妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.③

 

 

中継地点の目的地へと到着し、運転手と合流する。

水波はその運転手とそれなりに親しいのか当たり障りのない会話を交わしていた。

こちらに対しては特に嫌味をぶつけられることもなく、荷物を積み上げる作業を早くしろとせかされるようなこともない。存在を無いものとして扱う態度だったのでむしろ気は楽なのだが、深雪にはそれも不快だったのか、少しばかり棘のある言葉で運転手を狼狽させていた。

俺のことで不快にさせてしまったことに募る罪悪感もあるのだが、俺のために怒ってくれたことに心が浮き立つ。

愛おしいという気持ちに上限はないのか、どんどん積み重なって重みを増していくのを感じた。

準備も整いすぐに予定通り出発し、しばらく動きはなかったが民家等の建物が見えなくなる頃事態は動き出した。

深雪も落ち着いたもので、守られる側だというのにいつでも魔法が展開できるようスタンバイしている。

頼もしい限りだ。

水波の防壁も問題ない強度を保っていたのだが、敵が予想外の攻撃をしてきた。魔法一本で片をつける魔法師の戦い方ではない。

接近戦に持っていかれると水波では不利だと判断。

相克を引き起こして相手の魔法を阻害し、その間に接近戦を持ち込まれたら水波の魔法だけでは心許ない。

水波に魔法を解除させ飛来物を片付けると運転手に町へ戻るように指示を出したが、当然のように運転手は俺の言葉に耳を傾けようとしない。緊急時だということを理解できていないのか、自身のドライブテクニックとやらに自信があるのか。

どちらにしても無駄なタイムラグだ。深雪の身体が不愉快だとばかりに揺れた。

深雪が同じ言葉を掛ければ車は彼女の指示通り町に向かい動き出す。

 

「水波、深雪を頼む」

「はい!」

「深雪、駅前で落ち合おう」

 

つまりここで別れると伝えると、離れることを不安がるよりも俺のことが心配だとばかりに一心に見つめられる。

きっといろいろと言いたいことはあるだろうに、きゅっと口元を結んでから絞り出すように言った。

 

「ご武運を」

 

本当に、深雪は聞きわけが良すぎる。

それがありがたいのだけれど寂しいような気分にさせられて、なんとも自分勝手だなと自嘲した。

それぞれに指示を出してから軍から支給されている耐熱のサングラスを主に顔を隠す目的で装着し、窓を開ける。

Uターンをすると同時に窓の外に躍り出る直前、深雪の目が俺に釘付けであることにこんな時でさえひどく高揚させられた。

 

(ああ、早く片を付けてあの子の元へ戻ろう)

 

必要以上に心配などかけたくもないから再生どころか傷一つ負わないようにしないと。

予定通り着地を決めて敵を屠ることに集中する。

できるだけ早く彼女の下へ帰るために。

 

 

 

予想に反して一掃するのに多少手間取ったのは、彼らの特殊性にあった。

こんなものを持ち出すなんて思っていたよりも本気で妨害しようとしているのか、と相手の本気度を修正する。

一応背景を吐かせるべきかと思ったのだが警察の到着が思ったより早い。…もしかしたらこれもまた妨害工作の一環か?警察に聴取でも受けようものなら痛くない腹を探られ拘束される恐れもあった。

この場から立ち去るほか無さそうだ。

深雪の居場所はわかっている。思ったより待たせてしまっているようだから急いで向かおう。

駅の待合室が見えてくる頃、中から飛び出してきたのが瞬時に深雪だと判明し駆けつけるスピードを上げた。

互いに距離が縮まると合わせたようにスピードを落として見つめ合う。

人気はない。ただ防犯のカメラはある。…深雪もそれに気づいてか、胸の前で手を固く結んで眉を下げながらも安心したと伝えるように健気に笑む姿にグッときて今すぐに抱きしめたいのに抱きしめられないことが辛く思えた。

 

「すまない、待たせた」

 

だからせめて頭を撫でるのだけれどそれだけで深雪の笑みが深くなり、ああ、帰ってきたなと心が温かくなったところで、カメラには見えない角度で口元を緩めると手のひらに頭を擦りつけるような仕草をした。

 

(…一体俺をどうしたいんだ…)

 

あまりの可愛さに心臓が掴まれたが、ここに突っ立っているのもよろしくない。水波も待合室の入り口で待機していた。

これくらいなら問題ないだろうと肩を抱いて待合室へ戻り、水波を労い今後の予定を話す。

その間何度か水波に睨まれたが、せいぜい抱き寄せたり頭を撫でるくらいしかしていないのに、さすがに警戒しすぎではないか?

これも深雪への忠誠心の表れか。睨まれたところで痛くもかゆくもないので気にもならないが、これ以上触れると口も出しそうだとそれ以上の接触は控えた。

深雪が本家へ電話し、漏れ聞こえる声に小原執事かと察せられるくらいには張り切った声だった。電話越しでも直立不動で話しているのが伝わってくるようだ。

だんだんと深雪の声が温度を下げていく。湛えられている微笑みは深くなり恐ろしいほど美しい。

 

(こう言っては何だが、怒りの感情で彩られる深雪の美しさはまた別の美しさがある)

 

当然幸せそうな笑みも全てを魅了する美しさがある。見る者も幸せにするような、心が蕩けそうになる笑み。

だが、この怒りを押し込めて浮かべられる笑みというのは彼女の闘争心も垣間見れて恐ろしくも美しく、目が離せなくなる笑みで、滅多にお目にかかれるものではないが挑発的にも見える視線を宿すその表情が、たまらなく惹きつけられる。

そんなことを考えているなどおくびにも出さず、深雪からの質問に端末上で答える。

十時に迎えを、と指示を出し音声電話は切れた。

 

 

 

帰宅するとご褒美だとばかりに深雪手ずからのコーヒーが。もちろん深雪にそんな意図はないだろうが、この時間から深雪のコーヒーが飲めるのは本当に久しぶりだ。

水波の味にも慣れてきたが、やはり深雪に淹れてもらうのが一番慣れ親しんだ味だ。美味い。

そして今日の襲撃者について推測を交えて語ると水波がショックを受け、それをこっそりと痛ましげに見つめる深雪に、この話題はまだ早かったかとも思うがここで誤魔化す方が危険だろう。敵を見誤ることは悪い結果を生むことになりかねない。

深雪がそれとなく話題を逸らしたことで悪くなった空気の流れが変わった。

本当に、優しい子だ。

とりあえず深雪たちにはまだ分家からの妨害とは伝えていない。襲撃の忠告があったとだけしか伝えていないからだ。

だが、ここまで来てそれを隠し続けるのも無意味かもしれない。今日の襲撃実行犯を見てそう思った。

分家の誰かが、と言葉を濁しながら首謀者を臭わせておく。

結論として慶春会には妨害があろうが突破して出席しなければならないと語る深雪はとても落ち着いていた。

自身が分家から妨害を受けているなんて、落ち込んでおかしくない内容だというのに。

優しくて、強い子だ。

自慢の、俺の妹。

 

必ずこの子を幸せに――

 

 

――

 

 

内通者、または内部の情報が洩れている可能性があったので、揺さぶりをかけるつもりで30分早く変更した場所へ向かうと、すでに手配した車が止まっていた。

注意深く周辺の動きに警戒していたのだが、今度の敵は古式魔法師らしい。厄介だな。

彼らの術式は一人一人単純であっても複数組み合わさった時の威力は幹比古やこの前の京都で経験済みだ。相手の出方を待つよりさっさと片を付けた方がよさそうだ。

その時間稼ぎの意味もあるのか、後方に追い立てるようにヘリが向かってきた。そうなると前方に仕掛けてくるのが定石だ。目をやればまさにセオリーの通りトレーラーが突っ込んできた。

 

「ブレーキ!」

 

流石にこの緊急時、運転手も危機を感じたのか俺の声に反応して思い切りブレーキを踏んだ。

水波にシールドの指示を出し、今日もサポートに回ろうとする深雪に無茶はしないようにと視線を向け、三人で頷き合うと各々自分の仕事に集中した。

現代兵器を併用しての奇襲作戦は、しかし用意していた場所と異なったことも影響したのだろう。多少粗が目立ち、そこが隙となり魔法を完成させる前にいくつか消しては物理にものを言わせて文字通り蹴散らしていく。

魔法師は大抵接近戦に弱い。古式魔法師はもちろんその弱点を克服すべく研鑽を積んでいるのだろうが、結局のところ術式がアップデートできていない現状、現代魔法師の発動より鈍く、一般の兵士相手なら問題ないだろうが、魔法技術を併用できる戦闘魔法師の前では遅すぎた。

サポートの魔方式の展開が早くとも、本隊の動きが伴っていなければお粗末と言えよう。

昨日の人造サイキックの方がまだ手ごたえがあった。

全員を昏倒させて戻ると、落ち込んでいる水波を慰める深雪の姿が。

…EMP爆弾を使用されたらしい。

おかげで車が動かなくなった。幸い携帯端末は四葉製だったため無事のようだが、まさか四葉から用意された車が対策していないとは思わなかった。チェックした際に仕掛けが無いことは確認していたんだが。

しかし、こんなところでいつまでも立ち往生していても仕方がない。深雪に車を呼ばせようとしたところで深雪の端末に連絡が入る。

初めからこうなることがわかっていたのではないかというタイミングで駆けつける彼女に疑念を抱くところだが、だからといって彼女が直接俺たちに何かを仕掛けるとは思えなかった。

もし何か嵌める予定なら初めからあのような誘いはしないだろうからな。まさかそのためだけに自身のガーディアンを殺すわけもない。

彼女の車に乗り込み、警察を遠ざけておくのも限界との言葉に周辺電波を傍受する。

これだけ早く警察が動くとなると、やはり昨日のあの警察の到着の早さも妨害の一つであったらしい。

深雪と夕歌さんの言葉の応酬に口を挟みつつ様子をうかがう。

 

「なんて、意地悪だったわね。――貴女を本家に行かせたくないのよ」

 

分家の思惑を彼女はどこまで知っているのか。それによっては深雪から追及があるかもしれないな、と音声ユニットと端末を片付けた。

 

 

 

 

今日はこれ以上先に進めない、と津久葉家の別荘で一泊することが決まり、じっくり話をすることとなった。

話すことは山ほどあったので困ることもない。

ただし、その間も深雪は淑女教育を生かした会話をしなければならないのが大変そうだった。

嫌味の応酬や、言葉の裏を探るような会話はさぞ疲れるのだろう。聞いているこちらにもその苦労が伝わってくるようだ。

用件だけ話せばものの5分で終わる会話もその五倍も十倍も膨れ上がるのだから。

紅茶も運ばれ、ようやく本題に入ったが、話せる範囲なら本心を打ち明けるという割に、居合わせた理由についてははっきりと嘘を口にした。

早速話せない範囲だったということか、もともと話す気もなかったのか。

しかし、その後の彼女の話は嘘ではない情報が織り込まれているようだった。

次期当主の指名が行われるということ、それに対して分家が俺の立場が付随したまま深雪を次期当主にすることを不安視し、妨害工作に走ったということ。

だが、世間からだけでなく『世界』から隔離させたいとは。随分と大げさな表現だと他人事のように思う。

夕歌さんは深雪が次期当主になることに賛成で、もともと次期当主候補に名を残しているのはもし反対者が現れた時の対抗策として残っている、とのことだった。

鵜呑みにできる話でもないのだが、深雪は納得したようだった。裏を読むのが得意な深雪がこの言葉を単純に鵜呑みにするはずがない。恐らく俺の知らない何かしらの情報を持っているのだ。

しかし、その落ち着き払った態度から深雪も年齢を疑われるようになったか。

見た目はいくら美少女でも、同年代と比べれば大分落ち着いているか。思慮深く、高校生というにはこの堂々たる態度は大人びて見える。

いつまでも可愛らしいままの妹ではないのだと頭では理解できていても、俺にとってはいくら綺麗になろうと美しくなろうと、大人びようとも――

 

 

 

「兄を飼い殺しにするつもりだという分家を生かす理由ってあります?」

 

 

 

ヒヤリ、とした空気が通り抜けていった。

発言した深雪自身によってすぐに冗談だと付け加えられたけれど、その言葉には肝が冷えた。

深雪の、そう言った発言を初めて聞いた。粛清することも厭わないような、君臨者然とした発言に、知らない一面を見せられたような。

 

「そんなことをしてはただの独裁者になってしまうではないですか。四葉にまた悪い印象を植え付ける必要性はございませんよ。四葉は別に悪の組織でも何でもないのですから」

 

撤回するようににっこりと微笑む深雪に、夕歌さんは長いため息を漏らした。

それから水波が高く評価され、二年後には俺の代わりが務まると思われていることに無邪気に喜んで見せた後、ふぅ、とわざとらしくため息をついてみせてから、無駄な抵抗をする分家もご苦労なことだ、と呆れて見せた。

 

「私たちは確実に本家に到着しますもの」

「明日は何を仕掛けられるかわからないのにすごい自信ね」

「それはもちろん。私たちには頼りになるお兄様がいらっしゃいますもの」

 

先ほどまでも空気を一変させて、まるで隠していた宝物を見せびらかすようにいたずらっ子の笑みを浮かべる深雪の、なんと可愛らしいことか。

淑女の仮面を外した笑みを見せられて言われてしまえば、がぜんやる気も出るというものだ。

夕歌さんは見事深雪の演技に騙され兄妹不仲を信じていたらしく、彼女の淑女の仮面が剥がれ落ち表情が引きつっていた。

輝く笑みを浮かべる深雪が可愛らしい。ソファではないから抱きしめられないのが残念だ。…人の家ではするべきではないことは一般常識として俺でも弁えているが。

今この場面で淑女も仮面を外したということは、深雪は夕歌さんを自陣へと取り込むつもりなのだろう。

夕歌さんの容姿も大変優れている部類に入る。深雪は綺麗なモノや美しいモノに弱い。ずっとこの時を狙っていたのだろうな。

 

「よかったな、深雪」

「ええ。これでお兄様とも水波ちゃんとも普通におしゃべりできますね」

 

そんな計画を思わせない深雪は、嬉しそうに微笑んで紅茶を一口。

深雪が嬉しそうなのが一番ではあるが、…複雑だな。このまま夕歌さんも彼女の虜になるのかと思うと、味方が増えることは良いことだと思うのだが…これもまた幼稚な独占欲なのだろうか。時折胸に抱えるもやもやとしたモノを感じた。

 

「…随分大型の猫を被ってたのね」

「普段飼うことはできないので二、三十匹は乗っけていますね」

 

猫かぶりの話をしているが、深雪が猫を被っている…想像をするだけで可愛らしい。可愛らしいと思うのだが。

 

「深雪」

 

二人の会話に口を挟む。

 

「うちはペット禁止だからな」

 

普段飼うことはできない、の普段とはどういう意味か。動物は無理だとわかっているはずだが、ピクシーをペット枠として家へ連れて帰りたそうにしているのを知っているだけに、ここは注意しておかねばならない。

ただでさえ水波と暮らすようになって減った二人の時間が、ピクシーも来ようものならさらに減るのは目に見えている。いつかは引き取らねばならない時が来るかもしれないが、だとしても家はあり得ない。もしや常時結界を張っていないと大変な目に合うことを忘れているのではないだろうかというほど深雪からは警戒心が見当たらない。

水波がフォローを入れるが、深雪の望むものではなかったため深雪がさらにへこんでいた。

それを見た夕歌さんが半眼になって突っ込み、それに深雪がポンポンと返していく。

昔から仲の良かった親戚同士の気安いやり取りのようだが、二人がこのように長く会話をするのは初めてのことだ。

そして始まる、深雪の友好を深めたいとのお茶会後半戦。茶菓子はトランクの中から出てきた、深雪お手製のクッキーだ。

いつの間に仕込んだのだろうか。

こうなることを予期していたのかと言うほど準備が良い。

淑女たちによる仮面越しのティータイムは終了し、今では女子大生と女子高生による女子会のあり様になっていた。

特に一高の話となると盛り上がり、隠していても無駄だろうから、と深雪自身から一高の秘密である本のことをばらす。

一科と二科の壁がなくなったという話よりも大きな反応だった。聞いたこともない大きな笑い声。涙目で腹を抱えていた。…そこまで面白い話だろうか。俺にはわからないが、あの本の影響で深雪の傍に居ることが不自然にならないのはありがたい。普通の兄妹というだけでは傍に居るだけで変に注目されかねない。俺は気にしないが、深雪が居心地が悪くなるのは護衛としても兄としても見逃せない。

水波が遮音フィールドを展開していたから大きな声を出しても咎められるようなこともなかったのだが、あの使用人だったら様子見くらいしそうだったからな。

一気に仲の深まった二人は握手を交わす。

こうして、深雪の地盤は盤石なものになっていくのだろう。

次は黒羽姉弟だろうか。ずっと深雪は仲良くなりたそうにしていたからな。

それはとても喜ばしいことのはず。だというのに、先ほど同様不快感のようなものがたまる感覚が。

…疲れが出たとでもいうのだろうか。妙な倦怠感に見舞われた。

 

 

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