妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編㉒

 

 

時刻が午後を回り、叔母様が姿を現してすぐの挨拶で、既に魔法協会を通して昨日発表となった次期当主候補の名と、司波達也を四葉真夜の息子と認知すること。そして司波深雪、司波達也が婚約をしたことを通達したのが午前中。

既に祝電が届き始めている、とお話になった。

新年早々びっくりしただろうね。いろんなお家が大騒ぎしてそう。それはそうだ。私たち四葉の人間だって驚いたのだから。

学校に行くのが今から憂鬱です。

 

(居心地が悪そうだなぁ。いや、悪くさせるのは私か)

 

ただ話が上がるだけなら原作通り変な噂が広がったりして腫物扱いで遠巻きにされるだけだろうが、注目を浴びるならもうひと手間加えてもっと盛り上げたい、と勝手ながらすでに舞台への招待状は配り終えている。

後でお兄様にもすり合わせをしなければ。

お食事を摘まみながら進む会食は、途中水波ちゃんのお迎えによって唐突に終了を告げた。

叔母様からのアイコンタクトを受け、一礼して退席する。

帰っていいって!

警察の方々も年末から色々とお疲れ様です。ゆっくりお休みください。

部屋に戻ってドレスを脱いで身軽な恰好になったことでとても開放的な気分になった。やっぱりドレスは戦闘服よね。鎧のように重い。

あ、実際の重さじゃないよ。重量で言ったら昨日の着物の方が重かった。アレは拘束具であり筋力を鍛える器具だから。着るダンベル。

 

「ありがとうね、水波ちゃん」

 

今は皆出払っているのでちょっと気楽に話しかけたけど、水波ちゃんは浮かないお顔。

どうしたんだろうと思っていると、

 

「やっぱり、私もご一緒させていただいた方が…」

 

?何が⁇そんなに心配させることがあったかしら。

 

(こうして正式発表までしたら分家から襲われることは無いはずだし、大陸の方の動きはまだない。…軍にだってまだ怪しい動きは見られないのに水波ちゃんは一体何に警戒している?)

 

「でも、職務を放棄するわけにも…」

「水波ちゃん、一緒に帰りたいの?」

「深雪様の御身をお守りしなければ、と思うのですが」

 

私の身って…まあ四葉バレしたわけだし、これまで以上に注目を集めるわけだから狙われる可能性は上がるだろうけど。

 

「大丈夫よ。お兄様がいるもの」

 

お兄様という鉄壁の守りがありますのでね!どうか安心してほしい、と笑いかけるのだけれど、水波ちゃんが残念なモノを見るようなお顔に変わった。何故に?

 

「……その達也様が危険なのではないですか」

 

ん?お兄様が危険?あ、お兄様も危険だった!何せ四葉当主の息子なのだから。

狙われるのは私だけではない。お兄様もだ。

 

「私も油断しないようにしないとね。ありがとう水波ちゃん」

 

そんなことにも気づかなかったなんて。

もちろんお兄様が狙われるからって、お兄様が危険なことになるかと言われれば、大抵のことなら片手で片が付くだろうけれど、何が起こるかなんてわからないからね。原作に無かったからってから何も起きない、なんて油断はしません。

そう意気込んで見せたのだけど、やっぱり水波ちゃんの表情は晴れない。

それでも手は動いていて、帰り支度が整った。

流石水波ちゃん、できるメイドは違う。

 

「水波ちゃんも、明日までお仕事大変だろうけど、ゆっくり休んでね」

「深雪、車の準備が整ったそうだ」

 

先に準備を終えていたお兄様が確認から戻ってきた。

もう出立するとのこと。

水波ちゃんは私の分のトランクを持ってお兄様の許へ行くと、

 

「深雪様が傷つくようなことがあれば容赦は致しません」

「言うようになったな、水波」

 

…お兄様、ここにきて敵が増えましたか?夕歌さんともバチバチしていたけれど、今度は水波ちゃんともですか?午前中あれだけ息ぴったりなやりとりをしていたのに。

おかしいな。お兄様主人公スキルでハーレム力高いはずなのに…と思ったけれど年下の女の子との相性は元からあまりよろしくなかったね。

とはいえ夕歌さんのアレは見せかけのバチバチだったかもしれない。牽制的な?年上を揶揄うのもお兄様の特性だから。七草先輩とかね。やられる前にやれ、これも四葉の教え…にはなかったかな。でも攻撃は最大の防御です。

玄関まで見送ってくれた水波ちゃんは再度お気をつけて、と心配してくれた。主人想いの優しい子です。私にはもったいないくらいいい子。

去り行く車が見えなくなるまで見送ってくれていた。

そこから車は行きとは違い何一つ妨害に遭うこともなく無事に駅に着いた。荷物はお兄様が運んでいる。…私も持つって言ったのに、婚約者に荷物を持たせられるわけないだろう、て。

…箸より重い物持てますけど、お兄様と水波ちゃんの前では持たせては貰えそうにないね。

 

 

――

 

 

キャビネットに揺られて家に着く頃には日が暮れていた。

冬の空は澄んでいて、星空が綺麗だった。東京でも住宅街は案外星が見えるんですよ。

 

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ただいま深雪。深雪もおかえり」

「はい、ただいま戻りました」

 

気恥ずかしさもありながら、ハグをして。三十秒きっかりで離れると、二人で微笑み合う、のだけれど。

 

「キスをしたいと思うのだが、いいだろうか」

 

…唐突にされるのも困るけど、こうして確認されることもとっても困る。

正直に言えるのなら困ります、と返したい。

されたくないかと聞かれれば…それにはNo、と答える。拒絶するほど嫌なわけではないのだ。

ただ、緊張と恥ずかしさと、…気持ちが昂りすぎてしまうので、頭がパニックを起こしてしまう。だから困るのだけれど、そんなことを言うのも憚られるわけで。

頬が染まるのを自覚しながら俯くように頷くと、お兄様の手が頬に添えられ、ゆっくりと上向きにされる。

近づく顔にそっと瞼を下ろすと、優しく柔らかい唇が重ねられた。

それは啄むようにしてすぐに離れていく。

震える瞼をゆっくり上げると、徐々に見えるのはお兄様の少し情けなさそうに眉を下げた顔。

 

「お兄様?」

 

一体何をお考えなのかわからず声を掛けるが、お兄様はもう一度ぎゅっと抱きしめるとこれまたすぐに離してくれた。

 

「駄目だな…どんどん欲深くなっていく。お前に甘えすぎてしまうな」

 

その姿に、その言葉に、そしてその声に心臓が鷲掴みにされる。痛い。苦しい。

お兄様がどんどん私を追い詰めてくる。

まだ玄関を入ったばかりだというのに、この状況。私は果たして心を休めることはできるだろうか。

 

「先に荷ほどきをしようか」

「そう、ですね。あ、お夕食はどうしますか?」

「正直、ずっと何かしらつまんでいたからな。そんなに減った気はしていないんだが、深雪はどうだ?」

「お兄様と一緒であまり空腹感が感じられません。ですが全く食べないというのも良くないでしょうから」

 

お兄様も私もまだ成長期ですからね。長い時間空腹のままというのも体に良くない。

 

「それでしたら具沢山のお味噌汁だけ、というのもいいかもしれません。汁物ですからそこまで重くもないですし、食べた気にもなります」

「それはいいね。深雪の味噌汁なら何杯でも食べられそうだ」

「まあ、お兄様ったら」

 

くすくすと笑い合ってから、それぞれの部屋に向かった。

ぱたん、と閉じた瞬間、私はトランクを置いたままベッドにダイブ。恰好などもう気にもしてられない。そんな余裕はない。

ここ数日間を思い出すだけで、いや、ついさっきのやり取りだけでも私にはもうキャパオーバーだった。

 

(だって、だってだって!お、お兄様が私を、その…そういった意味で好いてくださってるなんて思いもよらなかったから!

どうしてこんなことになった!?原作からルートを離れようとしたらとんだ強制力が働いてしまった、ということなのかな。

妹がお兄様相手にそういった好意を抱かないとストーリーに支障をきたすからお兄様の方を、みたいな?それはあまりにも暴挙が過ぎるでしょう!なんなのこの強力な原作修正力は。

物語が破綻してしまいます!!お兄様は自身で気付かなかったからこれから葛藤が生まれていくのでしょう?!

それがこんな、こんな…)

 

頭を抱えて蹲る。

こんなシナリオ想定外だった。

一応叔母様が婚約者を変えないルートは考えていたのだ。

一番はお兄様が好きな人ができるまでの仮契約として君臨し、お相手ができたら速やかにお兄様との婚約を解消。結ばれてもらうルート。

もしお兄様に好きな人が現れなくても、その時は四葉から自由になってもらうためお兄様の意見が多少は通るだろう、私の婚約者という立場を利用してもらって。

ESCAPES計画を完成させてもらいさえすれば、その暁には個人の地位も確立するだろうから、四葉から離れた生活が約束される。婚約はそれから破棄していい。

もし、叔母様が四葉からどうしても離したくなくて、無理やりこのまま結婚させようと躍起になろうとも、お兄様の意思がない限り回避するつもりだったし、万が一、お兄様が私との白い結婚だろうともした方が得策だと思うことがあったのであれば、それに従おう、と思っていた。

白い結婚。すなわち肉体関係のない書類上の付き合いということ。どうあってもお兄様は妹に手を出す気にならないだろう、と思っていたから。深雪ちゃんが望まぬ限り、ありえないはずだと。

 

(そう、思っていたのに)

 

まさかの大番狂わせである。

 

(兄妹の立ち位置がこんな形で逆転してしまうなんて。こんなこと、あっていいのだろうか。いや、良いはずが――)

 

「ん…?」

 

痛む頭で考え事をしていたら、何かが思考の端で引っかかったのだけれど、思い返してみてもそれが何なのか、分からない。

…とりあえずこんな恰好で寝そべっていても何も解決はしない、と頭が冷静になってきたところで体を起こす。

今はやることをやらねば。

手近なトランクに手を伸ばして片づけから始める。

 

(この後の流れがどう変わるか。婚約者となった今、原作通り魔法師界は大混乱になっているはず)

 

明日には原作通り一条家から異議申し立てがあるかもしれない。

まあ、それに関して言えば、どちらかと言うと七草の陰謀が常識という皮を被っていちゃもんをつける材料になるだけだから大して問題だとは思っていない。

むしろ矢面に立たされてしまう一条君に申し訳なく思うくらいだ。自身の恋心を大人たちに利用されてしまうのだから。

そうなる前にお断りをと京都でやんわり伝えたつもりだけれど、残念ながら伝わらなかった。

思わせぶりな態度も取ったつもりはないし、必要以上に接触をしていないはずだが、強制力を考えるならこの流れも変わらないだろう。

生活圏が離れているのだから、直接的にかかわることはほぼないだろうから大した問題だと思わないのだけど。

問題は――

 

(皆、だよね)

 

皆には、クリスマスに手紙を渡していた。

四葉家次期当主としての発表だけは揺るがないはずだが、念のためはっきりと家名は書かなかったので不親切な内容ではあった。それでも二日を過ぎれば情報通の彼らはすぐに感づくはずだ。

だから、お手紙には以下のようなことを綴った。

私のことで恐らく発表があったことだろう、と始まり、

騙して友達付き合いを演出(・・)したことを詫び、今後は振る舞いを改める為これまで通りの付き合いは止めて欲しいこと。

兄は本家で冷遇されている身のため、私たちの関係は主従関係であり、皆と同様演出であった、と。

だから演出された者同士仲良くしてても問題ないのでは?と煽る一文ものせて。

上から目線の、下々とは慣れ合うつもりはない、というような内容を認めた。

我ながら結構喧嘩を売るような文言をちりばめたつもりである。

原作通り彼女たちは優しいから、今まで通りに付き合おうとするだろうけれど、それでは迷惑をかけることになる。

恐怖の権化たる四葉との付き合いは、彼女たちの学生生活に影を落とすことになるかもしれないのだから。

彼女たちは信念をもってそんなことは気にしない、自分たちの信じた道を貫く、とするかもしれないけれど、わざわざそんないばらの道を進む必要も無い。

あ、お兄様とは今まで通り仲良くしてくれたままでいいから。お兄様は四葉にあって四葉にあらず、の扱いを受けてきたので純正の四葉ではあるけれど扱いは使用人より低いくらいだったんだから。

皆シンデレラや白雪姫はお好きでしょう?周囲にいびられ、時には殺されそうになり…つまりお兄様はプリンセスだった…?いや、今そこに引っかかってる場合じゃないね。

そんなわけで新学期から深雪ちゃん劇場第二幕の開演である。

タイトルは孤高の女王編、だろうか。

できるだけ高慢ちきに、他人とのなれ合いなど必要ないとばかりに最低限のお付き合いを心がけて。

一校の生徒は被害者であった、ということにしておいた方が、学校全体が四葉に牛耳られていた、という印象よりましだと思うから。

ただでさえ一高では、女王とその市民たち、みたいな生活楽しんでたからね。

それが蓋を開けたら悪名高い四葉に良いようにされていた、というのだから仲良くしていたなんてバレたら彼らの印象まで悪くなってしまう可能性がある。

下手したら就職に影響を及ぼすかもしれないし、進学先でも肩身の狭い思いをしたりするかもしれない。

…失敗したよね。こんなに慕われるようなことが無ければここまでしなくてもよかったと思うのだけど、彼らは四葉の情報操作によって操られた憐れな一般生徒であった方が同情を集められるだろう。

 

 

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