妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編⑮

 

初めてはっきりとお兄様にストップをかけた。お兄様の手がぴたりと止まる――胸の上で。…下ろしてくれてもいいのだけれど、添えられた手は動かない。

 

「何だ」

「あ、あの、…一旦、時間を頂けませんか?」

「何故」

 

ひぃぃ!お兄様の声が、表情が感情を無くしている。

これは怒っているのではなく抑えているんだ、とわかるけれどそれでも怖い。

でも私にも引き下がれない事情があるのです!

 

「すぐ戻ります」

「理由は?」

 

…言わなきゃ、この問答は終わらないらしい。でも…言えるわけが、

 

「深雪」

 

う…逃げられない。お兄様の目が逃がさないと言っている。

 

「…下着を、」

 

ぼそぼそと、小さな声でもお兄様は聞き逃さない。

 

「下着を?」

 

逃げ場はない。

真っ赤になって俯いて、ぎゅっと目を瞑って告白する。

 

「着替えたいのですっ」

 

お兄様としては、何を言っているのだ、という状態だろう。

でも、コレは…この下の姿はお兄様に見られたくない。自分で選んだわけでもないのにこんな…きわどいどころかド本命なエロエロのランジェリーを着ている姿を見られたくはない!

お兄様はしばらく沈黙を続けていたが、突然胸に添えていた手を挟むように動かした。むにっと。

 

「ひゃんっ!」

 

痛くは無かったけれど唐突の行動にあられもない声が漏れてしまって慌てて口を押えるが出てしまったものは戻らない。

羞恥に身悶えそうになる体を抑えてぷるぷる震えているしかできなかった。

 

「…着替えたい、と言うことは身に付けているということだな」

 

お兄様の言葉に答えることもできないのに、お兄様はそのまま言葉を続ける。

 

「だが今触れた感じだとワイヤーもなく、重なった布の感覚も無かった」

 

ううう…お兄様が既に回答に近づいてくる。じわりじわりと追い詰められて、更に頭を下げて俯く。

 

「脱がせるぞ」

「お、お待ちください!」

 

どうかそれだけはご勘弁を!顔を上げるとお兄様は表情を消したままに、けれど瞳には欲とは違う炎が宿っていた。

私が何かをされたのだと、理解されたのだ。

 

(まずい!どうすれば!?)

 

衿を抑え、帯を解かれないようガードするけれど、お兄様の前では無意味だった。

お兄様の右手が無情にも帯を分解された。

え!?分解された!!

 

「お兄様!?」

 

まさかこんなところで魔法を使ってまで脱がしにかかるとは思わなかった。あまりの驚きで放心した隙に手をそっと外され衿に手を掛けられる。

 

「まっ――」

「これは――」

 

帯のない着物はあっさりと開かれ、肩までむき出しになりはらりと滑り落ちていく。

お兄様を止めるために伸ばされた手がそのままになっていたので体を隠すものなど何もなかった。

 

(いつかのほのかちゃんのように悲鳴を上げられれば良かったのに…)

 

残念ながら、私の体に染みついた淑女教育がかろうじて機能してそのようなことはしてはならないと引き留める。

お兄様に見られているという現実が受け止めきれなくてぎゅっと目を瞑る。

 

「…りぼん…」

 

お兄様の口からこぼれた単語に、リボンがどうしたのだろう、とうっすらと目を開けると、お兄様はこんなエロエロの下着を見せられても無表情で私の胸から下を見つめていた。

視線を辿って確認すれば、確かにリボンですね。リボン三連が私のくびれのラインを強調している。ありがとうございます。とってもエロいです。

 

「深雪」

 

お兄様の低い声が私の名を呼ぶ。

まるで地獄から響くような低音だ。一体どうしたのだろうか。茹った頭が一瞬にして氷点下にまで下がった気がした。

 

「な、んでしょう」

「これを用意したのは叔母上だな?」

 

質問しているようだけれど、それは断定しているも同然の言葉に思えた。

 

「はい、そのように伺っております」

 

その答えにお兄様は固く目を瞑って大きく息を吐きだすと、カッと目を見開いて。

 

「脱がすぞ」

 

へ?

宣言するとともにお兄様は手早くベビードールを脱がしにかかった。センタースリットタイプなのでおリボン解けば簡単に脱げる仕様になっております。あっという間に黒と紫の魅惑の布は開けられ、素早く脱がされて生まれたままの姿が露わに――なるにはまだ下がありましたね。

 

「倒すぞ」

 

何を?と疑問を抱くより早くお兄様は私の身体をゆっくりと布団に横たえた。そしてひもを引っ張って下もするりと…って下は待っ――!

一瞬にして青ざめた私が口を開くより早く、無情にも引き抜かれた下着は粘度の高い糸を引いて離れていく。

それが示すことがわからないほど、お兄様も知識がないわけではないだろう。

 

「…………」

「…………」

 

沈黙が流れる。

 

「……すまない」

 

……うう…羞恥心で死ねないかなぁ。というか死にそうです。心が瀕死状態。

お兄様に背を向けるように寝転がって顔を覆って体を丸める。白い肌が真っ赤に染まっていたのがちらりと見えたがもう私には構う余裕も無かった。

 

「酷いです…」

「っす、すまない!」

「…うう、貝になりたい…」

 

このまま閉じこもってしまいたい。

お兄様が謝罪を繰り返すが、ほとんどが耳を素通りしていた。

お兄様にも、何らかの事情があったのだろう。急いで脱がさねばならぬ理由が。…もしかしたら本当にコレは呪いの下着で、午前零時までに脱がさないととんでもないことになるとかあったのかもしれない。

だとしても、これは…心のダメージが大きすぎた。

お兄様だってまさか、キスと軽い愛撫だけでその…こんなことになっているとは思わなかっただろうから。

四葉の完全調整体、感度が良すぎる…。本当、恐ろしいものをおつくりになりましたね。

はしたない姿を見られてしまったことに全身火傷を負うんじゃないかと言うほど羞恥で身を焦がす。

お兄様がようやく謝罪と後悔の沼から抜け出して、私の着物を掛けてくれた。裸のままだったのが憐れだったのだろう。

 

「すまなかった。嫌がったら止めると言ったのに、俺は止まってやれなかった…」

 

そういえば、そんなこともおっしゃってましたね。

途中からそういうプレイなんだと思ってましたよ。だって止まる度お兄様の目がね、獲物をいたぶるそれに見えてましたから。

 

「深雪がその…、叔母上の用意した下着を身に付けていることが耐えられなかったんだ」

「…理由がおありだったのですね」

 

少しずつではあるが羞恥心から思考が解放され始め、お兄様の言葉に耳を傾けられるようになった。

顔を覆っていた手を外し、掛けられた着物に袖を通す。

前を合わせてゆっくりと体を起こすと、タイミングよくお兄様から帯を差し出された。あの、分解されたはずの帯だ。

 

「すぐに元に戻していた」

 

とのこと。分解の魔法にばかり気を取られていて気付かなかった。

下着が無いことが心許なかったけれど、元々身に付けていた下着があれだ。

無いのとあるのとではどちらがいいかと問われれば、無い方がまだ安心できた。…あれはやっぱり呪いの装備だった。

お兄様は今一度深く頭を下げで謝罪した。

だけどまだ、それを受け止めるには必要なことがある。

 

「お兄様、いったいなぜ、あのような暴挙に出られたのです?」

「実は――」

 

お兄様が重い口を開く。

原因はやはり、叔母様だった。

私がいなくなり、書斎で叔母様と話した帰り際、叔母様から言われたのだと。

 

 

 「そうそう、達也さんにとっておきのプレゼントを用意したの」

 「プレゼント、ですか」

 「ええ。あとで部屋に届くはずよ。ちゃんとリボンをかけてあるからすぐにわかるはずだわ。ちゃあんと受け取ってね?」

 

 

叔母様の言葉と浮かべられた笑みに何か仕掛けられていると読んだお兄様だったけれど、受け取り拒否の権利などない。

一体何が届けられるのかと訝しみながら部屋で待機していたのだが、戻ってきた私を見てそのことがすっぽり頭から抜け落ちていたのだそう。

お兄様にしては珍しい。

 

「…仕方が無いだろう。あの時はあまりのお前の色香に中てられていたんだ」

 

…左様でございますか。それ以上の言葉が見つからない。

とにかくお兄様はプレゼントの存在を忘れていたそうだが、着物の下を見て目に入ったリボンに、すぐに叔母様の顔が浮かんだらしい。

 

(…まさか『プレゼントはわ・た・し(はぁと)』をさせられていたのか…)

 

「深雪は欲しいが叔母上にプレゼントされたと思うとそのことが許せなかった」

「…それは、どうしてです?」

「プレゼント、と言うことはお前が一時的にも叔母上のモノだったということになる。それが嫌だった」

 

……あら、まあ。

思わぬ独占欲の塊のような発言にきゅん、と胸が高鳴った。現金なものだ。

 

「それに、叔母上の用意した下着を身につけさせられていることも気に入らなかった」

「…もしこれが、私の選んだものだったとしたらいかがです?」

 

ちょっとした好奇心で訊ねると、お兄様は少し目を見開いて、口角を吊り上げられた。

 

「深雪が用意してくれた据え膳なら喜んでいただくよ」

 

ぶわり、と今まで抑えられていただろう色気が押し寄せる。

…お兄様、ずっとこれを隠されていたの?理性で色気って抑えられるんだという新事実。

じゃあ今まで時折漏れていたのは無意識だったから…?妹を恋愛対象としていないから抑えることもしていなかったのだろうか。

完全に落ち着きを取り戻した私の身体を引き寄せて抱きしめる。

既に先ほどの雰囲気は綺麗さっぱり無くなっていていつものお兄様に戻っていた。安心する、お兄様の腕の中。

相変わらず鼓動は早まるのだけれど、お兄様から伝わってくる。今夜はもう何もしない、と。

 

「結局俺はお前を傷つけた」

 

すまない、と謝られるけれど、結局のところ犯人は愉快犯の叔母様だ。

けれど、お兄様が悪くないとも言えない。そもそもお兄様が検証しようとなさらなければ誤魔化せていたはずだ。

だから――

 

「ええ、傷つきました」

「!!…すまない」

「でも、お兄様に責任を取ってもらうつもりもありません」

 

思ってもみなかっただろうこの言葉にお兄様は体を硬直させた。

 

「責任を、取らせてはくれないのかい?」

「それではお兄様の都合の良いようになってしまうではないですか」

 

私は簡単に許すつもりはないのです、とお兄様の身体から少し体を起こしてお兄様と見つめ合う。

 

「お兄様はおっしゃいました。私に愛してもらいたい、と」

「ああ。兄としてだけでなく、男としても、愛してもらいたい」

 

素直に愛を乞う姿に、すでに陥落しかけている心を隠して。

 

「でしたら、私に恋をさせてくださいませ」

 

お兄様の頬を両の手で包み込み、視線をしっかりと合わせて。

 

「今度はお兄様が私に心を、恋を教えてください」

「……結局俺に都合の良いようになっているじゃないか」

「さて、それはどうでしょう」

 

くすくすと笑ってお兄様の胸に凭れ掛かれば強めに抱きしめられた。

はっきり言えばこの展開は全くの予想外で、未だ頭は混乱している。

何パターンも想定した。

婚約者になる可能性だって考えなかったわけじゃない。

だけどまさか、お兄様から前のめりに望まれることは想定外だった。

何度も言うが、深雪ちゃんが――私が望まなければ二人が結びつくことなんてあり得ないと思っていたから。

何をするにも考える時間が必要だった。

…その時間稼ぎの意味も込めた「恋をさせろ」等という傲慢なセリフだったのに、何故かお兄様はやる気に満ちている様子で。

 

「かぐや姫のような無理難題だろうと、必ずクリアしてみせる」

「…随分と自信がおありのようですね」

 

傲慢な態度を見せて考えを改めさせるきっかけになるのでは、と期待したが、逆に火をつけてしまったようだ。

…そうだった。お兄様は無理難題に取り組む時が一番楽しそうだった。

 

(でも、この件が無理難題かと問われると…もうすでに解決されそうなのだけど)

 

ええ、あと一押しされたら陥落されてしまいそうです。…こんなに押しに弱かったかな?と考えて――

 

(…推し(・・)に弱いのは当たり前か。オタクだもの)

 

と答えが出た。しょうがないよ、推しのお願いに弱い生き物だから。部屋を明るくして離れて観てね、なんて言われたら「はーい」と答えてちょっと下がる生き物だから。親に言われたって聞きはしないけどキャラに言われたら素直に従ってしまう習性がある。

そうだ、そうだった。

前世からの業を引き継いだからお兄様の指示に従ってしまうのか。てっきり四葉の技術を疑っていたが、とんだ言いがかりだったかもしれない。…はっきり断言できないのは、つい先ほど知ってしまった己の異常とも言える『感度の良さ』があるからなのだけど。

って、だめだめ。思い出しちゃだめだ。顔が赤くなってしまう。今はお兄様に集中。

…と思ったのだけれど、お兄様のお顔が輝いて見えます。

 

「自信なんかないさ。だが、お前を手に入れられるなら俺はどんな無茶でもやり遂げる。そう宣言したんだ」

 

困ったね。この件に関してお兄様がこんなに好戦的になる思わなかった。ギラリと目が光っています。

今にも喰われそうだね、と言いたいところだったけれど自分の恰好がシャレになっていないことを思い出した。

つい先ほどもとんでもない姿を見られたばかりである。

結局お兄様の恰好良さに見惚れるプラス込み上げてくる羞恥で顔が真っ赤に染まった。

お兄様もすぐにそのことに気付いたのだろう、ぽんぽん、と背中を宥めるように叩いてから、

 

「今日はもう遅い。明日に備えて、寝るとしよう」

「そう、ですね。ではお布団を」

「深雪」

 

誰かに頼んでもう一式用意してもらおうと言う言葉を遮られ、お兄様は真剣な表情で言った。

 

「このまま一緒に寝よう。それ以上のことはしない」

「……お兄様、それは」

「大丈夫だ。九校戦ですでに実証済みだ」

 

…そういえば既に一度、というか数度?一緒に寝ていたんでしたね。お兄様的には。

ですが私にとっては初めてみたいなものなのですけれど。

母が亡くなった時でさえお兄様と一緒に寝たことはない。手を繋いでずっと傍にはいてくださいましたけどね。

 

「もちろん、お前が許してくれればそれ以上だって構わない」

「許しません!」

「それは残念だ」

 

大して残念そうに聞こえない楽しそうな声で言うと、立ち上がって寝間着に着替えると浴衣を取りに行った。が、その前に振り返って。

 

「深雪も、今のうちに別の下着を身に付けると良い」

「!!そ、そうですね」

 

慌てて立ち上がって持ってきた荷物から予定していた下着を取り出し身に付ける。

…やっぱり下着って身に付けると安心感あるのが普通だよね。下着を身に付け寝衣を整えてから寝室に戻ると、布団をめくられた状態でお兄様が横たわっていた。腕枕は必須ですか、そうですか。

 

「し、失礼します」

 

おずおずと布団に潜り込み、お兄様の身体に身を寄せる。

 

「取って食ったりないから、もう少し寄りなさい。それでは寒いだろう」

 

遠慮をするなというけれど、しないわけがない。でも言われたからには、とできる限り近づいたところでお兄様の腕が腰を抱き寄せた。

 

「きゃっ」

 

勢い余って半身がお兄様に覆いかぶさるように重なり合い、密着していた。

 

「うん、これくらいだったかな」

「な、何がです?」

「九校戦でお前が俺で暖を取っていた時はこれくらい密着していた」

「そんなっ?!」

 

嘘でしょう?こ、こここんな密着していたというの!?どれだけお兄様に迷惑をかけたのか。こんなに密着されたらお兄様だって眠りを妨げられて当然だ。

 

「よかったな」

「よかった?とは」

 

混乱する私に、お兄様はよかったなと声を掛けられるけど一体全体どこに安心する要素がありました?

 

「あの時俺がもしお前への想いに気付いていたら何もせずにいられなかっただろう」

「!!」

 

なんてことを言うんですかお兄様!

しかも遠い目をしてあの時のことを回想しているようですが、今の現状も似たようなものなのでしょう?!私半身乗っかったままです。密着してるの!離して?

抜け出そうと身を捩るけれど腰に回された腕は金属で固定されているように動かない。

 

「確認は途中になってしまったが、深雪にとって俺は変わらず兄のままなのだろう?」

 

この密着は兄だから大丈夫だろう?ということですか?だいじょばないからこうして抜け出そうとしているのに。

そしてあの恐ろしい検証はそのままうやむやになるかと思われたが、お兄様は一旦整理したいようだった。

お兄様からの問いに、しかし私は少し悩む。そして出した答えは――。

 

「分かりません」

「わからない?」

「…お兄様はお兄様です。それは今までも、これからも変わらない。お兄様にとって私がずっと妹であるように不変の真実です。

ですが、全く変わらず、というのは恐らく違います。お兄様からお気持ちを聞いて、私は自分の心がわからなくなりました」

 

私は前世からお兄様を好きだった。キャラとして愛していた。

それがどういうわけか知らぬうちに生まれ変わり、お兄様の最愛の妹としてお兄様の傍で暮らすようになり、あの沖縄の事件でお兄様に命を救っていただいた。

そこからはっきりと自分の立場を自覚し、お兄様が現実にいるのだと実感し、ここからお兄様を幸せにするのだと生きてきた。

そこにはもちろんお兄様に救っていただいた命のための恩返しという思いもあった。

今まで兄を蔑ろにし、辛く当たっていた分のお詫びもあった。

けれど一番にあったのは大好きなお兄様を幸せにしたいという気持ち。それは一ファンとしてか、妹としてかもう定かではない。

お兄様と過ごした日々も併せてお兄様を愛してきた。

そこにはいろんな愛が入り混じって、この愛が何かと答えるのは難しいけれど、大きな愛であることは確かで。

だからこそ導き出せる答えは――

 

「お兄様を愛しております。そこは間違いありません。ただ、その愛の種類を訊ねられるとわからない、としか言いようがないのです。…恋ではないと、否定することも」

 

今の段階ではできないのだ、と言うとお兄様は口元を綻ばせた。

 

「そうか。全くの脈無しではないんだな」

「…わかりません」

 

多分、脈無しどころか大有りだとひしひしと感じるのだけれどそれを不用意に口に出すことはできない。

私たちの今後の未来の為にも。

 

「分かった」

「お兄様?」

「待つよ。お前が俺に恋をしてくれることを。何も今ある感情から焦って探し出すことはない。これから育んだって良いんだ。そして必ず結婚をするまでに恋をしてもらえるよう、待っているだけでなく努力するとしよう」

 

お兄様の瞳が、声が、空気が甘く感じられてさらに顔に熱が集まる。

くすりと、笑う声が至近距離から耳に届いた。

 

「電気を消してもお前の赤い顔はよく見える。こんな体に生まれたことも、お前の傍に居るだけで全て良かったことになる――ありがとう」

 

お兄様の言葉はなんて事の無いように紡がれたけれど、今日お兄様は自身の出生の秘密を知ったのだ。その上で、そんなことを言ってのける。

ぎゅうっとお兄様にしがみつくように寄り添って。

 

「…お兄様が生まれてくださったことに感謝を。お兄様がいてくださるから、私は生きられるのです」

 

お兄様の為に造られたから、私はこの世に生まれることができた。そのことに、感謝を。

布団の中で二人身を寄せ合って目を瞑る。

遠くで鳴る除夜の鐘の音を聞いて、遠のく意識の中、額に何かが触れたけれど確認することもできず眠りに誘われていった。

 

 

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