妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編⑳

 

鍛え抜かれた表情筋がしっかりと役目を果たしている。

淑女の微笑みを浮かべてお兄様と並んで挨拶回り。

昨日の衝撃から抜けた方々からお祝いの言葉を頂きながら昨日の魔法のことを聞き出そうとされたりと、探りを入れてくるあたりは通常運転に戻ってきているのか。

日常会話こそ戦場。この意味が良くわかるね。隠れて弾丸を打ち込まれるのをほほほ、と微笑みながら跳ね返している現状。

お兄様を蔑む視線が少ないのは、昨日叔母様が認識を改めろと言ってからあの魔法を披露したことが要因か。

世間の評価、長年蔓延していた噂話より一見した実力で判断する。流石は四葉家。自他ともに認める実力主義の一族。…この一族をここまで騙せるだけの情報操作をしていた叔母様の手腕が恐ろしい。

だって、訓練内容は伏せられていたけれど任務の遂行率100%はちょっと調べればわかりましたからね。

まあ、四葉の下っ端戦闘任務失敗してたらほとんどが『死』だったから生きてる時点で遂行できてるって証明にもなるのだけれど。

他の一般使用人たちと違い、基本単独任務ばかりだからスゴ技を目撃する人がいなかったことも要因か。

だとしても任務内容だって概要書いてあるのにね。報告書も目を通さなかったのかな。

割り当てられている任務ランクと噂されているお兄様との実力が見合っていないから、報告書の信用度が無い、とか?…その場合任務の調査員の信用にかかわることなので疑うことは無いと思うのだけど。

それともあれか、私が気付いていないだけで目を通していた資料や報告書は一般向けではないものだった…とか?

ある種お兄様も特別製の箱庭で覆い隠されていたのか。

私の箱庭は周囲から隔絶し、四葉という非常識を常識として植え付けるための小さな世界だったけれど、お兄様の箱庭は同じく周囲から隔絶するものでもあるが、本来の優秀さを隠し周囲の目をくらませるためのもの。

 

「深雪、寒いのかい?少し休もうか」

 

内部の情報さえも情報規制をかけ、厳重に管理できてしまう叔母様のわるぅい笑みを思い浮かべて身を震わせていると、お兄様が気遣って壁際に誘導してくださった。

相変わらず妹の異変を察知してからの行動が早い。流石お兄様。

 

「寒くはございません。ありがとうございます」

 

羽織っている上着を脱ぐ前に大丈夫だとストップをかける。

でも休憩できることはありがたかったのでお礼を言うと柔らかく微笑まれる。その表情に愛しさが溢れているようで、頬に熱が集まった。

 

(うう…お兄様の視線が甘すぎる…)

 

妹に向けられていた視線だけでも十分に甘かったのに、そこにプラス婚約者への視線もプラスされ、言葉にせずとも愛おしいと誰にでもわかるレベルで見つめられている。

…恋人のふりをしている時のお兄様に似ているが、あの時でも赤面レベルだと思っていたのに今はそれ以上の熱が込められていて、今にも顔から火が噴き出しそうだ。

頑張って、淑女の仮面さん。もうストックが無くなりそうなの。

 

「この二日で進展しすぎじゃない?どう見ても兄妹には見えないわよ、お二人さん」

 

甘い空気垂れ流しちゃって、と近づいてきたのは夕歌さん。兄妹じゃなかったら一体何に見えると言うのか。…なんて、言われなくともわかってますけどね。

それにしても今日もとっても美人なお姉さん。しかも見たことのない呆れオプション付きの笑み!そんな夕歌さんも素敵ですね。惚れ惚れしちゃう――のだけど。

 

「深雪」

 

腰を抱き寄せられ耳元で囁かれて、名を呼ばれただけなのに瞬時に意味が伝わって俯く。…お兄様の低音ボイスは本当、凶器だと思う。

ええ、見惚れていたのがバレていたようです。以前から注意されていたけれど、婚約者となった今、独占欲を隠さなくなった、ということでしょうか?わかりません。とりあえずそのぞくぞくする撫でる手を止めていただけませんか。仮面に罅が!割れちゃう!!

 

「…ちょっと。人を出汁にいちゃつかないでくれない?」

 

夕歌さんの不満の声に、しかしお兄様がしれっと返す。

 

「深雪が綺麗なモノに目が無いのはわかっているのですが、目の前で俺以外に意識を奪われるのは面白くないので」

「…達也さん、もしかしてそっちが素なの?」

 

夕歌さんは綺麗と言われて戸惑ったように視線を惑わせたものの、続けられた言葉に心底呆れたという顔で返した。

 

「そのようです。自覚したのはこちらに来てからですが」

 

夕歌さんびっくりでしょう?私も驚きましたよ。お兄様がそんな風に思っていたなんて。

今までも似たような場面があったけど淑女的な理由でアウトだから注意されたとばかり思ってましたからね。面白くないと言われても、ただのリップサービスだと。

考えたら妹相手に恋人っぽいセリフを使うサービスとは⁇と疑問に思えるのだけど、当時は何で思い浮かばなかったのだろう。

A.妹だから。あとは原作でもそんな感じだったから、ですね。

お兄様、深雪ちゃんに対して最初から恋人扱いみたいなことばかりしてた。だからそういった言動はデフォルトだと思ってしまっていた。お兄様の初期装備。妹相手に自動発動スキルだとばかり。

刷り込みって怖い。

 

「人目が無ければガンガン突っ込みたいところなんだけど、この場でそんなことできるはずもないから」

 

そう言って赤面を隠そうと俯いたままの私の視界に白い紙が入り込む。

 

「これ、私のプライベートナンバー。今度お茶に誘うわ。もちろん断らないわよね?」

「!」

 

手が震えないように紙を受け取るけど内心はぶるぶる震えております。

嬉しい!すっごく!!人目が無ければ飛びあがって喜んだだろう。

脳裏に浮かんだのは30日に連絡もらったナンバーはプライベートなものじゃなかったんだなということと、それをくれたってことは仲良くしても良いと思ってくれたということで。

 

「あの、是非。よろしくお願いいたします」

 

嬉しさがにじみ出てしまいながらはにかんで答えると、夕歌さんはじっと私を見つめてから失敗したわと零した。

 

「何がです?」

 

え、もしかしてさっそくナンバーを渡したことを後悔してる!?と紙を奪われないようぎゅっと握りしめるとそっちじゃないから、と手を軽く振って。

 

「こんな事ならさっさと仲良くなっておくんだった、てこと。深雪さんとならたっぷりガールズトークができたのにってね。でも、これからは取り返すくらい付き合って」

「え、ええ。それは、もちろん喜んで参加させていただきたいのですが、…夕歌さんでしたらご友人も多いでしょう?」

 

ガールズトークなんていくらでもしてそうなのに、と不思議そうに見つめたら自嘲が口元に浮かんでいた。

 

「本音トークなんてできるわけないでしょう。でも、貴女ならすべての事情を知っているから遠慮せず話せるわ」

 

ああ、確かに四葉の人間が気軽に本音を喋れるわけなかったね。四葉同士でさえまともにできないのに。うっかり。

そうしたら、亜夜子ちゃんも、と視線を巡らせれば――いた。文弥くんと一緒に誰かとそつなくご挨拶をしているところのようだった。

昨日のことがあって彼女も精神的に参っているだろうに気丈に振舞う姿は感心する。

だけど今の彼女に私と会話をすることは苦痛だろう。彼女も誘いたいと名を口にすることは今はまだ断念せざるを得ない。

残念だけど、まずは私たちでお試しをしておかないとより深い溝を作ってしまうかもしれないから二人スタートは丁度いいのかも。

 

「それもそうですね。夕歌さんの女の子の秘密を聞いてみたいものです」

「いいわよ。代わりにあなたの秘密もいっぱい教えてもらうから」

 

覚悟しなさい、と勝気な笑顔は綺麗なのに可愛らしくて好き!と心が騒ぐ。

けれどその度にお兄様からの戒めのように、腰に回された手が腰を撫でてくるんですよね。…危険、大変危険です。

あまり悪戯しようとしないでください、と願いを込めてその手に手を重ねて動きを封じる。

 

「…達也さんはもちろん遠慮してね」

 

ガールズトークの席なんだから男子禁制、と締め出し宣言をする夕歌さん。

その視線は先ほどまでの可愛らしさが鳴りを潜めて強さをそのままににらみつける形に。

 

「同席は諦めますが、隣接した場所に控えるくらいは認めてもらいますよ」

 

対するお兄様は一緒にというのは諦めるが、傍から離れないと真っ向から視線を返しながらの宣言。…お兄様、傍に居なくても守護ができるのではなかったでしたっけね。口に出しませんけれど。

 

「…束縛は嫌われるわよ」

「深雪の立場を考えればお判りでしょう」

 

バチバチと火花が散っています。どこかで見た光景。雫ちゃんとは違いライバルって感じではないけれど気にくわないっていうオーラが。

そこへ、お給仕さんに回っていた水波ちゃんがやってきた。もしかして窮地を救いに来てくれたのかな、と思ったのだけど。

 

「白川夫人より、深雪様にお越しくださいとご伝言が」

 

白川夫人と聞いて体が緊張するのは仕方が無いことだと思うんだ。たとえ叔母様の指示だったとしても人を罠にかけあんなことをされたわけだしね。

でも今日はこれから帰宅するだけ。あのような罠にかけられるわけもなく。

 

「私だけなのね。分かったわ。――達也さん」

 

お兄様を見上げると、目が細くなっていて、警戒しているようだけれど夫人に呼ばれて行かないわけにもいかない。

それをわかっているから、ぎゅっとつながった手を握ってから離すと腰に回されていた手もするっと離れた。

 

「夕歌さんも、じっくりお話はまた次の機会に。楽しみにしております」

「ええ。たっぷりお話しましょう」

 

夕歌さんと握手を交わしてからお兄様を見上げれば、「俺を置いて行くのか」と訴えられていますけど、ガーディアン時でも一緒の場合は達也殿も、とついていましたから。今回は一人で呼ばれていることをお兄様もわかっているでしょうに。…お願いですからそのように私の心を揺さぶらないでいただきたい。

 

「達也さん、あちらで文弥さんたちもお話が終わりそうですよ。昨日もあまりお話ができなかったでしょうからお話に行ってはいかがでしょう。亜夜子さんも昨日は体調が悪かったようですし、代わりに様子を窺ってきて下さいませ」

 

せめてここに留まる理由としてお兄様に任務、というか交流をお願いすれば、仕方がないなと肩を落としながらも頷いて。

 

「そうだな、分かった。――水波」

「はい。深雪様、ご案内いたします」

 

お兄様が言外に自分の分も頼む、と水波ちゃんに託し、水波ちゃんが了承する。この辺の連携もスムーズになりましたねぇ。これでまだ一年も付き合ってないんですよ。すごいでしょう。

辞するために一礼してから「こちらへ」と先導する水波ちゃんについて行く。

 

「水波ちゃん。休暇の件、聞いてる?」

「はい。4日に休暇を頂き、その夜には帰宅予定と」

「ごめんなさいね、一日しかお休みをあげられなくて」

「それは構わな――いえ、できることなら休暇など返上したいくらいなのですが」

「ダメよ。今までだって労働基準を無視したお仕事をさせているんだから。水波ちゃんにだってフリーの日が必要だわ」

 

住み込みって年中無休だから。こんな時くらい休んで、と伝えると水波ちゃんはなんだか微妙な表情をしていて…なんで?お休みしたくない社畜さんです?それは良くない。今からでも治療が必要案件。これは働き方改革が必要では?と思ったのだけどお仕事のことにしては歯に物が挟まったような…?

 

「あの…深雪様、達也様とご婚約されたと…」

「え、ええ。驚いたけれど、その、そういうことになったわね」

 

直接お話するタイミングは無かったけれど、ここで働いているのだ。当然水波ちゃんにも知られているとはわかっていたけれど改めて身内判定されている子に指摘されると恥ずかしいものだね。

だけど赤くなる私と対象に、水波ちゃんの表情はちょっと…青ざめてない?表情が強張っている。

 

「…深雪様、お分かりですか?今日から二日間、ご実家に達也様とお二人で過ごすことになるのですよ」

「水波ちゃんが来る前がどんなだったか、懐かしいわね。そんなに前のことじゃない筈だけど、もう水波ちゃんが一緒にいるのが当たり前になっていたから」

 

思い返すのは入学前、実家に戻った時からの一年間。穏やかで、心温まる平穏な生活だったような気がする。…時折ちょっとハプニングもあったけれど、あれはお兄様の呪いだから。主人公の宿命だから。

なぜだろう、さっきから答えるたびに水波ちゃんの反応が芳しくない。

ついに水波ちゃんは誰もいない廊下に立ち止まって、決意を決めたとばかりに顔を上げ――

 

「深雪様。よろしいですか、以前とは大きく違う点がございます。それは――」

 

 

「深雪様、お呼びだてして申し訳ございません」

 

 

「「!!」」

 

……全く気配を感じなかった。

声のする方に振り替えれば、白川夫人が一分の隙も無い姿で立っていた。

白川夫人、もしや使用人を統括する以上に戦闘訓練もかなりの腕前です?実力主義の四葉だから実力無いトップには従わないとかいうルールがありましたか?ありえそう。

水波ちゃんは言葉を呑み込み口を閉ざして一歩下がって頭を下げている。

白川夫人は水波ちゃんを労って、私を一室へと案内した。

そこは誰もいない談話室。親族でも許可なく入れない空間だった。

 

「深雪様、ご当主様よりこちらをお預かりしております」

 

そう言って渡されたのはオフラインの携帯端末。

コードを入力して開けば――、あらぁ。これは大至急案件だね。今のタイミングを逃せばチャンスは巡ってこないだろう。

 

「分かりました。白川夫人、案内していただけますか」

「そのように仰せつかっております。どうぞ、ご案内いたします」

 

話が早いったら。

白川夫人に案内されるままその後について行った。

 

 

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