妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編㉙

 

 

朝、いつも通りの時間に登校すると、校舎に繋がる道の中央に立ちはだかる6つの影。

 

「おはよう、達也くん、深雪、水波」

 

中央のエリカちゃんが、新学期前と変わらぬ挨拶を、挑発的な笑みを浮かべながらしてきた。

年が明けて登校するようになってから、私たちの登校の立ち位置は変わっていた。

以前はお兄様と横並びで、一歩下がったところに水波ちゃんだったが、今ではお兄様を先頭に私が半歩下がり、その背後に水波ちゃんが付いている状態。見ようによっては私の護衛しているように見えるだろう。以前のように仲睦まじい兄妹には見えない。

そのため、仲の良い婚約者同士になんて映るわけもない、微妙な距離感を演出する並びになっている。

それに気づかないわけでもないだろうに一緒くたにして呼ぶ辺り、彼女たちの中で答えが導き出されているのだろう。

でなければこのような断罪スタイルにはならないか。覚悟を決めたから舞台に立った。観客も集まり出している。

早めに登校してきたので時間も十分にある。――でも、まだ私が舞台に上がるかは、状況次第。

冷静に状況を判断する中、心の中はと言うと、

 

(うわぁ!みんな勢ぞろい!しかも原作にはないけどゲームのイベントスチルっぽい!!)

 

ぴょんぴょん飛び跳ね大興奮。

横並びの中央に陣取って大胆不敵な笑みを浮かべるエリカちゃん。

その横でいつもと変わらぬ堂々とした姿の西城くん。

美月ちゃんは不安そうに瞳を揺らしながら胸の前で祈るように手を組んで。

隣には、顔を正面には向けていない、斜め下に視線を落とす吉田くん。

ほのかちゃんも胸に拳を当てて、表情を引き締めていて。

雫ちゃんが感情の読めない表情のまま私たちを見据えていた。

久しぶりに皆を見ることができてテンションがぶちあがる。完全に心が舞い上がっていた。

表向きの顔とのギャップがひどい。温度差で風邪引くレベルじゃない。凍死するレベル。

 

「おはようエリカ、皆も。勢ぞろいでどうしたんだ」

 

お兄様の挨拶と共に私たちは口を開かず頭を下げて挨拶とした。

私の顔に感情は見られない。ただうっすらと仮面のような笑みを浮かべるのみ。淑女はいついかなる時も本心を表に出さないものです。

声も出さずお兄様にこの場を委ねる態度にエリカちゃんはちらりと視線を向けただけでお兄様に戻した。

 

「ちょーっとね、文句の一つでも言わないと、てね」

「待ち構えてまでか?」

「こうでもしないとお二人揃ってお目に掛かれないから。そこにいる生徒会長サマには特に、ね」

 

あらあら。エリカちゃん戦闘態勢ばっちりって感じ。

すっごい喧嘩腰です。ワクワクしちゃう。私も頑張って悪役令嬢ムーブで迎え撃つよ!

 

「――なんでしょう。あまり時間もございませんので手短にお願いしたいのですけれど」

 

できるだけ冷ややかな視線を心がけ、少しだけ顎をツンと上げて、声は無機質に聞こえるように抑揚なく。

そう、イメージは気位の高い、貴族令嬢。周囲から孤立しちゃう系のツンツンお嬢様。…できることなら金髪ドリル、じゃなかった、縦ロールで迎え撃ちたかった。

あと、猛烈に扇子が欲しい。正月に見た叔母様の扇子捌きは素敵だったな。

そんなくだらないことを考えているなんて思われない美貌と淑女教育に感謝だね。

ここで待ち構えてたってことは今エリカちゃんが言ったように、お兄様だけでなく私にも用があるらしい。

校内じゃ二人揃って捕まえることはもう不可能だし、私一人だと捕まえられないだろうからね。徹底的に関わるなオーラ出してますから近寄りがたい。

 

「じゃあ手短に、と言いたいところだけど、それはあなた達次第だわ」

「――用件を」

 

さっさと話して下さらない?と少し圧を強めて言えば、美月ちゃんやほのかちゃんがちょっぴりビビっていた。

ごめんね。令嬢スタイルだと圧が自然と出てしまうのですよ。オート機能。便利。

しかし、エリカちゃんは何のその。強いね。雫ちゃんも、ずっと変わらずこちらを見ている。

 

「そ。なら遠慮なく」

 

そう言って気合を入れるように肩が動くほど大きく息を吸うと、胸を張って。

 

「よぉくも騙してくれたじゃない」

 

年が明ける前に戻ったような気軽さで言った。

けれど、それに合わせることなく淡々と事務的に答える。

 

「それに関しましては書面にて概要をまとめたはずですが」

「…随分堅っ苦しい言い回しだな。手紙に書いた通りってことだろ。手紙の中身も難しい言葉ばっかだったけどよ」

 

あんまりじゃねえの、と西城くん。

いつもはもう少し遠慮したような態度を取られることが多いのだけれど、今日はエリカちゃんに引っ張られているのか、はたまた悪役令嬢風な私を糾弾するためか、真正面からぶつかってきてくれている。

 

「あんな紙切れ一つで説明つくなら警察はいらないのよ」

「警察は民事には動かないのでは?」

「…前より突っ込みが鋭いじゃない」

 

恐れ入ります。お嬢様は人の粗を探すのが得意なんです。

でもこんな会話でもお話しできるって嬉しいね。こうやって敵対構図になっているにもかかわらずおかしなもので、彼らから敵視する視線は全く感じない。

 

(だけど「騙してくれた」、ね。――ありがたい流れを持ってきてくれたわ)

 

これならば、私の描いた筋書よりも展開がスムーズかもしれない。

騙された被害者と騙した被疑者。疑わしき四葉の人間だから誰も騙したことを疑わない。

 

「――でも、手紙でははっきり文言が書かれていたわけじゃないが、君たちが素性を隠していたことについてしか書かれていなかった」

 

今度は吉田君だ。…彼にとってはその隠されていた素性はとても大きな衝撃だったはずだ。

 

「まさか君たちが、あの四葉だなんて…。だけどどこか納得もできるんだ。達也はとんでもない強さを隠し持っていたし、貴女も、隠しきれない魔法力をお持ちだった」

 

あら、私に関しては完全な敬語が戻ってきちゃったね。残念だ。せっかく最近は取れかけていたのに。

原作ではずっと黙っていたことに不満を抱いていた吉田君だけれど、先に手紙を渡していたからか、そこに対しての不満は薄そうだ。まあ原作での態度も八つ当たりみたいな感じだったけれど。

 

「四葉ということを黙っていた、その件に関しましては家の事情です。謝罪することはできませんが、そのためにあなた方一般の方々を利用したことにつきましては、手紙にも記した通り、申し訳なく思います。ですが、四葉と知られたからにはもうこの関係を続けることは無意味でしょう」

「む、無意味って、そんな言い方!」

「ほのか」

 

ほのかちゃんが激高しそうになると雫ちゃんが引き留めた。

ほのかちゃんは情の深い子だから。きっと今でも親友だと思ってくれているんだろう。なのに、手紙では一方的に別れを告げられ、直接もう関わるなと言い渡されれば、それは怒るよね。

 

「騙していたという用件がその件に関してだとしたら、これ以上話すことはございません。失礼いたします」

「――そんなことどうだっていいのよ」

 

エリカちゃんの声からおふざけが無くなった。代わりに気迫が込められている。

ここからが本気モードということか。

私は目を細めて冷徹さを前面に――

 

「私たちが騙されたって言いたかったのは四葉ってことを隠していたことじゃない。アンタたちが兄妹じゃないって、そっちの方よ」

 

………ああ、そっちもあったっけ。

ちょっと予想外でびっくりした。確かにそのことは婚約者の流れがどうなるかわからなかったから手紙には書かなかった。もしこれでお兄様が婚約者じゃなかった場合、兄妹のまま戸籍が動くことなかっただろうから。

残念ながら私の裏工作は功を成さず、結局婚約者で従兄弟ってことになっちゃったけど。

 

「エリカ、それに関しては俺たちも先日聞かされるまでは知らなかった事実だ」

 

ずっと聞き役に徹していたお兄様が動く。

そうだね。私たちも兄妹じゃないって聞かされたのは大晦日だから。

だから騙していたつもりはない、と返すように聞こえたかもしれないが、私だけ「従兄妹だと騙している最中だが」と副音声が聞こえた気がした。お兄様の内心って偶に茶目っ気あるよね。

しかしそれを聞いたエリカちゃんたちはえ、マジで?みたいなお顔。

ああ、兄妹として過ごしていたことも演じてたと思っていたのか。ごめんなさい、そっちに関してはまったくもって騙していたつもりはない。だって、兄妹だもの。それだけは嘘偽りだらけになろうが変えられないたった一つの真実。

 

「え!?知らなかったの?!」

「何をそんなに驚くのかわからないが、俺たちはずっと正真正銘兄妹として暮らしてきた」

 

お兄様の言葉に信じられないという雰囲気が――目の前の彼らだけじゃなく周囲からも届けられる。

登校時間だからね。ちらほらとしかいなかった野次馬していた生徒も登校中の生徒たちが増え、かなりの数が集まっていた。観客動員数は半数以上埋まった感じ。

我関せずの令嬢モードの私は振り返ることもしないので確認できないけどね、もうすでに結構な人が集まっているのは気配で分かる。というか、一度登校した生徒も校舎からもパラパラ出てきてるね。

それも当然か。気になっちゃっうよね。今一番学校の関心があるメンバーが揃っているのだから。

 

「じゃあ、何?あれは本当に兄妹だと思って…?」

「…嘘でしょう?」

 

唖然茫然と言った感じで驚かれているけれど、そんなに兄妹の演技をしていたと思っていたの?

確かに兄妹仲は良かったけれど、そこが疑われていたということ?

 

「……まさか」

 

その時ずっと静観していた水波ちゃんの声が耳に入った。

振り返り、視線を向ければぱっと口を閉じて恐縮したように頭を下げる。

 

「水波、言ってごらんなさい」

 

水波ちゃんは戸惑っているけれど、こっちはお手上げ状態。何かわかったなら情報が欲しい。

迷っているのは言いづらいことだからなのだろうが、私の命令には逆らえず口を開いた。

 

「その、達也様方お二人の学校での様子は元々兄妹と呼ぶには仲が睦まじく、度を越えているように見えたのは、実は兄妹ではなく元から婚約者として将来を約束された関係であったからではないかと疑われているのではないか、と」

 

……うん?

兄妹だって言ってたけど実は兄妹じゃないと知りつつ結婚前提に付き合っていて、バレてはいけない事情があるから兄妹ってことで通していた、と?

…なんで?そんな発想に至るんだ⁇

そこにどんな意味が?と混乱しているとエリカちゃんが頷いた。

 

「ほぼそんなところね」

 

え、そうなの?!本気で⁇

でもほぼってことはどこか違ってるんだよね。

 

「違うのは二人が付き合っているとまでは考えてなかった、という点と――深雪は知らなかったんじゃないかってこと」

 

…それはほぼではないのでは?そして私が何も知らないとは。むしろ全貌を原作知識として知っていたから誰よりも理解していましたけれど。なんてことは言えないが、お兄様よりは四葉の内情には詳しいと思う。

 

「それはほぼ違っているということになるんじゃないか」

 

あ、お兄様が突っ込んだ。

 

「そこはどうでもいいってこと。肝心なのは達也くんが兄妹だって言ってたくせに深雪にベタ惚れで周囲にけん制しまくっていたじゃない?初めこそ兄妹なんて嘘でしょ、って思うくらいべったべたで胸焼けするようないちゃつきっぷりで。なのに達也くんは兄妹だって言い張るし、深雪に至っては仕方がない兄だって受け入れてるし。ぶっちゃけ達也くんだけだったらそんなウソ信じなかったわよ。あんな兄貴居てたまるか!って。

で、実際兄妹じゃなかったって聞かされたときの私たちの気持ちわかる?それ見たことか!ってね」

「…いや、それ見たことかも何も、俺は深雪の兄貴として接していたつもりだが」

 

お兄様も困惑気味。まあ、そうだよね。真実兄妹だとお兄様が誰よりも分かっている。

…というか胸焼けするくらいべたべたくっついていたと思われていたの?学校では節度ある範囲でしか触れてこなかったはずなのに。せいぜい頭撫でるとか手を繋ぐくらいしかしていなかったのだけど…。

 

「いーや!あれは兄貴じゃない!!」

「具体的に何がそんなに兄貴としてダメだと言うんだ?」

 

本気で分かっていないお兄様の言葉にエリカちゃんが堪えていたものを爆発させた。

 

「兄貴ってのはそもそも妹を愛おしくて仕方ない!なんて愛でたりしないのよ!!」

 

それは、…どうなんだろう?ちょっと主観が入りすぎてません?

 

「……ブラコンだから仕方ないと言っていたじゃないか」

「あれは漫画の世界だから許されるのよ!現実にあってたまるもんですか!!」

 

…ここは小説の世界だから~、とは言えない。

現実味の無いブラコンシスコンもまかり通る世界だなんて、彼女たちは知らない。

でも、そうだよね。彼らにとってこの世界は現実で、この空の下生きている。筋書きがあったって、彼女たちはどう見ても操り人形ではなく、この世界に適応して生き生きと『生きて』いる。

――そう、もうこの世界は筋書き通りの物語でもなくなってきている。

こんなシーン、初めからなかった。

この先どうなるかなんて予測もつかない。

 

(だけど、それが当たり前なんだ)

 

もう、この世界はあの紙でできた世界でも、画面越しの世界でも何でもない。

一科生と二科生の壁が取り払えたように、変えようと思えば変えられたのだ。

 

(お兄様が変わられたように)

 

だから――うん。予定変更!一気に畳みかけるとしよう。

 

 

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