妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
服部視点
懇親会後、桐原と二人で部屋に戻ると桐原がどかっとベッドに腰かけた。
「おい、埃が舞うだろ」
「へいへい。悪かったな」
しかし返ってきた言葉に覇気はない。
どうかしたのだろうかと声を掛けると珍しく言い難そうに頭をがりがりと掻く。
「なんつうか、頭良い奴って変に馬鹿になるよなっつーか」
「…?何の話だ?」
「あー?司波の話?」
「…あのへんな作戦のことか?やったところで、と思ったが予想以上に効果がありそうな反応が見えていたな」
「んなこたいいんだよ。俺が言いたいのはそうじゃねぇ」
本当に珍しい。桐原はどうでもいいことは切り捨てるし、心配なら即行動する、良い意味でも悪い意味でも直情型だ。
これが、戦術が絡むと搦め手とかを使ってくる厄介なところもあるのだが、普段であれば人のことで悩むなど見たこともない。
「じゃあなんだ?アイツを馬鹿と呼ぶには材料がない」
俺はアイツと対戦して自分がどれほど未熟かを実感した。
テストの成績は言わずもがな。筆記は非常に優秀だし、馬鹿と呼べる要素はまるで見当たらない。
唯一知っているプライベートは優秀な妹がいるくらいだが、兄としてもアイツは優秀のように思う。
妹を労い、妹を守り――随分仲は良すぎるようだが、それにしても欠点と呼ぶことでもないだろう。
そう思っていたのだが。
「これに関して言えば服部、お前も馬鹿になるよな」
「なんだ?いきなり」
「――七草会長」
「っ、ぐ、ごほっ!」
「…動揺しすぎだろ、本人もいねぇのに」
確かに桐原の言う通りではあるのだが、いったい何の話だ。
「バスで相当揶揄われてたりとか。普段だったらもうちっとマシなくせに」
「……ほっとけ」
「司波はちっと事情が違ぇが」
「!まさか七草会長のことを?!」
「…だからお前は馬鹿だってんだよ。会長のことになるとネジ無くす癖何とかしろ」
この恋愛ポンコツ野郎、と罵られる。
それは、自覚していてもどうにもならないのだがどうすればいい?
見上げただけなのに「知るか」と返ってきた。
人の心を勝手に読むんじゃない。
「読みやすいんだよお前は。――逆にアイツは読み辛い。読めない、んだが。…アイツ、妹のこと好きだろ」
「…それは見ていてわかるが」
「女としてって意味だよ」
「………は」
桐原は今、何と言った?
女として?妹を…?ありえない。
「根拠がなく言ってるわけじゃねぇ。前に妹の方がな、俺をまあ、あれはそんな話でもなかったんだが、容姿を褒めたんだよ。褒めたっていうか認めたっていうか。話の流れでそんな感じになった。そしたらアイツ、俺を睨みやがってな。けん制して学校では妹に会わせないように徹底的に妨害までしてくる始末だ。興味ねぇからいいけどよ」
「…それは、その。シスコン、と言えるんじゃないか?行き過ぎてるとは思うが」
「行き過ぎたシスコン程度じゃあんな目でけん制してこねぇし、あんな目で妹を見ねぇんだよ」
向けられた視線、ありゃ間違いなく殺気だった、と桐原は言う。
桐原は父の仕事の関係で本物の殺気を知っている。だからこそわかるのだと。
「ほんの少しだがな。アイツも本気で向けたつもりもないんだろ。…下手すりゃ無意識だ。そんで、あの時妹に向けていた目はドロドロとした欲の色だった」
そんなものを妹に向ける兄がいるか、と。
「だから余計に思うのさ、頭が良いくせに馬鹿だって。アイツ、自分を追い詰めてどうすんだ?妹と恋人ごっこ?抜け出せなくなったらどうするつもりだ」
「…桐原、やっぱり俺は考えすぎだと思うぞ。だって、…だって妹、だぞ?血の繋がった、妹なんだろ?」
「――服部、俺はな、一方的にアイツに、あの兄妹に恩がある。だから手を貸してやってもいいと思ってあの時、調整をして見せる時もCADを渡せた。アイツらが手助け必要になったら手を貸してやろうって決めてんだ。だからそれとなく見てたりすんだが、今回ばっかりはなぁ」
「その話のどこに手を貸せる場所があるというんだ」
「…だよなあ。もし無自覚なら気付かせたらやべぇだろうし、妹の方はアレもアレでなんかやべぇし」
「司波さんの方にはなんの問題もないだろう?」
「…お前、もうちっと女を見る目を養ったらどうだ?あんな見た目でも兄を守ろうと矢面に立った女だぞ?普通のわけがねぇ。皆あのお涙頂戴に目が曇ってるみたいだがな。バスでお前も見たろ。冷静に燃え盛る火を鎮火したのを。いくら前もって話していたからってあんな行動取れるわけねぇんだよ。普通の一年ならな」
「……まさか、そんな」
「まあ信じたくなきゃ別にいいがな。だがあの兄妹は何か企んでやらかそうってんじゃない。お互いにお互いを守ろうとしてるだけだ。アイツらの世界の邪魔さえしなけりゃ害にはならねぇ。俺にはそう見えた。だから邪魔はする気はねぇんだが」
「……おい、なんでこの話を俺にした?どうにもできないことだろ」
「それはお前が聞いてきたからだろ、と言いたいところだが、ただ単に俺一人で抱えるのが嫌だったからだな」
「俺を巻き込むな!」
「いやあ、持つべきものは優しいトモダチだな」
「お前とは友達じゃない!」
翌日、寝不足を会長に指摘され、大いに慌てて机にぶつかり転ぶという失態を起こすことになる。
――
深雪視点
九校戦、開幕。
新人戦は四日目から。
よって応援と観戦くらいしかすることがない。
一応練習はできるけど軽く、程度だ。誰も実力を見せないからね。手の内は隠さないと。
魔法の対戦といっても相手を直接攻撃するようなものはないし、スポーツ感覚のモノばかりだからどれを見ても面白い。
高校生が汗水たらして頑張っている姿は青春そのもので、見ているだけで胸が熱くなる。
観戦モードで友達と応援なんて、これただのバケーション、バカンスでは?楽しいね。
お兄様も今日はオフでエリカちゃん達と合流して一緒に観戦。お兄様の解説付きでとってもわかりやすい。
七草会長の正確な射撃に渡辺先輩のボード捌きの凄さよ。
なんでも渡辺先輩はボードに体を固定しているようで、お兄様は面白いものを見たと何か思案顔。いいアイデアでも浮かんだかな。
途中先輩の活躍ぶりにエリカちゃんが不機嫌になっちゃったけど、大好きなお兄ちゃんのことだからしょうがない。しょうがないったらしょうがない。
と、そんな楽しい時間を過ごしていたけど、端末がメールの着信を伝える。
さて、どうしよう?周囲には友達以外にも人がいる。
(やるしかないのよね…よし、やってやりますとも!)
心の中で気合を入れる。私は女優!といつもの呪文を唱えてから――。
お兄様の服の裾をチョン、と引いて耳元に口を寄せて。
「ちょっとだけ、二人になりたい、かも」
「……俺もそう思ってたよ」
あー、あー、お色気モードはお戻りください。
ちょ、腰を抱かないで逃げないから!笑顔が、笑顔なんだけど怖い!なんか連れてかれそう。魔王様に攫われる!
周囲からの視線がとんでもないですね。たとえ小さな声でも通りますからね。私も顔が赤くなって戻りません。ポーカーフェイスどこかに落ちてませんか!?
だって、他にどう言えば皆と観戦のこの状態から二人きりになれるの?っていうか置いてきちゃった皆も顔真っ赤だったね。ごめんね巻き込んで。
でも時折恋人ごっこやれって十文字先輩も朝言ってたし。
どうやら作戦が成功して、集中しきれない選手の様子を見たらしい。
正々堂々勝負?戦場で甘っちょろいことを言うんじゃない。老師も言っていただろう。工夫をしたのだ我々は。
…ってことのようです。
すごいね工夫。魔法も何も使ってないよ。違反にならない。ヤッタネ!
とりあえずたどり着いたのは、近いこともあってお兄様の部屋だった。一人で使っているので誰か入ってくる心配もない。
「それで」
「これを」
言葉少なに端末を開けば四葉からの報告で。
「……本当にくだらない理由だな」
簡単に言えばどうやら無頭竜は資金繰りに失敗。今期のノルマ達成が間に合わない!ってことで急いでお金が欲しくて闇賭博を主催開催。八百長をして総取りが目的ということらしい。
まあその八百長は勝たせるじゃなくて皆が掛けてる一高を負かせられれば、がっぽり胴元に!ってことみたいだけど。
ついでに優秀な未来の魔法師をだめにできたら万々歳だね!ってノリらしい。なんてはた迷惑。
「一高の優勝妨害のために死者もいとわない、と。相当切羽詰まった状態に追い込まれているということか?」
「ああ、バスの件ではそうでしたね」
もしあのまま巻き込まれていたらどうなっていたのか。
魔法が使えなければ大惨事、下手したら最悪生存者も残らないほど大破していたかもしれない。相当な衝突事故になっただろう。
そうなったら大会どころじゃないと思うんだけど…もしや大会中止も目的にある?
いや、でも恐らく魔法使うこと前提だろうからやっぱり動揺を誘って、ってことになるのかな。
流石に一高が大会不参加の大事故なんて起こしたら大会が続行できたとは思えない。賭けだって大会前にリタイアであれば掛け直しになるだろう。
一応死亡事故にまでするつもりは無かった、ということだ。
だとしても雑な作戦だ。大雑把すぎる。
仕掛けたことを気づかれないように動くにしてもやりようは他にあったのでは?
それともばれない秘策が――あったね、そういえば。
CADの小細工――これから渡辺先輩がダメージを受けることになるし、その後の森崎くんたちも重症になる。
そしてもう一人、小早川先輩はこの事故がきっかけで――ドロップアウトする。
歴史の生き証人が見ないとわからないほど失われて久しいSB魔法を、一般の現代の魔法師が気付けるわけもない。
しかも細工をするのとは別に大会本部内部にも見逃している人がいるみたいだったし。
お兄様が違和感に気付けたのも、自身が手掛けた私のCADだったからだ。
…お兄様に見つけてもらう?だがそれではお兄様が目立ってしまう。
元々九島閣下には四葉直系の子として目をつけられているのだから、これ以上四葉に力があり過ぎると思われるのは今後の流れ的によろしくない。
「軍の方に知らせて、一高を中心に見張ってもらえば、細工をされる場面を抑えられるでしょうか?」
「目的がわかったからな。ある程度絞り込めるはずだ」
(…ああ、ままならないな)
これは三年前にも思ったことだ。
あの時もこんな気持ちだった。
結局私は見捨てるのだ。大事なものを救うために。
守るためには仕方のない犠牲。しかも前回とは違い死者は出ない。
…だけど体に、そして心に傷を負わないわけではない――。
「深雪?」
私は無力だ。
どれだけ己の力を磨こうとも、知識を蓄えようともすべてを救いきることはできない。
(物語は改変できた。お母様とは幸せに暮らせたし、お兄様は学校で蔑まれることは無くなった。なのになぜ、傷つくとわかっている人を救えないのか)
わかっている。私は神でも何でもない。
知っていたからといってできることは限られている。
「深雪」
「はい、お兄様」
お兄様の為に、彼を幸せにするために生きると決めたのだ。その覚悟が揺らいではならない。
「大丈夫かい?」
「ええ。ちょっと考え事をしておりました」
お兄様が心配そうに顔を覗き込む。
その優しさに私は応えたい、応えなければならない。
「こんなくだらない理由に負けてられません。絶対優勝してやりましょう!」
「そうだな。俺も力を尽くそう」
証拠がなければ軍も動けない。
ならば証拠が早く見つけられるよう、お膳立てをすればいい。
都合よく四葉からは情報があった。これで一高への妨害理由がわかり、注視すべきところが絞り込みやすくなっただろう。
…改めて思うけど四葉の諜報能力やばいね。元々大亜連合の動きは気にかけるように三年前に働きかけてはいたけど。どれだけ網を張り巡らせているんだ。
そろそろ時間だ、とお兄様は軍の皆さんがお待ちの場所へ向かい、私は皆とお昼を食べるため連絡をもらった場所に行ったんだけど。
「…わかってはいるんだけど、何もしてなかったのよね?」
「エリカ…。何なら脱ぎましょうか?」
揶揄うエリカに私がにっこりお返しすると、悲鳴?怒号?となぜか失神者まで出てエリカちゃんに90度の謝罪をされるというカオスな状態になった。
――お昼を食べる場所は変更せざるを得なかった。
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