妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑤

 

できることなら想定外のことに備えて早めに出発したかったのだが、夕歌さんの希望により午後近くになった。

車は順調に進み、四葉の隠れ里に入るトンネルのある山へと近づくと、深雪が俺を呼ぶ。

ここが襲撃ポイントになると気づいていたのだろう。水波も緊張した面持ちで警戒をし始める。

夕歌さんがただ一人こんなところで?と不審がっているが四葉に迷惑が掛からない最後のポイントはここしかない。

油断を誘って奇襲をかける定石そのもの過ぎて意外性が無い。

真面目過ぎる人間か、はたまたこういった策略を立てる経験が浅いのか。

見知った気配に、そのどちらもが正解の可能性が浮上したが、それこそどちらでもいいことだった。

深雪に雪崩を溶かすように指示を出し、水波には半球シールドを張らせる。

これで安全は確保できた。

この間に襲撃する可能性もあるのだが、奇襲をかけた割に追撃が来ない。…警告のつもりか、なんとも中途半端で生ぬるい。

これでどう引き下がらせるつもりだったのか。まさかとは思うがまだこちらの戦力を把握していない?…まさかな。

深雪も戸惑った表情だ。こんなことでは妨害にもならないと思っているのだろう。まだ昨日までの妨害工作の方が時間を稼いでいたように思う。

だが、昨日までと同じようではここに警察を呼ぶことになりかねない。それは四葉として絶対に避けるべき事態だ。そういう意味では分家当主が出張るより彼が動く理由は理解できる。

深雪からの足止めか、との問いに「待ち伏せだ」と言えば、唯一この可能性を予期していなかった夕歌さんが声を張り上げて揺さぶりをかけるのだが、距離がある分まだ来られないのだろう。

せめて一言あれば彼女が逆上して攻撃を仕掛けなかったかもしれないが、いきなり初手でマンドレイクとは彼女も容赦がない。

人を直接仕留める魔法ではないが、お嬢さん風であっても四葉の人間。舐められるわけにはいかないからと選択するにしてもえげつないと評しておかしくない魔法だ。

それとも夕歌さんは相手が誰だかわかった上での攻撃だったのか。

四葉家次期当主候補、新発田勝成のガーディアンは楽師シリーズの調整体の姉弟だったことで音の対抗魔法によって防がれていた。

夕歌さんは彼らともそれなりに付き合いがあるらしい。その魔法の使い手も関係性も良くわかっての挑発を繰り出す。

それに合わせるかのようにフォノンメーザーで地面を乾かしながら登場したのは予想通り新発田家長子の勝成さんとそのガーディアンの姉弟だった。

夕歌さんが食って掛かり、勝成さんが往なし、挑発を繰り返す夕歌さんに弟の奏太が噛みつくことで隙を作るが、慣れているのかそれを踏まえて狙ったのか繰り広げられる嫌みの応酬。これも妨害作戦の一種だろうか。時間の無駄だ。

深雪も呆れて眺めているように見えた。

さっさと片をつけるなら全部まとめて、と言いたいところだが、ここで勝成さんを攻撃することは得策とは言えないだろう。彼も次期当主候補。下手に夕歌さん同様いちゃもんを付けられても面倒だ。

遺恨も無くさっさと終わらせるにはガーディアン同士で白黒つけるのが手っ取り早い。

勝成さんがガーディアンと恋仲であるとは噂で聞いていたが、こうも堂々と認めるということは近いうち何か動きがあるのかもしれないな。どうでもいいが。

だがそのどうでもいいことも相手の人となりを知るには十分な情報で、表向き正々堂々を好むタイプのようだ。素直なガーディアンが慕っている影響だろうか。そう見せねばならない何かがあるのか知らないが、そこを利用させてもらおう。

真正面から通してほしいとお願いをすると、馬鹿にすることもなくそれはできないと真面目に反論するので代替案を提案する。

 

「聞こうか」

「言うまでもないことですが、四葉のガーディアンはマスター、ミストレスをあらゆる危難から護衛する魔法師です。俺は深雪のガーディアンとして深雪を危険な戦いの場に立たせたくない。それはそちらのお二人にとっても同じでしょう」

「もちろんです!」

 

年上のはずなのだが、彼女はあまりガーディアンとしての立場を理解していないのか?先ほど夕歌さんからも弟に向けて注意をされたと思うのだが。

夕歌さんとは違いガーディアン同士だから良いと思ったのか。先ほどそちらの主は俺を同格に扱うと表面上だけでも言っていたと思うのだが。

だがおかげで話が早く済みそうなのでありがたくその隙を突かせてもらう。

 

「あたしは勝成さんを、このような内輪もめで危険にさらしたくありません!」

「オレも想いは姉さんと同じだ」

「…おい、まさか」

 

まさか、だなんてそれこそまさかだと思うのだが。彼らも黒羽同様すでに実践経験を積んでいると思うのだが、なんとも平和ボケをしすぎではないだろうか。こんな誘導、ひっかけとも罠とも呼べないだろうに。

 

「俺たちはここを通りたい。貴方はここを通したくない。このにらみ合いの現況を打破するためには、闘争が不可避。ならば」

「待て」

「ガーディアン同士の決闘で決めませんか。こちらは俺一人。そちらは二人一緒で結構です」

「駄目だ!」「いいでしょう!」

 

かかった。

これで先に進めそうだ。勝成さんには悪いが、元はそちらの躾不足が要因と言えるのでこちらを恨まれてもお門違いである。

恨まれたところで痛くもかゆくもないのだが、深雪は気にするだろうか。

そんなことを考えていると、勝成さんが必死に決闘を止めようとしていた。

ガーディアンとマスターの関係性を見直した方が良いのではないか?手元に置いておきたいからとガーディアンにするのが悪いとは言わないが、ここで最年少の水波と比べても落ち着きが無い。忠誠心があるとはいえ、こうもキャンキャン吠えられては顰蹙を買うと思うのだが。それともこういった態度を見せるのは相手を見てのことなのか。

だとしてもあまり感心しない。

あとで彼らを反面教師として水波にも注意をすべきだろうか。そう思って後方を振り返ると水波は警戒しつつも鋭い視線を彼らに向けていた。俺が注意するまでもなく、彼らの在り方は水波にとってもありえないらしい。

どうでもいいが、さっさと話を――そう口を挟もうとした時だ。

 

「達也くんはそういうレベルとは次元が違うんだ!彼が初めて人を殺したのは六歳の時、人造魔法師実験の直後だ。彼は手に入れたばかりの力に戸惑うこともなく、三十歳の脂がのった戦闘魔法師を、事故でもなくふいうちでもなく、最初から殺し合いの条件で血の海に沈めた。たった六歳だぞ?まだ小学生にもなっていない歳だ」

 

後方で息をのむ音がした。…深雪のものではない。水波と、恐らく夕歌さんだろう。

知られることは構わない。身内であれば調べればわかることではあるし、彼は候補にまで選ばれている家の出だ。こうして妨害をさせるくらいには俺の危険度を知った上での襲撃――のはず、だと思ったんだがそれにしてはここまでお粗末すぎないか?というのは分家全体に言えることか。今はそのことは構わない。問題なのは、よりにもよってその事実を深雪の前で話したことだ。

深雪は、過去のこととはいえ何を思っただろうか。

 

(俺を恐れたり、しないだろうか)

 

昨夜の言葉が思い出される。

味方でいる、とのあの言葉。

深雪を信じていないわけではない。彼女の言葉に嘘偽りはない。それでも不安になることはある。こんな話を聞かされて不快に思われていないか、それが何より心配ではあるが後回しだ。

…だとしても文句を言う権利くらいはもらうが。

 

「人のプライバシーをぺらぺらと喋らないでください」

 

それを受けて気まずそうに視線を逸らすとは、自身でも言っていたように四葉らしくない反応だ。魔法も四葉の特殊性を持っていないことからも彼にとってはコンプレックスなのかもしれない。

その主の気まずさを払拭するつもりなのか、俺の危険性を知った上で二人でなら倒せると豪語する。

決まったならさっさと終わらせたいものだ。

そう、思っていたのだが。

今まで静かに黙って聞いていた深雪が動いた。

淑女らしく微笑みを湛え、凛とした声で勝成さんの名をフルネームで呼んだ。

ただ名を呼んだだけ。たったそれだけで空気がキンッと冷えたよう。友好的なものではない。非難をしているのだとわかるのに、声色は低くはない。この独特の空気だけでそう思わせた。

続けられた言葉は、非難と皮肉と忠告に彩られ、こんな場面でも指導をする深雪は面倒見がいいというか、お人好しというか。

今後の関係を踏まえてのことなのだろうが、慈悲深い。器の大きさが違う。

その上、俺の希望したとおりに事を運ぶことも忘れない。逃げ道を完全にふさいでいた。

もう、彼らに逃げ場はない。戦う以外の道はすべて深雪が封じた。

女の方が肝が据わるのが早いというのは本当だな。勝成さんが自分が相手をすると訴えるが、彼女はすでに覚悟を決めたようだ。

それでもまだ認められないとぐずぐずするのを、今度はため息をもって正面から深雪が苦言を呈した。

彼女にとっても彼らのマスターとガーディアンの関係がただの馴れ合いに見えて珍しく気が立っているようだった。

珍しい。普段の彼女にとっては好ましい光景にも思えるのに。

だが、冷ややかに彼らを非難する深雪も美しい。これが見られただけでも彼らには感謝だな。

時間は押しているが、この後をさっさと片付ければいいだけだ。最短で終わらせるシミュレーションは済んだ。

深雪の吐息に全員が肩を震わせたのは、威圧を受けたのだろう。

深雪は完全にこの場を言葉と空気だけで支配していた。

 

「やる気になったところに水を差すような真似をいたしましたね。失礼いたしました。

皆さん、勘違いしているようですので誤解を解かせていただきますが、ガーディアン同士の試合と言っても命のやり取りをするわけではございません。戦闘不能か降参をするまでです。

実力が拮抗していれば危うく殺してしまうこともございますでしょうが、そんなことはあり得ませんので」

「なっ!?」

 

気色ばむが、挑発に弱すぎないだろうか。夕歌さんの時のように噛みつかなくなっただけマシになったのかもしれないが、程度が知れるな。

 

「そうですわね、お兄様」

 

それがお前の命令なら、俺は遂行してみせよう。

ちらりと向けられる視線と投げかけられる声にいつもの温かさはない。

だが、そんな彼女の態度に、逆に気分が高揚するのを押し隠して。

 

「お嬢様の望みのままに」

 

非の打ちどころのないよう意識して礼をして顔を上げると、ミストレスの仮面の奥で、僅かに深雪の気分が浮上したのか目がキラキラと輝いて見えた。

あえて呼び方を変えたことも彼女の気分を上げた一因になったのなら幸いだ。

可愛い妹の願いを叶えるために、すぐにでも終わらせよう。

わかりやすい『弱点』も明かされていることだしな。

相手が納得のいくようにコテンパンに伸す手段も思いつき、勝成さんにも躍ってもらう算段も付いた。

一発食らうことにはなるだろうが、深雪の前だ。再生を使わない程度に、だな。

開戦の合図と同時に動いたが、軽い体は思ったより高く飛んだ。落下点に狂いはなかったので問題はない。その間にもう一方の相手をするのだが、あまり接近戦は得意ではないようだ。四葉では戦闘訓練もカリキュラムに組まれていたと思うのだが。

桜井さんも確かSPの経験を経てガーディアンとなっていたはずだし、水波も深雪の護身術には及ばないものの、魔法と併用すればなかなかの動きを見せるが、これでは単体では水波にも敵わないのではないだろうか。

このところの彼女の成長は目覚ましいものがある。守る主が強く、追いかける背が見えなくとも少しでも近づきたいという姿勢はいい。

適当に相手をして魔法をさばいていると、姉の方が復帰して援護に回り立て直す――ところで純然たる筋力のみで弟を沈めた。

魔法に対しては対抗策があったようだが、肉体が弱すぎないか?

激高することなくそれなりの精度で音響爆弾が仕掛けられるが、得意魔法なのだろうがその数ならば同時に処理できる。

戦闘を始めて思ったが、わざわざ声に出して驚愕する暇があったら、そんなところに余分な思考を使わず次の手を考えた方がより建設的ではないだろうか。口に出すことで分析をすることは自分もあるが、戦闘中は無駄に思う。

そして残る姉も魔法を使って移動はするが単純な体術で意識を落とす。戦闘で女子供だろうが関係ないが、脆いかそうでないかは関係する。特に殺してはいけない任務の場合は面倒だ。

叩き落すこともできないので支えて道路に横たえたところで、発動する魔法の気配を察知。逆上しつつも正確に魔法をコントロールするのは一応四葉の使用人と言ったところか。キャンキャン噛みつくこの男にも秀でるところはあったようだ。

だが、それだけだ。精度はそこそこでも速度が俺を上回ることが無い。

――そろそろか。

仕掛けるならこのタイミングだろう、ととどめを刺すため宙に浮いたところで待ち構えていたかのようなタイミングで構築された圧縮空気がすぐ横で爆発した。展開スピードが速い。対抗魔法は間に合わず防御に徹するほかなかった。

思った以上に体が吹っ飛ぶ。骨などに響いてはいないが呼吸が止まるほどの威力があった。

続けざまにサイオンの動きが視えると同時に深雪の警告の声が届く。

心配させてしまったのだろう。今度は食らわずに済んだ。

介入をしたことに上げられた深雪の抗議の声も空しく、無視された形で勝成さんと対峙することになった。

魔法力でスピードにものを言わせた魔法が襲い掛かるが、スピードが追い付かないのならその魔法そのものに干渉してしまえばいい。

こういった対抗をされたことはなかったのだろう。次の手が思いつかないのか拮抗した状況が続いたが、勝成さんが参加したことによって時間稼ぎが成功し復活した弟の他に、もう一人参戦することが可能となってしまった。

封印されている状態とはいえ魔法を発動させた深雪に敵う者などいるはずもない。

勝成さんを援護するように立ちまわっていた弟の方を、今度こそ意識を刈り取り姉の傍に蹴り飛ばしたことで形勢は逆転、深雪のニブルヘイムで防戦一方になった勝成さんにはすでに勝ち目など在りはしなかった。

見下ろす二人の姉弟の様子をチェックすると、このまま放置をすれば後遺症が残るだろうくらいには重傷だった。

そうなるように攻撃した。

戦意喪失した勝成さんを放置して、魔法を解除した深雪がこちらに向かって足早に近寄る。

誰にも見られていないからか、心配する表情を隠そうとしない深雪を抱きしめて安心させてやりたかったが、まだ今の状況ではそれは許されない。

だが、安心させる笑みくらいは浮かべてもいいだろう。わずかに口角を上げれば、深雪には伝わり、安堵の笑みに変わる。

なぜ、今抱きしめることができないのだろうな。こんなに可愛らしい妹を労ってやることもできないとは。

深雪は勝成さんの介入を予測していただろうに、あとできっちりと追及することを示唆してこの場から立ち去ろうとした。

流石は深雪だ。俺の作戦を理解していたらしかった。…つまり、勝成さんの攻撃を受けることも予定に組み込んでいたことも読まれている可能性があるのだが、できればそこは気づかれないでいてほしいところだ。

 

「急がなければならないのでしょう?そうですね、お兄様」

「ええ。このまま放置すれば後遺症が残るでしょう」

 

後遺症が残る恐れのある重傷を負わせることで治療に専念させ彼をここに置き去りにする。

大事な人間を傍に置くということは時として足かせになり得ることを想定していなかったのが敗因か。…違うな。戦力の差を見誤ったことと、事前に対抗策を考えていなかったことが主な原因だろう。

勝成さんはガーディアンを置き去りにすることができずこの場に残り、俺たちはトンネルを抜けて四葉の村へと入っていった。

ここまでくれば、妨害工作をすれば被害が大きくなることくらい理解しているだろうから安全地帯と言えた。

勝成さんの介入に不満を漏らす夕歌さんに対し、深雪は初めから想定できていたことだと返し驚かせていた。

目的を知っていればわかりそうなものだったがな。

彼らはどうにも身内に対して甘くなるところがあるようだ。襲うにしても襲われるにしても、敵対しているとは思えないほど警戒が足りない。そう思わざるを得なかった。

そうはいっても身内にだけで、敵であれば幾重にも警戒し非情になるのが四葉だ。こんなことは今回だけだろう。

 

 

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