妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
「ちょ、ちょっとどういうことなの深雪!?」
一番に反応したのは恋に敏感な暴走乙女。
深雪の正面に立って達也くんからも奪い取って肩をゆさゆさ揺さぶり始めた。
「ほ、ほのか…揺さぶらないで、こたえられない…」
「ほのか、ステイ」
雫が止めようとするけれど、それって訓練されたイヌに対しての指示じゃなかった?その扱いでいいの?昔からの友人だったのよね?
…よく見れば達也くんの目が鋭くなっているけど、深雪の降ろされた手が制止するように動いているのが見えた。こっちの方が訓練されてる?
達也くんを飼いならしてる深雪って、相当すごいんじゃない?とりあえずそのまま押さえておいて。
「それで、どういうこと?達也さん」
「どうもこうも言葉のままだ。俺は年末、深雪に恋をしている自覚を持ったが、さっき皆が心配していたように深雪にとって俺はただの兄貴でしかなかった。だから恋をしてもらえるよう誠意努力中なんだよ」
…それってつまり。
「そりゃあ…」
「ヤバいわね…」
何がヤバいって、達也くんリミッター外れた状態で深雪にアタックするってことじゃない!
何で深雪は危機感無く達也くんの横に立っているのよ!
「一応学校では禁止になっている」
「禁止って深雪さんから?」
「いや、学校側からだな。節度を保て、と」
「「「「「ああ」」」」」
良かった。学校の方が危機感を抱いてたみたい。教育機関ってちゃんと機能してたんだ。ちょっと見直した。
「それは賢明な判断だわ」
「学校で風紀の乱れはいかんよな」
「北山、北山さん、今からでも委員長代わらないか?代わってください」
「やだ」
でもミキが心配するように今の達也くんは信用ならない。
雫なんて、けんもほろろに断っていた。わかるわ。これを取り締まると思ったら誰もやりたいと思わないでしょ。前風紀委員の花音先輩も大変そうだったし。
「だって、さっきもナチュラルに肩抱いてた」
保てって言われてるそばから節度保ってないものね。
「お兄様、ダメですよ。節度は守りませんと」
「泣いた深雪をそのままにするわけにはいかなかったんだ」
深雪が注意をするけれど、達也くんは申し訳なさそうに眉を下げてすまない、とトーンを下げて答えてるけど気付きなさい深雪、それが手口だから!って思うのに、深雪はそんな口車に簡単に乗っちゃうのよね。
「仕方が無いですね」
「深雪、甘すぎ」
何でこんな単純な手に引っかかっちゃうのかしら。
人を利用することはお手の物、って感じなのに達也くんの手のひらにはすぐ転がされちゃう。
やっぱり心配だわ。
でも、それならこうやってそばで横やり入れてやればいいんだものね。これからは遠慮なくいかせてもらうわ。
私たちだってまだまだ深雪と一緒にいたいんだから。
「なんか、敬語でお兄様って聞き慣れないかもって思ったけどすごいしっくりくるな」
「本当、これが自然ってくらい耳馴染みが良いわね」
「俺にはどちらでも構わないんだがな。もちろん、お兄ちゃん呼びもまたやってもらいたいものだが」
「達也様、調子に乗りすぎです。深雪様からお離れ下さい」
自然と腰を引き寄せようとしたのを水波がはたき落としてた。
あの子、以前よりできるようになってるわね。
「ありがとう水波ちゃん」
「…私も、水波と呼び捨てで構わないのですよ」
彼女も深雪に合わせるように仕える者として控えるような態度になってたけど、この子も深雪が大好きなんじゃない。
四葉の使用人なんだからもっとドライかと思ってた。
良い主従関係が築けてる様子に更に肩の力は抜ける。
「水波」
「達也様は節度をお守りください」
そして彼女がこうして防波堤になっているからには、家でもそこまで深雪が大変なことにはなっていないのかもしれない。
…目が届いていないところではわからないけど。
なぁんか、あの時見せた達也くんの余裕っぷりが気になるのよね。
水波と達也くんが深雪を挟んで攻防を繰り広げているのを見て、レオがぽつりと呟いた。
「なんつーか、さ。四葉ってそんなに怖いモンなのか?」
「口酸っぱく気をつけろって教わったんだけどね」
「僕なんて名前を聞いただけで震えるくらいには怖い存在だったはず、だったんだけど」
拍子抜けもいいところだ。
しばらく彼らを眺めていたけれど、予鈴のチャイムにはっとなった。
恐らくこの場に全校生徒が集まっていた。
これ、全員が一気に校舎に入ろうとしたらパニックになるじゃない!
ミキが風紀委員として指揮をとらないと、と動こうとしたところで、パンパン、と澄んだ音が鼓膜を震わせた。
振動系魔法で拍手を一帯に響かせたのだ。
続けて鼓膜を揺さぶったのは透明感のある美しく、落ち着いた耳心地の良い声で。
「皆さん、まずは冷静に。一番遠くのクラスから順に入っていきましょう。大丈夫、まだ時間はあります。生徒会長権限でCADを預けるのはお昼前までとします。飛行魔法が使える生徒は窓から教室に向かってください。ただし、教室の下から直線で上がること。でなければぶつかる恐れがありますので各自十分に気をつけて」
『はい、女王陛下!』
深雪の号令に、生徒たちは笑顔で応えていた。
一高って頭おかしい集団になったわね。
でも、こんな楽しい高校生活が送れるなんて入学当初、夢にも思わなかった。
それも、このとんでも兄妹――、今は婚約者たちになるのか。ま、彼らのおかげなのよね。
「達也くん、深雪」
同時にふり返る二人に笑って。
「これからも、よろしくね!」
新年一発目にできなかった挨拶を改めて。
「ああ、よろしく」
「よろしくね、エリカ」
――
深雪視点
エリカちゃんに見事作戦がばれていました。
相変わらず勘が良いったら。それでいてノってくれるなんて、心が広すぎる。自慢の友達たちなんです。好き!!
あ、ちなみに、創立以来の全校生徒遅刻の珍事は何とかギリギリ回避に成功、未遂に終わった。
良かった。
その後、学校の雰囲気は見事に元に戻った。
誰も四葉だなんだと気にしない。まあ、全くってわけでもないんだろうけど、態度には出されない。
お兄様が何も言わないのだから、恐らくそういった悪意ある類いの視線はないのだろう。
今日のお昼は屋上で食べることになっていた。
ご飯は三段重ねの重箱3つ。全部私と水波ちゃんで作りましたとも。
そして学校まで運んできたのはお兄様。いつものメンバー分ですからね。結構な重さのはずだけどお兄様は魔法も使わず軽々と運んでいた。
この一週間の罰だって。
喜んで作らせてもらいましたとも!ご迷惑おかけしました!!
冬の屋上は開けるだけで凍えるくらいの寒さだけど、魔法で皆の周囲から冷気を取り払って床に断熱シートを敷いて。
あ、ちなみにここにいるのはいつもの昼食メンバーで水波ちゃんはいません。水波ちゃんもクラスの子たちと食べるんだって。よかった。
「させといてなんだが、深雪さん、大丈夫なのか?」
「え?ああ、魔法ですか?これくらいならお昼くらい問題ありません」
「これくらい…」
「さすが深雪」
展開中のこの魔法のことだね。
まあ確かに繊細な魔法でもあるし、長時間保つとなるとなかなか大変なのだろうけど、深雪ちゃんの魔法力だと本当にこれくらい、と言って差し支えないほど慣れた魔法なのだ。
むしろこんな傲慢にも取れることを言って不快に思わないでくれる皆が優しい。嬉しくなっちゃうね。心配までしてくれて、ありがとう。
「深雪、嬉しいのはわかるが」
嬉しさのあまり微笑んでいたらお兄様からクレームが。
あまり皆にばかり構いすぎるな、ということのようだけれど、お兄様、皆が呆れた視線を向けてますよ。
美月ちゃんは喜んでいるようだけど。あと比例するようにほのかちゃんが落ち込んでます。
「お兄様。皆で食べるときくらいはお許しください。私も久しぶりでテンションが上がっているのです」
「俺と二人の時より嬉しそうだな」
「もう、あまり意地悪なことをおっしゃらないでくださいませ。――お兄様は何か食べたいものはございますか?」
「深雪の作ったもの全て」
「あら、でしたら全部一つずつになってしまいますよ」
水波ちゃんと共作だけど和食メインの弁当には私の作っただしが使用されているからね。
そう言えばお兄様は「なら全部頼もうか」なんて。お兄様ったら。
「…おいエリカ、邪魔するんじゃなかったのかよ」
「これ、邪魔しても無駄死にしそうじゃない」
「馬に蹴られそうですね」
「エリカ、頼むよ。手を出しそうになったら叩き落としてくれ」
「風紀の乱れを正すのはミキの仕事でしょ」
「僕の名前は幹比古だ!」
楽しそうだねぇ。
皆も遠慮なく食べてー、と声をかけて取り皿と箸を配っていただきます。
おいしいと言ってもらえてどんどん空になっていくお重を見るのって気持ちいいよね。嬉しい。
「あ~、この深雪を見ると戻ってきたって感じね~」
「あの四葉のご令嬢モードも素敵だったけど、やっぱりこっちがいい」
「ありがとう雫」
素敵って言われちゃった!と雫ちゃんとニコニコしていたらほのかちゃんが気になっていたんだけど、とおずおずと口を開いた。
「ねえ、いつも四葉ではあんな感じなの?」
「え?あそこまで高慢ちきではないけれど、表情はアレをずっとキープしている感じかしら」
「疲れない?」
「疲れるわよ。でもそもそも私たちは四葉から隔離されて暮らしていたから日常でもなかったの」
隔離、の言葉に彼らに戸惑いの表情が。まあ聞いてはいけない話かって思うものね。
でもすでにお兄様とどこまで皆にお話するか決めてきましたから。
「別に発表したのだから隠すようなことでもないし、皆も察しがついているだろうけど、四葉と知られたら襲われる危険があったから隠れていたのよ。四葉はいろんなところから恨みを買っているというのももちろんあるんだけど、――四葉が一つの国を滅ぼしたって言うのは知ってるのよね?」
「そりゃあ、まあ」
「そんなに昔の歴史じゃないしね、その国名が変わったのも」
「その国が滅んだ理由は私怨ということになっているけれど、きっかけはあちらの国にうちの一族の人間が攫われたのよ。それも子供が生める年齢になったばかりの女の子を、ね」
この言葉にお兄様以外の表情が強張った。
原因を知っている人は知っている。だけれど詳しく語らない。まるでタブーのように自然と秘匿されていった話。
まあ、気持ちのいい話ではないからさらっと流すように。
「一族は国に訴えたけれど、たった一人の女の子のために戦争の火種になりそうなことをできないと突っぱねられた。でもその一族は愛情深い一族でね、その子一人のために命懸けで救出に向かったの。多くの犠牲が出たわ。当たり前ね。一国に対したった数十名で対抗したのだから。
多大な犠牲は払ったけど救出はできた。だけど国はこのことを危険視した。一国を落とした実力を恐れて。私情だけで動いた彼らに罰を与えなければ国の示しがつかない、決して美談にして英雄扱いなんてしてはならない。そのほかにもいろんな思惑があったのでしょうね。この過去は人の口に上らないよう緘口令が敷かれた。とはいっても魔法で禁止されたわけでもなければ署名させられたわけでもない、ただの口約束だから知ってる人は知っているお話なのだけど。吉田君が言ったように、まだそんなに古い出来事でもないから当時を知っている人も当事者も現役だから」
かいつまんで話したけど、あらやだ。皆箸止まっちゃったわ。食べて食べて。そんなスピードじゃ時間内にデザートにたどり着けないわ。
勧めると食事は再開したけど皆箸が鉄でできてるのかってくらい重くなっちゃったね。ごめんね。
「何が言いたかったかというと、そういった誘拐事件があったからうちの方針として女子は特に厳重に守りましょうってことになっているの。とはいえ全員ではないのよ。うちは人員がそんなにいないから」
「…深雪、軽くしゃべってるつもりだろうけど」
「ヘビーすぎるわ。何なのよ。そんなの警戒して当然じゃない」
そうなのよ。ありがとう理解してくれて。
魔法師の女子が誘拐される危険性はどこの学校でも注意喚起している話ではあるが、あまり身近な話じゃないから聞き流してしまう。平和が続くと危機感が薄れるのも無理はない。
「確かに親が耳タコになるくらい一人で帰るときは気を付けるように言うわけだわ」
「お前がか?」
あら西城くんお口が滑ったね。
エリカちゃんに思いっきり耳を引っ張られていた。
でもそういうことです。魔法師の女の子誘拐されちゃう危険が付き物って認識が強くなったのはあの事件がきっかけ。
「それにしても、その話を聞くとますます四葉ってそんな恐ろしい一族って感じに聞こえないな」
「…いや、レオ。流石にそれは楽観視しすぎだよ。たった数十人で国を亡ぼす切っ掛けを作ったんだよ。十分恐れるべき――、とごめん」
「幹比古が謝ることじゃないさ。実際強すぎる力って言うのは恐怖をもたらす。十師族のバランスも崩れてるしな」
お兄様ったらぺろっと爆弾発言。ま、普通の高校生が聞いたところでどうにかなる話でもないけど。
「愛情深い一族、のわりに達也さん冷遇されたの?」
「愛情が深すぎてこそ、だけれどそのお話はトップシークレットだから」
うーん、恋する乙女は鋭いったら。でもそこまでは明かせません。ごめんね。
たくさんの愛がお兄様に試練を与えた。
「まあ、そう言う意味では俺も四葉なんだろうな」
「お兄様?」
はて、今の話でお兄様が自分が四葉なんて思うことがあっただろうか?
その疑問が表情に現れていたか、お兄様がくすりと笑って、
「深雪が妹であろうともこんなに愛していたわけだから」
そう言ってお兄様の手が伸びたところで、私を挟んで座っていた雫ちゃんがお兄様の手を叩き落とす。
「風紀、執行」
「雫!」
雫ちゃんがかっこいい!!
ありがとう、お兄様ついうっかり触りそうになることがあるから。
「…私怨が入っていないか」
「気のせい」
お兄様と雫ちゃんがにらみ合うけれど、ほらほら。もうデザートに移りましょうね。
「今日はおめでたい三色団子よ」
「…お店のじゃないのよね?」
「串は買ったわよ」
「それはわかってるわよ!」
一応ほら、ここはボケておかないとね。
「…まったく」
「三色団子には魔除けや邪気払いの意味もあるから」
「そうなの?」
「じゃあ達也くんはいっぱい食べておかないと」
残念だけど、一人一本でお願いします。
あれだけ重かったお重が軽くなりました。でもかさばるお重を持ち帰るまでが罰ですからね。お兄様あとはお任せします。
――
こうして、私たちが学校で孤立することもなくなれば、むしろ以前にも増して一高生徒は一丸となって日々を楽しく送っていた。
――そう、一丸となって。
「…これは、どういうことです?八百坂教頭先生」
「百山校長からの許可が下りた」
だから、何故⁇
八百坂教頭から渡されたのは婚約者とのある程度の交際を認めるという謎の許可証。
直接的な接触等の節度は守ってもらうが、とあるが、これは…
「生徒の99%の署名の入った要望書、および嘆願書が提出された」
…なんですと?
「婚約者という関係でありながら引き離すような真似は良くない、とな」
そんな要望がなぜ通るのです⁇
八百坂教頭も頭を押さえていた。校長の決定には逆らえないらしい。校長先生はどちらに?出張⁇いつもいないよね。一体何を考えられているのか。
「ありがとうございます」
一緒に入室して説明を受けていたお兄様が正確な角度をもって一礼して、校長不在の校長室を後にした。
「お兄様はご存じだったのですか」
「署名を集めているのを見かけたことはあったな」
俺も通るとは思っていなかったが、と。
「だが、これでどこでも深雪を口説けるな」
「その、そのようなアレはお控えくださいませ!私の心臓が持ちません」
「大丈夫だ、深雪。お前の心臓が止まっても俺が必ず
「ですから!気軽にそのようなことをおっしゃらないでください!!」
嫌ですよ!お兄様にドキドキさせられて心臓が止まったのを『再生』させるなんて!!そんなお気軽に使わないでくださいませ!
「冗談だ」
「もう、お兄様ったら」
「ああ、ちなみにいつ『お兄様』から『達也』になるのかと賭けになっているそうだ」
「――わが校で賭け事とは、生徒会長として見過ごすわけにはまいりません。現場はどちらです?」
「すでに調べておきました、我が女王」
お兄様、ノリで演劇も板についてきましたね。
――
こうして、私の目論見は崩れ、結局原作通りお兄様と婚約することになったのだけれど、このままのルートでもお兄様を幸せにすることができると判明。
なら、今度こそ隠すことなく口にできる。
「お兄様、絶対幸せにしてみせますから!」
「…それは、男の俺が言うセリフだと思うんだが。そうだな。深雪が幸せになることが俺の幸せだから、共に幸せになろう」
――
そこからも私たちにはたくさんの困難が待っていた。
一条君からの婚約申し込みを皮切りに。
七草からも婚約者をと企てがあったらしいけど、何故か泉美ちゃんが立候補して七草先輩が止めるためになぜか自分が立候補して取り消し騒動を巻き起こしたり。
黒幕おじさんの復讐大作戦を被害最小限に留め、十師族や魔法師への非難がそこまで広まらずに済んだのに討伐隊として一条君が転校してきて一緒に黒幕おじさんをとっちめたり。
藤林さんがお兄様を使ってエリカちゃんのお兄様に揺さぶりをかけたり。
新ソ連のあんちきしょうのせいで水波ちゃんがオーバーヒートを起こして入院してしまったり。
光宣君がやっぱりパラサイト化しちゃったけど閣下を殺さずうちに住み着いたり。
その流れで水波ちゃんもパラサイト化を受け入れちゃうんだけど、うちで何食わぬ顔で家政婦さんやっていたり。
リーナちゃんがやってきてガーディアン代理として私を守ってくれるようになったからこれまた一緒に暮らすようになって大所帯で暮らしてたら――お兄様が不満爆発で一時囲われかけたりといろんな事件が巻き起こるのだけど、それは割愛する。
こうした賑やかな事件や日常が一つ一つ、私たちの幸せを積み重ねていって――エンディングへと向かうのだ。
ハッピーエンドルートまで、あと――
―完-
これにて本編完結です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
この後、達也サイドを続けて投稿します。