妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
会場は学校の講堂より一回り広いだろうか。
選手も裏方も参加なので多いかと思ったが会場が広いのでそこまで多く感じない。
「なんか、思ったより豪華かも」
「そう?」
「雫はパーティーとかよく行くかもしれないけど普通はこんなところ来る機会なんてないから」
最初からフルスロットルでお兄様とベタベタすると他校生が期待に胸を膨らませる時間がないという理由により今は離れている。
が、ナイトよろしく雫ちゃんとほのかちゃんに挟まれています。
「雫はこういうところ慣れてるの?」
「うん。両親の付き添いでしょっちゅう。深雪は?」
「ほのかと一緒よ。こういったところには縁がないわ」
基本身内のしか参加したことありませんよ。
しても腹の探り合いだからこうした気楽なものなど初めてだ。
七草会長は九校戦前だからぎすぎすして嫌だと言っていたけれど、これくらいの緊張なら微笑ましいと思う。
周囲を見回すと緊張した顔がちらほら。でも私たちみたいに談笑している人たちもいる。
あ、そうだ。三高の女子は、一色愛梨さんは――いた!すごい。輝いて見える金髪美少女!両端にはお友達の二人が固めてるけど、どう見ても一年生に見えません。貫禄があります。これはきっと縦ロールだけが理由じゃない。
ちらり、と見ただけだけど自信に満ちたその姿、実に美しい。ずっと眺めていたいけど、それじゃ不審者ですからね。我慢です。画面越しならいくら注目してても許されるだろうから。…早く試合始まらないかな。
「あれ?あそこ、達也さんのところにいるのって」
「あら、エリカだわ。――たしかこういうところのアルバイトって年齢制限があったと思うけど、化粧も大人っぽくしてるし、何かしらの手を使ったのね」
「何かしらの、コネ?」
「何か企んでるようだったからあるのでしょうね」
相変わらず人を揶揄うのに余念がない。
全力って感じがしてとってもいいと思いますよ。
こっちに降りかからなければ尚良し!だけどお兄様の近くにいたら無理だろうなぁ。
「私たちも彼女からグラスをもらいに行きましょ」
「いいね」
「のども乾いたし」
私たちが動くとまるでスポットライトが当てられているのかというくらい注目され視線が付いてくる。
美少女三人ですからね、しょうがない。でも有名税だと言うなら後で美味しい思いはさせて欲しいけど、無理だろうな。
「お姉さん、飲み物一つくださいな」
「よろしいですよ、お嬢様」
ノリがいいよねエリカちゃん。
そして給仕さんの衣装可愛いね。よく似合ってる。
「とっても可愛い衣装ね。エリカが可愛すぎてお持ち帰りされないか不安だわ」
「そういうお客様にはとっておきをお見舞いするから心配無用よ!」
パチンとウィンク。
わあ!それって再起不能なとっておきです?戦闘メイドはロマンです。今度先生と語り合いたい。
「深雪」
お兄様がグラス片手に近づこうとするが、
「まだだめ、でしょ」
ひらひらと手を振って止める。
先輩方に指示された共に行動する予定時刻はまだ10分もある。
そのやり取りに目を白黒させるエリカちゃんの耳元で事情を説明すると、あとで皆に伝えとく、と作戦に加わる意思を示した。だろうね。こんな面白いこと便乗しないわけがない。
お兄様はちょっぴり悲しそうだけど周囲の視線に気づいてください。
皆ステイ!と言っています。
もう少し視線を集めて来いということですね。お散歩してきます。
「じゃあエリカ、お仕事頑張ってね。美月たちにもよろしく」
「ええ。そっちも誘蛾灯頑張って!」
蛾はちょっと嫌だなぁ。でも作戦ですからね。頑張りましょう。
希望を持たせて突き落とすその瞬間まで頑張りますとも!
お兄様ともお別れして今度は先輩たちの元へ。
二年三年ともなると知り合いの選手もいるのか囲まれていた。
渡辺先輩には女子が、七草会長には男子が。
わかりやすい。
「あら深雪さんたちも楽しんでる?」
「ええ。こういった場所は初めてなので見るところが多くて」
「ふふ、初々しいわね」
七草会長も作戦だと腹を決めたら見事女優になっていた。
おかげでこの周辺はとっても大変なことになっておりますね。
注目度が違います。
声を掛けようとする男子もいたけど会長が華麗にかわす。
「あっちにちょっと変わった食事が並んでたわ。三人はもう食べた?」
「いいえ。まだ」
「なら――」
「あ、よければ俺たちがとってきましょうか?」
「自分で選びたければ案内するよ」
おやまあ。蜘蛛の巣の罠へようこそ。さっそくネットに引っかかってますね。すごい絡めとり方です。
「私ももう少し食べたかったからちょうどいい。一緒に行こう」
王子様然の渡辺先輩の前では並みの男子では霞む霞む。
「「「ありがとうございます」」」
渡辺先輩に寄り添うように歩くとすごいね、ほう、と感嘆のため息がいくつも聞こえます。
男装の麗人と美少女ですか?二人ともスカートなんですがね。
「君の注目度は本当にすごいな。これは予想以上の成果がありそうだ」
態と耳元に顔を寄せての囁きに、会場に聞き覚えのあるBGM、いや効果音かな、がかかる。
学校でよく聞くものですが、ここでも流れるんですねぇ。
あと時折私の名前が聞こえる。情報漏洩―。すごいね。どこで手に入れられるの?あ、選手名簿とか、先輩たちが外部にあの子は誰って聞かれて答えてるのか。ますます情報漏洩~。個人情報なんて選手にあってないものか。
九校戦ってある種の名と顔を売る場所でもあるから。
これで優秀な成績を残せれば各所からスカウトが来たりするシステム。青田買いの会場です。
「期待に応えられるよう頑張りますね」
笑顔付きで囁き返せば今度は男性陣による地響きのような声。
…相手は同性の先輩なんですが。あ、一部はそれに対しての狂喜乱舞の声ですか。男性は分かりづらい。
さっそくテーブルでお食事タイム。
他の一年グループとも合流してこれ美味しい、こっちも!と華やぐトークをしていると、周囲にはサークルができていた。女の子たちのキャッキャを前に近づくことなどできまい。ある意味結界です。
残り時間わずかなのでここで時間つぶし。
しかし視線を向ける一部に不穏な流れ。
「おい、お前行けよ」「押すなよ」「行かないんなら俺が行くぜ」「おい抜け駆けすんな」みたいな声がちらりと。
これは危ないですね、と思っていると結界なんてものともしない男子が颯爽と現れた。
――お兄様だ。
「深雪、楽しんでるかい?」
「ええ。これは食べた?とっても美味しいの」
「どれ?――ん、うまいな」
「でしょう?」
自然に横に並び立ち、肩に触れるお兄様に食べさせてあげてにっこり笑い合う。
たったこれだけ。
それだけで会場は静寂からのどよめきであふれた。
(わあ、大惨事だ)
皿は割れ、グラスが床を濡らし、崩れ落ちる者まで現れた。
…そこまで?仕込みじゃないかってくらいテンプレ事故が起きている。
しかし私たちは素知らぬ顔をして、ちらりとそちらに視線は向けるけど、すぐに二人の世界に戻る。
「そろそろ来賓の挨拶が始まるみたいだな。一緒にどうだ?」
「もちろん。でも先輩たちが前だろうから後ろの方がいいかしら」
「後ろの方が都合がいい」
「!もうっ、そういうことは言わないで」
流石に後の会話は声を低くしてだけど、まあ聞き耳立てれば聞こえるよね。
意味ありげなお兄様に応えるにはああいう反応の方がいいと返してみたけど、サービスしすぎではないですかね、お兄様。
少女漫画に夢見る女子たちの歓声が上がると同時に男子たちの落ち込み具合の落差がすごい。
一緒にいた女子たちと別れ、お兄様にエスコートされて壁に近い場所に陣取る。
ちらりちらりと視線はあるが、ガン見しようという猛者はいなかったのはありがたい。
「深雪はいったいどこでああいったことを覚えてくるんだ?」
「それはブーメランというのでは?」
今度の小声は周囲には聞き取れないと思うけど一応念のため兄と呼ばないよう気を付ける。
そしてお兄様、それはこちらのセリフです。
一体どこでそういったことを?やっぱり軍でアレな訓練を?
「嘘は言ってない。後方の方がいろいろと見やすいからな。あと話しやすい」
「…自分だけ抜け道を作るのは卑怯だわ」
まるで私だけがそっち系な想像をしたみたいじゃないか。頑張って合わせたのに。
「悪かった。機嫌を直してくれないか?」
「…思ったのだけど、ほとんどいつもと会話変わってないけどいいのかしら?」
怒ってないから機嫌も何もないのだけど、むしろこっちの方が気になった。
あまり学校でおしゃべりする内容と変わり映えが無い気がするんだけど。いや、周囲の反応見れば作戦はこなせてるんだろうなっていうのは分かるんだけど、なんか釈然としないというか。
「あまりいつもと違い過ぎたら身内からボロが出るからいいんじゃないか?」
「それは、確かにそうね」
でも普段学校でそんなに話さないから、お兄様にこんなに敬語を使わず話すこと自体が珍しくて、今にも口が引きつりそう。いつもお昼とか皆と話してるし、直接二人きりで話すこと自体がそんなにない。
だからこんなに敬語抜きで長時間お兄様と話すなんてそもそもそこまでないのだ。
うう。知り合いに見られながらのこの状況はちょっときついです。きついですよお兄様。
「辛そうだね」
「…慣れてないから」
お兄様にも伝わったらしい私の辛さ。苦笑しながらも心配そうに言うけど発案者はお兄様ですからね。
「部屋に戻ったらいつも通りでいいよ」
つまり部屋で話すことがある、ということですね。…ああ、これってそれが目的か。今になってお兄様の意図に気付くなんて――相当テンパっていたらしい。
そうだよね。お兄様が何の目的もなく恋人の振りを切り出すはずがないのだ。
「――きたね」
そうお兄様が視線を向けると金髪美人のお姉さん。
あれ、確かに今司会者が九島烈の名を呼んだはずだが、と肉眼ではなくエイドスの感覚で知覚しようとするとぞわり、と今まで認識していなかったのが信じられないくらい会場全体にうっすらと魔法が行使されているのがわかった。
さっと視線を巡らせるが誰もそのことを気にしているようには見えない。
発生源はどこだと流れをたどると――金髪美人の背後に渦のような…。今度は肉眼で確りと見れば、ひとりの老人が。
(ああ、これは恐ろしいわ。ぬらりひょんだ)
日本古来から伝承される妖怪を彷彿させる人だった。
ちらっと横を見ればお兄様も気づいたのか、口元が上がっている。
己の知らない技術を、技巧を見て喜んでいるらしい。
私には「恐ろしいおじいちゃんだわー」、だけど、お兄様には面白いおじいちゃんに見えるのか。
同じ人を見ても同じに見えない。これも精神干渉魔法による改変なのか――?たぶん違う。
そしておじいちゃんは見られていることに気付いてお兄様を見、次いで私を見た。
――ああ、本当に食えないおじいちゃんだ。
私はすぐに目を外したはずなのに――おそらくその前に気付いていたのだろう、こちらが気付いていたことに。
それからドッキリの種明かしをする九島閣下は、好々爺の顔をしながら平和ボケをしている若者に注意を促す。
(…っていうか気づいていたほかの5人、いえお兄様を抜いて4人って誰だろう?)
十文字先輩とか気づいてそう。七草会長はどうだろ、でも閣下のこと知っていればそういうことしそうってわかりそうだけど。
閣下は言う。
大きな魔法ばかりに目をやると小さな魔法に出し抜かれるぞ、と。小細工、工夫をしろと。
魔法力の強さで圧倒することが力量の差とされてきた私たち世代への教育方針を真っ向から否定する言葉だ。
困惑の空気が漂う会場。
その言葉の意味をすんなり聞き入れられたのはおそらく一高生徒だろう。
皆がちらりとお兄様に視線を向けていた。
魔法力の少ない二科生の魔法が見せた奇跡のような魔法を知ったから、彼らはその言葉の正しさが分かった。
ただ強い魔法で勝ち負けが決まるのではない。
どんな魔法であろうとも技術を駆使して目的を達成する。
その重要さを知っている一高生はこの時点でリードしていたかもしれない。
「外に出てみるものだな」
お兄様は笑っていた。
「ようございましたね、お兄様」
拍手で聞き取れない程度の声。それでもお兄様は拾って小さく頷きを返した。
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