妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編㉗

 

次の日の朝、いつもの時間に起床。

お兄様は朝から先生のもとに行くわけではないが走りに行くというのでドリンクを用意。

 

「おはよう」

「おはようございます、お兄様」

 

お兄様の様子にもどこもおかしなところはない。ドリンクを受け取りに近づいて――

 

「あれから考えたんだが、過度な触れ合いについて控えるのは分からなくもないが、おはようとおやすみのキスくらいはいいのではないだろうか」

 

真剣な表情で妙な提案をしてきた。

だけどお兄様、どうやら冷静になってきちんと考えて導き出した答えらしい。

疲労しておかしくなったわけではなさそうだ。

過度な触れ合いを控えるというのは、水波ちゃんとの同居生活において、現状維持をするために必要なことだと判断されたのだろう。だた、続けられた言葉の意味は恐らく――

 

「それは時々あった頬にするものではなく…?」

 

こくり、と頷く。つまりはそういうことらしい。

 

(…まあ、キスくらいなら大丈夫かな)

 

目が泳ぐけれど、こちらも了承するように頷いて答えると、お兄様は私が持っていたグラスを机に除けて抱きしめると頬に手を添えて唇を重ねる。

押し当てるだけのそれに、お兄様の葛藤を感じつつ惜しむように離れていく様子に思わずくすりと笑ってしまいそうになるのを何とか堪えた。

 

「何事も修行ですよ、お兄様」

 

訳知り顔で言えば、お兄様も苦笑で応えて。

 

「最も厳しい修行になりそうだ」

 

耐えるのは慣れていると思っていたんだがな、と大げさに肩を落としつつ、グラスを手に取って呷ってから出ていかれた。

お見送りを済ませてからいつもの柔軟をしてからお母様のお花を選定。クリスマスローズが二輪だけ花を咲かせていたのでそちらをぱちん、と。

今日は可愛らしい小瓶を花瓶に見立てて供えた。

 

「お母様、今日はたくさんご報告したいことがございます」

 

(私、願いを叶えたのですよ――)

 

いつもより長く語り掛けること30分。お兄様が戻られるまで続いた。

お出迎えすると、いつものハグの流れで頬にキスをされる。

これはセーフだろう、と語り掛ける目に、堪えきれずに笑って了承の旨を伝え、もう一度、今度は額に一つ。

お兄様の健気な姿にきゅんとするけれど、お兄様が堪えているのに私が手出しするわけにもいかない。

 

「さ、朝食の準備をいたしますのでシャワーを浴びてきてくださいませ」

 

今日は白米をご用意しました、と言えば嬉しそうに笑ってお風呂に向かわれた。

 

 

 

 

午後、お昼を食べてから家を出た。

お兄様はスーツ、私は振り袖。

 

「…お兄様、素敵です…」

「美しいな。出かけないでこのまま共に過ごしたいほどに」

 

二人して互いの姿に見蕩れて動けずにいたのは一体どれくらいの時間だったのだろう。

私はお兄様に見蕩れて。

お兄様は私に触れぬよう葛藤して。

時間がかなり経っていたことに二人してはっと気づいたタイミングが揃ったことに噴出した。

 

「私たちは似た者兄妹ですね」

「世の中には似たもの夫婦という言葉もあるらしいぞ」

「それは…まだ夫婦ではございませんので」

「そうだったな。そもそも婚約者というだけであって、今は深雪に恋をしてもらうためにアプローチの許可をもらったばかりだった」

 

……そんなこと、ありましたね。すっかり忘れてました。

でも距離を保つにはいい口実かもしれない。長い時間焦らすつもりはないけれど。婚約と結婚する未来はほぼ確定しているように思う。

 

「もうしばらくお待ちください。私も心の準備をしております」

「待つと言って手を出したのは俺だ。今度は絶対に待つから」

 

それは、もうすでに私の心がお兄様にあるとわかっているからの余裕なのか、身体でのつながりもできた事で心に余裕が生まれたのかわからないが、お兄様は待ってくれると言う。

 

(…でも、あまりお兄様をお待たせしすぎて辛い思いをさせるのは良くない、よね)

 

この先のことを思うとどう動くのが最善か、何をすべきかと考えることが山積みだ。

私の気持ち含め、すぐに返答できることではないが、いつまでも待たせるわけにもいかない。

 

「さ、もう行こう。――手を」

 

お兄様の手に重ねて家を出る。

今日はこのような恰好なので自家用ロボットカーで。

到着してすぐに先生のもとへと案内されると思ったが、どうやら突然の来客があってしばらく相手はできないとのこと。――…これ、偶然じゃないんだろうな。ついでかもしれないがお兄様を一目見に来たのだと私の直感が言っている。

会話などは一切ないはずだが、一種の繋ぎみたいなものなのかもしれない。

お兄様は長くなるようなら一旦戻るかとも考えたようだが、お兄様もよく知る八雲先生の高弟が必死に引き留めているので、先の予感が正しいと示しているようにも思えた。つまり、邂逅を狙っている、と。

閣下の時とは違い、ここで会っておくことは今後の流れのためにも必要であるので、ここはおとなしく待つことにしましょう。

待つことは苦手じゃない。お兄様が傍に居れば苦にもならないどころか真逆。幸せである。

じっくりとスーツ姿のお兄様を眺める。去年の和装も大層お似合いだったけれどスーツ姿もまた、たまらない。

格好いい。いつの間に新調なさったのだろう。お兄様背も少し伸びたはずなのにぴったりサイズ。

 

「深雪の目は相変わらずおしゃべりだね。そんなにこの恰好が気になるかい」

「も、申し訳ございません!」

「いいよ、俺もその分深雪の艶やかな恰好を堪能させてもらっているからね」

 

その言葉にパッと顔に熱が集まり俯いてしまう。

そんなやり取りをしていたら三十分なんてあっという間に過ぎていくもので。

呼びに来たお弟子さんの後に続いて、僧坊から本堂へ向かう庭に下りたところで異様な気配を漂わせる人物が視界に入る。

お兄様も気づいたようだけれど、私はそっと視線を外し、身体が震えださないよう心を叱咤する。

…九島閣下がぬらりひょんならこの人は何だろう?もっと恐ろしいものに感じる。――それこそ存在するだけで人を畏れさせる、日本古来の神のよう。

この世界の、ではなく、自然界の神。人々の畏れの具現化。

あの人が神だというのなら、先生は天狗だろうか。神でありながら人を導く。

風間さんも天狗と呼ばれているけれど、あちらの本質は神よりも人が修行して昇格したような――ってこんな妄想している場合ではなかった。

本堂に着き、先生はいつものように飄々とした表情で私たちを出迎えてくださった。

お兄様が新年の挨拶をしたので続いて頭を下げる。

先生は当然のように私たちの事情に関する情報を耳に入れられていて、そのことに感心した声を上げれば、先生は笑って答えた。

曰く、情報はかなりのスピードで回っているのだと。

これに対し、お兄様は驚きの声を上げるものの、その声に苦いものは混じっていない。

お兄様にとってこのニュースは、四葉であることを大々的に発表されたことによる、狙われる可能性が上がるくらいの情報であり(それも大概なのだけど)、警戒レベルを変更する必要があるな、という類のものなのでお仕事モードの方が強く出るようだ。

先生は驚くこと自体面白おかしいとばかりに、だって四葉だもの、と。

このビッグニュースが世間を(と言っても魔法師界のみではあるのだが)賑わせるには十分だと言う。

そうだねー。あの、四葉がプライベートな報告をするなんて、驚くのも無理はない。子供が生まれたことも秘匿していたわけだから何十年ぶりの報告だったのだろう。

 

「それに、もうすぐ師族会議もある。今年は四年に一度の選定もあることだし」

 

十師族関連の話題で内緒にする方が無理だ、との言葉に、お兄様がため息を漏らす。

お兄様にとって自身が目立つようなことが起こるなんて思ってもみなかったことだろうから。

 

「それにしても君と深雪くんが兄妹ではなく従兄妹同士で、婚約とはね」

 

すっかり騙されたよ、とニヤニヤ顔だけれど、うん。これ、先生が真実を知らないとは思えないよね。…だって先生、霊視ができるのであれば、繋がりも見えてそうだものね。

霊視ってロマンしか溢れてない。万能だと思ってるから。

 

「それで、何処までが本当なんだい?」

 

ほらあ!見て、先生のにやにや顔!もう嘘がバレてる気しかしない。

お兄様は平然と、そう聞いているとお返しになっているけれど、これもすごい胆力。カッコイイですお兄様、流石!

それからちょっとした応酬があり、お兄様に冷たい視線が向けられるけれど、それを平然と受け、礼をもってして返答するお兄様に、先生は気を弛めた。

初めから糾弾するつもりも真実を探るつもりも先生には無かったのだ。

重要なお話はこれでおしまい、とこの後は世間話に入る――はずだったのだけど。

 

「それで、達也くんは想いを成就させたわけだ。まだ婚約ではあるけれど」

 

その言葉に先ほどまで動揺なんて見せなかったお兄様がわずかに身じろぎをした。

 

「…どういう意味です?」

「どうって、何が?」

「その、俺の想いと言うのは」

「まさかとは思うけど、バレてないとでも思っていたのかい?あんなあからさまだったのに?」

 

むしろ隠す気あったの?と続けられた先生のお言葉にお兄様はついに固まった。

それを見た先生も、まさか本気?と薄っすら目を見開く。

…先生を驚かせることができるなんて、流石ですお兄様。褒めたところで不本意でしょうけど。

 

「先生はお気づきだったのですか?」

 

それは暗に私も知らなかったと告白するようなものであったが、今度はこちらに向けて驚きの表情は無かった。

 

「まあ、深雪くんは気付いてなさそうだと思っていたけれど、まさか達也くんが…ねぇ。あんなに牽制してたじゃないか」

 

思っても見なかった発言に呆然としていたお兄様(妹視点)だったがすぐに持ち直してキリッとお答えになる。

 

「あれは、兄として当然のことです」

 

しかしそれはあっけなく打ち返された。

 

「普通兄は嫉妬を向けないよ」

「…しっと…」

「それも自覚していなかったのかい?本当に?」

 

うっそだぁ、と先生。ちょっとキャラが崩れかけてますよ。

そこから防戦一方。先生のそんなわけないでしょ攻撃にお兄様はひたすらに沈黙で耐えていた。

ひとしきり笑われて、落ち着いた先生はそれ以上はいじることなくちょっとした世間話に移行し、(多分この時まだ表面上しか落ち着いていなかったんだろうな)2,30分他愛ないお話をしてからお見送りしてくれることになったのだけれど、

 

「明日から少し厳しく指導してあげるからそのつもりで」

 

――この落差だよね。先生にしてやられました。

これからも変わらずに付き合ってくれるという先生の言葉に、お兄様は頭を下げ、私は涙ぐんで先生にお礼を言って寺を後にした。

 

 

 

 

車内で、指で涙を拭われて、お兄様も先ほどの指摘を受けて自重を覚えたのかな、と思ったがその後濡れた指を舐めていたのでそういうことを自然にやっちゃうとこだぞ!と心の中でツッコんだ。

お兄様は自分の行動が普通じゃないことを理解されていない。

普通一般の常識をお兄様に教えて下さる講師の方、募集しています。

 

 

――

 

 

夕方、水波ちゃんが帰って来た!

玄関でお出迎えし、熱烈ハグ!

 

「み、深雪様」

「おかえりなさい、水波ちゃん!」

「…ただいま戻りました」

 

その様子をお兄様が遠くで腕を組んで壁に寄りかかりながら見守っていた。…お兄様、まさか後方彼氏面って知って――るわけがないよね。でも構図が正にそれだった。水波ちゃんもそれを見て微妙な表情。

 

「今日はまだお休みなんだから、お夕飯は作らせてね。お風呂だって手伝っちゃダメよ」

「う…仰せの通りに」

 

料理はまだしもお手伝いはしたかったみたいだけど残念!させませんよ。今日は一日お休みなんだから!

水波ちゃんは諦めたように肩を落とした。

 

 

 

 

一日の終わりに、部屋にノック音が響く。お兄様だ。

どうぞ、と声を掛けてもドアは動かない。どうしたのだろう、と開けるとお兄様が苦笑をして立っていた。

 

「どうか、なさったのですか?」

 

とりあえず中へ、と促すけれど、首を振られた。

 

「寝る前の挨拶に来たんだ」

 

もう眠る頃だったろう?とのことだけど……わざわざキスをしに来てくださったらしい。しない選択肢?ないそうです。

 

「部屋に入ったら、歯止めが利かなかった時、お前が逃げられないだろう」

 

…私のためでした。お気遣いありがとうございます。

遠慮がちにお兄様に近づいてお兄様の胸に手を添えて、腕を回され抱きしめられる。

音もなく重ねられた口付けは、一度角度を変えられてから名残を惜しむように離れていった。

 

「…おやすみ、深雪」

 

その声に未練が滲んでいるが、今度は今朝のように笑うこともできなかった。私も、もう少しだけ余韻に浸っていたかった。そう思ってしまったから。

 

「おやすみなさいませ、お兄様」

 

扉が閉まりきるまで、二人の視線が途切れることはなかった。

閉まった後もそこから動けず、唇を指でなぞる。

 

(…これじゃ、すぐに陥落しちゃう)

 

あがる熱に、自分も女子高生だったんだなぁ、と改めて実感させられた。

今夜は眠るのにしばらく時間を要した。

 

 

 

 

あくる日、お兄様は予定通り国防軍の基地に向かわれた。

今日のスーツ姿のお兄様もとても素敵だった…。

今度のぬいの衣装はスーツにしよう。

水波ちゃんが張り切って家事をしている間、私は自室に籠り届いたばかりに生地に触れた。

 

 

 

お兄様が帰宅し、30秒のハグのあと頬と額にキスをすることが流れとして決まったようだった。

今日からは通常通り水波ちゃんが食事を担当することになった。新年一発目と言うこともあって、気合の入った和食だった。とっても美味しかった。腕を上げたね水波ちゃん!

 

 

 

そして水波ちゃんが下がっての食後のコーヒーの時間、なのだけど、お兄様がソファで項垂れていた。

こんな姿は初めてだ。一体どうされたというのか。

 

「…どうかなさったのですか?何か軍の方で言われたのですか?」

「……風間さんからも言われた」

「何をです?」

 

風間さんから、とは?首を傾げると、深雪は可愛いなぁ、とこのところ口癖となりかけている言葉を口にしてから。

 

「『――まあ、よかったんじゃないか。お前の望みが叶った形になったわけだから――』。そう言われた」

「…はい?」

「俺も初め意味が解らなかった。だから訊ね返したら、返って来たのは師匠と同じ言葉で」

 

――お前、まさかバレていないとでも思っていたのか?あんなにあからさまだったのに?――

 

「…俺はそんなに態度に出ていたか?」

「…さあ。そもそも私は気付いてもおりませんでしたので、なんとも…」

 

そうだったな。お兄様はそう言って深くソファに沈んでいった。

 

 

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