妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編㉖

 

 

着替えを済ませてダイニングに向かうとお兄様がパンとサラダとスープを机に並べているところだった。

簡単な、一般的家庭の朝食。

 

「ありがとうございます」

「ただ並べているだけだがな」

 

それだけだって十分有難い。自然に家事手伝いができる男性ってそういませんからね。

一度男女平等と謳われた世界は戦争を経て一世代前に戻った。男尊女卑は表向き絶滅危惧種のようだけど完全には無くなってはないし、そもそも魔法師が遺伝子を継いで能力を引き継ぐものである時点で女性はどうあっても子を産む責務が発生する。

良い遺伝子同士を掛け合わせることを考えれば、女は優秀な子を産むため、と時代錯誤の価値観が根強く残る。どうあっても意識を変えることは難しい。

それに世間でもいざ戦争ともなれば女性は戦力よりも家を守るという意識が強くなる。

そういうわけもあっていくらHARの普及で家事の仕事が楽になろうとも専業主婦という言葉は無くならないし、家を守るのは女性の役割という認識はさして変わっていなかった。

だから一人暮らしでもないのにお兄様のように自然と家のことをしてくれるのは男性としては珍しい部類なのだ。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

シンプル朝食は久しぶりで、だからか美味しく感じられた。素朴な味だが単純だからこそ出る味もある。

 

「これからの予定だが」

 

食べ終わってコーヒーくらいは自分で入れたいという我儘を通させてもらって、そのままダイニングで向かい合いながらコーヒーを味わいつつ、これからのことを話し合う。

 

「明日の夕方には水波が帰ってくるだろう。その前に師匠のところに顔を出しておきたい。…今後通えなくなるかもしれないが、けじめはつけないとな」

 

中立の立場の先生からの破門を覚悟している、と淡々と口にしているけれど、コーヒーの苦み以外の理由で口元が歪んでいるように思えた。誤魔化そうともたとえ一ミリでも深雪ちゃんの目は誤魔化されませんよ。

四葉とはとっくの昔にバレていたけれど、当主の息子として公表され、次期当主の婚約者ともなれば、その柵は以前とは比べ物にならない。関わりを断絶されてもおかしくはない、とお兄様は危惧して言っているのだ。

 

「そうなれば、寂しくなりますね」

「トレーニング自体は、今後の引っ越し先次第だな」

 

もしも先生の所を破門になったなら、という先を見据えて話すお兄様。

引っ越し先というのは、まだ場所は教えられていないが、早いうちにこの家から引っ越してもらう予定だとお茶会の席で話があった。

ここが、九重寺の縄張りとはいえ一般住宅街ですからね。

四葉と知られればどんな危険が襲ってくるかがわからない。周囲に迷惑をかけるわけにもいかなかった。

 

「それから、水波が帰ってきたら軍部にも挨拶に行かなければならないから、次の日を予定している」

 

既に両方に連絡をしているらしかった。一体いつの間に。お兄様は本当に仕事が早い。

 

「FLTにも挨拶に行く予定だが、こちらは俺一人で行ってくる」

 

あら、バイクには乗らせてもらえない模様。こちらもお留守番だって。

 

「バイクはまた今度だな」

 

…心を読まれました。恥ずかしくて俯くと、またも甘い声で可愛いと言われてしまう。

…以前との違いはこの甘さの濃度かな。以前よりもマシマシで、耳元で囁かれているわけでもないのに頬が赤く染まる。

 

「恋とは恐ろしいな。歯止めがこんなにも利きづらいものだと思わなかった。人はよくこんなものを制御できているものだ」

 

自覚した途端、こんなにもコントロールが難しいとお兄様は言うけれど、お兄様の傍に一人暴走乙女がいたと思うのですけれど。

そう思い浮かべるとお兄様も思い至ったのか眉が下がる。

 

「俺は酷いことをしていたんだな。もっとはっきり断るべきだった」

 

…それは…どうなんだろう。お兄様は序盤からすでにはっきりと断っていたはずだ。恋はできない、と。

あの時の回答は感情が他者に向かないお兄様の本音だった。あの頃より成長し、心情に変化のあったお兄様でもまだ強い感情は向けられないだろう。割り切れてしまう範囲内に収まっているはずだ。

それでもいい、と恋をし続けアプローチすると決めて実行したのは彼女自身。

 

「私の友人という時点でお兄様には突き放すことは難しかったでしょう。ですからこの責任は私にあります」

「深雪」

 

それは違う、と口を開こうとするお兄様を制して続ける。

 

「それに、彼女は覚悟をしていたはず。お兄様が靡いていなかった時点でその可能性が過らないわけがない。そのことに目を背け続けたのは彼女自身であり、わずかな可能性に縋ったのも彼女。お兄様が突き放さないことを計算に入れつつ距離を置かなかったのも彼女自身なのです。そのことが罪だとは思いませんが、責任は彼女にもあります」

 

断言してから気づいた。

形は違えど、これは一種の独占欲――嫉妬だ。

 

「…お兄様に責任などあってはならないのです」

「深雪……?」

「知りませんでした。…私、自分で思っていたより狭量だったみたい…」

 

ほのかちゃんのことでお兄様が責任を感じることを認めたくないのだ。

お兄様の心がどんな理由であれ、ほのかちゃんに傾くことが面白くないのだと。

この独り言に、お兄様はどういうことかと視線でお訊ねになるけれど、言えなかった。至った結論に私もまだ戸惑っているのだ。

曖昧に微笑んでから、話題をずらす。

 

「学校ではお兄様もお辛い立場になるでしょうが、」

「それはお前の方だろう。…今からでも作戦を変更しないのか」

「もう賽は振られました。あとはなるようになるだけです」

 

手紙を渡した時点で、彼女たちとの決別の流れはできていた。あとはどう転ぶかだが、できるだけ皆の不利にならないようにはしたいところ。

 

「もし私が辛そうでしたら、お兄様が慰めてくださいませ」

 

暗くなりそうな空気を飛ばそうと冗談を言ったのだけれど、お兄様が予想外だとばかりに目を見開いた。

え、そんなに驚くようなこと言いました?

私もつられて目をぱちぱち。

しばらく無言が流れたうち、お兄様が目をしっかりと閉じてから。

 

「そうだな。俺はお前のサポートに徹しよう」

「ありがとう、ございます」

 

お兄様の微笑みにおかしなところはない。

なのになぜだろう、この墓穴を掘った感は。言い知れぬ不安が過るが理由もわからず口にするのは難しい。

今後の方針も決まったことで、この後はいつも通り自室で過ごすことになった。

物理的に距離を離すことに慣れないと、ですって。

…元から家の中でもずっと一緒ではなく離れて個別に過ごしていたはずなのに、意識しだすと離れがたいとは…。恋とは恐ろしいものですね。

ということでお兄様は地下の研究室に。

お兄様も四葉での発表で魔法を実際に対象に向けて行使したことで修正点が見つかりでもしたかな。

休暇だと言ったのにさっそくお仕事。

まあ、お仕事と言っても一応プライベートな研究だからお兄様にとっては休暇同然なのかもしれないけれど。やる気があるのを邪魔するのは良くないから。

私も自室に戻って久しぶりのぬいの制作に。

しばらくぬいに触れることもできなかったので、まずは机に並べて愛でるところから始めましょうかね。

 

 

――

 

 

ぴぴっとアラームの音で顔を上げると時刻はお昼。時間が過ぎるのはあっという間。

朝はお兄様が用意をしてくださったので、お昼は私の番。とはいえHARを使うようにとの指示があったのでこれも並べるだけなんだけどね。偶にはこういうのもいいでしょう。これが普通の家での当たり前らしい。なんだか不思議な感じ。

エプロンも付けずに食事を並べるのも違和感を覚えつつ、準備が整ったところでお兄様を呼びに行く。

お兄様は地下にいらっしゃったはずなので階段を下りるのだけれど、ノックをするよりも早く扉が開いてお兄様の腕の中に閉じ込められる。

……今、何が起きました?

 

「来るのがわかってからじっと待つのがな」

 

扉を開ける時間を待つことが耐えられなかった、らしい。

あれ?お兄様も犬属性お持ちでしたか⁇ご主人が待ちきれなくてドアの前でスタンバってました?

でも待って。首に顔を埋めて深呼吸しないで、その流れて首筋を舐めないでください!ストップ、ステイですお兄様。

 

「…すまん」

 

素直に謝られるお兄様だけど…やだ、今の一連の流れ、無意識の行動だったの?…衝動が止まらないね。

お兄様にとっても問題行動だと判断されたのか頭抱えちゃった。

 

「…恐らく人がいれば大丈夫だと思うんだが」

 

つまり、抑止力が無ければ本能のまま動いちゃうってこと?それはまずい。何がどうまずいかって私がまずいことになる未来しか見えない。

 

「…必ず制御するからもう少し時間をくれ」

 

お兄様にとってここまで大きな感情の動きは怒りしかなかったから扱い方が掴めず持て余してしまっているのかもしれない。

こればかりはお兄様にしかわからない話だ。せいぜいできるのは応援くらい。頑張ってお兄様!私の為にもぜひ!!

 

「お昼のご用意ができましたので一息入れましょう」

 

とりあえずお昼を食べてから考えましょう。手を伸ばすと、お兄様はその手を取って――

ってこれまた不穏な気配を察知!ストップですお兄様。

 

「指を絡ませずにそのままで。まずは距離感を取り戻しましょう」

「…わかった」

 

この場合取り戻すのは一般的な兄妹の感覚です。いくら『他所ウチ』と言っても普通の感覚は知っておいた方が良い。今が教育の時です!

今までの失敗を取り返せるかもしれない。私は密かに作戦を実行に移した。

 

 

 

 

午後も互い自分のやりたいことに没頭し、夕飯を食べ、お風呂に先に入ってから勉強後のコーヒーブレイク。

久しぶりに深夜に近い時間にリビングでコーヒーを嗜む。

水波ちゃんが来てからはこの時間にこうしてリビングに下りてくることも滅多になくなりましたからね。

横並びで、コーヒーを味わう。ぴったりくっついてはいない。ちゃんと距離を空けて座った。

 

「研究の方は順調ですか」

「研究と言うより誤差の調整だな。まだ確認はできていないが問題なく調整できたはずだ」

 

やっぱり正月にお披露目した魔法の調整を行っていたらしい。あとは腕輪型のCADの使い勝手も気にしていたからそちらもいじっていたのだろうな。

 

「深雪の方は?ゆっくり休めたかい?」

「ええ。くつろがせてもらいました」

 

ぬいのお洋服は一着も作れてはいないけれど、今日はデザインだけに集中してましたからね。あと生地の注文。

明後日指定にしたのでお兄様がいない間に受け取る予定。

 

「それはよかった」

 

お兄様の手が私を撫でようとして不自然に止まる。

 

「…頭を撫でるくらい、大丈夫ですよ」

 

触れることが全ていけないことのように思い始めているかもしれないが、撫でることとハグまでなら兄妹でも不自然なことではないと思っている。

恐るおそる手を伸ばしてぎこちなく撫でる手は、ふと懐かしさを覚える手つきで。

 

「ふふ、初めて撫でてもらった時を思い出しますね」

「…あの時も、俺なんかがこんなに綺麗な女の子の頭を撫でてもいいのだろうかと戸惑ったな」

「お兄様だから、撫でて欲しかったのですよ」

 

俺なんかではない、と言えばお兄様は苦笑してそうか、とさらっと頭を撫でて離れていった。

 

「俺が触れることで深雪が傷つくことが怖かったんだ」

 

あんなトラウマを植え付けられた直後では、確かに恐ろしく感じたことだろう。

あの頃のお兄様は自分が兵器だと、そう徹するべきだと考えていたから。

お兄様に傷つけられるなら本望、なんて深雪ちゃん的思考が浮かぶが、それも間違ってはいないけど――。

 

「私を簡単に傷つけられると思わないでください。これでも結構強くなったのですから」

 

私だっていつまでもお兄様に守られっぱなしではいられない。お兄様が傷つけることが怖いというのなら傷つかないくらい強くなればいい。

結局のところ、深雪ちゃんに生まれ変わろうとも脳筋的思考は変わらないらしい。…あ、でも深雪ちゃん自身お得意なのはパワープレイでしたからね。それがいい具合にマッチしたのか。

 

「結構どころか、他を寄せ付けない強さを身に付けたがな。それでも心配なんだよ――俺はお前の兄貴なんだから」

 

柔らかく、お兄様が微笑まれる。

 

(…もう、大丈夫だ)

 

いつものお兄様に戻った、はず。

お兄様も感覚を掴めたのか手を握っては開いてを二度ほど繰り返してから苦笑して謝罪を口にされた。

 

「すまない。感覚を取り戻すのに手間取った」

 

うん、まあ『兄』の感覚を取り戻すってことはよくわからないけれど、お兄様の中で『兄の規格』のようなものがあるのだろう。

何はともあれ取り戻せたようで何よりです。

 

「それはよろしゅうございました。これで水波ちゃんを驚かせるようなことにはならないですね」

「驚かすというか、怒られる、のような気がするが」

「怒る、ですか?水波ちゃんが?」

 

ああ、でも確かにお兄様がちょっかいかけようとするたびに叱ってたっけね。

何だかあの日々が遠い昔のように感じられた。

婚約者の発表されたのって一昨日のことなのに。それだけ衝撃があったということかな。

それからしばらく他愛ない話をして、時折無言の時も楽しみながらあっという間にカップの中身は空になる。

 

「カップは俺が片しておこう」

「え、でも今日はHARに任せるんじゃ…」

「俺が送り狼になったら困るだろう」

「!!」

 

つまり時間を空けてから戻るということで。

…お兄様の感覚を取り戻しても、ひょっこりと出てきてしまうらしい。

 

「で、では、お先に失礼します」

「ああ」

「おやすみなさいませ、お兄様」

「おやすみ」

 

少しぎくしゃくしながらお休みの挨拶をして別れた。

完全に元の状態に戻るには、まだ時間が必要のようです。

……戻るよね?

 

 

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