妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
「っ、」
達也くんの声が柔らかい。
雫に返答しているのに、深雪にも向けられているから。
一体どんな地獄から救われたのか分からない。知りたくもない。
夏に見た彼の体の古傷がどう見ても十年以上前ではないかと思われるものがたくさん見られたことに気付いていた時から、知るべきではないと触れずに来た。
深雪はそれをたった一人で救い出したのだ。
だから達也くんは深雪をすべての害悪から守ろうとしている。
彼女を傷つけるものすべて許さないと。
異常と思える警戒っぷりなんだけど、深雪にはそれがわからないのよね。
「深雪が努力をしてくれたから、俺を気にかけてくれていたから、俺は今十分すぎるほど幸せだ。これ以上望むことなどない最良の結果だ」
あーあ。自分たちの言葉だけで崩したかったのに。
深雪って本当、達也くんに弱いったら。
達也くんの言葉に感動しているようなんだけど、ね。
深雪――やっぱりアンタ、騙されてるわよ!目を覚ましなさい!!
「…そりゃあ、達也にとったら最良の結果だろうさ」
「最愛の妹が実は兄妹じゃなくて従兄妹で、その上自分の出自上婚約を許される立場だった、なんて出来過ぎでしょ」
「夏の同人誌の内容そのままではないですか」
「シナリオをそのまま使ったんじゃないだろうね」
非難の目を受けて、達也くんは口角を上げた。
やだやだ。こんな悪い男に深雪が引っかかるなんて。
「そういうことか」
もう仮面を保っていられなくなった深雪が達也くんを見上げるのだけど、その達也くんが視線深雪にだけ向ける視線の甘ったるいこと。
これは冬休み中、なんかあったわね。女の勘が訴えてくる。
「皆がやたらと深雪から聞き出そうとしていたのは、深雪を心配して、ということだな」
余裕ある風格…これはただ婚約しただけとは思えないんだけど。うわぁ。達也くんってそんなに手が早かったの?
ちゃんと深雪の了承とったんでしょうね?
達也くんの場合、深雪を丸め込んで混乱に乗じて、ってことがあり得そうなんだけど。
「つまり皆はこう言いたいわけだ。深雪が俺に騙されて本人の意思に関係なく無理やり婚約を結ばされているんじゃないか、と。俺が裏で秋の件で褒賞として深雪との婚約を勝ち取ったのではないか、と。それを当主の命だということで仕方なく、従っているふりをしている。そういうことだろう?」
「達也くんの普段の策略っぷりを見てるとそれくらいやりそうってね」
本気で疑ってるわけじゃないけど、それくらいのことはやりかねない。そう思ってる。
「…無理やりも何も、何度も言いますが達也様との婚約は四葉家当主の意向です」
何とか取り繕って言っているけれど、この様子じゃ本当に達也くんは絡んでないのかもしれない。
「だが、皆はそう思っていない、ということだ」
深雪は全くぴんと来てないようだけど、この鈍さは私たちが教えることなくずるずる来てしまったことによる弊害なのかもしれない。
ここで目を覚まさせないと。
「あのね、深雪。落ち着いて聞きなさい。達也くんはね、重度のシスコンだと思い込んでいたようだけれど、ずーっと、深雪のことが好きだったのよ」
それこそ学校中に牽制しまくるくらいには酷かったんだから!とズビシィ!と指を突き付けたんだけど…もう演技を忘れてる?目が大きく見開いたけど、これに驚くってことはやっぱり気付いてなかったんだ。
…まあ、兄妹として育ったなら気付かないのもおかしくないのかな。
私ももし兄貴たちが実の兄妹じゃなく達也くんのようにあれだけ甘やかされていたら――あ~無理だ。脳内が想像することも拒否した。
「やっぱり、分かってなかった」
「結構あからさまでしたよね」
「隠す気なかったよなー」
「俺たちは兄妹だぞ、ってどの口が言ってるのかと思ってたよ」
「…私は、その言葉だけに縋ってたんだけど、どう見ても達也さん、深雪のことしか見てなかったから…」
「深雪にはいくら注意しても兄さんだから、で流された」
深雪の様子に、分かってはいたけど本当に達也くんから向けられる愛情が妹に対してのものだって信じてたみたい。
「…まさかここでもそう思われていたとはな」
達也くんが肩を落としているけど、深雪がするならわかるけど達也くんが落ち込むようなことを言ったつもりはないんだけど。
どんな心当たりがあったって言うのか。
「…達也様?」
「一応ここでも弁明させてもらうが、俺が深雪に対しての想いを認識したのは年明けの数時間前だ」
…
……
…………
「「「「「「はあああああ!?」」」」」」
「俺は隠すも何も自覚さえしていなかった」
この達也くんの言葉に、全員言葉を失ったのち、はあああ!?ともう一度絶叫が響き渡った。後者は私たちからだけではない。周囲からも絶叫が聞こえた。
そこから広がるざわめきと悲鳴。そうよね、皆もそう思うわよね!?うちの生徒は当然全員気付いてたわよ。でなきゃ深雪に対して告白戦争が起きないわけないじゃない。玉砕覚悟で告白する列が毎日できるっての。
達也くんがあんなに牽制していたから、そして兄妹であろうとお似合いだって、邪魔しちゃいけないって空気が流れていたから誰も深雪に恋い焦がれようなんて勇者が現れなかったのだ。
兄妹じゃなきゃよかったのに、なんて言葉が聞かれるくらいこのカップルを見守っていた人は多かったのに、気付かなかったのは本人たちだけ。
もしくは聞こえていてもフィクションを楽しんでいるとでも思っていたのか。
確かに本の影響もあるけれど、アンタらのいちゃつきっぷりを少女漫画のようにあこがれて見守っている輩はかなりいたんだからね?!
もういっそ兄妹だからこそいい、なんて変な人種も湧いてたけど。
「嘘だろう!?」
「自覚、してなかったって、あれだけ独占欲をむき出しにしていたじゃないか!!」
「仕方ないだろう。俺たちは兄妹として育ったんだ。兄が妹を、なんて普通じゃないだろう」
「「達也が普通を語るな!!」」
レオとミキの
「え?嘘ですよね、本当に自覚なかったんですか?」
「じゃあ、どうやって婚約にこぎつけたって言うのよ」
「何度も言っているが、当主の意向だ」
「…息子の恋を叶えてあげたいって親心?」
「そんな甘いことを考える家だと思うか?」
口にしたけど、うん、ないわ。あの恐怖の一族の長が息子の恋を叶えるために、なんて考えてたら微笑ましいどころか怖い。
達也くん、見返りに一生タダ働きでもさせられるんじゃない?
「……じゃあなんだってそんな達也くんに有利なご都合主義が起こってんのよ」
「そんなこと聞ける立場でもないから知りようもない」
達也くんに有利ってのは否定しないんだ。
ま、そりゃそうよね。達也くんは欲しいものが手に入ったんだから。
…それにしても、本当に自覚してなかったの?妹を見る目じゃなかったわよ。
「深雪、大丈夫…?」
雫の声にはっとなった。達也くんばかり糾弾していたけど、深雪には初めて聞かされた情報にショックを受けてもおかしくなかったのに。
「なにが、なにやら…」
案の定、深雪は展開についていけず放心状態。
でも深雪、いくら箱入りったって、アンタもアンタよ。あんだけ達也くんの行動に顔を赤らめたりしてたんだから全く意識してなかったわけじゃないんでしょう?
「…皆さんは、私たちに聞きたいことがおありだったのではなかったのですか?」
「ええ、そうよ。でも聞きたいことっていうか、正確には文句ね。――深雪をだまくらかして手に入れてゴールしようとしてるんじゃないわよね!って達也くんに」
「…私を、糾弾するつもりでは…?」
「なんでよ。そもそも深雪を糾弾なんてする必要ないもの」
「どうしてです?私はあなたたちを騙していたのですよ?文句の一つや二つくらいは覚悟していたのですが」
ほら、そう言うところが深雪の甘さよね。
「アンタの考えなんてまるっとお見通しだからよ。婚約の事情はまあ、お家の事情なんだろうし。深く聞いたところで知っちゃまずそうだから聞かないけど」
「それは賢明かと」
というかどういう事情があれば達也くんを兄妹として一緒に暮らさせておいて、実は兄妹じゃなくて従兄弟であって、これからは婚約者として暮らしなさいってことになるのかさっぱりわからない。
冷遇してたんでしょ?達也くんのこと。なのに、次期当主の婚約者って。…そんなことする意味ってある?
庶民の私にはわからない話だわ。
だから、そんなこと聞かない。
私たちは、私たちの大切なものを取り戻す。
にやり、不敵に笑って見せて、最後の対決よ、深雪!
「四葉四葉って。いい?私たちの友人は司波達也と司波深雪であって、四葉の次期当主や当主の子息なんかじゃないの」
「肩書を無視できる年齢はもう過ぎましたでしょう?」
「年齢?知ったこっちゃないわね。私はしたいようにするわ。利用できるものは何でも利用するし、都合の良いように見ない振りもする」
「そんな勝手が許されない世界だと知っていて、そのような戯言を?」
「もし災難が降りかかるなら自分で払うまで。私はそうしてきたし、これからもそうするつもり。――だから、いいのよ」
もう、いいのだ。一人で戦わなくたって。
「アンタが急に四葉家次期当主らしく振舞ってるのだって、ウチの生徒を守るためでしょ、四葉に怯えて可哀想な一般生徒ってことにしておけば無駄に四葉を恐れている周囲に同情を向けられて四葉関係者のように見られないようにするため。
前の状態じゃ、慕っているように見えて四葉の傘下に入ろうとしているように見えるから周囲から異端視されることを危惧したんでしょうけど」
「想像力が豊かですこと。妄想も大概になさったらいかが?それは勝手な思い込みというものです」
高圧的にプレッシャーをかけてくるけれど、今はもう虚勢にしか感じない。
「私たちには特に徹底的に遠ざけようとしてくれてるみたいだけど、お生憎様。深雪の演技はバレバレなのよ」
不愉快、と眉を顰められてもそれを跳ね除けられるくらいには、深雪の美貌にも慣れてきた。――違うわね、いつもの深雪に会いたいのよ。
だから、私の
「演技だって根拠を教えましょーか?――達也くんよ」
「……どういうことです?」
疑念を抱く視線に、真っ向から砕くつもりで見つめ返す。
この根拠に自信があったから。
「だって達也くんが、深雪が傷ついてるのを守ろうとしないなんておかしいもの」
「私は、傷ついてなんか――」
傷ついてないのなら、どうして私たちを避けたの?
気付かないと思った?
見ることも避けられていることを、気付かずにいられれると思った?
「深雪が達也くんを避けることはできても、達也くんが深雪を無視することなんてできない。ましてや、深雪が孤立していることを静観しているなんて、まるで入学したての時のように、深雪が一人で奮闘しているのを応援しているって考えるのが自然じゃない」
それに、達也くんが余裕なことも癪に障るのよ。
深雪が傷ついているのに黙ってるなんて、そんなの理由は一つしか浮かばないもの。
(あれだけ無意識でも独占欲の高い達也くんだもの。きっと家ではでろ甘に深雪を甘やかして自分にもっと依存するように仕向けてるに違いないわ)
そしてきっとそのことに深雪は気づいていないのだ。
「お兄様はお優しい」とか言って。
やだ。すごく想像できちゃった。早く何とかしなくっちゃ。
「そもそも状況が似ているんです。一科生と二科生の壁があった時のように。あの時も深雪さんは達也さんの為に、一人で戦われていました」
「それで、あの手紙でしょう?もう関わらないでって書いてある割に達也くんのことはよろしくって取れるようなこと書いてあるんだもの。皆で集まって手紙読んだ時、衝撃よりも先に深雪
「――深雪は初めから言ってたよね。狙われて過ごしてきたって。四葉って隠してても狙われていたから、今後はもっと危なくなる」
「だから、私たちを遠ざけようとしたんだよね。秋の時みたいに、親しいから狙われる可能性を考えて」
「ああ、それともう一個。四葉が精神干渉魔法が得意ってことで良いように操られてるんじゃないかって懸念もウチの学校じゃありえない。定期的に洗脳を確認するチェックは未だにされてるんだから。それに、こっちには美月もいるしね。魔法を掛けられているかなんて察知するのはお手の物ってね」
一つ一つ、彼女の逃げ道を塞いでいく。すべて、分かっているのだと、追い詰めて。
「四葉は恐ろしいわ。私たちはその世代じゃないから実際に怖さを知っているわけじゃないけど、親の世代がビビってるのは知ってるし、警戒しているのも知ってる。何をしでかすかわからない、って。アンタッチャブルなんて呼んで。魔法師と国を守る十師族に名を連ねていながらその両方から恐れられている、なんてどう考えても異常だもの。
だけどね、司波深雪を知っている私たちにあなたを恐れる理由は無いの」
「貴方達が見ていたものが虚像であっても、ですか」
また虚像だって言い張るけれど、そんなまやかし通用しない。
「いくらガワだけ取り繕ったって、中身が好きだって言ってんのよ」
こうやってお嬢様ぶったって、高圧的な態度を取ったって、根底に私たちを思う気持ちがあることを、私たちはもう知っている。
「いくら言葉で武装していても、深雪さんは優しい人です」
「見た目とのギャップに時々びっくりすることがあるけどそこも良い」
今さら隠したってもう遅い。
「四葉が恐ろしいのは変わりない。でも、深雪も達也くんも私たちにとってはかけがえのない友人なのよ。勝手に奪おうとしないでよね」
虚像だという彼女に手を伸ばす。
払われる心配もない。
頭に手を置いてくしゃりと撫でれば、ぽろり、と彼女の美しい黒曜石から美しい宝石が生まれ落ちた。
まさか自分にこんな詩的な表現ができるなんてね。
「まったく、泣き顔まで完璧ってどういうことよ。この、絶世の美少女!」
「全然悪口になってねーぞ」
「しょうがないでしょ、悪いところが完璧すぎることなんだから」
深雪に悪いところが無いことが悪い!
そう言いきったらふ、と雪が解けたような笑みを浮かべていて。
「やーっと仮面をはがしてやったわ!あけましておめでとう、深雪!新年の挨拶くらいさせなさいよね」
「おめっとさん。つってももう7日過ぎちまってるから寒中見舞いになるのか?」
「律義に考えるんじゃないわよ。私たちの年明けは今なの。新年早々の爆弾事件でそれどころじゃなかったんだから」
「え、ば、爆弾!?」
「ほら、深雪さんからの時限爆弾だって渡された手紙のことだよ。…本当新年早々飛び跳ねるくらい驚いたよ」
「あ、そういうことですね。でもあの手紙が私たちのことを思って書かれたことなんだとすぐにわかりました。だって、もしどうでもいい存在ならわざわざ丁寧に手紙なんて手渡さないですから」
「…私は、おめでとうってまだ言えない」
「でも、ほのかが一番に気付いたんだよ。深雪から来年もよろしくって聞いてないこと。たまたまだよねって自分に言い聞かせてたけど、それから少し落ち込んでたよね」
「雫っ!」
そうなのよね。二日の日、魔法師協会を通してうちにも連絡がきたのはちょうど皆と約束して集まる直前で。
自分の顔色が変わったのがすぐに分かった。
心配する美月たちの声が聞こえなくなるくらい焦燥して皆と開くはずだった手紙をいの一番に開けた。
そして、知った。
彼女があのクリスマスの時すでにずっと苦しんでいたことを。
あんなに笑顔で幸せだと言っていたのは、もう二度とこんな時間を過ごせないと覚悟していたから。
「…やっぱり、深雪…」
ほのかの言葉が耳に入ったのは手紙を3巡した時だった。
「ほのか、何かあったの?」
「…雫には話してたんだけど、きっとただの思い違いだって、そう思い込もうとしてたの」
語られたのはクリスマスの帰り際、深雪から来年もよろしく、の言葉が最後まで聞かれなかったこと。
確かに些細なことだった。でも、彼女らしくないと言われれば、その通りだった。
誰一人、手紙の内容に激高するような人間はいなかった。
ここに綴られた言葉が、表面だけじゃないことに気が付いていたから。
信じたくないとか、そんな曖昧な精神論じゃない。
何かしら裏があるはずだ、と考えるのが当たり前だと思うくらい彼女が無意味に人を傷つけるような人間ではないと知っていたから。
「…こんな時まで深雪、達也さんのことばっかり」
雫の声には悔しさと羨望が混じっていた。
四葉扱いされてないから仲良くしても問題ないなんて、バッカみたい。四葉の当主の息子だって発表があった時点で、そんな事情があると知ったところで関係ないのに。
それがわからないはずないのに、言外に達也くんをよろしく、なんて。
だけど、だからこそこの手紙は間違いなく深雪が書いて、深雪の想いが詰まっているのだと分かった。
まったく、困った女王様だ。一人で何でも抱え込もうとする。
私たちの、大事な可愛い友人は。
「――き」
涙をこぼしながら、微笑む深雪の口から音が漏れたけれど、あまりに小さくて聞き取れなかった。
続きを待つのだけれど、口が開閉するだけで音が出ないようだった。
はくはく、と空気の空振る音がする。
それまでほぼ静観していた達也くんが動いた。
深雪のそばに寄り添って肩を抱き寄せて。
「大丈夫、言ってごらん」
たったそれだけでも、深雪は魔法がかけられたように変化していく。
潤む瞳と赤みの差した頬を向けられて、見惚れずにいられるだろうか。深雪の美しさの前では男も女も関係ない。
その姿は人類見る者すべてを魅了する。
「みんな、だいすき」
ぼろり、と涙と同時に零れた言葉に、心臓を鷲掴まれた。
だけどいつまでも見惚れてちゃ、この子の友人なんて務まらないのよ!
「「「「「「知ってる」」」」」」
だから深く息を吸い込んで、笑って答えてやった。
皆、おんなじタイミングになったのがおかしかった。
全員一回は深雪に見惚れたんだってわかったことも、振り払うように深呼吸したタイミングもきっと一緒だった。
「よかったな」
「…ええ」
今この瞬間の光景を、達也くんと深雪が微笑み合うこの姿を、どれだけ待ち望んでいたことか。
周囲からも安堵やら感動やらの声が漏れている。一高生徒にとっては彼らのこの光景は幸せの象徴だったのだ。
確かに四葉は恐ろしい存在で、ガラッと変わった態度を見せられて、やっぱり四葉って――なんて空気が漂っていた。
そうさせていたのは深雪。だからこれも――この、仲間たちに受け入れられてギスギス解消ハッピーエンドもすべて彼女の計画のうちだったということ。
これで四葉なんて関係ない、という空気を作り出したのだ。
(深雪のことだから、これもきっと達也くんのためなんだろうけど)
分かっている。彼女はいつだって彼のためを思って行動しているのだと。
ついでに、皆も笑顔になれたら素敵だ、と巻き込んで。
初めからすべてが彼女の計画通り事が進んだ、ということ――。
もちろんすべて仕組まれてやったこと、ではないことは分かっている。ただ少し、演出を加えられただけ。彼女の言葉が本心であることは伝わったから。
でも、操られたままと思われるのは面白くなくて、達也くんが抱え込んでいる逆サイドに回り込んで、深雪の耳に囁いてやった。
「次からはちゃんと事前に舞台に招待しなさいよね」
「え…?」
「まるっとお見通しって言ったでしょ。シナリオはだいぶぶっ壊しちゃったと思うけど、アンタが
「――あら、そうだったの?」
あっさりと白状した深雪は今まで一番の悪女の笑みを浮かべていた。まったく、こんな時まで悪ぶるんだから。
でもそんな深雪も良いって思っちゃうんだから、私も絆されたものだ。
「一年の時にお兄ちゃん、なんて演出入れるくらいだものね」
「効果的だったでしょう?」
「本当、あくどいことを思いつく女王様ね。でも、善を振りかざす統治者より私は好きよ」
「私も、演出だって分かっていてもこうして舞台に上がってきてくれるエリカが好き」
「あら。ならあたしたち、両思いね」
額を突き合わせるほどの距離で笑い合うと、くんっと深雪が引っ張られて引き離された。犯人はわかっている。
「ちょっと、達也くん。無粋が過ぎるんじゃない?」
「エリカは俺のライバル、ということで良いんだな?」
「「はい⁇」」
ライバルって何よ?と達也くんを睨めば。
「俺は今絶賛婚約者を口説き中なんだ。
……なんですって?
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