妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編⑭

 

 

お兄様の視線が鋭く光る。

繋がれたままの指は離れることを許さないとばかりに強く絡められ、もう片方の手が頬に添えられ――額に口付けを落とされた。

誓約の封印を解く時のように、儀式めいた口付けを。

 

「俺の愛が、妹へのものか、深雪も確かめてくれ」

「確かめる…のですか?」

 

どうやって、と尋ねるよりも早く、お兄様はまた顔を近づけて今度は蟀谷に、続けて頬に、と音を立てて立て続けに口付けていく。

ここまで来てようやくお兄様が何をする気なのか朧げに理解し始めて、触れられた箇所を起点に火が付いたように体中が熱くなる。

 

「お、お兄様、」

「俺はお前が俺を異性と認識できないかを確かめ、お前は俺の抱いているこの気持ちが妹に対するモノなのかを確認してくれればいい」

 

ただそれだけのことだ、と言われるけれど、それだけ、との言葉が似合わない重大なミッションを課せられている。

耳に入る音が、触れる熱が羞恥を煽って、心を落ち着かせる隙を与えてくれない。

顔で触れられていないのは唯一その箇所を残すのみ。

その他すべて隙間なく口づけられたお兄様は一旦顔を離して、じっと見つめられた。

その視線には、先ほどまでの観察する温度のない瞳ではなく、炎が揺らめいていた。

 

「深雪」

 

名を呼ばれただけなのに何を望まれているかがわかる。

 

「嫌だったら抵抗しなさい」

 

その言葉の裏で受け入れてくれ、と乞い願われている。

射抜くほど強くなる瞳はこれから行われることは決定事項だと告げていた。

避けられない。

逃げられない。

再び寄せられる顔に、必然のように目を閉じた。

唇に重ねられたそれは、互いの弾力を確認するだけのように触れてすぐに離れていく。

心臓が激しく警鐘を鳴らすように音を鳴らしている。

身体が、急激に酸素を失ったように痺れていて動けない。

ただ、抵抗しようという気は全く起きなかった。

薄っすら目を開くとお兄様と視線が絡み合う。そのまま吸い寄せられるように唇を重ねた。

今度は温度をしっかりと感じられた。柔らかく、温かい感触が熱を残していく。

続けて角度を変えて、啄むように離れて。

その次は上唇を食むように挟まれ、名残惜しむように吸われて立てられる音に心臓が圧迫されていく。それを三回繰り返された。

回数を重ねるごとに胸に宿る火が、揺らめいては大きくなる。お兄様の瞳の炎と呼応するかのように。

くらくらと、眩暈にも似た感覚に見舞われる。

 

「ずっと、触れたかった」

 

唇の前で囁くように呟かれ、その熱い吐息さえキスと勘違いしそうになる。

ほう、と口から息が漏れた。

お兄様の手が後頭部へと回される。髪を梳くように撫でられてること二回。その手は支えるように止まる。

 

「嫌だったら我慢することはない。ちゃんと、止まってあげるから」

 

お兄様の思いやりを感じる。けれど何故だろう、同時に背筋がざわざわとした。

お兄様の服を握る。その手を、肩を支えていた手で握りしめられて――目を伏せた。

重ねられる唇は先ほどまでと比べ物にならないほど深く、質量を持って重ねられた。

閉じた唇を、湿り気を帯びた感触によりノックされて、理性が絶対に開くな!と警鐘を鳴らし、硬直して動けなかった。

それを、無理やり押し込んでくるのでもなくもう一度なぞるように蠢き、再度ノックを繰り返されるうちに、身体がむずむずと疼く。

そして割れ目をひとなぞりされてぞくりと背を震わせたと同時に唇が声を出そうと反射的に固く閉じた扉を開いてしまった。

その隙を見逃さずするりと侵入する熱い舌が暴れ回る――こともなく、ゆっくりと歯列をなぞり、そこを潜り抜けて上あごを撫でるように動く。

未知のことに恐ろしくて引っ込んでいる舌に触れることなく、ゆっくりと私の口内に馴染むように動く舌だけれど、一点に触れると動きを止めた。

二、三往復するように撫でた後、お兄様の舌は私の口内からすんなりと抜けていった。

 

「ん…」

 

最後に唇を軽く舐められて鼻を抜けて声が漏れた。その羞恥に頬が熱くなるのだけれど、お兄様はそこに触れることもなく。

 

「これは、どうした?」

 

これ、と外側の頬を押さえられ、何を指しているのかわからないふりも許されなかった。

乱れた呼吸を整えて、潤む瞳でお兄様を見上げる。私の口内にある傷は、お兄様から欲情の色を消し去る力があったらしい。

 

「…その…」

「隠さないで、教えてくれないか」

 

傷、と言っても血も出ていないちょっとした噛み痕だ。

だけど、その状況を説明するのには躊躇われた。アレは誰が悪いわけではない。私の感情のコントロールが上手くできなかったことによって抑えるために傷つけて正気を保った痕だから。しいて言えば悪いのは私、かな。

 

「深雪」

 

お兄様に再び声を掛けられ、応えぬわけにもいかず、しぶしぶ口を開く。

 

「お兄様、これは自分でしたことです」

「分かっている。もし他人の仕業だったなら俺はその時点でソイツを消している」

 

瞳孔がちょっぴり開いている。危険な兆候だ。隠している場合じゃなかった。

 

「申し訳ございません。自分の感情を抑えきれず、ここなら人に見えないだろうと」

 

口内を見せることなんて無いから構わないだろうと思っていたら、まさかこんな展開が待っていたなんて。

 

「深雪が感情を――?一体何にそんなに揺さぶられた」

「お兄様が、勝成さんの攻撃を受けた時です」

「!あの時か…」

 

お兄様も思い当たったようで鋭かった気配が鎮まった。

あの時のことを思い出すだけで肝が冷える。

お兄様は自分の身体に頓着しない戦い方をするけれど、私がいる時はできるだけ怪我を負わないよう立ち回ってくれる。私を心配させないために。

私が傍に居なくともいつもそうしてくれればいいのだけれど、効率の良さを考えると相手の隙を作りやすいんだそうで、これは治りそうもないお兄様の悪い癖だった。

だが、今回は早く事を済ませる為、お兄様はあえて大きな隙を勝成さんの前で作った。その結果が上空で墜落させるあの攻撃だ。

 

「すまなかった」

「いいえ、お兄様は何も悪くありません」

 

敵だって…勝成さんだって必死だった。四葉でも上位の実力を持ち、日本でも上から数えた方が早いくらい実力のある魔法師からの不意打ちを喰らうことはおかしなことじゃない。

勝成さんは攻撃を誘われていたことなど疑ってもいないだろう。

そしてお兄様もそう見せないために隙を作って食らってみせた。――とはお兄様に確認したわけではない。私の勝手な推理だけれどそう考えるとお兄様の行動に納得がいく。

納得はいくが、受け入れられるかはまた別の話。

 

「…深雪は、恐ろしくなかったか?」

 

恐ろしい、とは。お兄様が怪我をするのは畏れて当然だと思うのだけど――違う。お兄様が今問われているのは、あの時バラされたお兄様の過去のことだ。

お兄様の瞳が不安に揺らいでいた。

 

「恐ろしくなどございません。ただ、悲しくは思います」

「…」

「お兄様が、そのようなことをさせられている間、私は何も知らずにお兄様を慰めるどころか傍にも居なかったことが、申し訳なく思います」

 

重ねられたままの手に己の手を重ね、握る。

過去には戻れない。お兄様が一人ぼっちの時に、私は寄り添うこともなくただ周囲の人から蝶よ花よと褒めそやかされて育てられていた。

お兄様が一人苦しんでいる時にのうのうと。

術後、兄という存在を認識し始めたのもこの頃のはずだけれど、会いに行こうとして、周囲に止められてしまえば興味も失せて会いにもいかなかった。

関心が無かったのではない。周囲の言われるがままに生活していたからそうした方が良いのだろうと自分の意思をしまい込んだのだ。

 

「お前が知る必要は無かった」

「知らぬことが良いこととは限りません」

 

お兄様は何事も知らないより知っていた方が対処ができると思っておいでなのに、私に対しては過保護を発揮してしまう。自分だけが知っていればいい、後は何とかするから、と。

いつまでもそれではダメなのだ。私はいつまでもお兄様の庇護下にいるつもりは――…、あれ?お兄様と婚約して、更には結婚となると私は一生お兄様の庇護下のままなのだろうか。

 

「深雪?」

「…ええっと、お兄様。もし、その、このまま?婚約をして、け、結婚をすることになったら、なのですけれど」

「俺はそのつもりだしそれを阻むものがあるなら全力で抵抗するが」

 

わぁ。お兄様が全力で?じゃあ誰も阻むなんてできっこないじゃないですか。って、そうじゃない。すぐ思考が脱線しちゃうな。

 

「私は、お兄様といつか対等に立てる日を夢見ていました。そのために努力もしてきたつもりです。守られるだけの存在から、互いを守り合えるような、そんな関係性になれればと」

「俺が、お前を守るのではいけないか?」

「それでは何時まで経ってもお兄様に寄りかかったままになってしまいます。寄りかかるのではなく支え合える関係になりたかったのです」

「…それは、難しいな」

 

申し訳なさそうに眉を下げる。

やはり、お兄様にとって私は眼を離したすきに儚くなってしまうか弱い存在で、背を任せる相手ではないということかと思うと悲しくなった。

 

「俺にとってお前は掌中の珠だ。俺の大事な宝物なんだ。だから誰かに奪われそうになったり傷ついたりすることが許せない。――お前が大切なんだ」

 

苦しそうに絞り出される言葉に胸が軋むように苦しくなるが、それは私だって同じこと。

 

「お兄様。私だってお兄様が大切なのです。お兄様が傷つくと苦しくなります。お兄様が何も思わなくても私はその痛みに寄り添いたいのです」

「その思いだけで十分だ。それだけで俺はいつだって救われている」

「それだけじゃ足りないのです!」

 

衝動のまま、お兄様の胸に頭を身体ごと押し付ける。

 

「お兄様が私のためにしてくださっているように、私もお兄様の為に尽くしたいのですっ…」

 

お兄様が幸せになるために、私にできることを。

 

(それが、私の願い)

 

お兄様の腕が、私を包み込む。優しく、傷つけないようにと。

その温かさが嬉しいのに、向けられる優しさに距離を感じてしまう。

そっと優しく包まれているのはあらゆる危険から遠ざけたいという気持ちに思えるから。

こんなに、傍に居るのに。

 

「…私は、頼りないですか?」

「そんなことはない。お前は強くなったよ。俺なんかより、よっぽど強くなった」

 

それは言いすぎだ。お兄様の背中が見えるくらいには近づいていたいと思うけれど、私はまだそこまで実戦を積んでは――

 

「叔母上に言っていたじゃないか。実力は戦闘力で決まるものじゃない。話術を含めた処世術だって、サポート力だって深雪は群を抜いて高い。俺にはできない数々を、お前は一人でこなしてみせる。俺の手なんて、必要とされなくなりそうだ。だが、お前が傍に置いてくれるから俺は今もお前のガーディアンでいられる」

「…私が手放したなら、お兄様は離れていかれるのですか?」

 

(今はまだ、お兄様の立場が危うい状態でガーディアン解任はできないが、今後もし原作のように立場を確立されれば――)

 

お兄様が自由になる道もある…?と微かに輝く希望の光に縋ろうとしたのだが、それはどうにも手遅れらしい。

 

「昨日までの俺ならば、解任されても陰ながらお前を守っていただろう」

 

そう言ってお兄様は強く私を抱きしめてから私の頬に手を当てて、顔を上げさせ強制的に視線を合わせる。

すっと消えたはずの炎が激しさを増し大きく揺らめいていた。

言葉もなく重ねられる口付けは強引さを感じられるもので、油断していた唇を割って厚い舌が一直線に私の内頬をなぞって傷の程度を改めて確認した後、先ほどは一切触れなかった舌をちょん、と触れてから表面を擽られた。

 

「んんっ…」

 

くすぐったいような感覚と、その先の微かな快感に体が震え、舌の動きが変わったことで弱点を見つけられてしまったとぎゅっと目を瞑る。

一旦口内の動きを止めたお兄様は宥めるように背を撫で、落ち着きそうになったところで、動きを止めていた舌が今度は絡め取るように巻き付いた。

そこからはもう、どうなったのかわからない。お兄様の舌に翻弄され呼吸が苦しくなって、訴えるようにお兄様に縋りつくのに何度も角度を変えて攻めは続いた。

遠くで鼻で息をしなさい、と聞こえた気がするが、上手くできていないのか溺れたように息ができない。

次第に体から力は抜けていき、握っていた手は触れるのが精いっぱいになっていた。

やっと解放された口から激しい運動をした時のように息を吸っては吐いてを繰り返す。頭がふわふわと熱に浮かされて何も考えられなかった。

ある程度呼吸が整ったところで、お兄様の落ち着いた声により話が再開する。

 

「どのような意図があろうとも、お前と結婚できるチャンスに恵まれ、手に入れられると知って手放せるほど、俺は善人じゃない」

「…ぜんにんじゃない、なんて…まるでお兄様が悪い人、みたいではないですか」

 

息も絶え絶えに言えば困ったように微笑まれて。

 

「同意を得られてないのに手を出している時点で俺は悪人だろう?」

 

……そうでした。なし崩しにキスをしてしまっているけれど、私はまだお兄様の想いに答えていない。

それを分かった上で、うっすら微笑まれて。

 

「まだ確認途中だったね。もう少し先に進もうか」

「……え…?」

 

お兄様は自身を悪人だと断じてから開き直ったように私を抱えなおした。

いつの間にか私のお尻の下はお布団ではなくお兄様の太ももに変わっていた。

 

「キスは拒まれなかったということはここまでは嫌じゃなかったということだろう?」

 

そう頬と撫でられ、滑り落ちて顎の裏を擽られる。

お兄様との幾度となく交わされたキスで敏感になっている身体は、少し擽られただけで身悶えるほど感度か良くなっていた。

 

「っ、…おに、さまっ」

 

顎裏から指を滑らせて首元へ。その間お兄様の唇が私の顔面に降り注ぐ。ちゅ、ちゅっと音を立てられるたび体が震え、指が何処かをなぞる度ぞくぞくとした何かが背すじを駆け抜けていく。

 

(~~~流石にコレは異常じゃない?!)

 

何かが、なんて正体はわかっている。認めたくはないけれど、深雪ちゃんの身体はお兄様から受ける刺激をしっかりと感じとっていた。

キスをされてからスイッチが入ったように体が欲情している。

些細な触れ合いさえ気持ち良すぎてもっと、と目の前のお兄様を欲している。

何とか理性をかき集めて反応しそうになるのを堪えようとしているけれど、先ほどからことごとく失敗に終わっていて、びくびくと体の震えが止められない。

声を上げそうになるのは何とか堪えているけれどそれもいつまで持つかわからない。

唇を啄んでからの口吸いの流れにもう理性のひもが切れそうになるのを、何度も止められているのは私の努力――ではない。

新しいことを試す度にお兄様が嫌じゃなかったか?と確認して動作が止まるのだ。

お兄様にされて嫌なことなんて何一つない。むしろこれに限って言えばもっと、と口走りそうになる。

 

「まっ…て、」

 

待てと言えばお兄様は止まり、

 

「だ、め…っ」

 

駄目だと言えば何がダメだったかを訊ねる。

そのまま強引に進めてくれればいいのに、お兄様は私の速度に合わせると言わんばかりに立ち止まってくれるのだけど、はっきり言う。

 

(お兄様はやっぱりSだ!)

 

スパルタじゃない方のSだった。

因みにここまでまだキスまでしかしていない。あとは撫でられているだけだ。…それなのにどれだけ感度を高められ、足踏みをしているのか。

先に進むと言いながら一向に進む様子はない。

 

「はぁ…っは、…ぁ」

 

息が整うのを、お兄様は待ってくれているけれど、表情は穏やかな笑みなのにその目は獲物を捕らえた肉食獣になっていた。

首にちゅ、と口付けされるけれど、痕が付くようなことはされていない。痛みが全くない。

お兄様も明日の予定が頭に入っているのだ。理性がきちんと利いている。

…こんな状況だというのにお兄様の精神ってどうなってるの…。

 

「深雪、次に進んでいいか?」

 

ようやくキスから解放されるらしい。

とろとろに溶かされてしまった思考ではやっとこの甘い責め苦が終わるのだとしか頭に無くて頷いてしまったけれど、お兄様の手が首よりも下におりてきて、胸に触れたところではっとなった。

 

「お、お待ちくださいませお兄様!」

 

気付いたら立たない筈のフラグが、まっすぐと突きたてられていた。

 

 

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