妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
ついに来た、始業式の日。
私たちは呼び出しに逆らうことなく30分前に登校した。水波ちゃんは私たちに付き合う形だ。
話は原作通り、事情聴取が主だった。
ここでも百山校長は思うところがあったようだけれど、形式上いくら疑わしくとも証拠がないので暴きようがない、ということで不問にしてくださるらしい。
そして、責任なき者に罰を与えることは教育者としてあってはならないと宣言してくださった。教育者の鏡である。
そうだね、子供にこんな偽造できるはずが無い。父親はこの件を命懸けでしらばっくれるだろうしね。四葉の命令には逆らえません。白と当主が言えば黒いカラスも白くなるのだから。
最後にやっぱり付け加えられる節度を守るようにとの言葉に私たちは重々承知していると頭を下げた。
「…深雪」
「大丈夫です、お兄様――私は四葉家次期当主、司波深雪なのですから」
後半に雰囲気をガラッと変えて。視線も声も温度を下げて。九校戦の女王よりも正月に見た母の冷え切った視線を思い出しながら。
「それでは達也様、私はこれで失礼します」
お兄様に対しても、当主の息子に対する礼儀を重んじる態度を見せる。
「お前がその気なら、俺は応援するよ」
温かい声が掛けられて、一層頑張ろうと気合が入る。
お兄様と別れてA組へ。少し早い時間だが、すでに来ている生徒が数名。
「おはようございます」
いつもなら笑顔でおはよう、と言うところを淑女の仮面をつけた状態に敬語で挨拶。
この時点で教室の空気は外気より下がった。
気まずい空気が漂ったが私は素知らぬ顔で席に着くと、端末にこの場所であっても作業ができる生徒会資料を呼び出し、それを処理しながら時間を潰した。
種類は違えど、こういった注目される視線には慣れている。
ひとしきり無視して作業を続けていると、シャットアウトしていた空気に変化が。ひときわざわついた気配に雫ちゃん達が入ってきたことを悟る。
「おはよう」
「…おはよう」
二人のクラス全体への挨拶に、私はほかのクラスメイトにしたのと同様に「おはようございます」と他人行儀に返すと、大半のクラスメイトが緊張したように肩を揺らした。
ほのかちゃんは大げさに体をびくつかせて、雫ちゃんは無反応。それぞれの席に着く。
皆、恐れている様に声を潜め、触れてはいけないとばかりに別の話題をしていた。
ゴメンねぇ。空気を悪くさせちゃって。
この後恐らくいつも通り先生に用事を頼まれるかして席を中座するだろうから、それまでの我慢してほしい。すぐに邪魔者は退散するから。
(…おかしいなぁ。前世は空気に徹することが得意だったのだけど。深雪ちゃんに生まれ変わった時点で不可能なスキルになっていた。無念だ)
――
予想通り、というか案の定書類を探すように頼まれた。新学期って高確率でこのサブイベント発生するよね。「ちょっと書類を探してきてくれ 3」みたいなお使いクエスト。
授業中、席を立ったことで周囲の子たちがびくぅ!と体を跳ねらせた。驚かせちゃったね、ごめんね、と心の中で謝罪しつつ、表向きは素知らぬ顔で教室を後にした。
廊下を歩き出した後方で、クラスがざわめく気配がした。怖かったって話と今後の方針でも話し合うのかな。私は態度を変えないつもりだから頼んだよ~。
で、肝心の書類探しなのだけど。
(なんで、名簿が、備品管理のところにあるの!)
何度探しても見つからないと思ってたら、まさかのその名簿だけ変なところに入り込んでいた。
おかげで結構な時間がかかってしまい、教室に戻る頃にはお昼になっていた。
すでにほのかちゃん達はいない。原作通りだと生徒会室に避難していたはずだけど、たぶん、ここでもそうなんじゃないかな。
静まる教室の中、滅多に持たないバッグを持って堂々とした態度のままその場を後にする。
廊下を歩いても視線が凄い。お兄様がよく私の視線がおしゃべりって言うけど本当だね。皆から声はしないのに怯えつつも気になってしょうがないみたいな視線が。目を離せない、何をされるかわからない恐怖。
だからけしてこちらから目を向けてはならない。目が合ったらきっと石化しちゃうだろうから。
後を付けようとする生徒はいなかったのは幸いだった。
屋上に行くと、当然だけれど誰もいない。
それはそうだ。普通ならこんな寒々しい屋上なんて来ない。誰も気温一桁の時に外でなんてご飯食べたくないからね。
しばらく冷えた空気を味わってから魔法で冷気を遠ざけてベンチに座った。
空を見上げれば冬らしく青みの少ない薄い色をした空色で。
寒々しいと思う人もいるだろうけれど、淡い色の冬の空が好きだった。
しばらく見上げていたら、唯一の扉が開く音がした。お兄様が真直ぐとこちらに歩いてくる。
立ち上がって一礼すると、お兄様は苦笑をして。
「流石にこんなところに来る人間はいないよ」
だから演技をする必要なはい、と言う。視線さえ向けられていないと言外に言っていることが分かったので、素直にお兄様の要望に応じた。
「…正直、こちらには来られないのではないかと思っておりました」
手紙にはお兄様を怖がる必要は無い、と書いておいたから今日もいつも通り食堂での昼食を過ごされる可能性があるのでは、と思っていたけど、それだけでは原作は捻じ曲げられなかったということか。
お弁当は用意していたので問題ないのだけれどね。
「どうぞ」
座るお兄様にお弁当を差し出す。お兄様の姿が見えた瞬間、すでに温めておいた。
当然お兄様の周囲からも冷気を除くことを忘れない。
「ありがとう。美味そうだ。いただきます」
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
こうやってちゃんと言ってくれるお兄様、素敵です。
確か原作では俺が来なかったらどうするつもりだったんだ、とか前もって伝えてくれ、とか思っていたらしいけれど、この微笑みの下も、そんなことを考えているのだろうか…?
あれだってもちろん文句が言いたかったわけではなく、せっかく用意してくれた深雪ちゃんのお弁当が無駄になってしまったら、という心配があったからだったんだろうけど。
なんとなくだけど、このお兄様はそのことを考えていないように思う。じゃあ何を、と言われると困ってしまうのだけど。じっと私の方を見て美味そう、と口にされた時、お兄様は何をお考えだったのだろうね。
でもこうして作ったお弁当にちゃんといただきますしてくれるのは嬉しくなる。
こんな素敵なお兄様が、その…このまま順当にいけば私の旦那様になるの?私前世で徳詰み過ぎじゃない⁇もしや記憶がないけれどここに至るまでにもう一個人生挟んでるのかな。その時に命懸けで世界でも救いました?
それくらいじゃないと釣り合いが取れない気がする。というか取れない。お兄様とっても素敵だもの。
「深雪は一体何を考えているのかな」
「!いいえ、あの…」
「赤くなった理由を知りたいな」
お兄様が物理的に距離を縮めてくる。
「お、お兄様、ここは学校です!」
「だから触れないよう我慢しているだろう?」
我慢しているから教えてくれてもいいだろう、という副音声が聞こえた。
…うう、お兄様がどんどんずるい人になっていく…そういうところも好きぃ…。
「お兄様のように、素敵な方のお嫁さんになれるのかと思ったら、その…こんなに幸せになっていいのかと…」
思ってました、と言って顔を覆った。
耐えられなかった。羞恥で熱くてたまらない。
そうしてしばらくプルプルしていたのだけど、お兄様の反応がない。あれ?どうしたのだろう。ちらりと指の隙間から盗み見をしたら、お兄様がお弁当箱を脇に退かして膝の上でゲンドウポーズをなさっていた。
「お兄様…?」
「今、俺は修行中だから待ってくれ」
あ、はい。
(…修行?)
何の?と思ったけれど今お兄様が修行をしていると言ったら先生のところの訓練か、衝動に耐える修行のどちらかしかない。
この場合は後者しかないわけで。
さっきも触れないように我慢しているって言ってたからその限界が来た?
「あの、先ほどお兄様がおっしゃっていました。こんなところに人は来ないのであれば、その…少しくらいよろしいのではないでしょうか?」
「――深雪、自分の身体を大切にしなさい」
え、はい。
(…それはいつも私が言っている言葉ですね…?)
なんだかよくわからないが、お兄様の葛藤の邪魔はしちゃいけないね。いそいそと弁当の蓋を開けて私も食べ始めた。
原作でははいあーんをして自爆していた深雪ちゃんだったけれど、修行中の身のお兄様にそのようないたずらは良くないことだと自分の口にだけ運ぶことに専念した。
しばらくして後から追いかけるように、大きな弁当を食べ始めたお兄様だけれどあっという間に追いつかれ、ついには追い抜かれてしまった。
お兄様の一口が大きいったら。そんなところも素敵なのだけれど。
「やっぱり深雪の弁当は美味いな」
「ありがとうございます」
「だが、ずっとこうして寒空の中食べるというのもな」
「そうですか?これもなかなか乙なものですよ」
魔法があるから寒くないし、真冬の空の下、温かなお弁当を食べるというのはこたつでアイスを食べるような贅沢な気分にさせた。
「空き教室を探したらどうだ、と提案するつもりだったのだが」
苦笑するお兄様に、私も笑って返す。
「お兄様がお嫌なのでしたら、他の場所を探しましょう」
「…いいや。人が通るかもしれない教室よりも、こちらの方が気が休まるかもしれないな」
私のために譲ってくれたのは一目瞭然だった。
「A組の教室はどうだ?」
「皆を怯えさせてしまっているようで申し訳ない気持ちですけれど、こればかりは慣れてもらいませんと」
お弁当を食べ終わってからの雑談タイム。
もうね、可哀想になるくらいの怯えようだったんですよと説明を。
ゴメンね!と何度心の中で謝罪したことか。四葉って存在自体が怖いものね。彼らにとっては空想上の怖いものであって、それがこんなに近くに実在しているだなんて、青天の霹靂だっただろうから。
「お兄様の方はいかがでしたか?」
「教室の方では誰も話しかけて来なかったな。エリカとレオが話しかけてくれたが、美月に話しかけたら怯えていたな」
「四葉の名は、恐怖の象徴ですからね」
私情で一国を滅ぼした一族なんて怖くて当然だよね。理由は全て愛によるものなのだけど。
お兄様は四葉では異色な扱いを受けてるよ、と手紙に書いたところで四葉の人間には変わりないし、当主の息子なんだから恐れる理由は十分なのか。
でも、
「エリカ達は、変わりなかったのですね」
「ああ。あれは凄いな」
お兄様の口元には笑みが浮かんでいた。
よほど二人の態度が嬉しかったのだろう。良かった。
微笑んで見つめていると、お兄様は自身の目を手で覆われた。
「…すぐに気が緩んでしまうな。いや、お前が美しい上に優しすぎることが原因か…」
お兄様の身体がこちらに傾きつつあるな、と思ったら無意識に触れそうになっていたらしい。
えっと、お兄様、がんばって?
――
放課後、生徒会室にて私、お兄様、水波ちゃん、泉美ちゃん、そしてほのかちゃんが揃ってお仕事。
仕事の分担は元々決まっているからわざわざ会長直々に仕事を振らなくて済むからいいね。
私も休み時間にできることはちょくちょくやっていたので残業することなく終わりそう。
ピクシーに指示をしてお茶休憩は挟んだけどね。お菓子は出さなかった。四葉の用意したモノなんて食べたくないだろうし。
ピクシーの触手がうにょん、と動くけどごめんね、相手してあげられなくて。お兄様に直接メールで伝えていいかと電子メールで確認したら俺が送っておく、と。特殊なコードでも使っているのかもしれない。
皆空気に耐えられなくて仕事に集中したからか、いつもより早く終わった。
帰りも一緒に帰ることなくささっとお別れ。
泉美ちゃんが勇気を出して声を掛けてくれたけれど、そっけなく敬語でお返事してしまいました。ごめんね。振り返ることなく離れた。
そんな冷めきったやりとりをした帰りのコミューターの中、
「水波ちゃん、ごめんなさいね。クラスで大変だったんじゃない?」
「香澄さんが、助けてくださいました」
搔い摘んで状況を説明してくれたけど、質問攻めに遭って困っていたところを助けてもらったんだって。お礼にクッキーでも作ってあげたいところだけれど、四葉の作ったものなんて~以下略。残念だ。
帰宅して水波ちゃんが夕食を準備している間、見苦しくない恰好に着替えて叔母様と圧迫面接をば。
今日の学校からの指導について報告しないとね。
二回目の電話で叔母様はお出になられた。
お美しいお顔が画面に。相変わらず麗しい美貌です。そして何よりプレッシャーも一級品。流石叔母様。
今回からお兄様の傍に控える形で大人しくしている。
叔母様からもお話があるそうだけど、先にお兄様の用事を済ませたいとのことで百山校長からの伝言を伝える。
厳重な抗議をするというくだりで眉を顰めたけれど、私たちは何もしないでいいって。まあできることもありませんしね。
そして叔母様の方はと言えば――こちらも原作通り。
魔法士協会を通して一条家から婚約に対する異議申し立てがあったとのこと。
お兄様の気配がピリリとしました。
可能性があることはお話ししたんですけどね。まさか本当にあるとは思わなかった――ということは無いね。お兄様がその可能性を斬り捨てるはずも無かった。それは私が危惧したから。私の憂いをお兄様が見逃すはずもない。
「血の濃さに対する遺伝子異常を口実に、一体何を言ってきたんです?」
「話が早くて助かるわ。――あちらのご長男との婚約を申し込まれたの」
わあ…一条君、大人の陰謀に巻き込まれたね。
彼自身、本人だけの感情が親を動かした、なんて思い上がりはしないだろうけど。陰謀渦巻く十師族に生まれて何も考えずにはいられないだろうから。
でも彼のご実家はとても情の深い家でもあるから、どうせならこちらの思惑を、と抱き合わせてきたといったところか。
恋心を利用なんてあくどいことを、と普通なら思うところだけど一条家のことだから息子のためにという想いもちゃんとあるんだろう。本当、いい家族だ。
「それで、お断りになるんですよね?」
貴女が命令した婚約でしょう?とお兄様の強い圧が。
叔母様はそれを受けて嬉しそうですね。叔母様、息子の恋愛楽しみでしょうがなかったもんね。
「しばらく断らないわ」
「…それではこちらの立場が悪くなりませんか?」
一条君の気持ちが宙ぶらりんになるわけだからね。たとえあちらから非常識にも横やりで婚約の申し込みが入ったとはいえ、袖に振るにも作法がある。何もせずに放置というのは、礼儀に悖る行為に当たる。
「いつまでも放置するつもりはありません。だから貴方達もこの件はあまり気にしないで。今まで通り二人で仲良くしていて頂戴」
楽しそうにニンマリ笑顔の叔母様に思わず「叔母様…」との声が漏れてしまったけれど、耳ざとく拾われてしまった。
「深雪さん、私のことは何と呼ぶんだったかしら?」
「…失礼しました、真夜姉さま」
お兄様は眉一つ動かさず――ではないね、画面上の叔母様を睨みつけてません⁇
お相手はご当主様ですよ?お兄様のお母様になられた方ではありますけれど。随分親し気ですね。
そんな視線を受けた叔母様は――嬉しそうですね。やだ、いつの間に二人とも仲良くなりました?
「分かりました」
とぉっても不服ですと滲ませた低い声でお答えするお兄様に、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべて叔母様は画面から消えていった。
…叔母様夜の女王から魔女に転職した?いえ、魔女兼夜の女王なのか。大変ね、二足の草鞋。
なんて、逃避している場合じゃないね。
「お兄様、大丈夫ですか?」
「――ああ、問題ない」
はっきりと副音声が聞こえましたね。
――問題があろうとも俺が
消しちゃダメです。一条家の大事な跡取り。あれ、嫁いできてくれるんだっけ?あ、違う婿に来るのか。どっちにしても彼との婚約は成立しないのでね。正す必要もないわけで。
それよりも急務なのはお兄様の急降下した機嫌を直すことだ。
お兄様の腕を抱き寄せて身を少しだけ預けて。
「お兄様が離さない限り、私は傍におりますから。一時的に離れることになろうとも、必ずお兄様のお傍に」
「…離すわけがない。絶対に」
あらぁ。お兄様の目から光が消えたね。危ない。危険信号。
「もう、お兄様?あまりありえない妄想はなさらないで。現実の私はここですよ」
くいっと引っ張ってこちらに向かせる。
するとお兄様は目を開閉させて光を取り戻すと、目を細めて。
「本当か?しっかりと触れないとわからないな」
いたずらっ子のお兄様が戻ってきましたね。いたずらっ子というにはちょっと、というか大分お色気成分が多いようですけれど。イケナイ雰囲気がね。
「…少しだけですよ」
水波ちゃんから見えない場所に移動しながら言えば、お兄様は努力する、と言って唇を重ねた。
(…少しだけをいっぱいしたら、それは少しじゃないですお兄様)
そしてその日から、夜の挨拶がちょっぴり濃厚になった。
ちゅ、ちゅと顔中にキスを落とされ、時折思い出したかのように唇を啄まれる。
とても恥ずかしいし、心臓がどんどこ音を立てて激しく動いているけれど、学校生活の息苦しさをお兄様が慰めてくださっていることはわかるので、我慢。
…これ、お兄様の修行というより私の修行も兼ねてない?羞恥耐久チャレンジ。…もう限界とっくに超えているのですけど。
「…辛くは無いか」
この質問も新学期から学校に通うようになって毎晩聞かれる質問だ。
「私が計画したことですもの…」
だから答えも同じなのだけれど、最初より勢いがなくなっているのは、…やっぱり辛くなってきてるから、なんだろうなぁ。
怯えられる、ならまだ大丈夫。だけど、声を聞けない、傍に居るのに話しかけられない、笑みを向けることも許されないという状況はなかなかに堪えた。
こんなに仲良くなっていなければきっとこんなことになってなかったんだけど。つまり自業自得だね。皆のことが大好きだからしょうがない。
お兄様の撫でる手がとても優しい。身を委ねてしまいたくなる。でも、それは甘えだから。
「…少しやつれたな。水波からも何か言われたんじゃないか」
「水波ちゃんも優しくて。私にはもったいないくらい」
水波ちゃんからも同様にやつれたんじゃないかと言われた。体重もわずかに減ったことも気にしている模様。
ご飯残したりしてないのだけど…皆でおやつを食べることが無くなりましたものね。帰りに喫茶店にも寄っていない。
ぬいを作る時間は増えているからストレスは軽減できていると思うんだけど、もしかして追いついてない?
キスの雨は止み、今度はそっと抱きしめられる。
「お前が頑張るというのなら応援する。…だから、辛くなったら隠さないで欲しい。俺は、お前の味方だからな」
大丈夫だよ、と安心させるように大きな掌が背中を擦る。
その温かさが、心にまで染みわたっていくようだ。
「…ありがとうございます、お兄様」
「礼なんていらない。したくてしていることなんだから」
「それでも私が救われているのですから、受け取ってくださいませ」
「そうか。なら、遠慮なく」
揶揄うような口調でそう言うと力を強めて抱きしめられた。苦しかったけれど、今はその苦しいほどの抱擁が嬉しかった。
NEXT→