妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編㉓

 

 

「孤高の女王、をやるのか?深雪が?」

 

夕食にお出しした麦味噌の具だくさんの味噌汁はお兄様に好評だったようで、念のためお兄様用に炊いていたご飯も召し上がられていた。いい食べっぷりです。こちらまで嬉しくなってしまう。いっぱい食べる君が好き!ってヤツですね。

漬物とおかず味噌汁だけをお供にご飯を二杯もぺろりと平らげたお兄様に私のテンションはうなぎのぼり。

ルンルン気分で食後のコーヒーを用意してリビングに向かい、いつものように隣に……座るのが躊躇われて、少しだけ距離を空けて座ると、お兄様が切なそうな、それでいて仕方が無いと言わんばかりのほろ苦い笑みを浮かべられていて心臓が痛くなった。

…だって、あれだけのことがあっていつもの距離で座るなんて、緊張してしまうんだもの。

お兄様もそれがわかっているのか強引に引き寄せるような真似はしなかった。

そして話は、これから大変なことになるな、という話題に。

当然学校の話になるので、私の作戦を説明した。

 

「そこまでお前がする必要があるのかい?」

 

私だけが学校で孤立するように動くつもりだ、との説明にお兄様は眉を顰めた。

確かにそこまでする必要があるかと問われれば、別にここは原作通りの流れでも構わないのだと思う。アレもアレでしばらく孤立するんだけどね。

でも同じ孤立することを考えれば、先に孤立しても流れは変わらないと思うわけで。

その流れを利用して皆が平和的になる様に画策した方がお得だと思ったのだけれど、お兄様はそれがご不満のよう。

 

「水波はどうする」

「水波ちゃんは本家に仕えていることにして私直属じゃないことにすれば、彼女まで孤立せずに済むと思うのですが」

 

つんつん女王に上からの命令で従わされ振り回されている、なら同情は買えると思うんだよね。

だけど忠誠力のあがった水波ちゃんが、私から離れるかと言われるとちょっと難しそうなんだけど、ここは試練ということで納得してくれないかな。

 

「…そこまで考えて、俺には今までのように皆と普段通り過ごせと?婚約者になったというのに他人行儀に接しろと、そう言うのか?」

 

あらぁ、想定以上の嫌そうなお顔ですね。こんなに感情が読み取りやすい表情をされるなんて、意思表示がちゃんとできるようになって…、との感動も押し隠して。

 

(もうね、今自分が抱いている感情もいろいろ入り混じって大変。不満を抱かせてしまっていることへの申し訳なさと、いつも以上の我の強さにも気圧されつつ、感動もしていて…孤立なんてさせたくない、話されたくないと思ってくださっていることに喜んでしまっている自分がいるだなんて)

 

悪いと思っているのに嬉しくなってしまうだなんて、なんて身勝手なのか。そんな自分への嫌悪までプラスされているが、今はお兄様の説得に専念しなければ。

 

「四葉とわかって私を害そうとする生徒はおりませんでしょう。それに、恐らくですが学校からも忠告があるはずです。婚約者でありながら同居をしているというのは学校側としても問題になるでしょうから、節度ある行動を求められるはずです」

「兄妹としてなら許されていても、婚約者になったからには節度を持て、か?」

 

ありえるか、とお兄様も黙り込んだ。

ただの親戚ならばまだセーフだったかもしれないが、婚約者となると事情は変わってくる。

たとえ二人の間に肉体的な接触が無かろうとも、周囲がそれを勝手に想像し、風紀の乱れに繋がりかねない。学校等いう場所はそういうことには厳しいから。指摘される前に対策を。学校側はちゃんと指導をしていた、と主張しておかないと責任問題にまで発展しかねない。

それを避けるためにも忠告はされるはず。

お兄様にもその事情が分かっただろうが、…うん、なんでしょう。初めて見る表情です。むすっという言葉が聞こえてきそうな不服顔。やだ、可愛い!胸が疼くのを手で押さえながら落ち着いた口調で言葉を紡ぐ。

 

 

「あの、家では普段通りで構わないのです。学校の間だけ、我慢を強いることになるでしょうが」

「当たり前だ。プライベートまで学校に指導されたくない」

 

いえ、未成年を指導するのは学校の先生のお仕事ですよ。…それを律義に守っているかどうかは学生次第だけれど。

 

(でもこのご不満なお兄様、可愛すぎません?今すぐ手を取って慰めて差し上げたい!)

 

そうは思っても行動に移せないのは、関係性が変わってしまったから。容易に触れるわけにはいかない。

私にとっては「可愛いお兄様、好き!」でも、お兄様にとって私は『ただの妹』ではなくなってしまっているのだ。慎重に動かねば誤解を与えかねない。

我慢してこぶしを握っていると、ふぅ、とため息が。

 

「…またお前ひとりが辛い思いをするのか」

「今度は上手くやってみせますとも」

 

前回は派手に意識改革を促さなければならなかったので大立ち回りを演じることになり、途中感情的になって必要以上の事件となって人の記憶にしっかり残ってしまったけれど、今回はあの時と違う。誰も寄せ付けない冷徹な人間を演じる。感情的になることもなければそもそも人が近寄ってはこないだろう。

もし、ほのかちゃん達が気を使ってきても、その手を振り払えば、周囲も離れていくはずだ。

そこだけが心苦しいけれど、振り払わずに済むようにするために用意したのがあの手紙だ。アレで引いてくれればいいのだけれど。

 

「まさかあの時、すでにここまで想定していたとはな」

「慶春会に参加せよ、とお手紙を頂いた時には、四葉の次期当主として発表があるのだと思いましたので」

「…だったら大人しく、分家の思惑通り本家にたどり着かない方がよかったか?」

「それは無理でしょう。それでは叔母様の不興を買ってしまうことになります」

「あの人なら気にしなさそうだがな」

 

これが四葉だけの問題で、世の情勢が落ち着いていれば気にせず来年に持ち越せただろうけれど、これから荒れますからね。地盤を固める必要はあったと思いますよ。

というか、多分四葉次期当主の発表は高校卒業する前くらいにする予定だったんじゃないかな。

その方がきっと自然ではあるはずなんだけど、でも一年時に息子として認知するという記述もあったというから…今度叔母様に元の計画がどんなものだったのか聞いてみよう。

 

「…あの人と言えば、」

 

お兄様はコーヒーのカップを置くと、私の方に体を向き直り、私の持つカップを取り上げた。

 

「え、と……?」

「深雪」

 

突然の行動に困惑していると改まって名を呼ばれ自然と背筋が伸びる。

 

「いつからなんだ?」

「なにが、でしょうか」

「叔母上との関係だ」

 

Oh…その問題もありましたね。お兄様の声が低く、重いモノに変わりました。威圧ではないけれどオーラも滲んでいます。こわひ。

先ほどまでの可愛いお兄様は何処へお出かけになってしまわれたのでしょう?

 

「…真夜姉さまとお呼びすることになったのは中学生の時でした。きっかけは…なんだったでしょう。いつの間にか面白いわね、と気に入っていただけてそのような呼び名に至った形です」

「中学…そんな頃から」

 

唸り声のように呟かれて体が震える。

 

「あの、」

「ああ、すまない。お前を怖がらせたかったわけじゃないんだ。ただ、…そうか」

 

お兄様が空気を霧散されるけれど、今度は落ち込んだ雰囲気。一体どうされたのだろう。

 

「何か、ご不快にさせてしまうことがございましたでしょうか。もしそうなのであれば――」

「いや、これは俺の問題だろう。――俺が、勝手に嫉妬しているだけだから」

「しっと…嫉妬、ですか?」

 

お兄様が、嫉妬なさっている、と言う。嫉妬って、お兄様が?叔母様に⁇

ピンと来ていない私の様子に苦笑を浮かべられてそうだろうな、と頷かれた。

 

「俺も自分に驚いている。人は恋と自覚すると途端に感情が軸を失い揺れ動くんだな。以前から深雪には独占欲のようなものは感じていたんだが」

 

そうなの?そんなことありました⁇

知らない情報が多すぎて混乱している。

なにより一番の情報は、

 

「心が、感情が揺れる、のですか…お兄様が」

 

今までお兄様の感情が動くのは私が何に対してどう思い、それに対して自身が何を思ったか、という間接的なものが主だった。

私が喜ぶから嬉しい。私が悲しむから怒る。という感じで。

けれどお兄様が今話されているのはそういうことではない。

自身が何を感じているか、という自身に作用する感情だ。嫉妬、なんて、今まで自身に無頓着だったお兄様にはほとんど影響を与えない感情だったはずなのに。切り捨てて無かったことにできていた感情だったのに。

そのことに感動し、別の意味で震えが止まらない。

嬉しくて、たまらなくて――

 

「…これもまた、お前が育ててくれた心になるのか」

 

そう微笑まれてしまえば、涙で前が見えなくなって――抱き寄せられて肩に頭を押さえつけられたことで物理的にも見えなくなった。

お兄様のシャツが湿っていく。分かっているのに泣き止むことができなかった。

 

「俺は今、酷いことを言ったんだぞ。俺が嫉妬するのはお前のせいだ、と。なのに嬉しくて泣くのか?」

「…分かっていてそのように聞くのは卑怯ですよ、お兄様」

「お前の口から聞きたいんだ」

 

ああ、お兄様がどんどんずるい男になっていく。

兄妹でいるためには逃げないと、と思うのに、悪い男に引き寄せられるのは女の性だというのだろうか。顔を上げれば切なげな顔をしているお兄様から目を逸らすことができなかった。

 

「どんなものだろうと、嬉しいに決まっているではないですか。お兄様自身が何かを望むようになることを、何故喜ばないと思うのです。――恋は人を豊かにすると言います。私はずっとお兄様にその機会が巡ってくることを望んでおりました」

 

お兄様が幸せになるためには、自身が幸せを感じられるようにならねばならない。

よく幸せだ、と言ってくださるけれど、それはいつも私が幸せであるからお兄様もそう感じているだけで、自発的なものではなかった。少なくとも初めのうちはそうだったと記憶している。

自分の感情を疎かにしがちなお兄様も、いつか恋をすれば自身の感情を優先できるはずだと、そう思っていた。

友人ができた事で、友人に対し感情に揺れたあのパラサイト事件も、お兄様にとっては大きな転機だった。

優先順位を効率だけで考えず、相手のことを思って戸惑ったあの頃。お兄様の人間臭さが如実に表れ、どれほど嬉しかったことか。ここまでくればこの先があるはずだと、そう希望を抱かせてくれた。

 

「…でもまさか、それが…私に向くとは夢にも思いませんでした」

 

その恋心が私に向かうなんてとんだ計算違いである。一ミリも無いと思っていた。…もしくは無意識に考えないようにしていたのかもしれない。

あり得ない、期待をするな、と。

 

(……ん?期待?)

 

「俺としてはお前に惚れない理由が無いんだがな」

「?それは、どうして…」

「献身的に愛されて、たっぷりと愛情を貰って、返したいと思うことはおかしなことじゃないだろう?なのにお前はそれを自分ばかり貰いすぎだと遠慮する。しまいには自分ばかりに構うのは良くない、と俺から離れていこうとする。それにどれだけやきもきしたか。この俺が、恋とも知らずにいた俺が葛藤していたんだ。お前が離れてしまうのではないか、と。いずれ離れなければならないとわかっていたはずなのに、その思考を見ないふりをしてまで。

だがな、深雪。男は離れていこうとするものを追いかける習性がある。それを計算に入れなかったことがお前の敗因だ」

 

…どうやらお兄様の為と思ってやった行動が知らずのうちにずっと墓穴を掘っていたということでFA?嘘でしょう?そんなことある⁇

と言うより敗因とは。私たちはいつの間に勝負をしていたのだろうか。

お兄様の手がするりと頬を撫でる。

気が付けば顔があっという間に唇同士が触れそうな距離にまで縮まっていた。

 

「お、お兄様っ」

「好きだ、深雪」

「!!」

「お前が愛情を浸透させるように好きだと言ってくれたように、俺も浸透させるように言い続ける。

――好きだ。早く、俺のところまで堕ちてくれ」

 

かすれた声で呟かれた最後の言葉に背中がゾクゾクっと震えて腰にまで響いた。吹き込まれた耳から全身に超特急で血流が行き渡る様に駆け抜けていく。

 

(堕ちてくれ、なんて…恋をしてと言われるよりも――)

 

恐ろしいお兄様語録に慄いている間に、顔の至る所に口づけられていく。

お兄様にとって唇にしなければキスカウントにはならないらしい。

 

「お、兄様、コーヒーが冷めてしまします…」

 

視線を逸らし精一杯の抵抗を試みるも、お兄様は私から目を逸らさない。

 

「コーヒーは冷めても飲めるが、深雪は熱に浮かされてるうちでないと食べさせてもらえないだろう?」

「!!」

 

え!?ちょ、ちょっとお兄様?!?!

気付かぬうちにブラウスの首元のボタンが三つほど開けられていた。下着が見えないギリギリのラインである。

とんでもない早業。っというかそうじゃない!

 

「お、お兄様、待ってくださるはずじゃ…」

 

情けないことに口を吐いた言葉は震えていた。

声だけじゃない。体も小刻みに震えている。

それを憐れむような視線を向けつつも、微笑みながら返される。

 

「食べるというのは語弊があるな。あの日の確認作業がまだだっただろう」

 

えっ、アレの続きを今しようというのですか!?

 

「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!それは流石に――」

「むしろ今しかチャンスはない」

 

?!?!チャンスとは?

 

「確認作業が必要なことは深雪もわかっているだろう?」

 

だろう?と言われましても、私はそこまで必要なことだとは思っていないのだけれど。いえ、確認作業が、ではなくその、この行為自体がまだ、早いと言いますかですね。だって、まだ恋人にもなっていないのですよ?!

そういうのって色々育まれてからではないのでしょうかねお兄様。

 

「確かにお前の気持ちを待ってやりたい気持ちもある」

「!」

 

(お兄様…っ!)

 

しかし微かな希望はすぐに打ち消される。

 

「だがな、四葉での仕事が終わったら水波が帰ってくるだろう。そうなると、深雪。お前は水波と一つ屋根の下でそういった行為に及ぶことができるのか?」

「!!」

 

そ、それはっ…無理、かも。って言うか無理だ!恥ずかしい!だって、お風呂出た後見られるんだよ?バレないわけがない!!…いや、お兄様が痕を付けなければ…、いや無理だ!とにかく無理無理!!

首を振って意を表すとお兄様はもっともらしく頷いて。

 

「深雪の気持ちはわかる。俺も水波と気まずくはなりたくないしな」

 

そう言って手を頬から滑らせて鎖骨を指でなぞる。途端びりびりと電気が流れるような衝撃に身を震わせたのを、抑え込むように肩ごと抱き寄せられて。

 

「もう一度、一から検証しよう」

 

 

 

――逃げられない。

お兄様の瞳を見つめてしまったら動かなくなった体に、私はこの後の運命を悟った。

 

 

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