなにより。

 

「そうですわね、お兄様」

「お嬢様の望むままに」

 

下げられる頭といつもよりも硬質な声にきゅんと来てしまうことをお許しください。

いつもの柔らかなお声も大好きなんですけれど、こういうお仕事全うしています、ってところに弱い私です。お兄様カッコいい。

でもいつまでも見惚れているわけにもいきませんから。

殺し合いでないことに安堵できる状態ではないだろうけれど、彼らは条件を飲み込んだ。

この場で戦うか、というお兄様の言葉に、私は夕歌さんの袖をツン、と引っ張って水波ちゃんの後ろに下がる。

 

「夕歌さんに万が一でも傷が一つでもつかないように」

 

小声で言えば、夕歌さんが気を緩ませたようにため息を吐いて。

 

「…そもそも器が違ったわ」

「はい?」

「貴女が当主になることに大賛成って言ったの!」

 

八つ当たりしたらなぜかお墨付きを頂きました。

 

「ありがとうございます?」

 

だけどなんだろう?むしろ若干キレ気味でお役目を熨し付けて押し付けられた気分なのだけど。

目をぱちぱち瞬かせてたら夕歌さんがさらに脱力した。

 

「ここにいるあなたはちゃんと16歳に見えるのにね。いえ、それよりもっと幼いかしら」

「…一体幾つに見えるか窺っても?」

「さっきの啖呵を切ってた姿は叔母様と同等に立てるくらい大人に見えたけれど、今のあなたは幼稚園児ね。お花畑が似合う純真さが見えるわ」

「それは…振れ幅が大きいですね」

 

え、叔母様美魔女だから見た目判断だとして30?だけど今は片手の年齢とは。

 

「せめて小学生になりませんか」

「今時の女子は早熟だから」

 

…小学生の女の子よりも下だって。

こんな気の抜けた会話をしていたら水波ちゃんが対物シールドと合わせて対音波のシールドも張っていた。

水波ちゃん、有能!爆発とか起きたら任せてね。私もフォロー入れるから。

勝成さんの方はいいのかって?お兄様が誤って彼に攻撃が届くようなミスをするとは思えない。あるとしたらあちらの堤姉弟の落ち度だろう。

ってことで開戦したのだけれど、たーまやー!と声を上げたくなるほど景気よく琴鳴さんが飛んでいきましたね。なかなかの飛距離。

勝成さん案外表情に出るタイプ?いや、私がお兄様やお母様の表情で鍛えられ過ぎたのか、わずかに動く表情は慌て顔に見えた。

奏太君ははっきりくっきり動揺顔だけど、戦闘中ですよ。気を逸らすのはいただけない。

だからこそお兄様は敢えて二人同時にしたんだね。一人一人だと時間がかかるし、二人同時だとこうして片方の隙が生じやすい。

二対一って二人の方が有利に見えてそうでも無かったりするんだよね。特に相手が心配!っていう仲良しさんには。仕事付き合いで連携される方が厄介。コンビネーションに私情を挟まないから。

何と言うか彼らは魔法師らしい戦い方というか、接近戦は不得意そう。お兄様に間合いを詰められた奏太君が苦戦を強いられてます。

その間のお姉さんはといえば勝成さんとラブラブお姫様抱っこ中でした。もしもし?試合中ですよ。

とはいえその時間は短くすぐに弟のフォローに入るのだけど。

 

「夕歌さん、ガーディアンってこの程度のレベルが当たり前ですか」

「え?そうね、こんなものじゃないかしら、と言いたいけれどこの状況じゃ彼女たちの強さはわからないのも無理は無いわね」

 

圧倒的にお兄様が有利です。相手にもなってない。これ、ここに来るまでの強化兵とどちらが強いかな。

この二人だったら何人くらい倒せるだろう。不意打ちをすればそれなりに?でも相克を利用したジャミングをされたら彼らでは厳しいと思う。

お兄様が奏太君の腹を正拳突きで打ち抜く。魔法ではない、純粋な体術だ。

そして長い脚から繰り出される頭部を狙った蹴りは無事にフォローの間に合った琴鳴さんの魔法によって阻まれた。

一人沈めば当然一対一となる。初めから不利の状況から更に悪化したが、彼女の闘志は衰えていない。むしろ逆境によって気力が上がっている。

ここで仕留められなければ主の立場が悪くなるとなれば踏ん張りどころではあるのだろう。

音響爆弾を大量に浴びせようとしたようだけれど、お兄様の魔法がそれを全て打ち消す。

 

「24か所を狙った魔法を一度に!?」

 

驚愕の声を上げたくなる気持ちもわかるけれど、実戦ですべきではない。説明してくれて見ているこっちにとっては親切だけどね。

お兄様は先生と対峙している時のように魔法と体術を駆使した動きで翻弄し、振り返った琴鳴さんの首をきゅっと押さえるだけでオトした。

これも魔法ではない。単純に首を圧迫したことによる締め技でオトしたのだ。

意識を失った体を叩きつける真似をせずに道路に横たえたところだけを見た奏太君はこれを押さえつけられているのだと誤解し逆上した。

感情的になりやすいところも教育してもらわないと、勝成さんの弱点になる。彼には今日だけでどれだけ課題が詰みあがったのだろう。

逆上してはいるものの技の精度は高い。彼の自慢の攻撃だったのだろうけれど、それすらお兄様の身体を傷つけることは叶わなかった。

何度も放つがどれもお兄様に届くことはない。その前に分解される。

それは魔法師にとってとても恐ろしい光景だったに違いない。魔法式は間違っていない。体に染みつくまで使い慣れた魔法が無効化されるなど信じがたい。

お兄様が最後の仕上げとばかりに跳躍した。止めを刺すつもりだったのだろうがその最中、お兄様の身体が圧縮空気の爆弾によって撃墜された。

お兄様の分解が間に合わないほどの速度だというのに威力はかなりの物で、お兄様の身体が吹っ飛んだ。

 

「お兄様!」

 

しかし声を上げたのは攻撃が当てられたからではない。

追撃が予測できる勝成さんの動きに、お兄様へ忠告のために叫ぶ。

できることなら悲鳴をあげたかった。

だけれど勝成さんの前でそのようなことはできないと、自身を戒める。

噛み締めても収まらなくて口内の頬の肉を噛んでようやく止まった衝動は、けれど全てを飲み込みきれなくて。

 

「勝成さん、これはどういうことです!」

 

感情が乗るくらい声を荒げてしまった。

彼が参戦する可能性があることくらい承知していた。けれど抗議の声は上げなければ、相手を許したことになる。ルールを破ったのはそちらだ、と示すために必要なことではあったが、それでももう少し感情を抑えるべきだったかもしれない。

私の制止など意味もなく、勝成さんとお兄様の第二戦が始まった。

勝成さんの魔法力はすさまじく、特に得意魔法のスピードはお兄様を上回った。

だが、それで大人しくやられるお兄様ではない。そのものの魔法が壊せないのであれば周囲の干渉に物を言わせればいい。

形勢逆転、勝成さんの魔法が打ち破られた。

 

(――これでわかったでしょう)

 

CADを操作して魔法を展開。お仕置きにしてはニブルヘイムはやりすぎだろうけれど、これくらいの力を私も見せつけないと腹の虫がおさまらない。

勝成さんの干渉力の届かない高度で展開された魔法は、彼に防ぎようもなく、液体窒素の雨が彼に降り注ぐ。

結界を二重障壁で防いでいるようだけれど、それもいつまでもつかわからない。障壁にも弱点がある。圧倒的力の前では押しつぶされることだ。

なんて、障壁に限らずどんなことにも言えることだけどね。出力を上げることもできるけれど、その前にお兄様が決着をつけられた。

奏太君の身体が吹っ飛び、お姉さんの近くまで転がっていった。

勝成さんに、もう攻撃する気力など残っていなかった。

 

 

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