妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.④

 

 

食事も終え、案内されたゲストルームは深雪の部屋から離れたところだったが、彼女の隣には水波の部屋がある。こんなところまで襲撃は来ないだろうとは思うのだが、警戒するに越したことはない。

明日が妨害の本番となるだろう。

どちらをメインウェポンとするかと悩み、選び取るタイミングでドアの前に気配が。間違いなく深雪だ。

しかし、ここは一応他所の家。どこに目があるかなんてわからないし、仕掛けが無いとも限らない。

訊ねれば「深雪です」と聞き間違えようのない鈴を転がしたような声に、すぐに扉を開けた。

ほぼノータイムで開いたことで浮かぶ深雪の戸惑いの顔に、クスリと笑うと深雪も苦笑を浮かべていた。

片付け途中であったカバンが目に入ったのだろう、深雪は視線を逸らして部屋を観察している風を装っていたのでとりあえずベッドに座って待っててもらうことにする。

深雪はどうしてもベッドに座ることに抵抗があるらしく、恐る恐る浅めに腰かけていた。

いつまでも慣れることのない初々しい反応が可愛らしい。警戒する小動物のよう。

緩みそうになる口元を深雪から隠しながら広げた荷物を適当に詰めカバンを退かし、唯一の椅子に腰掛ける。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

下手に揶揄うのも良くないだろうと訪れた要件を訊ねたのだけれど、思わぬ反撃に遭う。

 

「何も用が無くては来てはいけませんか?」

 

俺から顔を背けながら言っているのだからきっと彼女は自分の顔は見られていないとでも思っているのだろう。

だが、深雪には残念なことだろうがばっちりと視えていた。視えた情報をもとに構築した深雪を視ていた。

プイっと背けたられた顔も、拗ねていると言わんばかりに尖った唇も、言い終わった後に不安で揺れる瞳も、すべて視ていた。

あまりの可愛さに、煩悩が沸き起こる。今すぐに隣に腰掛け抱きしめて、よく顔を見せてもらいたい。そんな欲が。

ここはうちではない、と言った傍からこれだ。特にストレスなんてため込んでいなかったと思うのだが、このような思考は良くない。痛む頭を押さえると、深雪が心配して声を掛けてくれるが心配してもらうことじゃない。

ただ、お前が可愛すぎて構いそうになるのをこらえているだけだ、と言えば、深雪は若干引いたようなぎこちない態度を見せ、頭が冷静さを取り戻す。

深雪が来た理由、それはすぐに見当が付いた。その予期した通り、俺が妨害工作をしている分家の目的を知っているかと問いただすものだった。

肯定すると隠し事をしていたというのに、深雪は俺を責めることなく逆に心配をし、そのことが迷惑になっていないかと問われた。

 

(深雪が心配してくれることが迷惑?そんなわけがない)

 

深雪が俺のことを気にかけてくれるだけで、どれだけ救いになっていることか。

深雪は俺の光だ。生きる指針。深雪がいなければ、俺は生きる屍となっていたはずだ。

俺の方こそ黙っていて悪かったと謝罪すると、深雪は淡く微笑んでから、まっすぐと貫くような視線を向けて。

 

「お兄様がそのように私を気遣ってくださるように、私もお兄様を思っているのです。そのことだけはお忘れにならないでくださいませ。――私は、お兄様の絶対的味方ですから」

 

――いつまでも、お兄様の味方です――

 

それは、何かを予感しての言葉だったのかもしれない。

いつもなら心強い言葉に聞こえるはずだ。深雪が味方をしてくれるなら、世界中が敵に回っても良いと思えるくらい勇気づけられる言葉のはずなのに。

 

(なぜ、こんなにも落ち着かない気持ちになるのだろう?)

 

感情が分からない。

深雪のことに関しても喜怒哀楽とはっきりしたものならわかりやすいが、それ以外の感情の機微などはわからない。他人のもさることながら、自身の感情だってわからない。

以前なら深雪にこれは何だと聞けただろうに、今訊ねることは憚られた。

というより、どう言葉にして聞けばいいのかわからなかった。

思考が落ち着かないところに、重ねられた言葉に息が止まる思いがした。

 

「お兄様に鳥かごなど似合いません。自由に羽ばたいてくださいませ。その時はもう近づいているのですから」

 

――鳥かご。

それは自由のない人間によく使われる比喩だとわかっている。

四葉に捕われ抜けられずにいる俺たちは確かに鳥かごや檻に囲われている状態に思えるだろう。

だが、その言葉は今の俺にとってはただの比喩に思えなかった。

何故、深雪の口から彼女と同じ言葉が出たのか。偶然なのか、それとも――深雪自身も感じているのだろうか?

 

(俺が、お前を閉じ込めていると、そう思って――)

 

いや、違う。今の言い方は俺の方が閉じ込められているという話だった。

深雪は、いつでも俺の身を案じてくれている。

だからこれもきっと、俺のことを思っての発言なのだろう。

 

「突然部屋に押しかけて妙なことを申しましたね。失礼しました」

「いや…。俺のためなのだろう?」

 

指摘をすれば、思ってもいなかったのか深雪の肩が震えた。

それくらい、俺にだってわかるさ。

深雪の反応にクスリと笑いが漏れた。しかし、少し自嘲が含まれていた笑みで不格好なものになったが、深雪に気付かれる前に口を開く。

 

「お前がそう言う時は、何時だって俺のためだった」

 

何時だって彼女の言葉が力を与えてくれた。

自分が不安だったから話を聞いて欲しかっただけ、などと言うが、もし本当にそうなのだとしたらきっとこちらから訊ねない限り口にしなかっただろう。

 

「明日もきっと一筋縄ではいかないでしょう。ですが、これくらいの障害を私たちが乗り越えられぬはずもありません」

 

そうでしょう、と微笑む深雪が眩しくて目を伏せてそうだね、と返す。

 

「俺の任務はお前を慶春会に参加させること。必ず無事送り届けるよ」

「はい。頼りにしております」

 

深雪に期待されたなら応えないわけにはいかないし、元よりそのつもりだ。

必ず無事に慶春会に参加させる。

それが深雪の望むことならば、俺はなんだって叶えよう。

このまま部屋でいつものように過ごしたいところだが、何度も言うがここはうちではない。

遅い時間と言うほどではないが、何時までも深雪を兄妹とはいえ異性の部屋に長居させるのはいただけない。何か企んで計画していると疑われても困るしな。

部屋に送り届ける間も、何かが引っかかっているようで気持ちの悪い思いがした。

一体何が引っかかるというのだろう。もやもやとして形にならないこの感情の整理がつかない。

無言で歩くことは珍しくもないのだが、人の機微に敏感な深雪はすぐに俺の違和感に気付いてしまう。

 

「あの、お兄様、先ほどはお兄様に負担を掛けるようなことを言ってしまいましたが、そんなに気負わなくても…」

「ん?ああ。道中のことは大した問題じゃないよ。もちろん警戒を怠ることなどないけれど」

「では、何をそんなに悩まれているのです?」

「…そうだね、俺もそれがよくわからないんだ」

 

誤魔化しは無駄だ。ただ不信感を与えるくらいなら素直に話した方が良い。

正直に話すと、驚きとともに嬉しそうに口を綻ばせるものだから、俺もこうして胸の内を吐露してしまうのだろうな。

深雪は本当に俺の扱いが上手い。

 

「お兄様でもわからないことがあるのですか?」

「深雪は、俺を何でも知っていると思っているようだが、俺の分かっていることなんてほんのわずかだよ。むしろ人よりわからないことだらけだ」

 

無知を晒すなど格好悪い話だ。

だが、深雪はこんな俺でも笑わない。不安そうにするわけでもない。

彼女にとって俺が自身のことで悩むことは喜ばしいことらしい。まるで妹ではなく母親のような献身さだ。

そのようなことを望んだつもりはないが、深雪から与えられるそれらの愛情は心地の良いモノで、拒むなど考えられない。

やはり、妹にばかり甘えているな。これがあるから手放すことができず、俺が鳥かごで深雪を囲っているという風にみられる原因となるのか。

どうにかしなければ、と思うたびにちりり、と胸に痛みが走る。

連動するようにもやもやした感情もざわついた。

 

(…一体、なんだというんだ)

 

深雪のことばかりに動くと思われていた感情が、なぜこうも騒ぐのか。

だが、思考できるのはそこまで。気付くとあっという間に深雪の泊まる部屋の前だった。

これから叔母上に連絡するという深雪に頼んだと伝えて扉がしっかり閉められたことを確認してから部屋に戻る。

監視するような視線が一つ。あまり上手くもない視線は素人同然だった。隠すつもりもない、という意思の表れかもしれないが。

何をするつもりもないので放置して部屋に戻る。

先ほどまで温かく感じていた部屋は冷えていた。季節や空調でも、ましてや嫌がらせでもない。単に深雪がいるかいないか、それだけで感じ方が変わる。それだけの話だ。

ベッドの上に仰向けになり、頭の下で手を組んで目を瞑る。

――深雪は言った。自由に羽ばたいて良いのだと。

もうその時は近づいているのだと、そう告げた。

深雪には、脱出計画の内容を打ち明けてはいなかった。成功するかもわからない段階で計画を話してぬか喜びさせることなどできなかったからだ。それに、計画が成功したところで四葉を抜け出すことができるか難しいところだ。

できるだけ、平和的に争うことなく抜けられたらと思うのだが、今回の分家の動きを見るからに争いは避けられないものなのかもしれない。

 

(俺はどちらでもいいのだが、深雪は悲しむだろうか)

 

そう思うと二人で四葉から脱出する計画は、また練りなおさなければならなくなりそうだな、と考えたところで思考が一つの答えにたどり着き、瞬時に跳ね起きた。

急激に動悸が起こり呼吸も苦しくなる。

そんな中で頭は冷静に――というよりこれは血の気が引いている状態という奴なのではないだろうか。

 

(何故気が付かなかった?それとも目を逸らせていただけか!?ふざけるな!!)

 

冷静な思考とは裏腹に、心は激しく憤っていた。相手はもちろん俺自身。

 

深雪が、四葉から離れることはない。

次期当主に決定となれば、もう逃れることなどできないのだから。

そもそも深雪は四葉から逃れたいと口にしたことがあったか?

記憶を振り返ってみても冗談交じりで口にする「共に逃げよう」との誘いに明確に賛同したことなど一度もなかった。

「それは素敵なお考えですね」「そうなったら何をしたいですか?」とのらりくらりと躱されていたのだと今さらになって気づいた。

深雪は、初めから次期当主になるつもりだったのだ。

だというのに彼女は俺に、自由に羽ばたけと言う。つまり――

 

(深雪は初めから、俺と離れるつもりだった…?)

 

先ほどまで抱いていたもやもやの正体が明確になった。

その予兆は過去を遡ればいくつもあった。

あの時も、それよりももっと以前から――。

言い知れぬ不安を感じていたにもかかわらず見て見ぬふりをしてきた自分に気付かされる。

高校に上がってから、深雪が兄離れをしようとしていたことに気付いていた。

単に、年頃になったのかと思っていたがそうではないのだと彼女自身言っていたではないか。

自立したいという深雪に、俺は妹を甘やかすのは兄の特権だから許してほしいと許しを請う口で、彼女から離れることを許さなかった。

それをずるずるとここまでやってきていた。

いつか深雪は誰かと家庭を持つことになる。それは初めからわかっていたことだ。いつかは来るのだと。

兄妹は、一生の繋がりはあるが一生共に暮らせるわけではない。

わかっていた、はずなのに。

そもそもこの計画を立てた当初は、四葉を出た後のことを想定して立てたものだった。自立するためには社会的地位と経済力。

あとは深雪が利用されないよう、魔法師を戦争に駆り出されないための魔法師の軍事以外での活用法の確立。

…中学生の考えた、穴だらけの机上の空論だ。

当然穴があって不思議じゃない。年を重ね時代と環境の流れで計画も多少なりとも変更してきたつもりでも、目的を見失っていた。

――深雪を幸せにするために。

そのための計画で、そのために彼女に用意しようとした自由だった。

 

(…計画がすべて無駄だとは思わない。どのみち魔法師の軍事利用が薄まらない限り、十師族として四葉が矢面に立たされることには変わりない)

 

むしろ深雪が四葉として立つ時に、黒い噂のある状態より、社会貢献する部門がある方がプラスになるのではないか。

徐々に広がりつつある非魔法師と魔法師の間の問題を解決とまではいかないだろうが、少しでも緩和できるのであればどんな立場であっても深雪の助けとなるはずだが――

 

(深雪の幸せは、一体どんなものなのだろう)

 

今一度、確認をした方が良いかもしれない。

 

(深雪が俺から離れたがっているのではない。四葉から離れようとする俺を手助けしようとしているだけだ)

 

俺が深雪の幸せにつながると信じて離れようとしてきたのを、深雪は俺を自由にするために必要だと、そう解釈したのではないかというのは都合のいい考えだろうか。

わからないが、ともかくもう動き出している流れは止められない。

明日は必ず無事に深雪を四葉本邸に到着させることは決定事項だ。そうなれば深雪が次期当主に選ばれるのも必然。

深雪はそのことに前向きだったと思う。ならば彼女の幸せ計画には必要なことなのだろう。

そこまではいい。

当初の計画からは外れているが、深雪の望みが一番だ。彼女が次期当主となることが彼女の幸せのために必要だというのならそれを妨害するものの排除は俺の役目だ。

今のところ、俺のやることは変わらない。

落ち着きを取り戻し、もう一度横になる。先ほどのように目を瞑る気にはならなかった。

 

――私は、お兄様の味方ですから――

 

(俺の味方でいてくれるというのなら、お願いだ。どうか、俺をお前の傍に置いてくれ。俺を、必要としてほしい)

 

そのためなら俺は――なんだってする。

俺は、お前のためにあるのだから。

 

 

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