妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.②

 

 

クリスマス。

今年も喫茶店を貸し切って仲間たちと騒がしい時を過ごす。

去年と違うのは水波がいることだろうか。彼女にとって周囲が先輩たちばかりで居心地が悪いはずだが、深雪の傍に居ることと天秤にかければ比重は見るまでもなく深雪に傾いていた。

深雪も彼女に気を配っているのでさほど息苦しさは感じないのだろう。

途中、深雪が気を緩ませて柔らかい笑みを浮かべたことで、深雪に耐性が付いてきたはずの彼らも顔を赤く染めたり目を逸らしたりする場面があった。

その笑みに擬音をつけるとしたら「ふにゃり」とでも言うのだろうか。

家でもそれほどお目にかかれない愛らしい笑みだった。抱きしめて、独り占めしたくなるような気を許している人にしか見せない可愛らしい笑みを惜しみなく振りまく深雪に、つい注意を促したくなるが、俺が言うよりも先にエリカが注意した。

深雪は今自身がどのような笑みを浮かべているのか理解していないのだろう、困り顔をしているが、それすらも可愛らしい…じゃなかった。どれだけ周囲を虜にするか自覚していない。

困った、けれど自慢の妹だ。

美月が興奮気味に家でもこうなのかと訊ねてくるが、その熱量に若干気圧される。一体何が彼女をここまで興奮させる要素があったのか。深雪が原因だとはわかっているが、それがどう作用してこうなっているのかまではわからない。

とりあえず、俺達でも滅多にお目にかかれないことを、水波を巻き込みながら答えておく。

いつもこんな顔をされていたら、いくら日常化していてもきっと落ち着かない。

兄だからと言って妹に魅了されないわけがないのだから。

いつもなら気を抜かないよう気を付ける深雪も、テスト勉強も終わり、生徒会の大仕事も終えて仲間内でねぎらい合ううちに気を緩ませてしまったといったところか。

貸し切りにしておいて正解だった。

話は流れでこの一年の総括になっていた。

今年ももう一週間切ったからな。この流れもおかしなことではないだろう。

一高に入学してからというもの、何かしらの事件に巻き込まれることが多く、去年に引き続き今年も波乱ばかりだった。

リーナの襲来は特に印象深い。パラサイトやスターズなども厄介だが、彼女の存在は深雪の中で深く根付いた。パラサイトの存在も深雪にとって害悪でしかなかったはずなのに、ピクシーをペットのように可愛がる。

一度懐に入れてしまえば、深雪は途端に甘くなる。どちらも完全に気を許すことはできないが、それを証明する二人だった。

先輩たちが卒業したと思えば、またトラブルのように入ってくる新入生たち。特に七の付く名を持った者たちは本当に面倒ばかりを引き起こす。

七宝はどうにも惚れやすい性質らしく、深雪に初めこそちょっかいを掛けて気を引こうとしていたようだが甘やかしてくれる年上が好みのようで、自分より強い深雪には尊敬は抱けるもののそれ以上の感情は抱かなくなったようだ。

深雪は甘やかすのが上手いから危ないかと思ったが、変な男のプライドが邪魔したらしい。

だがこの男より厄介なのが七草双子の妹の方、泉美だ。

深雪を憧れの『お姉さま』として慕いたいと口では言っているが、あれはただ慕うだけの者の熱量とは到底思えなかった。

深雪にもその熱量が伝わっているのか、自身でも気を付けているようだが、いつ本性を現して襲い掛かるか分かったものではない。なるべく生徒会室にいる時はけん制するようにしているが、俺がいない間は水波とピクシーと、時折入り浸っている雫が警戒に当たっている。

九校戦では九島家が狂った計画を引っ提げて軍と共謀して余計なことをしたせいで、こちらもとんでもないことになったが、…まあ、それは半分は言いがかりか。忙殺されたことで深雪にあんなことをしてしまっていたなんて。さらには追い詰めて泣かせるなど、兄として失格としか言いようがない。いくら謝罪しても許されないことだ。

その後も研究に任務にと予定を詰めすぎて深雪に迷惑をかけてしまった。どれもこれも深雪との時間を取るために、と性急に事を運んだのが悪かった。自分の能力を過信してしまっていた。自分なら問題ない、と。

結果、研究は何とか完成と言える形までこぎつけ、任務も無事に完了したが、精神的疲労は蓄積され深雪が止めるのも聞かずに彼女にドレス一式を贈り、着せて、さらに脱がせることで忌まわしい記憶を塗り替えようとさえしていた。

忌まわしい――何が悲しくて酔っ払いの女性の服を脱がせなければならなかったのか。

以前に夏に水着姿を見ていたので、制服で記憶していた体形とはまた違って見えたこと、女性らしい体つきと感触をしっかり記憶している自分の男としての浅ましさに嫌悪した。

別に潔癖というわけでもない。男なのだから女に欲情することは健全な反応であり、生理現象だと理解している。

むしろこういった反応があるから自分は人間であると実感できるのだが、あの時はそれさえも不快で仕方がなかった。

その上、文句も言わず黙っていたにもかかわらず彼女はあろうことか深雪にそのことを臭わせた。

ふつふつと、ではない。ぐらぐらと怒りが腹の底で煮えたぎっていた。

別に深雪が何かをされたわけではない。それなのに怒りがこみ上げた。

深雪はそのこと――自身のことで怒ることができた兄の変化に気付き、怖がりつつもこれも成長だと変化を喜んでくれていたが、果たしてこの感情は育ってよかったのだろうか。

怒りとため込んだストレスが、おかしな計画を立て、深雪に似合うだろうドレスやワンピース、アクセサリー類を選んで――…最後まで実行されずに済んでよかったという思いと、深雪に迷惑をかけたこと、そしてしようとしたことへの罪悪感に苛まれた。

あれから約二月。流石に今は吹っ切れてはいるが、あれはしばらく引きずった。あれだけ近寄りたくて仕方がなかった深雪に自分から近づくことができなくなるほどに。

 

(本当に、たった一年だというのに事件が多すぎだ)

 

この高校生活の三年間は穏やかで平和な日々を過ごせるはずだった。少なくとも、深雪だけは、普通の学校生活を送れるはずだったのに。

やはり、先に大亜連合を地図上から無くしておくべきだったのではないかと――そうすればブランシュも、無頭龍も、横浜での襲撃も起きなかったのではないか。それによってUSNAが変な実験に手を出すことも、俺たちが目を付けられることもなかったのではないかと思ってしまう。

そう、沖縄の時に混乱に乗じてやってしまえばよかったのだ。戦争を仕掛けたのはあちらの大国だったことは明白で、こちらはただの中学生だった。怒りに任せて全壊でなくとも半壊くらいにしておけば――それも軍事施設だけを重点的に狙い撃てば高校生活の間くらい立て直すのに時間がかかり、その間だけでも穏やかに過ごせたのではないだろうか、と夢想してしまう。

その分周辺国からも日本が警戒されてしまうだろうが、やられたからやり返しただけ。仕掛けてこなければこの国は外交によって和平を結ぶつもりだったことは各国にも伝わっていたはずだ。

――とは、さすがに楽観視しすぎか。軍事施設を落とせば各国の警戒度が上がって日本が孤立していた可能性もあった。即第4次戦争が起きてもおかしくはない。

結局、俺はいくら世界を破壊する力を有しているからと言っても何もできないのだ。

どんな力を持っていたとしても、たった三年間の平和も守れない。

適当に会話に参加していたものの、やはり深雪には気もそぞろだとバレていたようで、ジュースを受け取る際に大丈夫?とのぞき込まれる。

優しくて、兄貴思いのいい子だ。

そんな妹に、俺は何を返してあげられるというのか。

安心させるように頭を撫でるだけで、目を細めて享受してくれるこの何よりも大事な存在に、俺は何をしてあげられるだろう。

――彼女を幸せにしてあげたい。

幸せになりたいと言ったあの時の少女を、幸せにするのだと決めた。

そして事あるごとに幸せだと口にする彼女をもっともっと喜ばせてあげたい。

これからもずっと彼女が幸せであり続けられるように――。

 

(だが、その時俺はどのようにして見守っているだろうか――)

 

店内にはコーヒーの香りが充満した。

 

 

 

 

パーティーが終わる頃、ほのかから初詣の誘いがあった。

来年も誘われるだろうことは予期していたので慌てることはない。申し訳ないが断るしかできなった。

深雪が行きたそうにしていたが、それができないことは彼女が一番わかっていた。

そのささやかな願いすら叶えてあげられないことが残念でならなかった。

初めて、全員が揃っていけるはずの初詣。本当なら行きたくて仕方がなかっただろうに。

しょんぼりと肩を落とし落ち込む深雪に雫たちが仕方ないよと慰める。

本当に、深雪は愛されている。それがとても誇らしい。

その予定が終わったら遊びに行こうと誘ってくれるのは嬉しいが、どのような形で発表があるかわからないので断言はできず、曖昧に言葉を濁した。

いい時間になったのでそのままパーティーは閉会。最寄りの駅に着いて、深雪は皆を呼び止めた。

そしてカバンから取り出したのは俺と水波を除く人数分の白い封筒――手紙だった。

そんなものを用意していたことは知らなかったが、その手紙には別れの挨拶が綴られているのでは、と予想がついた。

爆弾付きの手紙、か。あまりに物騒なことを言うから窘めれば、ごめんなさい、と言葉の割に反省していない様子で笑って返していた。いたずらっ子が浮かべるような笑みに見えたことだろう。俺の目にもそうとしか見えないのだが――そうか、彼女の中で決別は確定していて遊びに行くことはないのだろう。

一月二日に見てほしい、というのは発表直前に読んでほしいということなのか。公表するにしても元旦にはしないと思われた。だが三が日中にはあるのかもしれないと考えていたが、深雪の読みでは二日らしい。

楽しみね、と笑う彼女たちを深雪は今どんな気持ちで見送っているのだろう。

じゃあねー、来年もよろしくなー、と言う友人たちに、深雪は返す。

 

「よいお年を」

 

にっこりと微笑んで来年を約束することなく、別れた。

別れ際に、ほのかから名残惜しそうに見つめられるが、彼女には結局何も返してやれなかった。それでいいのだ、と言われてもそうか、と納得できたのは初めだけ。親しくなってこの子はこれでいいのだろうか、と心配になるくらいには深い付き合いとなった。

その気まずさに気付いたのか上目遣いの形で視線を向けられたが、俺の口をついたのは先ほどの手紙のことで。

 

「あの手紙には何が書いてあるんだ?俺には貰えないのかい?」

 

わかっている。あの手紙が俺には必要ないことくらい。それでも、深雪から手渡された彼らが羨ましく思えた。

 

「お兄様には直接年明けのご挨拶ができますでしょう?」

「残念だ」

 

くすくすと笑う深雪の肩を抱いた。

いつもなら、水波がいるところではこのようなことはしないようになっていたが、今はこの落ち込んでいる深雪を慰めることが先決だった。

水波もそれがわかっているのだろう。本当に、彼女は良い従者になった。深雪のことを第一に思う、主思いの守護者に。

 

「深雪姉様、帰ったら温かいココアでも淹れましょう」

「いいわね。マシュマロも浮かべてくれる?」

「ご希望通りに」

「ふふ、嬉しい」

 

可愛らしい彼女たちの会話に、心が温まる。

早く帰ろう。温かい我が家へ。

 

 

――

 

 

翌日、深雪たちを残してラボへ向かった。

そこでは予定にない来客があった。

FLTにまでわざわざ赴いて慶春会に向かわせたくないと、直接言いに来た黒羽貢の考えがわからない。

深雪が当主になることは認められるのに、時期が早すぎるから妨害工作をするとは――馬鹿馬鹿しい、としか言いようがない。

分家が俺を毛嫌いしていることは理解している。なぜそうなったか、どうしてそう思うかは興味もないので考えもしなかったが、こうして妨害工作に遭うというのなら知るべきだったのかもしれない。

慶春会までに本邸に辿り着けば理由を話すとの約束を取り付けたが、一体どんな風の吹き回しか。まさかと思うが辿り着けないなどと本気で思っているのだろうか。

深雪が出席すると決めたのだ。何が何でも間に合わせるのが俺の仕事だ。たとえこちらの手の内を知っている彼らであろうともその妨害を跳ねのけて、無事深雪を送り届ける。

それは決定事項だった。遂行されて当然の任務。

実際に本邸に間に合ったとて彼が約束を守るかは五分五分と言ったところだが、それでもかまわない。

彼らに期待することなど初めから無いのだから。

 

 

 

帰宅する。

この家に来客があったことは深雪を視ていたのでわかっていた。

だが、訊ねずとも深雪の方から今日あった出来事を語ってくれた。夕歌さんが一緒に慶春会まで行こうと誘ってきたのだという。

彼女のガーディアンが亡くなった件は多少興味を引かれたが、深雪が詳しい事情を知るわけもないので調べるにしても後回しだ。

彼女は深雪と同じ次期当主候補。一緒に向かう道中、事故に巻きもまれでもして難癖や言いがかりで深雪にケチが付くことも想定できる。

メリットは――妨害工作の証人くらいだろうか。あとは、深雪の盾くらいにはなるか?彼女も立場としては深雪と同じだからな。

メリットとデメリットを比べてみて、リスクが高いように思う。断るべきだろう。

深雪も賛成なのかあっさり受諾。連絡を入れに行った。

 

 

――

 

 

妨害があると聞いて例年通り前日に出るわけもなく。

到着できないことを前提に、露払いを目的として29日から出発した。どのような妨害があるかわからないが、辿り着けるならそれもよし。もし辿り着けなくても相手の本気度を見る上で下見くらいにはなるだろう。

キャビネットに乗り、これからしばらく何事も無く予定の駅まで行くと思われるが、水波の動きが硬い。護衛としての経験の浅さが彼女の自信を揺らがせているのかもしれないが、以前襲撃された時の反応を見ればその場の対応は問題ないはずなのだが、これは前もって話したのが裏目に出たか?

いや、深雪の護衛に付くならばこれくらいのことすぐに慣れてもらわねば困る。

しかし、こんな時にかける適切な言葉など俺は知らない。同年代の女子の緊張を解す声掛けなど成功した試しなどほとんどないのだ。

ならば俺がどうこうするよりも自身で立ち直ってもらった方が早い。幸い、彼女の感情を揺り動かす手段を一つだけ知っていた。

 

「深雪、寒くは無いか。もう少しこちらに寄りなさい」

「あの、」

「寄りかかれば多少温かいだろう?」

 

キャビネットの中は空調が利いていてコートも着込んでいるのだから寒いわけはないことくらいわかっている。

空調は客が操作できるようになっているからもう少し温度を上げて暖かくしてコートを脱いでリラックスしてもらってもいいと思うのだが、一応いつ襲撃が来るかわからない状態だ。下手に脱いで荷物にするのもためらわれた。

しかし、抱き寄せて思うがこのコート一枚がとても分厚い膜のようだ。深雪の温度を感じられない。

 

「手も冷えているね」

 

少しでも温度を感じたくて、深雪の素手に触れる。もともと冷え性の深雪の手は冷たく、可哀想なほど冷えていた。

こういう時自分の体温が高めでよかったと思う。深雪を温めてあげられる。

ただ握りこむだけではなくしっかり全体を温めてあげられたら、と指を絡ませ握っては離しを繰り返す。こうすると血行が良くなるらしい。

深雪の頬が徐々に赤く染まりだした。…掌だけでなく全身にまで効果が出るのか?だとしても反応が早すぎるような気もするが。

 

「お兄様、その…何かございましたか?」

 

うっすらと頬を上気させた深雪の目がちらりと窓の外に向いたので、どうやら襲撃に関して何かあったのかと思わせてしまったようだ。

敏い子だけれど、ずっと警戒をさせたままというのは良くないな。俺がいる時くらいは気を休ませてやりたいと思うのに、そうさせてあげられないこの環境が恨めしい。

今は監視の目もない。襲撃するにしても公共機関は狙わないだろうからしばらくは安全な旅のはずだ。少しくらい甘やかしてやりたい。ついでに俺も英気を養いたい。

 

「心配しなくても何もないよ。それとも何かなくては深雪とこうして触れ合ってはいけないか」

 

さらに身を寄せて覗いみれば、照れたように顔を赤く染める深雪に癒されつつ、ふとマフラーに隠された首元も染まっているのだろうかと気になって肩に乗せていた手を伸ばしかけたところで、

 

「!達也様、深雪様から離れてください!いくらご兄妹とは言えど距離が近すぎます!!」

 

水波が復活した。

緊張を使命が上回ったようだな。

大体達也様は――、とここぞとばかりに不満をぶつけられるが、交換日記の延長戦のような応酬のため機械的に口が回った。この関係にも慣れたものだ。

初めて水波が来た時は一体どうなることかと思ったが、まさか一年もたたずにここまで砕けた関係性になるとは思わなかった。仲間たちとは違う、また新たな身内として自分が受け入れる日が来るとは。

これも深雪のおかげなのだろう。深雪がいるから、このように面白いと思えることが増えている。

日々が、充実している。

これを幸せというのだろう。

この幸せが、危機にさらされるというのなら、全力で抗って見せようじゃないか。

準備は着実に整いつつある。耐え忍ぶ時期はもう終わるのだ――。

 

 

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